どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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少し長いけど見てやって。


10話 「私が彼と確約した日」

 

 

 

 

 

 

 

瑠璃色の瞳が、黒の布によって覆われると頼りになるのは視覚を除いた四感覚と、オリバーのみでした。私が布で目を隠すと、オリバーは私の手を引いた後に召喚した箒に私を乗せます。

すると、ふわりと物体が浮く感触に襲われ箒が目的地へと進んでいきます。風を切る感覚が心地よく、どちらかと言えば低速度で箒を飛ばしているということを理解し、安堵したところで改めて私は彼に尋ねました。

 

「私のこと、信用できませんか?」

 

発した言葉に「ん」と返したオリバー。目隠し故にどんな表情をしているのかは分かりませんが、声だけはしっかりと聴こえてきます。

 

「どうしてそう思った?」

「その道を見せたくないと考えているということは、私があなたの連れていこうとしている場所を他人に吹聴すると考えているということだと思ったからです」

 

予め言っておきますが、そんなことはしません。私にだって他人の秘密を守るくらいの常識は持っています。そして、それが己の友人とも言える存在なのだとしたら尚更しっかり守ってみせます。

 

「あなたの今までの発言を他人に吹聴しなかった私を信頼してくれていないのは心外ですね」

「違う。そもそも俺、イレイナを秘密の場所に連れていこうだなんて微塵も思ってないし」

 

しかし、そんな私の言葉はオリバーの声によって否定されます。何が目的なのかくらい説明してくれても良いとは思うのですが、目隠しをさせるくらいなのですから相当後ろめたいことでも隠しているのでしょう。果たしてオリバーが何を隠しているのやら、私には到底理解にも及びませんね。

 

やがて、箒の高度が低くなってくる感覚に陥ると「それに」と発したオリバーが先程の会話を続けます。

 

「俺はイレイナのこと信頼してるよ」

「信頼ですか」

「ああ。友人だとも思ってるし、ここだけの話どちゃクソ可愛いとまで思ってるし‥‥‥」

「それはいつも言ってるじゃないですか、変態さん」

「おい、今良いこと言おうとしたんだから静かにしろよ」

 

それを言ってしまったらどんな名言も名言じゃなくなるのですが、それは──と、考えている間にも箒は止まり、私はオリバーに手を引かれるがままに歩いていきます。

やがてオリバーは立ち止まると私の手を離しました。その後の足音から、何となくではありますが後ろにいることを悟りましたが、こうも無言が続くとやや不安になります。オリバーの性格上、まさか私をそのまま放置するなんてことはないのでしょうが、一応確認の為に言葉を放ちます。

 

「何か言ったらどうですか。いいこと、言おうとしたんですよね?」

 

その言葉に「おう」と言ったオリバー。やはり後ろにいましたか。耳から聴こえた声が後ろから聞こえてきたので、私は後ろにオリバーがいることを確信します。

いやしかし、わざわざ私の後ろに立って何をするつもりなのかと身構えていると、「進んでー」と不意に背中を押されました。

 

「だからこそ、ここに連れてきたんだよ。イレイナのことを友達だと思ってて、感謝もしてて、何時でも笑っていて欲しいと思えるから」

「え」

「前に言ったこと、覚えてるよな?近いうちにビックリするようなことしてやるって」

「‥‥‥あ」

 

そう言えば言ってましたね。「そう言われたら無性に燃えてくる性格なんだよ」とかなんとか。あの時は精々燃えすぎて空回りしないようにと内心で思っていたのですが、まさかあの時の話の続きが現在に至るとは思っていませんでした。

ということは、あれですか。

 

「‥‥‥なるほど、つまりあなたは私を驚かせようとしているんですね」

「さあ、それはどうかな」

「思い出したんですよ。あなたとの会話を」

 

今更シラを切ろうとしたところで無駄です。オリバーにしては努力したということは認めますが、驚くかどうかは私が決めることです。

備えあれば憂いなし、用心すれば滅多なことで驚くということはないのです。

 

