一人旅より二人旅   作:一撃で瀕死になる人

5 / 42
今年に入ってからアニメを観て、現在発売されている十五巻まで一気に読んでしまうくらいハマりました。
あまり小説の書き方について知らないため、拙い文章で分かり難いかもしれませんが少しでも面白いと思って頂ければ嬉しい限りです。


本編
始まり(前編)


 始まりは今でも憶えている。

 

 俺がまだ小さかった頃、母さんに頼み、近くに住んでいたイレイナと一緒に平和国ロベッタから少し離れた場所にある丘の頂上に生えた一本の木の上から見た景色。

 

 夕日によってオレンジ色に染められたロベッタの建物や木々、遠くの山々は、毎日見ていたはずなのに少し遠くから見るだけでまるで別物であるかのように感じた。そんな光景に、幼い俺たちは心を奪われた。

 

「うわぁ、綺麗……」

「こんなの初めて見た……」

 

 木の枝の上、並んで座っている俺たちは感動からか、揃って言葉を漏らしていた。

 少しの間、その景色を楽しんだ後イレイナが笑顔でこっちの方に振り向いた。

 

「私ね、大きくなって魔女になったらニケみたいに冒険するの」

 

 ニケ、それは『ニケの冒険譚』という小説の作者であり主人公である魔女の名前である。世界中を旅をして回ったニケが見た景色の数々は国から出たことのない者にとって魅力的なものであった。俺にとっても。

 

「旅かぁ……俺も大きくなったら旅に出ようかなー」

「本当!?なら一緒に旅をしようよ」

「一緒に?……分かった、大きくなったら二人で一緒に旅をしよう」

「約束だからね」

「うん、約束」

 

 旅をしたいと思ったのは本当だったけれど、その原因としては隣で楽しそうに笑うイレイナを見ていて俺も嬉しくなったからというのが大きい。

 だから旅に誘われたのはとても嬉しかった。

 

「カイ、イレイナちゃん、そろそろ降りて来なさーい」

「「はーい」」

 

 この場所を教えてくれた母さんが下から俺たちの名前を呼んできたので戻ることにした。

 イレイナはあまり外で遊ばないから木登りの仕方なんて知らず、ほうきにもまだ乗れないため、俺にしがみついて俺が木に登ることで無事に木の上までたどり着いた。

 当然、降りるときも同様だ。

 イレイナの重さを感じなかったのは母さんが魔法で補助してくれていたのだろう。

 

 

 

 どうやらイレイナははしゃぎすぎて疲れたみたいだったので俺が背負うことになった。この時は背中に重さを感じた。

 どうして……と思いながら前を歩く母さんの後ろ姿を見ていた。

 

 母さんの髪は金色であるが俺の髪は黒色をしている。これは父さんの髪の色が黒だったからだ。

 その代わりと言っては何だけど瞳の色は母さんと同じで金色をしている。

 イレイナは母親似で彼女の母親と同じ灰色の髪に綺麗な瑠璃色の瞳をしている。

 

「カイ、今日は楽しかった?」

 

 いつの間にか俺の背中で寝ていたイレイナを起こさないようにあまり大きくない声で母さんが聞いてきた。

 

「すごく楽しかった」

「そう、それはよかったわ」

 

 俺は笑顔で嘘偽りのない本心を答えた。母さんも嬉しそうな声で応えてくれた。

 

 

 

 

 

 眠っているイレイナを家まで送り届けた後、俺たちは家に帰って父さんが用意してくれていた夕食を食べることにした。

 

「カイ、今日はイレイナちゃんと国の外まで行ってきたようだけど楽しかったかい?」

「うん、すごく楽しかったよ」

「それはよかった」

 

 食事中、父さんが母さんと同じようなことを聞いてきたのでこれまた同じように返した。

 父さんと母さんは何の仕事をしているか分からないけど、普通に生活できているから金銭面については大丈夫なのだろう。

 

 俺は深呼吸をしてから二人に旅をしたいことを伝えることにした。

 

「……俺、大きくなったら旅をしたい!」

「ほう、旅に?良いんじゃないかな」

「ええ、私も良いと思うわ」

 

 思ったよりもあっさり許可が出て拍子抜けしたが、旅をしても良いと言われたのは嬉しかった。

 

「だけど、国の外は危険なことが一杯だから強くならなきゃ駄目だぞー」

「なる!強くなる!」

 

 

 

 

 

 数日後、俺は母さんの勧めでイレイナの母親であるヴィクトリカさんにイレイナと合流する形で魔法を教えてもらうことになった。

 

