どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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プロローグの続き。
これにて1章は終了となります。


「灰と山吹」

 

 

 

 

とある女の子がいた。

髪は灰色で、長い。スタイルは、ちょっと控えめだけど足がとっても綺麗。

そして、何より魔法に対しての探究心と本当に困った人には手を差し伸べてしまう優しい心を持つ勤勉な女の子。

 

その女の子の名前を、イレイナといった。

そして、俺はどういう訳かその子に出会ってしまって様々な世話を焼いてもらった。魔法、勉強、会話、それからたまにニケの冒険譚。とにかく、彼女は友達としてたくさんのことを教えてくれた。

そんな彼女の人となりに、知識だけしか知らなかった俺の彼女に対する印象は大きく塗り替えられていったのだ。

 

そして、何よりやっぱりイレイナさんは可愛いんだよ。

それも、ただ可愛いだけじゃない。照れる時は照れるし年相応に笑う時は笑う。そんなイレイナさんの可愛さの前ではお金大好きなところだったり、ちょっぴり性格が腐ってる所も彼女の魅力を引き立たせるスパイスにしかなり得ないのだ。

俺は彼女との長い生活の中でその事に気付くことができた。人の本質は、しっかりその人に触れ合わなければ分からないということ‥‥‥つまり、彼女の日記として見てきたものだけじゃイレイナの本当の姿は見れない。俺自身がしっかりその人と向き合うことで、彼女の可愛さもカッコよさもいくらでも見つかるということだ。

それを学ばせてくれたイレイナは俺にとっての女神だね。

間違いねぇや。

 

「‥‥‥な、イレイナ」

 

さて、自分語りも程々に。

己の理論に対して、俺の目の前に映る美少女に同意を求めると、ベンチに座っている彼女は何故かジト目でこちらを見遣る。なんだろ、()()()()()()()()()()()怒ってるのか。それとも、ご褒美に提示した膝枕に今更ながら怒っているのか。まあ、その二択だが答えは分からない。

 

「何がですか?」

「あいや、ほら‥‥‥イレイナの膝が落ち着くって」

「その思考の末路がこの醜態ですか?」

「え、どんな醜態?こんな醜態?」

「そんな醜態です」

 

言って、彼女──イレイナは「そもそもおかしいんですよ」と嘆息を漏らしてこちらを睨む。仰向けになっている俺の後頭部付近がもぞもぞと動き、俺の頭を動かすが不快感はない。むしろ柔らかい、華奢な女の子特有の足だ。

うわぁ‥‥‥やっぱり女の子の身体って華奢で柔らかいんだなぁ、なんてことを考えていると、イレイナが続ける。

 

「4年が経って多少はマシになったと信じていました。あの時のオリバーの顔は心身共に成熟したそれでしたし、私との約束もしっかり果たしてくれましたから」

「良いことじゃないか。俺もイレイナが充実した魔女ライフを送れているようで鼻が高いよ」

「ですが蓋を開けてみれば私を辱めてばかりのクソ野郎でした。業腹です、一体どんな魔法使いライフを送ってきたんですか」

 

それはそうと、女の子の身体ってどうしてこんなに柔らかくて甘えたくなるんだろうな。これぞイレイナの母性ってやつなのか‥‥‥そりゃあサヤだってイレイナ好きになるわ──

 

「あの、話聞いてますか?」

「ん‥‥‥あー、イレイナは良い香りがするぞ」

「なるほど、死んでください」

「あ、今のは最低だったごめんなさい」

 

せっかく膝枕してくれているのに香りのこと話したら失礼だよな。女の子はそういうのに敏感だって言うし‥‥‥いや、そういう意味じゃないのか?

 

「すまん、何の話してたっけか」

 

話をまるで聞いていなかったことを真摯に受け止め、改めてしっかりイレイナの話を聞こうとイレイナの方を振り向く。

人差し指で頬を押された。

あ、やばい!爪で頬が抉れる!!抉れちゃーう!!

