一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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短いです。こういう話でも文字数を増やせるように頑張りたいですね。


手紙

 魔法使いの国にある一軒家。そこでは赤い髪をした少年――エイデンが学校の宿題をやっている最中だった。

 自室の机の上に紙を置き、彼は何故か椅子に座らずに立ったままプルプルと震える手で文字を書いていた。

 

「――疲れる!カイ先生はいつもこんな繊細なことをやってるのか!」

 

 彼は自分の師匠(勝手にそう呼んでいる)と同じように普段から自分に過重力の魔法を掛けて生活をしていた。

 過重力の重さに体が慣れてきたらさらに過重力を強くするのを繰り返していたのだが、最近椅子が重さに耐えられなくて壊れてしまったようで椅子の残骸が部屋の隅に寄せられていた。

 

「以前先生が家に来た時は僕のよりも何倍も強い過重力を掛けたまま椅子に座っているように見えたんだけどなあ……」

 

 椅子と接する部分だけ過重力を解いているのかなと考えていると、彼の母親が部屋にやってきた。

 

「エイデン、あなたに荷物が届いてるわよ。私が持ってこようかと思ったけどやたらと重かったからあなたが持ってきてちょうだい」

「はーい」

 

 何が来たのかなと呟きながら家の入口まで行ってみると、何やら縦に大きい箱が置いてあった。

 

「何だろう?とりあえず部屋に持って行こう――重っ」

 

 彼は箱を持とうとしたのだが、思っていた以上の重さに驚いてしまった。とはいえ持てないほどの重さではなかったので頑張って部屋まで運び、中を見てみることにした。

 

「椅子?」

 

 箱の中に入っていたのは何かの金属で作られた椅子だった。体が触れる部分にはクッションがついているので体が痛くなることはなさそうだ。軽く叩いてみると、カンカンと心地良い音が聞こえてきた。

 彼はすぐに座ってみようと思ったが、部屋の隅に放置されたままの椅子の残骸が視界の端に写ったので一度過重力を解いてから座る。

 

「お、これはなかなか……」

 

 その椅子の座り心地はエイデンが今まで座ってきた椅子の中でも上位のものだった。流石にこんな良い椅子を壊したくはないのでこの椅子に座るときは過重力を解こうと決めた。

 ところで誰が送ってくれたのだろうかと気になった彼は椅子が入っていた箱を調べてみると、箱の中に封筒が入っていることに気が付いた。封筒に書かれていた差出人を見てみると、そこには彼が尊敬している師匠の名前があった。

 

「カイ先生からだ!」

 

 彼は少し興奮気味に封筒を開けて中に入っていた手紙を読み始めた。

 

『エイデンへ

 

 君がサヤちゃんに渡した手紙は無事に俺のところへ届きました。どうやら友達も出来ているようで安心しました。自分が困ったときに助けてくれる人の存在はかけがえのないものです。大事にしてください。

 今回、この手紙が入っていた箱には椅子が入っていたと思います。その椅子は俺が作ったもので、過重力にも耐えることのできる代物です。そろそろ自分に掛ける過重力の力が大きくなりすぎて普通の椅子では耐えられなくなってしまったのではないかと思ったので送ることにしました。

 俺が君の家に遊びに行った時に椅子に座っていたけど、その椅子は壊れなかったのを不思議に思っているかもしれません。何故でしょう?

 ……君からの返信を待っていると次に俺が手紙を送るのが数年後とかになりそうなので普通に答えを書きます。実のところ俺は椅子に座っていません。座っているように見えるだけで、ほんの少しだけ浮いています。空気椅子という奴です。この体勢はなかなかきついのに加えて椅子に座るタイミングならいつでもできるのでおすすめです。

 いきなり普通の椅子でやるのは難しいと思うので俺が送った椅子を使って練習してください。失敗して椅子に座った時に座り心地の良さで悔しがってください。

 

 いつかまた成長した君と会えることを楽しみにしています。その時はどれくらい強くなったか見せてくださいね。

 

     今日も気ままに旅する愉快な旅人 カイより』

 

 

「カイ先生が成長した僕と会いたがってる……。よし、これからも頑張るぞ!」

 

 手紙だと普段の口調とは異なるカイから貰った手紙を読んでやる気を出したエイデンは、早速貰った椅子を使って空気椅子の練習を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 とある田舎にある国――平和国ロベッタはその名の通り、今日も平和であった。

 

「ふう……。今日も平和だなあ」

 

 それ今言ったばかりなので同じことを言うのはやめていただきたい。

 そんなふざけたことを言いやがったのは黒い髪をした和服の男性だった。今は平日の昼間だというのに自宅で椅子に座ってのんきに水を飲んでいるのである。働け。

 しかし残念なことに、この男性は既に一生働かなくても生活ができるくらいのお金を持っているのである。俗に言う勝ち組というやつだろう。

 

