一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

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今回の更新のラスト!よいお年を!


願いが叶う三日間(三日目)

 カイを置いて先に『願いを叶える国』に入った私でしたが、国の中は不思議なものでした。

 どこかで見たことがあるような建物が並んでおり、色合いや構造が様々な街の様子は私以外誰も歩いていない状況と合わさって不気味でもあります。

 

 この状況をどう思うか遅れてやってくるはずのカイに聞こうと振り返ると、そこには門があるだけで彼の姿はありませんでした。

 指輪に魔力を込めて彼の位置を探してみるも反応は無し。つまり彼が今どこにいるか私には分かりません。

 

「……むむ」

 

 引き返して国の外に出てみるのも手ですが、私の後を追ってカイもこの国に入っているはずです。門なのかこの国全体なのかは今の段階では分かりませんが何か仕掛けがあるのかもしれません。それが判明するまでは迂闊に外に出ない方が良い可能性があります。

 

 門はいつでも調べることができるのでまずは国の中を回ってみることにしましょう。

 

 

 

 小さな発見も見逃さないようほうきに乗らず、長時間自分の足で歩き回っていましたが発見と言えるようなものは見つかりませんでした。足が棒になりそうです。こんな時背負ってくれそうな幼馴染はいないだなんて……。

 ただ、やはりと言いますかこの国にある建物は全て私が訪れたことがある国のものだったのは間違いありません。時計郷ロストルフの時計台やミラロゼさんがいた王宮は分かりやすかったです。それが分かったところで何も解決しませんが。

 

「しけた顔をしてるな。せっかく私がこの街を作ってやったんだからもっと楽しみな」

 

 ねじれた二本の角を頭に携えており、背中からはコウモリのそれと同じような羽が生えている女性が突然目の前に現れました。角と羽以外は私そっくりです。

 

「その口ぶり。この国が何なのか全て知っているみたいですね」

「私の国だからな。なに、警戒しなくてもお前が聞きたいことは全部教えてやるよ」

「随分と話が分かるじゃないですか。それなら――」

 

 そこで私は目の前の女性――小悪魔な私に様々な疑問を問いかけました。

 カイは何処なのか、無事なのか、ここから出ることはできるのか、この国は何なのかなど、思いつく限りのことは聞きました。

 

「そうだな、一つずつ答えてやるよ。まずここは『あなたの願いを叶える国』だ。お前はお前の願いを、お前の幼馴染はお前の幼馴染の願いを叶えれる国をそれぞれ作ってやってるだけだ。だからお前らは同じ国にいるが別々の国にいると言っていいだろう」

「ほう」

「それでお前の幼馴染が無事かどうかだが、まあ自殺願望でもない限りは無事だな」

 

 彼にはそんなものありませんし大丈夫そうですね。この話が本当であればですが。

 

「幼馴染は幼馴染で楽しんでるさ。だからお前も楽しむと良い。だが三日が期限だ。それとこの国から出るには門を通ればいつでも外に出れるぞ」

「む……そうですか」

 

 それなら少しぐらい楽しんでも良いのかもしれませんね。ずっと歩き続けていたので小腹が空きましたね……おや、私の手にリンゴが握られていました。なるほど。

 

「まあ三日間だけならいいでしょう」

「早速楽しんでもらえたようで何よりだ。それにしても最初に聞くのが幼馴染の安否とはな」

「何が言いたいんですか」

「お前の頭の中を覗かせてもらったが、幼馴染との思い出は輝いているものが多かったぞ。どんだけ好きなんだか」

「うるさいですよ」

「あーはいはい。そんなわけだから、リラックスしていってくれ給えよ」

 

 小悪魔な私は、むっとなった私に対しそう言って翼を広げて空へと飛んで行ってしまいました。

 

「むむむ……」

 

 私の願いとは何でしょう。門をくぐる時は『お金が欲しい』とか『美味しいパンが食べたい』とか考えていましたが、どこにもお金は落ちていませんし願えば出てくるパンもそこまで美味しいわけでもありません。

 

「まあ、いっか」

 

 この国に滞在していれば分かることでしょうし今は願いについては置いといて、今日泊まる宿に行きましょう。人はいないのでタダですよタダ。

 