「目隠しして、言葉をはぐらかして、随分と小汚い戦法を取るんですね。言っておきますけど私はオリバーの策略になんて騙され──」

「はいはい。取り敢えず目隠し解くぞー」

「え、ちょっ‥‥‥」

 

しかし、オリバーの行動は止まることを知りません。私の話なんて何も聞いてないという風体でさらっと私の言葉を受け流したオリバーに目隠しを解かれると、彼は薄ぼやけた視界に困惑している私の背中を再度押します。

いや、何するんですか。もう一度押す必要あったんですか。

そのようなことを内心で思いつつ、私はつんのめってしまった体勢を立て直し、オリバーに文句を言おうと口を開きます。

 

「何を──」

 

そして、そう言いかけた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「うぇーい!誕生日おめでとーッ!!」

「うぇいうぇーい!!」

 

スパーン、と。

視界が明瞭になったことで存在していることに気がついた2人の大人が、私に向けて盛大にクラッカーを放ったのです。

私はその光景に暫し唖然とした後に、目隠しを解いたであろうオリバーに今度こそ文句を言おうと後ろを振り向いて──

 

「お誕生日おめでとうウェーイ!!」

 

さらにスパーン、と。

そのような軽快な音が鳴り響き、私の顔に紙吹雪が飛び散りました。

結果として私の周りには紙吹雪や紙テープなどが撒き散らされ、更に3人が周りを囲むように立っています。

 

えーと、これは新手のリンチなのでしょうか。

耳がすげー痛いですし、紙テープが顔に引っ付いているんですけど。

 

「オリバー」

「うぇい!」

「いや、ウェイじゃなくて。なんですかこれ」

 

そもそもの話、私にとっての今日は記念日でもなんでもありません。誕生日は明日ですし、偉大な出来事を起こしたわけでもありません。見たところ私の何かを祝っているみたいですが、身に覚えがないのです。

それにも関わらず、オリバーはさっきから飄々とした表情を崩さずに同じ言葉を繰り返しています。

 

「イレイナ、お誕生日おめでとうウェイ」

 

そう、今のように。

何がお誕生日おめでとうウェイですか。私の誕生日舐めてんすかそうですか。私の誕生日は10月17日。つまり、明日です。それにも関わらず誕生日を祝うとか最早正気を疑うのですが。

 

「‥‥‥私の誕生日は明日ですよ。何気安く誕生日間違えてるんですか」

「え、さっきからイレイナは可愛い顔を顰めて何言ってるんだウェイ」

「それはこっちの台詞です」

「ウェイ!?」

 

喧しいです。

後、語尾にウェイ付けるのやめてもらっていいですか。というより、どうしてこの家の人達はみんなウェイウェイ言ってるんですか。ウェイウェイ言ってればお祝いが成立すると思ってんすか。

 

「仮にこの催しが誕生日パーティでないのなら、一体これはなんなんですか」

 

私がオリバーにそう尋ねると、漸く腹立たしい程の飄々とした表情を崩したオリバーが頭をかきながら私に事の詳細を説明します。

 

「前夜祭だ」

「前夜祭?」

「そう、俺と父さんと母さんで企画した。だからヴィクトリカさん達の許可も必要だったんだよ」

 

そしてオリバーの説明によると、どうやらこの催しは私の誕生日の前夜祭ということで。両親の許可も取っており、かつオリバーの御両親にも許可を取って前々から準備していたらしいのです。

ふむ、つまり私だけが蚊帳の外でそのようなことを企画されていたわけですね。随分とまあ用意周到なことじゃないですか。

 

「‥‥‥前夜祭なんてした事ありませんでしたけど」

「いやあ、驚かせたいからやらせてって言ったらヴィクトリカさんめちゃくちゃ嬉しそうにしてたぞ。というか、前夜祭なんて言葉何処で知ったんだって言われたわ」

「そりゃそうでしょう」

 

