一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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執筆が思うように進まない!
今のところ三巻の内容が終わるまでエタる気はないです。時間は掛かりますがご容赦ください。

余談ですが最近FGOに復帰しました。ストーリー面白えーって言いながら進めてますがスキル上げが面倒すぎる……。ガチャ結果は……まあ……。


物々語:物だらけの国と幸せ物(前編)

「『十年もの間、妻の帰りを待っている男性に会いました。国と国の間にあるベンチに一人座って帰りを待つその姿に、俺は尊敬の念を抱きました』」

 

 メモ帳にペンを走らせる。

 

「『俺も愛する人の帰りを信じて待てるような人間になりたいと思いました』――と」

「何書いてるんですか?」

 

 隣にいるイレイナが俺の様子を見て話しかけてくる。

 

「今度両親に送る手紙に書くことの下書きをしてたんだよ」

「それ今やる必要ありますか?走ってますよね、今」

 

 そう、俺は現在森の中を走っているのだ。メモをしながら。

 

「移動とメモを同時に行うことで後で他のことに時間を回せるのさ」

「木にぶつかっても知りませんよー」

 

 そんなヘマをするほどメモに集中しているわけではないので――おっと、木の枝にぶつかりそうだった。危ない危ない。

 

「…………」

「そんな残念な人を見るような目で見るのはやめて」

 

 俺はイレイナの視線を気にしないようにしながら続きを書こうとするが、空から水滴が一粒、二粒と降ってきてメモ帳を濡らしていく。

 

「おや」

「雨……ですか」

 

 雨の勢いは強く、こうなった以上メモを書き続けることは叶わないので大人しくメモ帳を鞄に仕舞い、傘を取り出す。

 俺はほうきで飛ぶイレイナの隣まで近づき、彼女を傘の中に入れる。

 

「さ、少し急ごうか」

「……魔法を使えば雨を防ぐことくらいできるので私のことは気にしなくてもいいんですよ。私のことを考えてくれるのは嬉しいですけどカイの肩が濡れてますよ」

「このくらい平気平気。それにいつ止むか分からない雨に魔力を使い続けるのは良くないでしょ?」

「はあ……分かりました。風邪ひいても知りませんからね」

 

 密かな自慢なのだが俺は一度も風邪をひいたことがないのだ。ゴウザン師匠と一緒に真冬の湖の中に潜って修行をしたこともあるがそれでも元気なままだった。

 風邪をひかせる魔法があれば俺も風邪をひくのかもしれないがそんな魔法があるとは思えないので考えるだけ無駄だろう。いや、でも嫌がらせ目的で開発している人もいるかもしれないな……。

 

 イレイナが濡れないようにするのと同時にくだらないことを考えながら森の中を進んでいると、運が良いことに国を見つけることができた。

 雨が降っている中これ以上外に居続ける理由もないので俺たちは入国しようと門を叩いた。

 

「すみませーん、開けてくださーい!」

 

 門には木の枝や蔦が這っており、年季を感じさせるものだった。あまり手入れはされていないのだろうか?

 同じようなものを以前見た気がする。何も問題が起きなければいいのだが。

 

 少ししてから門は開き、門の向こうでは一冊の本が開いた状態で蝶のように羽ばたいていた。

 

『…………』

 

 本が出迎えてくれるというのは初めてだ。本に旅人を迎えさせるのがこの国の文化なのか、それとも門兵が本の姿に変えられてしまったのだろうか。それは国の中を見てみないことには分からない。

 新しい体験に心を躍らせるべきなのか、それとも未知の出来事に対して警戒するべきなのだろうか。

 

「…………」

「あ、どうも。雨宿りさせてもらえません?」

 

 警戒することにした俺に対し、イレイナは心を躍らせている――のではなく早く雨宿りしたいだけのようだ。

 

『…………』

 

 目の前の本は一度だけ頷くように体……?を上下させてから国の奥へ進んでいった。

 

「ついて来いってことかな?」

「そうなんじゃないでしょうか。ありがとうございます」

 

 イレイナがお礼を言ってから俺たちは本についていく。門を越えて完全に国に入った時、背後で門がぎぎぎと軋む音を出しながら閉まった。

 他の国でも俺たちが通った後に門が閉まることはよくあることだから普段は特に気にならないのだが、今は閉じ込められたように感じた。

 

 

 

 

 

 

 国の中に入ってみたものの人の姿は一切なく、目に入るのは古い民家や道の上に転がっている物たちだ。

 壊れた時計や椅子、割れた皿などの――直せばまた使えるような物ばかりで道は溢れかえっており、いくつか魔法で手元に呼び寄せて見てみると、そのどれもが汚れてはいるが上物であるのが分かった。

 

「それどうするんですか?」

「直してみるよ。勿体ないからね」

 

 俺がイレイナの質問に答えると彼女は「そうですか」とだけ言って視線を俺たちの前を進む本に戻した。イレイナはここにある物にあまり興味がないみたいだ。

 

