ルーデウスは美味しいチョコを作ることができるのか...?
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「ただいま~」
「あ、ルディ。おかえりなさい」
「お兄ちゃんおかえりなさ──ってなにその大量の木の実!?」
とてとてとシルフィたちが玄関まで出迎えてくれた。
この様子だと、他のみんなは出払っているのだろうか。
「ふふん、よく聞いてくれました!これは“カオカマスの実”だ。
ちょうどよかった、二人とも手伝ってくれ。」
「「え?」」
────数週間前
「そういえば、あっちの世界ではもうすぐバレンタインか...」
空中要塞のテラスでお弁当を広げながらポツリと呟いた。
すぐ傍には二月を代表する花が生け花として飾られている。
ナナホシの実験が失敗に終わってからというもの、俺は足繁く彼女のもとに通っている。
俺は彼女に食事を用意する代わりに日頃の相談に乗ってもらっているのだ。
決して疚しい関係ではない。
「あら、懐かしいワードね、バレンタインなんて。でも、あっちの世界のあなたには縁がなさそうね」
ナナホシが哀れみの目でこちらを見てくる。
まあ、たしかに当時のあの姿だとそういわれても仕方あるまい。
「余計なお世話だよ。俺だって小さい頃は母親から貰うくらいモテモテだったんだぞ」
「...それはよかったわね」
なんだよ。
いいじゃん別に...
「ところで、こっちの世界にはチョコレートなんてあるのかしら?」
「うーん、こっちに来てから目にしたことは一度もないな。もしかするとカカオのようなものはあるのかもしれないけど...」
二人でそんな話をしていると、興味深そうな面持ちで銀髪の男が入ってきた。
ペルギウスだ。
「なにやら面白い話をしているな。異世界の文化についてか?」
「ええ、バレンタインというのですが...」
「ほう、余も異世界の文化には興味がある。申してみよ」
珍しくペルギウスが興味津々だ。
ところが、バレンタインとはかくかくしかじかこういうものです、と一通り説明を終えると、
「ふん、くだらんな」
「はは、まあ、俺には縁のないイベントでしたが...」
どうやらお気に召さなかったらしい。
当時の俺もそう思ってたから、実は同類なのでは?と思ってしまう。
「だが、そのチョコレートとやらには興味がある。材料はカカオ、といったか。
話を聞く限り、ラプラス戦役の頃は獣族がそれに似たような木の実を食していた気もするが...」
獣族、ということは大森林か。
確かにカカオは熱帯の地域で生産されている印象がある。
次の仕事も目的地は大森林の方面だし、ダメもとで探しに行ってみるか...
「では、私も大森林に行く用事がありますし、もし見つかれば次回はチョコレートをお持ちするということで」
「うむ、期待しておるぞ」
チョコレートか、甘党のロキシーは喜ぶだろうな。
シルフィとエリスも貴族の暮らしの中にいたが、ペルギウスの話を聞く限り似たような菓子はおそらく無かっただろうし。
...腕が鳴るな。
────大森林にて
「あ、あった,,,!」
この形、色、大きさ、俺が生前認識していたそれとほぼ一致する。
まさかこの世界にもカカオに似た実が存在していたとは...
