『師匠のナンパ術』
「ふんふんふーん」
平和国ロベッタの街道にて。学校が終わった俺は上機嫌に歩いていた。
「おや」
少し先に和服を着て頭には毛が一本も生えていない見覚えのあるお爺さんがいるではないですか。
「へいへいへーい、そこのお嬢さん。これから儂とお茶でもどうじゃ?」
もしかしたら別人かもしれないなーって願ったけれどあれはゴウザン師匠だ。二十歳くらいの女性にナンパしている。
「え……嫌だけど……」
当然の返答である。
「金ならたくさんあるぞ」
うわ……。お金で釣ろうとしている。下心の塊だなあ……。
「だから嫌だって!衛兵呼ぶわよ!」
「え?喜んでお供させてくださいじゃって?照れるのお」
「耳腐ってんじゃないの!?」
「腐ってたのはパン全体じゃ」
「何の話!?」
「そりゃ耳の話じゃよ。おかげで高い薬を買う羽目になったのお」
「知らないわよ!ちょっとー!衛兵!衛兵!」
ウザい師匠に付き合いきれなくなったのか女性は大声で衛兵を呼んでいた。
「どうされましたか?」
「このお爺さん迷惑なんで連れて行っちゃってください!」
「は、はあ……。事情はよく分かりませんが承知いたしました」
「むっ!何をするお主ら!儂を誰だと思っておる!あああああああ――」
すぐに駆け付けた衛兵に師匠は連れ去られていった。
こうして街に平和が戻ったのである。
●
「ふうー。酷い目に会ったわい」
「それはこっちのセリフですよ……」
結局俺が衛兵を説得して師匠を解放してもらった。こんなのでも俺の師匠なので修行ができなくなるのは困る。
「最近は上手くいかんのう」
「いつもあんなナンパしてるんですか?」
「うむ」
「なんでそんなナンパを……?」
「以前読んだ本に書いてあったからのう」
どんな本だそれは。
「そんなので上手くいくとは思えませんがねー」
「いや、それなりに成功しておるぞ」
あんなナンパの仕方で釣れる女性がいるのか……。世界は広い。
「それでその女性たちとはどうなったんです?」
「簡単に会うことができない場所におるのう」
「それって……」
師匠が独り身なのって今まで付き合った女性が何かしらの不幸にあってこの世から去ってしまったということなのでは。世界が違かったか。
「これが儂の宿命というものなのかもしれん」
「師匠……」
なんだか暗い雰囲気になってしまった気がする。これ以上この話題を続けるのは止しておこう。
「師匠。後で美味しいパンを持って行きます。腐ってない出来立てほやほやのです。一緒に食べましょう」
「む?どうした急に。まあいいが」
「楽しみにしててくださいねー」
俺は師匠に別れを告げ、小走りでバイト先に向かった。早く上がって美味しいパンを作るために。
その後俺は美味しいパンを作り、修行を始める前に師匠と一緒に食べたのであった。
●
「ということが今日あったんだ」
「なるほどねー」
俺は夕食を食べている時に今日の出来事を父さんと母さんに教えていた。
「師匠って本当に昔からあんな感じにナンパしてるの?」
あれ以上本人から聞き出す勇気はなかったので昔からの付き合いの両親に聞くことにした。
「そうだね、師匠は昔から街で女性をナンパしてたよ。僕はそのナンパが成功してるのも見たことがあるねー」
「でもその女性はもうこの世には……」
師匠ほどの実力を持った人ならばどんな脅威からでも女性を守れそうなのだが、そんな彼でも誰かを守ることだできない事態とはどんなものなのか気になってしまった。
「ん?何を言ってるんだい?」
「え。だからその師匠のナンパに引っかかった人は事件か何かに巻き込まれて亡くなったんでしょ?」
「全員生きてるわよ」
「えええ……?」
……どゆこと?
