【休載中】転生八幡。スライムになったよ!てへっ♪   作:甘味の皇帝

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28話:法皇両翼合同会議

集まったのはヒナタ直属の聖騎士団(クルセイダーズ)と法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)____法皇庁所属の近衛騎士の面々である。

 

ヒナタ・サカグチを頂点とする、神聖法皇国ルベリオスの誇る両翼。

 

議長としてヒナタ。法皇直属近衛師団筆頭騎士にして聖騎士団長ある、事実上の最強騎士。

 

凹の字に並ぶ机の上座が彼女の為の席である。

 

その右手側には、聖騎士団を代表した六名。

 

副団長のレナード・ジェスター

"光"の貴公子と呼ばれる聖騎士(ホーリーナイト)である。

 

 

その隣には、"空"のアルノー・バウマン。

ヒナタに次ぐ最強の騎士と称される男。

 

そしてアルノーに続き、四人の隊長格。

 

"地"のバッカス、"水"のリティス、"火"のギャルド、"風"のフリッツ

 

その五名が各々二十名程度の聖騎士を従える、五大隊長である。

 

 

そんな彼らに対してヒナタの左手側に並ぶのは個人主義の集まりであるルークジーニアスだ。

 

装束や装備までも多種多様な者達が三十三名。

 

たった三十三名だが、師団を名乗るその理由。それは一個人の戦闘能力の高さにある。

一人が一軍に相当する実力者であり、法皇より城砦(ルーク)という称号を与えられていた。

 

当然の如く全員がAランク以上の戦闘能力を

有していて数名で連携すれば災厄級(カラミティ)の脅威にも立ち向かえる英雄級の者達だ。

 

中でも筆頭すべき者達がいる。

 

"蒼穹"のサーレ。

あどけない少年の姿だが、この場の誰よりも長命で、ヒナタが就任するまでは法皇直属近衛師団筆頭騎士だった男だ。

 

そしてもう二人___

 

"巨岩"のグレゴリー、"荒海"のグレンダ

 

そんな"三武仙"と呼ばれる三名が、六名の聖騎士の対面に座っていた。

 

 

席に座るこの九名こそ、人という枠組みを超越した超人達である。

 

彼等は"魔王"と対になる存在___"聖人"と認定されていた。ヒナタを加えて"十大聖人"。

 

人が過酷な修行を積むと、長き時の果てに上位の存在へと進化する事がある。

それを成した者達は仙人と呼ばれ、半ば精神生命体に近い肉体構造へと変化するのだ。

 

仙人は"魔王種"にも匹敵する程の強者となっている。人類の守護者__正しく進化した神の使徒なのだった。

 

 

リティス「報告します」

 

そう言ってジュラの大森林周辺を調査していた

"水"のリティスが立ち上がり報告を開始した。

 

リティス「ジュラの大森林は平和そのものでした。ヴェルドラが復活したにもかかわらず、商人が出入りする様も確認されています」

 

「どうなっている?魔王を相手に商売が成り立つのか?」

 

「それよりもヴェルドラだ。文献には非常に好戦的で暴威を撒き散らしたと記されていたが、今のところ暴れ出す気配が無いようだが…?」

 

そんな疑問が飛び交うが、ヒナタは軽く手を振ってそれを黙らせた。

 

ヒナタ「最後まで報告を聞くように」

 

リティス「はい。続けます。商人に事情を聞いたのですが、ブルムンド王国は国策として、テンペストとの国交樹立を宣言しておりました。そしてそれは安全保障も含まれており、誰もが気軽に出向く事が出来る様になっております。

また、街道は美しく整備され、馬糞なども綺麗に掃除されておりました。魔物が出没する気配などもなく、安全保障は口先だけのものでは無いと確認も取れています」

 

ヒナタ「行ったみたの?」

 

リティス「はい。この眼で確かめてみようと、旅人を装い現地まで。

定点に警備の者が配置されており、街道の安全は守られておりました。そして魔物の町は、予想以上の発展振りを見せております。流石に魔素の濃度は若干高めでしたが、人体に影響の出るレベルは下回っておりましたし。魔王リムルはその言葉の通り、人との友好を望んでいるという印象を受けました」

 

ヒナタ「そうか。それで、ヴェルドラは?」

 

リティス「は、はい。それなのですが……」

 

ヒナタ「どうした?」

 

リティス「”封印の洞窟“へは立ち入りが禁止されており、それ以外の場所にあの邪竜が好みそうな場所は見当たらず……。その存在を確認出来なかったのです」

 

ヒナタ「ふむ…」

 

リティス「報告は以上です」

 

フリッツ「ヴェルドラの存在が確認出来なかったとなると、復活したというのは間違い___

 

そう問いかけようとした”風“のフリッツは、

ヒナタに冷たく一瞥されて黙ることになる。

 

慌てて謝罪しようとするフリッツを無視して、ヒナタは発言した。

 

ヒナタ「神託は絶対よ。ともかく、魔王リムルの行動は理解した。次に移りましょう」

 

そう言ってヒナタは、次々と調べさせていた内容を報告させていく。

議論より先に、自分の知りたい情報全てを脳に叩き込もうとするように。

 

「__という感じで、イングラシア王国内は平穏そのものでした。ライバル関係にある大国ファルムスが傾くと、今後はますますイングラシアの勢力が力を持ちそうです」

 

続々と報告が進む。ルークジーニアスに所属する騎士ならば、西側諸国への出入りは自由だ。

 

その上、各国に滞在する神殿騎士団への命令権すら認められている。何せその階級は、各国に派遣されている騎士団長よりも上なのだ。命令系統が混乱する為に本国からの命令なしには動かせぬものの、緊急時であると認められたならば、神殿騎士団は法皇直属近衛師団の指揮下に入るのである。そんな訳で、彼等の活動は妨げられる心配もなく、機密に近い情報までも収集する事に成功したのだった。この辺は、聖騎士団とは異なる点である。

 