オリバーは馬鹿ということで有名ですし。

私も驚きました。

 

「けど、やりたかったから仕方ないよな。驚いた表情も見れたし、俺は一石二鳥だったな‥‥‥いや、三鳥だわ。イレイナマジ尊いし」

 

そう言って、悶え始めたオリバーは一先ず置いておいて。

なるほど、そういう理由があったのなら道中私の視界を遮ったのにも合点が行きます。確かにオリバーの自宅に連れ込まれることが分かっていたのならこのような事態も想定できたのやもしれませんし、そもそも要求を呑んだことか。

前夜祭なんて言葉を何処で知ったのかは依然として気になるところではあるのですが、そこに合点がいったのでとりあえず納得です。

つまり、私はオリバーの挑戦を受けた時点で──否、9歳の頃に恩返しの約束をした頃から私はオリバーの掌で踊らされていたわけですね。

なんでしょう、まあ‥‥‥あれです。

 

「サプライズ、ということですか」

「せやせや」

「ちょっと紛らわしいですね」

「うっ‥‥‥それは、すいません」

 

どちらかと言えばサプライズは苦手ですし。

それにしてもまあ、よくもこんな催しを開いてくれたものです。辺り一面に広がる装飾に、クラッカーの残骸。それらが構築するのは私という存在を祝う為に作られた特別な時間です。

そして、それらを作った人達にとって、私は他人であるのにも関わらず彼は恩返しを計画してくれたのです。

そのような恩返しによる一時は私にとっては初めての体験であり、それらが思わず泣きそうになるくらい嬉しかったのでしょう。先程から頬が緩む感覚を抑えきれず、胸から何かがせり上がってくるような感覚に至ります。

それこそ初めて魔法を使えた時のように、私の心は踊ってしまっていたのです。

 

「‥‥‥ですが、ありがとうございます。オリバー」

 

ですので。

感情のままに、私は感謝の気持ちをオリバーに告げました。

恐らく彼に対してこのような言葉を投げかけることは滅多にないでしょう。平時ならこのようなことは絶対に言いませんし、言えません。

さて、私がそんな感謝を告げると何故か膝を突いて悶えるオリバー。

なるほど、かなり気持ち悪いですね。あなたは何をしてやがるんですか。

 

「うぅ‥‥‥イレイナが世界一可愛い」

 

彼は悶えることがステータスと勘違いしているのではないのでしょうか。

近頃頭のネジが緩み始めたのかは知りませんが、妄言や身悶えが多くなっている節があります。

相も変わらずの変態的言動に頭を痛めていると、後ろにいたオリバーのお母さん──セシリアさんと言いましたか──が、ニコリとした笑みを浮かべて私に言います。

 

「さあさあ、イレイナちゃん。今日はキミの大好きなパンを沢山作ったんだ。是非、気の済むまで食べていってよ」

「あ、はい。その、ありがとうございます」

「いいんだよー。私も可愛い女の子は大好きだからー」

「‥‥‥オリバーに似ていらっしゃるんですね」

「ぎゅーってしていい?」

 

髪色から話を聞いてくれないところまで尽くオリバー似なんですね。

申し訳ないですが抱きつくのは無理です。本当です、だから何考えてんですかやめてください。抱き締めないでください。

 

「‥‥‥イレイナちゃん、お誕生日おめでとう」

 

そう、内心で拒否したのですが。

1度抱き締められてしまえば子どもの私が抵抗することは叶わず、それでいて優しい語調でそのようなことを言われてしまうと突き放すに突き放せません。

恩義は受け取るのが礼儀ですし、私はその抱擁に応えて彼女に礼を述べました。

 

「はい。ありがとうございます」

「うぇい」

「だからその語尾ほんとなんなんですか」

 

オリバーの家の伝統的なやつなんですかそれ。だとしたらかなりおかしな伝統ですよ。お母さん達はこのウェイ系家族と仲良くできてたんですか。ある意味すげーと思うんですが、それは。

