一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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お待たせしてすみません!!
三巻分の話を書き切れてませんが前回の投稿から一ヶ月近く経ちそうだったので投稿です。
モチベがないとかではないんですけどね……


お酒を飲むペースには注意しよう

 

 

「問題です。天使っぽくもあり、悪魔っぽくもある魔女は誰でしょう?」

「……………」

「そう、私です」

 

 のどかな田舎道を走っている時にふとイレイナが変なことを言い出した。

 

「天使の部分は同意するとして、イレイナはお茶目なところがあるから悪魔というよりは小悪魔かなー」

「うるさいですよ」

「俺は何っぽいかな?」

「………サラリーマン?」

「うん、服装だけ見てるねそれは。もっとこう、姫様を守る騎士とかないの?」

「私は守られるだけの存在ではないのでそれはないですね」

 

 なかなか手厳しいものである。

 俺としてはイレイナには安全な場所にいて欲しいのだが、優しい彼女としては俺だけ戦うことを快く思っていないようで、この前の泣き鬼の時もそんな元気がない顔をして帰ってくるなら自分も連れて行けと怒られてしまった。

 

 確かに魔女であるイレイナがいれば百人力だ。しかし俺は自分の実力に絶対の自信があるわけではない。俺のミスでイレイナが傷付いてしまうなんてことだけは避けたいから何が起きるか分からない場合は彼女を連れて行きたくはないのだ。

 ゴウザン師匠との修行で俺も強くなったのは分かっているのだが、それを全力で発揮できた覚えがあまりない。できたのは師匠との修行の時や猫が称えられていたあの国にいた時くらいだろう。誰かに俺は強いと自分で言っている時は俺自身にも言い聞かせているのだが、やはり自信は持てない。

 

 

 

「見えてきましたね」

「……そうだねー」

 

 イレイナの声に思考を中断する。少し先には二つの小さな村が見える。そこは今回の目的地であるぶどう酒村と呼ばれている村たちだった。

 

 

 

 村の片方に訪れてみると、村人たちは俺たちのことを大歓迎してくれた。いや、俺たちというよりはイレイナの方ばかり見ていたような気がする。

 村人に案内されて村長の家に行くと、そこには初老に差し掛かった老人がいた。きっと彼が村長なのだろう。

 

「しかしお主、めんこいのう」

「あー、もしかして俺って可愛く見えます?」

「いや、魔女殿に言ったんじゃが」

「私が可愛いのは知ってます」

 

 …………まあ、今のは俺が悪いだろう。この村の人たちが俺に全然興味を持ってくれないから出しゃばったとかそんなのではないとだけ言っておこう。誰も俺の方に視線を向けなくて寂しかったとかではない。

 

「この村ってぶどう酒が有名なんですよね?」

「然り。ぶどう酒は我が村の特産物であるぞ。……して、お主ら、結構若いが、ぶどう酒は好きかね」

「んー」

「俺は酒に弱すぎるので飲めないんですよねー」

 

 そう、俺は酒に弱いのだ。昔の話だが師匠の家にある酒を間違って飲んでしまったことがあるが、一口飲んだだけで気を失ってしまった。それくらいダメなのだ。

 ちなみに父さんも酒に弱い。母さんも嗜むくらいしか飲まないから遺伝なのだろう。

 

 今回はイレイナがぶどう酒を飲んでみたいらしく、だからこそ美味しいと噂のこの村を訪れたのだ。 村長が語るには自分たちの村のぶどう酒の方が美味しいらしいが、噂だとどちらも同じ味だと聞いた。

 

「あっちの村といったら強情なものでな、我が村に負けたくないらしく、最近、あることをし出したのじゃ!けしからんことにな!」

「へへえ」

 

 競合相手に勝つためにはいろいろ工夫するのは当然なのではないだろうか。とはいえぶどう酒に誇りを持っている人たちだからこそ味だけで勝負をして欲しいとか思っているのかもしれない。

 

「それがこのぶどう酒じゃ!」

 

 村長はテーブルの上に大きな音を立てながら一本のワインボトルを叩きつけた。そのボトルに張り付けられたラベルにはぶどうを踏んでいる女性が印刷されていた。

 

『わたくしが愛情を込めてぶどうをふみふみしました』『原産地:あっちの村のぶどう踏み乙女のローズマリーちゃん』とも書かれていた。あっちの村というのはもう一つの村のことで、この村はこっちの村というらしい。ややこしい。

 