 しかし、俺の魔法の才能はそこまで高くないということは少ししたら嫌でも分かった。

 イレイナが数回で成功していた魔法を、俺は何十回やってようやく成功することがほとんどだった。

 母さんやヴィクトリカさんは気にすることはないと言ってくれていたが、開いていくイレイナとの差に俺は焦りが生まれるばかり。

 

 魔法を習い始めて約三ヶ月が経った頃、家族全員で夕食を食べているときに母さんがある提案をしてきた。

 

「ねえカイ、もしよかったら別の方法で強くなってみない?」

「別の方法……?」

 

 母さんの話を聞いていくと魔法ではなく体を鍛えることで強くならないかということらしい。

 

「でもどうやって強くなればいいの?」

「そこは大丈夫。お父さんが良い人を知ってるの」

「そうだね、カイには僕の師匠の下で修業をしてもらおうかと思う。当然厳しいだろうけどどうする?」

 

 俺の答えは決まっていた。

 

「それで強くなれるなら、俺やるよ!」

 

 その時知ったのだが、父さんもその師匠の下で修業をして力をつけ、世界中を旅をしていたらしい。その途中で出会ったのが母さんだったとかなんとか。

 

 そうして新しい道を歩むことに決めた俺は次の日の早朝、ヴィクトリカさんにそのことを伝え、お礼を言った。

 ヴィクトリカさんはこうなるのが分かっていたのか、そこまで驚くことはなく、「頑張ってね」と応援してくれた。

 

 朝早かったためかイレイナはまだ起きていないらしく、ヴィクトリカさんの方から伝えてくれるそうだ。

 

 イレイナの家から離れた俺は父さんが教えてくれた師匠がいるという場所に向かった。

 

 そこはロベッタのすぐそばにある大きな山だった。木々が生い茂り、頂上まで行くための道らしい道は見当たらない、人が住めるか分からないような山だった。

 この山の頂上に師匠がいるのかと思い、山に入ろうとしたが後ろから声をかけられた。

 

「お主がカイか」

 

 振り返ってみるとそこには六十代前半くらいの和服を着た人物がいた。年齢からか髪の毛のない頭と顔に刻まれた皺と、年齢を感じさせないほどに綺麗な姿勢が印象に残る、厳しそうな男性がいた。

 

「はい、俺がカイです」

「そうか、お主の父から話は聞いておる。弟子になりたいそうじゃな。ならば最初に弟子入りのための試練を与えよう」

 

 弟子になるための試練なんて聞いてなかった。

 いきなり儂と戦えなんて言われたらどうしようなんて不安になった。

 

「今儂が欲しいものをもって来るのじゃ。もし持ってこれたのならばお主を弟子にしてやろう」

 

 それはただのパシリでは……その言葉に戸惑いながら母さんの言葉を思い出していた。

 

「これはお師匠様と会ったら渡すのよ」

「なにこれ」

「秘密よ。絶対に開いちゃだめよ。弟子になれなくても知らないわよー」

 

 などと言われながら渡されたのは触った感じ薄い本のようなものが入った包み。

 すごく気になったが我慢して開けずに持ってきていたのだ。

 

「これをどうぞ」

「ぬ、既に持ってきておったか。どれどれ……こっ、これは!」

 

 渡した包みを受け取った師匠(予定)は俺に背中を向けてから包みを開けて中に入っている本を読み始めた。

 何を読んでいるのかはこちらからは見えなかったが反応を見るにお眼鏡にかなったのだろう。

 

「うむ、よくぞ儂の求めるものを持ってきた。お主を弟子にしよう」

「ありがとうございます」

 

 少しした後こちらに向き直った師匠は俺の弟子入りを認めてくれた。

 

「では早速修業に入る。ついてくるのじゃ」

 

 そう言って師匠は山の中に入っていったので、俺もすぐ後を追った。

 

 山の中は日差しがあまり入らないからか薄暗く、不気味さを感じたがそれ以上に道が険しいため体力が凄い勢いで奪われていった。

 

「はぁ……はぁ……師匠、まだですか」

「どうした、もう限界かの?その程度で儂の弟子が務まると思わんことじゃ」

 

 師匠は弱音を吐いた俺のことなど気にせずどんどん前へ進んでいく。

 こんなところに一人残されたら無事に帰れるか分からない俺は疲れた体を無理やり動かすしかなかった。

 

 

 

 登り始めて二時間程経っただろうか。ようやく山の頂上にたどり着くことができた。

 そこには木造の家とその隣に道場があるだけだった。

 

「さて、自己紹介がまだじゃったな。儂の名はゴウザン、ここに住んでいるしがない老人じゃ」

「はぁ……はぁ……カイです。これからよろしくお願いします」

 

 こうして修行は始まった。

 