西方聖教会所属の聖騎士も、各国への自由な通行権は有している。しかし、神殿騎士団への命令権は有していないのだ。神殿騎士団から聖騎士団に入団する者もいるのだが、この辺は組織の違いから仕方のないことであると言えた。

 

なのでヒナタは、それぞれの組織の長所を有効活用すべく、適材適所で派遣していたのだった。

 

そして最後に、サーレの報告の番がきた。

 

サーレ「みんなの報告を聞いていると、ヒナタが何を知りたがっていたのかも見えてきたね。それで僕の番だけど、これが本命なんだろ?」

 

ヒナタ「ええそうよ、一番重要だから貴方に任せたの。だから早く報告して欲しいわね」

 

サーレ「なるほどね。ファルムス王国の現状、ファルムス王国のエドマリス王は退位して、

一見平和裏に譲位は完了している。でもね、新王エドワルドは、腕利きの傭兵を掻き集めているようだね。それに呼応するように貴族達の動きも慌ただしいし、僕としては内乱が起きる前兆じゃないかと脱んでいる__」

 

西側諸国に、魔王リムル誕生の知らせが駆け巡っている。

それにもかかわらず、魔国連邦との交流でブルムンド王国は活気に包まれているらしい。それに対し、ファルムス王国は混乱の極みにあった。貴族達の動きはバラバラで、戦力確保に走る者も多い。中には西方聖教会や評議会の長老連中に、接触を図ろうとする者もいるらしく、キナ臭くなっている様子だ。民への影響も大きい。物価は値上がりし、物流は滞る。二万もの軍勢を失った事で、その代わりとして徴兵される者までいる始末。そんな素人など戦力にならないのだが、それでもそうしなければならぬ程に進退窮まっているのだろう。

 

つまりは、内乱の前兆である。

周辺の小国の反応はまちまちだ。しかし共通しているのは、ファルムス王国への警戒である。不穏な空気を感じ取り、自国が巻き込まれぬよう国境警備を厳重に行っている。きた来るべき日は間近、誰もがそう判断しているのだろう。

 

サーレ「でもこれだけでは、そこに魔王リムルの意思が介在しているのかどうか判断するには情報が足りない」

 

ヒナタ「そうね。それで?」

 

サーレ「新王エドワルドが接触した相手を洗い出した。評議会の重鎮に、自由組合の幹部、それに東の商人達。果ては、僕の部下にも接触を図ろうとしたようだね」

 

ヒナタ「その目的は、戦力増強なの?」

 

サーレ「流石。その通りだよ、ヒナタ」

 

ヒナタ「では、確定ね。新王エドワルドには、戦争賠償を支払う意思はない。そしてそれを許す魔王などいないでしょうし、リムルがそれを想定しない程の馬鹿だとは思えない」

 

サーレ「ふーん。つまりヒナタは全てが魔王リムルの計画のうちだって言うんだね?」

 

ヒナタ「そうね」

 

ヒナタ「(冗談みたいに足並みが揃ってる。これらの情報を読み解く限り、あるべき結末に向かって動いているようにしか見えない……。これは間違いなく、何者かが裏で糸を引いている)」

 

聞けば聞く程に、その疑惑は確信に変わる。

誰が?

そんなその答えは一つしかない。西側諸国で暗躍していた魔王クレイマンが消えた今、そんな真似をする者など一人しか考えられない。新たに台頭した魔王、リムルのみ。

 

ヒナタ「(厄介な。油断ならぬ性格といい、裏から用意周到に策を張り巡らせる智謀といい、元日本人だったというのは、やはり間違いないわね……)」

 

ヒナタは冷静に、リムルの事をそう評した。今思えば、全ては東の商人達の言葉を信じたのが原因。数年に渡る付き合いで信頼し、その情報を鵜呑みにしてしまった。

 

ヒナタ「それでサーレ、エドワルドは東の商人に接触したのね?どのような内容を話したのかわかる?」

 

サーレ「何で商人が気になるの?魔王が裏で絵を描いた、それでこの話は終わりだろ?今話すべきは今後の方針で、僕達がどう動くべきかを相談すべきだと思うけど?」

 

ヒナタ「それも必要だけど、気になるのよ。いいから答えなさい」

 

サーレ「チッ…アイツらはいつも、金の話ばかりしているんじゃないの?」

 

ヒナタ「いいえ。アイツらはそれとなくさり気なく、自分達が利益を得るように相手を誘導するのよ。私も利用された口だから、貴方達も油断しない方がいいわね。それで、何かわかるかしら?」

 

サーレ「へえ、アンタみたいに計算高い女を利用するなんて、アイツらもなかなかやるねえ。でも、そうだな……。特にこれといった内容は思い当たらないね。ああ、待てよ?グレンダ、君の担当していた範囲には、商業都市があっただろ?あそこは東西の商人達が交流する場だし、何か面白い話を聞けなかったか?」

 

ヒナタの事を気に入らないと思いつつも、サーレは真面目に仕事を行う。

それにサーレは、ヒナタの事を認めてもいる。質の悪い騎士の集まりを、聖騎士団として鍛え上げたその手腕を。対魔物に容赦なく、民を守ろうとするその姿を。心の何処かでは認めていたのである。だからこそ、ヒナタに命じられた調査もキッチリと行い、それで得た情報を隠し立てする事もない。その地位から追い落とそうと画策はしているものの、足を引っ張ろうとは考えていないのだ。

サーレは実力主義者なので、良くも悪くも裏表のない性格なのである。ヒナタは、それを知っていた。

 

それに対してグレンダは

 

グレンダ「そうだね、アタイの知る限り、怪しい動きはなかったさね」

 

颯々と嘘を吐く。傭兵として裏の世界を渡り歩き、様々な修羅場を経験してきたグレンダ。そんな彼女の勘が、今回の不穏な気配に金の匂いを感じ取っていた。

信仰と金勘定は別、それこそがグレンダの信条だった。敬虔なルミナス教の信者と思われているが、それはグレンダの真実ではない。彼女の本当の目的は、全世界に散らばるルミナス教徒の力である。それは金であったり、情報であったり、武力であったりと様々な形をしているが、どれもこれもグレンダにとって必要なものなのだ。それを自由に束ねる事が出来る今の立場は、絶対に失ってはならぬものであった。だからこそ、グレンダはヒナタに隠し事をする。

