「お悩み相談どうですかー。他人に打ち明けることが出来ないあなたの悩み、今なら無料で聞きますよー」
とある国の道の端の方で『お悩み相談受付中!』と看板を立てて椅子とテーブルを用意して座っている男性がいた。
彼は旅人であり、いつも一緒に旅をしている女性がこの国で休暇を取ると言ってどこかへ行ったので暇つぶしとして他人の悩みを聞きたくなったのだ。
悩みをただ聞くだけではなく、彼が出来る範囲でのアドバイスをしようとしたのだが、先ほどから来る人々は皆一様に働きたくないと言ってくる。この国はとても平和なのだが国民の頭の中まで平和になっているようで、働く意欲の薄い者たちばかりであった。
アドバイスをしようにも国民たちは男性の話を一切聞こうとしないので男性は困っていた。
さて、そんな自分の想いを本人に打ち明けることはしないのに他人の悩みを聞こうとしている男性は一体誰か。
そう、俺です。
●
イレイナは普段と違う格好をしているのだが、俺はいつも通りスーツを着ていた。俺は極力お金を使わないようにしているのと、師匠から貰ったスーツと執事服が良すぎるため他の服を着ることは滅多にない。
この国に来て少し経ってからイレイナに「しばらくこの国でゆっくりしましょう。しばらく一人になりたい気分なのでカイはどこか適当にそこら辺でもぶらぶらしててください。宿も各自で取るようにしましょう」と言われてしまった。
俺と一緒にいるのが嫌なのか聞いてみたところ、「そういうわけじゃないですが、たまには一人にならないとダメ人間になってしまいそうなので……」と言っていた。意味がよく分からない。
まさか俺に会わせたくない恋人でも出来たのか考えたが、初めて来たこの国に知り合いがいるはずないのでその考えは捨てた。全力で。
街で欲しいものがあったら買えるようにと金貨を十枚くらい渡そうとしたのだが全力で拒否されてしまった。悲しい。
ショックを受けているうちにイレイナは喫茶店に行ってしまった。急に休暇を与えられても俺は特にやることもなかったので、先に宿を取ってから暇つぶしとしてこの国に住んでいる人たちはどんな悩みを持っているか悩み相談という形で聞いてみることにしたのだった。だったのだが……
「働いたら負けかなと思ってる」
「国民全員が働いてたらこの国は完璧な国となってしまうだろう?しかし物事には一つくらい欠点があった方が美しいと僕は考えていてね。だからあえて働かないでいるのさ」
「お金は欲しいけど働きたくない」
「俺が働かないのはこの国が悪い」
この国には働きたくないと言う人が多いのである。悩み相談という名の働かない宣言ばかりで少しうんざりしていた。というか全員仕事をサボって来ているようだった。
「えっと……休みの日までは頑張って働いてみませんか?」
などと休みになったらもう働かなくても良いのかと聞きたくなるようなアドバイスを彼らにした。したのだが……
「最初から働かない方が良くね?」
「君の言うことには美しさがないね」
「働かないで貰うお金が欲しい」
「国は国民の面倒を見るのが役目だから俺は働かなくても良いんだ」
そんな戯言を言ってから彼らは立ち去ってしまった。
いや、最初から働く気がない人を働かせるようにアドバイスをするって難しすぎないか?もっとこう、恋の悩みとか将来への悩みとかいろいろあるんじゃないかな。
俺が期待していた悩みとはかけ離れたものばかりで嫌になってきたので次で最後にしようかな……。
