一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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ネコ神さまと怪盗ネコキャット(後編)

 窓から朝日が差し込んできて目が覚めると、目の前にはテーブルと椅子がありました。

 何故こんなものが……?と寝起きの頭で考えていると良い匂いがしました。匂いのする方向を見てみると昨日と同じ変な姿のカイが朝食をテーブルの上に置きました。

 パンにベーコン、目玉焼きというシンプルなものでしたが匂いからして美味しいことは分かりました。

 

「はーっはっは!起きていたか!本当は目を覚ます直前に置いておきたかったのだがな。余分な作業が一つあったから仕方ないか!これも吾輩のこだわり故に……」

 

 そう高笑いしながら焼いてある魚やら野菜やらが入った小皿をネコ神さまの前に置きました。朝からテンションが高い……。

 

「まさか我輩の飯まで準備するなんてのう。うむ、美味い」

「当然である!むしろ不味いなどと言っていたら貴様をそこの窓からぶん投げていたところだぞ。……む、食べないのか?」

「あ、いただきます。……相変わらず美味しいですね」

「そうだろう、そうだろう!」

 

 カイはサングラスを掛けているのでどんな目をしているかは見えませんが不安そうな声で聞いてきたので一口食べて感想を述べます。そうすると彼は満足したのかどこかへ行ってしまいました。

 あんな騒がしい不審者に気付かないここの警備はどうなってるんでしょうか。

 

 

 

 朝食を食べ終わり、昼まで何をして時間を潰そうか考えていた時、カイが私のカバンを持って戻ってきました。

 

「さて!後は吾輩の怪盗七つ魔道具の点検をして終わりだな!流石吾輩、完璧だな!」

 

 普段と違ってやたらと自己評価が高い彼はスペースがある場所に座り込んで魔道具を取り出し始めました。鍵の形をしたもの、鉄の棒の先に円形の板のようなものがついたもの、銃のようなもの……あれ?

 

「七つと言っている割には三つしかないですね」

「フッ、分かってないな。もしや朝食が食べ足りなくて頭に糖分が回っていないとでも言う気か?」

「…………」

 

 何故かしたり顔をするカイ。なかなか腹が立ちます。吹っ飛ばしても良いですかね。……いえ、今のカイは普通ではないので我慢です。

 

「考えてみたまえイレソン君、自分の手の内を全て晒す馬鹿者なぞどこにいる?残りの四つは隠しているだけなのだよ」

 

 誰がイレソン君ですか。しかもそれ怪盗じゃなくて探偵が言うセリフですよね。

 

「でも今は魔道具の点検をしてるんでしたよね?なら全ての魔道具を出さないといざという時に困りませんか」

「…………」

「もしかしてないんですか、残りの魔道具」

「……………………はーっはっは!」

「誤魔化そうとしないでください」

 

 

 

 

 

 私もほうきや杖の点検を軽くしてから本を読んで昼になるまで待ってから、盛大に牢獄をぶち壊して外に出たのでした。

 私がネコ神さまを抱えると体質のせいで良くなってきていた体調が再び悪化してしまうのでカイに持って貰ってます。私はいつも通りほうきで空を飛んでますが、カイは先端に吸盤がついた銃のような魔道具を使って建物と建物の間を縦横無尽に駆け回っていました。少し楽しそうでしたが、彼の腕の中にいるネコ神さまの反応を見る限りそうでもないのかもしれません。

 

「――ひゃあああああああっ!」

「はーっはっは!楽しい、楽しいな!さらにただほうきで空を飛ぶよりもカッコイイときた!吾輩は最高にカッコイイ怪盗、怪盗ネコキャットである!」

 

 目立つように国中を駆け回ってからこの国の門の方に向かうと、先日私のことを捕まえた晴天の魔女ルシエさんがほうきに乗って待ち構えていました。

 

「イレイナさん!見損なったよ!まさか怪盗と手を組んでネコ神さまを攫おうとするだなんて!」

「はーっはっは!吾輩は別にネコ神さまとやらはどうでも良かったんだがな!」

「ネコ神さまがどうでも良いだなんて、とんでもない悪党のようだね!極刑だよ!ギルティ!」

 

 怒ったルシエさんが杖を振るい、彼女の真下の地面から出てきた七本の水の柱をカイに向けて飛ばしました。

 

「私がやりましょうか?」

 

 カイは強いので簡単に負けるわけないのですが、ネコ神さまを抱えている状態で魔女と戦うのは危ないので彼に声を掛けます。

 

「問題ない!このくらいの危機を乗り越えられないで何が怪盗か!君はそこで見ているんだな!」

 