 

正にサーレが言ったその商業都市にて、グレンダは東の商人と接触していた。それだけではなく、評議会の長老とも呼ばれる大物とも、密かに面談していたのである。報酬は、金。代価は、偽りの情報を流す事。しかしそれを流すのは今ではなく、時が来るのを待たねばならない。

 

だから自分がヒナタに疑われるのはまずいと、考える。ヒナタは冷酷で冷徹で、敵にはまるで容赦のない性格をしている。まるで油断せず、隙を見せる姿など想像も出来ない。だがしかし、味方に対しては甘い側面があった。味方というよりは、ルミナスを信じる者には、と言える。同じ神を信じる者同士、仲間というよりも家族に近い感覚でいるのだろう。グレンダは、そんなヒナタの性格を見抜いていた。その甘さこそが、サーレの反抗心を許している。

その甘さこそが、自分の裏切りを見抜かせない。そしてその甘さ故に、やがては自分にその地位を譲る事になるのだろうと、グレンダは考える。だからこそ、

 

グレンダ「筆頭がそんなに気になるってなら、もう一度キッチリと調べてみるさね」

 

ヒナタ「そう?それじゃあ、お願いするわ。決して油断しないように、商人の言葉に耳を貸しては駄目よ?」

 

グレンダ「任せな。コネもあるし、詳しい話を聞いてくるさね」

 

グレンダはヒナタを相手にして、安請け合いをしてしまう。

その軽口から、かなりの思惑を読み取られているとも気付かぬままに…。

 

ヒナタは、そんなグレンダの様子を観察して、そっと内心で溜息を吐く。

 

ヒナタ「(やれやれ、私も祇められたものね。もしかしてだけど、私が甘いとでも勘違いしているのかしら?)」

 

そうだとしたら本当に残念、とヒナタは思った。そもそもヒナタは、仲間を大切にしている訳ではない。そこをグレンダは勘違いしている。

ルミナスの為に動く駒だと考えるからこそ、大切に扱っているだけなのだ。ルミナスの所有物を、勝手に壊してしまわぬように。クルセイダーズヒナタが自分の手足として鍛え上げた聖騎士団は、全員がヒナタを信奉している。ヒナタの為の騎士団といっても過言ではない程で、その忠誠には信用が置けた。その反対に近衛師団の面々は、余りにも自分勝手な行動を取る事が多い。ルミナスヘの信仰心があるからこそ、ヒナタが見逃しているだけなのだ。

 

サーレなどがその代表例である。ヒナタに反発し、事あるごとに逆らってみせる。でもそれはあくまでもポーズであると、サーレもヒナタも納得の上での行動だった。文句は言うが、命令には従うサーレはある意味で、とても扱いやすいのだ。それに、サーレはルミナスの存在を知らない。サーレだけでなく、ヒナタ以外には誰も、神ルミナスが実在するという事実を知らないのだ。

 

ヒナタ「(憐れなものね。昔の私みたいに、真実を知らないというのは……)」

 

ヒナタはふと、そんな感慨にとらわれた。グレンダは野望に燃えている。それなりの美貌と実力を兼ね備えて、自信に満ち溢れていた。だからこそ、ヒナタを追い落とせると本気で信じているのだろうと、ヒナタは考えた。もしかすると、法皇ルイに取り入る算段もしているのかもしれない。ルイがヴァンパイアである事を知らない以上、ヒナタを蹴落とそうとして彼に取り入るのは自然な行為であった。

 

ヒナタ「(まあ、好きにすればいいのだけど、でも)」

 

裏切り者となると、話は別である。師団のメンバーが何をしようと、ヒナタが文句を言う事はない。それが自分、ひいてはルミナスに仇なさぬ限りは。だが、内通者の存在が疑われる今、グレンダの行動には問題があった。グレンダも利用されているだけかもしれないし、ても今直ぐ粛清するつもりはない。ともかく、警戒するのみである。

 

ヒナタ「さて、これで報告は出揃った。これで諸君にも現状を理解出来たと思う」

 

リティス「はい。"暴風竜"ヴェルドラが復活した影響は予想よりも小さく、被害報告は作戦行動中だったファルムスの軍勢のみ。ただしそれも魔王リムルが流した情報であろうと思われる為、実質ゼロという事ですね」

 

レナード「こうなると生存者だったレイヒム大司教から話を聞きたいな。僕達はヴェルドラが復活した事実を知っている。だから余計に戦場で何が起きたのかが気になるね」

 

ヒナタ「そう思って呼んでいるわ。もうそろそろ来る頃だと思うのだけど……」

 

「それは楽しみだねどんな話が聞けるのかワクワクするよ」

 

「もしかしたら、ヴェルドラの復活についても何かわかるかもな」

 

「”ヴェルドラを魔王リムルが交渉して宥めた“という噂もありますが、これの判断も難しいですね。復活が事実で、今もヴェルドラが大人しくしている。これが正しい以上、その信憑性も増すってものです」

 

ヒナタ「そうね、それについては本当よ。貴方達には話しておくけど、神ルミナスより神託が下りた。"暴風竜“を御せるのが魔王リムルである、と。故に『魔王リムルに手出しするのはま

かりならぬ』そうよ。皆も心するように」

 

「そ、それはつまり……」

 

ヒナタ「ハッキリと告げておくわ。今回の件、我々は裏方に徹して、決して魔王とは表立って事を構えないものとします」

 

ヒナタは立ち上がり、力強くそう宣言した。これは事実上の、魔王リムルヘの不介入宣言である。これには全員が、驚きの表情を隠せない。

 

「まさか!?魔王リムルがファルムス王国で暗躍しているというのに、それを放置せよと?」

 

サーレ「確かに魔王は不可侵存在(アンタッチャブル)だけど、それは表向きの話だろう?

