「ねえ見てイレイナさん!やった!やったよ、ほら!」
エリーゼさんが小さな野ウサギに矢を命中させました。
「おめでとうございます。ご褒美として手料理を食べさせてあげます」
「美味しいの?」
「忘れられなくなりますね」
「それは楽しみ!」
「あと、これはご褒美ではないんですけど、一つ提案が」
私はエリーゼさんに元の家にもう一度住まないか尋ねました。彼女はしばらく考え込みましたが、あの国を離れても良いかもと頷きました。
エリーゼさんが仕留めたウサギを血抜きし、紐でくくってから国へ戻りました。
エリーゼさんたちの家に行く途中、彼女に待つように頼んでから私はいつも訪れていたレストランに入ります。
「いらっしゃいませ――おや、今日はお一人ですか」
「先ほどエリーゼさんがウサギを仕留めました」
「そうですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。私はもう行きます」
「はい」
レストランから出て少しゆっくりと歩いてエリーゼさんのところに戻りました。
「お待たせしました」
「イレイナさん遅いよー」
「すみませんでした。やっておかなければならない用事があったので」
今度こそエリーゼさんたちの家に向かいました。
家に着くなり、エリーゼさんは荷物を取りに走ってしまいました。
タイミングを見計らっていたのか、私に依頼をしてきた役人さんが現れました。
私は役人さんに依頼は順調に進んでいると報告をしました。すると彼はもう一つ依頼したいことがあると言い、「機会があれば、我々の本当の気持ちを、どうか彼女に伝えていただきたく思います」と語ってから去っていきました。
「おまたせー。二人分の荷物をまとめてたら、時間かかっちゃった」
入れ替わるようにエリーゼさんが戻ってきました。その後ろにはミリーナさんの姿もありました。
「イレイナさんには紹介してなかったよね。この子が妹のミリーナだよ」
「よ、よろしく!イレイナさん!」
ミリーナさんは少し緊張しているようです。そんな彼女に私は「よろしくお願いします。ミリーナさん」と微笑んでおきました。
私たち三人は国から出て暫く歩き、森の中にあるエリーゼさんたちの家が見えてきたところであることに気が付きます。
「誰かが私たちの家の暖炉を使ってる?」
「そのようですね」
エリーゼさんが走って家に入っていったので私たちも早足で向かいます。
「私たちの家で何やってるの!」
暖炉の前の椅子に誰かが座っていました。その誰かはエリーゼさんの言葉を聞いた後ゆっくりと立ち上がり、こちらに振り向きます。
「おかえり、待ってたよ」
「え……」
その誰かとはいったい誰か。それは私とエリーゼさんがレストランや服屋で会ったウェイター――黒い髪に金色の瞳をした青年、つまりカイでした。
「君たちが帰ってきた時のために掃除はしておいたよ」
「なんでウェイターさんが……」
「そうだね。いろいろと話したいことがあるけどお腹が空いてきたからお昼ご飯にしようか。エリーゼちゃんは誰が料理を作るか知ってるかい?」
「イレイナさんでしょ?」
そう答えるエリーゼさんに対し、カイは首を横に振ります。
「違うよ。今から料理をするのは君の妹――ミリーナちゃんだよ。一人でね」
「ミリーナが?」
「うん!前はお姉ちゃんと一緒に作ってたけど、今はもう一人でも作れるようになったの!」
そう言ってミリーナさんはキッチンの方に歩いて行きました。
「ミリーナちゃんの腕は俺が保証するよ。さ、俺たちは座って待ってようか」
「う、うん」
「私はウサギをキッチンに置いてくるついでに捌いてきますね」
カイとエリーゼさんはテーブルの前に置かれた椅子に座るのを横目に私はキッチンにいるミリーナさんのところにウサギを届けるのでした。
●
俺たちが依頼を受けた次の日。俺はエリーゼちゃんがいなくなった隙にミリーナちゃんと接触していた。
「――というわけでエリーゼちゃんの方はイレイナに任せて俺は君を助けることにした。依頼を破るような形になってごめんね」
「ううん、大丈夫。お兄ちゃんの話を聞いてその通りだと思ったもん。わたし、お姉ちゃんに頼ってばかりでいたくない!」