 言いたいことはいろいろあるが、このラベルにしてからあっちの村のぶどう酒の売り上げはフェチズムやら何やらで伸びているようで、こっちの村は困っているらしい。

 まあ結果が出ているように、良い手であるのは確かだ。味が同じぶどう酒なら女性が印刷されているラベルの方を選ぶ人は多いだろう。俺はそういうところはあまり気にしないからどちらでも良いのだが。

 

「では可愛い女の子にぶどうをふみふみさせて対抗してみたらどうですか」

「よくぞ言った!その通りである!めんこい乙女にぶどうをふみふみさせれば、我々は勝てるのである」

「は、はあ……」

「というわけでお主!やってくれ」

 

 どうやらこっちの村のぶどう酒を買うことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 イレイナが返事をする前に家から飛び出た村長は大声で彼女がぶどうをふみふみしてくれると言っていた。こっちの村の男性たちはそのことに大喜び、女性たちの目は冷めきったものだった。怖い。

 

「さあ皆の者!でっかい桶とぶどうをありったけ持って来い!死ぬまで踏ませるぞ!」

「応ッ!」

「カイ、何やってるんですか」

 

 ぶどうを持ってくるのさ。イレイナがふみふみしたぶどう酒なら俺も頑張って飲んでみようかと思う。ククク、楽しみだ。

 俺は村人たちと一緒にぶどうを取りに行き、戻ってきてみると何故かイレイナがぶどう踏みをやる気になっていた。村長に聞いてみると、ローズマリーちゃんが来てイレイナのことを馬鹿にしていったらしい。

 

 

 

 ぶどうをふみふみするためにイレイナは赤いメイド服のようなものに着替えていた。この村の伝統なのだとか。即座に写真を撮りました、ありがとうございます。あっ、睨まれた。

 イレイナはぶどうがたくさん入った桶の中に足を下ろしてぶどうをふみふみし始めた。

 

「死ね……死ね……死ね……死ね……!」

「ええ……」

 

 なんか背後からどす黒いオーラみたいなのが見える気がする……。きっとストレスが溜まっていたんだろうな……。今度俺の奢りで好きなものを好きなだけ食べさせたりするべきなのだろうか。

 桶の周りで男性たちが歓声を上げていたが女性たちの姿がないことに気付いた俺はどこにいるのだろうかと探してみると、少し離れた場所で大きな桶の中にぶどうを入れていた。

 

「何やってるんですか?」

「あら、あなたはさっきの魔女様と一緒にいた人ね。私たちはいつも通りのラベルのぶどう酒を作ろうとしていたのよ。あっちはたくさん作れないだろうしねぇ」

「なるほど。しかしこの量のぶどうを踏むのって大変だと思いますし、よろしければ手伝いましょうか?やったことはないですけど、俺は鍛えているので自信はありますよ」

「……アリね。ならやってもらおうかしら」

 

 何がどうアリなのかは分からないが、俺もぶどうをふみふみすることになった。

 俺も着替える必要があるかと思ったけどスーツのままで良いらしい。というか着替えないで欲しいって言われた。そっちの方がそそるらしい。

 

 俺はズボンの裾を上げて裸足になり、足を洗ってから桶の中に足を下ろした。

 過重力を掛けたままだったからか、ぶどうの粒は勢いよく潰れていき大量の果汁を吹き出した。ちょっと強かったかもしれないので過重力を弱めておく。

 後は踏み続けるだけで良いのか聞こうかと思って女性たちの方を見ると、何故かカメラを用意していた。

 

「何です?そのカメラ」

「あなたのことを撮るために決まってるじゃない」

「何故取る必要が?」

「あなたの写真を使ったラベルを作るためよ」

「さっきはいつも通りのラベルのぶどう酒を作るという話だったはずですけど……」

「予定変更よ。あなたなかなかカッコイイし女性に売れるわよ。ふふふ、フェチズムをくすぐるわね」

 

 この村の男性も女性もあんまり変わらないのかもしれないな……。

 

 それから俺はぶどうをふみふみし続けた。結構踏めたと思うので終わりにさせてもらうことにした。

 

「どれくらいの量のぶどう酒ができそうですか」

「そうねぇ、ワイン樽一つと半分くらいかしら。このペースでこの量は凄いわよ。これからもここで働かないかしら?」

「俺は旅人なので遠慮しておきます。そうだ、さっきまで向こうでイレイナがふみふみしてたぶどう酒を三本この住所に送ってくれませんか」

「手伝ってもらったからそれくらいなら良いわよ。でもお金は頂戴ね」

「しっかりしてますねー」

 

 俺の実家の住所が書かれた紙と金貨数枚を渡しておく。ぶどう酒を買うにしては多い金額だがこれくらい出しておけば確実に送ってくれるだろう。

 イレイナと合流しようと思って指輪に魔力を込めたところ、彼女はこっちの村とあっちの村の間にいるようだった。ぶどう踏みの乙女の姿からいつも通りの姿に着替えてどこかに行くのは見ていたのだが何故そんなところに?

