呪術?念能力の間違いだろ、そんなことよりラーメン食おうぜ 作:nyasu
「ここかぁ……」
吸っていたタバコは燃焼を早めて灰になり、そのまま自然と落ちていく。
これから仕事だからと一気に吸ったから、もはや残り滓しか残っていない。
肺に溜まった煙を出しながら、吸い殻を捨ててインターホンを押す。
「はい、どちら様で」
「すんませーん、暴力団の偉い人が住んでるって聞いたんですけど」
「おい、お前舐めてんのか?」
「舐めるわけ無いじゃん喋ってるんですけど、これだから馬鹿はさ。一番上の奴出せよ、ほら早くしろよ」
俺の目の前には、どこにそんな金があったのかと言わんばかりの豪邸があった。
高い堀に囲まれて、車庫もあった。
庭があるのか、松の木が伸び伸び育っている、うーん日本庭園とかありそう。
今回の仕事は同じ組のヤクザからの依頼だ。
なんか分家がどうのこうの、要するに内輪もめらしい。
この家の親分殺して部下のヤクザボコボコにしたら五百万くれるってことなので依頼を受けた。
他の同業者は受けたりしない曰く付きの依頼らしいが、どうでもいい金の匂いがするからな。
ここまでの経緯を思い返していたら、門扉が相手中からスーツを来た厳ついおっさん達が現れた。
五、六人が俺を囲んで威圧してくる。
まぁ、全員が普通の人なの怖くない。
お前ら、ブラックリストハンターとかの方が怖いからね。
殺す気もないのに睨まれても、アイツらとか殺す気で見てくるから念でヤバさが伝わってくんだよ。
「テメェ、どこの誰に喧嘩売ってんのか分かってんのか?」
「誰の家か知らない訳無いでしょ、馬鹿なの?あぁ、馬鹿だったね」
「テメェ!」
ブチ切れたヤクザが殴りかかってくる。
拳が俺の顔面を捉え、頬の所で静止する。
数秒後、殴ったヤクザが手を抑えながら崩れ落ちる。
「おい!?」
「くぅぅぅ、痛っぅぅぅ……」
「えっ、自分から殴って怪我してんの?弱くない?」
まぁ、答えは簡単。
念で強化してる俺の顔を殴って、鉄球を殴ったかのような状態になってるのだ。
骨とか折れてるよね、そりゃそうだ。
「何してんだテメェ!」
「舐めてんじゃねぇーぞ!」
背後から蹴り、真横から肘打ち、それが俺に向かって放たれた。
だが、何もしてないのに数秒後には足や肘を抑えて痛がる姿がそこにはあった。
馬鹿かよ、学習しなよ、どうして考えるより先に手が出るかな。
「はーい、じゃあ金のためにボコすわ」
「ぎぃあぁぁぁぁぁ!?」
「あぁぁぁぁぁぁ!」
「うぎぎぎぎ!?」
「ぐげぇぇ!」
囲んでいた奴らの両膝と両肘を硬で殴って粉砕する。
魚みたいにピクピクして泡を吹いててちょっと面白かった。
糸の切れたマリオネットみたいで、滑稽だ。
次に行くかと正面玄関を潜ると、そこには整列した黒いスーツの集団がいた。
そいつらが一斉に銃を取り出す。
「ば、馬鹿!銃はマズイ!」
「撃て!」
このご時世、銃は警察の目もあるから使わないって話だったのに依頼と違って奴らは銃を取り出してきた。
しかも、何の躊躇いもなく何発も発砲してきやがる。
俺は急いで門扉の影に身を隠す。
強化系は反対の位置、俺は特質なので苦手なのだ。
だから銃を防ぐとか普通の念能力者よりもできやしない。
せいぜい小銃を数発と言ったところだ。
大口径とかライフルなんざ出された日には死ねる。
「チッ、練」
「ッ!?おい、出てこい!オメェら、ビビんなよ!行くぞ!」
駄目か、非念能力者でも念を感じる事は出来るからビビるんだけどな。
ヤクザだからそういう機会は多くて、ビビらないってことか。
「うぅ……」
「よし、お前らに決めた」
俺は倒れてる最初の奴らを掴んで、豪邸に向かって投げ込んだ。
「兄貴、空から」
「うげぇ!?」
「野郎、うおっ!?」
「よし、お前らも行くぞ!ソイッ!ソイッ!」
まさか上から飛んでくるとは思わなかったのだろう。