と、ここで後ろからオリバーが私に対して話しかけます。その様は依然として悶えているようで──いや、いつまでそこで悶えてるんですか。

 

「取り敢えず楽しんでくれればそれで良いから。うぅ、イレイナ‥‥‥」

「あの、こっち見ないでくれませんか」

「イレイナさん可愛いよイレイナさん」

「馬鹿ですね」

 

というか、知ってます。

 

まあ、そんな茶番もそこそこに。

私はオリバーと、そのご家族の厚意に甘え心ゆくまで前夜祭を楽しみました。前夜祭というものにあまり見識のなかった私ではあるのですが、セシリアさんのパンを中心とした料理は全てが私の好物で並べられており、恐らく相当の時間と手間をかけたのだろうということが分かります。ご飯はありがたく、皆と一緒に食べました。

 

また、オリバーとも様々な話で盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていきます。夢の話、本の話、その他諸々の世間話まで、その内容は濃密で気が付けば時刻は夜遅く──会はお開きとなり、私は家へと帰る時間となってしまったのです。

 

筆舌に尽くし難い程の濃密な時間を過ごすことが出来ました。きっと、今日の出来事を忘れることは非常に難儀なこととなるでしょう。現に、私は先程までのサプライズからお開きまでの流れを確りと覚えており、なんなら皆の一挙一動を日記に記せる程に脳内に刻み込まれています。

それ程この前夜祭という一日を楽しく過ごせたということです。

 

そして、そのような時間を提供してくれたオリバーは私にとっての大切な親友であり、その存在との繋がりを断ちたくないということを私は改めて思ったわけです。

 

 

 

 

 

 

前夜祭が終わり、帰路に就く私達の辺りには暗闇が広がっています。

しかし、魔法を心得ている私は箒に明かりを灯すことが可能であり、特にこれといった不都合もなく帰路に着くことができたのですが。

 

「なんで付いてきてるんですか」

「ばっかお前、家に帰るまでが前夜祭だろ」

「それ、あなたが私の隣で箒を走らせてるのと関係あります?」

 

何故かオリバーまで付いてきて箒に明かりを灯しながら私の目的地に向かっているのです。果たして彼は空気というものを読んだことがあるのでしょうか──と思考を巡らせていると、申し訳なさそうにこちらを見たオリバーが私の顔色を伺いました。

 

「‥‥‥今日は、すいませんでした」

 

その一言に、私はオリバーの方を向かずに答えます。

 

「何がですか」

「いや、色々連れ回したから。明日誕生日だし疲れさせてすまんなって」

「なら最初から前夜祭なんて考えつかないでください。私の家の祝い事は当日のみの予定です。驚きましたし、疲れました」

「うぐ‥‥‥確かに無作法だったな」

 

まあ、感謝はしていますけど。

なんなら因果応報として仕返しを幾つか用意させて頂くくらいのことは考えていますが、それも時期とタイミングがあるので今すぐとはいきません。

やるのなら盛大に。今日の私以上に驚くサプライズを提示したいところです。

 

と、考えながら箒を走らせていると「イレイナ」という声が聴こえたのでオリバーの方を向きます。すると、彼は片手に持っていた包みを半ば無理矢理押し付け、続けます。

 

「本当はこれ明日にでも手渡そうと思ったんだけど‥‥‥いいや、今日渡しとく」

「‥‥‥中身はなんですか?」

「さあて、それは開けてからのお楽しみ──」

「なるほど、なら開けてみましょう」

「その発想に至るの、ほんとイレイナって感じだよな」

 

さあ、なんのことでしょう。

彼の妄言は放っておいて、気になる包みを丁寧に取り、その中に入ってある箱を開けると、そこには黄色のリボンタイが。

ふむ、しっかりプレゼントがプレゼントになってます。

誰の差し金でしょうかね。

 