 彼女がいる場所まで向かってみると、ローズマリーちゃんらしき人物が縄で縛られていた。その様子に気付いた二つの村の村人も集まって来ていた。

 俺はこうなった経緯を聞くために片手にワイングラスを手にしたイレイナに近付いた。

 

「何があったんだい?」

「どうやらあっちの村の人たちは産地偽装をしていたんですよ」

「産地……?」

「あのローズマリーさんが描かれていたぶどう酒はあっちの村の男性たちが踏んで作っていたんですよ。彼女が一人で踏んでいるにしては販売されているぶどう酒の数が多かったですからね」

 

 産地ってぶどうの産地じゃなくてあのラベルに書かれていたぶどうを踏んだ人の方ね。確かに書かれていたけど一瞬そのことを忘れていた。

 

「……いや、それはね、なんというか……その」

「というよりローズマリーさん。よくもまあ、男たちに無理やり作らせたぶどう酒を美味しそうに飲めますよね。罪悪感とか不快感とかないんですか?」

「あ、それは大丈夫。かなり前にわたくしがふみふみしたやつだから」

「それは?かなり前?」

「……しまった」

 

 つい本当のことを言ってしまったようだ。原産地にするんじゃなくて『こちらはイメージです』みたいな感じにしておけば良かっただろうに。

 

 二人の会話を聞いたこっちの村の村人たちは怒り、ぶどうをローズマリーちゃんに投げた。ぶどうの粒のほとんどはローズマリーちゃんに当たったが、イレイナの方にもぶどうの粒がいくつか飛んできていたので彼女に当たる前にキャッチした。

 ローズマリーちゃんにぶどうの粒が当たったことであっちの村の村人たちも怒り、ぶどうの粒を投げ始めた。こっちの村とあっちの村の間にいる俺たちの方にもぶどうの粒は飛んでくる。かなり数が多いので俺は自分の体を盾にしてイレイナにぶどうの粒が当たらないようにする。

 ローズマリーちゃんは今回のことを反省して欲しいのでそのままにしておこう。

 

「……どうしますのよ、これ」

「…………」

「しばらく耐えるしかないか……」

 

 俺のスーツがぶどうの匂いまみれになっていき、一度イレイナを連れてどこかに行こうかと思って振り返ってみると、彼女は杖を取り出していた。

 

「……ふふ。うふふ。本当にもう……さては皆さん、私たちを馬鹿にしていますね?」

「……イレイナ、何しようとしてるの?ちょっと――」

 

 俺の問いに答えることなくイレイナは杖を振るう。

 その瞬間村人たちが投げたぶどうの粒や、まだカゴに入っていたぶどうが村人たちに向けて発射される。

 

 その速度は普通に投げるよりも何倍も速く、もはや弾丸と言っても過言ではないぶどうの粒に当たった人たちが次々と気絶していくのが見えた。しかもイレイナはワイングラスに入ったぶどう酒を飲み続けている。

 

「はは!あはははははは!はははははははは!」

「イレイナ!?ぶどう酒を一度に飲みすぎ!」

「何ですかあ?邪魔するんですかあ?あなたも困った人ですねえ」

 

 イレイナからワイングラスを奪おうとするが、その前に彼女は俺にまでぶどうの弾丸を飛ばしてくる。

 

「うおおおおっ!」

 

 俺は避けたり盾を出して防いだりするが、流れ弾が村人たちに当たってどんどん気絶していった。

 

 

 

 

 

 

 イレイナによる攻撃が止まったのはその場にあるぶどうの粒を全て撃ち切り、村人全員が気絶してからだった。

 弾が無くなったことでイレイナに近付くことが出来たのだが、近付いた瞬間彼女が崩れ落ちたので慌てて受け止める。顔を見てみると満足そうな顔をして眠っていた。

 

「ごめんなさいもうしません」

「ん?」

 

 足元の方から声が聞こえてきたので見てみると、ローズマリーちゃんが涙目になってうわごとのように呟いていた。

 

