一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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今回はオリジナルの話です。

現在、原作十巻までの電子書籍が半額です。原作に興味があるけどまだ買ってない方は是非!
……この話をするために予定を変えてこの話だけ先に投稿することにしました。


喧嘩

 俺とイレイナ基本的に仲が良い。そうでなければ何年も一緒に旅をしていないだろう。

 そんな俺たちだが、喧嘩だってするのである。

 

「イレイナ、こればかりは俺も譲るつもりはないよ」

「だからそれでは駄目だと何度も言ってるじゃないですか。いい加減にしてください」

 

 夜。とある国の宿屋の一室で俺たちは言い争っていた。

 

「別に良いじゃないか。イレイナが損するわけではないし」

「私の気が収まりません。私の言うとおりにしてください」

「嫌だ」

「嫌じゃないです」

「駄目だ!」

「駄目じゃないです!」

 

 お互い強情なことである。旅先で自分の身を守るためにはこの強情さが役立つが、今はそれが原因で喧嘩が起こってしまっている。

 俺はイレイナのことを考えて言っているだけだ。少し強く言った方が良いのかもしれない。

 

「俺のことは気にしないでくれ!」

「なんでそんなこと言うんですか!カイなんて大嫌いです!」

「えっ――」

「あっ」

 

 イレイナから放たれた一言。その言葉は俺の心に深く突き刺さった。

 

「……そっか。俺はちょっと外に出てくるよ」

「まっ、待ってください。今のは違くて――」

 

 何か言おうとしているイレイナを置いて、俺は宿を出た。

 

 

 

 

 

 

 やりました。やってしまいました。

 あまりにも頑ななカイに私が放った心にもない一言が彼を傷付けてしまいました。

 彼のことが嫌いだなんて嘘です。どうにかして彼の考えを改めようとしたが故に出てしまった言葉です。

 私との約束を守るためにずっと努力してくれて、しっかりと私のことを見てくれる彼を嫌いになるわけがありません。

 私の失言を聞いた彼の悲しそうな顔が頭から離れません。軽く身支度を整えてからカイの後を追いました。

 

 宿から出てカイの後を追い始めた時。

 

「こんな時間にお嬢ちゃん一人?それならお兄さんと一緒に遊ばない?」

 

 ナンパです。チャラチャラした感じの男性が私の前に立ちはだかりました。

 

「結構です」

「そんなこと言わずにさー、俺と楽しいことしようよ?」

「あなたに構っている時間はありません」

 

 私は杖を取り出して男性を眠らせ、カイを追います。

 

「君可愛いね。これから暇?」

「暇じゃないです」

 

「良いところあんだけどどう?」

「嫌です」

 

「持ってると金持ちになれる壺を買いませんか」

「いりません」

 

 急いでいるときに限ってチャラチャラとした男性や、変な物を売りつけようとしてくる怪しい人物に絡まれてしまいます。自分の美しさを少しだけ恨みながら先を急ぎます。

 

 

 

 

 

 

 月明りが街を照らす。俺は広場にある背中合わせになったベンチの片方に座っていた。

 

「……はあ……」

 

 ついつい溜息が出てしまう。分かっている。本当に悪いのは俺だってことが。

 イレイナは優しいから俺が無理しないようにと気を遣ってくれてるのだろう。それなのに俺は彼女の優しさを拒んだ。

 

「ショックだったなあ……。他の人に言われても笑って受け流すことが出来ると思うけど、イレイナに嫌いと言われるのキツイなあ……。しかも大嫌いだもんなあ……」

 

 正直泣きそうだった。というか泣いた。ここに来るまでにすれ違った人に三度見されるくらいには泣いた。――ん?あの人泣いてるの?いや、凄い泣いてない?って感じだった。

 今は少し落ち着いたけど、まだ彼女と会う勇気が出ない。戻ったら何と言おうか。やはり謝罪からだろうか。それとも嫌いにならないで下さいと懇願するところからだろうか。

 まあイレイナが俺のことを本心から嫌ってるわけではないはずだ。衝動的に言ってしまっただけだろう。数年一緒に旅をしていればそれくらい分かる。

 だからと言って不安にならないわけではないが……。もし本当に嫌われてしまったらどうしよう。俺生きていけるのかな……。その時はヴィクトリカさんに、あなたの娘に嫌われることをしてしまいました。俺は駄目な男ですとでも謝罪の手紙を送ろうか。