 蛇のようにうねりながら襲い掛かってくる水を避けながらルシエさんに近付きます。

 

「ああもう!どうして当たらないの!」

「吾輩を捕まえたければ探偵と刑事を連れてくるんだな!貴様のような正気を失っている者など恐るるに足らん!」

「我輩、ここで死ぬかも……既に一度死んでるけど」

 

 いえ、正気を失っているのはあなたも同じです。あと腕の中のネコ神さまが生きることを諦めたような顔をしてるんですが大丈夫でしょうか。

 

「うるさい!これでどう!」

 

 ルシエさんが杖を振って水の柱をカイの前後左右と上空から挟むように飛ばしてきました。流石にこれはまずいかと思って私も杖を取り出していつでも魔法を使えるようにします。

 

「甘いぞ!」

 

 その瞬間彼の姿が消えました――いえ、正確には目に見えないくらいの速さで移動しました。ではどこに移動したかと言いますと、

 

「これで吾輩の射程距離だ!」

 

 ルシエさんの目の前にいました。

 

「自分から飛び込んでくるだなんて馬鹿だね!私が何の対策をしてないと思う?そう、私の真下にも水が――え?」

 

 ルシエさんの言葉は途中で止まってしまいました。それもそのはず。カイの姿は先ほどまでとは違い、シルクハットとマントを外していました。シルクハットが無くなった頭からは猫のような耳が、マントで今まで見えてなかったお尻のところからは尻尾が生えてました。

 まさかの猫です。

 

「え、ちょ……その姿は猫さま……?いやでも人間……?」

「隙ありぃ!」

 

 困惑するルシエさんの顔にカイはネコ神さまを抱えていない方の手でパンチを放ち、ルシエさんのことを吹き飛ばしました。ルシエさんは咄嗟に魔法で防いだのでしょうけど衝撃を全て軽減できたわけではなかったようで、鉄製の門にぶつかって気絶してました。うわあ、痛そう……。

 

「勝負あり!勝ったのは吾輩こと怪盗ネコキャット!観客の諸君、応援ありがとう!」

「し、死ぬ……」

 

 何故か自分自身で勝利の宣言をしているカイと、彼の腕の中で息絶えそうなネコ神さまに向けて「さっさと行きますよ」と一声かけてほうきから降りて門の前に立ちました。

 未だ敵意をむき出しの人々は私たちのことを取り囲みました。私は精一杯、悪役らしい表情を作りながら、彼らに向けて言い放ちました。

 

「さて皆さん、この国で一番強そうな魔女さんは怪盗ネコキャットにあっさりと負けました。まだ私たちに挑む者は?」

「吾輩は諸君らの挑戦を待つ!どんな勝負でも吾輩は逃げも隠れもせんぞ!かかってこい!」

 

 意味のない挑発をする人がいますが、誰も前に出ることはありませんでした。逆に出て来られても対応に困るので必要以上に挑発するのやめてください。

 

「いないのか……。つまらん!目的も果たしたし、もうこの国に用はない!早く門を開けるんだな!でないとこの門に穴をあけるぞ!ついでにこいつにも穴をあける」

 

 最後の脅しが一番効いたのでしょう。門番は慌てた様子で門を開きました。門が完全に開くまで少し時間が掛かりましたが、その間誰も襲ってくる様子はありませんでした。

 私たちは国の外に歩いて出てから振り返りました。私たちに向かって罵倒を浴びせましたがカイが一歩前に出た瞬間、皆口を閉ざしてしまいました。

 

「では私たちはこれで」

「さらばだ皆の衆!これからも怪盗ネコキャットの活躍を期待しているのだな!」

 

 私はほうきに乗って、カイはいつものように走って去るのでした。

 

 

 

 

 

 

 深い森の中で俺が意識を取り戻した時、周囲にはイレイナしかいなかった。

 

「…………あー」

「もしかして正気に戻りました?」

 

 俺は手袋とサングラスを外して無言のまま頷く。

 

「記憶はありますか?」

「…………少しは」

「……吾輩は!怪盗ネコキャット!」

「やめて!お願いだから!」

 

 猫耳と尻尾を外し、俺はあの国でやらかした言動の数々を思い出してイレイナに背を向ける。今の俺は絶対に顔が真っ赤になってる。

 

「ふふーん。でしたら、はい」

 

 イレイナはそう言ってこちらに両手を差し出してくる。何か欲しい雰囲気なのは分かるけど一体なんだ?

