一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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お久しぶりです!
三巻の内容を書くのに時間を掛けすぎているので全部書ききれてないけど投稿です!


泣き鬼(前編)

 

「現在、我が国は少々物騒ですのであまり出歩かないことを推奨いたします」

 

 俺たちがとある国の入国審査を受けた後に門兵から言われた一言である。

 どういうことか聞こうとしたのだが、門兵は既に自分の持ち場に戻ってしまっていた。

 

「何でしょうね?」

「うーん、とりあえず観光でもしてみようか。でもさっきの言葉が気になるから俺から離れないようにね」

 

 少しの間街を見て回ったが、景色は平凡と言ったところだろうか。他の国でも見られるような作りの建物が並んでいる。ちらりと見た屋台で売っているものも特に珍しいものはない。

 ただ、一つ気になった点があるとすれば。

 

「なんだかこの国の人たちは何かに怯えているように見えますね。それに人の数も少なく感じます。何かあったんでしょうか?」

「あの人に話しかけてみようか」

 

 一体この国で何が起きているのだろうか。俺は大通りの真ん中を歩く青年に話しかけた。

 

「すみませーん、少し聞きたいことがあるんですけど」

「ひっ……。な、なんだよ」

 

 普通に正面から話しかけただけなのだが、目の前の青年は驚きのあまり小さい悲鳴を上げていた。彼の名誉のためにそのことは触れないでおこう。イレイナは……俺の方を見てにやついていた。なんだ、俺が驚く姿を思い出したとでも言いたいのか。

 

「この国では今何が起きてるんですか」

「何ってお前知らないのか……?」

「ええまあ。旅人ですので」

 

 俺の答えに彼は「そうか……」と呟き、何故か周囲を見まわしてから口を開いた。

 

「ここ数日のことなんだが、毎日殺人事件が起きてるんだ」

「殺人ですか。それは物騒ですね」

「そうなんだよ。まだ犯人は捕まっていないから怖くてしょうがないんだ」

 

 連日起きている殺人事件。確かに一般人からしたら恐怖だろう。俺たちも襲われる可能性があるからもっと情報が欲しいところだ。

 

「よろしければもう少しだけ時間をいただいてもいいですか」

「いつ襲われるか分からない状況でこれ以上お前らに構っている時間はない!俺はもう家に帰らせてもらう!」

 

 殺人事件について詳しく聞きたかったのだが、やはり殺人犯が怖いのか青年は足早に去って行ってしまった。

 

「ええ……」

「まだ昼前なので犯人も動かないと思うんですけど」

 

 全くその通りである。こういった事件は夜に人目に付かない場所で行われているのがお約束ともいえる。ちなみに彼のようなことを言った人が被害者になるのもお約束である。彼が無事に明日を迎えられることを祈ろう。

 

「とりあえずレストランにでも行って昼食を取ることにしようか」

「そうですね、ところで奢ってくれたりはします?」

「イレイナが食べる料理を俺が決めても良いなら。きのこがたっぷり入ってるのを選んであげるよ」

「……あのー、そろそろ許してくれませんか」

「はて、なんことやら」

 

 そんな会話をしながら俺たちはレストランに行った。この国で殺人事件が起き、怖がった住民たちが外出してないせいか客が俺たちしか店内にはいなかった。

 

「なんだかレストランを貸し切ってる金持ちの貴族みたいな感じがするねー」

「何おかしなこと言ってるんですか。私たちのような旅人にそんなお金はありませんよ。さっさと決めて注文しましょう」

 

 思ったことを口にしたらイレイナに両断されてしまった。悲しい。

 メニューに書かれている中から一番食べたいと思った料理を頼む。今回はカルボナーラにした。イレイナは少し迷っているようだった。

 

「思ってたよりも高い……けど一番安いのを頼んでもお腹が……コーヒーも飲みたいですし……」

 