「そうね。あの子たちも平和に旅できてると良いけど」

 

 そう言って金色の髪をした女性が男性の隣に座った。

 

「カイとイレイナちゃんなら大丈夫さ。今頃二人で昼ご飯を食べてるかもね」

「ふふ、そうね」

 

 二人は窓から見える青空を眺め、きっとあの子たちも同じ空を見ているのだろうかと考える。

 

「郵便でーす」

「はーい」

 

 彼らはいつ帰ってくるんだろうなと思っていた時、玄関の方から声が聞こえたので女性が向かった。

 再び戻ってきた女性の手には封筒が握られていた。

 

「おや、もしかして」

「噂をすればというやつね。カイからよ」

 

 封筒を開けてみると一枚の手紙と数枚の写真が入っており、まずは手紙を読むことにした。

 

『両親へ

 

 前回お金と一緒に手紙を送ってからそこまで時間が経ってないので簡単に近況報告だけをします。

 俺とイレイナはこれまで通り毎日楽しく旅をしています。二人で次に行く国の名物を予想したり、どちらが早く目的地にたどり着けるか競争をしたりと至って平和です。

 そう、最近俺はこの平和が大好きなことに気付きました。以前訪れた雪が降り積もった国で小さな獣人の姉妹と少しの間一緒に過ごしたのですが、その時の何事もない日常に安らぎを覚えました。

 小さい子たちが成長していく姿を近くで見るのが楽しく仕方がありませんでした。まだ旅に出る前、二人が俺の方を見て優しい笑みを浮かべていた理由が分かった気がします。なんだかんだで俺も大人になったということなのかもしれません。

 今回は写真もいくつか同封しておいたので見てみてください。

 少し短いですがこれで終わりとさせてもらいます。そちらに帰るのはいつになるか分かりませんが、家に帰ったら二人の手料理が食べたいです。味の方は気にしないでください。――愛情が込められた料理が不味いわけないのですから。

 

     あなたたちの息子 カイより』

 

「あらまあ、嬉しいことを書いてくれるわね」

「そうだね、カイの成長を知れて良かった。さて、次は写真を見てみようか」

 

 そう言って男性は写真を手に取り、一枚一枚ゆっくりと見ていった。

 先ほどの手紙にもあった獣人の少女二人との写真、黒い髪の魔女との写真、端の方にグールっぽいものが写ってる写真、それと――

 

「おやこれは……ははは!」

「なになに……ふふふ」

 

 執事服に黒いシルクハットやマントに、手袋やサングラスをしている息子の姿が写った写真だった。

 あまりそういうことをするイメージが無かった息子の姿に二人は大笑いした。きっと旅先で何かがあったのだろうが、それにしても面白すぎるとしばらくの間笑いが収まることはなかった。

 

 このことをイレイナの両親にも伝えることにした男性は、彼らの家に着くなり「いやあ聞いてくださいよ。どうやら僕の息子が大人になったらしくてねー」と話し始めようとした。

 その言葉を聞いて、娘に手を出されたと勘違いしたイレイナの父親は発狂した。

 

 

 

 

 

 

 俺は今回訪れていた国の郵便局で手紙を出した。国外への郵便なので少々値が張るが、仕方のない経費と割り切ろう。

 宿に戻ると、出かける前と同じくイレイナが部屋の中でコーヒーを飲んでいた。

 

「おかえりなさい。手紙は無事に出せましたか?」

「はいただいま。何事もなく出せたよ――あれ、テーブルの上に置いてたあの写真はどこにいったかな?」

 

 あの写真とは、俺がネコ神さまの力の影響で変な言動をしている時にいつの間にか撮っていた自撮りのことだ。帰ってきたら燃やすなり捨てるなりしようと思っていたのだが、どこを探しても見当たらない。

 

「ああ、あれですか。あれなら私が魔法でこの場から消しておきましたよ」

「それは助かるよ、ありがとう。ちなみにどんな魔法で消したんだい?燃やしたとかバラバラに引き裂いたとかいろいろ方法はあるだろうけど」

「カイがよそ見している間にこっそり他の写真と一緒にしておきました。その手際の良さは魔法と言っても過言ではありません」

 

 イレイナは得意気な顔をしてそう言った。

 

 …………ん?

 

「それってつまり他の写真と一緒に俺の両親のところに送られたってこと?」

「はい」

「…………しばらくパンを作らないことに決めた」

「!?!?」

 

 今日の夕食はきのこたっぷりのパスタかなー。

 

 あーあ。

 




これにて今回の投稿は最後になります。
また少しの間、時間をいただいて原作三巻分の話を書こうと思ってます。

それではまたいつの間にか会いましょう。
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