「これは……どういうことだ」
五十三番が今日もヒナタと話そうとしたら、彼女の家を囲う高い壁の一部が壊されているのを発見した。何かが爆発したかのような跡があり、簡単に人が出入りできる大きさの穴が開いていた。
彼は悪い予感を感じ取る。
「――ッ!」
五十三番が急いで穴を潜ると四方を高い壁で囲まれた土地の真ん中。そこにある家から煙が出ているのが見えた。
「ヒナタ!!」
家まで走って縁側から上がり、ヒナタの部屋の障子を蹴破る。
「ヒナ……タ……」
「ぅ……ん……だれ……?」
火の手が上がる部屋の中に彼女はいた――
――血だらけの状態で。
五十三番は慌ててヒナタを抱きかかえて家を飛び出した。
「ヒナタ!しっかりしろ!」
「うるさい……わね……。だいじょう……ぶと……言いたいところ……だけど……もう助からない……わ……」
体のいたるところに刺し傷があり、出血量から考えても彼女が助からないのは明白であった。それが分からない五十三番ではない。
だが分かりたくなかった。彼女がこれから死ぬなんて考えたくなかった。信じたくなかった。
「待て!そんな……待ってくれ!ワタシはまだお前との約束が果たせてない!!」
「ふふ……気にしないで……あなたはあなたの……したいこと……をして……」
「ワタシにしたいことだなんてない……」
五十三番はどうすればいいか分からずに項垂れてしまう。
そんな彼の顔に触れるものがあった。ヒナタの血だらけの手である。
「いろいろ……言いたいことが……あるけど……最後に一つ……お願いがあるの……」
「なっ、なんだ!教えてくれ!」
彼女の願いなら何でも叶えてみせる。そう思った五十三番に、ヒナタは最も残酷な願いをする。
「私を殺して」
「 」
この時生まれて初めて五十三番の頭が真っ白になった。
「ごめん……なさい……酷いことを頼んで……るけど……もう……痛くて……苦しくて……」
「ワタシは……」
「お願い……楽にさせて……」
震える五十三番の腕をヒナタが弱々しく掴む。
このまま何もしなければ彼女は痛みで苦しみながら死ぬだろう。もう助からない彼女の命を奪うことが彼女の助けになる。いつものように、胸に向けて拳を振るえばいい。それを彼は理解していた。
ヒナタを殺したくない。その想いが彼の手を止めていた。人を殺すことに躊躇いが無かった五十三番が初めて躊躇っているのである。
どうするか悩み続けていたが、時間は有限。ヒナタの口から血が噴き出され、五十三番の顔にかかった。
もう考えることができなかった。
「ああああああああああ!」
右腕に力を込めてヒナタの胸に触れる。
「ありがとう……あなたは……___」
彼女は小さく微笑んでから目を閉じた。息もしていない。体も動かない。ヒナタは死んだ。五十三番が殺した。
彼女の最期の言葉を聞く余裕は彼にはなかった。
「…………」
五十三番はあまりのショックに泣いたり騒いだりするのではなく、ただぼうっとヒナタの亡骸を見つめていた。
彼が今何を考えているのかは誰にも分からない。後悔しているのかもしれないし、ヒナタとの日々を思い返しているのかもしれない。
見る人によっては今の二人の状態に心を動かされるのかもしれないが、劇でもないのでそのような人物は存在しない。
だが、いつまでも二人の時間が続くわけでもなかった。
「ここであってるよな……。ん?五十三番じゃないか。なんでお前がここにいるんだ?」
「……お前は」
壁の穴から一人の男性が入ってきて五十三番に声を掛けた。
「俺はここの後処理に来たんだが今回は他の奴の任務じゃなかったか?」
「は?」
目の前の男は五十三番が所属している組織の者で、任務を達成した後に証拠となるものを処分する役目であった。
つまりヒナタは排除しようとしていた組織によって、逆に排除されてしまったことになる。
しかし彼女は高い壁に四方を囲まれた家に住んでおり、外部との関りはなかったので組織に彼女の存在が知られることはなかった筈である。
「まあいいか。そいつが今回の標的だな。後はこっちでやるからお前はもう――」
「触るな!」
ヒナタの亡骸に触れようとした男の胸を五十三番は殴った。
「――は?」