 

「これ以上悪い方向に思考が行くのは駄目だな……」

 

 気持ちを切り替えるために魔法で仕舞っていた冊子を取り出した。中身はこれまで撮ってきた写真が入っている。簡単に言うとアルバムだ。

 このアルバムは俺の宝物なので失くさないように武器やカメラと一緒に魔法で仕舞っている。

 

「…………」

 

 一ページずつアルバムをめくっていく。二人で一緒に平和国ロベッタから巣立った時。赤い髪の少年。黒い髪の少女が魔法を教わっているところ。仲の良い兄妹。自称旅の占い師がパンを売っている屋台の店主に看板を渡しているところ。幸せを知らない少女に恋する少年がプレゼントを渡すところ。とある国で巨大な落とし穴を作った時。魔法の練習をする学生たち。――そして、色とりどりの美しい花びらに囲まれて笑っている灰色の髪の女性。

 今までいろんな国に行き、いろんな人に出会った。楽しいこともあったし、悲しいこともあった。傍にはいつも彼女がいた。

 

 やはり俺の旅には彼女が必要だ。彼女がいなければ俺は旅を楽しめない。

 

 ――だから謝りに行こう。嫌いじゃないと言われるまで何度だって頭を下げよう。お金を要求されたら有り金を全部渡しても良い。何を要求されても俺は不満を言うことなく応えよう。

 そう決心した時のことだった。

 

「――良い写真ですね」

 

 俺の反対側のベンチに座った女性が、こちらを見ることなく尋ねてくる。綺麗な声だ。

 

「ええ、宝物です」

 

 俺も前を向いたまま答えた。

 

「その写真に写っている女の子はあなたにとってどんな人ですか」

「大切な女性ですよ。とても」

 

「その子のどこが良いと思ってるんですか」

「全部です。優しいところ。可愛いところ。努力家なところ。自分に自信を持っているところ。綺麗なところ。少し金に意地汚いところ。人に遠慮なくものを言えるところ。少し素直じゃないところ。一人で抱え込んでしまうところ。最後はそれをこちらに打ち明けてくれるところ。面倒見が良いところ。魔法を使っているところ。ほうきで空を飛んでいるところ。実は弓を使えるところ。笑った顔。困った顔。ムッとした顔。俺が作ったパンを美味しそうに食べるところ。きのこが嫌いなところ。それを隠そうとするところ――」

「もういいです」

「もう一度言いますが全部ですよ」

 

「そんなに大切な女の子なら何故今一緒にいないんですか」

「ちょっと喧嘩をしてしまいましてね。俺が意地を張りすぎたのが原因です。俺が悪かったんですよ」

 

「彼女の方が悪かったという可能性は?」

「ないですね。寧ろ彼女は俺のことを考えてくれていたんですよ。俺が馬鹿だったせいで大嫌いと言われてしまいましたが」

 

「あなたは怒っていたり、彼女のことを嫌いになったりしていますか」

 

 その声は少し震えていた。

 

「怒ってませんし、嫌いになんてなりませんよ――だから、ごめんイレイナ。俺が悪かった」

「……私こそすみませんでした。あなたのことが大嫌いだなんて嘘です」

「そっか。じゃあ宿に戻ろうか」

「はい」

 

 俺たちは同時に立ち上がり、並んで歩く。

 宿に着くまでの途中、俺たちは一言も喋らなかった。言葉は十分に交わしたからこれ以上は必要ない。ただこの時間を大切にするだけだった。

 俺たちは笑顔だった。空を見上げた時に見えた月も、笑っているかのように弧を描いていた。

 

 

 

 

 

 

 さて、ここで今回何故喧嘩したかを説明することにしよう。

 まずは俺たちが今日泊まる宿を探し続けて、ようやく空いている宿を見つけた時のことだ。

 

