宿屋から出て王宮の近くの広場までやってきたところで見覚えの三人の姿が見えた。
一人は俺と一緒に旅をしているイレイナ。一人は昨日イレイナに話しかけていた魔女。そしてもう一人は――
「サヤちゃんか。久しぶりだね」
「あ、カイさんじゃないですか。本当にまだイレイナさんと一緒に旅をしていたんですね!イレイナさんはぼくのなので邪魔しないで下さいね」
「私はあなたのものじゃないです。変なこと言うのやめてください」
いろいろ言いたいことはあるけど、俺は彼女の胸についている星をかたどったブローチに目をやった。
「どうやら無事に魔女になれたようだね。おめでとう」
「ありがとうございます。魔女名は炭の魔女です。灰の魔女に近いのにしてもらいました」
「なるほど、良い魔女名だね。ところで――」
三人で何をしてたんだい?と聞こうとした時、俺の隣にいたバトラさんは突然声を上げた。
「魔女エイへミア!貴様のせいでワシまで追放にされてしまったではないか!どうしてくれる!」
『ひいい!ごめんなさい!ごめんなさい!』
バトラさんからは今までの礼儀正しさが消え、スケッチブックを持った魔女――エイへミアさんに対して怒りを露わにしていた。
「バトラさん、彼女のせいでクビになったとはどういうことですか?」
「む、おほん!失礼。この魔女エイへミアはワシと同じで元々王宮で働いておりましたが、彼女が剣に魔法を掛けたことでこの国では嘘がつけないようになってしまったのです」
「元凶ってことですか」
「そういったところです。どうやら自分の声と魔力を代償にして魔法を使ったらしく、今は声が出せないし魔法も使えない役立たずになったので追放されました」
『ちょっと、役立たずは言いすぎじゃないかしら!取り消して!事実だけど』
エイへミアさんはスケッチブックを勢いよく掲げて抗議しているが、最後の一言で意味が無くなっている。
「それで、イレイナたちは何をしてたんだい?」
「……丁度良いですね。サヤさん、例の物を」
「はい!」
俺はサヤちゃんから薄汚れた紙を受け取った。なんでこんなに汚れてるんだ?まあいいや。
「なになに……。『流砂の魔女エイへミアの追放を撤回する。並びに、灰の魔女イレイナ、炭の魔女サヤの入城を許可する』へー、そうなんだ」
「おや、ワシはそのような話聞いておりませんが……」
「多分バトラさんが追放された後に決まったことなんじゃないですかね。ついでにバトラさんも戻してもらえるように頼むチャンスじゃないですか」
「それはそうですがこの紙にはワシたちの名前が書かれてないから王宮には入れないでしょう」
「んー、それなら中に入れるイレイナたちに頼みませんか」
「?どういうことですか?」
「昨日のことなんだけど――」
俺はイレイナたちに昨日バトラさんに助けてもらったことや、彼の境遇について説明した。
話を聞いたイレイナは合点がいったと感じに頷いた。
「事情は分かりました。それなら時間を少しだけ下さい。あなたたちも入れるようにしてみせましょう」
「出来るの?」
「私を誰だと思ってるんですか?」
「最高の幼馴染」
「正解です」
「ぼくもイレイナさんのこと最高だと思ってますよ!幼馴染って良いですよね。イレイナさん、ぼくと幼馴染になってください!」
「幼馴染って後からなれるものなんですか?一先ずその紙を返してください」
「はいよ」
イレイナは俺から紙を受け取ってどこかへ歩いて行った。
●
「カイさんってイレイナさんと付き合ってるわけじゃないんですよね?」
イレイナが姿が見えなくなった後サヤちゃんが尋ねてきた。