 直感で決めた宿屋に入り、これまた直感で入った部屋のベッドは二人分くらいの大きさのものでした。あ、これかあ……。

 

 少し恥ずかしい記憶を思い出しましたが、広いベッドで快適に眠ることができました。睡眠に重要なのは適度な疲労です。

 

 

 

 

 

 

 二日目になりました。今日も探索を続けることにします。と言っても残っているのはわざと後回しにしていた王宮くらいなんですけどね。

 

 朝食を食べてから王宮へ足を進めました。一応今日も歩いて行きます。見たことのある景色を懐かしみながら進むというのも乙なものです。

 

「おや」

 

 王宮の入口。私の記憶が正しければそこには木造の扉があった気がしますが今は何もないですね……いえ、よく見たら地面に灰が落ちていました。燃やされてますねこれ。一体誰が……?

 

「…………」

 

 警戒しながら王宮の中に入りました。

 広場には誰もいません。ならばこの奥。玉座の間に誰かがいるかもしれません。なんとなくですが。

 

 不安や恐怖はありますが、意を決して扉を開きました。

 

 私の予想通り扉の先には人がいました。しかも一人ではなく複数。さらに問題なのは――

 

「おや、新しい私ですか。あなたは安全な私ですか?それとも悪者の私?」

「………………………」

 

 閉めました。私がたくさんいました。いくら私が美しくても同一人物が何人もいれば地獄絵図です。迅速に立ち去るべきでしょうか。

 

「何勝手に逃げようとしてるんですか」

「あのー、少し頭が痛くなってしまったので帰っていいですか?」

「駄目です」

 

 扉の中から出てきたメガネをかけた私に無理やり部屋の中に連れていかれてしまいました。

 

「皆さん。十七人目の私です」

「十七……」

 

 つまり私以外の私がこの場には十六人いるんですか……。確かに同じ顔をした私がたくさんいますが恰好や雰囲気が微妙に異なっていたりしますね。変なのもいますが。

 

「本来なら新しい私にほかの私を紹介したいところですが、さっきしたばかりで面倒なので後回しにします」

「ええ……」

「早速ですが十七人目の私にも呼び名をつけたいと思います。皆さん、この私にはどのような個性があると思いますか?」

 

「指輪をしてますね」「指輪以外私のコスプレをしてますねー」「無個性に見えますが指輪が特徴的ですね」「指輪ですね」「無乳の指輪です」「指輪」「指輪でーす」「眼帯ではなく指輪をしてますね」「サヤさん」「消えてなくなりたい」「お外に出たくない」「嫌……」「ハラショー」『うぎゅー』『うあー』

 

 指輪のことばかりですね……。何人か心配になる私もいますしどうなってるんでしょうか。

 

「なるほどなるほど。私も皆さんと同じことを思っておりました。ということですから、十七番目の私は指輪の私という呼び名にしましょう」

「はあ」

 

 そんな気はしてました。私も同じ呼び名をつけるでしょうし。

 

「その指輪はどうしたんですか?」

 

 私の中でも一番無個性な、ほかの私よりも私に近い私が手を挙げて聞いてきました。……ややこしいですね。

 

「どうしたって、カイから貰いました」

「カイ?誰ですか?」

「一緒に旅をしている幼馴染ですよ。もしかしてそっちの私にはいないんですか?」

「私に幼馴染はいませんでしたがほかの私はどうですか?」

「主人公の私と同じくいませんよ」

「同じでーす」

 

 どうやら私以外の私には幼馴染はいないようでした。カイがいない旅ってのはちょっと想像できませんね。

 

 それから私はメガネをかけた私……知的な私からほかの私の紹介をしてもらい、それが終わったら今度は質問攻めにあいました。

 私の幼馴染は男なのか女なのか、どんな人物なのか、出会いはどんな感じだったのか、お金は持っているのか、どうして私みたいな人間と一緒に旅をしているのかなどなど。皆さん滅茶苦茶知りたがっていました。

 

「はい。私への質問はここまでです。私からも聞きたいことがあります。皆さんは何故ここに集まっているんですか?」

 