「はあ……」
「まだやってるかしら?」
これまでの客のことを思い出して下を向いて溜息を吐いたタイミングで最後の客が来た。
顔を上げて客を見てみると、年齢は二十代後半くらいだろうか。スーツを着てメガネを掛けている姿はまさに仕事人って感じであり、これなら期待できそうだ。
「はい、やってますよ」
俺は目の前の女性が悩みを相談しやすいように笑顔を作って返事をする。
「…………」
俺の顔を見た女性は何故か黙ってしまった。
ずっとこのままの状態でいるわけにもいかないので俺は声を掛けることにした。
「あのー、どうかしましたか?」
「…………あなた、結構良い顔してるわね」
「えーっと……ありがとうございます?」
理由は分からないが急に顔を褒められてしまったので一応感謝をしておく。知らない人に顔を褒められて嬉しくないわけではないが急にどうしたんだろうか。俺の中でこの人への警戒度がひっそりと上がった。
今の言葉の真意は分からないが、客を立たせたままでいるのは良くないので椅子に座ってもらった。
「それで、あなたは一体どのような悩みを抱えているんですか?」
「私はサボタージュ調査局に勤めているわ」
「サボタージュ調査局……ですか」
「あら、知らないの?」
「俺は旅人でして……。まだこの国に来て日が浅いのであまり詳しくないんですよ」
「旅人なら仕方ないわね。それならば私が教えてあげるわ」
そう言って彼女はサボタージュ調査局について教えてくれた。
サボタージュ調査局というのはその名の通りサボタージュに関して調査をする、この国独自の機関らしい。会社や店で働いている人の出勤管理をし、その中で不審なものを探し出し、吊るし上げることを目的としているようだ。
この国ではサボタージュする若者が多く、国が機関を作る必要があるほど問題は深刻そうだ。先ほどまでの客たちは確実にこの機関の対象者だろう。早く全員捕まってほしい。
「なるほど、サボタージュ調査局については分かりました。ありがとうございます。そこで働いていることがあなたの悩みとどんな関係があるんですか?」
「サボタージュ調査局って休みが少ないし、サボタージュ調査局というだけで若い人たちから恐れられるのよ」
「ふむふむ。簡単にまとめると仕事についての悩みってことですか」
「そんなところかしらね。ちなみに今は休憩時間だけど今日も仕事がまだまだあるわ」
「大変ですねー。けどそれだけ重要な仕事ってことなんだと思います。あなたたちの働きによってこの国の若者が働くことの大切さに気付いたならば、きっと若者たちはあなたたちのことを尊敬するようになるでしょう。今は国の方に休みを増やせないか聞いてみませんか?」
今の俺に出来るアドバイス――アドバイスと言えるのか怪しいが――はこんなものだろうか。
休みが少ないことについてはあまり語れないが、若者から恐れられていることについてはあなたがやっているのは立派な仕事であり、いつかそれが報われる可能性があるってことを提示してあげれば良いのではないかと俺は考えた。ほんの気休め程度ではあるけど、他人からそう言われるってのは案外効くものだ。
「少しは気が楽になったわ。ありがとう」
「こちらこそ興味深い話をありがとうございました」
「……あなた、私に興味はあるかしら?」
ん?いきなり自分のことが気になるかどうか聞いてくるってどういうことだ?