「何故かは知らないけど師匠のナンパで釣れる女性って犯罪者なんだよねー」
「でも簡単に会うことができない場所にいるって……」
「そりゃ牢獄の中にいたんじゃ簡単に会うことなんてできないわよ」
ええ……。
「師匠はこれが儂のナンパ術じゃ、とか言ってたねー。声は震えてたけど」
「そのお陰で平和になった国もあるらしいわよ。この国は平和だからあの人のナンパが成功することはないでしょうね」
「……………」
あの師匠、ややこしい言い方してくれたな……。
●
「このクソ師匠が!元気付けようと頑張ってパンを作った俺の純真な気持ちを返せ!」
翌日の修行開始時。俺は師匠の顔面に向かって拳を振るう――
「誰がクソ師匠じゃ!それと儂は米派じゃこの馬鹿弟子があああ!」
前に師匠の拳が俺の顔面に入って俺は吹き飛ばされたのだった。悔しい。
『魔道具の作り方:入門編』
「ユーがシンとエイラの息子のカイだなあ?」
「はい。今日からよろしくお願いします」
「ミーはヘイス。よろしくなんだなあ」
旅に出た時のためにいろんなバイトをして経験を積んでいる俺であるが、今回世話になるのは変わった道具を作る店らしい。店主のヘイスさんはガタイがよく、優しい口調の男性だ。
「ユーにはこれから『魔道具』の作り方を学んでもらうことになるんだなあ」
「魔道具?何ですかそれ」
「簡単に言うと魔法使いのための道具だなあ。使用者の魔力を使って特定の動作をするんだけど『魔道具』って名称はミーが勝手にそう呼んでるだけなんだなあ」
「なるほど」
初めて聞く単語だと思ったが納得した。
「その魔道具ってどんなものがあるんですか?」
「いい質問だなあ。これを持って魔力を流してみて欲しいんだなあ」
「どれどれ……」
ヘイスさんから渡されたランタンのような物に魔力を軽く流してみる。
するとランタンの中が光り、辺りを照らす。まだ昼なのでそこまで恩恵は感じない。
「……………」
「あ、その微妙そうな顔はこれだったら普通に魔法を使った方がいいんじゃないかと思ってる顔だなあ」
「ええまあ……」
このランタンより杖を持った方が他の魔法も使うことができるからあまり意味がないように思える。
「それはユーがそう思えるだけの実力を持っているからなんだなあ」
「実力?」
「そう。まだ魔法に触れ始めたばかりの子なんかは光を出すのも精一杯。魔法は込める魔力とイメージが大事なんだなあ」
「なるほど」
ヘイスさんが言いたいことが分かってきた。確かに俺は魔法を習い始めた人より実力があると言えるだろう。魔女見習いや魔女なんかとは比べものにならないのだが……。
「これはそんな子たちのための道具なんだなあ。まあおしゃれだから使うって言う人もいるんだなあ」
「他にはどんな魔道具があるんですか?」
「そうだなあ。服だったりアクセサリーだったり武器だったりと様々な種類があるんだなあ」
「ほうほう」
店内に置かれている魔道具は一見小物に見えるものや持ち運びできないくらい大きなものもあった。
「魔力を込めると行う動作はある程度自由に決められるから形は自由でいいんだけど分かりやすくするとベストなんだなあ」
「何故?」
「どんな動作をするか一目で分かると他の動作の魔道具と間違えることはなくなるし客にも売れやすいんだなあ」
「ふむふむ。例えば魔力を込めると足が速くなる魔道具だったら靴として作った方が分かりやすくていいとかですかね?」