「リボンタイ、ですか」

「ああ、まあ俺の資金内で購入できるのはこれが限界だったよ‥‥‥はは、社会って本当に厳しいですよね」

 

そんなシビアな話をしないでください。

折角の嬉しい気持ちがぶっ壊れます。

 

「十分嬉しいですよ。ありがとうございます」

「そっか。なら良かったよ」

 

まあ、差し金だろうともシビアな話をしようとも貰ったものには感謝をしなければなりません。プレゼントというものはお金だけではなく、気持ちが必要だということも心得ています。

私はオリバーから貰った、この黄色のリボンタイをどう扱おうか考えながら、箒を飛ばすのでした。

 

月明かりと箒の灯りだけが頼りの状況で、箒を蛇行しながら飛ばし続けます。

まるで世界が動きを停止し、私とオリバーの身の回りだけが動いている──そんな感覚が襲うと、先程の会話の続きをしたつもりなのか、オリバーが前だけを見据えてからからと笑います。

 

「ビックリさせるって約束だったし。貸しもあるし、そこはちゃんとしなきゃな。終わりよければすべてよしじゃない。首尾一貫、全てにおいて良くなきゃならんと思ったわけだ」

 

と、オリバーはそう言い終えると空を見ながら「これから返済に向けて一直線だぜー」と物思いに耽ります。その様はいつもの彼らしい態度であり、それこそが最大の原因だったのでしょう。

それは、自分でも気が付かない内に。

反射的と言っても良いくらいに。

私は、自らの頭の中で考えていた一言を不用意にもオリバーに聞こえるように、発してしまったのです。

 

「私との約束なんて別に守らなくてもいいんですよ」

 

そして、失言に気が付いた時には時すでに遅く。思わず箒の動きを止めた私に気が付き、箒を止めた後にこちらを振り向きました。

 

「え」

 

そして、オリバーから素っ頓狂な声が聞こえてきましたが仕方ないでしょう。

何せ、私の今の発言は約束を守ろうとしてくれている人間に言うにはあまりにも適さない一言でしたから。自分でもその一言には驚いていますし、頭の中で密かに考えていたこととはいえ、何故言葉として出てきてしまったのか説明がつきません。

それでも、その言葉にオリバーが反応してしまった以上言葉は撤回できません。私の口は嘘か誠かを考える暇もなく動き出したのです。

 

「仮にどれだけの歳月が過ぎようとも指だって詰めませんし、酷くもしません。私がそんなことする人間に見えましたか」

「‥‥‥ひどくはやってたじゃん」

「それはあなたが変態さんだからです」

「むごい」

 

本心でもあり、嘘でもある言葉でした。

内心で守って欲しいという願いを持ちつつも、心のどこかでは一生返せなくても構わないという矛盾を抱え、オリバーという人間に接していたことを他ならぬ私が自覚しています。

何かを返そうとするオリバーに対して拒否の姿勢を取り、言葉巧みに返済の先延ばしを要求し、いつかという言葉に甘えてこの時間を過ごす。

そんな約束が、私と彼の貸し借りの繋がりだったのです。

 

「私が貸し借りに興味を持ったのは理由があるんですよ」

「理由?」

「繋がりが欲しかったんです。将来も何もかもが不安定なオリバーに魔法だけじゃなくて、貸し借りの繋がりが欲しいと本能的に思っただけです」

 

勿論、彼には彼の道があり、私には私の道があります。それは前にも思ったことであり、いずれはそうなるであろうということが私にも分かります。そして私達は疎遠となり、会う機会も滅多になくなり、今は当たり前に行えている日常が眩しくて懐かしい何かとなってしまうのです。

それでも、何かしらの繋がりがあれば。何かの約束さえあれば、それを返しにひょっこり私の目の前に現れてきてくれるのかもしれない。

そんな淡い期待から、私はオリバーと約束をしたのです。

 