 そろそろ恥ずかしいところまで聞かれそうだったので話題を変えることにしました。

 

「それはですね――」

 

 私の質問に知的な私が代表で答えてくれました。

 

 どうやらこの国には悪い私が一人紛れ込んでいるみたいです。ほかの私に会うなりいきなり攻撃してくるようで、粗暴な私と呼んでいるのだとか。命名の仕方がテキトーですねー。

 

 ここにいる主人公の私とハイな私以外の十四人の私はこの王宮に集まって粗暴な私をどうするか話し合っていたそうです。

 もしも戦闘になったら数の差で負けることはないでしょうが自分自身を傷付けるというのは確かに気が乗りません。代替案もすぐには思いつきませんしほかの私に丸投げしたいですね。

 

 ほかの私もそうだったのか、知的な私は主人公の私に全て押し付けてました。これは策士。

 

 まあ主人公の私も私なのでただでは転びません。なんと彼女はほかの私たちに街を探索するよう命令してきました。自分は玉座に座って待ってるとか言うのですから文句も飛んでいました。私は……面倒ごとをカイに任せることがあるので何も言わないでおきます。

 

「だったら皆さんで意見を出してくだ――」

 

 鬱憤の貯まった主人公の私が声を張り上げた時。玉座の間の扉が大きな音を立てながら吹っ飛ばされ、グールの私とゲル状の私が押しつぶされてしまいましたがどちらも普通ではないので無事でした。元々無事だったわけではないんですけどね。

 

「――ああ、姿を見かけないと思ったら、あなたたち、こんなところでたむろしていたんですね」

 

 犯人は粗暴な私でした。切り裂き魔に髪を切られた時の長さの短い髪の不機嫌そうな私です。

 

 粗暴な私は私たちのことが気に入らないらしく、攻撃を仕掛けてきました。

 

 私たちも反撃を開始し、いろんな私が粗暴な私を捕らえようとしますが、たった数分で返り討ちにされてしまいました。

 残っているのは私と主人公の私でした。

 

「あなたたちは戦わないんですね。ほかの私がやられているというのに、呑気に見物ですか」

 

 薄情者、とでも言いたいかのような彼女の眼はどこかで見たことがありました。忘れられるわけがありません。

 

 主人公の私は粗暴な私の実力を測るために様子見に徹していたようですが私は違います。

 

「別に、私にはあなたと戦う資格がない。それだけのことです」

「私を馬鹿にしてるんですか?」

「違います」

「魔法をこんなことに使う私とは戦う価値がないと言いたいんですか?」

「違います」

「ならどうして!」

「きっと私も、あなたと同じ体験をしたからです」

 

 彼女の眼は自分の弱さに、愚かさに絶望していたあの時の私と同じ目をしていました。

 

「私と同じ体験をした?あなたが?平然としているだけの余裕があるあなたが?ふざけないでくだ――」

「時計郷ロストルフ、二丁目殺人鬼、エステルさんの想い、セレナさんへの勘違い、二度目の殺人、無力な私。さて、ふざけていると本当に思いますか?」

「…………」

 

 その時のことを思い出してしまったのか少しだけ顔色を悪くして押し黙ってしまいました。当たりですね。

 

「あなたの気持ちも分かります。ですが、私はもう乗り越えました」

「…………」

「私には、傷付いている時、傍にいてくれる人がいました。もしもその人がいなければ私もあなたのようになっていたかもしれません。自分一人の力で乗り越えたわけじゃない私が何を言ったって、何をしたって今のあなたの心に響くことはないでしょう。だから私にはあなたと戦う資格なんてありません」

「…………」

 

 私を見る目が怖いですねー。まあそれも仕方のないことなんでしょうけど……。私とあなたでは境遇が違う。私の方が恵まれていた、と言っているようなものですからね。

 

「頭を空っぽにして戦えば少しは気が晴れますかね。それじゃあ主人公の私。あとは頼みましたよ。主人公らしく私を救ってみてください」

「私今まで蚊帳の外だったんですけど……。主人公交代しません?」

「嫌です」

 