 どうやら財布と相談していたらしい。この前「見てくださいこのパン。『ここでしか買えないパン!期間限定販売!』と書かれていたので全部買ってみました。え、どんなパンかですか?よく見ないで買ったので詳しくは知りませんけど美味しいに決まってます。……不味い』などとお金をどぶに捨てていたのが効いているようだ。

 

「すみませーん、カルボナーラを二つにコーヒーを一つください」

「え……?」

 

 俺が勝手にイレイナの分まで注文したのに驚いたのか彼女の口は半開きになっていた。そんな彼女に少し笑ってしまう。

 

「俺の奢り」

「でもさっき――」

「良いの良いの。俺が食べたい料理を食べてる前で一番安い料理を仕方なく食べてる姿を見せられても困るだけよ」

「……写真の件はすみませんでした」

 

 イレイナがぺこりと頭を下げてくる。心なしか彼女のアホ毛も項垂れている気がする。

 

「何のことを言ってるのかな。知らないね、そんなこと」

「……次は私が奢ります」

「おや、それは楽しみだ」

 

 過ぎたことに対していつまでも怒っているほど俺は器量が小さい男ではない。イレイナの反応を楽しんでただけだ。写真の件はテーブルの上に放置していた俺も悪かったしね。

 

 料理が運ばれてくるまでの間はこれからの予定について話し合い、特に見るものは無さそうなのと事件に巻き込まれたくないから明日にはこの国を出ることに決まった。

 運ばれてきた料理を食べている間はこれといって中身のある話をするわけでもなく、料理の感想を言うくらいだった。

 

 昼食を食べ終わった後はウェイトレスに頼んで数日分の新聞を読ませてもらうことにした。普段なら店や他の客の迷惑になるかもしれないが、今は俺たちしか客はいないので気にする必要はないだろう。

 渡された一週間分の新聞の見出しを軽く読み進めていくと、最初の殺人事件が起きたのは五日前のことだと分かった。

 

 最初の被害者は二十代の男性。死因は体を一刀両断されたことらしい。凶器は不明で、鋭利な刃物ではないかと書かれてるし、魔法による風の刃ではないかとも書かれていた。

 遺体は路地裏で発見され、そこに残されていた血の量から現場も路地裏だと考えられている。近所の住人は被害者の悲鳴など聞こえなかったと語っており、当初は口を塞がれた状態で殺されたのかと思われた。しかし被害者の顔は恐怖や痛みに歪んだ顔ではなく、何かに驚いたような顔をしていたらしい。

 それからも昨日に至るまで毎日被害者が出てしまった。どの事件も遺体の状態や現場が路地裏という点から警察は同一犯による犯行と断定したようだ。

 

「ということらしい。さっきの青年が道の真ん中を歩いていたのは毎回現場になっている路地裏から距離を取りたいという理由だったんだろうね」

「物騒ですねー」

「他人事だね……。しかしこの事件には不思議なこともあってね。現場の近所に住人のうちの何人かは事件発生前後に子どもの泣き声が聞こえたらしいんだよ」

「子どもの泣き声ですか。とても子どもができるような犯行じゃないと思いますが」

「そうなんだよね」

 

 凶器が鋭利な刃物だろうと風の刃だろうと、殺害方法からそれを扱う犯人は武術か魔法に秀でた人物であることは分かる。少なくとも子どもと言えるような年齢ではないはずだ。なら一体誰が泣いているんだろうか。

 どうやら泣き声がするということからこの殺人鬼は『泣き鬼』と呼ばれているようだ。やっていることに対して通称が情けない感じがするが、かえってそれが住民たちの恐怖を煽っているのかもしれない。

 

「新聞から分かるのはこんなところかな。というわけでそろそろここから出ようか」

「その前にコーヒーのお代わりを頼んでもいいですか?」

「…………いいよ」

 

 

 

 

 

 

 レストランから出た俺たちは今日泊まる宿を探した。最初はお金を節約するために安宿にしようかと思ったのだが、防犯のことも考えて少しだけ高い宿を取ることにした。

 イレイナは「お金が……」とか言ってたので俺が二人分の宿泊費を払っておいた。ある程度の安全はお金で買えるが、命は買えないのだから出し渋るつもりはない。使えるお金にまだ余裕があるしな。