「そんな感じだなあ。けど靴はすり減ってしまうから魔力を使ってすり減らないようにするかメンテナンスを欠かさないようにする必要があるんだなあ」
魔道具というものはなかなか面白そうだ。自分の発想次第でいろんなものを作れるし、頻繁に使う魔法と同じ効果の魔道具を作って身に着けてしまえばいちいち杖を取り出す手間もなくなって楽だろう。
「少し長話になっちゃったけど早速作っていくんだなあ」
「はい、よろしくお願いします!」
一際いい返事をしてから俺はヘイスさんに魔道具の作り方を教わり始めるのだった。
●
「形は自由と言ったけど、材料は自由じゃないんだなあ」
まずは魔道具の材料となるものについてだ。
ヘイスさんはテーブルに材料をいくつか置いた。木材や金属が大半なのだが瓶に入った液体なんかもある。
「これらは魔力を通しやすいから魔道具を作るにはピッタリなんだなあ。何がいい材料かはこれから憶えていくように」
ヘイスさんは金属の内の一つを手に取った。
「魔道具を作る時に大切なことは何だか分かるかなあ?」
「……魔力を通しやすいように加工することですかね?」
「違うんだなあ。答えは想い!ユーの熱い情熱が!最高の魔道具を作り上げていく!」
ヘイスさんは大袈裟に手を広げて叫ぶ。何かスイッチが入ったようだ。
「いくら技術が優れていようと!どんなにいい材料を使ったとしても!作り手の想いが籠ってない魔道具なんてものは!あってないようなもの!!!」
「あ、はい」
ヘイスさんの声はどんどん大きくなっていく。これどうすれば止まるのだろうか。
それからヘイスさんは何の言語を話しているか分からない声を上げた後、満足したのか普通の声量に戻っていた。
「じゃあ作ってもらうんだなあ」
「何を作ればいいんですか?」
「好きに作っていい……と言いたいところだけど今回は初日だしこの金属を叩いて延ばすところから始めてみるんだなあ。これが案外難しいんだなあ」
そう言ってヘイスさんは手に持っていた金属と鎚を渡してくれた。それらを受け取った俺は金属を叩いて延ばすのだから鍛冶場にあるような炉で作業をするのだろうと思って辺りを見回したのだが、そんなものはなかった。
「どこでやればいいんですか?」
「ここなんだなあ」
ヘイスさんは魔法でテーブルの上にあった材料を仕舞ってから答えた。
「ここで叩いても金属がへこんだり変形はしても綺麗な形にはなりませんよね?」
「ここは魔道具を作って売る店なんだなあ。当然その鎚も魔道具なんだなあ」
俺は鎚に魔力を流してみるが見た目に変化はない。魔道具だと言うのだからてっきり炎でも出てくるのかと思ったのだが違ったようだ。
試しに金属をテーブルの上に置き、鎚に魔力を軽く流しながら金属を叩いてみる。すると――
「おお」
大して力を入れてないのに金属が簡単に延びていくではありませんか。なんとびっくり。
「その鎚は魔力を流すと金属を簡単に加工できるようになってるんだなあ」
「これは……新しい世界の扉が開かれた感じがしますねー」
こういった金属の加工って基本高温でやる必要があるのだが、魔力があればそれが簡単にできるのは凄いな……。
「それじゃあ次からは想いを込めて叩くんだなあ」
「えーっと、こうですか?」
先ほどよりも強めに金属を叩く。想いについてはいい魔道具を作るぞという意気込みを込めてるつもりだ。
「もっと!」
「こうですか!」
「もっと!!」
「こう!ですか!!」
「もっと!!!」
「こう!!!」
「もっとおおおお!!!!!」
「はああああああ!!!!!」
――バキン!