十大聖人である僕達なら魔王にも遅れを取らない!」

 

サーレの言うことは事実だが、それは"魔王種"

までの話。本物の魔王…"真なる魔王"に対しては"十大聖人"では足りないのだ。

 

本当の意味で進化をを行い、真なる"聖人"へと至らぬ限り…つまりは、ヒナタのように。

 

レナード「いや、しかし…今回は魔王だけでなく、"暴風竜"までもいます。確かに迂闊に手を出すとより大きな混乱を生じさせることに繋がりかねない」

 

グレゴリー「かと言って、我々人類の領域までも魔王に好き勝手にさせる訳にはいかん!!」

 

ヒナタ「信託は絶対よ。逆らうことは許さない」

 

グレゴリー「まさか!それではファルムス王国を見捨てるのですか?」

 

ヒナタ「それは違うわよ、リティス。あの国で起きてるのはあくまでも内乱なの。守るべきは王侯貴族ではなく、民」

 

「と、言いますと?」

 

ヒナタ「国の頭が変わる事になるかも知れないけど、それに口を出すのは内政干渉になるという事よ。今まで彼等は、私達が”異世界人“の召喚を止めるように要請しても、内政干渉だと突っぱねていたでしょう?今回も同じだと思うわよ?」

 

微笑みさえ浮かべて、ヒナタは冷たくそう言った。

 

グレゴリー「それでは、魔王リムルの行動を黙認するのですか?」

 

ヒナタ「その通りよ。魔王リムルが人類との敵対を望まぬと宣言した以上、これ以上の敵対行動を取る意味はない。ファルムス王国の大司教レイヒムが討伐軍に参加していた上に、私はリムル本人を粛清しようとして失敗している。

既に敵だと見倣されている可能性が高い今、ファルムス王国での彼等の行動は黙認するしかないでしょうね」

 

グレゴリー「それは西方聖教会の、ひいては貴女の失敗であって、ベリオスの失敗ではない!」

 

ヒナタ「その通りよ。だから決して、貴方達は手を出さないように。最悪の場合、西方聖教会の、つまり私の独断だったのだと言い張るつもりなのだから」

 

「なッ!?」

「ヒナタ様ッ!?」

 

驚く聖騎士達を横目に、近衛師団の面々にそう命じるヒナタ。その覚悟を見て、流石にサーレも戸惑いを見せた。

 

「安心しなさい。おそらく彼は、こちらとの戦いまでは望まないでしょう」

 

サーレ「おいおい、そこまでヒナタが信用する相手なのかい?」

 

ヒナタ「まるで信用せずに殺そうとした私が言うのもなんだけど、彼は信用出来ると思うわ。本人から直接聞いたのだけど、元は私と同じ

”異世界人“だったそうだし。あの時は話を聞かずに無視したけど、どうやら私達との争いを避けたがっている様子だった」

 

サーレ「”異世界人“だったって!?それじゃあ魔王レオンのように人から魔物への魔人転生か?」

 

ヒナタ「いいえ。本人が言うには、向こうで死んだらこっちでスライムに生まれ変わったそうよ」

 

サーレ「冗談だろ?」

 

ヒナタ「サーレ、私は冗談が嫌いだって、知っているでしょう?」

 

サーレ「チッ。だとしたら、今までに例のないパターンだね。生まれ変わったって事例はあるけど、それは単に前世の記憶を持っているってだけだったし。世界を渡って生まれ変わる事もあるだろうけどさ……」

 

レナード「そんな事例は確認されていないな」

 

アルノー「しかしよ、スライムに転生するとか、どんな確率だよ?いうかさ、お前だったらどうする?」

 

アルノーが隣に座るリティスに問うと、リティスは可憐な顔を嫌そうに歪めた。

 

リティス「考えたくもありません。言語も通じないとなると、意思の疎通さえ困難になる可能性が高いです。識字率からしても、遭遇した相手に自分が無害だと伝えるのでさえ、成功させる自信がとありませんね。何しろ、普通は喋れないでしょうから」

 

そしてリティスは、感じたままに素直な感想を述べた。喋れない上に、手足もない。共通の文字を知っていたとしても、意思の疎通は困難であろう。それに思い至った者達は、リムルに少しだけ同情する。

 

「だよな」「確かに……」そう口々に同意する、聖騎士に近衛師団の面々。

 

ヒナタ「魔物の戯言だと聞き流していたけど、多分あれは全部本当の話だったのね。今となっては、少しだけ彼に悪い事をしたと思ると思うわ」

 

サーレ「まあ魔物が相手では、仕方ないね」

 

レナード「教義でも禁じられていますしねえ……」

 

サーレとレナードも口を濁す。ヒナタと同じ立場だったとしたら、自分もまた同じ対応を取ると思って。教義は絶対であり、魔物の言葉に耳を貸すなど有り得ないのだ。逆にヒナタがそんな真似をしていたら、それこそ糾弾する騒ぎになっていただろう。

 

ヒナタ「それに、リムルが私の恩師の仇だというタレこみもあったのよ……」

 

レナード「どういうことですか?」

 

ヒナタ「言ったでしょう。私も利用されたのよ、東の商人にね。あの時、彼等から聞いたのは、魔物が人に化けて国家を食いものにしようとしている、という情報だったわ。国を興して、周辺の国々を証かして。そしてその盟主だというリムルという名持ちが、私の恩師を殺した仇だ、ってね。だから私は、迷わずに断罪を決行したのよ」

 

サーレ「それで逃げられたのかい?今となっては良かったのか悪かったのか……」

 

ヒナタの説明に、サーレがやれやれと頭を振った。確かにサーレの言う通り、今となっては問題の種でしかない。ヒナタもそれには同意である。どちらに転んでいたとしても、厄介事が起きていただろう。

 

ヒナタ「逃げ足は見事だったわね。そして今では、彼は魔王となっている。間違いなく進化しているでしょうし、事を構えるのは得策ではない、ということ」

 

