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魔法都市シャーリアもいよいよ夏本番。
短い春と長い冬に挟まれたわずかな期間だが、それでもやはり立派な夏。
滴る汗、強い日差し、溶ける猫、暖房はあれど冷房がないこの世界では厳しい季節だ。
そんな中、俺は市場での買い物を終え、帰路についていた。
「ただいま~」
文字通り我が家の門番、ビートが明けたドアから両手いっぱいの荷物を抱えて入ると、家族の元気な声が聞こえてくる。
「パパおかえりなさ~い」
「ルディおかえり~」
うんうん、帰りを待ってくれる人がいるというのは実に嬉しいものだ。
思わず両手の荷物を放り捨てて抱きしめたくなってしまう。
「あれ?散歩って言ってたけど、買い物してきたの?
それだったらボクも付いて行ったのに~」
「ああ、うん。ちょっと試したいことがあってね」
「試したいこと...??」
そう。
俺は思いついてしまったのだ。
あの魔性の食べ物を。
────数十分前
散歩がてらシャーリアの青果市を散策していた時のこと...
「おっ、ルーデウスさん、いらっしゃい!」
「こんにちは、今日は散歩なんで、ただの冷やかしですよ」
「あら、そうなんですかい?せっかく面白い食材を卸してきたってのに」
面白い食材...?
「この黄色い果実ですか?」
「そうですそうです!」
この形と色...
もしかして...!!
「一つ買います!」
「え?あ、ああ、まいど!」
俺は何の躊躇もなく買った果実にそのままかぶりついた。
「あっ!ルーデウスさんそれは──」
「~~~~~!!!」
すっっっっっっっっぱい!!
「言わんこっちゃない...なんでもそれはレモソとかいう新種の果実らしいんですがね──」
この酸味、香り、間違いない!
...レモンだ!
思えば、この世界に来てからオレンジに似た果実はあれどレモンのそれは見たことがなかった。
こんなところで相まみえるとは。
これは是非とも有効活用してやらねば異世界料理人としての名が廃るというものだ。
「すみません。このレモソ、もう少し頂いていきます」
「おっ、まいど!」
となると...あと必要なものは、、、
────現在、グレイラット邸(シルフィ視点)
「私がキッチンにいる間、決して中を覗いてはいけません...
もしも覗いてしまったら...」
「覗いてしまったら??」
「鳥になって、どこかへ飛んでいきます」
「ふふっ、なにそれ。分かった、覗いたりなんかしないよ」
まぁ、それはそれで見てみたかったりするけど、、、
と、そんなこんなでキッチンから締め出されてしまった。
ルディ、一体何をする気なんだろう。
────数日後
「ごちそうさまでした」
「「ごちそうさまでした」」
この挨拶もすっかり我が家に馴染んだな、などと思いながら、みんなに一声かける。
「みんな、今日はデザートも用意してあるぞ」
「「えっ!!」」
おっと、青髪の姉妹、、もとい母娘は食いつきがいいな。
期待を裏切らずにいてくれてパパは嬉しいぞ。
「なによルーデウス、デザートなんていつの間に用意してたのよ」
「実はこの前面白いものを見つけてさ、ちょっと作ってみたんだ。
大丈夫、ちゃんと美味しいから」
「あっ、この前ルディがキッチン使ってたのって、まさかこのため?」
「ご名答!ちょっと持ってくるから待っててくれ」
そう言って地下から一つの瓶を取ってきて、中身を人数分の皿により分ける。
ここ数日、中身が悪くならないように一定間隔で氷魔法を地下に放っていたため、状態はかなり良い。
「兄さん、何ですかこれ?」
目の前に用意された艶やかな輪切りの果実を見てノルンが口を開いた。
すかさず、よく聞いてくれましたと言わんばかりに咳払いをして答える。
「おほん、、これはな、『レモソのシロップ漬け』だ」
暑い夏にはさっぱりした甘味が欲しくなるものだ。
確か本物のシロップ漬けは疲労回復の効果もあると言われていたし、これにも同じものを期待していいかもしれない。
味見をしたときも文句のつけようがないほど良い出来だったし、これなら自信をもってみんなに食べてもらえるな。
そんな説明のためにそのまま今日の青果市での出来事を伝えると、、
「へぇ~、そんな果実があるんだね。
でも確かにそんなに酸っぱいならシロップ漬けにしないと食べられないかもね。」
「いやいやシルフィ姉、そもそもそんな酸っぱいやつ、食用じゃないんじゃない?