 結局のところ、面倒な私の相手を主人公の私に押し付けただけなんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 主人公の私と粗暴な私の実力は、見ていてあくびが出そうになるくらい互角でした。片方の私が魔法を放てば、それを避けたもう片方の私がお返しにと魔法を放っています。

 

 粗暴な私は既に十五人の私を倒し、その上で主人公の私と互角に戦っているので実際は彼女の方が強いのかもしれませんが、正直言って私の方が強いと思います。

 まだ魔女見習いだった私は、カイに一度負けています。それが悔しかった私は次は負けないようにと旅に出てからも修行を続けてるのです。……カイと戦ったのはその時だけなのでまだ修行の成果を発揮できてないんですよね。

 

 二人の私が戦っている間に私はほかの私の救助をすることにしましょうか。二人の戦いをしばらくぼうっと見ていたからほかの私の目が怖くなってる気がしますが気のせいです。

 

「んー。先に回収すべきなのは気絶した私たちですかね」

 

 まだ意識のある私は軒並み拘束されただけですし面白いのでもう少しこのまま……ではなく目立った外傷もないので後回しで大丈夫でしょう。あ、睨まれた。おー怖い怖い。

 

 

 

 時間を掛けながら全員の私を救出した頃にはうるさかった戦闘音はすっかり聞こえなくなっていました。先ほどまではたまに瓦礫や魔法が飛んできていましたが迷惑な美少女たちですね。

 

 半壊した国の上をほうきに乗って漂っていると、瓦礫の上で仲良く並んで倒れ込んでいる二人の私を見つけました。

 

「お二人ともお元気そうですね」

「そんなわけないじゃないですか……」

「……もう指一本も動かせないくらい力を使い果たしました。見て分からないんですか?」

 

 おやおや。不思議なことを言うものですね。

 

「見てるから言ってるんです。だってあなたたち、すごく嬉しそうな顔をしてますよ」

 

 無事に和解できたようで良かったです。私じゃこんな結果にはなっていなかったでしょうし、主人公の私に任せて正解でしたね。

 

 ……でもどうして指を絡めてるんでしょうか……。

 

 

 

 

 

 

 二人を王宮まで運んだ私を待っていたのは、ほかの私を救出してるときに出会った新しい私たちを含めた皆でパーティーを開いてました。好きな料理にワインなど、皆が好きなものを好きなだけ食べたり飲んだりしています。

 

「指輪の私が食べているのは……普通のパンですか」

「確かに普通のパンですけど、これは私にとっては特別なパンなんですよ。主人公の私」

「なるほど。もしかして例の幼馴染ですか」

「そんなところです」

 

 ほかの私が食べてきた豪華な料理をいくつか食べてみましたが、本物ではないとはいえやはり私にはカイが作ったパンが一番ですね。

 ケーキ?あれは誕生日だけと決めているので願うことはしません。特別な日に食べる特別なケーキなので。

 

 主人公の私と別れ、次は誰と話そうかと考えていると、背後から声を掛けられました。

 

「指輪の私」

「粗暴な……今は短髪の私でしたね。何か用ですか。予想はできてますけど」

「少しだけ聞きたいことが」

「いいですよ」

 

 やはりでしたね。断る理由もないので彼女と話をすることにしましょう。

 

「ほかの私に聞きました。あなたは幼馴染と一緒に旅をしているようですが、その人があなたを立ち直らせたんですね」

「はい。彼のお陰で今の私があります」

「羨ましいですね。私はいつも一人なので」

「それは違います」

 

 短髪の私はまだ勘違いをしているみたいでした。

 

「あなたは一人ではありません。あなたにはフラン先生やサヤさん、ほうきさんがいるじゃないですか」

「そう……ですね」

「私は旅人なのでフラン先生やサヤさんといつでも会えるわけではないので仕方ないですが、いつも一緒にいるほうきさんに相談しましたか?」

「……いえ」

「彼女なら喜んで相談に乗ってくれますよ」

「……そうですね。元の世界に戻ったらほうきさんと話してみることにします。ありがとうございました」

 

 その後、パンを食べながら傍観者に徹していた私たちとも話してみましたが、やはり彼女たちにも幼馴染はいなかったようです。グールの私やゲル状の私は喋れないので聞くことはできませんでしたがカイと一緒に旅をしているならそんなことにはなってないと思うのでやはり彼はいないのでしょう。

