もし前編を読んでいない方はそちらからどうぞ。
翌日の早朝である。
今日の俺は師匠から貰った執事服である。いつもとあまり変わらないが。
生徒たちの指導行うフランさんの手伝いということは、俺も先生ということである。ならばいつもより少しだけピシッと決めても良いだろう。
「今日はそちらを着てるんですか」
「まあね。先生っぽいでしょう?」
「いえ別に」
「…………」
俺たちはほうきに乗って空を飛んだ。
途中ですれ違う魔法使いに軽く挨拶をしながら王立魔法学校に向かうと、学校の敷地内には既にフランさんと生徒の姿があった。
時間は指定されてなかったから早めに行動していたが、丁度良かったようだ。
俺はイレイナとフランさんが話しているのを傍目に、生徒たちの練習している姿を見る。
地面に水が入った瓶を置き、魔法で水だけを操作するというもの。これなら俺もできそうだ。
フランさんは手を二回叩いて生徒たちを集めた。
「皆さん、こちらが灰の魔女イレイナさんと、彼女と一緒に旅をしているカイさんです。昨日も会っているから分かりますよね?」
「あ、どうも」
「よろしくお願いします」
フランさんから紹介された俺たちはお辞儀をした。
「今日はこの二人に特別講師をしてもらいたいと思います。あなたたちとは年齢が近いとはいえ、立派な魔女と、一緒に旅をしている魔導士です。大丈夫だとは思いますが侮らないように」
生徒たちは昨日のことを思い出し、何度か頷いていた。
「皆さんから彼らに質問はありますか?」
「はいはーい!イレイナ先生、彼氏は?彼氏はいますか?」
…………。
「いませんね。旅人ですし」
「魔法に関する質問だけにしなさい。他には?」
「あの…………、得意な魔法は、なんですか……?
「別に得意な魔法はないですね。何もかもそれなりにできるつもりです」
「俺は過重力の魔法です。小さい頃から毎日使い続けています」
それからも様々な質問が飛んできた。
「カイ先生のほうきは一般的なほうきより太いけどどうしてですか?」
「これはほうきの上に立てるようにするためです」
「先生の実力はどれくらいですかー?」
「近距離戦でなら魔女にも勝てるかもってくらいですかね」
「どうしてイレイナさんと旅をしてるんですか?」
「彼女に誘われたからです。彼女のお陰でいつも楽しく旅をさせてもらっています」
「イレイナ先生と同じ指輪をしてますけど何か意味があるんですか?」
「この指輪は魔力を込めると相手の位置が分かる便利な魔道具です。俺が作りました」
これらが俺に来た質問の一部かな。
「はいはーい!パンツは?パンツの色――」
イレイナに質問しようとしていた学生がフランさんによって吹き飛ばされていた。
そこで質問の時間は終わり、朝の課外授業は再スタートとなった。
魔法の教え方は知らなかったが、フランさんやイレイナが教えている様子を見て俺もそれに倣うことにした。
生徒の近くを歩きながら上手くできなかったり質問してきた生徒に教えるといった形だ。せっかくだしついでに写真も撮っておこう。
「すみません、分からないところがあるんですけど」
「はいはい。何が分かりませんか」
「瓶の中の水だけを持ち上げることができなくて……」
俺に質問してきた生徒は杖を振って水の入った瓶ごと持ち上げる。
「なるほど。恐らく水だけを持ち上げるイメージが出来てないのでしょう。まずは瓶の形を思い浮かべてみてください」
「はい」
「次にその瓶に水を入れる」
「…………」
「そしたら瓶を頭の中から消して、残った水だけをイメージします」
「……はい」
「そのイメージのまま魔法を使ってください」
「!できました!ありがとうございます!」
「はい、よくできました。このイメージを徐々に素早くできるようにして、最終的にイメージしなくてもできることを目指してください」
それからも俺は何度か生徒たちに教えながらあることを考えていた。
「フランさん、少しだけ良いですか?」
「構いませんよ」
「実はですね――」
俺はフランさんに考えていることを伝え、お願いできないか聞いていた。
「良いですよ。寧ろ私の方からお願いしたいくらいです」
「ありがとうございます」
それから少ししてフランさんが手を二回叩く。
「皆さん、今朝の課外授業はおしまいです。お疲れさまでした。なんと今日は夕方にも行います」
