一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

10 / 42
今回の話はアニメでカットされた話です。

どの話もですけど当初考えていた展開とは異なった展開になっていき、登場人物も生きてるんだなって考えさせられます。プロットを変える必要が出たりして大変ですが、楽しいものです。


それぞれの資金調達と占い

 今回訪れた国の門の前で入国料を払っている、短く黒い髪に金色の瞳をした黒いスーツを着ていて、年齢は十代後半の青年は誰でしょう?

 そう、俺です。

 

 ……この前少しだけ見せてもらったイレイナの日記を真似してみただけである。流石に自分の容姿を褒めることは真似できなかったな……。

 

 今回訪れた国の入国料は銀貨三枚。これは他国に比べて高いと言えるだろう。

 俺は使えるお金にまだ余裕があるから問題はなかった。

 

「…………」

 

 先ほどから無言で隣を歩くイレイナが気になって仕方ない。

 いつもの元気はなく、何度か財布の中を見ていた。

 

「イレイナ、もしかしてお金がないとか?」

「…………魔女である私が金欠になるとでも?」

「い、いや……違うなら別に良いんだ……。気に障ったのなら済まなかった」

 

 質問に質問で返された。しかも語気を強くされて。

 

 俺とイレイナは、自分が使うお金は自分で稼ぐことに決めている。

 俺は共有するでも良かったのだがイレイナが、「別々にしましょう。魔女である私は各地で大金と共に依頼を受けることになりますが、お金を共有したらカイのためになりませんからね。本当ですよ?」と言われたのだ。

 俺のことも考えてくれているなんて、って感動したな。

 

 魔女に依頼をする人は依頼料として大金を持ってくることがほとんどだ。

 イレイナは全ての依頼を受けているわけではないが、それでも多くのお金を貰っているだろう。

 そんなイレイナに金欠か聞くのは彼女のプライドを傷つけてしまうことだったのかもしれない。反省反省。

 

 歩きながら、宿屋でも探そうかと思っていた時何やら可愛らしい音が聞こえた。それは隣の人物のお腹からだった。

 

「…………」

 

 立ち止まる俺のことは気にせず、イレイナは早足で大通りにあるパンが置いてある屋台に向かった。

 彼女はパン屋の店員と何か言い合った後、何も買わずに大通りの奥に進んでいった。

 まさか突然置いて行かれるとは思わなかった俺は一瞬呆けてからイレイナを追いかけた。

 

 大通りの奥には広場、その真ん中には大きな噴水があった。

 その噴水の前にいるイレイナを見つけた俺は写真でも撮ろうかと思ったが、なんと彼女は噴水の水を飲もうとしていた。

 

「待て待てイレイナ何をしているんだ!」

 

 俺はイレイナの腕を掴むことで水を飲ませないようにした。

 

「一体どうしたんだ?」

「……パンを買うお金がないので水で空腹感を紛らわせようとしました……」

 

 俺は鞄から水筒と前の日に作ったパンを彼女に渡した。

 

「これは……?」

「見ての通り、飲料用の水とパンだよ。パンは少し固くなってるだろうけど」

「……ありがとうございます……」

 

 イレイナは涙目になりながら食事をしていた。俺も泣きたくなるよ。

 

「とりあえず今日泊まる宿屋を探そうか」

「……はい」

 

 イレイナが食べ終わるのを待ってから、俺たちは歩き始めた。

 

「ねえ見てダーリン、あの魔女、さっき噴水の水を飲もうとしていたわ」

「僕も見ていたよ。なんてみすぼらしいんだ!ははははは!」

 

 イレイナが近くにいたカップルが座っていたベンチを壊した。

 

 それから俺たちはこの国にある宿屋を回ったが、どの宿屋も通常の三倍は高いのである。

 宿屋の店主に聞くとどうやらこの国では偽の硬貨が流通し、そのせいで物価が上がっているらしい。

 しかもその硬貨の流通元は国王であるため、偽物であっても問題ないと国民は使っているのだとか。

 その話を聞いた俺たちは宿屋を後にした。

 

「イレイナ、これからどうする?今日の宿泊代は俺が払うでも良いけど」

「いえ、今日の夜までにはそれくらい余裕で稼いできます」

「……危険なことはしないでよ」

「当然です」

 

 そこで俺はイレイナと別れ、まだ余裕があるが俺もお金を稼ぐことにした。

 

 俺は先ほどの広場に行き、噴水の前に途中で買った腰くらいの高さのテーブル(通常の三倍の値段)を置いた。

 

「腕相撲に挑む方はいませんかー!見事勝利した方には賞金として金貨十枚!さらに!こちらが勝利する度に賞金が増え続けますよー!」

 