「私、弱い人間ですから。きっと、慕ってくれる人のことを好きになってしまうんです。そして、また会いたいと思ってしまいます」

「‥‥‥イレイナ」

「だから、オリバーは貸し借りの質なんて考えなくて良かったんですよ。そもそも必ずしも恩義に報いなければならないという法律なんてありませんし、なんなら返してくださらなくても結構でした」

「心身共に充実させてから全てを賭けろって言ってたじゃん」

「それ重くないですか?」

「イレイナが言ったんだけどな!?」

 

それは、あれですよ。

まさか本気になるとか思わなかったんです。相手はあのアホのオリバーですし。調子良く返事をしては返済に何年もかかるものだと思っていたんです。

いえ、だからなのでしょうね。返済が長引けばそれだけ繋がりを保つことが出来るから。故に、私はオリバーに返済を求めて早期返済を催促する傍らで()()()()()()を願っていたのでしょう。

長引けば長引くほど、彼との繋がりも長くなる。私はオリバーの性格につけ込み、その後の繋がりを強制しようとしたのです。

 

「なので、返済なんていつでも良いですよ。なんなら死ぬまで返さなくても結構です」

「‥‥‥お前、それマジで言ってんのか?」

「ええ、マジです。元々善意でやっていたものですし」

 

「どうでも良いですよ、返済の期限なんて」と最後に言って。私はオリバーから目を逸らしました。

しかし、そんな私の無視が長く続くことはなく、私はオリバーがその後に起こした行動に度肝を抜かれることになります。

 

「‥‥‥仮に」

 

オリバーが盛大なため息を吐いた後に、そう言ったのです。

しかも、今まで私に対して大きなため息など吐いたこともなかったオリバーがです。驚天動地、それこそ重大な何かに裏切られた位の衝撃がずしりと私の心に襲い掛かります。

それでも、オリバーは容赦しません。

私の心に更に追い打ちをかけるかの如く勢いで、言葉をひとつひとつ紡いでいきます。

 

「仮にそいつが他人なら、約束なんてしてないし貸しだって作らない。俺だって全ての人間に優しくしようだなんて思わないし、そもそもそういう人間とは約束だってしないから」

 

「俺はそんなにできた人間じゃないからな」と、軽く嘲るように笑ったオリバーに、私は首を横に振りました。少なくともオリバーは私との約束を守ろうと今日みたいな催しを開いてくれましたし、そもそもオリバーの場合友人の母数が少ないので私には到底理解しえないそれなのです。

それでも、オリバーは「けど」という言葉と共に続けます。

 

「イレイナには出会った初めから恩を作りっぱなしだ。ぼっちの俺に話しかけてくれたことも、本を貸してくれたのも、勉強を教えてくれたのも。日常全部、イレイナのおかげで彩った」

「‥‥‥私のおかげ、ですか」

「おうとも、全くもって予想外だったけどな。まさか友達になってくれるなんて思わなかったんだから」

 

「だから」と最後に大きく息を吸ったオリバーは笑みを浮かべてみせます。どちらかと言えば得意げな笑み。自信に満ち溢れたような笑顔は『これから言う言葉に間違いはない』とでも言いたげな表情でした。

そんな表情をした彼は。

 

「イレイナは友達だ。俺にとっての親友でもあるし、恩だってある。だからこそ、イレイナとの約束は()()()()()()()()

 

そう言って、私の目をじっと見据えたのでした。

時が止まるような感覚と、吸い込まれるようなオリバーの碧眼に思わず呼吸を止め、目を見開きます。

まるで体験したことの無いような感覚に襲われたのは、彼が今まで見せたことのない程の真摯さで私の目を見据えた故なのでしょう。

魔法と勉強の時くらいにしか見せなかった真摯な瞳をこのタイミングで見せ、私にそれを向けたのです。

 

「出会えた縁くらい大切にさせてくれ。イレイナとの約束をしっかり、早いうちに守ることだって、今の俺の立派なやりたいことなんだよ」

 