 本が案内してくれたのは道中で見た民家同様古い宿屋だった。入り口に『宿屋』と書いてある看板が落ちており、このままでは踏みそうなので邪魔にならない位置に魔法で動かしてから中に入った。

 

「……なにこれ」

「…………」

 

 宿屋の中では本だけでなく壊れた椅子やほうき等が動き回っており、俺たちの存在に気付くとその場で上下に跳ねた。その行動にどんな意味が込められているかは分からないがいきなり襲ってくるわけではないので少しだけ警戒を緩めても良いのだろうか。

 

 その後は本にそれぞれが泊まる部屋を案内された。俺とイレイナの部屋は隣同士だから何かあってもすぐに駆け付けることはできるだろう。

 本がいなくなった後に部屋の中にあった修理された形跡があるベッドや椅子が動き始めたが俺は気にすることなく道中拾って来た物の修理でもしようかと思った時、廊下の方から大きな物音が聞こえてきたので一度手を止めて扉を開けた。

 

 部屋の外では先ほどまでそこになかった家具の姿があった。イレイナのいる部屋にあった物だろう。

 俺はイレイナがいる部屋の扉をノックする。

 

「イレイナー」

「はいはい何でしょうか」

「これは一体……」

 

 既に寝間着に着替えて眠そうな顔をしたイレイナが出てきた。俺は視線を家具たちが置かれているところにやってから尋ねた。

 

「ああ、それですか。あまりにも騒がしいので追い出しました」

「なるほど」

「私は静かな部屋で寝たいので」

「なるほど」

「よかったらカイも一緒に寝ませんか?」

「なるほ――ん?」

 

 今何と?

 

「…………少し語弊がありました。私の部屋で私と同じように寝袋で寝るのはどうですか?」

「……なるほど」

 

 急な誘いに驚いてしまった。心臓に悪い。

 

「それで、どうするんですか」

「俺はこれからさっき拾った物の修理をしようかと思ってたんだけど……」

「ならこっちの部屋でやってください」

「イレイナの睡眠を妨害するかもしれないんだけど……」

「静かにやってください」

「ええ……。……まあいいか。じゃあ今から荷物をこっちに持ってくるね」

 

 というわけで俺は自分の荷物と修理が必要な物を持ってイレイナのいる部屋に行き、彼女に背を向けるようにして床に座り、なるべく音を出さないように物の修理を丁寧に始めた。

 

 修理をするための道具は魔道具を作るための道具を使い、一部の部品がなくなっている物を直すためには同じ素材の物が必要なのでこれは魔法で作った素材を加工していく。

 物を作ったり修理するのは好きだ。俺が手掛けた物を使ってもらっている様子を想像するだけで嬉しくなる。使用者に満足してもらうためにも手を抜くことなどできない。そのせいで時間が掛かったりするのだが良い物作るためなのだから仕方のないことである。

 

 もう少しで日が昇り始める時間になる頃にようやく皿や時計、人形等の片手で持てる物しか持ってこれなかったが無事に修理することができた。元の状態をこの目で見たわけではないので完全に直せたかは分からないが大体こんなものだろうという形にはできたのでいいことにする。

 

 後ろを振り返ると寝袋に収まったイレイナの無防備な寝顔を見ることができた。同じ部屋に男性がいるというのに全く気にする素振りのないその表情は俺を信頼している証なのだろうか。

 こうしてイレイナの寝顔を見るのは滅多にない気がする。こっそり一枚だけ写真を撮る。バレたら大目玉だろう。

 

 俺はこの写真を宝物にすることに決め、音を立てないように自分の部屋に行って着替えてから戻り、イレイナと同じように自分の鞄から寝袋を取り出して彼女から少し離れた位置で短い時間ではあるが睡眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 翌日。本に連れられてやって来たこの国にある城のような建物の一室にて。

 

「イレイナ!」

 

 物ばかりの国で物の修理を行っている人から話を聞いていた俺たちだったが、隣に立っていたイレイナが突然倒れそうになったので支える。

 

「イレイナ!イレイナ!」

 

 意識がないのか何度呼び掛けても返事はない。

 

『…………』

「……イレイナに何をした」

 

 俺たちの目の前でぱたぱたと音を出している本に語気を強めて問いかける。

 

『…………』

「――ッ!」

 

 しかし本は何も答えることはなく、この場所に居続けるのはまずいと考えた俺は足に力を込めて逃げ出そうとしたところで後頭部を殴られたような感触を覚える。

 片手で後頭部を触ってみるが特に痛みはないが体中から力が抜けていくのを感じられた。

 十中八九、目の前の本が俺たちに何かしたのだろう。俺は床に片膝をつきながら本を睨む。

 

『…………』

 

 本は俺がイレイナみたいに気絶しないことに驚いたのか一度その身を震わせた後、仲間を呼んだのか俺たちは動く物たちに囲まれてしまった。

 

「ほう。お主、なかなか耐えるのう。しかし無駄じゃ。もう逃げられんぞ」

 

