龍神の巫女   作:都森メメ

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第49話

 

 

 

 6月某日、一般人でも扱うことのできる霊具『蛇巫ノ槍(へびみこのやり)』の陸上自衛隊による運用が開始された。場所は近畿地方の某所の山中であり、このエリアを担当していた退魔師がかなり高齢のため、今後の引継ぎ先に自治体も悩んでいる場所である。

 

 初の実践運用ということもあり、妖魔対策の防護服を着た陸上自衛隊員50名からなる一団とともに、私もサポートで討伐の補助をする運びとなった。補助とはいっても、私が本気を出して手伝ってしまうとこのエリアなど30分程度で終わってしまうため、あくまで死人がでそうになったら助けに入るくらいの仕事である。

 

 新聞記者やテレビ局からのインタビューを討伐エリアにほど近い場所で受けたのち、自衛隊員とともに山に分け入っていく。このエリアを担当している地元退魔師から提供してもらった地図をもとに作成した討伐ルートに沿って縦隊を組んでおり、その先頭に近い場所に私はいる。

 

「前方小型妖魔1! 第一班、状況開始! 槍持てぇ槍!」

 

 一番先頭の男性隊員が大きく掛け声をあげたとおり、15メートルほど先の茂みにタヌキの小型妖魔が伏せていた。

 

 班長からの命令を受けた第一班の隊員5名が蛇巫ノ槍を構えながら妖魔を半円状に囲うようにゆっくりと近づいていく。登山道としては整備されていない足場の悪さにも関わらず、5名の隊員達は綺麗な半円の隊列を維持したまま一匹の妖魔を取り囲んだ。

 

「槍構え! 突けぇ!!」

 

 その掛け声が発せられた瞬間、タヌキ妖魔を取り囲んでいた隊員が一斉に槍を突き刺した。比較的大人しい妖魔であったことも幸いし、体の5カ所に穴を開けられた妖魔は数十秒もがいた後、霊力の霧となって森の中に散っていった。

 あとに残された小さな妖結晶を班長が拾い、腰のポーチの中に仕舞い、状況終了となった。

 

 おそらく世界で初めて、非術師が妖魔を討伐した瞬間である。タヌキ型の妖魔が抵抗することもなかったため、ひどく呆気なかった。静かに喜ぶ隊員達の姿を眺めていると、隣に立っている私の案内役の自衛隊員の隊員からこう問われた。

 

「我々の対妖魔の動きはいかがですか?」

「ほぼ完璧だと思います。小型妖魔相手に危なげなく対処できてましたし」

 

 もしも中型以上の妖魔が出てきたらすぐに逃げるように、という忠告も付け足しておいたが、彼らは十分にそれを理解しているように思えたのできっと大丈夫だろう。

 

 その後、当初予定されていた警邏ルートを予定通りの時間ですべて回りきり、結果として彼らは小型妖魔12体を討伐することに成功した。

 もちろん死傷者は0である。

 

 

 まだ夏は少し遠い空気もあってか、全国的に妖魔の発生数は落ち着いている。そのおかげで今日は自衛隊員の付き添いで山の中を歩くだけという極めて簡単な仕事で1日を終えることができたのだった。

 

 

 

 山の麓に戻ったあと、テレビ局のインタビューなどに軽く答えると私の今日の仕事は完了した。以前の記者会見のような凡ミスをすることもなく、淡々と質問に答えるだけの平穏なインタビューであった。

 

 

 

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 夕日新聞(電子版)

 2021年5月30日 

 

『自衛隊による初の妖魔討伐を実施』

 

 中田防衛相は30日の記者会見で、陸上自衛隊が妖魔発生源において『一般人でも扱える霊具』による妖魔討伐を実施したと発表した。隊員50名による約5時間の作戦により計12体の妖魔を討伐することに成功しており、自衛隊側にけが人は出なかった。退魔師によらない妖魔討伐としては世界初の事例となる。

 

 妖魔討伐には国家指定退魔師の蛇谷水琴も同行しており、現地の記者の質問に対し、『夏場の妖魔活性期において、退魔師が対処しきれない地域の妖魔討伐を自衛隊に期待したい』と語った。

 

 これまでの調査から夏場には妖魔の発生数が増加することが判明しており、人材不足にあえぐ退魔師業界の助けとなることが期待される。『一般人でも扱える霊具』の正式名称は『蛇巫ノ槍』、開発した蔵人(くらんど)家は蛇谷水琴の発言がきっかけとなったことから、同人にゆかりのある名称にしたと語った。

 

 

 

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 6月に入ると徐々に妖魔の発生数が増加してきた。

 増えているのは主に小型妖魔がほとんどだが、当然発生数が増えると中型以上の妖魔も増えてくる。これが大型になる前に日本全国へ出張して各地の退魔師の応援にあたるのが国家指定退魔師としての仕事である。

 