「カイよ、お主は魔法を扱えると聞いた。ならばまずは覚えてもらう魔法が二つある」

「魔法……ですか?」

 

 魔法の才能がないから師匠に弟子入りしたのに最初から魔法の修行とは……なんて微妙な気持ちになったのは仕方のないことだろう。

 

「そうじゃ、これから行う修業に必要と言えるほど重要な魔法じゃ」

「何の魔法ですか?」

「過重力と物をしまう魔法じゃ」

 

 物をしまう魔法はヴィクトリカさんのところで習っていたおかげで手に持てるくらいの大きさのものならしまうことができるが、過重力という魔法については聞いたことがなかった。

 

「師匠、過重力とはどんな魔法でしょうか」

「過重力とは対象に普段受けているのよりも強い重力を掛ける主に拘束なんかに使われる魔法じゃな」

「何に使うんです?」

「この魔法を自分にかけて修業すれば普通に修業するより強くなれるじゃろ?」

「…………」

「この魔法を使えるようになるのが最初の修行じゃ。まずはそこらへんに落ちている小石に掛けれるようになることからかのう」

 

 どや顔で語る師匠を見て不安しか感じないけれど俺は無事に強くなれるのだろうか。

 結局その日は過重力を使えないまま日が落ちる時間になっていった。

 

「今日の修行はここまで。下山するぞ」

「えっ、ここで生活するのでは……?」

「まだ年齢が二桁にもなっていないお子様をここに住まわせるわけないじゃろ。山を登ったり下りたりするのは修業にもなるしの」

 

 結局俺は師匠に案内されて山を下り、帰宅することになった。

 

「ただいま……」

「あらおかえりなさい。先にお風呂に入っちゃいなさい」

 

 帰宅した俺は母さんに言われたとおりにしてから夕食を食べることにした。

 

「今日の修行はどうだった?」

「ひたすら過重力を使えるようにするだけだった」

 

 結局その日だけでは使えるようにはならなかったけど……。

 

「過重力かー、僕は魔力がなかったからその分必死に頑張ったっけかな」

「過重力が使えれば強くなれるの?」

「絶対強くなれるね。だからカイは一番強かった時の僕より強くなるんじゃないかな」

「そっか。なら頑張る」

 

 父さんの旅人時代の強さを知らないからどれくらい強くなれるのかイメージできないが父さんが言うのならばきっとそうなのだろう。

 

 夕食を食べ終わった俺は、寝るまでの間過重力を使えるようになるために練習をすることにした。

 

 

 

 

 

 俺が過重力を使えるようになったのは一週間後のことだった。

 

 いつも通り小石に過重力を掛けようとしていた時、特別何か意識したわけではないけれど魔力が抜けていく感覚がしたから小石を持とうとしたが重すぎて持つことができなかった。

 つまり、成功だ。

 

「師匠!できました!」

 

 俺は家の中で本を読んでいた師匠に駆け寄りながら報告した。

 

「む、ようやくできるようになったか。どれ、次は力加減の調整じゃな。今のお主にこの威力のまま掛けたならその重さで潰れてしまうからのう」

 

 そう言いながら師匠は重くなった小石をひょいと軽々しく持ち上げていた。

 

「今度はもう少し力を抜いて掛けてみよ」

「……こうですか」

「儂にまで過重力がかかっておるではないか。もっと小石だけに意識を向けるのじゃ。……そう、そんな感じじゃ」

 

 過重力がかかっているのに全く姿勢を崩すことのない師匠に驚きながら小石のみに過重力を掛ける。

 力を調整しながら掛けるから先ほどよりも疲れた気がする。

 

「では自分自身に今のと同じ威力で掛けてみよ」

「はい。……ぐっ」

 

 自分自身に過重力を掛けた瞬間、体全体に重りを付けているのではないかと思うくらいの重さが俺を襲った。

 

「ほれほれどうした。動いてみせよ」

「くっ……」

「この一週間山を登り続けたお主なら動けるはずじゃぞ」

 

 俺は必死に体を動かそうと全身に力を入れることでぎこちないが歩くことはできた。

 

「あとはその魔法を掛けたまま今まで通りの生活を送るのじゃ。風呂に入る時と寝る時以外は魔力が尽きるまで掛け続けるように」

 

 

 

 

 

 

 最初は三十分も保つことができなかったが、掛け続けているうちに効率的に掛けれるようになっていったのか徐々に過重力の使用可能時間は増えていった。

 

 起きている時間のほとんどを過重力を掛けて過ごすことができるようになったら、今度は過重力の威力を強くしていくことになった。

 

