呪術?念能力の間違いだろ、そんなことよりラーメン食おうぜ 作:nyasu
これは……どういうことだ。
視界は真っ暗闇に覆われて、自分がどうしてこんな状況になっているのか前後の記憶はあやふやだった。
顔は濡れており、呼吸しづらく、遅れて自分が濡れた布か何かを被せられていると理解した。
体を動かそうとすれば腕と足に抵抗感が走り、椅子に座らせられた状態で拘束されていると判断できる。
「ジュウゾウだな」
「……誰だっけ?」
声は、若い男の物だった。
妙に惹きつけられるそれは、不思議な魅力がある。
十中八九、俺を捕まえたヤツだろう。
「チャチなマネーハンターの俺に何の用だ?」
「幾つか質問と念を見せて欲しい。タダでとは言わない、身の安全を保証しよう」
「……なるほど。そういう念能力か」
まず、念を知っていることから男は念能力者だ。
そして質問する、もしくは質問を答えさせるが奴の念能力に関わってくるのだろう。
見るということも関わってくる、どういった能力かは分からないが念能力に関する質問から念に関係する能力と推測できる。
俺と同じ、条件が4つか5つくらいありそうだ。
「話が早いな」
「お前の言うとおりにして、本当に身の安全を保証されるとは思えないんだが、約束を反故する場合がありうるだろ」
「それはないと断言しよう。此方としてもお前が生きていると都合がいい」
ふむ。
俺が生きていることも条件に当てはまるってことか。
質疑応答、目視、生存状態の維持、わざわざ捕まえるということは接触する必要があるとかか。
離れた場所から見て、質問してじゃ駄目となると、もしくは時間制限があるとか。
それだけの制約がある能力はいったいどんな能力だ?
「アンタ、特質系だろ。お前みたいな声が良いやつは特質系なんだ」
「ウチの団員の性格診断のような事を言うな」
団員、性格診断、性格診断は知っている。
天空闘技場でヒソカ=モロウが言ってたやつだ。
団員ってのは、なんとか団とかそんなんか。
それなりに強いと自負している俺が捕まるレベルのなんとか団ってのは、まさかな。
「幻影旅団とか言わねぇよな、アンタ」
「驚いたな。今までの会話からそこまで導き出したのか。俺の能力まで予想済みかな」
「マジかー、わかったわかった。アンタの言うとおりにするから俺の円に入ってるヤバそうな物を持ってる奴を退けてくれ。能力も見せるから拘束を外して欲しい」
「……フェイタン、外してやれ」
「チッ……腕の一本ぐらい……残念ネ」
頭の被せられていた物が外され、それが濡れたズタ袋だと分かったのは視界が良好になってからだ。
どこかの廃工場、俺はパイプ椅子に座らされて鎖でぐるぐる巻きにされていた。
「アンタの能力の名前は?あと、どんな条件が必要だ?」
「俺の能力はデッドコピー、他人の念能力の劣化コピーを習得する能力だ。能力を見ること、能力の詳細を本人から聞くこと、能力を貰うことに関して許可を得ること、これを一時間以内に行うことが条件だ。」
「なるほど。例えばどんな能力があるか見せて貰おうか」
俺の予想が正しければ、まだこの時点で奴の能力は発動しない。
まだ1つ目の条件、もしくは2つ目の条件を達成したというところだろう。
「『異次元の扉』これが俺が劣化コピーした能力の一つ。本来は自分が知っている場所に高速移動できる能力だったが、劣化していて場所はランダムになっている。なので、使い方としてはこうして扉を開けて、じゃあな!」
目の前には目を見開く男の姿、何名かの男女の驚きの顔があった。
馬鹿が、何されるか分からないのに従うわけ無いだろ。
問題はどこに飛ばされるか、俺は念空間に潜り抜けるようにして移動した。
空中に、それは現れた。
それはピンク色の扉だ。
扉は勝手に開き、何かを落として閉じられると消えていった。
落ちたのは俺だった。
「痛って!?くぅー、さてどこに飛ばされたのやら」
俺は打ち付けられた尻を撫でながら、立ち上がる。
見たところ、どこかの都市の路地裏か。
表通りに出ると、漢字のような文字。
どこか字が違う気もするが、ジャポンだろう。
取り敢えず、自分の居場所しか分からない能力『世界座標』を使おうとしたが発動しない。
妙だな、昨日のうちにはつかえたのだから持ち主が死んだとは考えられない。
じゃあ、動物としか喋れない『万能翻訳』を使おうとしたが使えない。
「もう、条件を達成されたということか?」
いや、だとしたら逃げる際に使った『異次元の扉』はどうなる。
練をすれば普通に念が体に滾る、使えなくなったわけじゃない?