 

「やはりロクに話聞いていませんでしたか。道理で表情筋の緩みが常軌を逸していると思いました」

「それはごめん。で、改めて何を聞いていたのか教えてくれないか?」

「魔法使いとしての生活はどうだと聞いているんです」

「うへへ〜、イレイナの膝枕幸せだ〜」

「その笑い方やめてくれます?」

 

まあ、さっきから寒波だって怯えて停滞してしまうくらいの怖さを孕んだイレイナの冷めた瞳は置いといて。

俺が彼女に問われている質問に対して答えるということは避けて通れない道であるので、俺は彼女の目を見て一言。

 

「忙しいよ。だからあまり会えなかったし、寂しかったんだ」

 

任務、任務、そのまた次には任務。

お仕事しながら魔女の旅々の世界を巡ることは楽しかったけど、凡そ20歳以下の男には似つかわしくないほどの激務。

いやしかし、月の給料でお金を稼ぐこともミソなんだ‥‥‥お金がなければ何をすることも出来ない。俺は転生者であり、百合を眺める傍観者であり、己の幸せを求める求道者だからな。その道を求めるためにはお金がなければいけないし、()()()()()()もある。

死んでもこの仕事を手放す気はないのが実情である。

 

「けど、その分魔法の道に入って知ることも多かった。だから後悔なんてしてないし、むしろその道に引っ張りこんでくれたイレイナに感謝してる」

「私にですか?」

「おうとも。魔法の道があるってことを示してくれて、それを目指す確固たる動機を他でもないお前がくれたから」

 

当時、必ずしも魔法に関連する仕事をしようとは思っておらず、最悪攻撃手段と箒に乗ることさえできていれば良いと考えていた俺。そんな俺が沢山の魔法を極め、客観的に見てもそれなりの強さを持つことができたのはあの時に交わした1つの確約がきっかけだった。

あの時、イレイナが貸し借りの関係をチャラにする条件として提示した言葉。それは決して予想できた言葉じゃなかったけど、俺は即断即決で彼女の言葉に頷いた。恐らく、俺自身もどこかで魔法を使った仕事を行うことで自由に世界を回ってみたい、その過程で沢山の人達との交流を深めたいという願いを胸に秘めていたのだろう。

何より、貸し借り以上の繋がりをこの親友と結びたかったから。

だから俺は、彼女の言葉に即断即決で了承したのだ。

 

「あぁ、今も勿論可愛いけどあの時のイレイナは特別可愛かったなぁ」

「‥‥‥やめてください」

「念押しして何度も約束する姿には一種の健気さすら感じたよ、イレイナさんや」

「‥‥‥さて、なんのことでしょう」

 

苦笑いしながらそっぽを向いても話は続きますよイレイナさん。今の今まで罵倒されてたんですから、今度はこっちの話も聞いてやってくださいな。

 

「『魔法の道を共に歩んでください。そして将来旅をする私に、偶にで良いので会いに来てください』だっけか。いやまあ、その一言がきっかけで俺は魔法を生業とする職に就けたわけなんですけど‥‥‥嬉しい?」

「‥‥‥いえ、別に」

「おやおやイレイナさん。なんだか頬が赤いよ?耳もなんか火照ってる?」

「人間性が著しく低下している癖によくそんな調子の良いことを言えますね、女たらしさん」

「誤魔化してもイレイナいじりは続きます。イレイナがめちゃくちゃ可愛いので、今日はイレイナを弄びます」

「‥‥‥戯言ですね」

 

戯言とは失敬な。

俺はあの時のイレイナの一言で今でも勇気づけられる時があるんだぞ。あの時の俺がどれだけ嬉しい気持ちで一杯だったのか知らない癖に、よくもまあ戯言だなんて言えるものだ。

俺、やっちゃいますよ。その気になれば界隈を賑わせた『わからせ』ブームに乗っ取ってめちゃくちゃやったりますけど──なんて考えながら、恐らく俺史上最高に気色悪いニヤニヤで冷やかしていると、遂にイレイナの堪忍袋の緒が切れたのか膝上にある俺の顔面、つまり頬を思い切り抓ってきた。

痛いけど、その行為によりこの幸せな時間が夢ではないということを悟る。

つまり、俺は幸せだ。この幸せの前には痛さなんてまるで相手にならないのだよ、ふっはっは!

