【休載中】転生八幡。スライムになったよ!てへっ♪ 作:甘味の皇帝
常夜の国にある、誰も知らぬ奥深い玄室の中にて。氷の柩に封じられた、一糸纏わぬ美しい黒髪の少女を前にその者は自らも全裸となって、氷の柩に鎚りつく。
うっとりとした表情に浮かぶ、妖しい微笑。
どこまでも透き通るような白い肌を朱色に染めて、少女は感動の溜息を零す。
ルミナス「(ああ、美しい。ああ……)」
柩の中の少女を眺めて愛でる事が、その者の密やかな愉しみであった。銀髪の可憐なる少女。その瞳は金銀妖瞳(ヘテロクロミア)。青と赤に揺らめくような、妖しい輝きを放っている。
非常に整った容貌の中でも一際異彩を放ち、
少女の美貌を際立たせていた。だが、何よりも目を引くのはその柩に触れる度に、出来る。
愛らしい少女の唇から小さく覗く、二本の真っ白い犬歯である。小さな唇を開く度に、血のように赤い舌と真っ白な牙が見えていた。
彼女こそが、夜の支配者である___
夜魔の女王"クイーン・オブ・ナイトメア"
魔王ルミナス・バレンタイン
その柩に触れる度に、ルミナスの美しいと肌に火傷の様な痣が出来る。
それは聖櫃。純粋たる聖霊力の塊であった。
だからルミナスが傷を負うのも、何も不思議ではないのだ。吸血鬼族の魔王たる彼女にとって、その柩は毒そのものなのだから。しかし、ルミナスがそれを意に介する事はない。
その傷すらも、ルミナスにとっては至福なのである。魔王として絶大なる力を有するルミナスであっても、その柩の破壊は不可能だ。
故にルミナスは、その柩の中で眠る少女を解放する事を夢見て、今日もまた柩と戯れる……。
そんなルミナスに、腹心からの知らせが届いた。
ルイ「お愉しみのところ申し訳御座いません。お耳に入れておきたき儀が御座います」
そう告げたのはルイである。
ルミナスが支配する神聖法皇国ルベリオスにおいて、"法皇"の役目を与えし部下だ。
ルミナスは不愉快になったが、我慢する。ルイが自分から声をかける事は滅多になく、余程の緊急事態が起きたのだと想像出来たから。
ルミナス「何じゃ、ルイか。何があった?」
ルミナスの問いに、ルイは短く答える。
ルイ「ヒナタがリムルとの禍根を断つべく動きました。それを私は黙認していたのですが、どうやら事態が複雑に動き出してしまったようです」
ルミナス「どういうこと?」
ルイ「実は__」
そう言ってルイは、自身で調査した事実を説明する。
ルミナス「そう……。ゆっくりもしていられないわね」
ルミナスは物憂げにそう言って、柩から身を離す。そして玄室を出て、従者を呼んだ。
ルミナス「ギュンター!」
ギュンター「ハッ、ここに」
闇の中から、老齢の執事が現れる。魔王達の宴にも参加した、ルミナスに仕える古きヴァンパイアだ。
その格はルイと同等であり、ルミナス配下の”三公“の一人。
法皇庁はルイが。夜想宮庭(ナイトガーデン)はギュンターが。そして今は亡きロイが、プロパガンダの外敵として魔王の代役を務めていたのだった。
同時にそれは、ルミナスの護衛の持ち回りをも意味する。今ルミナスがいるのは、夜想宮庭にある玄室だ。だからこそ、ギュンターが護衛として傍に侍っていたのである。
ギュンターの手を借りて衣装を着るルミナス。魔法を使って一瞬で着替えぬあたり、様式美へのこだわりが窺える。
着替えを手伝いつつ、ギュンターは忌々しそうにルイをなじる。
ギュンター「下らぬ雑事でルミナス様を煩わせおってー」
ルイ「すまないね。だが、このまま放置しておけば、ルミナス様が寵愛するヒナタをも失うと思ったのでね」
ギュンター「それこそ下らぬ。が、あの魔王リムルと事を構えるならば、慎重な行動が必要であろうがな……」
ルイ「事を構えたくはないから、進言に来たのだがね。ヒナタを殺されてしまっては、ルミナス様が__」
そんな二人のやり取りを止めたのは、うんざりした様子のルミナスだ。
ルミナス「ルイよ、黙るが良い。ギュンターよ、その方もだ。妾が出れば済む話なのであろう?禍根が残らぬようにな」
領分を侵される事を嫌い合う”三公“の性質は、ルミナスの頭痛の種でもあった。ルイもそれは理解しているので、今回ばかりはギュンターに頭を下げている。
ルイ「ハッ、恐れ入ります」
ギュンター「申し訳御座いません」
ルミナスに一喝され、頭を下げる二人。フンッと不機嫌そうに鼻を鳴らし、ルミナスは二人に命じる。
ルミナス「ロイがいない今、役割分担も決め直す必要がありそうじゃわらわな。だが今は時間がない。二人とも、妾に付いて来るが良い」
威厳を込めてそう言い放ち、ルミナスは歩き始める。
ルイ「御意」
ギュンター「御伴致します」
嬉しそうに承服する、二人の魔人を引き連れて。
ふと立ち止まるルミナス。そして、愛する者が眠る聖櫃を振り向いた。
ルミナス「(待っていてね)」
ルミナスは、愛する少女の名を小さく呟いた。そして慈しむように玄室の扉を撫でて、厳重に封をする。
___ルミナスの膨大な魔力結界に閉ざされて、玄関は真の暗闇へと沈んでいく……。