『両親とお金の話』
「二人はいつも家にいるけどどんな仕事をしてるの?」
俺が学校に通い始めたくらいだったか。俺はゴウザン師匠にバイトをするように言われ、父さんが俺を受け入れてくれる店を探してくれたおかげで俺は学校が終わったら夕方までバイトに勤しんでいた。働いている最中、俺は両親がどんな仕事をしているか知らないことにふと気が付いた。
バイトの後の師匠との修行が終わって帰宅した後、俺は両親に仕事について聞いてみたことがある。
二人は少しだけ見つめ合った後、俺の方を向いて言った。
「実は僕たち、働いてないんだよ」
「けど大丈夫。お金については問題ないわ」
「どうして?」
俺の疑問は尤もである。働かないとお金を貰うことは出来ないというのは常識として俺の中にあった。労働しなくてもお金が手に入る不労所得なるものも存在するのだが、当時の俺はその存在を知らなかったのでここでは考えないことにする。
「それはカイが大きくなったら教えてあげる。はい、もう眠いでしょうし早く寝なさい」
母さんのその一言でこの話は終わってしまった。ごねてでも答えを知りたい気持ちはあったのだが、母さんの言う通り俺は眠かったので一先ず寝ることにした。翌日にまた聞けば良いと思っていたが、寝てる間にそんなことは忘れてしまっていた。
●
「カイ、ついておいで」
ついに俺とイレイナが旅に出る前日の夜、俺は父さんと母さんに大事な話があると言われた。
「どこに行くの?」
「昔あなたにお金のことは心配ないって言ったわよね。その理由を教えてあげるわ」
二人に案内されたのは父さんの部屋。いつもはそこに敷かれていたカーペットが取り払われており、地下に続く階段が姿を見せていた。
「地下室?」
一体何があるんだろう。もしや何か危険なものを隠しているのだろうか。それが犯罪に関わるものだったらどうしよう……。
不安になりながら二人の後ろを歩く。その先にあったのは俺の身長よりも圧倒的に大きい金属でできた箱。箱には扉を開けるための鍵穴とダイヤルがついていた。
つまり――
「金庫?」
「そう。そしてこの中には――」
父さんと母さんが分担して鍵を開け、金庫の扉を開く。
「ええ……」
金庫の中には金貨がぎっしりと詰まっていた。これだけあれば一生遊んで暮らしても大丈夫だろう。
二人が働いていなかった理由、それは働かなくても暮らしていけるくらいのお金を持っていたということだ。
「あ、ちゃんと税金は払ってるわよ。だから犯罪の心配もないわ」
「それは良かった。二人が悪いことしてたら俺もショックだからね……」
しかし何故こんなにも大量の金貨を二人は持っているのだろうか。
「何故って顔をしてるね。これはね、僕たちが昔旅をしていた時に頑張って集めたんだ」
「でもどうやってこんなに……?」
「少し危険な依頼を受けたり、賭けをしたりして稼いだのよ」
二人は実力のある旅人として各地で頼られることが多かったそうだ。報酬が高い分危険なものが多かったらしいが、今こうして五体満足でいることから二人は本当に強かったのだろう。
「最初はお金を貯めようなんて思ってなかったんだけど将来のことを考えてお金を貯めた方が良いと、ある人から助言されてね。それからは旅先で使うお金と貯めるお金を分けていたんだ」
「そして私たちが旅を終えた時にはもう働かなくても大丈夫なくらいのお金が貯まっていたわ」
「ほほーう」
二人が旅を終えて最低でも十五年は経ってるわけだけど、それでもまだこんなに残ってるのか。普段から贅沢とかしないから分からなかったけどうちって大金持ちだったんだなー。すごーい。……あまりの大金を目の前にして思考力が落ちてきてる気がする。
けど今更それを明かしてどうする気なんだろうか。もしかして旅の資金としてこのお金を少し分けてくれるのかな?