 俺たちの様子を見ていた魔法使いの老人が声を掛けてくる。

 

「……これは……あなたが……仕向けたこと……ですか……?」

「いや違う。わしもお主たちと同じじゃよ」

「それは……つまり……」

 

 この人たちも被害者なのだろう。このままではいずれ俺とイレイナもここで物の修理をさせられることになる。

 俺たちは旅人だ。ここで立ち止まっているわけにはいかない。

 

 力が抜け続ける体に力を入れ、イレイナを抱えてこの部屋の入口目掛けて走り出す。進行方向上にいる物や扉を蹴り飛ばす。

 

 廊下を走り抜け、城の門は飛び越し、この国の外に出るための門に向かって駆ける。

 

『…………』

 

 当然俺たちの逃亡を見逃すつもりはない物たちは俺のことを追いかけてくる。

 本調子でないとはいえ、速さなら俺の方が上だ。それを理解しているのか物は先回りしたり待ち伏せたりとあの手この手で俺を捕まえようとしてくる。

 俺は跳んだりしゃがんだりして躱しながら進む。

 

 ――門が見えた。

 しかし俺の体は限界が来ていた。体にほとんど力が入らず、意識も朦朧としてきた今のままではイレイナを抱えて門を越えるのは無理だろう。

 

 外に出れるのは俺かイレイナのどちらかだけ。そんな選択肢が今俺の前に突き付けられている。

 もしかしたら一生この国で物を直し続けることになるかもしれない。物にどんな扱いをされるか分からない。長生きできるとは限らない。

 自分を取るか他者を取るかという簡単な問いだ。

 

 だから俺はイレイナを投げ飛ばすことに決めた。

 

 

 ――この国の外へ。

 

 俺とイレイナを天秤にかけた時、それは当然イレイナの方へ傾く。考えるまでもない。

 イレイナは頭が良いからきっと俺のことを助けに来てくれるだろう。

 門よりも高く飛ばすから落下した時の衝撃はそれなりにあるだろうが指輪が守ってくれる。

 イレイナを落とさないようにスーツのジャケットを脱いで彼女に巻き付ける。

 

「行けえええ!」

 

 そして足に、腕に、全身に残っている力を全て注ぎ込んでイレイナを投げ飛ばす。

 

 俺を捕まえることに夢中になっていた物たちは上空を飛んでいくイレイナに反応することができず、門の上を越えて姿が見えなくなった。

 

 今の俺ができることは全てやった。後は優秀な幼馴染がどうにかしてくれる。もしも彼女一人で逃げたとしても俺は恨むことはないだろう。

 

「……ははは」

 

 イレイナを助けた達成感に満足しながら俺は意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

「――ん……」

 

 日が沈んだ薄暗い森の中、木の葉から落ちてきた雫が顔に落ちてきて目が覚めました。

 

「ここは……?カイ……?」

 

 何故こんなところで寝ていたのか思い出せず、幼馴染に聞こうと思って辺りを見回しますがその姿は見つかりませんでした。あるのは彼がいつも着ているジャケットが私の体に巻き付けられているのみ。

 

「…………」

 

 時間が経つにつれて頭の回転が上がり、私の身に何が起きたのか思い出してきました。

 

 物がひとりでに動く国で一泊した私たちは本に案内されるままにお城の一室に行き、そこで頭を硬い何かで叩かれたような感触がして倒れそうになったところをカイが支えてくれたところで記憶が途絶えています。

 

 右手の中指につけている指輪に魔力を込めてカイの位置を探ってみると、少し離れた場所――まだあの国の中にいるようです。彼が私の傍にいないということは私を逃がした後に捕らえられてしまったのでしょう。

 

 焦って彼を助けるためにもう一度あの国に入ったところで失敗するのは目に見えてます。ならばどうするべきか。

 

「……あの魔法を使うしかありませんね」

 

 あの魔法とは物に命を与える魔法のことです。私が開発した魔法で、調子に乗ってこの魔法を使いまくって自爆したのも私です。

 物に対抗するためにはこちらも物の力を借りる必要があると考えた私はこの魔法を久しぶりに使うことを決めました。

 自らの物に襲われるという体験をしてから使うことのなかった魔法ですがカイを助けるために四の五の言ってられません。

 

 ――私はほうきを取り出して魔法を掛けます。

 

 今まで散々こき使っておいて、困ったときにお願い事をするなど、白々しいことこの上ありません。

 

 ――魔法を受けたほうきは輝きました。

 

 愛想をつかされて拒絶されても文句は言えません。

 

 ――しばしの時間を置いてから、ほうきは姿を変えました。

 

 その時は仕方のないことだと受け入れて私一人で彼のことを助けに行きます。

 

 ――目の前には私にそっくりな姿の桃色の髪の女性が立っていました。

 

 それでも、もしもあなたがいいと言ってくれるのであれば――

 

「どうか私たちを助けてください」

 

 どうかお願いします。

 

「ええ。喜んで」

 

 

 

 

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