 

「えーっと……?」

「カイがあの国で盗んだ宝をくれるのでしたら今回のこと誰にも言わないであげます」

「?」

 

 何を言っているのだろう。俺があの国で盗んだと言えるものは没収されてたイレイナのカバンとネコ神さまくらいだ。

 

「いや、ないけど」

「え……。でもさっき目的は果たしたって言ってましたよね。隠すのはダメですよ。あなたの両親に言いふらしちゃいますよ」

「それはやめてほしいけど本当にないって」

「ええ……」

 

 本当に宝なんて盗んでないしなあ……。いくら俺がお金を貯めてるからと言っても盗むようなことはしない。そんなお金はいらないからだ。

 

「……あ」

「何か思い出しましたか?」

「い、いや。何でもない」

「その顔は絶対に心当たりがありますね。白状してください」

 

 イレイナが俺に詰め寄ってくる。俺は一歩後退るとイレイナが一歩詰めてくる。もう一歩後退るともう一歩詰めてくる。

 彼女には嘘を言ったが、俺は二つほど思い出したことがある。

 一つ目はイレイナが言っていた宝について。二つ目は昨日イレイナがパンを買いに行った後のことだ。

 二つ目は特に重要なことだ。それは思い出した瞬間、何故俺があの国で猫が最優先にならなかった理由が分かってしまったからだ。

 

 

 

 

 

 

 イレイナがパンを買いに屋台に歩いて行くのを見届けた俺は人々の往来の邪魔にならないように道の端に寄って建物の壁に背中をつけて座り込む。そんな俺の周りに猫さまが近付いてきた。

 

 ――ああ、一生愛でてたい。

 

 今の俺は何かおかしい。頭が上手く回らないし、猫さまに対する異常な愛情が生まれてきている。

 

 ――写真撮ろ。

 

 あの村の工作員が丸め込まれた理由は、この国の不思議な力の影響で今の俺のようになってしまったからだろう。このままでは俺は正気を失い、この国に永住しようとしてしまうかもしれない。

 

 ――別に良いんじゃないか?

 

 ダメに決まってるだろ。俺は旅人だ。大好きな幼馴染のイレイナと一緒にいろんな国を見て回ろうと約束したんだ。それを放り出すわけにはいかない。

 

 ――彼女と一緒にこの国に住めば良いんじゃないかな?妙案だ!

 

 俺はイレイナに満足する旅をして欲しいんだ。この不思議な力が働いている国に住んで彼女が幸せになれるとは思えない。

 

 ――そんなの分からないじゃないか。もしかしたらここで楽しく暮らすかもしれないぞ。

 

 そんなことイレイナを小さい頃から知っている俺なら分かるだろ。いろんなところを旅して、いろんな思い出を作って、旅が終わったら故郷に帰ってその思い出を楽しむ。そこにイレイナが要るかは分からないが、俺はその予定だ。

 

 ――故郷になんて帰る必要ないさ。それに未来のことより今のことを考えよう。

 

 俺にとって今のことも未来のことも、両方同じくらい大切なことだ。それに、俺は旅が終わって故郷に帰ったらイレイナに告白するって決めてるしな。帰らない理由を見つける方が難しいよ。

 

 ――我ながら強情だな。だけどもうそろそろ限界なんじゃないかな。さあ、猫さまに尽くそう。やはり猫さまこそこの世で一番素敵な生き物だ。

 

 ……我ながら馬鹿らしいよ。猫さまが一番?違うだろ、俺には優先順位が変わることのない、一番大切で素敵な人がいるじゃないか。どんな魔法や呪いを受けたとしてもこればかりは変えることはできない。

 

 

 そこで俺はこの国の力に吞み込まれた。しかし、俺の中で一番に優先されるのはイレイナであり、猫はその次くらいの順位になった。俺はこの国の力に打ち勝ったのだ。

 問題なのはネコ神さまの力が変な感じで効いてしまい、俺の中の優先順位以外がおかしくなってしまったのだろう。

 そうして誕生したのが怪盗ネコキャットだというわけだ。

 

 

 

 

 

 

「いやー、ははは……」

「さしずめ、今の私は悪い怪盗を追い詰めた名探偵と言ったところでしょうか。さ、早く言って楽になった方が良いですよ」

 

 後ろに下がり続けていたら木にぶつかってしまい、逃げられなくなってしまった。

 

「あー!今思い出したー!思い出しちゃったなー!いやー実はねー、俺があの国でネコ神さまを少し雑に扱えたのは自分が猫になりきることで彼女の力を軽減したからなんだよー」

「…………」

 

 また一歩無言で近付いてくる。咄嗟に出た嘘だったが説得力はあったはずなんだけど。

 

「えーっと……えーっと……。言わなきゃダメ?」

「ダメです」

 