 そう、腕試しの腕相撲である。

 これまで訪れた国では同じように腕相撲や試合を行うことで日銭を稼いでいる筋肉自慢や武闘家、魔法使いなどに出会ったことがある。俺もそれを真似してみようと思った。

 物珍しさからか、すぐに人が集まり始めた。

 

「さーさー!誰か挑戦してみる方はいませんかー参加料は金貨一枚でーす!」

「僕が挑戦しようかな」

「キャー!ダーリン頑張ってー!」

 

 最初の挑戦者はさっきのカップルの男性だ。

 

「では金貨一枚お願いします」

「どうぞ。君みたいな年下に僕が負けるわけないけどね!ははははは!」

「ダーリン素敵!」

「勝負は腕相撲。手の甲がこの台に着いた方が負け、どちらの腕で挑戦するかは自由です。始まりの合図はえーっと、そちらが力を込めて押し始めたらで大丈夫です」

 

 お金を受け取った俺は簡単なルール説明を行ってから台の前に立つ。

 

「おいおい、あの坊主自分に不利な条件ばかりだぜ」

「余程の自信家か馬鹿のどちらかだな」

 

 周りの人たちがそんなことを言うが問題ない。

 挑戦者である彼が右腕を出してきたので俺も右腕を出す。

 

「ではいつでもどうぞ」

「それじゃあ行くよ。これで金貨十枚は僕の物。これでハニーにプレゼントを買ってあげるんだ!」

 

 そう言い終わった後、彼は右腕に力を込めて俺の右腕を押そうとする。

 

「あ、あれ……?」

 

 周りがざわつく。理由は単純、俺たちの腕は全く動いてないからだ。

 

「どうしたんだ?」

「まだ始まらないのか?」

 

 向こう側から掛けられる力が強くなるが、それでも動かない。

 

「おい、これってまさか」

「全力でやってるのに微塵も動かないというのか!?」

「どうしたのダーリン!さっさと決めちゃって!」

 

 観衆も事態に気付き始めた。気付いていないのはあのハニーさんだけだろう。

 そろそろ終わらせるか。

 

「では終わらせますか」

「えっ」

 

 少しだけ力を込めて彼の手の甲を台に叩きつける。ダァン!と良い音がしたな。

 これでイレイナを馬鹿にしたことを許すとしよう。

 

「おい、今動き始める瞬間を見えたやつはいるか?」

「いや、気付いた時にはもう終わっていたぞ」

 

 無形流は初動を悟らせないのだ。それは腕相撲でも変わらない。

 

「ダ、ダーリン……」

「ごめんよハニー……」

「ううん、良いの。ダーリンが私のために頑張ってくれたんだもの」

「ハニー」

「ダーリン」

 

 うっとおしい。もう少し強くやっても良かったかもしれない。

 

「終わった方は早くあっちに行ってください。再挑戦は可能ですからね。次の挑戦者はいませんかー!次の賞金は金貨十一枚ですよー!」

 

 今の一戦は良いデモンストレーションになっただろう。

 その証拠に挑戦者が次から次へと現れるようになった。

 

「次は俺だ!」

「俺にやらせてくれ!」

「賞金は俺のものだ!」

「はいはい、一列に並んで順番にお願いしますー。あ、そうだ。両腕を使って挑戦を希望したい方は金貨三枚で良いですよー!」

 

 こうして俺は次々と挑戦者を破っていった。

 普段から過重力で鍛えている俺が負けるなんてことはないのだ。師匠レベルが来ると負けるが。

 参加者がいなくなったのは夜になる頃だった。

 

「えーっと、稼いだ金貨は……結構稼げたなぁ。しばらくは何もしなくても暮らしていけそうだな」

 

 ざっと百枚はある金貨を見て俺は呟く。これ良いな。次もこの方法を使おうかな。

 そろそろイレイナと合流して宿を取ろうかと思った時、壊れたベンチの前には何故か腕に古びた紐を巻き付けた男性と何かを期待している女性が立っていた。

 新手の宗教か何かかと思ったが、俺には関係ないことなのでその場を後にした。

 

 

 

「イレイナ、大丈夫だった?」

「ちょろいですね」

 

 イレイナと合流した俺は彼女に何も危険なことはしてないかという意味を込めて尋ねたのだが、返ってきたのはよく分からない言葉。いや、ちょろいという言葉の意味自体は分かるけどなんでその言葉が返ってきたのかが分からなかった。

 