 

「‥‥‥ともあれ、こんなところで会えるなんて奇遇だったよ」

 

「私の事舐めてんですか、えぇ?」と言いながら俺の頬を思い切り抓ってきたヤンキーイレイナさんがようやく冷静になり、俺の頬を抓ることを止めたので、そう言うと深くため息を吐いた彼女が続ける。

 

「おや、私は『そろそろ』と思っていましたよ?」

「え、なに。願望?」

「頭沸騰してんですか。そうじゃなくて、可能性の話ですよ」

 

無念。

どうやらイレイナの中では『俺に会いたい!』なんて願望はなかったらしい。どうしようもなく馬鹿な発言をしたことによる彼女の侮蔑の視線がたまりません。

自分涙良いっすか?

 

「お互い、様々な国を行き来しているんです。4年に1度は偶然会ったって不思議ではないと思いますけど」

「そうか‥‥‥そうなのか?」

「そうでしょうね。まあ、偶然が呼んだ不幸とでも言えば良いでしょう」

「ちょっと待て。幸運じゃないのか?」

「散々辱められて、現在進行形で屈辱的な体勢を取らされていることのどこが幸運なんですか」

 

言って、イレイナさんは「相変わらず馬鹿野郎ですね」と止めの一言を投げかけ、俺の涙腺を緩ませる。しかし、このご褒美だけは譲れない。ようやっと再会出来たんだ。下手したらサヤちゃんにこの席を取られるかもしれないと臆病な考えを持っていた俺は、より一層の膝枕を要求しようとうつ伏せの姿勢を取った。

イレイナの突き刺すような視線を、肌で感じた。

 

 

 

 

「旅、楽しかったか?」

 

風が心地好く吹き、活気を取り戻した街が賑やかさをも取り戻し始める。この街の特色というのが『お祭り』であったのが原因か、事件が起こる前からこの街はお祭り騒ぎに近い喧騒さがあった。

特筆すべきは1ヶ月ごとの記念日の多さだろう。大量の記念日による休日に、その記念日を祝うためのお祭りが開かれる。その喧騒は異様なものであり、よくもまあこんなに盛り上がれるものだと下見の段階で辟易した覚えがある。

いや、この街作った奴休み大好きかよ。

15連休とか正気を疑うぞ。

 

とにかく、そんな街を含めたたくさんの場所を見てきたイレイナにそう言うと、彼女は顎に手を添えて一考──すると、様々な出来事を思い出すかのように笑顔を見せた。

 

「色んな景色を見てきました」

「うん」

「その過程では良いことも悪いことも起こりましたし、その出来事によって気持ちに振れ幅があったのは確かです」

 

「しかし」と彼女は続ける。

 

「ただ1つ言うのなら、それら全ての結果が私の足跡です。その足跡を刻む物見遊山の一人旅は、なかなかに有意義な時間だったと思っています」

「そっか」

「良くも悪くも私の人生です。その人生の中でまだ続く旅を今の段階で総括するのは早計が過ぎると思いません?」

 

そして、最後に「むしろこんな状況で楽しさを聞こうとするオリバーの正気を疑いますね」と言って、俺の頭を『ぽん』と軽く掌で叩いた。

そして、そんなイレイナが発した言葉に彼女の旅路を心のどこかで心配していた俺はほっと一息をついた後に一言。

 

「だな」

 