フランさんの言葉にざわつく生徒たち。生徒たちのうちの一人が手を挙げた。
「先生、今の課外授業で魔力を結構使ってしまったのですが大丈夫なんでしょうか?」
「はい。問題ありません。夕方の課外授業はこちらのカイさん主導で行ってもらいます」
「えーと、皆さんには身を守るための術を習得してもらおうと思います。詳しいことはまた夕方に説明するのでしっかりと体を休ませておいてください」
そう。俺はこの学校の生徒たちに魔法だけでなく体を使ったことを教えたかったのである。
フランさんに頼んで夕方の分の課外授業を俺にやらせて貰うことになった。
俺の言葉でその場は解散となった。
フランさんは俺とイレイナをどこかに連れていきたかったようだが俺は準備があるので断り、イレイナに良い景色があったら撮って来てほしいとカメラを渡しておいた。
それから俺はこの国の武器屋に行って必要なものを揃えた。
夕方になり、俺が学校に行くと既に生徒たちは揃っているようだった。
「それでは夕方の課外授業を始めます。今回の講師を務めさせていただきます旅人のカイです」
既に行っていた自己紹介もする。ただの気分である。
生徒たちも「よろしくお願いします」と頭を下げてくる。
俺は生徒たちの前にいくつか木箱と人形を置いた。木箱の中には様々な種類の木製の武器が入っている。
「皆さんにはこの箱に入っている武器の中から一つ選んでもらいます。自分が扱えそうなものを選んでください。今回は全部木でできたものですが危ないので振り回したりしないように。人形も持っていくように」
生徒たちは木箱の前に集まり、武器を手に持って「これがしっくりくるなー」とか「これではないかな……」や「カッコいいだろー」と悩んでいる様子だった。
全員が武器を選び終わったのを確認してから一度咳払いをした。
「ごほん。皆さんは魔法使いですが、魔力が無くなったり杖がないと魔法を使うことができません。仮に誰かに襲われた時、魔法が使えないので許してくださいなんて通用しません。なのでこれから魔法ではなく武器を使った戦い方について学んでもらいます。まずは同じ武器を持ってる人同士でグループを作ってください」
言われた通りに集まる生徒たち。俺はグループ一つ一つにその武器の使い方を教えていく。
「では説明された通りに人形へ攻撃してみてください。朝みたいに歩いていくので何か聞きたいことがあれば遠慮なく聞いてください」
使い慣れてない武器を必死に振る生徒たちを見ながら俺は歩き始めた。
「カイ先生、この振り方で合ってますか?」
木の棒を持った男子生徒が質問してきた。
「ふむ、振り方は合ってますけど振った後の隙が大きすぎますね。実戦では一回振ったら終わりではないので次の行動を予測して振ってみましょう」
「あ、あの……ナイフが変な方向に飛んで行ってしまうんです……、どうしたらいいですか?」
今度はおどおどとした女子生徒。その手には投げナイフを持っている。
「では一度見るので投げてみてください」
「は、はい……。てりゃー」
人形に向かって投げられたナイフはあらぬ方向に飛んでいく。
「あー、なるほど。相手に武器を向けるのが怖いですか?」
「は、はい……」
「ナイフを投げる瞬間に目を瞑っています。最後の最後で相手に狙いを定められていないから変な方向にナイフが飛んで行ってるんですよ。あなたが優しい人であるのは分かりますが、もしあなたの後ろに大事な人がいた場合、次に狙われるのはその人です。難しいことを言うかもしれませんが相手を倒す覚悟を決めて投げるようにしてみましょう」
「あ、ありがとうございます」
それからも俺は生徒たちに質問されては答えていった。
途中でイレイナとフランさんが少し離れた場所から見ているのを見つけた。
「イレイナにフランさんじゃないですか」
「カイ、皆さんの調子はどうですか?」
「熱心にやってくれてますよ。俺の想像以上に上手く武器を扱えるようになってきてます」
「それは良かった。やはりあなたに任せて正解でした」
「お安い御用ですよ。ところでイレイナもやっていくかい?」
「いえ、私は結構です」
「良いのかい?やっておくに越したことはないと思うけど」
「大丈夫です。だってカイが私のことを守ってくれますよね?」
「あら」
「……そ、そうだね。はっはっは、じゃあまた後で」
俺は二人に背を向け、生徒たちの方へ戻った。