 イレイナはどうしても引く気はないらしい。そんなに知りたいのか……。ならばせめてこちらに来るダメージが浅い方を選ぶしかない。

 俺は一度目をつぶって深呼吸をし、目を開いて彼女のことを真っ直ぐに見つめる。

 

「……俺が言っていた宝ってのは……あー、そのー……」

「何ですか、早く教えてください」

 

 恥ずかしいが言うしかない。覚悟を決めろ。

 

「君のこと……だったんだ」

「………え」

 

 イレイナの足が止まる。

 

「イレイナが俺のことを探し回ってくれてたのは分かってたんだけど、その時の俺はもう普段の俺じゃなかったからあんまり会いたくなくて逃げることにした。君が捕まったのは君から送られてくる指輪の位置が、ある場所から動かなくなったことから分かってた。だから助けに行こうと決めたのは良いけど、恥ずかしいから変装したんだよ。すぐにばれちゃったけど……」

「……………………」

「俺は君を助けに来たとだけ言いたかったんだけど、ネコ神さまの力の影響でおかしくなっていた俺が君のことを宝って言ってややこしくしてしまったね」

 

 俺は今少しだけ本音を隠した。俺がイレイナから距離を取っていたのは変な言動をしている俺を見られるのが恥ずかしいというのもあるが、彼女に嫌われるかもしれないと考えてしまったからだ。

 彼女のことを宝だと思っているのは本当のことである。

 

「…………宝の前に『最も素晴らしい』とついていましたが」

「それはつい本音が出たというか……俺が今まで見てきた中で君ほど素晴らしい人はいないって思ってるからと言いますか……まだダメ……?」

「…………今のあなたは何も持っていないのが分かったのでもう良いです」

「そ、そうか。ありがとう」

 

 そこでようやくイレイナは後ろに下がって向こう側を向いてくれた。そのおかげか少しずつ冷静になってきた。

 ……もしかしなくてもやっちゃったな。絶対言わなくても良いところまで言った。俺の心の中にしまっておくだけのつもりの気持ちを言ってしまった。

 何が『本音が出たと言うか……』だ。現在進行形で本音駄々洩れじゃないか。隠せてる本音なんて少ししかないじゃないか。正直者の国にいた時よりも正直になってるぞ。もしかしてここは真の正直者の国だった……?

 それにしても『君ほど素晴らしい人はいない』ってちょっと……って感じだよなあ。「うわ、気持ち悪い」なんて言われたら俺は立ち直れる気がしない。

 ああ、さっきとは別の恥ずかしさからイレイナの顔を見ることが出来ない……。

 

 それからしばらくの間、俺たちは動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月後。俺たちはとある国からもう一度来るように言われていたのでその国に行ったついでにネコ神さまがいた国のことを教えてくれた村にも寄ることにした。

 

「どうもだにゃん!」

 

 再び訪れたのだが、俺が吹き飛ばした魔女が変な口調と猫耳をしていた。魔女ともあろう人が何という格好を……。まあ俺も人のことを言えないのだが。

 猫耳魔女様の話を聞いてみると、あの国はネコ神さまがいなくなってから人口が減ったそうだ。国が滅ぶほど少なくなったわけではないそうなので彼女の狙い通りに事が運んだようだ。

 その後、生まれたばかりの子猫に名前を付けてほしいと頼まれたイレイナは、どこかで見たような特徴をした黒い子猫にどっかの誰かさんが普通に生きていた頃の名前を付けたのだった。

 

 さて、この村にはこれといった用事もないし次の国へ向かうとしようか――

 

 

 

 

 

「はーっはっは!貴様は一ヶ月前に来た旅人ではないか!」

「!?」

 

 聞き覚えがある声と忘れたい口調が聞こえてきたので後ろを振り返ってみると、一ヶ月前はござるござると言っていた男性が執事服を着て黒いシルクハットや手袋やマント、今は明るいのに何故かサングラスを身に着けていた。ほぼ間違いなく猫耳と尻尾もつけているはずだ。

 

 

 

 今すぐ逃げたい俺の心情などお構いなしに、彼は変なポーズを取って高らかに叫んだのだった。

 

「吾輩は!怪盗ネコキャット……三世!」

 

 二世はどこ行った。

 

 




これでも本人はイレイナへの想いを隠しているつもりらしいです。なんか勝手に暴露していきます。

これにて原作二巻分の話は終わりです。魔法使いのための国からカイが作ってきた魔道具たちはこの話のためだけに考えたものです。一応これからも出番を作ってあげたいとは思ってます。

次回が今回の二日毎の投稿の最後の話になります。
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