一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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ネコ神さまと怪盗ネコキャット(前編)

 

 旅の途中で訪れた村の村人に面白い国はないかと聞いたところ、とある国のことを教えてくれた。

 

「へえ。不思議な風習の国ですか」

「左様でござる」

「左様でござるか」

「ござるござる」

「ござるござるござる?」

「ござござござる」

「ごーざござござ?」

「ござーる」

「ござる」

「二人とも普通に喋ってください」

 

 村人と遊んでいたらイレイナに怒られてしまった。仕方ない、普通に話すことにしよう。

 

「それにしても工作員が丸め込まれたから口調で田舎っぽさをアピールするってのは面白い発想ですねー。まあ人を勘違いさせてお金を稼ごうとしてる時点でいつかはこうなると決まってたんじゃないですか?」

「痛いところを突いてきますね。みんな最初はノリノリござるござるとで言ってましたが段々冷静になって、今は次の手を考えている最中ですよ」

「ところでござるって田舎っぽい口調なんですかね?」

「どうでしょうね」

「ちょっと待ってください。え、カイも村人さんも何の話をしてるんですか?」

 

 などとのんきに話をしているとイレイナが慌てた様子で俺たちの会話を遮ってきた。

 

「何って言われても話の続きだとしか言えないかな」

「そうですね。魔女様に邪魔される前の話の続きだとしか……」

「あの会話って成り立ってたんですか?」

「立ってた」

「ええ……」

 

 旅人としていろんな人と話した経験が生かされた瞬間であった。

 

 村人はイレイナに最近近くにできた国の話を一から説明し、その国に興味を持ったイレイナが道を尋ねていた。どうやら次に行く国が決まったようだ。

 

 

 

 近くにあるということで話を聞いた後すぐに村を出て西に向かって進み続けた先には、林の中にひっそりと存在する国が俺たちを待ち構えていた。

 村人は最近できた国だと言っていたが城壁は色あせており、蔦も這っていて年季を感じさせるものだった。しかし、国に入るための門だけは新しい鉄製のものだったため、違和感を感じさせた。

 国の中に入らないことにはこの国ができた経緯も知ることもできないので入国するために門の前に立つと、門に備えられた小さな窓が開き、兵士がこちらを覗いてきた。

 

「何者か」

「旅人です。魔女です。イレイナといいます」

「同じく旅人です。魔道士です。カイといいます」

「この国に何の用だ?」

「ここに最近できた素敵な国があると聞いて興味を持ったので訪れました。とりあえず数日間滞在したいかなと思ってます」

 

 俺がそう答えると、兵士は軽く頷いた。

 

「……よかろう。しかし、この国に入りたければ、質問に答えてもらう。猫さまは好きか?」

 

 ネコサマ……ねこさま……ああ、猫さま。猫にさまを付けている人は初めて見たな。猫と猫さまの違いは敬意を払っているかどうからしい。

 兵士の質問に俺は「好きです」と端的に答えておいた。猫が好きというのは事実だし、仮に嫌いだったとしても国に入るために嘘をついていただろう。

 猫は旅をしている中で見たことも触ったこともある。猫だって人のように一匹一匹性格が違うので触れ合っていて楽しいと思う。

 二人して猫が好きだと答えを聞いた兵士は俺たちの入国を許可し、軽く手続きをしてから国に入ることができた。

 

 

 

 

 

 

「うっ――うん?」

「どうかしましたか?」

「いや、なんか違和感みたいなのを感じたような気がする」

「私は何も感じませんでしたが」

「気のせいか……?」

 

 国に入った瞬間、俺はどこかで感じたのと同じような違和感を感じた。どこで感じたんだっけかな。

 ……うーむ、思い出せない。少し頭がぼんやりする気がするけどこれも気のせいだろうか。

 どこかで休むにしてもまずはこの国を見て回らないことには始まらないのでイレイナと一緒に歩き始める。

 俺の見える限りでは、レンガの家はどれも作られてから結構な年代が経っているように見え、城壁と同じように蔦が這っているものばかりだった。それからどの家にも扉に小さな四角い穴が開いていた。あれはペットを飼っている家で見られるものだった気がする。

 少し歩き回ったことで、俺たちは兵士にされた質問の意図を理解した。

 

「猫ばっかりですね」

「…………そうだね」

 

 イレイナの言う通り、この国のいたるところに猫さまがいた。どの猫さまも野生というものを失ったのか、外敵の存在を気にすることなくまったりとしていた。可愛い。ずっとここに暮らしたい。

 ――猫さま?俺はいつから猫をそう呼ぶようになった?それに……。

 

「カイ?大丈夫ですか?なんだか顔色が悪いような……」

 