 

「カイは良いんですか?」

 

 いつも通り部屋を二つ取り、俺は自分の部屋に荷物を置いて一息ついていたところにイレイナがやってきて聞いてきた。

 

「何が?」

「泣き鬼のことですよ。あなたのことですから『これ以上犠牲者を出したくない』とか言って泣き鬼を探そうとするんじゃないかと思ってたんですけど」

「確かにこれ以上犠牲者は出てほしくないね。だから正直な話、後で街中を見て回ろうかと思ってた」

 

 これまで泣き鬼は路地裏で犯行に及んでいたが、だからといってこれからも路地裏のみで事件が発生するとは限らない。もしかしたらイレイナが狙われる可能性も……。明日にはこの国を出ていくとしてもできることはやっておきたい。

 

「危ないですよ、もしかしたら殺されるかもしれません。それでも行くつもりなんですか」

「それでもだよ。とはいえ俺も死ぬつもりはないから安心して欲しい」

「一体何を根拠に安心すれば良いんですか。……指輪の防御機能が発動したらすぐに帰って来てください。それが条件です」

「……分かった」

 

 イレイナは俺の答えを聞いて満足したのか自分の部屋に戻っていった。

 

 俺だって命は惜しいから無理をするつもりはない。だけど俺の隙をついて防御機能を発動させる相手から簡単に逃げられるだろうか。

 いや、弱気になっちゃダメだな。大丈夫、俺は師匠の下で強くなったんだ。相手が師匠よりも強いなんてことはないはずだ。

 

 俺は軽く支度を済ませてから宿を出た。

 

 

 

 

 

 

 俺は殺人現場である路地裏やそうでない路地裏を一個一個調べていった。しかし、特に泣き鬼の証拠を見つけることが出来ないまま夕方になっていた。

 

「ここで最後にしようか――って今は一人だった」

 

 ついイレイナがいるつもりで喋ってしまった。彼女が隣にいるのが当たり前のことになっているのだろう。そう考えると今は少し心細くなる。

 

 一度深呼吸をしてから路地裏に足を踏み入れようとした時、俺の耳に何かが聞こえてきた。

 

『グスン……グスン……』

 

「?」

 

 誰かの声がしたかと思って周囲を見渡すが、俺以外の姿はなかった。

 

「気のせいか……?」

 

 今度こそ路地裏に入ってみると、向かい側から誰かが歩いてくるのが見えた。

 

 歳は八十くらいの白髪の男性だ。杖をついてふらふらと歩く様は見てるこちらを不安にさせる。少し気になってしまうが俺は気にしないようにしながら路地裏を進んでいく。

 

 血などは見当たらない、泣き鬼がどこかに隠れている様子もない。どうやらここも外れだったのだろう――いや、泣き鬼が出ないのならそれに越したことはないから外れという表現は違うだろう。宿に帰るときに通る、既に調べた路地裏をもう一度見てみるか。

 

 そのまま路地裏を進み続けて男性とすれ違う瞬間、何かに躓いたのか転びそうになった彼を俺は慌てて受け止めた。

 

「っと、大丈夫ですか?こんなところ歩いてたら危ないですよ。近頃は物騒ですし」

 

 俺は声を掛けながら男性を立たせようとしたが、男性は何か小声で呟いていた。

 

「また泣いているのかい?そうか、こいつらがみんなを奪った奴らの仲間なんだね。今日は二人、今からそっちに送ってあげるから泣き止みなさい」

 

 ――殺気。

 

 俺は斜め後ろに跳び、さっきまでいた場所から三メートルほど後ろに着地した。

 

 跳んだ瞬間、何かが俺の胴体があった場所を横切った。躊躇なんてものを感じさせないこちらを殺しに来ている一撃だった。

 今の攻撃の鋭さからすると、もしも避けれなかったら俺の体は真っ二つに別れていただろう――ここ数日起きている殺人事件の被害者のように。

 