 今掛けている重さに慣れたら強く、また慣れたのなら更に強くと繰り返しているうちに半年は過ぎていった。

 

「カイよ、一度過重力を解いて思いっきり跳ねてみよ、ただし外でな」

 

 師匠の家で持ち込んだ魔導書を読んでいた俺に師匠は言ってきた。

 断る理由もないし師匠に言われた通りに外に出て過重力を解き、力いっぱいジャンプした。

 

「おぉ……」

 

 次の瞬間、俺は約十メートルほど上に跳んでいた。必要最低限の家具しか置いていない木造の家が下に見え、師匠の眩しい頭も見えた。

 そして着地の瞬間その衝撃に備えたが、体にやってきた衝撃は大きいものであったがどこかが痛むとかはなかった。

 それを確認して満足そうに頷いた師匠は次の段階に入ると腕を組みながら言ってきた。

 

「これまではただ体を強くすることだけを目的としたものじゃった。だが体が強いだけでは意味がない。もし誰かに襲われた際に戦う術を持っていないならば、待つのは死のみじゃ」

「戦う術とは……?」

「お主には儂と同じ無形流(むぎょうりゅう)を習得してもらう」

「無形流……どのような流派なのですか」

「この流派は特定の構えを持たず、使う武器も特に指定はない。人によって形を変える流派じゃから無形流じゃ」

「それって流派と言えますか?」

「むっ…………この馬鹿弟子がーー!!」

 

 俺は吹っ飛ばされて木にぶつかった。この時何をされたのか俺は分からず、辛うじて顔に何かを食らったのだけは左の頬の痛みが教えてくれた。

 

「えっ……」

「儂が流派と言えば流派じゃ。無形流が定めている掟は二つ。一つ、初動を悟らせるな。二つ、力は己の為ならず。儂の攻撃が見えなかったじゃろう。無形流はどんな態勢からでも動けることを重視している。そしてこの力は誰かを守るためのものでもある」

「だから見えなかったんですね。……でも態々俺を殴る必要ありましたか?」

 

 師匠は何も答えてくれなかった。

 

 

 

 

 それから俺は師匠から様々な種類の武器を見せてもらい、その中からいくつか選んで修行をすることになった。

 修行と言っても軽く扱い方を教えてもらった後は山の頂上にある家の隣の道場で模擬戦を繰り返すというものであった。

 

 武器は物をしまう魔法でしまっておくので、その練習も同時に行っていた。

 

 

 

 時間が進み、俺が学校に通い始める年齢になった頃、その日の修行が終わった後師匠から一言。

 

「カイ、そろそろ学校に通い始める年齢じゃろ。学校が終わった後、お主の国の店でアルバイトをしてこい。話は既にお主の両親に通しておる。朝とバイトが終わった後は今まで通りここに来て修行じゃ」

 

 家に帰った後両親から話を聞くと、どうやら旅に出た後に何もできないとなるとお金を稼ぐ手段が無かったり、何か困ったことがあったときに取れる選択肢が少なくなってしまう。だからこの平和国ロベッタにある店でバイトをして経験を積ませようということらしい。

 

 俺みたいな子どもがバイトできるのか疑問に思ったが父さんが既にいくつかの店と話を付けてくれたようだ。

 

 そうして学校に通い始めた俺は朝早くから山に行って修行、帰って来てから学校に行き、学校が終わったらバイト、夕方までバイトをしたらまた夜まで修行と忙しい日々を送ることになった。

 学校がない日はこれまで通り一日中修行をしていた。

 

 年齢が上がっていくにつれ、俺がバイトすることを許可してくれる店も増え、様々な分野の知識や技術を習得することができた。

 今思えばなかなかハードなスケジュールをしていたと自分でも思う。辛いと思ったこともあったが、それ以上に強くなりたいという願望が俺を突き動かしていた。

 

 その成果もあり、俺は力を付け、戦う術も手に入れ、様々な経験を積んでいったのだった。




カイがイレイナと一緒に旅をする約束をしてから旅に出た後のことを考えてバイトも始めるまででした。

過重力の魔法が出てきた時、とある漫画の重い重力でトレーニングする戦闘種族が頭に浮かびました。この小説の設定を作るにあたり、主人公はこの魔法を使うことは一番最初に決めていました。

今回の最後の方に学校について書きましたが、原作でロベッタに学校が存在すると明記はされていなかった筈ですが平和国と最初に付けているくらいですからあるんじゃないかと判断しました。もし学校が存在しているなら十四歳の頃には既に卒業してるっぽいので小学校と同じ十二歳までかなと考えています。

次回は二人が旅に出るまでの予定です。

2020/2/20追記

ロベッタに学校があることは普通に明記されてました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。