「あれ?先生の顔真っ赤?しかも歩くスピードも速いような……」
「はいはーい!カイ先生何があったんですかー?教えてくださいよー!」
武器についての質問じゃなければ無視だ無視。
あんな信頼のされ方をされたら嬉しいけど恥ずかしいに決まってるじゃないか。
丁度良い時間になったところで俺は手を二回叩いて生徒たちを呼び寄せる。
「さて、今回は皆さんには武器の使い方について学んでもらいました。当然これだけできても意味はありません。俺は明日にはこの国を出ていくのでこれ以上教えることができません。なのであなたたちが自分で本を読んだり考えたりする必要があります。こういった訓練はやらなくて後悔することはあっても、やって後悔することはありません。これからのあなたたちの自主性に期待しています。これにて課外授業を終わります。ありがとうございました」
俺に倣って生徒たちも礼をする。
生徒たちは、人形や武器を片付けている俺に手を振って帰っていく。俺も手を振り返しておいた。
全員が帰った後、フランさんが俺に近付いてきた。
「今日はありがとうございました。私では投げナイフと弓しか教えられないから助かりましたよ」
「逆にその二つは使えるんですね。ところでイレイナはどこに?」
「彼女なら先に宿に帰りましたよ」
「そうですか。なら俺も帰りますかねー。今回使った人形や武器はまた使わせてあげてください」
そう言って帰ろうとする俺をフランさんが止めてきた。
「カイ、一つだけ聞きたいことがあります」
「何でしょうか?」
「朝の課外授業の時にも質問されてましたが、あなたたちは付き合っていないのですか?」
「……いないですね」
「何故?」
「……答えないと駄目ですかね」
「無理にとは言いません。ただ、あなたたちの仲の良さは傍から見ていてもよく分かります。だからこそ気になるのです」
なるほど。確かに俺も自分のことでなければ聞きたくなるかもしれない。
これについては俺自身が決めていることだからな。
「……俺たちは旅人です」
「はい」
「俺たちには帰る場所、故郷である平和国ロベッタがあります。旅が終わったら国外に出ることなんて滅多にないでしょう」
「そうですね」
「だから俺は、俺自身のせいでイレイナの旅を邪魔することはしたくない。彼女には目一杯旅を楽しんで欲しいんです」
「…………」
「イレイナと恋人の関係になりたくないわけではないです。寧ろなりたい。あんな魅力的な女性、なかなかいないですからね。彼女自身の気持ちは分かりませんけど」
ははは、と笑う俺をフランさんは真っ直ぐ見つめてくる。
「もしもイレイナも俺のことを好きでいてくれて、恋人になったら俺は自分を抑えることが出来なくなるかもしれません。その場合、彼女は満足することないまま旅を途中で終えることになるのではないかと考えてしまいます。そうはなって欲しくないんですよ」
「あなたはそれで良いのですか?」
「俺はイレイナの笑顔が見れればそれで良いと思ってます。あの日、一緒に旅をする約束をした時から変わってません」
「旅の途中であなたではない男性を好きになってしまうかもしれませんよ」
「その時はその時です。俺にそれだけの魅力はなかったということでしょう。悲しいですけど、最後には笑って送り出したいと思ってます」
「もしイレイナにそういった男性がいないまま旅が終わって故郷に帰った時、あなたはどうしますか?」
「この想いを伝えます。嘘偽りなく」
今度は俺がフランさんを真っ直ぐと見つめる。この想いは変えることはできない。俺の生き方だ。
「……やれやれ、器用なあなたにしては不器用な生き方をしていますね」
「満足のいく回答でしたか?」
「ギリギリ合格点と言ったところです。まあ、あなたたちならこれから先も大丈夫でしょう」
「そうですか」
「私からはもう何もありません。また明日会いましょう」
「明日……?」
「ふふふ、お楽しみにしててください」
「はあ……?」
フランさんに軽く会釈した後、俺は宿に帰った。
「お疲れ様です。これ返しますね」
宿に帰ってきて部屋で休んでいた俺にイレイナがカメラを渡してきた。
「お、どれどれ。ほー、良い感じに撮れてるなー」
魔法で写真を取り出してみると、この国の民家や魔法学校の校舎や雲が流れている青い空が写っていた。
「フラン先生に良い場所を教えてもらいました」
「なるほどなるほど。ところで他にはないのかい?」