「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ。それで、君は何をしたい?」
「そうだなあ……うん。わたしは一人で料理が出来るようになりたい!それと――」
俺の問いにミリーナちゃんは下を向いて少し考えた後、俺の眼を真っ直ぐと見て答えた。
「分かった。ミリーナちゃん、俺に君を助けさせて欲しい」
「うん!よろしくねお兄ちゃん!」
俺は手を差し出し、ミリーナちゃんと握手をした。
ミリーナちゃんの望みを叶えるためには彼女の家ではない場所で練習する必要がある。料理なんかは匂いでバレるだろうし、もう一つの方も念のためだ。
なのでその日はそこで解散し、国にあるレストランと服屋の店長に事情を説明して、少しの間俺とミリーナちゃんが働かせてもらえないか頼み込んだ。
二人の店長からの返事は即答だった。
「ウチは構わないよ。あの子たちにはもっと良い物を食べてもらいたいからな」
「当然良いわよ!あの子たちにはおしゃれをしてもらいたいもの!」
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げて感謝を伝えた。
この国の住民は酷い人たちばかりではない。幼い獣人の姉妹を助けてあげたかったが、彼女たちを苦しめたのも自分たちと同じ国民だったためにどう接すれば良いか分からなかったようだ。
二人の店長と話し合い、俺たちが働かせてもらう時間を調整した。昼前までは服屋で、昼頃から夕方まではレストランで働くことになった。
働き始めるのはイレイナがエリーゼちゃんに狩りを教え始めるのと同じタイミングにしたかったため、店長たちにはいつ頃から入れるか分からないと言ったら、二人ともいつでも来て良いと答えてくれた。
イレイナがエリーゼちゃんと話をしている間に、ミリーナちゃんにこのことを説明した。
「少し大変かもしれないけど大丈夫?」
「大丈夫!お姉ちゃんを助けられるように頑張る!」
「良い子だね。じゃあ明日迎えに来るから待っててね」
「うん!また明日!」
ミリーナちゃんと別れた後、イレイナと合流した。
「そっちも大丈夫そうだね。狩りを教えるって言ったって何を教えるの?」
「まずは弓矢について教えます」
「え。イレイナって弓矢扱えるの?」
「扱えますよ。こう見えても上手いですからね」
「へー、今まで見たことなかったけどそうだったんだ。弓矢持ってないでしょ?俺のを貸すよ」
俺が使っている弓矢を取り出してイレイナに渡そうとするが、彼女はそれを断った。
「カイが使っている弓の弦は固すぎるのでこちらで用意しておきます」
「じゃあ他に何か手伝えることある?」
「射的場の準備をお願いします。私一人だと時間が掛かってしまいそうなので」
「了解」
それから俺たちは一緒に森の中に射的場を作った。的に当てたらご褒美があるらしい。やる気を出させる良い方法である。
俺は店長たちに明日から働かせてもらうことを伝えに一度国に引き返した。
用事が済ましてから射的場に戻るとイレイナが的に向かって弓矢を構えていた。俺はなんとなく隠れてしまった。
イレイナが放った矢は的に当たらずに別の方向に飛んでいった。
「うーん……。数年ぶりとは言え腕前には自信があったんですけど……。カイが戻ってくる前に感覚を取り戻しておかないと」
どうやら久しぶりに弓矢を扱うので感覚を忘れていたようだ。俺に内緒で練習するとは……。うん、写真を撮ろう――パシャリ。
写真を撮られたことに気付かないイレイナは何度も矢を放ち、少しした後ようやく的に当てることが出来た。それを見届けた俺は隠れるのをやめることにした。
「よしっ」
「戻ったよー」
「おかえりなさい。どうですか、私の腕前は」
「しっかり的に当たってるねー。これならエリーゼちゃんに教えることも大丈夫そうだね」
「私は魔法が凄いだけの魔女ではないんですよ」
そう言って胸を張るイレイナ。これは面白い話のネタになるな。
次の日。俺はエリーゼちゃんが家を出てくるのを確認してからドアをノックする。
「はーい。あっ、お兄ちゃん!」
「迎えに来たよ。じゃあ行こうか」