 平日は学校、土日に県庁の山下さんに迎えにきてもらって各地へ出張妖魔討伐。夏休みに入るまではいつも通りのスケジュールが続く予定となっている。

 今後のライフプラン的には退魔師として過ごす以外の人生が想定できないため、大学まではいかないだろうが、それでも高校くらいはしっかりと卒業しておきたい。だから平日に学校に通えるくらいの出張頻度のままなのは非常にありがたい。

 

 国内で妖魔被害の死者が一人でもでたらそんな悠長なことはいってられないのだろうが、今のところは問題なさそうだった。先日から運用が開始された自衛隊による妖魔討伐が軌道に乗り始めたのだ。

 

 当初は小型妖魔が少し涌きはじめている地域をある程度担当してくれれば御の字、というくらいのイメージだったのだが、防衛省が全国の妖魔の発生状況を分析してこちらに情報提供をしてくれており、それが私の仕事をかなり助けてくれている。

 

 ほぼ日次更新のデータをもとに全国の妖魔発生状況を同じ基準で数値化することが可能になった。それにより次にどこに遠征に行けば効率的に対処できるかがすぐに分かるのだ。

 

 これまでは各都道府県から個別に寄せられる遠征討伐の依頼を、県庁の妖魔対策課の山下さんたちが少ないマンパワーで何とか分類して次はどこに私を派遣するかを神経をすり減らしながら毎日必死に検討していた。

 

 その業務が大幅削減されたおかげで、山下さんの目の下の隈も最近はだいぶ薄くなってきた。『まあそれでも月の残業時間は100は超えてるけどね』と彼女は笑っていたが、私のためにも過労死だけはしてほしくない。

 

 何だかんだ私が国家指定退魔師としてやっていけているのは彼女のサポートによる部分がかなり大きい。将来的には退魔省の上の方まで出世してほしいと思う、彼女がそんなキャリアを望むかは別としてだが。

 

 

 去年は7月の末に開催された県庁主催の退魔師会合であるが、今年は夏場の妖魔活性期に備えるため少し早めに実施されることになったらしい。去年初めて参加したときは蛇谷家の当主を継いでからまだ数ヶ月しかたっておらず、かつ高校の制服で参加したためにまわりの注目をかなり集めてしまっていた。山下さんと会ったのもあの時が初めてだ、あれがもう1年前だと思うと随分と懐かしい気持ちになる。

 

 

 

 まるで10年以上前の出来事のように感じる──────龍神による時差結界のなかでの凌辱をカウントすればほんとにそれくらいの時間は経っているかもしれないという思考にいたり、少し身震いした。

 

 

 

 

 

 そんなわけで7月、私は退魔師会合に参加することができた。遠征の予定が入ったら当然そちらを優先するところなのだが、自衛隊から提供される情報によると、現状私がいって対処すべきほど逼迫しているエリアは日本国内には無いとのことだったので、私は会合に出席することにした。

 

 昨年は高校の制服を着ていったのだが今年はどうしようかと、朝風呂を済ませたあと、鏡の前で下着だけをつけて思案する。

 

「まあ、せっかくだし巫女服着ていこうか」

 

 絹蜜家謹製である一着2,000万円の巫女服を身に纏い、私は神社の鳥居の前で待つことにした。今日も山下さんが公用車で迎えにきてくれる。本当にありがたいのだが、彼女の労働時間の長さが心配である。先日も「原付で県庁まで向かうから、会合の日くらいは迎えはいらない」と言ったのだが、「高校生を土日に働かせておいて大人である自分が休むわけにはいかない」と強い意志で断られてしまったのだ。

 

 スマホの画面で時間を確認しつつ、まわりに田んぼしかないド田舎の風景を眺めながら時間をつぶす。幸い、今日は神社に参拝客はいなかった。最寄り駅から徒歩30分でバスすらも無いという素晴らしい立地が功を奏しているらしい。

 

 

 少し遠くのほうに、いつも山下さんが運転してくるオンボロの白い軽自動車の姿が見えた。神社の前までつけてくれたその車の助手席に乗って、私は県庁舎まで送ってもらった。

 

 

 

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 東経新聞(電子版)

 2021年7月11日

 

『異例の公表、世界人口50億人を割込む 国連推計』

 

【ニューヨーク=田中文人】国連は11日の世界人口デーに2021年版の「世界人口推計」を公表した。通常は2年に1回の公表であり、今回は異例の発表となる。

 国連の調査によると世界人口はすでに50億人を下回っており、現在の減少ペースが続くと仮定した場合、2035年に人類が絶滅するとの見通しを示した。世界人口は一時、80億を上回りかけたものの妖魔災害の激甚化に伴い、2010年代から徐々に減少ペースを加速させている。世界の人口がはじめて50億人を突破したのは1987年7月11日、まだ半世紀を経過していない。

 

 

 

 

 

 

 

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