そう言って笑みを見せた後に、俺はどうしようもないことを考えていたんだなと軽く己の思考を反省する。

きっと、彼女の旅路の心配なんてしなくても良いことなのだろう。何せ、物語の主人公であり、その努力や実力、優しい心は関わってきた人の誰もが知っている周知の事実。これから先、俺の知識を凌駕するようなことが起こっても、知識にない場所へ旅をしてもきっと大丈夫だと、改めてそう思うことが出来た。

そして、そんな己の思考を反省した後に体勢を戻して仰向けになった俺が見たイレイナの笑顔はあまりにも可愛くて、綺麗で。その様に反射的に手を伸ばすと、自分でも驚くくらい自然に右手が彼女の頭へと向かっていった。

 

「なあ、イレイナ」

「はい」

 

彼女は、その一連の行為に無抵抗だった。

親友に対しての信頼なのか。だとしたら俺はその信頼を裏切る訳にはいかない。

長い間文面で伝えていたこと、そして言葉でも伝えたかったことを言うために俺はイレイナの目を見据えて一言──

 

「よく頑張っ‥‥‥」

「オリバーさーん!引渡し終わりましたー!」

 

たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

間が悪い!!

間が悪いよサヤちゃぁぁぁぁぁん!!!!

どうして俺が一大決心して思いを伝えようとした時にそんなセリフを吐いちゃうのさ!!おかげで今までの甘々ムード台無しだよ!!3時に取っておいたプリン親父に食われた気分だよッ!!!

 

「‥‥‥さ、サヤちゃん」

 

しかし、そうも言ってられないのが現状だ。

さしあたって今の現状を確認してみますと、今の俺は物語の主人公であるところのイレイナの膝に甘え、あまつさえその子の頭に手を置いている。

凡そ俺が二次創作でそんなものを見てしまったら『そんなことしてる暇があるならアムネシアたそと旅々させろよォ!!』なんて発狂しそうな展開にこの黒髪ボーイッシュ子犬後輩系少女がアクションを起こさないわけがなく。

 

「なにしてるんですか?」

「目が怖い目が怖い、ちょっと視線落ち着かせよ?」

 

同僚に対して射殺さんばかりの鋭い眼差しを送ってきやがった!

いや、まあそれくらいの気迫を見せてくれなきゃサヤちゃんではないわけであって歓迎はするのだが正直に言うと怖いですね、はい。

真上から俺を見下ろすサヤちゃん。イレイナとお揃いのネックレスが尊く光る様を眺めていると、その憤怒の視線の儘にサヤちゃんが俺に叫ぶ。

 

「何イレイナさんと膝枕なんてしちゃってるんですか!!あれですか、脅迫ですか!?」

「イレイナが権力に屈するとでも?」

「あ、確かに‥‥‥って、そうじゃなくてっ!!ぼく達同盟組んでたじゃないですか!!」

「組んでたな。けどそれとこれとはまた別──」

「ぼくとの関係は遊びだったんですか!?」

「誤解を招く発言はヤメテ!!!!」

 

それ、微妙に解釈間違われる危険性あるから!!という俺の言葉には全くの興味を示さず、イレイナを見つけると「イレイナさん!」と言って子犬のようにじゃれつくサヤ。

うわぁ!流石王道のカップリングッスね!!なんて考えながら俺は暫く召喚した水筒を片手に、サヤとイレイナのイチャイチャを眺めていた。

 

「イレイナさんもうこれは運命ですのでぼくと今日は同じ部屋で寝泊まりしましょう!オリバーさんのこととか色々聞きたいことがあったんですよ!」

「あ、結構です。というかサヤさん、オリバーの同僚だったんですね。正直者の国の件でオリバーと関係があることは知っていたんですが」

「ですです、ズッ友です」

「はあ、ズッ友ですか」

 

うーん、眼福ですね。

灰の魔女と炭の魔女の一夜限りのアバンチュール。出会った瞬間にこうなることは大体予想はできていたのだが、やはり間近で見るとその興奮度合いも変わってくる。

俺の当初の目的であった百合の一欠片をここで味わうことが出来ているのだ。どちゃクソラッキースケベなハーレム生活はまだ夢半ばだが、幼馴染、同僚、妹弟子と仲良くなれている女の子は存在している。