俺の方に来ようとしていたヤクザ共は慌てふためいていた。
「絶」
その隙に気配を消して再び邸宅内に侵入。
別に口を出さなくてもいいが、出したほうが効果が強くなる気がする。
こういう感覚的な部分は念に関わるから大事にしたほうがいい。
「銃なんか持ってさ」
適当な一人から銃を奪って、そのまま他の奴らの足や肩を撃ち抜く。
弾が切れたら倒れてる奴らから回収、また撃つの繰り返し。
「ぎゃぁぁぁ!?」
「どこから、あぁぁぁ!?」
「警察だ!銃を捨てろ!」
また初めて数分だったのだが、目的の警察官達がやってくる。
だよな、こういう場所って監視してるらしいし表で騒いでたら通報も行く。
にしても早すぎるから俺が近づいてインターホン押した時点で準備でもしてたのかな。
警察官の舞台は、俺が知ってる交番の奴らと違って防備を固めた集団だった。
そこからはヤクザと警官の戦いが始まる。
さて、メチャクチャにしてはあるけど親分の命を奪えば完了だ。
「円」
俺はそれほど念の量が多いわけではないので、自分の後方にひたすら真っすぐ念を伸ばす。
それを俺の身体を中心にぐるっと回してレーダーのように使用した。
短い範囲なら普通に円でいいけど、広範囲なら工夫しないと無理だからな。
歩きながらレーダーのような円を繰り返す。
どうやら、奥の方で一定方向に移動してる人物が二人いるな、これが親分かな。
自分の直感、金への嗅覚を信じて進めばいた。
着物を来た爺さんと紙袋を頭から被った変態だ。
「クソが、遂にここまで来やがったか」
「お前……呪詛師だな」
「あー、なるほどなるほど。そこの紙袋さん、同業者ですね」
マネーハンターをやっていたら偶にある依頼の重複だ。
護衛依頼と討伐依頼が重なるなんてことはよくあるのだ。
ブラックリストハンターの癖してブラックリスト乗ってるやつとかね。
それは違うか、まぁとにかく騙されたわけだ。
そりゃ、他の奴らがやらないわけだ。
「俺はあの五条悟と戦ったことがあるんだぜ」
そう言った、紙袋の横にはズズズと泥人形のようなものが形成される。
それはそのままそっくりな分身として現れる。
念能力、こっちでは術式と呼ばれるそれだ。
「誰か知らないけど強い人と戦ったことがあるようで。じゃあ、交渉だ。みんな大好き金の話だ」
「お前、モグリか?この世界でアイツを知らねぇとはやべぇやつだな」
「俺の仕事はその爺を殺す、殺すと五百万貰える、半分で手を打たないか?」
「断るぜ、こっちは数日守れば一千万だ」
「なるほど、雇い主の財力が少ないようだ」
交渉は決裂、戦わずに済めばよかったが仕方ない。
俺は手足と目に凝を行う。
さて、戦闘に切り替えるか。
「さて、術式開示の時間だ。俺の術式は模倣術式、敵対した相手の術式を模倣する術式だ。俺との戦闘は、俺に術式を模倣されるというリスクを背負う、俺に模倣されてもいいと思うなら掛かってこい。嫌なら金で解決だ」
「そうか、手足の呪力。お前、壊し屋だな」
「なんだそれ、それよりお前の術式は分身を作る能力か」
「御名答、だが簡単に術式開示するのは素人だけだぜ!」
そう言って、分身が走ってくる。
2対1、形勢はやや不利か。
変化系か具現化系、それも自分自身とは珍しい。
イメージトレーニングが不可欠な具現化系において、自分自身は見えないし、自己の認識に関わるから難易度は高めだ。
逆に変化系なら、精巧な分身の作成に恐れ入る。
「さぁ、上と下の二択だ!」
「選べ、そして死ね!」
一体がラリアット、もう一体がローキックをお見舞いしてくる。
まるで格ゲー、どちらかが実態のない幻。
「硬!」
両足を閉じて金的を防ぎ、顔の前で腕を交差して念を集中させる。
避けられない攻撃、ならば避けずに防御する。
格ゲーではないので、ダメージを受けても耐えられる。