その言葉を最後に、いつも通りの軽薄な表情がお似合いの馬鹿野郎モードのオリバーに戻りました。そして、それと同時に行ったのは私の持っていた箱を指差し、軽くドヤ顔をしてみせるという暴挙。

しかし、それは意味のある行動であり──その動きにより反射的に貰ったリボンタイを見た私は、その意図に気付くことになります。

 

「‥‥‥あ」

 

──ああ、道理で。

そう思い、私はプレゼントされた上質なリボンタイを眺めてそんなことを心配していた自分自身を大馬鹿者と嘲りました。

彼自身が約束を守ろうとし、あまつさえその象徴となるものをプレゼントしてくれているのにも関わらず、それを破って良いだなんてどの口が言うのか。

繋がりはいくらでも作れる。けど、友情は一言言葉を間違えてしまえば一瞬でその関係を壊してしまう要因となり得てしまうのです。少なくとも、その言葉だけは絶対に言ってはならない一言でした。

 

そして、それと同時に私は大切なことに気が付きます。

私がオリバーとの繋がりを保つためにしなければならないこと。それは貸し借りの約束に逃げることではなく、その約束すらも乗り越えて前に進むことだったのです。

約束を果たしにオリバーが来たのなら、また新しい約束を作れば良い。約束を積み重ねて、誰に劣ることの無い友情を作れば良いのです。

「また会いましょう」と言えば、きっとオリバーは逢いに来てくれます。

オリバーには、その積み重ねができる特別な存在なのです。

 

「‥‥‥なんですか、それ」

 

そんなことを考えてしまったからか。

思わず口を突いて出てしまった一言は自分自身の戒めにも似た言葉でした。

そして、そんな私の一言に調子に乗ったのか「そういうことなのですよ」とニヤリと笑って見せたオリバー。

駆逐してやりたい気分ですね。

 

ともかく。

それでも、いつかは別れの時がやってきます。私には旅人としての夢があり、オリバーにはオリバーのこれから掴むべき夢があります。それがどのようなものであっても、私が旅人として存在する限りオリバーと未来永劫一緒にいるということは有り得ない話なのです。

 

それでも、オリバーは紛れもない私の友人です。そして何より、私がこの関係性を断ちたくないと思っています。

仮初でも良い、ずっと一緒じゃなくても良い。それでも、貸し借りという約束だけでは無い、もっと強固な繋がりを携えて、私が旅に出た後も関係を持っていたいと他でもない私が願って止まないのです。

だから。

 

「‥‥‥貸し借りをチャラにする方法、ありますよ」

「なぬ?」

 

私が発したその言葉に、オリバーが訝しげな視線を向けます。「まさか闇金‥‥‥」とか言うオリバーに「そんなわけないでしょう」と返し、続けます。

 

「私との約束は、どうでも良くないんですよね?」

 

念押しした一言に「うん」と述べたオリバー。

その言葉に押されるかのように、私はオリバーの目をしっかりと見据えて一言。

 

「なら──」

 

そして、その言葉を言うのと同時に自分の言葉にひどく怯えることとなります。その言葉が、拒絶されてもおかしくない一言だということを知っているが故の恐怖でした。

その証拠に、今の私の声は過去に例を見ないほどに震えています。きっと、自分の言葉が如何にオリバーという人間の未来を縛ることになるのかということを知っていたからです。

それでも、オリバーはそんな私の言葉に一瞬だけ目を見開くと、その数秒後には笑顔を見せました。

 

「いいよ」

 

そして、一言。

恐らく今の私が1番聞きたかったであろう言葉を、オリバーは言ってくれたのです──が。

 

「あの」

「なに」

「良いんですか?今の私の要求、かなり我儘なものだったと思うんですけど」

 

自分でもかなり無茶を言っているということを自覚している故か、少し引き気味に、遠慮がちに答えます。すると、何故かガッカリしたようにため息を吐き、ジト目でこちらを見遣るオリバー。