「「あ」」
思い切り鎚を振り下ろしたら金属を叩き延ばすことはできたのだが、その衝撃にテーブルが耐えることができなかったようで真っ二つになってしまった。
物を作るのって難しい。
『物々語:賢しい少女と甘やかす幼馴染』
「今日はクロワッサン。外はカリっとしていて中はふわっとしている。完璧だ」
俺は平和国ロベッタでバイトが終わった後、パン屋の店主にお願いしてパンを作らせてもらっていた。今回作ったクロワッサンは今までの一番を争うんじゃないかという出来だ。美味しい。
時計を見てみると師匠との修行が始まる夕方まで、まだまだ時間があった。今日はバイトが早く終わったからイレイナやフランさんとゆっくり話ができそうだ。
俺はクロワッサンが入った紙袋を鞄に入れて彼女たちがいるロベッタの近くの森の奥にある家に向かった。
「もしもーし。いますかー」
「はいはい、今日はどうしましたか」
フランさんの家のドアをノックすると、イレイナが中からドアを開けてくれた。
「今日も遊びに来たよ」
「前は私の家に全く遊びに来なかったのにこの家にはよく来ますね。もしかしてフラン先生が目当てなんですか」
「いやいや、こうして遊びに来ないとイレイナがまた俺のこと信頼してくれなくなっちゃうんじゃない?」
俺がイレイナと一緒に魔法の練習をしなくなってから、彼女は俺が一緒に旅をしようという約束を忘れてしまったと思ったようだから、たまに顔を出すようにしているのである。
「もうなりませんよ。というか結構な頻度で来てますよね。修行の方は大丈夫なんですか」
「大丈夫。ちゃんと毎日頑張ってるから。今回はクロワッサンを持ってきたよ。さ、中に入ってフランさんとも一緒に食べようか」
「あ、それがですね。フラン先生は今出かけてるんですよ」
「フランさんが出かけてる……?」
珍しいこともあるものだ。俺が訪れるときは大体フランさんは家の中でゆっくりしているのだが……。大事な用事なのかもしれないな。
とりあえず家の中に入らせてもらい、いつものように椅子に座る。
「本当は皆で一緒に食べたかったけど仕方ない。俺たちはパンが冷めきらないうちに食べちゃおうか」
「はい。ですが、恐らく先生の分はいらないと思いますよ」
「どゆこと?」
「それがですね――」
イレイナはフランさんが出かけてる理由について教えてくれた。
どうやらイレイナが作った『物に命を吹き込む薬』なるものをフランさんが持って行ってしまったらしい。フランさんはその薬を使ってパンをたくさん貰ってくると言っていたのだが、あの人のことだから帰る途中でそのパンを食べてくるだろうから俺が作ったクロワッサンはいらないかもしれないということらしい。
イレイナのフランさんに対する信頼の無さというか逆に信頼しているというか。俺は信じてますよフランさん……。
「一応フランさんの分は残しておくからね。一応」
「もしも先生が帰り道の途中にパンを食べているようであれば先生の分は私が貰いますから」
「その時はフランさんの自業自得な気がするからいいけどそんなことするかな?それにしても『物に命を吹き込む薬』か。凄いものを作ったねー」
「まだ予備が残っているので使ってみますか?」
「いいね。面白そうだしやってみよう」
俺はイレイナから青色の液体が入った小瓶を受け取り、早速自分が座っている椅子にかけてみた。さて、どんなことを言われるかな。
「あのう……ちゃんと座ってもらえませんか……?これじゃあ椅子としての役割が果たせないんですけど……」
「…………俺が座ると壊れるんだけど」
「あっ、じゃあいいです……」
「なんかごめん……」
俺に掛かっている過重力の重さで壊れてしまいそうだからなあ……。椅子として作られたのに座ってもらえないのは不満だろうが、俺は強くなるためにやっていることだから仕方のないことだ。
気を取り直して別の物にもかけてみよう。うーん、何か面白そうな物は……あれにしよう。
「屈強な少年に怪しい液体をかけられ、汚されてしまった物とは一体誰でしょう?」
「…………」
「そう、たわしです」
やかましいわ。
●
俺がいろんな物に薬をかけて遊んでいる間に夕方になっており、そろそろ師匠のところに行こうかと思った時に丁度フランさんが帰ってきた。食パン一斤だけを持って。
イレイナの話ではフランさんはたくさんのパンを貰ってくるはずだったのだが諸事情とやらでこれしか貰えなかったらしい。しかも薬はほぼ使い切ったとか。これはもしや……。
「まさか二人とも私を疑ってます?イレイナはともかくカイは私のことを信じてますよね?本当に本当に、パンはこれしか貰えなかったんです」
「私はともかくってどういうことですか」
「俺としては信じたいのは山々なんですがその諸事情とは一体?」
「それはちょっと諸事情で言えません」
「その小瓶に入っていた量はイレイナから聞いているんですけど、それをほぼ使い切って食パン一斤ってどうなんです?」
「それもちょっと諸事情で」
「口元にパンくずがついているような気がしますが」
「それまた諸事情で。なかなかしつこいですね」
「…………」
フランさんはパンくずをふき取りながらあっけらかんと言いのける。パン食べましたね?