「……まぁいいか。お金は稼げた?」

「当然稼げましたよ。私を誰だと思ってるんですか」

「灰の魔女イレイナ様ですね。噴水の水を飲もうとしていた」

「それは忘れてください」

 

 ぷいと顔を逸らすイレイナ。

 

「パンと水のお礼に今日の宿泊費は払ってあげてもいいですよ」

「おや、それは嬉しいね。この国は物価が高いけどそれでも魔女様は問題ないと言うんですかね?」

「その分お金を稼ぐ方法を考えましたからね。余裕です。魔女ですから」

 

 どんな方法でお金を稼いだのかは知らないけどすごい自信だ。

 お言葉に甘えることにした俺はイレイナの後を着いていく。今の俺に宿の選択権はない。

 

「ここにしましょう」

「うーん?」

「何ですか、文句ですか?」

「やっぱり俺も自分の分は払うからもう少し良いところにしない?」

 

 そこはこの国で一番安いぼろ宿だった。

 稼げたと言うからもう少し良い宿に泊まっても罰は当たらないんじゃないか?

 

「いいえ、ここにします」

 

 イレイナの決意は固いらしく、宿屋の中に入ってフロントで手続きを済ませた。

 この国の飲食店で食事をすると安い料理でも高級レストラン並みの金額を取られるため、俺は昼と同じパンをイレイナ渡した。

 

「ありがとうございます。私は明日もお金を稼いできます。あなたは?」

「俺はこの国を見て回るかな」

「この物価が高い国でそんな余裕な態度を見せて大丈夫ですか?国を出る頃には財布の中身が無くなっちゃいますよ」

「平気平気」

「カイが良いなら別に良いんですけどね。後でお金を貸してくれと言われても貸しませんからね」

 

 そうして俺たちは各自の部屋に入って休んだ。

 

 

 

 それから数日間、俺は腕相撲で稼いだお金を宿泊費を除いて使いまくっていた。

 この国で稼いだ金貨はほとんどが偽物だった。この硬貨を他の国に持っていったら俺は指名手配になってしまう。だから金貨を別の価値ある物に変える必要がある。

 他の国でも換金できるような宝石や、魔道具の材料になりそうな金属、その日食べる料理の材料などを買っていた。

 

 

 

 稼いだお金が残り少なくなってきた頃。

 大通りを歩いていると向かい側から歩いてくる二人の男性が面白い話をしていた。

 

「最近出没する旅の占い師と出会ったやつは皆幸せになるらしい」

「俺も聞いたぞ。運命の相手を見つけてくれたり幸運になるアイテムを売ってくれるらしいな」

「黒いフードを深くかぶっているせいで顔を見たやつはいないが、女の声だったらしい」

 

 皆を幸せにしてくれる旅の占い師か……興味深いな。俺には何をしてくれるんだろうか。

 残りのお金の使い道を決めた俺は占い師を探し始めた。

 これは骨が折れるかもなと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

 イレイナがパンを買うことができなかった屋台。そこに目的の人物はいた。

 黒いフードを深くかぶった人物は店主に看板を売り渡していた。

 俺はカメラで写真を撮ってから占い師に声をかけた。

 

「噂の旅の占い師ですね?俺のことを占って欲しいんですけど良いですか?」

「なっ、カ__ごほん、良いでしょう。まず初めに料金に関してですが」

「これでお願いします。ところで無理に声を出してません?」

「いえ、そんなことないですよ」

 

 俺は残っていたお金が全て入った袋を彼女に渡す。

 

「わ、こんなに。では何について占いましょうか」

 

 占い師に会って占ってもらいたいとは思ったが内容については考えていなかったな。

 

「えーっと、なら運命の相手についてで」

「運命の相手について!?」

 

 聞いたことがある声が聞こえてきた。

 念のため俺は周囲を見回すが、知り合いはいない。

 

「…………」

「…………」

 

 俺は右手を前に持ち上げ、中指につけている指輪に魔力を込めた。

 もう一つの指輪は目の前にあるらしい。

 

「イレイナ」

「…………」

「イレイナ」

「…………」

 

 反応がない。

 どうしたものかと思っていたらイレイナの後ろから数人の兵士がやってきた。

 

「ちょっと君、君が旅の占い師だね?」

「いえ、人違いです」

「嘘はいけない。先ほどの屋台の店主とのやり取りや、そこの青年とのやり取りを見ていたぞ」

「…………」

「ご同行願おうか。国王が君に会いたがっている」

 

 イレイナが兵士たちに連れていかれそうになっていた。

 

「すみませーん。俺も着いて行って良いですか?」

 

 一人で行かせるのは不安なので俺は手を挙げた。

 