 

 この場にいる私の中で唯一幼馴染がいて、一緒に旅をしている。なんだかそれは――

 

「皆さん、遊ぶのもいいですけど――ひとつ、私の提案を聞いてはくれませんか」

 

 思考は主人公の私の声によって中断されてしまいました。

 何だと思って見てみると、彼女の手には日記帳が握られていました。

 

「皆さん、ローブのポケットに日記帳はありますか?」

 

 主人公の私の提案は、同一人物でありながら別々の物語を歩んできた私たちの日記帳を交換して読み合おうということでした。

 カイがいない私はどんな旅をしているのか詳しく知りたかったので丁度良い機会です。

 

「…………」

 

 ほかの私の日記帳を読み、私にはカイがいてくれて本当によかったなと思いました。

 花の国のことや奴隷の少女のこと、死者の楽園のこと。彼がいなければ悲惨な結末を迎えていた人々がいたことを知りました。

 

 一番ショックを受けたのは雪が降り積もる国の出来事についてでした。ミリーナさん、亡くなってしまうんですね……。

 決して短くない時間を共に過ごした姉想いの獣人の少女が、ほかの私とは会うことなくこの世を去ってしまったのは、とても悲しいことです。

 私が聞いた話では彼女の命を救ったのは謎の老人とのことでしたので、その人に感謝しなければいけませんね。

 

 悲しい話はここまでにして、他の違いについて考えることにしましょう。

 まず私が魔女見習いの時に戦ったのはカイでしたが、ほかの私はフラン先生だったようです。結果は完敗で、大泣きしたのはどこの私も同じなんですね。

 

「むしろ魔女見習い時代とは言え私に勝てるその幼馴染も凄いのですが」

「それに何か事あるごとにいちゃついてません?」

「正直読んでて恥ずかしくなりました」

「こんな男よりサヤさんの方がいいです」

「たくさんお金持ってそうですね」

「よく私に愛想を尽かしませんね」

 

 等々、言いたい放題言ってくれてます。嫉妬ですか?

 

 

 

 全員分の日記を読み終えた後、誰かがこれ本にしたら面白くないかと提案しました。

 

 反対する理由はなく、むしろ私も同じことを考えていたので賛成でした。ほかの私も同じだったようです。

 

 本のタイトルの候補は私たちがいろいろ挙げていました。私も何か提案しようかと思いましたが、相応しいものは浮かびませんでした。

 

 多数決の結果、主人公の私のものに決定しました。

 

 

『魔女の旅々』と。

 

 

 

 

 

 

 三日目の朝。私を含めた十七人の私が門の前に並んで立っていました。主人公の私や知的な私、短髪の私の姿もありました。

 

「本当に来るんですか?」

「はい、小悪魔な私の言うことが本当ならですけど」

 

 昨夜。寝ようとしていた私の前に小悪魔な私が現れ、今朝カイがここに来ることを教えてくれました。それなら入れ違いにならないように門の前で待つことにしたのです。

 このことをほかの私に話したところ、彼のことを一目見たいという私がたくさんついてきました。

 

 こんなに私がいるのならと、私はある提案をしたところ、この場にいた全員が承諾してくれました。

 

「……誰か来ます」

 

 門の外。薄く霧がかった空間からはこちらに向かって歩いてくる人影が見えました。

 

「ここは……ん?」

 

 出てきたのは黒い髪に金色の瞳をしたスーツ姿の青年。カイです。

 二日ぶりに会う彼に飛び出したくなる思いを抑えます。

 

「あなたがカイさんですね。話は指輪の私から聞いています。あ、私のことは知的なイレイナとでもお呼びください」

「はあ……」

 

 メガネをかけた私がカイに自己紹介をしていますが、事態を把握できていないのか反応は鈍かったです。

 

「ここには十七人の私がいます。この中からあなたと旅をしている指輪の私を見つけ出してみてください」

「うん……?」

「質問は一人につき一つです」

 

