(感想は非ログインの方でも書き込めるようにしています)
どんな辛辣なものでも甘んじて受け入れる覚悟がありますのでよろしくお願いいたします。
目が覚めた。
ルディは私の横で穏やかな寝息をたてている。
その様子が、先程まで見ていた夢と酷く重なって見えた。微睡みの中、その内容を反芻する。
夢の内容は数年前のことだ。
ルディは自分を庇い亡くなった父、廃人となった母を見て憔悴しきっていた。もう、何日も食事すらまともに摂っていないだろう。
日に日に窶れていく愛弟子のそんな状態を見ているのは、非常に辛いものがあった。
同時に、危険な状態にある彼を助けてやれない自分に腹が立った。
自分はもともと、彼が人並みに脆い人間だということは知っていただろうに。
彼はその優秀さがゆえに、他人から頼られこそすれ、心を預ける術を身につけていないのだ。
私が、師である私が、彼を助けなくては。
そう決意して、身体で迫った。
ことを終えたあとは、彼の一助になれた安心感、彼と一つになれた幸福感よりも、後悔の方が長引いた。私は、師として最低なことをしてしまったのではないだろうか、と。
迷宮で助けられた時、あるいはもっと前から、私のルーデウス・グレイラットに対する気持ちは変化していた。
愛しているのだ、彼を。
それから彼が結婚していることを知り、これが叶わぬ恋だということも理解した。
本来なら、私はここで身を引くべきなのだ。
しかし、師であることを笠に着て、彼にこんな仕打ちをしてしまった。彼の心の弱さに漬け込み、自身の劣情のはけ口にした。
なんと愚かなことだろう。
ドス黒い感情で胸がいっぱいになる。
今にも溢れて泣き出しそうだ、本当に辛いのは私より彼の方なのに…
…キシー、ロキシー。
「ロキシー?」
「へ?」
どうかしましたか?と、ルディは心配そうに私の顔を覗く。
「凄く魘されていましたよ。大丈夫ですか?」
「…ええ、昔のことを思い出していました。少し疲れましたね」
「…話せば楽になると思います。俺はどんな内容でも受け入れますから、安心してください」
そう言われて、事のあらましを説明した。
「ルディ。私は、貴方に相応しい存在でいられているでしょうか。過去にあんな仕打ちまでして、正直、不安です」
ルディは凄い人だ。それはなにも魔術の才能に限った話ではない。
おそらく、今後何年にも渡って語り継がれるほどだ。ならば、妻である私も、相応しくならねば。
「勿論ですよ。ロキシーは昔のことを悔いているようですが、あの時、俺は貴女に救われたんです。それに、大切なものを沢山もらいましたし」
「…私も、ルディに沢山もらいましたね」
彼は、今までしがない冒険者だった私に魔法大学で教鞭を執る機会を与え、妻として迎え入れ、そして今では母にまでしてくれたのだ。
正直、もらいすぎなくらいだ。
「魔族である私には過分なほどです」
「…ロキシー。魔族かどうかなんて、関係ありませんよ。俺はロキシーを愛しているし、尊敬しています。それでいいじゃないですか。そんなに自分を卑下しないでください。」
「…そうですね。ちょっとだけ、弱気になっていたのかもしれません。」
少し卑屈になっていたのかもしれない。
何十年も生きてきて、年下の夫に心配を掛けるようではまだまだだ。
強くなろう、私も。
私は人族に比べて長命な種族、ルディはおそらく私より先に逝ってしまう。
ならば、最期の別れが来るその時まで、私が彼を支えなくては。
「ルディ」
「はい」
「愛しています。これからも、ずっと」
「俺もです。ロキシー」
逞しい腕にギュッと抱かれる。
そのまま、深い眠りに落ちていった。