これはどういうことか。
「わからんが、まずは協会に電話して仕事貰うか。さて、ライセンスが使える場所は……」
探索を続けて数時間、どこもハンターライセンスが使えるところはなかった。
あろうことか、銀行ですら鼻で笑われる始末。
いよいよ、意味がわからない状況だった。
道行く人にハンター協会について聞けば、なにそれ漫画の話と一般人でも分かるような事を言われる。
挙げ句の果てに、ハンターハンター好きすぎワロタと意味不明な罵倒を受けたりした。
俺を罵倒したデブを殴りつけ、話を聞くとそういう漫画があるらしく書店で買ってこさせた。
あと、有り金も全部貰った。
「ゴン=フリークス……フリークスって、それにくじら島?おいおい、これは何の冗談だ」
ゴンがハンター試験を受けに行く、そんな話だった。
だが、それは紛れもなく俺が知っている世界の話だ。
考えられるのは俺が、漫画の世界の住民だと思っている狂人か。
それとも異世界に飛ばされた漫画の世界の住民かのどちらかだ。
通貨価値が分からないので、小出しにすることでどこかの商店で買い物を済ませる。
ビニールが使われてるので文化レベルは同等、携帯らしき物を持ってるやつもいたので文化の差はなさそうだ。
ジャポンのおにぎりというやつを十個馬鹿し食べて、今日はねぐらとして見つけた廃墟に入る。
「ぷぅくぅ……」
「誰だ!?」
反射的に俺は円を発動する、いた。
それは俺の頭上付近、フワフワと浮いている。
念獣、潰れたカエルのような念獣がいた。
「馬鹿な、なんでこんなところに!自動操作、いや遠隔操作型か!」
気配を探っても能力者の姿はない。
ということは遠距離から操っているのか、念能力者のテリトリーか。
この場合、念能力を悪用する犯罪者の場合がある。
「ぷくくく」
「襲いかかってきたか、はぁぁぁ!」
発は使えないことから、硬で対応する。
手足に念を凝で集中させ、練で増幅した拳を叩き込んだ。
カエルは腹に穴を開けて、そのまま霧散する。
「ふぅ……なんだったのか」
一応、円で確認するがいないことが確認できたので休むことにした。
翌日、凝をした状態で街中を彷徨く。
美味いものを探すなら、五感を研ぎ澄ませれば自ずと見つかるからだ。
偶然だが、よく分からん念獣が何体かいやがる。
どこの誰が作ったのか用途不明だ。
「ここだ、ここにしよう」
行列のできるラーメン屋があった。
金色不如帰、なんて読むんだ?
並んで店内に入り、ラーメンを注文。
「男は黙って塩ラーメン!」
出てきたラーメンは、やや黄色み掛かった透明度の高いスープ。
ほぉ、と思わず声が出る美しい金色。
色の濃い小麦色の麺は、細く繊細で俺の知ってるラーメンとは違う。
俺の知っているラーメンよりも洗練されている。
その絹糸のような細さの麺が折り重なるように並べられている。
上にはやや赤みの残るチャーシュー、囲むような長いメンマ、細長い切り揃えられたネギ、刻まれた水菜、そして各所に置かれる謎の薬味。
ラーメンの次元が、俺の知っているレベルと違う!なんだこのメンマは!ナルトはどこに行った!チャーシューが茶色くないぞ!海苔もない!
身体が未知に対して恐怖を覚え、自然と震え出す。
未知の味、これがグルメハンターの世界。
俺もハンター端くれ、恐れず果敢に挑戦する。
レンゲを沈めれば、サラサラと流れる黄金のスープ、浮かぶ油は澄み切っている。
「……ムッ!」
内側から殴られたかのような暴力的な味、想像できていな魚介の香り、徐々にでなく一気に広がる!
これは。貝だ!それも、染み渡るようなこれは蛤!エグみのある蛤が口を一色に染め上げる。
……瞬間、脳内に流れる存在しない記憶。
「フハハハ、うま味が支配する!いい時代になったな!今は、貝が微笑む時代なんだよ」
「待てぇ―い!」
「誰だ!お、お前は……その赤い鱗、まさか!」
「お前はもう、味わい終わっている」
……ハッ!?後から来るこれは鯛か!鯛の甘みがエグみをフォローしている!
暴力で殴りつけて、そこから優しさを見せてくる。
蛤の強すぎるインパクトを鯛の優しい甘さが中和し、旨味と風味だけが口に残る。
待て、なんだ今の貝と鯛の着ぐるみを来たおっさん達は……。
まぁいい、それに麺だ。
「これは……うますぎる!」
俺の知っている麺よりも、小麦ッ!みたいな味がする。
香りから味まで際立ってる、小麦ッ!という、これが小麦なんだと直接食ってるかのようなハッキリした味。
それにチャーシュー、味が濃くしっとりしている。
一見、生焼けに見えるがこれは逆だ。
火が通っているが固くならない温度を見計らった職人技、俺だったら固くしちゃうね。
「馬鹿な……このラーメン、変化系か」
味が、味が変わった!?そうか、場所ごとに配置された薬味が食べる地点ごとに微妙に味を変えている。
俺が分かるのは、果実味のある何かと魚の肝のようなスープに溶けたという事だけ。
実力が、俺には実力が足らない。
所詮は、マネーハンター……グルメハンターの足元にも及ばないということか。
「……ふぅ」
また一つ、俺は未知を開拓した。