 昨日からずっと考えていたことがありました。私がたくさんいる中で、カイは私のことを見つけてくれるのだろうかと。

 ほかの私にはなるべく私の真似をするように頼んでいます。試しに短髪の私にやってみてもらいましたが、誰一人として当たることはありませんでした。

 

 指輪は外して主人公の私が持っています。外すことに少し抵抗がありましたが、今大事なのは彼に見極めてもらうことでしたので我慢しました。あと主人公の私には指輪は嵌めないように言っておきました。

 

 短髪の私は一目で違うとバレると思うかもしれませんが、私が裏を掻こうとしていると考えられる可能性もあるので並んでもらいました。

 

「私たちはここに長居する気はないのでお早めに」

「はいはい」

 

 軽く返事をした彼は、主人公の私の前まで行きました。真っ先に彼女のところに行くってことは指輪の位置を探ったんでしょうね。

 

「はい」

 

 ……彼は右手を差し出しました。私と主人公の私は似ているので間違いやすいのは分かっていました。

 

 主人公の私はその手を取ろうとして――

 

「指輪。返してもらえないかな」

 

 口を開きました。どうやらカイは指輪を持っているのが私ではないのに気が付いたようでした。

 

「あ、はい」

 

 彼女はあっさりと指輪を渡しました。もう少し足掻いてもよかったのではと思いますが、彼の目には有無を言わせない力強さがありました。

 

「騙されませんでしたか。そう、彼女は主人公の私と言われる私です。次はあなたが幼馴染だと思う私に指輪を渡してください。もちろん全員に質問してからでも構いませんよ」

「いや、大丈夫」

 

 自信あり気に言った彼は静かに歩き出し、メガネをかけた私の前に立ちました。

 

「一緒に元の世界に帰ろう、イレイナ」

「……私は知的な私と呼ばれてる私でして。ほら、メガネをかけてますよ。間違えてません?」

「間違えてない。俺が知っているイレイナは、君だけだ」

 

 彼の答えは――――

 

 

 

 

 

 ――――正解です。

 

「どう……して……?」

「どうしてって、俺が君を間違えるわけないでしょ」

 

 毎日一緒にいるんだから、とにこやかに笑いかけてくれました。

 

 知的な私からメガネを借り、彼女の振りをして気付かれないようにしましたが彼には一目でバレてしまっていたみたいです。

 

「さあ、手を出して」

「……はい」

 

 私が右手を差し出すと彼は中指に指輪を嵌めてくれました。

 

「よし、行こうか」

「はい!」

 

 メガネを知的な私に返してからカイの右隣に立ち、ほかの私たちに向かって別れを告げました。

 

「皆さん、協力ありがとうございました」

 

 少しだけ、自分の気持ちに素直になってみようと思います。

 

 私は彼の右腕に抱き着きました。

 

「ちょ、イレイナ」

「さ、早く行きましょう」

「恥ずかしいんだけど……」

「いいからいいから」

 

 驚く彼の腕を引っ張るように進みながら後ろを見ると、ポカンとした顔の私たちが並んでいました。それを見てクスリと笑います。

 柄にもないことをしている自覚はあります。でも仕方ないじゃないですか。

 

 ほかの私にはいない私だけの幼馴染が迎えに来てくれたのに加え、たくさんいる私の中からこの私を迷わず当ててくれた。それが嬉しくて嬉しくて、我慢ができないくらいとっても幸せなんですから。

 

 

 

 

 

 

 目を開くと、視界の半分には青い空とそこを泳ぐ灰色の雲。もう半分には薄緑色の草原が映っていました。

 

「んん……ん?」

 

 私が横になっているのは理解できましたが、何やら頭に少し硬くて温かみのある感触がしました。

 

「おはよう、イレイナ」

 

 声が聞こえてきました。その聞きなれた声のする方――上を向きます。

 

「無事に目が覚めたようでよかったよ」

 

 こちらを覗きこむ金色の瞳と目が合いました。ここでようやく私が何を枕にしていたのか悟りました。

 

「膝……」

「ん?ああ、そうそう。俺の方が先に目を覚ましたんだ。隣に君がいたんだけど何もせず地面に横たわらせておくわけにもいかないからね」

「そういうことでしたか」

「俺の膝は硬くて嫌でしょ?言ってくれればすぐに退くよ」

「いえ。もう暫く、このままでお願いします」

「りょーかい。君は硬い枕の方が好みなんだ」

 