 俺の様子に気付いたイレイナが心配してくる。俺は彼女に心配させたくないがために無理して笑顔を作り、嘘を言う。

 

「大丈夫。ちょっと昨日は夜遅くまで一人で修行していて睡眠不足なのかもしれないだけだからそんな気にする必要はないよ。ほら、あっちにパンの屋台があるから何か買ってきたら?」

「無理しないでくださいね。何か欲しいパンはありますか?今なら私の奢りですよ」

「そうだな……イレイナが美味しそうだと思ったものが食べたいかな」

「分かりました。少し待っててください」

 

 そう言い残してイレイナは屋台に歩いて行く。

 

 

 

「カイ……?」

 

 彼女が屋台で出会った魔女と一緒に戻ってきた時には、そこに俺の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 屋台で出会った魔女と一緒に幼馴染のことを探したが夕方になるまで見つけることができず、絶対に守らないといけない掟を知らないうちに破ってしまい、抵抗する間もなく牢屋に捕らわれてしまった魔女がいました。

 そんな可哀想な魔女とは一体誰か。

 そう――

 

「私です。くしゅん」

 

 どうやら私はこの国に来てから体調が悪く、本調子とは到底言えません。

 こんな時カイがいてくれればなあと思い、幸いなことに私の指から外されることはなかった指輪に魔力を強めに流して彼に居場所を知らせます。

 これで簡単に彼が来てくれるなら、長い時間を掛けて彼を探したりはしません。最後に見たカイもなんだか調子が悪そうでしたし、少しの間とはいえ離れたのは間違いでしたね。

 けれど私は信じてます。彼が私を助けに来てくれることを。

 今度は弱めに魔力を込めてカイの位置でも探そうとした瞬間、鉄格子の外にある通路の天井に丸い穴が開いて誰かが降ってきました。

 

「――よっと。こんなものだろう」

 

 牢屋の中は暗く、光源といえるものは小さな窓から入ってくる月明りのみなのでその姿はよく見えませんでしたが、聞こえてきた声はいつも聞いている人のものだというのはすぐ分かりました。

 

「そこにいるのはカイですか?助けに来てくれたんですね」

「違うが。吾輩は誰かを助けるために来たわけではない」

「え」

 

 カイが私のことを見捨てるわけがありません。ならば目の前の人物は偽物なのでしょう。けれど、彼の声にそう言われるのは大変堪えます。

 私がショックを受けていると、上から降ってきた謎の人物が私のいる牢屋の鉄格子の前まで来ます。

 近くまで来たことで目の前の人物の姿がはっきりと見ることができました。

 それはいつも着ているスーツがとある事情で臭いがしばらく取れなくなったから着ている執事服に、いつもはしていない黒い手袋やマントやシルクハット、何故か暗いのにサングラスを身に着けている黒い髪の青年でした。きっとサングラスの下にあるのは金色の瞳なのでしょう。

 なんか変なものを身に着けて不審者になってますが間違いなくカイです。

 

「えーっと……カイですよね」

「違うが」

「ええ……。ならあなたは誰なんですか」

 

 私の問いに目の前の不審者さんは足を肩幅ほどに開き、左手の親指と人差し指でシルクハットのつばを掴み、右手の手のひらが上を向く形で右腕をこちらに伸ばすという変なポーズを取りました。何ですかそれ?

 

「吾輩は怪盗――怪盗ネコキャットである!」

「…………」

 

 お母さん、お父さん、フラン先生。私の幼馴染がおかしくなってしまいました。

 

 

 

 

 

「それで怪盗ネコキャットさん?は何をしに来たんですか」

 

 いつまでもポーズを取ったまま動かない彼に尋ねます。

 

「よくぞ聞いてくれた!では説明しよう!――その前に……」

 

 やっとポーズを解いて大げさな反応をしたかと思ったら、彼は鉄格子の鍵を開けて中に入り、私の手枷を外してくれました。

 その手には鍵のような形をした魔道具を持っていました。名前は何でしたっけ……。あまりにもダサいので忘れてしまいました。

 

「ありがとうございます。けれど私のことは助けるつもりはなかったのでは」

 

 長時間手枷につながれていたので感覚が無くなっていた手を開いたり閉じたりしながら彼のことを睨んでやります。

 私に睨まれても全く動じる素振りを見せない彼はまた変なポーズを取っていました。

 

「そうとも!吾輩は怪盗。つまり宝を盗むためにここに侵入したのだ!」

「宝ですか」

「そう、宝である!この国にある最も素晴らしい宝を手に入れる!」

 

 この国で最も大切にされているものといえば、私がここにぶち込まれる原因となったネコ神さまとやらでしょうか。

 

「――面白そうなことになっておるのう」

「あなたは……」

「む!」

 