男はその場で倒れ、何が起こったか分からないまま息を引き取った。
「組織がヒナタを……」
五十三番はヒナタの亡骸を抱え上げ、既に燃え尽きてしまった家の庭にある、燃えることなく無事だった木に寄りかからせた。
「……行くか」
そう呟いて彼は歩き始めた。
行き先は、一つ。
○
そこは、地獄と例えた方がいいだろう。
「なっ――」「どうしたっ――」「お前何をしているのか――」
ここはこの国唯一の犯罪組織。その本拠地。
着物を地に染めた男――五十三番は本拠地にいる人間全ての胸に拳を当てて進む。
「死にたく――」「増援を――」「待っ――」
彼が通った道に立っている者はなし。床に転がる人間はまるで寝ているかのように死んでいた。
あまりの速さと呆気なさに人々は喋り終わる前に死体となっていく。
「…………」
五十三番は誰が死んだか憶えてない。誰を殺したか憶えてない。誰が誰だか分からない。いつも彼を敵対視していた者もいたし、その腕前を高く評価していた者もいた。もしかしたら組織に依頼をしに来た者もいたかもしれない。だけど彼にとって、ここにいる人間は全員敵であるのは間違いなかった。
武器を持った者が立ちふさがるが彼の歩みは止まらない。十数年間一度も失敗することなく無傷で任務を達成してきた彼を止めることができる者などいなかった。
「ここで最後か」
組織の本拠地の一番奥。大きな襖の前で五十三番は立ち止まる。
この襖の先には組織の頭がいる。後はそいつを仕留めるだけだった。
襖を開ける。
「お前は……四十五番」
「五十三番、遅かったね。それとオレは四十九番だよ。四十五番は三年前ここから逃げようとしたところを殺されたよ」
他の部屋と比べて豪華な部屋の中には四十九番と、組織の長である老人が事切れて倒れていた。
「これはどういうことだ」
「オレが殺したんだよ。あなたは下っ端どもを片付けてくれたようだしこれで組織は終わり。晴れてオレたちは自由の身さ」
「何故だ」
「それはオレがこんなことした理由かい?それはね、オレたちみたいな子どもをこれ以上増やしたくなかったからなんだ」
四十九番は中折れ帽を触りながら答える。
「この国では毎年多くの子どもが捨てられてしまう。そんな彼らを組織が拾って育て上げて奴隷のように扱き使う。上層部の連中は子どもを消耗品だと思ってたのをオレは許せなかった」
「…………」
「どんな事情があるのかは知らないけどあなたも組織を裏切ったようだね。まさか同じ日にとは驚いた。……どうだい、オレと一緒にこの国を出ない?大丈夫。オレはあなたの味方さ」
四十九番は五十三番の横を通り過ぎ、出口へ向かう。
「待て」
「何か不安なことでもあるのかい?お金なら奪っておいたから暫くは不自由なく暮らせるはずだよ。後はオレに任せて」
「いつまで嘘をついているつもりだ」
四十九番の足が止まる。
「何のことかな」
「ヒナタを殺したのはお前だ」
「ヒナタ……誰のことかな。さっぱりだ」
「くだらない茶番はやめろ。隠すつもりなんか初めからないだろ。そこの死体を見て分からない馬鹿はいない」
五十三番が言う死体とは組織の頭のことである。
死体は体中を刺されており、大量に出血し、顔は苦しそうな表情をしていた。
「オレ的には気付いてくれないのが一番嬉しかったんだけどそうはいかない……か!」
「…………」
四十九番は振り向くのと同時に短刀を三本投げてくる。
五十三番は横へ跳んで避け――
「それは読んでるよ」
既に跳んだ先にも短刀が投げられており、何もしなければ刺さってしまう。
「…………」
だがどんな死地でも無傷で生き延びた五十三番にとってこれくらいなんてことはなく、短刀を人差し指と中指で挟んで止めた。
「流石といったところだね」
「何故ヒナタを殺した」
「それが任務だったからさ。あなただってそうでしょ?任務だから人を殺す。いつも通りのことさ」
「違う!彼女の存在は秘匿されていた!任務なんて出るわけがない!」
「ならどこからか情報が漏れたってことだね」
「なっ……。一体どこから……」
当然五十三番は組織にヒナタのことを話していない。彼女が自分の他の人間と会っていたという話も聞いていない彼に答えは出せなかった。