 

 

「え。空いている部屋が一つしかない?」

「はい。二人用の部屋なのでお客様たちでも問題はありません」

「いつもは別々の部屋を取るようにしてるけどどうする?この国にある宿はここが最後だけど」

「まあ大丈夫じゃないですか。野宿は嫌ですよ」

「ならその部屋でお願いします」

 

 そうして案内された部屋の中。二人部屋に相応しい広さの部屋で、人数分の椅子もあるしこれなら確かに問題ないなと思った。ある一点を除いて。

 

「ベッドが一つしかないんですけど……」

「なんか大きいね……二人寝れそうなくらい」

 

 ベッドが一つしかなかった。どうやらこの部屋は恋人や夫婦で来る部屋のようだ。

 

「イレイナはベッドで寝なよ」

「カイはどうするんですか?」

「俺は椅子か床で寝るよ」

 

 女性であるイレイナにはベッドで寝てほしい。椅子や床はベッドに比べると硬いが、寝れないことはないはずだ。

 

「それだとカイは休めないのでは」

「俺は大丈夫だから」

「大丈夫なわけないですよね?私に気を遣う必要はありません。仕方ありませんが、二人で寝ることにしましょう」

 

 確かにこの大きさのベッドなら二人が密着するわけではないからそこまで恥ずかしさというものはないのかもしれない。とは言っても一緒のベッドに入っていることには変わりないんだよなあ……。逆にイレイナは気にしないのかね?

 

「いやあ、俺のことは気にしなくていいから……」

「何言ってるんですか。いいから寝ますよ。もう寝たいんですから」

「なら先に寝てて良いよ。俺は魔道具でも作ろうかと思ってるから」

「そしたら絶対ベッドに入らないですよね?」

「…………」

「…………」

 

 俺たちの間に剣呑な雰囲気が流れる。

 

「イレイナ、こればかりは俺も譲るつもりはないよ」

「だからそれでは駄目だと何度も言ってるじゃないですか。いい加減にしてください」

 

 

 

 そして次第にヒートアップしていったのである。

 

 

 

 

 

 

 宿屋に戻ってきた俺たちは別々に寝る支度をしてから今度こそ一緒に寝ることにした。

 

「どうしたんですか?早く来てください」

 

 ベッドに入るよう促してくるイレイナ。なんだか良くないことをしているような気持ちになる。いや、邪なことをするわけではないしするつもりもないのだが。

 

「……イレイナは俺と一緒に寝るのに抵抗はないのかい?俺がイレイナに手を出してしまうかもしれないよ」

「いまさら聞きますか。あなたはそんなことする人ではないのは分かってるから良いと言ってるんですよ」

「信頼が厚い……」

 

 ここまで信頼されてるのは嬉しいが、男としては見られていないのではという悲しさもある。

 これ以上は考えないようにし、ベッドに入った。

 

「あ、こっちの方は見ないでくださいね」

「……理由を聞いても良い?」

「駄目です」

「あっはい」

 

 即答だった。まあ元々見るつもりはないのだが。

 イレイナの方を見たら俺の顔が真っ赤になってしまうのは分かりきっている。そうなったら俺はドキドキで眠れなくなってしまう。彼女の寝顔を見たいとは思うが、今は睡眠を取ることが重要だろう。

 だから俺はイレイナがいる方とは反対の方を見て寝るのだった。

 

 

 

 

 

 

「すう……」

 

 私の目の前から寝息が聞こえてきました。カイは私の言った通りこちらを見ないまま寝始めたようです。

 もし彼が振り返っていたら、見られていたことでしょう。そう、この緩んだ口元を。

 ベンチに座ってアルバムを見ていた彼が言ってくれた、私のどこが良いと思っているのか。

 数個くらいかと思っていたら、彼の口は止まることを知りませんでした。

 恥ずかしさから途中で止めてしまいましたが、カイが私の外見だけでなく内面も、良いところだけでなく悪いところも好きでいてくれて嬉しくないはずがありません。

 私をしっかり見てくれる彼だからこそ、つよくてかしこい灰の魔女イレイナとしてではなく、ただのイレイナとして弱さを見せてしまうこともあります。そんな私を彼はいつも傍にいて励ましてくれます――その逆もありますが。彼のいない旅など想像できません。