「ん?まあそうだね。告白もしてないよ」
「カイさんって男性が好きなんですか?」
「いや、俺の恋愛対象は異性だよ」
「ならどうしてイレイナさんに告白しないんですか?ぼくならしますね!というかもう求婚してます。もしかしてイレイナさんに魅力がないとか言わないですよね?」
求婚したんだ……。それは置いといて、サヤちゃんが聞きたくなる理由も分かる。イレイナみたいな魅力的な女性は中々いないからね。そんな彼女と一緒にいるのに告白しない俺が同性にしか興味ないのではと思うのも無理もない。
「イレイナの魅力は誰よりも分かってるよ。そして告白はするよ、将来」
「それっていつの話ですか?」
「俺たちの旅が終わった時だね」
「先が見えませんねー。そんなに悠長にしてたらぼくが先にイレイナさんを貰っちゃいますよ」
「最終的にイレイナがサヤちゃんを選んだときは諦めるけど俺は負けるつもりなんてないよ」
「ほう、つまり勝負ってことですね?」
「まあそんな感じだね」
「ぼくが勝ったらあなたには置物になってもらってぼくとイレイナさんのイチャイチャしてる姿を見てもらいますからね」
「え、何それエグイ……。もしかして俺のこと嫌い?」
「そんなことないですよ。これでもぼくはカイさんにも感謝してるんですから」
「感謝してる相手にすることがそれってどうなのさ……」
好きな女性が他の人とイチャイチャしてる姿を見せられるとか拷問じゃないか。長々と見せられたら舌を噛み切る自信がある。そうならないように頑張らないとな。
とはいってもこれ以上俺に何が出来るんだろう。もっと男としての魅力を上げるとか?でも人によって魅力的だと思う部分は違うし、本人に聞くのも露骨すぎて引かれないだろうか。
今は特に思いつかないし別の話題について話すとしよう。
「そういえばサヤちゃんは魔法統括協会に入ったんだ」
「ええ。旅をしながらお金を稼ぐにはこれが一番手っ取り早いかなって思いまして」
「それなら花の国の花畑ってどうなったか聞いてたりする?」
「うーん、聞いたような聞いてないような……。師匠なら知ってると思いますよ」
あの花畑がどうなったか知りたかったが、魔法統括協会の支部はいろんなところにあるから仕方ない。その師匠とやらに会ったら聞くことにしよう。
「なるほど。ところで魔法統括協会に入ったってことはここに仕事をしに来たってことかい?」
「そですよー。今回の依頼は――」
「お待たせしました」
「あっ、イレイナさん!おかえりなさい!」
サヤちゃんが依頼内容について話そうとしたところでイレイナが戻ってきたので話は一先ず置いといて王宮に向かうことにした。
●
「失礼。何用ですかな?ここから先は国王様の許可なしでは入ることは出来ません」
王宮の門の前まで来たが、そこにいた門番に止められた。
「あっ!あなたはバトラ殿!あなたは昨日で追放された身です。一体何用でしょうか?」
「ワシは――」
「こほん。門番さん、この紙に書かれていること、分かりますか?」
バトラさんが門番からの質問に答えようとしたがサヤちゃんが一歩前に出て遮り、先ほどイレイナが持ってきた紙を掲げていた。
その紙を見た門番が本当かどうか怪しんだがサヤちゃんが「ここは正直者の国だから嘘なんてあるはずがないじゃないですか」と言ったことで俺たちは門を潜り抜けることが出来た。
「やー。上手くいきましたね。流石イレイナさんです」
「それはどうも」
「ん?」
城内を歩いている時、イレイナとサヤちゃんの会話に俺は疑問を覚える。
「上手くいった?どういうこと?」