流石に会って一時間も経ってないそんなことは聞くわけないよな……。ということはここで言う『私』とは『サボタージュ調査局の局員』なのだろう。
なるほど、それなら興味があるな。他の国にはない機関の仕事を見るのは良い機会だ。
「まあ、ありますね。あなたのことを近くで見たいですね。一緒にいても良いですか?あ、俺はカイって言います」
「そんなに!?ま、まあ良いわよ……。私はアメリアよ、よろしくね。……よしっ」
メガネをクイっとしてから俺が同行することを許可してくれるアメリアさん。後半の部分は聞き取れなかったが、その声はなんだか嬉しそうだ。
椅子とテーブルと看板を片付けた俺はアメリアさんについて行き、どのように仕事が行われるか見学させてもらうことにした。
アメリアさんはそれなりに上の立場なのか、サボタージュ調査局の局員たちから頭を下げて挨拶されていた。話を聞くところ彼女は局員になってからずっと真面目に働き続けて成果を出しており、他の局員たちの憧れの存在らしい。
そんな見た目のイメージと違わない彼女の仕事ぶりは凄まじいものだった。
「離せ!俺が一体何をしたって言うんだ!!」
「何もしていないからこうなっているのよ。後でお店の方から処罰が下されるので楽しみにしていることね」
「やだー!会社やめたーい」
「それなら何故辞表を出さないのかしら。会社にまだいたいならしっかり働きなさい。自分の意見をはっきりと示せない男性は誰からも好かれないわよ」
「ちょっと今日は体調が……」
「今日で一週間の無断欠勤よ。本当に体調が悪いのなら病院に行って調べてもらうべきよ。あなたたち、この女性を病院に連れて行ってあげなさい!」
こんな感じでアメリアさんはサボタージュをする人たちの言い訳をバッサリと切り捨てて他の局員たちに連れて行かせていた。
最後に捕らえられた男性が「ケッ!そんなんだから男が出来ないんだよババア!」などと言っていたが、アメリアさんは涼しげな顔で聞き流していた。
男性は局員たちに連れ去られ、俺とアメリアさんだけになった。
外も暗くなり始めたので俺はお礼を言って別れてからどこかのレストランで食事をしようかと思いアメリアさんの方を見たが、彼女の顔には元気がなかった。
「そんな顔してどうしたんですか?」
「カイ君……。今年で二十九になる私ってババアかしら?」
どうやらアメリアさんは先ほどの男性が最後に言い放った一言を気にしているようだった。きっと真面目な彼女は男性や他の局員たちにそのことを出さないように取り繕いっていたのだろう。
「あんな言葉気にするだけ無駄です。アメリアさんは素敵な女性だと思いますよ」
「……カイ君、まだ時間はあるかしら」
「ん?ありますよ」
「良かったらうちでご飯を食べない?」
それなら無駄に食費は掛からないだろうから嬉しい誘いだ。だけど急に家を訪れたらアメリアさんの家族に迷惑が掛かってしまうのではないだろうか。
「嬉しい誘いではありますけど家族の方に迷惑を掛けてしまうんじゃないですかね?」
「大丈夫よ、一人暮らしだから」
「うーん、それならお言葉に甘えさせてもらいましょうかね。ただし、一つだけ良いですか?」
「な、何かしら……?」
「アメリアさんは仕事で疲れてるでしょうから俺が料理を作らせてもらいますよ」
「……私が作ろうと思ってたんだけど……良いわよ」
「よし、じゃあ決まりですね。それじゃあよろしくお願いします」
無事に元気を取り戻したアメリアさんは俺を家まで連れて行ってくれた。今まで真面目に働いてきた彼女はそれなりに裕福であるらしく、隣の家よりも少し大きい家に一人で住んでいるようだ。
家に上がらせてもらった俺はキッチンでどんな食材があるか確認し、クリームパスタを作ることにした。
食材を確認している間に楽な恰好に着替えたアメリアさんには椅子に座って待っててもらい、俺は料理をし始める。
何もせずに待ち続けるのは暇だからか、彼女は俺に話しかけてきた。
「良い匂いね。カイ君は料理が得意なのかしら?」
「得意な方だと思ってますよ。レストランでバイトしてたこともありますからね」
「それは楽しみね」