こうして違和感なくイレイナとサヤちゃんの百合を眺める傍観者でいられるということが俺の生活の順調ぶりを示していたのだ。

 

──と、目の前の眼福的光景をお茶菓子にしながら妹弟子パイセンがくれた茶葉を使ったティータイムを敢行していると、サヤちゃんがこちらを見て「そうですよね!」とか聞いてきやがった。

えーっと、すまん。何の話してたん?イレイナさんマウントの続きかえ?

 

「なんか言ってたか?」

「ぼくとオリバーさんはズッ友ですよねって話です」

 

と、こちらに詰め寄って笑みを見せるサヤちゃん。その迫力の瞬間最大風速はイレイナのそれに匹敵する威力があり、その視線に対して俺は目を泳がす。

ついでに言葉も泳がし、イレイナの方を見て一言。

 

「まあ、それなりに」

 

サヤちゃんとの偶然的邂逅(ガチ)は割愛させて頂くとして、仲が良いというのは本当だ。主にイレイナ関連の話で俺達は盛り上がり、彼女の話をする度にイレイナに対する情熱を増幅させていく。

筆跡でイレイナの血縁者が分かるとされているサヤちゃん。

片やイレイナすこすこな俺。

サヤちゃんの顔を一目見た時に何処か波長が合うような、そんな気がした。

事実、そうだった。

 

「何せ俺達はイレイナ大好きクラブのツートップだからな」

「ですです!まあ、2人しか会員いないですし、2人でお腹いっぱいなんですけど」

「つまるところ、ツインタワー」

「二枚看板です!」

 

と、まあそんな具合に。

イレイナさんの話なんかで盛り上がって『うぇーい』と右拳を合わせられる位の仲にはなれているってわけだ。

いやしかし、そのおかげで先程まで触れられていたイレイナの頭を離さざるを得なかったのは非常に悔しく、まさか計算づくで拳を合わせられたのか‥‥‥なんて考えていると、イレイナがジト目でこちらを見遣る。

ふぁっきゅー、さっや。おめーのせいでイレイナの表情が曇った。

お前なんか一生シスコンのパイセンとレズってろ。

 

「随分と慕われてらっしゃるんですね」

「努力を褒めて欲しい位だ」

「既に褒めたじゃないですか」

「あれは犯人フルボッコにしたご褒美だろ」

 

ジト目でこちらを見続けるイレイナにそう言うと、彼女は小さくため息を吐いてサヤちゃんに対して「こっち見ないでください」と圧力をかける。1度は食い下がったサヤちゃんだったが、イレイナの無言の圧力には勝てずにしぶしぶ後ろを向くこととなった。

ふはは!残念だったなサヤちゃん!!この時間は俺がイレイナを独り占めよ!!

 

「良いですか、オリバー。1度しか言わないですから、しっかりと聞いてください」

「え、なになに。もっかい言ってー」

「死んでください」

「1度しか言わない言葉がエグすぎる件について」

 

言うが否や、イレイナは先程のお返しとばかりに俺の頭──ではなく目を手で覆うと、俺の視界を奪った上で一言。

 

「お仕事お疲れ様です、オリバー」

「──っ」

 

そんなことを小さく囁いて、俺の視界を返却した。

視界を取り戻した時に見えたイレイナの表情は先程のジト目とは違い、優しい笑みが見えておりその表情は過去に何度も見たイレイナの笑み。

 

──ああ、確かにご褒美だな。

そんなたわいもないことを考えた俺の頬は、きっと赤くなっているのだろう。

現にイレイナが悪戯っぽい笑みで笑ってやがる。

 

「おや、顔が何処ぞのトマトのように火照っていますが?」

「褒められたら照れる。何処ぞのよわよわイレイナさんと同じだと思うが?」

「仕事の頑張りを褒められて嬉しがるオリバーには負けますけど」

「うぐ‥‥‥」

「随分とした羞恥心ですね」

「むぐぐ‥‥‥!」

 