「このお金は僕たちのだからカイには渡さないよ。僕たちが言いたいのはね、カイも出来る限り無駄遣いとかはせずにお金を貯めるようにした方が良いってことだよ」
「無駄にお金を使うつもりはないし、何かあった時のために貯めるようにするのは良いことかもしれないね」
「持ちきれなくなった分は私たちに送ってくれればこっちで保管しておくわよー」
貯めたお金を何に使うかは今のところ決めてはいないが、それは旅が終わった後にでも考えるとしようかな。
何やら父さんと母さんが楽しそうに話し始めた。
「母さん、カイは一体何にお金を使うと思う?」
「そうねー。やっぱりイレイナちゃんにじゃないかしら。それと子どもにも」
「それは良いね。孫の顔が楽しみだ」
「そういう話は俺のいないところでやってくれない!?」
――でも、それも悪くない。いや、そうしよう。それなら俺もお金を貯めるのに全力を注げる。
旅が終わった時にイレイナが俺のことを好きでいてくれたなら、貯めたお金を見せて驚かせてあげよう。今まで君のために貯めてきましたって言うのは引かれるだろうから絶対に言わないが。
一人の女性のためにお金を貯める俺は少し重い男なのかもしれないな。ならば重い男は重い男らしく、懐も重くしようか。
俺はそう決めたのだった。
『出会い』
俺は現在、森の中にあるフランさんの家でイレイナとフランさんと一緒にクッキーを食べていた。
ただクッキーを食べるだけは面白くないので雑談に花を咲かせていた。
途中でフランさんが何かを思い出したような顔をして次の話題を提供してきた。
「あなたたちの出会いがどんなものだったのか気になります」
「私とカイの出会いですか」
「良いですよ。イレイナ、俺が話しても良い?」
「……まあ良いですけど」
「以前から気になっていてあなたたちがそろった時に聞きたいと思っていましたので楽しみです」
「面白いかは分かりませんよー」
そうして俺はイレイナとの出会いを語り始めるのだった。
●
昔々、ある日の昼のことである。
「カイー、お腹が空いたよね?これから僕と母さんと一緒にバーベキューをしに行こうか」
「結構高いお肉と野菜を用意してるから美味しいわよー」
「本当?やったー」
当時の俺はバーベキューの存在は知っていたが、やったことがなかったのでとても喜んだ。
母さんが食材をカバンに入れて持ち、父さんがバーベキューのグリルや薪を持って外に出ていったので俺もついて行った。
俺はてっきり自分の家の庭や空き地でやるのかと思ったが、父さんがグリルを置いた場所は誰かの家の庭だった。
「父さん、ここどこ?」
「それは後で説明してあげるよ。今はバーベキューの準備が先だからね」
父さんがグリルに薪を入れてから網を乗せ、母さんがカバンから肉や野菜を取り出し始めた時、目の前の家から女性が出てきた。
「あなたたち何やってるのかしら?ここは私の家なんだけど」
「やあヴィクトリカさん、こんにちは。今からバーベキューをやろうと思ってたんですよ」
「あらこんにちは――じゃなくてなんでうちの前でバーベキューをやろうとしてるのかしら?迷惑よ」
ヴィクトリカさんの怒りはもっともである。「警察でも呼ぼうかしら?」と呟いているヴィクトリカさんに母さんが近付いた。
「あなたたちもどう?食材はこちらで用意したものを使って良いし、これは庭の使用料よ」
「許可します」
そう言って母さんはヴィクトリカさんに袋を渡していた。使用料と言っていたし恐らくお金だろう。
食材を使っても良いことに加えてお金を貰ったことで彼女の怒りはどこかへ消えてしまっていた。寧ろ上機嫌になっていた。
「焼くのお願いね。私たちが焼くと味がね……」
「任せなさい」
ヴィクトリカさんは一度家に家族を呼び出しに戻り、彼女の夫と一緒に再び出てきた。
「バーベキューか。久しぶりだな」
「しかもこっちは焼くだけで食べられるんだからお得よね」
二人は薪に火をつけてから肉や野菜を焼き始めた。
俺は初めて会う二人に話しかけることにした。
「あの、初めまして!俺はカイ!」
「あら、あなたがカイ君ね。あなたの両親から話は聞いてるわ。よろしくね」
「君がカイ君か。よろしく」
少し緊張しながら話す俺に二人は微笑んでくれた。
俺の身長では何も手伝うことが出来ないので両親のところへ戻ろうかと思った時にヴィクトリカさんが声を掛けてきた。
「そうだ。カイ君、あなたにお願いがあるの」
「何ー?」
「家を見て」
自分の家がある方向を見た。特に何もなかった。
「いや、あなたの家じゃなくて私たちの家の方よ」
「あ、そっちかー」
ヴィクトリカさんの家を見てみると、玄関からこちらの様子を覗いている少女がいた。
「?」
「あの子は私たちの娘のイレイナよ。いつも家で本ばかり読んでて友達がいないの。カイ君が良ければだけどあの子と友達になってくれないかしら?」
「母さん!?」
「分かった!」
「カイ君!?」