ヒナタのその言葉に、反論は出ない。神託が下りた以上、教義を持ち出すのも意味がないのだ。であるならば、ここは素直に和解に向けて動くべきだった。

 

レナード「それで、ヒナタ様はどうされるのですか?」

 

ヒナタ「どうもしないわよ」

 

レナード「では、魔王リムルがヒナタ様を敵視した場合は?」

 

グレンダ「そうさねえ、筆頭が殺そうとした事実は消せないわけだし、魔王として力をつけた今、そのリムルとやらが筆頭に仕返しを考えても不思議じゃないさね」

 

ヒナタ「言ったでしょう。全ては私の独断だったことにする、と。それに、ともかくは一度彼と話し合いに出向こうと思ってるわ。必要なら謝罪も辞さないつもりよ」

 

 

そう言った時、扉のノック音が聞こえた。

恐らくレイヒムが来たのだろう。

 

ヒナタ「入りなさい」

 

入って来たのはヒナタの腹心であるニコラウス枢機卿。それに続いて、緊張した面持ちで大司教レイヒムが部屋に入る。

 

そこまでは予定通り。しかし、その後に続く人物の登場に、ヒナタは眉を顰める事になる。

 

 

予想もしない人物___"七曜の老師"が入って来たのだ。

 

『久しいな、ヒナタ』

 

『息災か?』

 

『どうした、何を驚いている?』

 

頭に直接語りかけてくる[思念]によって七曜は喋りかける。

 

ヒナタ「何故、ここにあなた方が…」

 

サーレ「ヒナタ。その人達は誰だい?」

 

ニコラウス「し、失礼ですよサーレ!こちらは

"七曜"の御方々です!!」

 

それを聞き、サーレはハッと思い当たった。

 

サーレ「__"七曜"だって?あの伝説の?」

 

ヒナタ「ええ、その通りよ」

 

ヒナタも認めたことで、その場の全員が起立して礼を取った。

 

”七曜の老師“と呼ばれる大賢人たち___。

 

一人一人が仙人級の超越した存在であり、勇者の育成をも務めたという伝説的な人物達であった。その存在は完璧に秘匿され、表に出る事はない。伝説として、お伽話や物語に語られるのみ。聖騎士達ですら、その存在を知る者はいない。

 

その存在を直接知る者は、ヒナタやニコラウスを含めた極少数だけである。西方聖教会の上層部の一部にしか、姿を見せる事のない人物達なのだ。ヒナタが受けた”七曜の試練“は、この者達から授けられたものである。英雄や勇者を選別する為の試練である事からも、それを与える役目にある”七曜“の重要さも理解出来るというものだ。

 

しかしヒナタは、この者達を嫌っていた。

実はこの”七曜“達、西方聖教会の最高顧問として、組織の監視と部下の育成の任をルミナスより与えられている。

 

しかし、ヒナタが着任する前は、聖騎士団(クルセイダーズ)など名ばかりの集団でしかなかったのだ。ヒナタからすれば、それは怠慢である。

 

ヒナタ「(今思えば、あの時に彼等から力を完全に奪い去ってやるべきだったわね)」

 

とさえ思うヒナタ。

 

ヒナタの力____カユニークスキル[纂奪者](コエルモノ)には、二つの権能がある。

 

相手の力を奪い取る『簒奪』と、学び取る

『複写』の二つだ。

 

試練を受けた時、ヒナタは彼等が伝説的な偉人なのだと思っていた。だからこそヒナタは、

彼等の力を学び取るべく『複写』によって自身を高めた。

 

ある意味でヒナタは”七曜の老師“の弟子といえるのだが……。

しかしそれが”七曜“には気に食わなかったようである。

 

自身達を超えたヒナタを疎んじて、事あるごとにヒナタの邪魔をするようになっていた。

 

西方聖教会の闇に潜み、長き時を牛耳ってきた老檜な者達。しかして、そんな彼等には何の生産性もない。試練を受けた時にその事を知っていれば、ヒナタは迷わず”七曜“を老害と断じてその能力を完全に奪い去っていただろう。

 

今はヒナタが、彼等から学んだ力を、アルノー達隊長格に伝授して鍛えている。

 

ヒナタ「(ルミナス様は、おそらくそれが目的で、私に”七曜の試練“を受けさせたのでしょうね)」

 

ヒナタはルミナスの慧眼を賞賛する。

 

ヒナタからすれば、”七曜“は次代を育てる役目を放棄して、自己保身に走っているようにしか見えない。しかしルミナスが”七曜“を放置している以上、そこには何らかの意図があるのだろうと考えていた。だからヒナタも、表立って彼等に逆らう真似はしないでいる。

 

全員が礼を解いて席に着席した頃。

 

ヒナタ「それで、本日は何の御用なのでしょう?」

 

『フフフ、そう警戒するでない』

 

『うむ。そこの大司教レイヒムが、魔王リムルの情報を持ち帰ったのであろう?』

 

『我等も輿味があるのだよ』

 

現れた”七曜“は三名。全員ではない。ヒナタの主観で、特に腐敗が進んでいると思われる者達だった。中でも火を司る”火曜師“アーズなど、シズエ・イザワの足元にも及ばぬ程度の実力しかなかった。

何も学ぶべき技術がなく、ヒナタが『纂奪者』を用いるまでもなく試練をクリア出来た相手だ。

それなのに何故か、自分からは能力を奪えなかったのだと勘違いしている節がある。それ故に、常にヒナタを見下した態度を取り、ヒナタの頭を悩ませる相手なのだ。

 

残り二名、”月曜師“ディナと”金曜師“ヴィナの目的は不明だが、恐らくはアーズに協力しているのだろう。

 

ヒナタ「(厄介ね。ルミナス様の命令で、今回は大人しく話を纏めなければならないのに……)」

 

だが、今は七曜のことを考えてる時では無い。レイヒムの話に耳を傾けた。

 

レイヒム「私は、愚かでした。恐ろしい、余りにも恐ろしい者を相手にしてしまった。あれは、正真正銘の魔王です。我等の手で、新たなる魔王を誕生させてしまったのです!」

 