 変な勘違いをしていますね。私は何処でも寝られるので枕の硬さなんてどうでもいいんですが、それを指摘する気にはなりませんでした。

 

「膝枕って女性が男性にするものだと思ってました」

「そうでもないさ。俺だって昔は父さんにしてもらったことがあるよ。もちろん母さんにもね」

 

 両親のことを思い出していたのか、彼は嬉しそうに語っていました。

 

 頭が覚醒してきたとはいえ、まだ記憶が曖昧なので日記を読んでみることにしましょう。

 

「……これ」

 

 寝ながら器用に日記帳を取り出そうとローブを漁っていると、日記帳と一緒に一冊の本が出てきました。

 そこに書かれているタイトルと私の名前を見て、全てを思い出しました。

 

「『魔女の旅々』か。いいタイトルだね。これが君の持ち出した物かい?」

「はい。あなたは何を持ち出したんですか?」

「俺はこれさ」

 

 彼はそう言って一枚の写真を見せてくれました。

 平和国ロベッタや遠くの山と一緒に写っているのは綺麗な夕日。高いところから撮られたであろうそれは、私にとっても彼にとっても忘れることができない光景です。

 

「懐かしいですね。これを撮ることがあなたの願いだったんですね。いつもカメラを持ち歩いているあなたらしい願いです」

「んー、そういうわけではないんだけどなあ。まあでもいい思い出にはなったよ」

「そうですか。……私は今からこれを読みますけどあなたも一緒にどうです?」

 

 本を持ち上げて尋ねます。

 

「なら俺も読ませてもらおうかな。体はそのままで大丈夫だよ」

 

 この本を読まれるのは少しだけ恥ずかしさがありますが、それでも彼にも読んで欲しいと思いました。

 

 あの国に入る際、お金なんかではなく本当は『もしも彼がいなかったらどんな人生を歩んでいたのか知りたい』と願っていたのかもしれません。

 幼馴染がいない私たちの話を聞き、改めて彼の大切さを認識しました。

 

 心に深い傷を負った私でさえ一人で旅を続けていたのでほかの私には彼は必要ないのかもしれません。けれど、私には彼が必要です。彼がいないと駄目なんです。彼のことが好きなんです。昔から。

 

 あまり素直になれない私ですが、あくどい手を使ってお金を稼ごうとする私ですが、そのせいで迷惑をかけてしまう私ですが、それでも一緒にいてくれる彼とこれからも一緒でいたい。この想いは私の中から消えることはないでしょう。

 

 私たちはただの旅人です。様々な国を巡って、二人で感想を言い合ったり、何かがあれば協力していく関係です。この旅が終わるまではその関係は変わることはありません。

 

 それでも、前よりもう少しだけ、この想いを前面に出していいのかもしれません。いえ、出したいです。

 

「本を読む前に一つだけいいですか」

「なんだい?」

 

 

 

「今後もよろしくお願いします、カイ」

「こちらこそよろしく、イレイナ」

 

 旅が終わった、その後も。

 

 

 

 

 

 

「この辺りでで面白い国ってあります?」

「そうだなあ。あると言えばある」

「ほう」

 

 俺は今、次に向かう国を決めるために港で釣りをしていた男性に声を掛けていた。幸いなことに彼には心当たりがあるようだった。

 

「ほら、あの船を見な」

 

 彼が指さしたのは丁度この港に泊まっていた豪華な船だった。その船の外見と同じく、出入りする人の格好も豪華なものばかりだった。きっと金持ちの為の船なのだろう。

 

「あの船はクラウスレインという国に行くための定期船なんだがな。人気なのか今売ってるチケットは早くても一年後なんだ」

「へー。ならその国に行くには一年待たなきゃ駄目なんですね」

「まあな。それに加えてチケットも高いと来たもんだ。興味はあるが行こうと思ったことはねえ。そんな国さ」

「なるほど」

 

 確かにわざわざ高い金を払ってまで行こうとは思わないし一年待つつもりもない。ならこの国は除外かな。丁度船も出港したし。

 