イレイナは薬が入っている小瓶に聞いて、フランさんが帰り道の途中にパンを十個食べていた事実が判明した。フランさんは目を逸らして黙ってしまった。
「まあ先生が帰り道の途中でパンを食べたことについてこれ以上聞くのはやめてあげましょう」
「え、まじですか。いやあ優しい弟子を持てて私は幸せ者ですね」
イレイナの言葉にフランさんは気まずそうな雰囲気から一転して嬉しそうに手を叩く。
「その代わり、カイが作って来てくれたパンは全部私のものです」
「……はい?」
「なに不思議そうな顔をしてるんですか。先生は既にパンを食べたんですよね。ならパンはもういらないでしょうし私が貰います」
「いえいえいえ。カイは私の分も作って来てくれたんですよね?なら私が食べるべきです。ですよね?」
慌てた様子のフランさんが俺に助けを求めてくる。
「それ全部イレイナのです。では俺はこれから師匠との修行があるので」
「あ、ちょっと――」
俺はそう言い残してフランさんの家を出ていった。フランさんが何か言いたそうだったが無視することにした。信じてたんだけどなあ……。
●
イレイナが作った薬を見せてもらってから数日後、再び俺はフランさんの家を訪れていた。今回はドーナツを作って持ってきた。
現在は三人でドーナツを食べている最中であった。
「カイ、先生。この前作った『物と会話できる薬』ですけど、あれ、欠陥品でした。今はもっと凄いものを作ってます」
イレイナが言うには、あの薬にはいろいろと改善点があるらしい。今度は物が人間の姿を取るようにするつもりらしい。
「あの薬でも十分に凄いと思うんだけど。イレイナは凄いなあ」
「おや。お世辞ですか?」
「いや本心」
「もっと褒めてもいいんですよ」
「よっ、流石イレイナ!未来の魔女!素敵!」
「うふふふ。そんなことは……あるかもしれませんねー」
「…………」
『親愛なる師匠へ』
師匠。大変です。
カイがイレイナを褒めまくります。そのせいでイレイナが調子乗りまくりです。火に油です。
正直私も褒められまくりたいです。
『親愛なる一番弟子へ』
カイ君には私の方から注意しておくわ。
あなた褒められるようなことしてるのかしら?彼はそのあたりしっかり見てくれるはずよ。
『親愛なる師匠へ』
してませんね。
『親愛なる一番弟子へ』
なら諦めなさい。
●
またまたフランさんの家を訪れていた。今回はイレイナから届いた手紙に『この前言っていたものが完成しましたので今度見に来てください』と書いてあったからである。
余談ではあるのだが、ヴィクトリカさんに「あんまりうちの娘を甘やかしちゃ駄目よ」などと言われてしまった。
甘やかしているつもりはないと返事したところ、「そ、そうなのね……。けどなるべく褒めたりしないようにして頂戴。あの子すぐ調子に乗るから」と微妙に顔が引き攣っていた気がする。
俺は凄いと思ったことは素直に言うようにしているから難しい気もするが、まあ気を付けるようにしておこう。
「すみませーん。誰かいますかー」
「はいはいカイですね。今日は一体どんな用件ですか」
扉をノックするとフランさんが出てきた。
「イレイナに呼ばれて来ました」
「なるほど。確かにあの子はあなたに自慢したがってましたからね。それではどうぞ」
「ありがとうございます」
フランさんに家の中に招き入れてもらうと、知らない誰かとイレイナの声が聞こえてきた。
「愛に性別は関係ないわ!」
「え、ちょっ――わあ!」
そこからの俺の行動は早かった。