その様子を見た四十九番はにこりと笑った。
「オレだよ、オレ」
「お前が!」
怒りのままに拳を振るうがひらりと躱されてしまう。
「おっと危ないねえ。まあ話を聞きなよ。聞きたいでしょ?彼女が何故殺されたのか」
「……ああ」
「素直だね。彼女……ヒナタって言ったかな?彼女のことは何も知らなかったよ。あの壁の中にいるのが誰かなんてオレには知る術がなかったからね。組織には五十三番を騙そうとしている敵がいるって報告しただけだよ」
「何故そんなことをした」
ヒナタが殺されなかったら五十三番は未だ組織を裏切る気にはならなかった。それも時間の問題だったのかもしれないが。
「理由……ね。五十三番がなんとなく変わってきていたように感じたからかな」
「…………」
ヒナタと出会ってから自分に変化が起きていたことは五十三番もなんとなく理解していた。
「このままだと五十三番が裏切るかもしれないぞーって言ったらあなたの力を恐れていた上層部の連中はすぐに任務をオレに与えてくれたよ。あの高い壁を爆弾で壊して中に入ってみるとまさかあんな少女がいるとは想像してなかったけど」
●
「突然何用かしら?」
オレが小型の爆弾で壁を破壊した音を聞きつけたのか、中に建てられていた家から黒い髪の少女が出てきた。
「心当たりがあるんじゃないかな?」
「ないわね。今すぐ帰ってくれれば目をつむってあげるわ」
「そんなこと言われても任務があるからね」
「私を殺しに来たのかしら?」
「正解。抵抗してもいいけどオレは強いよ」
オレは懐から短刀を取り出して彼女に見せつけた。これで普通の人なら恐怖するだろう。
だけど彼女はその素振りを見せることはなかった。
「……何をしている?」
「見ての通り、何もしてないわ」
いつもなら凶器を見せることで標的は泣き叫んで命乞いをしてきたり必死に逃げようとするのだが、動じることなくこちらを真っ直ぐ見てくるのは初めてのことだった。
「オレは今から君を殺す。怖くはないのかな?」
「怖くない……と言ったら噓になるし殺されるつもりはないわ」
少女が何かを取り出そうとするが、結局手に何も持つことはなかった。
素手の彼女の構えは戦ったことなどない素人のものだと分かった。
「まさかオレに勝てると思ってる?これでも強いんだよ、オレは」
「そんなのやってみないと分からないじゃない。それともその言葉は自分を鼓舞するためのものかしら」
「……へえ。どうやら口だけは達者なようだ」
「ずっと本ばかり読んでた割にはなかなかやるでしょ?」
「とはいえ君を殺すことくらいわけない」
「何を――」
オレは隙だらけだった少女の腹に短刀を突き刺した。
それだけで勝敗はついた。殺されるつもりはないとか言ってたけど随分とあっさり殺されちゃったね。
あとは確実に仕留めるために何度か刺して家の中に放り込んで火を点けた。オレはその場を去って組織に帰還。任務達成の報告をした後に憎たらしい爺を同じように殺したってわけさ。
○
「いつも通り、呆気ない終わりだったよ。……もう一度聞くけどオレと一緒に来ない?」
「…………」
「だんまり……か。仕方ない、あなたと決着をつけることにしよう」
無言のまま拳を構える五十三番に倣い、四十九番も短刀を構える。
「じゃあね五十三番!あなたを超えてオレは――」
勝負は一瞬だった。
短刀を片手に襲い掛かる四十九番に対し、五十三番は最小限の動きで懐に潜り込んでその体に一撃入れた。
「――ああ、駄目だったか」
「…………」
「これから死ぬというのにまったく苦しくない。こんなオレには相応しくない最期だ……。あなたは……やはり……」
約二十年生きてきたその男は、その罪の重さと釣り合わないくらい呆気ない最期を迎えた。
五十三番は倒れ込んできた体を受け止め、床に横たわらせた。
○
組織によって拾われた四十九人目の子ども。彼は物心がついた後に捨てられた。
理由はこの国では珍しくない困窮からのものだった。家族は母親のみ。彼女は父親がいない理由を話してはくれなかったが聞くべきではないことだと幼い彼はなんとなく理解していた。
彼にとって母親と二人だけの生活は明日を生きていけるか分からないながらも幸せなものであった。