俺は家の方まで行き、今とは違って短い灰色の髪に、今と変わらない綺麗な瑠璃色の瞳をした少女に話しかけた。
「俺はカイ!君は?」
何ということでしょう、幼い少年は目の前の少女の名前を聞いたばかりなのに忘れてしまっていたのである。少女と友達になるということだけが頭の中に残ってしまったようだ。
「わ、私はイレイナ……」
少女は家族以外の人とあまり喋ったことがないのか、先ほどのどこかの少年みたいに少し緊張していたようだった。けれど名前を聞かれてしっかり答えることは出来ていた。
「イレイナちゃんね!俺と友達になろう!」
「えっと……その……どうしたら友達になれるの?」
少女はいきなり友達になろうなどと言われて困惑していたが、これは仕方のないことだった。何故ならいつも家にばかりいる彼女には友達がおらず、どうしたら友達になれるかが分からなかったのだ。
「?友達になるのに何かいるの?」
「分からない……」
「じゃあ大丈夫でしょ!今から俺たち友達ね!」
「うん!えっと、カイ君……さん?」
「カイだけでいいよ!」
「なら私のこともイレイナって呼んでね、カイ!」
「分かった、イレイナ!」
多分だけど今の年齢で俺とイレイナが出会ったとしてもここまで早く呼び捨てで呼び合うことはないだろう。幼さって凄い。
「じゃあみんなのところに行こうか」
「うん」
俺が手を差し出してイレイナがその手を掴み、俺たちは走ってみんなのところに戻った。
「あらあら」
「おや、カイとイレイナちゃんは仲良くなれそうだね」
「うふふ」
「イレイナ!?」
俺たちの様子を父さんや母さん、ヴィクトリカさんはこちらを微笑ましそうに見ていたが、イレイナの父親はなんか凄い顔をしていた。
そのあたりで肉が焼けてる時の良い匂いがしてきた。その匂いに釣られてぐうう、と俺たちのお腹の音が鳴った。
俺にはイレイナの父親が、イレイナにはヴィクトリカさんが肉が乗った皿を渡してくれた。
俺は皿を受け取ろうとしたが、イレイナの父親がなかなか皿から手を放してくれなかった。
「カイ君、イレイナに手を出したら……分かってるね?」
「……?どゆこと?」
「ごめんなさいね、この人過保護だから……。カイ君は気にしなくても平気よ」
「うーん?分かった!」
その時は意味がよく分からなかったけどヴィクトリカさんが平気だと言ってくれたから俺はとりあえず返事をした。
母さんが魔法で椅子とテーブルを用意してくれており、その中に俺とイレイナに丁度良い高さのものもあったので俺たちはそこに座って食べることにした。
「「美味しい!」」
俺たちは二人そろって同じ感想を述べていた。
美味しいのは高い肉を使っていたからだろうか、それとも友達と一緒に食べたからだろうか。
「カイ、友達と一緒に食べるご飯って美味しいね!」
「そうだね!」
どうやらイレイナ的には後者だったようだ。幸せそうな顔をして言う彼女に釣られて俺も嬉しくなった。
それから俺たちは普段何をして過ごしてるか話していた。
「イレイナはいつも何して遊んでるの?」
「本を読んでる!面白いよー」
「本かー、俺はいつも外で遊んでるから全然読んだことないや」
「じゃあ今度うちに遊びに来て一緒に読もうよ!」
「うん!んでその次は一緒に外で遊ぼう!」
「うん!」
そのあたりで肉が無くなったのでお代わりを貰いに行くと、今度は肉だけでなく野菜も皿にのせられた。
俺は嫌いな食べ物はないから問題なかったが、イレイナは自分の皿にあるきのこを見て嫌そうな顔をしていた。
「きのこ……」
「きのこ嫌いなの?」
「うん……。きのこのこと嫌いな私を嫌いになったりする……?」
「全然!きのこが嫌いなら俺が食べるよ!」
「本当?ありがとう!」
今にして思えば何故かきのこが嫌いだと嫌われてしまうのではと不安に思っていたイレイナは面白かったな。ははは。
俺たちの食べる手が止まることはなく、満腹になった頃には持ってきた食材は全て無くなっていた。
「ふー、いっぱい食べたねー。もう食べれないや」
「私もお腹いっぱい……」
二人してお腹をさすっていた。美味しさからか、それとも友達と一緒に食べたからかは分からないが普段食べてる量よりもたくさん食べた気がする。
満腹感から特に喋るわけでもなくゆっくりしていると母さんが俺に声を掛けてきた。
「カイー、そろそろ帰るわよー」
「はーい。じゃあ俺もう帰るねー」
「あ、えっと……」
「ん?どうしたの?」
俺が帰ろうとしたときに向かい側に座るイレイナが何かを言いたそうにしていた。
「……また来てくれる?」
「うん!また遊びに来るよ!」
「待ってるからね!」
俺がまた来ると言うと、イレイナは不安そうな顔から一変してとても嬉しそうな顔になった。
そんな彼女に手を振ってから今度こそ母さんたちのところに行って一緒に帰宅した。
これが俺とイレイナが初めて出会った日のことである。
●
「どうでしたか?」