どう考えたって食べようがないでしょ...」
「え、そうかなぁ?」
普段家事を担っているシルフィとアイシャは件の食材が気になるご様子。
まぁそうだよな、見たことない食材だし、アイシャが警戒するのもよく分かる。
しかしそれにしても、料理の知識に対するシルフィの貪欲さには驚かされる。
以前S級冒険者の宿で食事した時もスープの味をしきりに確認して再現したがっていたし、、
実際、再現されたものも相当に美味だった。
...毎度、愛されているなと実感する。
嬉しい限りだ。
「「おぉ~!」」
「すごーい!きれー!これ、パパが作ったの??」
「綺麗だろ~!ちゃんとパパが作ったんだぞ~!」
子供たちは初めて見る食べ物に興味津々だ。
なによりその見た目、薄くスライスされた果実がシロップにコーティングされているその様は子供たちの目を引くのに十分であった。
「宝石みたい!ねぇ、食べてみてもいい??」
「うん、食べてみて」
ルーシーは何の抵抗もなく目の前の宝石をつまんで口に含む。
「!!ん~~!美味しい!」
「おっ!ほんとに!?」
「うん!さすがパパ!ありがとう!」
満面の笑みを浮かべながらそう言うルーシーは本当に愛らしい。
シルフィもニコニコしながらそのやり取りを見つめている。
「ありがと、ぱぱ」
シロップで口の周りをベタベタにしながらララも続く。
皿の中身はカラッポだ。
流石にロキシーの子だけあって甘いものには目がないか、思わず笑ってしまう。
「ははは、ララ、口の周りがベタベタだぞ~」
「う~ん、とれない...」
ゴシゴシと袖で口元を拭う我が子にすかさず注意が入る。
「ララ、袖で拭いちゃだめですよ、顔を洗ってきなさい」
「はぁーい」
ロキシーに促され、ララはそのままお風呂場に駆けていった。
...まぁあれはあれで可愛いから良しとするか。
さて、、
「アルス君は多分まだ早いからちゅーちゅーだけしようね~」
「はいアルス、お口開けて~」
「んあー」
今回はアルスでも食べられるようにシロップを多めにしたつもりだが、気に入ってもらえるだろうか...
「んー!おいしー!」
「そっかそっかぁ!!も~かわいいなぁアルス君は~!!」
なぜか食べている本人よりも機嫌がいいヤツがいるが、まぁ、気に入ってもらえたなら良かった。
エリスもそんなアルスを見ていつも以上に嬉しそうだ。
「良かったわねアルス。パパにお礼、言いなさい?」
「ぱぱ、ありがと、ございましゅ」
「どういたしまして、アルス」
「ん~!アルス君よく言えたね~!!偉いぞ~!」
アルスにべったりのアイシャは放っておいて、視線をチラリと横に向ける。
「...」
じー...
「な、なんですかルディ」
「どうでしたか?味は」
「もちろん、とても美味しかったです。できれば、もう少し欲しいくらいです」
そう告げるロキシーの皿の上には何も残っていなかった。
「ふふ、そう言うと思っていました」
そう言いながら、自分の分をフォークでつまんでロキシーに差し出す。
「はい、あーん」
「それはルディの分でしょう?さすがそれは申し訳ないです」
「安心してください、私の分はまた別にありますから」
無論、やりたいだけだ。
「そ、それじゃあ...お言葉に甘えて、あーん」
パクッ。
「~~///」
この顔だ。
ロキシーは甘いものを食べたとき、目が細くなり口角が吊り上がる。
このたまらなく幸せそうな顔が彼女の魅力の一つだと、この顔を見るたびに思う。
これがアルカイックスマイルというやつなのだろうか。
ああ、神よ、眼福に与り、ありがとうございます。
気づけば、俺は一口も食べることなく皿を空にしていた。
良いんだ、俺の作ったデザートは須らく神への供物となったのだ。
そもそも、こんなにも好評ならまた作ってしまえばいいのだから。
その後、あまりにも酸っぱすぎるその果実は市民の食卓に受け入れられることはなく、シャーリアの青果店から姿を消すのだった...
砂糖とシロップは高級品なので一般庶民はそんな余裕ない、はず...
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