「ありがとうございました」

「おうよ、ここは魚が美味いから食ってけよ」

「はいはい」

 

 魚を使った料理か……いいな。今夜はイレイナを誘ってどこかの店で食べることにしようか。

 

「今のうちにそのことを伝えておくか。さて……と……?」

 

 指輪に魔力を込めてイレイナの位置を探す。すると指輪の返してきた反応が妙だった。

 俺が今いるのは港。つまり陸の端の方というわけだ。海の反対側の陸地にはいろんな店が出ている。海鮮料理を出している店や、パンを売っている店がある。俺はそっちの方にイレイナがいると思っていた。だが指輪からの反応は違った。

 

 イレイナが嵌めている指輪は現在、海の上にあるらしい。しかも今も海の上を移動中。

 

 慌てて顔を上げて反応があった方角を見ると、港から離れて小さくなってしまったクラウスレインという国への定期船が見えた。それ以外の船の姿は確認できなかった。

 

「え……ええええええ!?」

 

 つまり……つまりイレイナはあの船に乗っているというわけだ。彼女の方から指輪を通して呼びかけが無かったので攫われたということはないだろうけど、今ここで離れ離れになったら次に会えるのは一年後だ。

 

 どんな理由があって俺を置いて行ったのかは知らないけど、このままではいけないのは明らかだった。

 

「イレイナああああ!待ってええええ!!」

 

 

 

 

 今回は何か問題ごとが起きて俺を巻き込まないようにするために一人で船に乗り込んでしまったのかもしれない。それだけの厄介ごとの可能性がある。

 

 だからと言ってついて行かない理由にはならない。一緒に旅をするって約束したから、俺は彼女の後を追いかけ始めた。慌てていたから魔法で空中に足場を出すのを忘れて飛び出してしまった。

 

 一人で問題を抱え込むより二人で分け合った方が良い。二人だから助け合える。大切だから一緒に居たい。

 

 俺とイレイナの旅は続いていく。この旅が終わった後はどうなるのだろうか。あの国のような生活を送るのか、それとも違う未来が待ち受けるのか。それは誰にも分からない。その時になって初めてわかることの方が多い。

 

 

 

 だからそう、俺は頑張れば海の上を走ることができるのだって、今初めて知った。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 俺たちがこれから向かう国、クラウスレインでまたひと騒動あるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 




これにて原作三巻の話は終了です。キリがいいので完結にすることも考えましたが、これ以降の話も書きたいのでまだ続きます。投稿速度は絶望的だと思いますが……。

最後はリリエールへと繋がる終わり方をしてますが書くつもりはありません。来年新しくなって出ますからね。設定もいろいろ変わってるかもしれないのでその時は描写を変えるかもしれません。リリエールでの出来事は今後の話で少し触れるだけになると思います。


※以下は自分語りです

この小説を書き始めた切っ掛けは原作では誰かを助けることが多いイレイナですが、彼女が辛い目に遭ってる時に寄り添う人物がいないのは寂しいなと思ったところからでした。『遡る嘆き』でイレイナが負った心の傷も、結局は別の自分に癒されてますからね……。

だからイレイナと一緒に旅をする人物がいてもいいんじゃないかなーって考えて書き始めたのが本作品です。


魔女の旅々の二次小説(全年齢版)は本作品を書き始めた当時の倍くらいあるんじゃないですかね?嬉しい限りです。他の作者様の素晴らしい作品もよく読ませていただいております。書くの苦手なので感想はあまり残せませんが……。一つ書くのに一時間くらい考えてたりします。

自分も二次小説を書いてみたいなと思うけど書く勇気がないって方も怖がらずに投稿してみて欲しいですね!私も未だに慣れてませんので!


当初はここまで来れるとは思っていませんでした。これも読者の皆様のお陰です。お気に入り登録や感想、高評価をいただく度に嬉しくなっていました。本当にありがとうございます。最後みたいな雰囲気出してますけどまだ終わりではないですから!


今まであまり言い出すことはできませんでしたが、本作品を少しでも面白いと思っていただけましたらお気に入り登録や感想、高評価をよろしくお願いします。そして、これからもよろしくお願いします。
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