それからも雑談をしながらクリームパスタを完成させ、アメリアさんが待っているテーブルに運んだ。
きのことほうれん草が入ったシンプルなクリームパスタではあるが、美味しく作れた自信はある。
「わあ……」
「お待たせしました。では、いただきます――あ、飲み物」
そう言って食べ始めようとしたが、飲み物を用意するのを忘れていたことに気付いた。
俺は立ち上がって取りに行こうとしたが、アメリアさんが止めた。
「私が持ってくるわよ。カイ君はワイン飲める?」
「お酒は飲めないので水でお願いします」
「分かったわ」
アメリアさんは立ち上がってキッチンに行ってワインが入ったグラスと水が入ったコップを持ってきて水の方を渡してくれた。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
飲み物も用意できたので今度こそクリームパスタを食べ始める。うん、美味しい。
「美味しい!」
「喜んでもらえたなら俺も嬉しいです」
余程気に入ったのか、アメリアさんはパスタをどんどん口に運んでいく。それに合わせてワインの飲むスピードも上がっていく。
パスタもワインも後一口というところで彼女の手は止まり、こちらを見てくる。
「――はあ……。もう一つだけ悩み事を相談しても良いかしら?」
「今ですか。まあ良いですよ」
「ありがとう。本当はあの時相談しようとしたけど恥ずかしくて出来なかったのだけれど、私には恋人がいないの。さっきも言ったけど私はもう今年で二十九よ」
「はい」
アルコールが入ったおかげでその恥ずかしいことも言えるようで、アメリアさんの口からは彼女がどのような人生を送ってきたのかが語られた。
「私は小さい頃から両親に良い子でいなさいって言われててね。だから私はずっと真面目に良い子であろうとし続けたわ。学生の頃は周りの子が遊んでても勉強ばかりしていたから碌に友人も出来なかったわ」
「…………」
「大人になってから故郷を出てこの国で働き始めたわ、これまで通り真面目にね。サボタージュ調査局で真面目に働いていた私は周囲から賞賛されることは多かった。けれど私と付き合いたいという男性は一人もいなかったの。新聞社が勝手にやったアンケートで私は結婚したくない女性ナンバーワンだったわ。理由は分かるかしら?」
「……恐れられているから、ですか」
確証はないのだが、彼女が最初に悩み相談をしたときの言葉を思い出せば答えは分かった。
俺の答えは当たっていたようで、アメリアさんは頷いた。
「正解。この国の若い男性は真面目に働いている私の姿を見て怖い女性だと思ってしまうらしいのよ。私だって一人の女性だから誰かと恋をしたいし、幸せな家庭を持ちたいの。最近なんて故郷にいる両親から孫の顔が見たいと手紙を送られる始末。もう限界なのよ、私。それでねカイ君、あなたが良かったらだけど私と付き合ってくれないかしら」
「それは……俺があなたのことを恐れたりせずに素晴らしい女性だと言ったからですか?」
「そうよ。あなたが私に興味あるって言ってくれた時はとても嬉しかったわ。年甲斐もなくこっそりガッツポーズをしたくらいよ。けれどあなたは私を見てるんじゃなくてサボタージュ調査局の仕事ばかり見ていたから、本当は私自体にはさほど興味がないことなんてすぐに分かったわ」
俺はとんでもない勘違いをしていたようだ。どうやらアメリアさんは本当に自分という女性に興味があるか聞いていたのだ。
言葉の意味をしっかり聞かなかった俺が悪い。俺のせいで彼女を悲しませてしまった。
「別に攻めてるわけじゃないからそんな顔しないで。本当はね、仕事が終わった後私のことを素敵だと言ってくれたあなたに振り向いてもらうために私が作った料理に惚れ薬を入れて既成事実でも作ろうかと思ってたの。けれど優しいあなたは私が疲れてるだろうからと逆に料理を振舞ってくれたわ。あなたの作ってくれたパスタを食べてるとそんな汚い手を使おうとしている私が嫌になっちゃった。だからもうこうして全てを打ち明けることにしたのよ。それで、私と付き合う気はないかしら……?」