「うん!」
俺たちは服屋を訪れ、ミリーナちゃんに服屋の店長を紹介する。
「この人が店長さんだよ」
「よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げるミリーナちゃんに服屋の店長はにこりと笑う。
「それではミリーナちゃんのことよろしくお願いしますね」
「ええ。任せて頂戴」
「お兄ちゃんが教えてくれるんじゃないの?」
「最初はそうしようかと思ったけど店長さんが譲らないって聞かなくてね」
「そうよ!今まで手を差し伸べてあげられなかった分の手伝いをしてあげたいの」
「店長さん……ありがとう!」
それから俺たちは店長の指示通りに働くことになった。俺は他の店員と同じように接客をし、ミリーナちゃんは働くと言っても店長に教えてもらいながらある物を作るといった感じだった。
昼になる前まで俺たちは服屋でお世話になり、時間になったら今度はレストランに向かった。
レストランでも同じようなやり取りをし、ミリーナちゃんは店長に教わりながら料理の練習、俺はウェイターとして接客をしながらたまにミリーナちゃんの様子を見に行くようにした。
厨房では丁度一つ目の料理が完成したらしく、ミリーナちゃんの目の前にはスープが入った皿が置いてあった。
「ミリーナちゃん、調子はどうだい?」
「今までお姉ちゃんと一緒に作ってたけど一人で料理を作るのって難しい!」
難しいと言いながらもミリーナちゃんは楽しそうに笑っていた。
俺は彼女の頭をなでる。
「そうだね。けど食べてくれる人のことを考えると苦にならないでしょ?」
「うん!」
「一つ良いことを教えてあげよう。料理を作るときに、食べる人が笑顔になりますようにと愛情を込めるととても美味しくなるんだよ。さてと一口貰いますかね――おや、ミリーナちゃんは既に分かっていたか」
「そうだよ!お兄ちゃんのことを思って作ったんだ!」
俺が一口頂いたスープは、胸の奥が温かくなる味だった。大事なことが分かっている以上、後は経験を積み重ねていけば良いだろう。
レストランの店長は苦笑いをしていた。
「やれやれ、俺から教えることの最後としてとっておいたことだったんだがな。先に言われた上に既に実行していたとは……」
「良いお嫁さんになりそうですね」
「お兄ちゃん、わたしまだ十歳なんだけど」
ジト目で俺のことを見てくるミリーナちゃん。彼女は可愛いから将来は多くの男性からお誘いをいただくだろう。
「ははは、是非とも結婚式には呼んでね」
「もー」
こうして俺たちは暫くの間二つの店で働き続け、エリーゼちゃんがウサギに矢を当てれるようになった頃にはミリーナちゃんの準備も済んでいた。
イレイナから報告を受けた俺は店長にそのことを伝え、ミリーナちゃんを先に家に帰してから二人の店長にお礼を言った。
「今までありがとうございました。故郷にいた時のことを思い出して楽しかったです。俺たちはもう行かなければなりません」
「ああ。元気でな」
「こちらこそありがとねー。それにしてもミリーナちゃんにも挨拶したかったわ」
「そうだな。最後にあの元気な顔を見たかったな」
店長たちはミリーナちゃんと最後に話せなかったのが残念なようだ。どうやらもう二度と会えないと思っているらしい。
「大丈夫です。ミリーナちゃんはまたこの国に来ますよ。今度は仲良しの姉と一緒に」
「そうだな。その時は美味しい料理でも振舞ってやるか」
「ええ。二人にピッタリな服を作っておくわ!」
「それでは俺はこれで失礼します」
店長たちに手を振ってから俺は全力で山の中にある家まで走った。
既に何度か訪れて掃除をしていたので家の中は綺麗な状態だった。よし、問題はなさそうだ。
俺は暖炉に薪をいくつか放り込んでから火をつけ、イレイナたちが来るまで椅子に座って休んでいることにした。
そして君たちが来た。
●
「あの国の人が私たちのことを……」
「さて、何か質問があるかな?」
ミリーナちゃんが料理を作ってる間に、俺の向かい側の椅子に座っているエリーゼちゃんにこれまでのことを説明していた。
「ウェイターさんがミリーナにいろいろしてくれたのは分かったけど、ミリーナが料理以外にしたかったことって何?」