いくつか持って帰って調理してみるとしよう。
「っと、このくらいでいいか」
帰り道、袋一杯になった木の実を運んでいるときに獣族から聞いた話によると、この木の実は“カオカマス”という木にできるものらしい。
食べられないことはないらしいが、かなり手間がかかるため食物が豊富な大森林ではほとんど食されていないそうだ。
たしかに、カカオの加工はかなり手間だったはず。
小学生のときの、チョコレート工場を見学した記憶を思い出してみる。
発酵、乾燥、焙煎etc...そりゃ食べられなくなるのも納得だ。
まあ、俺の魔術とアイシャの手際があればなんとかなるだろう。
とりあえず、集めた分だけでも持って帰ってみよう。
────現在
「...よし、じゃあさっそく取り掛かろう」
「この硬い実からお菓子ができるって言ってたよね、中はどうなってるんだろう?」
シルフィがそう言いつつ実の外殻を割ってみると、そこにはカカオと同じく白い綿のようなものが詰まっていた。
そして包まれるように密集している果肉は、一見すると昆虫の卵のようだ。
「うわぁ、中身は意外と...なんていうか、卵みたいだね」
「お兄ちゃん、これほんとに食べれるの?」
二人とも初めて見る食材だからかゲテモノを見る目をしている。
食べた時の反応が楽しみだな。
「ああ、かなり手間がかかるが、きちんと処理すれば美味しいらしい」
「ルディ、よくこんな食材知ってたね。それに、ちょこれいと、だっけ?アリエル様の護衛で王宮にいたときでも、そんな食べ物は見たことなかったなぁ」
「なんでも、古代の大森林で食されていたものらしいから、知らないのも当然だろう」
アリエルの護衛だったシルフィですら見たことがないのだから、恐らく本当にこの世界にチョコレートは存在しないのだろう。
ならチョコレートは古代のお菓子ということにしておいた方が無難だろう。
俺の曖昧な知識で再現できるか分からないが、ここまで来たし、やるしかないな。
家族の喜ぶ姿も見たいしな。
「お兄ちゃん、次はどうしたらいいの?」
「あぁ、確か次は───」
そこからは俺の小学生の時の知識をフル稼働させたが、相当に時間がかかってしまった。
カカオ豆の製造工程だけでも大きく分けて確か三つあった。
発酵、乾燥、そして焙煎。
このうち発酵と乾燥だけで、魔術を駆使しても約二週間。
ここまでで完成したのはシワシワになった豆だけ。
しかし、ここまでくればあとは経験がものをいう。
天才肌のアイシャはその才能を遺憾なく発揮し、絶妙な火加減でカカオ豆をローストしていった。
シルフィはそれを見ながら一言、
「でも、あんなにたくさん木の実あったのに食べられるところは意外と少ないんだね」
「そうだな、これだけ手間暇かかって量も少ないんじゃあ、作られなくなるのも納得だ」
「古代のお菓子って、どんな味なんだろう。香りはすごくいい感じだけど―」
と、そこに、
「ルディ、なにやらとても香ばしい香りがするのですが、何を作っているのですか?」
厨房にひょこっと顔を出したのは、神だ。
相変わらず眠たげな顔つきだが、それがいい。
「ええ、実は今、新しいお菓子を作っているんですよ。」
そう言ったとたん、彼女の顔つきが生き生きしたものに変わる、これもいい。
「お菓子ですか!いいですね。...しかしこれは、豆、ですか?」
見るからに甘くなさそうな見た目に、明らかにテンションが下がる神、だが、それもいい。
「ふふん、実はまだ工程の半分ほどなんですよ。完成したら、ロキシーもきっと気に入るはずです。ちゃんと甘いので安心してください。」
「なるほど、それは楽しみですね。私は少し書類の整理があるので手伝えませんが、完成したら教えてください」
そういって上機嫌で自室へ戻る神の御姿を目に焼き付け、作業に戻る。
焙煎が終了したら、あとはひたすら石臼ですりつぶすだけなのだが、これがまたしんどい。
なにせ可食部が少ないといっても、結構な量を採取してきたのだ。
石臼を引くのは結構な重労働だから、全て捌くには人手がいるな...