「……まあ、これからは真面目にぶどうをふみふみするのがいいんじゃないですか?あとイレイナを馬鹿にしたようなので縄は誰かほかの人に解いてもらってください。それではさよならー」

 

 俺はそう言ってからイレイナを背負って村長の家に行き、魔法で荷物を仕舞い、スーツに染み込んだぶどうの果汁を取り除いてから村を出た。

 

 

 

「ん……」

 

 田舎道を歩いている内にすっかり日が変わり、日が昇り始めた頃。ようやくイレイナが目を覚ました。

 

「あれ……私は……」

「おはよう」

「おはようございます……」

 

 彼女はまだ寝惚けているようだった。

 

「カイ……。私の顔って微妙ですか……?子どもみたいな体型ですか……?」

「そんなことはないよ」

「そうですか……。ならよかったです。えへへ……」

 

 イレイナは俺の答えを聞いて嬉しそうにしてから再び眠ってしまった。ローズマリーちゃんに馬鹿にされたのはそういう部分なのね。

 

 心配する必要なくイレイナは可愛いし、子どもみたいな体型だなんて俺は思ったことはない。まるで天使だと思えるくらい魅力的な女性だ。

 そんな人と一緒に旅をしている俺は幸せ者だよ。いつか故郷に戻った時、一緒にぶどう酒を飲みながら今回の話をしたいものだ。俺は酒に弱いが、その時は頑張ろう。

 

 まずはイレイナに酒を飲むときは注意するように言わないといけないけれど。

 

「ぐう……カイは強いです……大丈夫……」

「………」

「私を……信じて……むにゃ」

 

 俺はまだまだ未熟だ。だけどもう少しだけ自分を信じてみるべきなのかもしれない。どんな危険な状況でも隣にいるイレイナを守り切れるだけの力は俺にはあるのだと。

 

「いつかまた俺の弱いところを見せるかもしれないけど、その時は許してね。イレイナ」

「……もう食べられません……すぴー」

 

 ありがとう。

 

 

 

 

 

 

「母さーん、何か届いたよー」

「あら、何かしら」

 

 平和国ロベッタにあるカイの実家に『こっちの村』という変な名前の村から荷物が届いた。

 

「開けてみようか。僕が開けるから何かあったら魔法でよろしくね」

「はいはい」

 

 危険物の可能性も考慮してカイの母は杖を取り出し、父は箱を開ける。

 箱を開けても特に爆発したりはせず、中に入っているものを取り出してみる。

 箱の中に入っていたもの。それは六本のぶどう酒が入ったボトルだった。

 

「これは……イレイナちゃんね」

 

 六本の内三本がイレイナの写真が印刷されたラベルのボトルだった。

 

「変な恰好をしてるね。なになに、『私が憎悪とか苛立ちとかを込めて作りました』『原産地:灰の魔女のイレイナさん』だって。何があったんだろう?」

「人って原産地になれたかしら?」

 

 二人して首を傾げるが、答えが見つかるわけではなかったので残りの三本も見てみることにした。

 

「なんとなく予想はしてたけどこっちはカイね」

 

 残りの三本はカイの写真が印刷されたラベルのボトルだった。

 

「こっちはいつも写真で見る姿のままだね。なになに、『僕が皆の笑顔を思い浮かべながらふみふみしました』『原産地:旅人のカイさん』だって。なんで一人称が僕?」

「ふみふみって何かしら?」

 

 再び首を傾げるが、やはり答えは見つからない。

 

「三本ずつあるってことは一本ずつ僕たち、ヴィクトリカさんたち、本人たち用って感じかな」

「きっとそうよ。でも私たちのボトルを開けるのはカイたちが帰って来てからにしましょう」

「僕は飲めないから君に任せるよ。じゃあ僕は今からヴィクトリカさんのところにこのぶどう酒を一本ずつ渡してくるね」

「行ってらっしゃーい」

 

 カイの父はボトルが丁度二本入るくらいの大きさの箱にカイとイレイナのラベルのボトルを入れ、その箱を持って家を出ていく。

 

「さて、このボトルは大事に仕舞っておかなきゃね」

 

 カイの母は四本のボトルを地下に持って行った。

 

 

 こうして、この六本のボトルは二つの家で大事に保管された。

 

 カイとイレイナがそれぞれ印刷されたラベルのぶどう酒は数が非常に少なく、マニアの間ではこの二種類のぶどう酒を両方とも持っている者は存在しないと言われたり言われなかったりするのであった。

 

 

 

 




酔っぱらった可愛い幼馴染を介抱したいなーという願望は全人類持っているのでは……?
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