「良い質問だね。これについて今は――」
答えられないと言おうとした瞬間にミリーナちゃんが料理を運んできてくれた。
「お待たせ!」
「何作ったの?」
「クリームシチュー!」
「ミリーナの好物だね!美味しそうな匂い!」
エリーゼちゃんの言う通り、にんじんやイモ、ウサギの肉が入ったクリームシチューからは美味しそうな匂いがしてきた。レストランで学んだことは十分に活かせてるな。
「さて、さっきの話の続きをする前にミリーナちゃんが作ってくれた料理を食べることにしようか」
全員お腹が空いているらしく、反対の声は上がらなかった。
シチューが入っているのとは違う皿にパンが乗せられていたが、まずはシチューをそのままスプーンを使って一口食べる――うん。
「美味しい!」
「本当?よかったー」
「まさかミリーナが一人で料理できるようになってたなんて驚いたよ」
「わたしも力になりたかったからね!」
目の前で行われる中の良い姉妹の会話に俺はほっこりとしていた。
「ところで私が弓矢の練習をしているところを見てたんですね」
隣の椅子に座っているイレイナが聞いてくる。エリーゼちゃんのために弓矢の練習をしていたことを俺が暴露したことを根に持っているようだ。
特に誤魔化すつもりもないし正直に答えよう。
「うん、見てたよ」
「どのあたりからですか」
「数年ぶりとは言え腕前には自信があったんですけどーって言う前からだね」
「最初からじゃないですか。あの後エリーゼさんから練習していたことを何度も聞かれたんですからね」
「いやー俺もエリーゼちゃんと話してみたくなってさ。丁度良いネタがあったからつい言っちゃった。ごめんね」
「何がついですか。そんな風に謝られても許しませんよ」
流石にこんな謝罪じゃ許してもらえないようだ。と言っても声の感じからして本気で怒ってるわけじゃないようだ。
俺は自分の皿に乗っているパンを一つイレイナの皿に乗せた。どうなる?
「許します」
許された。
「ごちそうさまでした」
料理を全て食べ終えた俺は先ほどの話の続きをすることにした。タイミング的にも今が丁度良いはずだ。
「さて、美味しい料理も食べたことだし話の続きだね。ミリーナちゃんが料理の他に何がしたいと言ったか――その答えを今から見せてあげようか。ミリーナちゃん」
「うん!」
ミリーナちゃんが自分のカバンから取り出したのはマフラーだった。
「マフラー?」
「お姉ちゃんが狩りに出かけてるときに寒くなって欲しくないからわたしが編んだの!少しだけ形が変になっちゃったけど」
『わたしは一人で料理が出来るようになりたい!それとお姉ちゃんのためにマフラーを作ってあげたい!』
そう、ミリーナちゃんは姉のためにマフラーを上げたいと言っていたのだ。店で買うのではなく、愛情が籠った手作りのだ。
まだ初心者であるミリーナちゃんが編んだマフラーは端と端で太さが違っていた。
しかしエリーゼちゃんはそんなことを全く気にせずに受け取ったマフラーを抱きしめていた。
「ううん、全然変じゃない。ありがとうミリーナ、大事にするね」
「試しに巻いてみてよ!」
ミリーナちゃんに促され、マフラーを首に巻いてみるエリーゼちゃん。
「どう?」
「似合ってるよお姉ちゃん」
「俺も似合ってると思うよ」
「良い物を貰いましたね」
「そうかな。えへへ」
少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑うエリーゼちゃんと、姉にプレゼントを渡せて喜んでいるミリーナちゃんの姿を残すために俺はカメラで写真を撮った。
●
エリーゼちゃんとミリーナちゃんが家に戻ってからも俺たちはしばらく彼女たちと一緒に過ごした。二人とも一人前に近付いたが、完全に一人前になったわけではなかったからだ。
晴れた日の雪景色の中を走り、エリーゼちゃんや俺が狩りをして、ミリーナちゃんとイレイナが家で料理や編み物をしてみんなで一緒にご飯を食べる。たまに当番を入れ替えたり、家事についてや傷や病気に効く薬草の知識なんかを教えたりしながら楽しく暮らしていた。まるで家族みたいだなと思った。誰も口にすることはなかったが、きっと皆そう思っているのではないだろうか。