そう思っていると、
「...ルーデウス」
声の方向に振り替えるとそこにはきれいな赤髪が揺れていた。
ああ、彼女にも声をかけておくべきだったな。
何か手伝えることはないか、いまかいまかと声がかかるのを待っている様子だった。
「エリス、ちょうどよかった。今お菓子を作ってるんだけど、手が空いてたら手伝ってくれないか?」
「...!ええ、もちろんよ!」
待ってましたと言わんばかりの笑顔にこっちも嬉しくなる。
そこからはあっという間だった。
俺、アイシャ、シルフィは早々に音を上げたが、エリスは楽しそうに石臼を引いていた。
そのお陰もあって、前世で見たチョコレートに限りなく近い泥状の物体が出来上がった。
「へぇ~、これがちょこれいと、か~。なんかルディが魔術で作る泥に似てるね」
「ルーデウス、これ、ほんとに美味しいの?」
フフッと笑うシルフィに対して、エリスは味が気になる様子。
「じゃあ、みんなで味見してみるか」
いただきます、とみんなでペロり。
...!!!
「「「にっがい!!」」」
ああ、なるほど。プレーンのチョコってこんなに苦かったのか。そういえば、これって所謂カカオ100%のチョコだよな。
前世の俺はミルクチョコやホワイトチョコを好んで食べていたからこの味になじみがないのも当然か。
シルフィとエリスも渋い顔をしている。
「ルディ、これ、作り方あってる...?」
「おそらく。昔はこれに牛乳や砂糖を加えていたんじゃないかな」
「食べられないわけじゃないけど、そうやって食べたほうが無難ね。さすがに苦すぎるわ」
「そうだね、ボクはもう少し甘い方が食べやすいかも」
「あたしはこのくらいがちょうどいいかな~、意外と後味すっきりだし」
しかし、アイシャはお気に召したご様子。
確かに誕生日会の時もケーキが苦手そうだったし、甘いものはそんなに好きじゃないのだろう。
「じゃあ、みんなが食べやすいように小分けにして好みの味付け、それから型で成型することにしよう」
チョコレートのお披露目はその日の夕食後となった。
温めた牛乳にチョコを溶かした「ホットチョコレート」、そして各人の好みに味付けされた一口サイズのチョコだ。
余ったチョコの一部は後日ペルギウスたちに献上しに行くとしよう。
「みんな、ここ数日俺がコソコソお菓子作りに勤しんでいたことは知っていると思うが、これがその努力の結晶だ。一応みんなの好みに合わせて味付けしたつもりだから、楽しんでくれ」
「絶対青ママのやつが一番甘いんでしょー!」
「パパは青ママに文字通り“甘いからね”」
クリスとララの冷やかしに思わずロキシーも赤面する。
ララに関しては座布団一枚だな。
「まぁ、ルディが私に配慮してくれたのは大変嬉しいですが...」
「あー!青ママ照れてる~!」
「こらこら、あんまりロキシーをいじめちゃダメだぞ」
こういうやり取りを幸せというのだろう。神の照れ顔、いとをかし。
「じゃあ、さっそくいただこうか」
いただきまーす、と、この言葉もよく浸透したものだ。
「これ、すごい美味しい!さすがパパ!」
クリスはそう言いながら口元についたチョコレートをエリスに拭われている。
エリスももう立派なお母さんだな、思わず泣きそうになる。
「「パパ、これ毎日作って」」
毎日て、んな無茶な。まぁララとリリに関してはさすがミグルド族の血というか、甘いものは気に入っているようだ。
クリスのように素直にほめてほしいものである。
息子たちも舌鼓を打っているようでなによりだ。
リーリャとゼニスはそんなやり取りを微笑みながら見つめている。
「ルーデウス様、このような素晴らしい一品、用意するのもさぞ大変でしたでしょう。私共にもご用意していただき、ありがとうございます」
「いえ、リーリャさんも家族なんですから当然ですよ」
「...ありがとうございます。奥様も大変喜んでおられますよ」
そういってゼニスの方を見ると柔らかく微笑んでいるのがわかる。
ゼニスも最近は表情表現がとても豊かになってきたように感じる。俺としては非常に喜ばしいことだ。