いや、なんですかその目。

 

「‥‥‥えー、なんかそれはイレイナっぽくない」

「え」

「イレイナはいつも自信に満ち溢れてるから可愛いのに」

「あの、さっきから何を言ってるんですか」

「もっと調子に乗ってくれないかな」

「喧嘩売ってんですか」

 

売り言葉に買い言葉とはまさにこのことを言うのでしょう。オリバーの暴言にも近い何かを同じく暴言で返すと、それに対して「はっ」と笑って見せたオリバーが言葉を続けました。

 

「我儘も何も、お前がそうしたいから言ったんだろ?」

「それは、はい」

「俺もイレイナと同じだよ。そうしたいと思えたから『いいよ』って言ってんだ。せっかく出来た繋がりを断ちたくないから。それはきっと素敵な事だと思えるから」

 

「だから」と一息ついたオリバーは、箒でこちらにまで歩み寄り一言。

彼らしい、ハッキリとした声で。

 

「いいよ。お前の要求、呑む」

 

そう言うと、最後にオリバーは右手を伸ばしました。

伸ばされた右手は、ペンや杖を持ち続けたことにより変化したゴツゴツとした手。その手を見るだけで今までの過去を鮮明に思い出すことも難しくない──そんな手です。

そのような手を差し出された私は、それをじっと見つめると何かを熟考することも無く、衝動的に私自身も手を伸ばし、オリバーの手に重ねます。

 

その時の私は、きっとどうかしていたのでしょう。

手を掴み、あまつさえその手を強く握り締めた後に何度もオリバーに言葉を重ねます。

 

「‥‥‥なら、約束です」

「うん」

 

念入りに。

 

「絶対、約束です」

「わかってるよ」

 

念押しして。

 

「破ったら酷いですよ。指だって詰めてもらいます」

「止めてよね、物騒だから‥‥‥うん、詰められないように頑張るよ」

 

それでも頷き続けるオリバーに、私は思わず泣きそうになります。安心したのでしょうか、それとも嬉しかったのでしょうか。

それでも、泣く姿だけは見せないという意地のような物があった私はオリバーの顔、一点のみを見据えました。

その表情は、私を連れ出す前と同じ、優しくて暖かい笑みでした。

 

「それに、これは約束なんかじゃない。確約だ」

「確約、ですか?」

「ああ、確定された約束と書いて確約。良い言葉だろ」

 

オリバーにそう言われたその言葉は、多分約束よりも固くて重いものであるということが容易に察せられました。恐らく、以前の私なら「え、重い」と言って突っぱねてしまいそうになる一言であろうと、他でもない私自身がそう思います。

しかし、今のこの瞬間は確約という言葉がとても嬉しいものだと思えました。

そして、何よりオリバーならその約束を守ってくれるという安心感が心のどこかに存在しており、それらが確約という言葉の株を上げていったのです。

故に、私はオリバーに言いました。

紛れもない己の本心を。

 

「はい、素敵な言葉ですね」

「だろ?」

 

少し時間を置いて言葉を発したその時の私がどのような表情をしていたのかは分かりません。

しかし、オリバーの自信に満ち溢れたような優しい笑顔が記憶に刻まれたのは確かであり、その証左を示すかのように私の心はひどく高鳴ったのでした。

その高鳴りは未来に対する希望か。

もしくは、目の前に立つ親友の安心感か。

理由は、きっと。

 

「オリバー」

「?」

「確約です」

 

この日初めて感じた、ひとつの思い故なのでしょう。

 

 

 




※アンケートを設置しました。
参考程度となってしまう可能性がありますが、御協力頂ければ幸いです。

1章終了後の閑話(短編)

  • オリバーとイレイナさんの話
  • 意表を突いてシーラ先生
  • ヴィクトリカさんとオリバーくん
  • つべこべ言わず全部書け
  • 早く2章やれ
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