「君は客では?」

「俺はこの占い師と一緒に旅をしてます」

「本当かね?」

「……はい」

「そうか、では一応君のことも連れて行こう」

 

 俺たちを囲うように兵士が歩き、連れて来られた場所は王宮。

 その玉座の間にはこの国の王が座っていた。

 

「君が旅の占い師か。随分と若いな。隣の男性はなんだ?」

「私の助手です」

 

 国王の疑問に対し、イレイナが答えてくれた。

 助け舟を出してくれたようだ。ありがたい。

 国王は納得した表情をし、兵士たちの方を見て「君たちはもういい。下がれ。占い師の助手もだ。彼には空いている部屋を与えてやってくれ」と手で払って兵士と俺を追い出した。

 

 

 

 与えられた部屋の中でしばらく待っているとドアがノックされた。

 

「どなたですかー」

「私です」

「はいはい」

 

 俺はドアを開けてイレイナを中に招き入れる。

 

「国王様はなんだって?」

「実はですね……」

 

 彼女は国王自身が偽の硬貨を流したわけではないこと、この国を未来を占って欲しいと頼まれたこと、自分は側近が怪しいと考えていることを教えてくれた。

 

「それで、イレイナはどうする?」

「その側近さんを探ってみます」

 

 それからイレイナと一緒に作戦を考え、作戦決行の時間まで各自の部屋でゆっくりすることにした。

 

 

 時間は夜。俺は指輪でネズミに変身して屋根裏を移動するイレイナの場所を探知し、追いかける形で王宮の中を誰にも見つからないように歩いていた。

 ある部屋の真上でイレイナの動きが止まった。例の側近の部屋である。

 俺は気付かれないように少しだけドアを開けて中を覗いた。

 中には二人の男性、親子だろうか。片方はイレイナに声をかけた兵士だった。もう片方はこの部屋の持ち主だろう。

 そこで行われた会話は王に忠誠を誓っている者がするものではなかった。つまり黒だ。

 会話が終わって兵士がこちらに向かってきたので立ち去ろうと思った瞬間、部屋の天井が破れてイレイナが落ちてきた。

 

「何者だ!」

 

 側近が銃を構えていた。

 

 イレイナが笑顔で「どうも初めまして」と言い、俺はドアを蹴破って右手に出した剣で銃を切った。

 

「お前たちは!」

 

 ドアの近くで側近の息子が走って襲い掛かってくるが、俺はその勢いを利用して側近の方へ投げ飛ばす。

 

「ぐっ」

「はいおしまいです」

 

 イレイナが魔法で二人を拘束した。

 騒ぎを聞きつけてやってきた兵士に二人を引き渡し、国王の前で事実を洗いざらい吐かさせた。

 尋問は俺たちの仕事ではないから部屋に戻って休ませてもらった。

 

 

 

 翌日。

 イレイナは王に呼び出されていたので俺は先に王宮を出て、この国の門の前で待つことにした。

 少ししてイレイナがほうきで飛んできた。

 

「お待たせしました。これどうぞ」

 

 イレイナが俺に差し出してきたのはお金が入った袋。

 俺が昨日イレイナに占い料として渡した額と同じだ。

 

「これは?」

「国王様に頼んで偽の硬貨を本物にしてもらいました。これはカイの分です」

「そんなお金知らないよ。俺は旅の占い師にお金を払っただけさ」

「後悔しても知りませんよ」

「しないさ。ただ、占いの結果を教えてもらえなかったのは心残りかな」

 

 そう言って俺は歩き始めた。

 

 偽の硬貨が流通したことで物価が上がった国。特に観光名所があるわけではなかったが、楽しかったと言えるだろう。

 この国で買った宝石を次の国で換金するのが楽しみだ。

 

 

 俺たちの旅は続く。次に訪れる国の景色は綺麗だろうか。国民は笑っているだろうか。楽しい出来事が俺たちを待っているだろうか。

 

 占いができない俺にはその答えは分からない。

 

 

 

「そう、私です。……なんちゃって」

 

 

 

 




※最後のセリフは小声で言ったのでカイには聞こえていません。

腕相撲の部分で師匠が出てくるフラグでは?って自分で書いてて思いました。出しませんでしたが。その代わり、もしカイが次の日も腕相撲でお金を稼ごうとしていたら最終的にイレイナが出てきて負けます。

筋肉男の話はスキップされました。カイがいてもほとんど変化がなかったり、カイ視点で別の話を展開できなさそうだとスキップになってしまいますね……。

スキップされた話でも、そうじゃない話でも、少しでも気になった方がいらしたら原作を読みましょう。面白いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。