さて、妻たちの反応はどうだろうか。
シルフィの方を見ると何かを確かめるように味わっているのが分かる。
何か気になるのだろうか。
「シルフィ、どう?」
「うん、これ、正直かなり美味しいよ。僕が宮殿にいたときでも似たようなものは食べてなかったし。
確かまだ余ってたから、どんな料理に合うか考えてたんだ。もし作ったら、ルディも食べてくれる?」
「もちろんさ。シルフィの料理だったら喜んで食べるよ。」
「ふふっ、ありがと。嬉しいよ」
長い耳がぴょこぴょこ跳ねる、実に可愛いらしい。
彼女の無垢な笑顔を見ていると実に庇護欲が掻き立てられる。
最近はジークの髪色で悩んでいるようだし、俺が支えてやらなければ。
「ルーデウス!どう?美味しい?」
「うん、美味しいよ。俺好みの味だ」
「...!もちろんよ!ル-デウスの好みは分かっているもの!」
ぱぁっとエリスの顔が赤くなるのが分かる。
実は、俺のチョコの一部を味付けしてくれたのはエリスだ。
ルーデウスの好みの味にしてあげるわ!と意気込んでいたこともあり、不器用ながらも頑張っていた。
やはり彼女は一生懸命何かに打ち込んでいる姿が凛々しくて非常に映える。
チョコが美味しいのも本当のことだ、きっとシルフィも助力してくれたのだろう。良かったねエリス、と彼女も嬉しそうだ。
さぁ、今回のメインイベント、大の甘党ロキシーの反応はというと...ってうおっ!?
彼女の皿にはもうチョコの影はない。
こんなに美味しい甘味があったのかといわんばかりの目をしている。
「ルディ!これは...これはなんというお菓子なのですか?」
「え、ええ、これはチョコレートという古代の大森林で食べられていたお菓子のようです。」
「ちょこれいと。凄い...!こんな美味しい甘味があったなんて!」
ええ...目は口ほどに~ってのはこの事か。
「気に入ってくれましたか?」
「はい!それはもう!...ルディ」
「?なんでしょうか」
「その、、、手間暇がかかっていることは承知しています。ですが、また作ってもらうことはできますか...?
もちろん、私も材料の採取は手伝います。どう...ですか??」
ロキシーがこんなに気に入るとは、正直思ってもいなかった。
それに、彼女がわがままを言うのも珍しいことだ。
俺は今まで平等に妻を愛してきたつもりだ。
結婚したのはシルフィが最初だが、それを盾にロキシーやエリスをないがしろにしたことは決してない。
しかし、ロキシーはいつも一歩引いてシルフィやエリスを立てているきらいがある。
それ自体は否定しまい、これは彼女なりの処世術なのだ。
魔族である自分のせいで家族に変な偏見が付かないように気遣ってくれているのだろう。
まぁ俺としては、家族なのだからそんなことは気にしないといつも言っているのだが。
とにかく、いつも家族のためにいろいろ我慢してくれているであろう彼女の頼みなのだ、断る理由がどこにあるだろうか。
「もちろん、ロキシーのためなら何度でも作りますよ」
「...!ありがとうございます、ルディ!」
ロキシーは目をキラキラさせながら喜んでいる。
はしゃいでいる彼女を見るのも随分久しぶりだ。
彼女のありがとうだけで今回の疲れが一気に取れたように感じる、本当に、作ってよかったな。
「えー!青ママの時はパパやさしー」
「ララ、リリ、お前たちはいっつもパパをこき使ってるだろ」
「そうですよ、貴女たちはもう少しルディを労わりなさい。
ルディは優しいからいいですが、将来貴女たちのパートナーになる人がみんなルディほどの器量を持っているとは限りませんよ」
「ララ姉たちが結婚するって想像できないや」
ララたちはそのやり取りにぶーぶー言いながらもほとんど気にしていない様子である。
まぁ、あの子たちがパートナーを見つけないというのなら、それも尊重しよう。
娘の決断を認めてやるのも父親の役目だ。
そんなこんなでチョコレートは大好評に終わった。
次は世話になっているみんなにも食べさせてやりたいな。