当時を思い出して感情が高ぶったのか、レイヒムは目を血走らせて、声高に叫ぶように訴えている。恐るべき魔王、その誕生までの一部始終を。自らが行った悪事も、包み隠さず報告するレイヒム。それは命令されての事ではなく、そうしなければならないという強迫観念に駆られていたのである。少しでも苦しみから解放され神に許される為に、自らの罪を懺悔する必要があると考えたのだろう。

 

魔王誕生の状況説明を聞くにつれて、聖騎士達にも動揺が走る。その余りにも常識はずれな戦闘能力の高さに、驚きを禁じえないのだ。対魔結界や大規模範囲魔法専用の防御結界は疎か、聖なる結界までも意味を成さない光の攻撃。

 

そんな魔法は聞いた事もない。障壁すらも貫通するその攻撃を前にすれば、自分達であっても対処出来ない可能性があった。

 

それなのに、ヒナタは動揺しない。レイヒムの報告より推測し、太陽光線の収束による攻撃だろうと予測したのである。

 

そして、その予想を裏付けるように

 

『ふむ。グラン様が得意とする、陽光魔法に似ておるな』

 

『光を屈折させる魔法、か。しかしそれならば、対魔結界で封じられるであろう?』

 

『それに、そこまでの威力はないはずじゃ』

 

”七曜“達が意見を述べた。”日曜師“グランは、

”光“を司る”七曜“達の長である。その力の一つが太陽光の収束なのだ。”七曜“が言う魔法は的外れだろうが、受けた印象が同じであるならヒナタの予想は正しいと思われる。

 

ヒナタ(馬鹿ね。魔法で陽光を直接屈折させたのではなく、何らかの手段で陽光を反射させて収束させたのでしょうね。でなければ、容易に結界で防げるはずだもの。恐らくは、水と風の精霊の協力?しかしそれを為すには、相当の演算能力が必要となる……)」

 

しかし、恐れる事はない。種さえ判明すれば、対策は簡単なのだ。

 

熱を散らす防御膜と、光を乱反射させる塵を空中に散布するだけで、その攻撃を無力化出来るだろう。陽光を利用するだけなら、穴だらけ。ヒナタからすれば、取るに足らぬ攻撃であった。

 

ヒナタ「(話を聞く限り、向こうの世界の科学知識を利用しているのね。それならばこちらの世界の人間には理解出来ず、対処も困難でしょう。魔法防御の穴を突くあたり、抜け目ない上に頭もいいようだけど……)」

 

確かに異常なまでの演算能力だし、複数の魔法を同時に操るその力は脅威である。だが、本物を知るヒナタからすれば、そこまで恐れる必要はないように感じたのだ。しかし、ヒナタのそんな判断は早計に過ぎた。レイヒムの話は終わっていない。続きがある……というよりも、ここからが本番と言っても良かった。

 

レイヒム「お待ち下さい。その正体不明の攻撃は、確かに凄まじかった。フォルゲン殿も何も出来ずに殺され、ラーゼン殿にも為すすべ術なし。万近くの騎士達が、その攻撃の前に倒れたかと思います。ですが……」

 

そこで言いよどむレイヒム。ゴクリと唾を飲み込み、脂汗を垂らし、恐怖に打ち震えながら

 

レイヒム「恐ろしいのはその後でした。次の瞬間、戦場が静寂に包まれたのです」

 

重傷を負って気絶した者や、大怪我をして転げまわって叫んでいた者。そして無傷のままでも恐怖に狂い、逃げ惑っていた者。そうした者達が奏でる狂騒に、戦場は荒れ狂う音で満ちていた。

 

それなのに次の瞬間、全ての音が消えたのだと、レイヒムは言う。

 

ヒナタ「どういう意味?」

 

レイヒム「言葉通りです、ヒナタ様。戦場にいた二万の軍勢、その生き残った者達が、その瞬間に死んだのです。生き残ったのは僅か三名、私と、ラーゼン殿と、ファルムス王エドマリス様のみでした。私はそれを見て、理性が吹き飛びました。恐怖の余り気絶したのです……」

 

そう、レイヒムは告白する……。聖なる大聖堂が静寂に包まれた。

 

そしてヒナタも思い出す。ルミナスから直接聞いた話を。二万の軍勢をたった一匹の魔物が皆殺しにしたその事実を前に、誰も言葉が出ない。緊張に包まれた厳かな空気の中、皆が想起した伝承があった。かつて、たった一体で都市を滅ぼし、魔王となった者達の伝承を……。

 

 

西方聖教会の前身が発足したのが、千数百年前と言われている。正統な系図を辿っても、千二百年前まで記録が残っていた。ヴェルドラに王国を滅ぼされ、この地に移ったのが二千年前の事。その理不尽さと不死性は論外で、まともに相手をすれば損害だけが大きくなる。

ヴェルドラの気紛れで人類が滅ぼされては、食糧にも困る。上質な生気は、人からしか得られないからだ。

 

人の手に余る存在と定めルミナス達のような超越者ならばともかく、下等な吸血鬼族にとっては死活問題となった。

 

それでルミナスは仕方なく、共存共栄の仕組みを考え人類の保護に動いたのである。彼女が神と崇められるのも、過去に人々を救い導いた実績があるからだった。全ては、暴れまわったヴェルドラのせい。自然現象よりも性質が悪く、対応には苦慮したそうだ。故に、天災級と称されている。それが現在では特S級と呼ばれ、人の手には余る存在と定められてい訳だが……。

 

大破壊を起こした者は他にもいるのだ。現時点で特S級に認定されているのは四体の”竜種“ のみ。しかし、それはあくまでも世間に対する表向きの話であり……伝承では、二名の魔王が大破壊を行ったと記録されている。

 

それこそが、"暗黒皇帝"ギィ・クリムゾンと、

"破壊の暴君“ミリム・ナーヴァの二柱だ。

 

魔王は全てS級指定なのだが、その力には格差があった。この二者のように、裏事情では特S級と指定されている者も存在しているのだ。

 

ルミナス曰く___魔王種“は、覚醒する。大破壊によって大量の人の”魂“を得て、想像を絶する進化を成就した”魔王種“の覚醒。正しく言葉通りの意味での魔王とは、

この覚醒した”真なる魔王“を指す。

 

そして覚醒にも段階があり、魔王の中には

”竜種“に匹敵する者までいるという。

 

ギィとミリムに至っては、"竜種"以上であるとさえルミナスは考えている様だ。

 

何しろ、”真なる魔王“であるルミナスでさえも、その二名には敵わないらしいのだから。

 

『ミリムが相手ならば、出し抜く事は出来るでしょうね。戦えば、それなりに良い勝負になると思うわ。でも、結果は必ず敗北するのよ』

 

と、ルミナスは言う。

 

では、ギィが相手ならば?