「さっき見せた紙は私が書いた偽物です。私たちの目的は国王様の剣を破壊することです」
イレイナはエイへミアさんが剣に魔力と声を犠牲にして魔法を掛けたことでこの国では嘘をつけなくなったこと、魔法を使えなくなった彼女が王宮から追放されたこと、そんな彼女が剣を破壊してほしいという依頼をサヤちゃんが受けたことを説明してくれた。
「バトラさん、もしかして俺たちヤバいことしてるのでは……?」
「死刑になるかもしれませんね」
「大丈夫ですよ、私たちが国王様の剣を破壊して嘘は悪いことばかりでないと分かってもらえれば許してくれるはずです」
「楽観的な……」
『よく考えてみればわたくしの追放が撤回されるかも怪しいわね』
下手したら俺たちは指名手配犯だ。ここに来る前にしっかりと話を聞いておくべきだったか……。
もう起きてしまったことは仕方ない。ならば俺も剣を破壊することに協力することにしよう。
「分かった、俺も手伝うよ。バトラさんもそれで良いですか?」
「ワシは構いませんよ。国王様には言いたいこともありますので」
「カイがいれば百人力です」
「イレイナさん!ぼくは?」
「あなたの実力を知らないのでなんとも……」
「そんなー」
『わたくしは戦えないから最後尾で隠れるわね』
どや顔しながらスケッチブックを見せてくるエイへミアさん。何故そこまで自信満々なのだろうか。
「ところでバトラさん、国王様の居場所ってどこだか分かります?」
「恐らく玉座の間でしょう。国王様は暇な時はいつもそこでワシと話をしておりました」
「国王様に暇な時間とかあるんですね。ところで玉座の間はどこですか?」
「こちらです」
バトラさんは俺たちが今通り過ぎようとした扉を指しました。
「何だ騒がしい。一体何事――」
「あ」
玉座の間から出てきたのは昨日演説していた国王。
あっちから来ちゃったかー。
「ばれたなら仕方ありません。国王様、とっととその剣を手放してください」
イレイナが杖を取り出して国王へと向けて詰め寄り、玉座の間へ押し戻す。
「侵入者だああああああああああああああっ!」
「そこ!」
そう叫ぶ国王はあまりにも隙だらけでむしろ罠なんじゃないかと思ったが、俺は剣を取り出して瞬時に国王に近付き、右手に持っていた剣を叩き切った。
「くそダサい剣が!」
「やっぱり国王様もそう思ってたんですね……」
「これから私と国王様が一対一の攻防を繰り広げ、最後は私の機転によって勝利を収める流れじゃありませんでしたか?何私の出番を奪ってくれちゃってるんですか」
破壊された剣からは魔力が一気に放出され、青白い光となってエイへミアさんの体に吸い込まれていった。イレイナの言っていることはよく分からない。
その光景はなかなか綺麗なもので、写真を撮ってもう少し眺めていたかったのだが国王の声を聞いた兵士たちが駆けつけてきた。
このまま何もしなければ俺たちは捕らえられてしまうだろう。
「カイ、サヤさん。国王様の説得は私たちがやります。あなたたちは時間を稼いでください」
「了解!」
「任せてください!」
俺は自分の剣を戻してから木刀を取り出し、サヤちゃんは杖を構えた。バトラさんとエイへミアさんはイレイナと一緒に国王の説得をするようだ。
「さて、サヤちゃん。魔女になった君の力を見せて頂戴」
「カイさんこそ、イレイナさんと一緒に旅をしているあなたの実力を見せてくださいよ!」
「極力怪我はさせないようにね」
「当然です」
兵士たちを俺が木刀で気絶させたりサヤちゃんが魔法で吹っ飛ばしたりしていた。
「強いね。流石魔女様ってところかな?」
「カイさんだって強いじゃないですかー。正直舐めてました」