 月明りの量が少なくなり、声が聞こえてきた窓の方を見るとそこには黒く艶のある毛並みをした青い瞳の尻尾が二つある猫――丁度私が頭に思い浮かべていたネコ神さまがいました。

 ネコ神さまを見たカイは身構えてました。

 

「シャー!」

 

 あ、威嚇してる。

 

「今までいろんな人間を見てきたが、お前のようなのは初めてだ」

 

 ネコ神さまは興味深そうにカイのことを観察していました。仮にこんなのがたくさんいたらこの国は既に滅びてそうです。

 やがてカイの観察が終わったのかネコ神さまは私の方に振り向いてきました。うう、身体が痒い。

 

「さて、魔女殿。我輩はお前のような人間を待ちわびたぞ。お前、我輩と交渉する気はないかの?」

「私ですか?私よりそっちにいる怪盗ネコキャットさんの方が良いと思いますけど。どうやらあなたのことを攫おうとしているらしいですし」

「無理だと思うがの。一応聞いてみるが我輩と交渉する気はないか、怪盗ネコキャット殿?」

「断る!吾輩は貴様なんぞと交渉する気はない!シャー!」

 

 最初から期待してないといった声色のネコ神さまに対し、カイはいつもと違う口調で拒否してました。ついでに威嚇も続けていました。

 二人……?は知り合いなんでしょうか。

 それにしてもカイが狙っている宝がネコ神さまではないということは、この国にある希少な宝石か何かを狙ってるってことでしょうか。後で分けてくれたりしませんかね。

 

「やれやれ、嫌われたものだな。というわけで我輩には魔女殿しか交渉する相手はおらんのだ」

「はあ……。それで交渉というからには、少なからず私に利益のある話が聞けるんですよね?」

「我輩がお前をここから出してやるのが利益だ――と言いたいところだったが、先を越されてしまったからのう」

「なら無理ですねー」

「しかしこのままだとそこの男は元に戻らんぞ」

「マジですか」

「マジだ」

 

 視界の端でまだ威嚇しているカイを見て溜息を吐きました。珍しい様子のカイを見るのは面白いとは思いますけどずっとこの調子でいられるのは困ります。一緒に旅をする私まで変な目で見られそうです。

 

「はあ……。まずは事情を一から説明してください。あ、私たちに関連するところだけでお願いします。なんだか疲れたので」

「……まあ良いだろう。簡単に言ってしまえば――」

「おっと!それ以上その女性に近付くのはやめてもらおうか!貴様はこっちだ」

「何をする!?」

 

 私に近付こうとしたネコ神さまをカイが持ち上げて遠ざけました。もしかして縄張り意識というやつですかね。

 

「絶妙に遠い位置まで移動させよって……。話の続きをするが、我輩のせいで今のこの国は出来てしまったのだ」

 

 と、ネコ神さまはこの国について語り始めました。

 

 

 

 

 

 

「それで我輩はこの国の人口を減らしたいというわけだ。事情は分かったかの?」

「くしゅん!」

 

 私はくしゃみで返事をしてあげました。

 

「お前のように猫を拒絶する体質の持ち主は我輩の力が効かないから交渉することにしたわけだの」

 

 どうやら私は猫と触れ合ってはいけないようです。可愛いから触れ合ってみたいとは思ってましたが残念。

 この国に入ってから私は猫が、カイはネコ神さまが原因で調子が悪くなっていたようです。

 

「これでますます貴様を彼女の近くに行かせられなくなったというわけだ!はーっはっは!」

 

 ……カイは元気そうですけど。ネコ神さまにも彼がこうなった原因は分からないそうで、「我輩の力が効いてるのに我輩を崇めない者は初めてだ。まあ長い間生きていればそんなこともあるかもしれんのう」とどうでも良さそうでした。

 

「作戦決行は明日の昼頃だ。派手に暴れながら国の外まで我輩を連れて行って貰いたい」

 

 私は今じゃなくて良いのかと聞いてみましたが、人々に国を出ていく姿を見られる必要があるそうです。面倒くさい。

 

「貴様は余程の目立ちたがり屋ということだな!吾輩とは大違いだ!」

 

 こっちも面倒くさい。

 

 

 

 明日の朝になるまで寝ることにしましたが、カイが「これを使うが良い!」などと言いながら枕と毛布数枚を渡してくれました。荷物は没収されてたのでありがたいです。こういうところは変わらないんですね。

 私は毛布に包まって寝るのでした。

 

「貴様はこっちだ!彼女の近くで寝ることは許さん!」

「離せー!」

 

 うるさい……。

 

 

 

 




魔女の旅々原作のTSオリ主ものとかないんですかね……?
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