 

『ハッ!忌々しいけど、妾では話にならないわ。アレは別格よ』

 

ヒナタからしても絶大な力を持つルミナスが、ギィを別格だと断言する。自信家のルミナスが勝てないと断言する以上、ギィの力は別次元の強さなのだろう。そして、そんなギィに対抗したという逸話の残るミリムもまた、ヒナタの想像が及ばぬような化け物なのだろう。そんな化け物達を表す、特S級という区分。人類の力を結集すれば対処可能だとしているが、それは希望的観測である。

 

何故なら、人類という枠組みに勇者も含まれているからだ。勇者不在の現在、人の手に負えないというのが真相だったのである。

 

現在の魔王達”九星魔王“は別格である。 

魔王リムルも例外ではない。ルミナスの見立てでは、リムルもまた覚醒しているらしい。今のレイヒムの言葉は、それを裏付けるのに十分であった。

 

 

ヒナタと同様、他の者達も思い出していた。

そんな恐るべき、"覚醒魔王"の存在を。

 

人々の不安を悪戯に煽らない為にも公にはされていないが、確かに存在する人類の脅威。

 

始まりの”竜種“は力を失い、何故か再誕する気配がない。残る三体の内一体は最近まで封じられていたが、厄介な事に復活して、

 

今話題の魔王リムルに与している。そして、

その魔王リムルだが、単体で二万の軍勢を殺戦してのけた。

 

それは、かつて行われた二名の魔王達と同等の行為。大破壊には及ばぬものの、大量の人の

”魂“を得た可能性は高かった。重苦しい沈黙が続く。それは、本当の意味での魔王の誕生を認めたくないという意思が生み出していた。

 

単なる”魔王種“と”真なる魔王“では、その存在に圧倒的な隔たりがある。この場にいる者ならば、それをよく理解していた。誰もが口を閉ざす中…

 

ヒナタ「そうか。魔王リムルは”覚醒“していると見るべきか……」

 

サーレ「その通りだろうね。どうする?ここで放置すると、手が付けられない脅威になるんじゃないか?」

 

グレゴリー「落ち着け。魔王リムルが元人間で、人類との共存を願っているなら、無理に戦う必要はないはずだ」

 

ヒナタ「そうね、向こうの出方を見るべきよ」

 

レナード「だが、二万もの騎士達を躊躇わずに葬ったのは事実です……。紛れもない脅威。このまま魔王リムルを信じてもいいものか……」

 

最後のレナードの意見こそ、この場にいる者達の本音であった。

 

ヒナタ「皆、黙りなさい。神託は絶対よ」

 

そのヒナタの言葉で、そろそろ会議も終わり。予定通り皆は情報収集に戻る___そのはずだった。

 

"悪意"はどこからでも湧いて出るものだ。

 

『おお、レイヒムよ。他に"伝言"はないのか?』

 

成り行きを見守るのみだった”七曜“が、合議の終了を宣言しようとしたヒナタを制止する。

 

その声に促され、レイヒムが思い出したように水晶球を取り出した。そしてそれを、恭しくヒナタヘと手渡す。

 

レイヒム「そ、そう言えばこれを。魔王リムルより、ヒナタ様への伝言だとか___」

 

ヒナタ「伝言ですって?」

 

映し出されたのは、美しい少女。いや、少女ではなく、魔王リムルその人だ。どこかヒナタの師匠だったシズエ・イザワを佑彿とさせるその素顔は、とても冷たく感情の色がまるで見えない。映像越しでもハッキリとわかる、覇気。

 

ヒナタ「(驚いた。数ヶ月前とは、まるで別人ね)」

 

そして、言われたのはたったの一言。

 

 

『相手してやるよ。俺とお前の一騎討ちでな』

 

すると、映像の中の魔王と視線があった。それは偶然なのだろうが……。知らずヒナタは、自分が緊張している事に気付いた。同郷の、どこかお人好しなリムルという人物。その印象が強過ぎたせいで、どこかで自分は彼の事を甘く見ていたのかも知れないと、ヒナタは理解したのである。

 

ニコラウス「ど、どうしますか、ヒナタ様?」

 

珍しくもニコラウスが動揺して、ヒナタにそう問うた。しかし、ヒナタがそれに答えるよりも早く

 

アルノー「ヒナタ様、俺に命令して下さい!俺が隊を率いて、魔王の野望を打ち砕いて御覧に入れましょう!!」

 

熱血漢のアルノーが勢い込んでそう叫ぶ。そこから、再び議論が活性化する。アルノーを呆れたように見て、サーレが笑った。

 

サーレ「おいおい、君は剣の腕は確かだが、頭の方には問題があるようだね」

 

アルノー「なんだと?」

 

サーレ「いやいや、さっき手出し無用とヒナタが言っただろ?手を出せば、それこそ他の魔王まで黙っていない。しかも覚醒している可能性があるとなれば、余計に手出しは厳禁だよ。ここは隠便に、相手の申し出を受ける方がいいと思うな」

 

リティス「そうよアルノー。ヴェルドラまでも相手にいるなら更に勝機はない。いえ、勝てるにしても損害が大き過ぎる。相手が一騎討ちを申し出ている以上、ここはヒナタ様に任せる方が確かだわ」