紙袋の変態の攻撃は、念の集中した足と腕に命中する。
「ッ!?だが!」
まさかの衝撃に驚く。
どちらも実体、つまりコイツは具現化系で生み出した存在。
手数の多さは、より不利になるが強化系は近くないと考えればそれほど相性も悪くない。
「くッ!?」
と、思っていた。
胃が持ち上がるような感覚、喉から込み上げる血流、骨に響く衝撃、視界が一瞬ブレて意識が飛びそうになる。
朧気な意識、遅れてやってくる背中の激痛で覚醒する。
反射で転がりながら体勢を整える。
背中を打ち付けた壁を背に、数度咳き込みながら何とか立ち上がる。
しまった、念の少ない箇所を攻撃された。
今、俺は腹を攻撃された!一体どこから、いやそうか。
「3体目……」
口元の垂れた胃液を拭いながら敵を見据える。
その視線、先にはいつの間にか3人に増えた紙袋の呪詛師がいた。
「油断したな」
「さぁ壊し屋、まだ始まったばっかだぜ!」
「ったく、特質系は肉弾戦に向いてないんだけどな……」
念で強化して殴る、そんな脳筋な強化系とは対極の特質系の戦い方はとにかく勝ちパターンに引き込むことだ。
その弱さを武器で補う輩もいるが俺は持ってない。
この世界の念の籠もった道具は呪具と言って高値で取引されている。
そして、それは欲しいが高いので買えてない、所詮世の中は金だ。
「どうして紙袋なんか被ってるかずっと疑問だったんだ。何らかの制約、縛りだったか?他にも効果があるんだろ」
「さて、どうだろうね」
「円」
構え、円による索敵に切り替える。
具現化の適性があるなら、これよりも数を増やすかもしれない。
実体があること、呪力と呼ばれる念の総量からして、二桁は行かないだろう。
最大で9体は出せるかもしれないが、俺なら戦闘しやすい人数に絞って、操作性や強度を上げる。
戦闘しやすい人数か、室内からして4体か5体までしか出さないはずだ。
「来ないなら、こっちから行くぜ!」
3体の紙袋を被った敵が迫る。
接触による能力はなさそうだ、あれば使ってるだろう。
そもそも、分身を生み出すのにメモリは大分使っているはずだ。
ということは、分身に付与された効果があると見るのが妥当。
顔を隠すという行為にも、きっと意味がある。
分身から連想されるのは身代わり、試してみるか。
利き腕の右手に念を集中させる。
ゴンがやっていたように、手先に念を、鋭く鋭利な刃物をイメージして纏う。
ゴンほどリーチはないが、それでも刃物程度の攻撃力は得られた手刀、それを居合のように構える。
「死ね!」
「喰らいな!」
3、2、1……入った!
一体目の紙袋の男に向けて、手刀を振り抜く。
上から殴り掛かろうとした体勢、そのガラ空きな胴体に滑り込ませるように手刀を振り抜く。
背後から別の分身の拳が背中に当たったが、それでも先程よりも念を纏っているので耐えられる。
服を、皮を、引き裂くような感覚が一瞬で変わる。
沈むように、まるで泥に包まれるように抵抗感が抜ける。
振り抜いた奴は、溶けた。
溶けて、崩れて、攻撃は空を切る。
「ガハッ!?」
「惜しかったな!捨て身の攻撃は無駄だぜ」
背後からの追撃、押さえつけられるように背中の上に敵が乗る。
やはり、そういう能力か。
「自分の位置と分身の位置を入れ替える能力。一度倒したらタイムラグがあると思ったのに、もう分身が復活か……いい能力だ。殺される前にアンタの術式について教えてくれないか?」
「冥土の土産に教えてやろう。俺の術式は分身術式、最大5体まで出せる。復活したのではなく、出してなかっただけだ。そしてお前の予想通り、全部が本体で分身であり入れ替え可能だ」
「なるほどな、ありがとうよ。これは五百万以上の価値ある仕事だった」
豚を屠殺するような、冷たい視線を向ける紙袋の男が俺を見下ろす。
そして、俺の背中の上に乗った紙袋の男がその太い腕を首に回して――