「そうですね、なかなか面白い話でした。あなたたち以外の登場人物にツッコミたいところはありますが」
「父さんの気まぐれから始まった話ですからねー」
急にバーベキューやると言って知り合いとはいえ別の人の家の庭で始めるのはなかなかおかしいよな……。父さんたまに変なことするんだよね。この前なんて国中を走り回りながら母さんの良いところを叫んでた。最終的に母さんに吹っ飛ばされて説教をされていた。蛮行に及んだ理由は母さんへの愛故にということだった。その日、父さんは家に入れてもらえなかったけど母さんの顔は嬉しそうだったのを俺は見ている。
「…………」
イレイナは下を向いて押し黙っていた。
「どうかした?」
「……分かっていたとはいえ、昔のことをカイの口から語られるのはなかなか恥ずかしいですね」
「そうかい?俺は別にこの話をされても恥ずかしくないんだけどなー」
「あなたの口から語られるから恥ずかしいんですけど……」
「なら次にこのことを話す機会があればイレイナが話してみてよ。それで俺が恥ずかしいと感じるか試してみよう」
「そういう問題でもないんですが」
「あらあら」
俺の主観での話だったから実際の会話とは少し違っていた可能性もあるけどおおよそ合ってるはずだ。俺にとってあの日は二番目に大切な日だからこれからも忘れることはないだろう。
「それで、後日二人で遊んだりしたのですか?」
「翌日にイレイナの家に行って一緒に本を読みましたし外でも遊びましたよ」
「あんまり外で遊ばない私はくたくたになりましたけどね」
外で遊んだことで二人して服のいたるところに汚れがついて母さんやヴィクトリカさんに怒られてたっけかな。二人とも本気で怒ってるわけでもなく、むしろ嬉しそうにしてたのを憶えてる。
「けどあの時のイレイナは楽しそうだったよ」
「今までしたことのない遊びをたくさんしましたから。それに……」
「それに?」
「いえ、何でもありません」
「?」
「私にはイレイナの言いたいことが分かりましたよ」
おや、フランさんにはイレイナが今何言おうとしたのか分かったというのか。フランさんに分かって俺に分からないこと……魔法についてだろうか?俺も魔法についてはそれなりの知識はあると思うのだがイレイナやフランさんに比べると浅いと言わざるを得ない。でも今の話題に魔法は関係あっただろうか?
「先生、言ったらしばらくは雑草を食べてもらいます」
「ふふふ、私は何も言いませんよ。だから雑草は勘弁してください」
どうやらフランさんから教えてもらうことは無理そうだ。後でもう少し考えてみるか。
俺はテーブルに置いてある皿を見る。クッキーは既に無くなっていた。
時計を見てみると、ゴウザン師匠の所に行くのに丁度良い時間になっていた。
「さて、俺はもう行きますかね」
「これから修行ですか。頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
椅子から立ち上がり、出ていこうとする俺にイレイナが声を掛けてきた。
「カイ」
「何?」
「私と友達になってくれてありがとうございます」
「こちらこそありがとうイレイナ。これからもよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
●
フランさんの家から師匠のいる山に行き、いつも通り修行という名の模擬戦を行うことになった。
師匠にも友達はいるのか、いるのならばどんな人物なのか気になったので聞いてみることにしよう。
「師匠、先に一つ聞いて良いですか」
「言ってみよ」
「師匠って友達いますか?」
「何じゃお主!儂の性格が悪いとでも言う気か!この馬鹿弟子がああああ!」
俺は次の瞬間には早とちりした師匠の手によって吹き飛ばされていた。そういうことを言いたかったわけではないんだけどなあ……。
事情をしっかり説明した後にもう一度聞いてみたところ、どうやら師匠に友達はいないらしい。
もしかして性格悪いのでは?
『両親とお金の話』
この話はカイの両親が働いてない理由とカイがイレイナに秘密でお金を貯めていることを明かすための話です。彼は旅先で使ってもいいお金と貯めておくお金を分けて持っています。旅人がそんなに稼げるのかと疑問に思ったりしますがカイがそれだけ頑張ったってことなんです!
『出会い』
どこかで使えそうなら使おうと思ってた話でしたが一部分だけならともかく、出会いの全てを書くとなると入れる場所がないことに気付いたのでここに書くことにしました。ずっと隠しておくような話でもありませんでしたからね。
急に他人の家の庭でバーベキューを始めたり、その家の住人に金を握らせたり、娘の皿に自分と娘が嫌いなきのこを盛ったり、まだ小さい男の子に向かって娘に手を出すなと言ったりする大人たち。
今回はこんなところです。次の番外編ではカイが魔道具を作るようになった話なんかを書きたいと思ってます。番外編はいつになるか分かりませんが……。