イレイナの声が聞こえた場所まで行き、彼女の上に馬乗りになり、そのまま顔を近づけている女性を上に投げ飛ばした。天井にめり込んだ。
「イレイナ、大丈夫?」
「今のところは、なんとか……。ありがとうございます」
俺は倒れているイレイナを抱き起し、彼女を襲おうとしていた女性がいる場所――天井を見るが、そこに女性の姿はなかった。
周囲を見回してみるが、イレイナの杖が落ちていること以外には異常は見られなかった。杖を手放してしまったイレイナは自分の身を守ることが出来なかったようだ。
「危ないところでしたね。色々と」
遅れてやってきたフランさんが俺たちのことを見て何かを察したらしい。
「さっきまで俺の知らない女性がいたと思うんですけど見ませんでしたか?」
「それならこちらですね」
フランさんはそう言って床に落ちているイレイナの杖を拾い上げて俺に見せてきた。
「杖?」
「そうです。イレイナは『物を人に変える魔法』を完成させ、調子に乗っていろんな物にこの魔法を掛けてましたからね。今回は自分の杖を人の姿に変えたところ襲われたようです」
「…………」
フランさんはこうなった事情を俺に教えてくれた。イレイナは落ち込んでいるのか下を向いていた。
「人も物も同じです。何もかも思い通りになるわけではないのですよ。カイ、申し訳ありませんが今日のところは帰ってもらってもいいでしょうか?イレイナのことはそっとしておいてあげてください」
「……分かりました」
「彼女のことを助けていただきありがとうございます」
「いえ……。それじゃあイレイナ。えーっと、また来るから」
「はい……」
イレイナに掛けてあげる上手い言葉を見つけることが出来ないまま俺は家を出た。
自分の物に襲われるか……。普段俺が使っている物はどんなことを思っているか怖いな。もしも恨まれているとかだったら、俺はその物に対してどう接すればいいんだろうか。なるべく穏便に済ませたいところだ。
●
「という出来事がありましてね。師匠はどう思います?」
ロベッタの近くの山の頂上にある道場で修行を始める前に、俺は師匠に今回の話をしていた。
「どう思うかと聞かれても儂からすればどうでもよいことじゃ」
「自分の物にどう思われているかとか気になりませんか?」
「ならん。元々聞けない声の話なんぞに興味はない!考えるだけ無駄じゃ。お主は強くなることだけを考えておれ。この話は終わりじゃ」
まあそうかもしれないが、ここまできっぱりと言われるとなんとなく俺の気にしすぎなのではないかと思わされる。少しだけ気が楽になった。
「ところで師匠がずっと大事にしているあのボロボロになった本は何を喋るんでしょうね?」
「この話は終わりだと言ったじゃろう!馬鹿弟子が!」
次の瞬間には俺は吹き飛ばされていた。俺もやり返そうとしたが、いつも通り師匠に一撃を与えることなくその日の修行を終えるのだった。
『師匠のナンパ術』
ゴウザンがナンパする話。カイの修行が終わった後も変わらず各地でナンパしています。ナンパに引っかかる女性は悪女ばかりで運命が彼に意地悪してるんですかね。
『魔道具の作り方:入門編』
カイが魔道具の作り方を教わり始める話。入門編としているが続きがあるかは不明。この話も半分思いつきで書いた話です。
『物々語:賢しい少女と甘やかす幼馴染』
実は本編として投稿しようとしていた話。上の二つの話だけだと短かったのと旅に出る前の話だったのでこちらに入れることにしました。ストックが一つなくなったとも言います。