何の変哲もない日常の繰り返しだった。刺激が無くてつまらないと思う人がいるかもしれないが、俺はそうでもなかった。
俺はこの日常が好きだ。好きな人たちと一緒にゆっくりするのが好きだ。子どもが成長していく様子を見るのが好きだ。
師匠の下で強くなった俺だが、どうやらこの力を使わないことの方が好きなようだ。同じく師匠の下で修行した父さんが自分は結婚してから弱くなったけど後悔はないと言っていたが、ようやく、その意味が分かった気がする。
今度父さんと母さんにこのことを手紙で伝えよう。息子の成長に喜んでくれるだろうか?いや、考えるまでもなくあの二人なら喜んでくれるだろう。
二人が一人前になるまであと少し、俺はこの幸せに身を委ねることにした。
エリーゼちゃんが狩りを、ミリーナちゃんが家事を完全に覚えたところで彼女たちは両親の墓の前で口を開く。
「私たち、もう一人前だよ」
「わたしたち、二人の分まで立派に生きていくよ」
その言葉にはいろいろな感情が含まれているように思えた。
「じゃあ私たちはもうお役御免ですね」
「お役御免ってわけじゃないけど……でも、今までありがとう。イレイナさん、カイさん」
「どういたしまして。二人とも、これからも頑張ってね」
「お兄ちゃんたちもね」
「……寂しくなるなあ」
「でも、二度と会えないと決まったわけじゃないよ」
「わたしの結婚式には必ず来てね!」
「もちろん。だから良い人を見つけるんだよ」
「カイさん、ミリーナとそんな約束してたんだ」
「エリーゼさんも呼んでくださいね。私も楽しみにしてますから」
「うん。呼ぶよ、絶対」
「君たちはこれからどうするんだい?」
俺の質問にエリーゼちゃんとミリーナちゃんは一瞬見つめ合った後、
「私たちね、しばらくしたら、またあの国に戻ってみようと思うの」
「わたしたちに優しくしてくれた人たちにお礼も言えてないからね!」
「私はあの国の人たちのことを一方的に敵視しちゃってたから謝罪が先だけど。と言っても、私はまだ決心がついてないし、両親にちゃんとお別れを済ませてから。あとしばらく――雪がとけるまではここで住み続けるよ」
「そっか。これからも君たちの前には壁が立ちはだかるだろうけど、君たちなら大丈夫。そうだね?」
「うん!わたしたち二人ならどんな困難でも乗り越えられる!」
その時、俺たちの背後で木の枝から雪が落ちた。春が近付いているのだろう。
「まだ時間はかかりそうですね」
イレイナの言葉に二人はかぶりを振って微笑んだ。
「「もうすぐだよ」」
――パシャリ。
これが今回撮った最後の写真となった。
〇
一度国に戻って役人さんに依頼が達成されたことを報告してから国を出ました。
「楽しかったねー」
「そうですねー」
エリーゼさんたちの写真を眺めながらカイが言ってきました。今までで一番写真を撮ったんじゃないでしょうか。
「しかしイレイナが報酬を全く受け取らなかったのは驚いたなー。少しくらいは貰うと思ってた」
「私だってそんな日もあります。カイだってミリーナさんから報酬を貰ってないじゃないですか」
「俺は貰ったよ。これだよこれ」
彼はそう言って手に持っていた写真を揺らします。
どうやらカイはミリーナさんと一緒に働いていたお店から給料が出たけど、それを全部エリーゼさんたちに渡したそうです。
彼も人のことを言えませんね。
「…………」
私の首を温めてくれているマフラーに触りながらカイのことをチラリと見ます。
このマフラーはカイが編んでくれたものです。彼は私が気付いてないと思っているようですが、そんなことはありません。
大切な幼馴染が編んでくれたこのマフラーを大切に使い、旅が終わった後に気付いてたことを教えてあげようかと思っています。
一体カイはどんな表情をするのでしょうか。きっと驚いた後に喜ぶんでしょうね。分かりやすい人。でもそんな彼だからこそ、見たいと思うのです。
「ふふふ」
「ん?どうかした?」
「なんでもありません」
――その時が楽しみです。
エリーゼとミリーナには支え合って幸せに暮らしてほしい……。そんな思いから、今回はこんな形になりました。