寝るときにいつも母親が読み聞かせてくれた物語。その物語に出てくるどんな逆境にも負けない一騎当千の英雄に彼は憧れた。その想いは母親に捨てられたときも消えることはなかった。
いつか自分も英雄になりたい。そう思ってはいても彼に才能はなかった。あまりにも無力だった。
組織に拾われて教育を受けるも腕力、学力、技術のどれもが他の子どもよりも劣っていた。仮に秀でたものがあるとするならば、死人が出ることも珍しくない教育を生き抜いた生命力だろうか。
その頃には英雄になりたいという願いはどこかへ行ってしまっていた。
教育を受け始めて数年後。彼にも任務を与えられるようになった。
任務内容は後処理。他の任務の証拠隠滅を行う掃除係であり、彼のように才能がない子どもに与えられる任務であった。
彼は不満を言うことなく組織のために働き続けた。
自分が何のために生きているのか分からなくなってきた頃。彼は光を見た。
いつも通り自分が後処理をする任務に同行することにした彼が目にしたのは自分よりも年下の少年が大の男を何の躊躇いもなく、さも当然かのように一撃で仕留めてみせた。
彼はこちらを見て「後は任せた」とだけ言って立ち去ろうとしていた少年を引き留めていくつか質問をした。
どうやって殺したのか、力を込めて殴っただけだ。
怖くはないのか、全く思わない。
何故そんなに強いのか、知らん。
表情を一切変えることなく答えていく少年を見て彼は思った。
『まるで英雄みたいだ』
当然彼らの行っていることは英雄と呼ばれる者に相応しくない悪事である。だが少しでもそう思ってしまったのなら、もうそう思わずにはいられない。
そして、こうも思った。
『彼の隣に立ちたい』
それからの彼の行動は早かった。
組織に帰って報告を済ませたら外に出て力を付けるために体を動かした。知識を身に着けるためにたくさんの本を読んだ。
毎日毎日苦しい思いをしながらも彼は努力を続けた。その成果はあった。
彼は変わった。細かった体はがっしりとしたものとなり、様々な分野で活躍できる頭脳も手に入れた。飄々とした態度を取るようにして弱みを見せないようにした。
やがて彼は組織において他に並ぶ物なしと言われるようにまでなった。成長して青年になった『英雄』がいなければの話ではあったが。
とはいえ彼にとって組織内の評価なぞどうでも良いのであった。
『英雄』に勝とうとは思っておらず、いつか組織を裏切って彼と二人で国を出てどこか遠い国で英雄として名を遺したいと考えていた。
だけどある日、彼は分かってしまった。自分の『英雄』が『ただの人間』になってきていると。
いつもならば夢や願いもなさそうにしていた『英雄』の瞳に楽しさや期待の感情が僅かながらに籠っていた。
彼にとって『英雄』とは多数の人間を助ける存在で、その対象を決めるときに余計な感情が入ってはならない。
彼の中の英雄像は歪んでしまっていた。
だから彼は自分の『英雄』を変えようとしている人間を見つけて始末しようと考え動いた。
その結果が組織の壊滅、自分の死であった。
強い光を見て目がくらんだ愚かな男の結末であった。
だけど彼は――四十九番は最期まで後悔することはなかった。
『英雄』は自分の死体を乗り越えて先に進む。彼の英雄譚の中の一頁として語られるくらいの存在になれただろう。これから先彼は人を助け続けるだろう。だって彼は組織に縛られていなければその力を正義に使うのは分かっているから。
彼の話はここで終わりである。
四十九番にとって五十三番は物語の中に出てくるような立派な『英雄』だった。
どんな時も挫けることなく前に進み続ける勇敢な者。誰にも負けることのない強者。
しかしながら五十三番は最初から『人間』である。
彼の活躍を聞くたびに自室で本に書き込んでいたほど熱心なファンだった四十九番は、そのことを理解することはなかった。
○
「…………」
組織の本拠地を後にした五十三番はおぼつかない足取りでヒナタのところに戻ってきていた。
庭にある木の下に辿り着くと、一人の男性がヒナタの亡骸に傍に座り込んでいた。
「ヒナタ……どうしてこんなことに……」
「お前は……」