そう語る彼女の顔は悲しげで、今にも泣きだしてしまいそうだ。その原因は自己嫌悪からだろうか、それとも俺がなんて答えるのか不安だからか。
約三十年間真面目に生きてきた彼女に俺はこれから酷いことを言うだろう。勘違いさせたくせに最低な男だ。
「すみません、俺はあなたと付き合う気はありません」
「そう……よね。こんな醜い女、嫌に決まってるわ」
目に見えて落ち込むアメリアさん。このまま放っておくと彼女はどこかへ消えてしまいそうな雰囲気を出している。
「けど、俺はあなたが素敵な女性だと思っているのは変わっていませんよ」
「それはどういう――」
「アメリアさん、あなたは素敵で立派な女性です。それは俺が保証します。今のあなたは疲れているだけです。だから一度ゆっくり休みましょう。さっきは休みを増やせないか国に相談しましょうなんて言いましたが取り消します。一旦この国から離れて故郷にいる両親に本音をぶつけましょう。あなたたちは親子なんですから思いは通じるはずです」
「でも仕事が――」
「しばらくサボタージュ調査局なんてサボタージュしちゃいましょう。今まで真面目に生きてきた分、不真面目になってしまいましょう。文句を言ってくる人もいるかもしれません。だけどそんな人を気にする必要なんかありません。あなたより私の方が頑張ってきたんだと言い返してやりましょう」
「…………」
「休みすぎじゃないかと思うくらい休んでからまた仕事をしませんか。たまにはずる休みもしましょう。周囲の人たちからの賞賛や給料は減るかもしれませんが、心が病んでしまうのよりはマシです」
「けれど、それだと私のことを好きになってくれる男性が――」
「あなたは素敵な女性です。それは絶対に代わりません。だからあなたの魅力に気付かない男性なんてこっちから願い下げだと思いましょう。寧ろ真面目な女性がたまに不真面目になるというギャップが堪らないって男性がいるかもしれませんよ」
「私、不真面目になっても良いの?」
「良いんですよ。俺だってたまにふざけたりするんですから」
「そっか……そうよね……たまには休んでも良いわよね……」
そう言って最後の一口のパスタとワインを飲み込んでからアメリアさんの眼から少しずつ涙が流れ始める。勢いが強いわけではないが、それは長い時間流れ続けた。きっと今まで我慢してきた分だろう。俺は何か言うわけでもなく、ただ黙って彼女のことを見ていた。
アメリアさんは泣き止んだのと同時に疲れからか椅子に座ったまま眠ってしまった。
俺は物音を立てないように皿やグラスを片付けてからアメリアさんの寝室と思われる場所から毛布を持ってきて彼女に掛けてあげてから家を出ていった。
家の鍵は開けるくんで閉めておいた。
●
翌日。俺は昨日と同じ場所で同じようにお悩み相談室を開いていた。
今日はどんな悩みが聞けるだろうか。下を向きながらそんなことを考えてると本日最初のお客様がやってきた。
「まだやってるかしら?」
顔を上げると、そこにいたのはスーツではなくカジュアルな私服を着ている女性だった。その顔はとても良い笑顔だった
だから俺も笑顔で答える。
「はい、やってますよ」
〇
私は大通りに面した喫茶店のテラス席でカフェオレを飲みながら本を読んでいました。
しばらくカイと離れて生活をしていましたが、彼がいない日常というのは凄く味気ないものでした。
サボタージュ調査局なんてものについて教えてもらったりしましたが、すぐに飽きてしまいました。気性が荒い男性が多くてうんざりしたというのもありますが。
正面の席に座る青年を見ます。
「ん?どうしたんだい?」
「いえ、何でもありません」
目の前の青年――カイはホットミルクを飲みながら新聞を読んでいました。彼は食べ物の好き嫌いはありませんが、コーヒーなどの苦い飲み物は苦手です。私が今飲んでいるカフェオレでも苦いと言ってしまいます。なんだか子どもっぽくて可愛らしいですね。
「おや、『サボタージュ調査局、活動停止』だって。なになに……。男女問わず、一部の局員が仕事をサボり始めたため活動停止を余儀なくされた。男性局員は『可憐な女の子にたぶらかされた。後悔はしてない』、女性局員は『私は私の幸せに会いに行く。私の魅力に気付けなかったあなたたちが悪い』と語ったそうらしい。イレイナは何か知ってるかい?」