 私はこれからも彼に甘えてしまうでしょう。甘えてばかりだと彼に迷惑を掛けてしまうかもしれないので程々にしておくべきだと思います。しかし、私はそれが心地良いとも感じています。安心するとも言えるでしょう。

 こんな私は悪い魔女なのでしょうか?それならば私を甘えさせる彼もきっと悪い人ですね。二人そろって悪人です。

 

「…………」

 

 カイを起こさないようにゆっくりと体を動かし、あと少しで触れてしまいそうになるまで近付きます。

 ドクン、ドクンと聞こえてくる心臓の音は私のものでしょうか、それとも彼のものでしょうか。

 

「おやすみなさい」

 

 目を閉じ、この音を楽しみながら眠ります。

 

 ――旅の途中、訪れた国で悪い魔女が悪事を働くかもしれません。なのでこれからも私から目を離さないで下さいね?

 

 

 

 

 

 

「……すぴー」

「ん……?」

 

 寝始めてからどれくらい経ったか分からないが、何かが俺の体に触れたことで目が覚めた。

 誰かの片腕が俺の体の上にあるし、誰かの片足が俺の足の上に置かれている――つまり、抱きしめられているような状態である。

 俺を抱き枕のようにしているのは一体誰か。……そう、イレイナだ。俺は今イレイナに抱きしめられている。その事実が俺の頭を無理やり起こしてくる。

 今の彼女は薄着である。そんな彼女に密着されれば、背負った時とは段違いの柔らかさが伝わってくる。イレイナは自分の体つきを気にしている節がある。確かに大人の女性と比べると慎ましいものであるが、俺にとってはものすごい破壊力である。大きさなんて関係ないっス。ヤバいっス。心臓がバクバクっス。

 

「あ、あのイレイナさーん。もし良かったら離れて頂ければ幸いかなーと思うんですけど。俺が死んでしまうのですが」

「すぴー」

「駄目ですかそうですか……」

 

 俺が小声だったというのもあるが彼女は大変深い眠りに落ちていたようで、全く起きる気配がない。これは大変困った。

 こうなったら頑張って寝るしかない。気にしない気にしない。背中に感じるイレイナの感触なんて気にしな――気にする!滅茶苦茶気になってしまう!

 寝ようとして目を閉じるとさらに彼女の体温を感じる気がする。な、何か別のことを考えて気を紛らわせるんだ。

 俺は頭の中でイマジナリーな知り合いを呼び出して助言を求めることにした。

 

『イマジナリーな皆さんはこの状況どう思います?』

『男ならやらなければならない時がある!今がその時じゃ!やれー!』

『あら、蝶々。うふふ……』

『孫の顔が楽しみね』

『先生の好きにすれば良いじゃないですか』

『今母さん新作を描いてる途中だから待っててね』

『カイ、ここは頑張って待つんだ。魔法使いの国の外で待たされた僕のように』

 

 比較的まともなイマジナリーな人はエイデン君と父さんだけか……。師匠は最低なことを言ってるし、フランさんは蝶々を追いかけてる。ヴィクトリカさんの言葉は聞かなかったことにしよう。母さんは何をやってるんだ?よく考えたらエイデン君はどうでも良いと思ってないか?

 結局俺はイマジナリーな父さんの助言に従い、イレイナを起こさないように耐え忍ぶだけだった。

 

 

 

 ドキドキで眠れなかった。

 

 

 

 結局イレイナが俺から離れたのは、彼女が起きる十分くらい前のことだった。

 イレイナが起きたのを確認してから、俺もたった今目覚めたという振りをして一緒に朝ご飯を食べて出発した。

 つまるところ、一切眠れなかったのだ。眠い……。

 




背中合わせの状況って良いですよね。

次の話は二巻分の話を全て書き終わったら順次投稿していくつもりですが、書き終わってなくても今月中にもう一話は投稿します。

それではまた次の話で会いましょう!
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