 つまり、目の前のこの男が連続殺人鬼『泣き鬼』なのだろう。

 

「――ッ!」

「今のを避けるか」

 

 泣き鬼を見ると、手には刀が握られていた。さっきまでは杖を持っていた筈である。では杖はどこに行って刀はどこから出てきたのだろうか。

 

 よく観察してみると、刀の柄の部分はさっき見た杖と同じ形をしているように見える。ならば答えは一つ。

 

「仕込み刀!」

「ご名答。奴らの仲間にしては腕が立つ。私の攻撃が避けられるのは初めてだ。だが殺す。死んであの子たちに詫びるんだ」

 

 何を言っているのか分からない。何故襲われなければならない。奴らとは誰だ、あの子たちとは誰だ。

 その答えを考えようとしたが、目の前の殺人鬼は待ってくれない。勢いよくこちらに斬りかかってきた。

 

「一体何のことだ!」

 

 瞬時に剣を取り出して防御する。人を殺すことに迷いがない一撃は俺が想像していたよりも重かった。

 仕込み刀と打ち合った瞬間に泣き鬼からは見えないように足払いを仕掛けるが、まるで見えてるかのように避けられる。並大抵の者なら今のを食らってくれるんだけどな!

 フェイントとして突然剣の軌道を変えてみても、読んでいたかのように防がれる。弓で牽制をしたいところだが、彼の速さを考えると剣を仕舞った瞬間に斬られてしまうだろう。

 

「無駄だ。お前では私には勝てん。覚悟が違うのだ。己のことしか考えない、大した覚悟もないままあの子たちを奪ったお前たちとは違う!」

「何を言っている!分かる言葉で説明してくれ!俺が何をしたって言うんだ、お前たちって誰のことなんだ!」

「盗人猛々しいとはまさにこのことだな!私の眼だけでなく、私の大切なものを全て奪っていったお前たちを私は許すことは出来ない!」

 

 何度目か数えることも忘れた打ち合いが行われる。そこで初めて泣き鬼の眼を見た。その眼には光が無く、視線を動かさないことから恐らくこちらのことなど見えていないのだろう。

 

「そうか眼が……。ということはまさか音だけでこちらの動きが分かっているというのか」

「だからどうした!私はお前たちに復讐するためだけに生きてきた!」

 

 泣き鬼の過去に悲しい出来事があったのは分かったが、何故か俺たちがやったと勘違いされてしまっている。

 まずは気絶させて拘束しないと碌に話もできない。だが普通にやっていてもこちらの攻撃は全て躱されてしまう。ならば、身を犠牲にしてでも相手の動きを止めなければ……!

 

「ハアッ!」

「甘い!」

 

 突撃する俺に泣き鬼は仕込み刀を振ろうとする。このままいけば指輪の防御が発動するだろう。その瞬間に一撃叩きこんで泣き鬼を倒す作戦だ。イレイナにはいろいろ言われるだろうが、泣き鬼を逃がしたり指輪の防御を無駄遣いするよりはマシだ。

 

「このまま突っ込んでくるつもりか!」

「逃がさな――ッ!」

 

 俺のしようとしていることに気付いたのか泣き鬼は驚きの声を上げた。あと少しで仕込み刀が俺の体に触れるという瞬間、上から何かが降ってきたので後ろに下がらざるを得なかった。

 何が降ってきたんだ、あと少しだったのに……。何かが降ってきた地点を見てみると、そこには見覚えのある老人がいた。髪の毛がない頭に皺が刻まれた顔だけを見るとその年齢を感じさせるが、真っ直ぐに伸びた背中からは老いなんてものは感じられない。

 

「……間一髪ってところじゃな」

 

 聞いたことがある声がした。その声を最後に聞いたのは数年前、平和国ロベッタの近くにある山の頂上にある家の中でだ。

 

 突如上から降ってきたもの――いや、人物はゴウザン師匠だった。




後編は一週間後に投稿予定です。
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