久々に会話をしたせいでもあるのだろう。いつになく会話の節々に破壊力のあるイレイナの言葉に内心で思わず照れてしまうと、その感情が外へと漏れ出し、頬を赤く染めてしまう。

男の照れとか誰得だ。

ちくせう、ここは話題転換して流れを取り戻そう。

 

「‥‥‥話は変わるけど。俺、明日から休暇なんだよ」

「おや、何日程ですか?」

「3ヶ月。上司がな、長い勤務による福利厚生と20歳になる前に好きなところ色々巡って来いって気前の良い提案をくれたんだ」

「気前の良い上司さんですね」

 

話題転換に話した出来事をイレイナは歓迎し、その話題を発展させる。そして、たまに煽っては煽り返し、笑いあって会話する。

この時間が何時間でも続くのなら、どれだけ幸せなのだろう──と思っていると、後ろを向いていたサヤちゃんが痺れを切らして俺達に一言。

 

「あ、あのー!そろそろ良いですかー!?」

 

その言葉に俺とイレイナは顔を見合わせる。

その表情はうっかり何かを忘れていたという苦笑いで、それと同時に見せたのは『もう少し我慢してもらいましょう』とでも言いたげな悪戯っぽい笑み。

少し前に俺にも向けたその笑みは、4年という歳月を重ねて身につけた彼女らしい美しさが垣間見えた。

不覚にも、ドキッとしたその笑みに何処ぞのダークヒーローのように嫌らしく笑おうと務めた俺。そして、俺とイレイナはそれぞれサヤちゃんに対して言葉を投げかけた。

 

「まだです」

「一生そっぽ向いてろ」

「ひどくないですか!?」

 

ひどくはない。

ただ、いつもイレイナを独占していたのだからお前は我慢してもらうだけだ。

俺は()っているんだからな。俺がパイセンとあんな街やこんな街に行って研修という名の勉強をしていた時にイレイナと正直者の国でイチャコラしたり入れ替わってウハウハしてたことを!!

全く、これに懲りたらイレイナさん大好きクラブの本分を思い出し、少しは俺にもイレイナ成分を分け与えて欲しいものだ

 

「‥‥‥それはそうと、オリバー」

「ん?」

「私にも言うべきことがあると思うんですが」

「言うべき事だぁ?」

「はい、今の私にぴったりな一択をオリバーの頭で考えてください」

 

そんな具合に物思いに耽っていた俺に対して、イレイナがドヤ顔で『言うべきこと』とやらを促す。

まあ、心当たりはいっぱいある。『相も変わらず可愛いなお前は』とか『お前はいつも魔法に真摯だな、そういうところあいらぶゆー』とか『イレイナさん可愛いよイレイナさん』とか、それ以外にも言いたいことは山ほどあるんだよ。勿論、内外問わずにな。

けど、やはり1番最初に言わなきゃいけないことは決まってる。

それは『あの日』からまるで変わらない一言。

絶対に言って、イレイナを喜ばせようと思った一言。

ずっと、その日に会えたら絶対に言おうと思っていた言葉を伝えるために俺は口を開いた。

そして。

 

 

 

「誕生日おめでとう、イレイナ」

 

4年間文面でしか伝えられなかった一言を、今度はハッキリと言葉で伝えたんだ。

 




にへへ‥‥‥アンケートの結果、皆さん閑話を書きつつとっとと2章やれって言っているのがよく分かったので閑話と2章頑張ります。
なのでちょっと時間をくださいお願いします(切実)。

訂正 姉弟子⇒妹弟子

1章終了後の閑話(短編)

  • オリバーとイレイナさんの話
  • 意表を突いてシーラ先生
  • ヴィクトリカさんとオリバーくん
  • つべこべ言わず全部書け
  • 早く2章やれ

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