男性が五十三番の存在に気付いて振り返る。
「……君は誰だ?どうしてここにいる?」
「ワタシはヒナタの……」
「ヒナタの……なんだね?」
「…………」
ヒナタにとって五十三番はどんな存在だったのだろうか。今まで他人からどう思われているか気にしたことがなかった彼は何と言えばいいか分からなくなって黙ってしまう。
「……いや、なんでもない」
「ならどうしてこんなところにいるんだ。何か知っているんじゃないのかね!」
「……ああ。彼女を殺した組織は滅んだ」
「!」
「それだけだ」
五十三番は踵を返してその場を立ち去ろうとする。
その姿を見て男性は慌てて声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。私はヒナタの父親だ。何があったか教えてくれ!」
「そうか……ヒナタの……。なら一つだけ教えておこう。ヒナタはこの国を良い国にしたいと言っていた」
五十三番は振り返ることなく答える。その話を聞いて男性は小さく頷いた。
「その話なら私も手紙で知っているが……そうか君が手紙に書いてあった話し相手だったのだな」
「……彼女の夢を妨げる組織はもうない。ならばそれを叶えるのがお前の仕事だ」
「ああ。当然、そのつもりさ。だが君はどうするつもりだ?もしよければ私の手伝いをしてくれないか。……失礼、名前を聞いてなかったな」
「……ワタシに名前はない」
「あ、ちょっと待っ――」
その言葉を最後に五十三番は歩き出した。背後から男性が呼び止める声が聞こえてくるが彼は足を止めなかった。
○
『五十三番』という名前は組織が付けた番号。親が子に付けるような大事な意味のこもったものではない。ただ順番に付けただけの暖かさを感じない名前である。
組織がなくなった今ではもうこの番号に意味などない。今の彼には名前なんて存在しない。名前の重要性を考える心の余裕もない。
今までは組織からの任務を達成するためだけに生きてきた彼にはもう生きる理由が分からなくなってしまっていた。だからと言って死ぬ理由があるわけでもない。
彼は次に何をしようかとこれからのことについて思いを馳せることはなく、あの時こうすればよかったと過去を後悔することもなく、何も考えることなく今を生きていた。
ヒナタの父親と話した後、彼はすぐに国を出て海を渡った。行先は決めていなかったがとにかく遠くに行きたかった。
数日かけて辿り着いた国で彼は他国からの侵略を防いでくれと助けを求められた。
どうやらその国は豊かな資源を所有しているが兵力に乏しいため攻め入れられたらひとたまりもないので誰でもいいから戦力が欲しいらしい。
それを二つ返事で引き受けた彼は他の兵士や同じような協力者たちと共に戦場へ赴いた。
敵国の兵士の練度はこちらの兵士よりも高く、数も多かった。とてもじゃないが勝てる見込みのない戦争だろう。
だが運がいいことに彼ら協力者たちの実力はとても高かった。彼を始め協力者たちは数の差をものともせずに敵を屠り仲間を助けていく。
途中で国からやって来た使者が敵国が降伏したことを伝えたことで戦争は終わりを迎えた。
最終的に兵士の数があちらの国よりもこちらの国の方が多くなるという圧倒的な勝利を得た彼らは国へ帰ると盛大に祝われた。
『ありがとう!』『おかげで国は守られた!』『あんたたちは英雄だ!』『英雄!』『英雄!』
英雄と言われた彼ら協力者たちは王から褒美としてその国で一生遊んで暮らせるようにしようと提案した。
多くの協力者たちがその提案を飲んだが、彼は何も受け取らずにその日のうちに国を出た。
彼にとって報酬はどうでもよく、ただ求められたから助けただけだった。
いくつもの国を巡り、何度も助けを求められて助け、称えられた。いくら感謝を伝えられても心にぽっかりと空いた穴が塞がることはなかった。
ある日のこと。あてのない旅を続けた彼は、これから訪れる国の門に書かれていた言葉を一瞥してから中に入った。
そこにはこう書かれていた。
『あなたの願いを叶える国』
時計郷ロストルフで行われた演劇『五十三番』の真相でした。偶然とはいえクリスマスに投稿する話としてはどうかと思いますが!
次回はついにあの話です。