魔女の遺影 作:魔女ξ紳士
本独特の土や木のような匂いが辺りに満ちている。
地面には何冊も本の積み重なった山が広がり、部屋の隅にある机の上からは蝋燭の焔が部屋全体をうっすらと照らしている。
「はぁっ、はあっ」
何度も書いては捨て、新しい紙を再び取り出す。
いったいどの位の時間手を動かし続けているのだろうか。わからない。わからない。
机のすぐ横に置かれたごみ箱には、もはや何と書いてあるか判別不能なほどインクの濃く染みついた残骸が溢れ床にまで侵食している。
「覚えなきゃ…覚えなきゃ」
見る、書く、記す、もう一度見る。それを何度も、何度も繰り返す。蝋燭が切れるか私が倒れるか、どちらか一方が切れるまで永遠とその作業を繰り返す。
知識を身に着ける。役に立たなければならない。優秀でなければならない。だからこそ永遠とも思える孤独な時間の中、机に向かい書き続ける。
もう一度、『私』を見てくれると信じて。
「置いてかないで…独りにしないで…」
■■は私を置いてどこかへと消えてしまった。まだ幼かったころの我が儘で、頭の悪かった自分に愛想が尽きてしまったのだろうか? 白銀と、忌み子と、回りから蔑まれた私を気味悪く思ってしまったのだろうか?
どうして…どうして私を置いていくのだろうか?
いっそ罵詈雑言を浴びせて消えていかれた方が楽だったはずだ。
なのに、どうして…どうしてみんなは何も言わないで離れていくのか。
私と仲良くなってくれたみんなが消えていく。去っていく。捨てていく。
ひとり残された私はぽつんと、誰もいなくなってしまった場所に佇んでいる。
あぁ…止めて
雨の中、大人たちの冷たい視線
そんな目で見ないで…
私に向く、怯えたような目
私じゃ…私じゃないのに…
憐れむような、怒っているような目
どうして『私』なの…?
責め立てるような、心配するような表情
私とは…私とはいったい誰…なの?
囲まれた中一人佇む私
まだ…まだ大丈夫。見てくれる人はまだいる。信じてくれる人はまだ残っている。彼らの期待を裏切ってはならない。失敗するな。失敗するな。役に立て。役に立て。そして……私を見てもらえ。
わるい夢だ。ただの妄想だ。私は意識を切り替える為に万年筆を手に取り再び動かす。
「あぁっ…うっ」
文字を刻み続けた疲労と周囲の期待からくる重責、今までの失望とこれからの希望。
さまざまな感情や思考が混じり、情けない呻き声が口元から零れ、満月の如き金色の瞳から雫が漏れ出す。
捨てられたくない。まだ何も成し遂げられていない。
絶対に失敗しないよう。役に立たないと思われないよう。これ以上失わないよう。
足掻くように、逃げるように万年筆を取り続ける。
だから、お願い。
私を裏切らないで
私を信じて
蝋燭の灯火は既に暗闇に溶け、少女が独り、泣き声を押し殺しうずまっている。彼女を包む優しい存在はどこにも見当たらない。
閉ざされた部屋の中、唯一残った哀れな音色だけが部屋を彩っていた。