ゴウザン師匠のところで修行した俺と、魔法使いの頂点であるサヤちゃんにとっては一国の兵士なんて取るに足らないのである。
お互いの背中を守るようにして戦う俺たちに兵士たちは攻めあぐねていた。
とはいえ兵士の数が多いのでなかなか終わりが見えない。
そろそろ説得を終えてくれないかとイレイナたちの方を見た。
「なら何だというのだ……!我が、我が間違っていたとでも言うのか……?」
「いいえ、間違っておりませんよ。国王様は――ただ、ほんの少し、自分の気持ちに正直すぎただけです」
「なのでこれからはワシたちと一緒に嘘との付き合い方や使い方を学んでいきましょう」
イレイナはこちらの視線に気付き、頷いた。どうやら終わったようだ。
●
翌日。国王は国民の前で半年もの間、嘘がつけなくさせてしまったことを謝罪した。国民たちの反応は淡白なものだった。きっと国民たちも国王が国を良くしようとして行っていたことなのは演説を聞いて分かっていたのだろう。
もし嘘がつけないままであったのなら罵詈雑言が飛んできていたのかもしれないが、今は本音を隠して嘘でも国王を励ますことが出来る。今の国王に必要なのは本音よりも嘘の方なのかもしれないな。
「それで今日俺を呼んだのは報酬についてで良いんですかね、バトラさん」
「はい。カイ殿にはお世話になりましたのでとっておきの物を用意させていただきました」
俺はバトラさんに呼び出されて王宮まで赴いていた。イレイナには国の門か外で待ってもらうことになっている。
「そういえば門番から聞きましたよ。バトラさん、ここに住んでいたんですね。もしかして一昨日って野宿とかしてたんですか?」
「その通りです。ワシがあの宿屋に訪れたのはその日泊まる宿を探していたからです。と言いましてもお金が足りないことに途中で気付いて野宿することにしましたが」
「言ってくれればお金くらい貸しましたよ?」
「カイ殿に頼りない姿は見せたくありませんでしたからね」
「はあ……」
この人俺が思ってるよりお茶目なのだろうか。
「昨日はなかなか宿屋に来ませんでしたけど何してたんですか?」
「昨日はずっとあなたに渡す報酬を探していたので少々遅くなってしまいました」
「報酬を?」
探すってどこからだ?どこかの店で売ってるものなのだろうか。
「こちらはワシのおすすめの一品でございます」
彼が俺に渡してきたのはどこかで見たことがあるような絵柄の表紙が描かれた本だった。嫌な予感がしてページを捲ってみると、子どもに見せられないような内容の絵が描かれていた。
「…………あの、これは……?」
「そちらはワシのお気に入りの先生が書いた本でしてね。その先生の名前は『ユーノ』と言います」
「知ってます。俺の師匠もその人の本をよく読んでましたよ……」
「ほう、その方は良い目をしていますね。是非一緒にユーノ先生の作品について一晩中語り合いたいものです」
まさかこんなところで師匠と同類の人物に会うことになるとは……。人は見かけによらないんだなあ……。
「申し訳ありませんがこの本はいりません。あなたが大切に保管しておいてください。保管せずに使用するのかもしれませんが」
「そうですか……。しかしワシはもう同じものを三冊持っているのでいつも通り国王様のベッドの下にでも入れておきます」
「……いつも国王様のベッドの下にエロ本を入れてるんですか?」
「はい。国王様が隠していたものとは違うものにするのがワシの趣味でして」
最低である。人の隠していたエロ本を勝手に見た挙句、自分の好きなものに入れ替えるとか人道に反しているのでは?