「知りませんねー」
白を切る私にカイは何か納得したような表情で頷いた。
「まあそうか、可憐な女の子だもんねー」
「むっ、もしや私が可憐ではないとでも言うんですか?」
私は読んでいた本を置き、カイから新聞を取り上げて抗議します。可憐で完璧で美しい魔女である私のどこに文句があるって言うんですか。
「いや、イレイナは可憐なのは知ってるよ。だけど俺だったら可憐だけでは終わらせなかったね。だから違うのかなーって思っただけさ」
「…………なるほど」
それなら仕方ないですね。彼が私の魅力を分かっているのなら言うことはありません。
特に理由はありませんが本を読むふりをして顔を隠します。特に理由はありませんが。
「それにしてもサボタージュ調査局の女性たちはちゃんと休むことを選んだようで安心したよ」
「何かしたんですか」
「悩み相談室を開いてたらとある女性に『私と同じような境遇の子のことも助けてほしい』って人物の名前が書かれた紙を渡されて頼まれたんだよ。それであることを条件にして受けることにしたのさ」
「その条件とは?」
私は本を少し下げて彼のことを見ます。
まさか私という幼馴染がいながら女性にいかがわしいことを強要したのでは……。いや、彼がそういうことをするような人間じゃないのは分かってますが。
「いつか再び会うことが出来たのなら、さらに素敵になったあなたの写真を撮らせてください。それが依頼の報酬でもあります。って条件だね」
「ナンパですか?」
彼のことを睨みつけてやります。
「いやいや、ナンパなんかじゃないよ。その女性に悩み相談をされてアドバイスをした翌日に依頼されたってだけ。写真を撮らせてほしいって言ったのも幸せになってほしいってことを遠回しに伝えただけだよ」
「ふーん、本当にアドバイスだけだったんですか」
「あー、あとはサボタージュ調査局の仕事を見せて貰ったり料理を作ったくらいかな」
「その女性のことを甘やかしたんですか?」
「甘やかしてはないと思うよ。ただ、告白みたいなのはされたけど断ったよ」
「ふっ、それなら良いんですよ」
カイは甘やかしてないなどと言っていますがきっとその女性のことを甘やかしたんでしょうね。彼は困っている人がいれば力になろうとしますし、悩んでる人や落ち込んでる人のことを肯定しまくりますからね。
優しくていろんなことが出来てそれなりに顔も良い彼のことが欲しいと思ってしまうのは無理もありません。
ただ問題があるとすれば、彼は人を甘やかしまくろうとするのでそれに甘え続けてしまったらダメ人間になってしまいます。生粋のダメ人間製造機です。
今回カイと離れて休暇を取ることにしたのはそのことが原因だったりします。このままだとカイに依存してしまうと考えた私は、しばらく別行動しようと決めたのです。
初日に大金を渡されそうになった時は危なかったですね。あと少しでダメ人間の仲間入りをするところでした。
「しかし勢いに任せてしまったけどこの国には悪いことしちゃったかな。サボタージュ調査局は重要な機関だったはずだし」
「大丈夫ですよ。そんな機関が無いとまともにやっていけない国ならとっくに滅んでると思います」
「そんなものなのかねー」
「そんなものです」
私たちは旅人ですから訪れた国の未来のことなんて考えるだけ時間の無駄です。その国のことはその国の人たちに任せてしまえば良いんです。
何かやらかしたとしても罪に問われなければ問題ありません。カイはそういうところを少し考えてしまうようです。
責任感が少し強い彼のことは私が支えてあげないといけませんね。
「そうだイレイナ、パンあげる」
「ありがとうございます」
やはりカイの作るパンは最高ですね。これがないと生きていける気がしません。
あれ、もしかして私、カイに依存しちゃってます?
………………。
まあいいや。
最初はイレイナのようにカイもサボタージュ調査局の女性を誑かすような感じにしようかと思ってました。そんなことをするイメージが湧かなかったので、頑張りすぎてる女性に一度休むよう説得する感じになりました。