「え」
「え」
「他の景色も必要でしたか?」
「いや、景色じゃなくて人だね。この景色を見たイレイナやフランさんの表情も見たかったかなー」
「む、景色を取ってきて欲しいと言ってたじゃないですか」
「言ったねー。これは俺のミスだったかな。ごめんね」
「……いえ」
「良い写真ありがとう。危うくこの国の景色を見逃すところだった。助かったよ。そろそろ寝ないと明日の朝起きれないしもう寝ることにするかな。おやすみ」
「おやすみなさい」
俺が寝る支度を始めるとイレイナも自分の部屋に戻っていった。
ベッドに入り、寝る前にもう一度写真を見ることにした。
「本当に綺麗な景色だ。イレイナとフランさんがどんな表情をしているか簡単に想像できるさ」
並び合う師弟。その顔は綺麗な笑顔だっただろう。
翌日の早朝。
俺たちはこの国の門の前に来ていた。
「良いのかい?フランさんを待たなくて」
「……はい」
フランさんは俺たちに何かプレゼントでもあげようとしてくれてたのかもしれない。
イレイナは少し悩んだ末、国の外へ足を進めようとしたところで上から何かが降ってきた。
「おや」
「……え?」
空から色とりどりの花びらが甘い香りを漂わせながら舞い降りてきた。
俺たちはこれをやった張本人がいる上空を見上げた。そこにいたのはフランさん。
「随分と早かったのですね――イレイナ、カイ。危うく私たちの準備が間に合わなくなるところでした」
フランさんの周りには見覚えがある生徒たちの姿。
手に抱えた籠から花びらを撒いていた。
「イレイナ先生ー、カイ先生ー。ありがとうございましたー。お元気でー!」
笑顔でこちらに手を振ってくる彼らに、俺たちも釣られて手を振る。
「イレイナ、カイ。自ら望んで旅人となったあなたたちを引き止める権利は私たちにはありません。私たちにできることは、これくらいなものです」
「……先生」
「フランさん……」
「喜んでもらえましたか?」
「…………はい、とっても」
「この光景は、二度と忘れることはありません」
俺はこの美しい光景を写真に残していた。まだ確認はしてないが、今まで撮ってきた写真の中でも一番を争うものとなるだろう。
皆に祝福されながら俺たちは歩き始めた。
「イレイナ、カイ。私と学校の生徒たちは、あなたたちを心から応援しています。どうか、そのことを忘れないで」
「…………私も忘れませんよ。皆さんのこと」
「……ありがとう、皆さん。このことは一生の宝物にします」
門の目の前に立ち、門兵が一礼をしてから道を開けてくれた。
「ありがとうございました。灰の魔女様、黒曜の魔女様。我が国はいかがでしたか?」
「楽しかったですよ。とても」
「……俺も楽しかったですよ。好きですよこの国。あなたも含め」
その答えに満足そうに門兵は頷いていた。
門の向こうに広がるのは、なだらかな平原地帯。
「イレイナ、カイ。最後にもう一つだけ――またいつか会いましょう。そのときまで、さようなら」
フランさんは笑っていた。俺たちも笑った。
「「……はい!」」
平原地帯を二人組の旅人が走り回っていた。
「イレイナ、これからもよろしく」
一人は黒い髪に金色の瞳をした青年は、もう一人の女性に向けて言った。いつものように、その想いを秘めたまま。
「はい、これからも一緒に旅をしましょうね。カイ」
灰色の髪に瑠璃色の瞳をした女性は、にこりと笑う。いつものように、頼れる幼馴染へ。
二人の旅はこれからも続いて行く。
旅をしていたら楽しいことや嬉しいことに出会う。悲しいことや辛いことにも出会う。
二人ならば、楽しいことも二倍になる。二人ならば、支え合うことができる。
新しい出会いへの期待に胸を膨らませ、次の国へと進んでいく。
そう、俺たちの旅はまだまだ続いていくのだ。
これにて原作一巻の出来事は終了です。
一巻の内容ではカイがどんな人物なのか。イレイナとの関係はどんなものなのかを表現したいと思って書かせていただきました。
私のモチベーションがあるうちに一巻の内容を終わらせようと思っていたので、駆け足気味で、描写が少し足りない部分もあったかもしれません。
これからは二巻の内容や番外編、オリジナルの話などをゆっくり考えていこうと思っているので今までよりも更新頻度が下がります。
一先ず、ここまで当作品を読んでいただきありがとうございました。
また次の話で会いましょう!