「近頃国王様もワシと同じ趣向のものを買うようになりましてな、時間があればユーノ先生の本をじっくりと読んでいます。同士が増えて嬉しい限りです」
「…………そっすか」
「今まで国王様にはワシがやっていることを隠していたのですが、それが原因で国王様に嘘をついたことがあるか質問された時に『はい』と答えてしまったのですよ。ほっほっほ」
「…………」
この人は別に助ける必要なかったのかもしれないな。国王が不憫で仕方がない。
このままでは国王が師匠のようにエロ本に憑りつかれて結婚できなくなるかもしれない。そこは彼に恋してるらしいエイへミアさんに頑張ってもらうしかないか……。
「はあ……。なんか疲れました。俺はもう行きますね」
「お待ちください」
立ち去ろうとする俺を呼び止めたバトラさんは袋を渡してくる。中身を見てみると金貨が十枚ほど入っていた。
「報酬はエロ本だったのでは?」
「ほんの冗談ですよ」
「そうですか、ありがとうございます。冗談ってのは国王様の話も入ってますよね?」
「いえ、そちらは本気ですが」
「………………」
●
王宮を出てから真っ直ぐにイレイナがいる国の外に向かった。そこにはイレイナの他にサヤちゃんもいた。
「あ、カイさんじゃないですか。あれ、なんか疲れてます?」
「まあちょっとね……。世の中にはヤバい人もいるんだなーって思っただけだから」
「ところでカイさん、イレイナさんとぼくを見て何か気付きません?」
「ん?」
俺はイレイナとサヤちゃんを交互に見る。黒いローブにお揃いの三角帽子にネックレス――ああ、そういうことね。
「お揃いのネックレスをしてるね」
「そうなんですよ!これはぼくがイレイナさんと再会した時のために買ったものなんですよー」
「イレイナが誰かからプレゼントを貰うのは珍しいね」
「たまには良いかなと思っただけです」
「良い物貰ったね」
見た感じそれなりの値段がしそうなネックレスだ。サヤちゃんが本気さを感じる。
「そうだ、カイさんにも渡すものがありました」
「俺に?」
「魔法使いの国にいた時に赤い髪をした男の子から預けられたんです。どぞ」
「エイデンから?」
サヤちゃんがカバンから封筒を取り出した。封を開けると中には一通の手紙が入っていたので読んでみる。
『カイ先生へ
先生がこの国を去ってからも俺は魔法の練習や体を鍛えることを続けています。魔法は他の子たちにも負けないくらいには上達し、体の動かし方も徐々に良くなってきています。
僕が先生と初めて会った時に虐めてきた子たちとも仲良くなることが出来ました。最初は避けられていたのですがこちらから何度も話しかけていると、彼らは泣きながら謝ってきました。どうやら元気がなかった頃の僕を元気付けさせたかったけど、どうすれば良いか分からなかったから罵ったり囲んだりしていたそうです。その後自分たちのしたことが悪いことだったと気付いて罪悪感を抱き、僕を避けていたそうです。
僕が気にしてないことを伝え、友達になろうと言うと彼らは喜んで友達になってくれました。今はみんなで仲良く遊んだりしています。
先生のお陰で今の僕があります。なので手紙という形ではありますが改めてお礼を言わせてもらいます。
ありがとうございました。
俺も将来は先生みたいなカッコいい男性になりたいです。これからも頑張るので応援しててください。
カイ先生の弟子 エイデンより』
そうか、エイデンはあの子たちとも仲良くなれたのか。よかったよかった。
「サヤちゃん、ありがとう。この手紙は俺の宝になるよ」
「そうですか?なら良かったです!ではこれで用が全部済みましたのでぼくはもう行きますねー」
「そっか。久しぶりに会うことが出来て楽しかったよ」
「こちらこそです。カイさん、ぼくは手強いですよ!」
「ははは、そうだね。俺だって勝つための努力を続けるからね」
俺たちが何を言っているのか分からないイレイナは首を傾げる。
「何の話ですか?」
「これはぼくとカイさんの勝負なのでイレイナさんは気にしないでください。あ、でもぼくのことは気になって夜も眠れないくらい気にしてくださいね!」
「別にあなたのことを気にしないので今夜も熟睡します」
「ま、サヤちゃんは俺たちにまた会わない限り勝ち目はないよ」
「はい、なのでまた会いましょう!約束ですよ」
「そうだね、また会おう。俺は約束を破らないよ」