 

サーレに頷くのはリティスだ。総力戦になった場合、被害の予想はとんでもないものとなる。勝利するかどうかも疑わしいのだ。それならば、神聖法皇国ルベリオス最強騎士であるヒナタが出るのは悪い手ではない。

 

ヒナタ「(さて、どうしたものかしら…)」

 

相手が覚醒して”真なる魔王“へと進化しているのならば、兵力の数は意味を成さなくなる。

 

それはファルムスの軍勢の惨状が証明していた。

 

いや、違う。リムルがファルムス軍と戦った時は、まだ覚醒前だったはずだ。何故ならば、そのファルムス軍を滅ぼす事で、進化に必要な”魂“を得たのだから。

 

覚醒もしていない状態で、二万の軍勢を滅ぼしたのだ。

 

ヒナタ「(化け物ね、本当に……)」

 

リムルと戦った記憶を思い返してみても、そこまでの事が出来るようには思えなかった。しかし、それはヒナタが相手だから手加減していたのだ、とも考えられる。ではそんな相手が今になって自分を殺そうとするだろうか?

 

ヒナタ「(やはり、不自然ね。事情が変わった?まさか、魔王に進化して人の心を失った……!?」

 

膨大な力を得たならば、人の心など簡単に壊れるものである。シズエがイフリートの力を制御しようと苦心していたように、

大いなる力は簡単に人を破滅へと追いやるのだ。まして、覚醒した魔王ともなると……。

 

ヒナタ「(いや、それはないか。それなら人の味方をするというのも変な話だし……)」

 

ルミナスはリムルが人を守ると宣言したと言っていた。人の心が残っていないのならば、リムルの自分の望む町を作るという宣言に意味がなくなってしまう。やはり情報が欠けている、とヒナタは思う。

 

自身の[数学者]でも正解を導けぬほどに、隠された真実があるように思えるのだ。

 

そもそもこの、伝言を記録している水晶球だっておかしいのだ。大容量の記録を保存出来るはずなのに、再生されたのは僅かな言葉のみ。どう考えても、そこには何か隠された意図があるように思えてならなかった。それに

 

ヒナタ「(さっき”火曜師“アーズは、リムルからの伝言があると知っていたようだったわね。それは何故?)」

 

レイヒムは状況説明しか行っておらず、リムルからの伝言などとは一言も語っていなかった。それなのにアーズは、

 

『他に伝言はないのか?』と、聞いたのだ。

 

だが、そんなことは今考えることでは無い。

 

ヒナタ「やれやれね。相手から指名された以上、私自らが説明に出向くしかないわね」

 

ヒナタは溜息を吐きつつ、そう結論を告げた。

 

リムルがそう望むのならば、一騎討ちに応じるのもやぶさかではない。けれどもそれは、本当に話し合う余地がないのか、それをハッキリとさせてからの話であろう。会ってみれば答えが出る。ここで悩むよりも有意義である。

 

ヒナタ「(どちらにせよこうなった以上、私の手で決着をつけるしかない___)」

 

ニコラウス「危険です!出向く必要などありません!」

 

「相手の意思を確認せねば、答えは出ないでしょう?謝罪の件もある。どちらにせよ、一度会って話をしてみるべきでしょう?」

 

ヒナタはそう告げて、この話題を終わらせようとした。

 

しかし、それに待ったをかける者達がいる。

”七曜“の三名だ。

 

『フフフ。その決断や、良し!』

『神ルミナスの御加護が、お前を守るであろう』

『魔王リムルは確かに脅威』

『話し合いが不調に終わっても心配は要らぬ』『お前ならば、倒せるであろうよ』

『だがヒナタよ、お前は忘れている』

『左様。あの邪竜の存在をな』

『如何にお前とて、あの邪竜は倒せぬ』

『自惚れるなよ、ヒナタ』

『あの邪竜には、いかなる攻撃も通用しないのだ』

『しかしヒナタよ、安心するが良い』

『お前に、コレを授けよう』

『この、竜破聖剣(ドラゴンバスター)をな!!』

 

一方的に好き勝手に、ヒナタに対してそう言い募る。

 

ヒナタ「(やれやれ、あからさまね。まだ話し合いに出向くと言っただけなのに、もう私がリムルと戦うものだと決め付けている。そして貴方達の目的は、私にヴェルドラを始末させる事なのね。それとも、或いは…)」

 

”七曜“はルミナスが認めた元人間達であり、彼等の忠誠はルミナスに捧げられている。だからこそ、ルミナスが厄介に思うヴェルドラを排除しようとするのも理解出来るのだが……

しかし、目的はそれだけではないのだとヒナタは気付いた。

 

”七曜の老師"達は、恐れているのだ。

新たな才能が見出されて、ルミナスの寵愛が自分達から失われるのではないか、と。

 

だからこそ、後進の育成にも熱心ではないし、邪魔者を排除しようとも動くのだろう。

 

ヒナタ「(愚かな者達。ルミナス様にとって、害悪でしかないと思うけど__)」

 

それでもヒナタは、表立っては動かない。

判断するのはルミナスであり、ヒナタが勝手に動くなど以てほかの外だと考えるからだ。

 

ヒナタ「謹んで、お預かり致します」

 

そして、竜破聖剣を”金曜師“ヴィナの手より受け取った。それを見て、満足そうに頷くと、

 

『上手く事を運ぶが良い』

『もしもの場合も、その剣がお前を守るだろう』

『万が一失敗したなら、その責任はお前が取るのだぞ』

 

そう言い残して、”七曜“は去った。

 

「ヒナタ様……」

 

聖騎士達が声をかけようとするが、ヒナタは手でそれを制する。

 

ヒナタ「それでは、各自それぞれの役目を全うするように。これにて合議を終了するわ」

 

ヒナタは御簾の向こうにいる法皇ルイに視線を向けてそう宣言した。

 

こうして、波乱に満ちた合議は終了したのである。

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