俺はサヤちゃんに頼んで写真を撮らせてもらい、それからほうきで飛んでいく彼女を俺たちは手を振って見送った。
「俺たちも行こうか」
「はい」
●
正直者の国から離れた平原を俺は自分の脚で、イレイナはほうきで駆け抜けていた。先ほどまでは振り返ると海が見えていたのだが、今はもう見えない。少し寂しい気もするが、新しい出会いへのワクワクの方が強い。
「嘘がつけないってのはなかなかに楽しかったなー。サヤちゃんも立派な魔女になってたし」
「そうですね。サヤさんに関しては数日間とはいえ私が教えたので当然です」
サヤちゃんは私が育てました、みたいな感じにどや顔をしているイレイナ。サヤちゃんの魔女見習い時代の師匠の方がいろいろ教えているだろうけど、サヤちゃんの様子を見る限りイレイナの存在が大きいのは確かなのであながち間違ってるわけではないだろう。
イレイナは恥ずかしがって本人の前で言うことはないだろうが、サヤちゃんがこの発言を聞けば大喜びだったろう。
「しかし、昨日のカイとサヤさんのコンビネーションは見事でしたね」
「まあね」
「……少し羨ましいですね」
「ん?どうしてだい?」
「私はカイに守られることはあっても、カイを守ったことはない気がするので……。いつもあなた一人で相手の攻撃を捌いていて私が守る必要がないんですよ。なんだか頼られてないのではと思ってしまいます」
うーむ、俺としてはイレイナには安全な場所にいてもらいたいからそれで問題ないと思うんだけどな。まず魔法使いは前に出ないで後ろから魔法を撃ってる方が強いだろう。
「俺はイレイナのこと頼りにしてるからね?イレイナに守ってもらうほど危険な状況になったことがないだけだよ。まあ今回サヤちゃんに守ってもらったのは俺の問題なんだろうね」
「カイの問題?どういうことですか?」
「……うん、この話はこれで終わりにしようか」
「えー、気になるじゃないですか。教えてください」
「教えませーん」
「おーしーえーてーくーだーさーいー」
「いーやーだーよー」
イレイナが俺に近付いてスーツを引っ張ってくるが気にせずに前に進んでいく。
恥ずかしくなってしまったので言うのをやめてしまったが、俺はイレイナを守るときだけいつもよりも全力を出せている気がするのだ。当然、それ以外の時は全力を出していないというわけではない。
大好きな女性には傷付いて欲しくない、男としてそう思うのは当たり前だ。俺の命を掛けてでもイレイナを守りたいと思ってる。とはいえそれで俺が死んだりしたら優しい彼女は悲しむだろうから危険なことにはなるべく近寄らないようにはしているのだが。もしまだ嘘をつくことが出来ないままだったら俺はこの話をしていたかもしれない。
たまにイレイナに俺の本音を全て伝えたくなる時もあるが、心を強く持って打ち明けないようにしている。正直者の国では話してしまわないように別の本音を用意したり考えないようにしたり、逆に質問したりと大変だった。
少し疲れはしたが、楽しいことも多かった。以前イレイナが魔法を教えた女の子との再会、真っ直ぐな心を持った国王、そんな国王のために魔力と声を代償に魔法を使った魔女、人格者のように見えたが実はエロ本が大好きで主のベッドの下に仕込む執事。そんな彼らとの出会いや最後に貰ったエイデンからの手紙。こういった出会いがあるから旅はやめられない。
さて、次の国に着いたらエイデンに手紙でも書くとするかな。
「いい加減教えてください」
「はいはい、いつか教えてあげるからねー」
「むう……」
今はまだ俺の奥底にある本音を伝えることはないだろう。
だけど旅が終わったら、お互い本音を全部語ろうか。
サヤの口調が掴めてない……。後で違和感を感じたら直していこうとは思ってます。
ただ原作通りに進めるだけではカイがいる意味がないので嘘がつけなくなったことで追放されたオリキャラを追加し、国王との戦闘が起きる前に剣を破壊することにしました。イレイナの出番を奪ってるけど、イレイナには危ない目に会って欲しくないカイが国王とタイマンさせるわけがないので必要な犠牲でした……。
サヤがカイのことをライバル視することはあっても本気で嫌ったりすることはないと考えてます。優しい子ですから。
ゴウザンが愛読してるエロ本の作者の名前が出たのは初めてですね。今まで出てこなかったのはただ単に決めていなかったからです。