どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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12話 「14歳の、俺だ」

 

 

 

 

 

 

 

『どちゃクソラッキースケベなハーレム生活』なんていう大言壮語にも近い計画性もクソもない夢を持っていた俺は、14年の歳月を経てもその想いを腐らせることなく持ち続けている。

俺だって男の子だ。この世に生まれたからには女の子と仲良くしたいし、勿論公然の場でイチャイチャしたい。当然先の話になるが、結婚だってしたい。

それは転生なんていう奇特な経験をしたこと云々を度外視して、前世の俺が成し得ることのできなかった事をしたいという願望であった。

まあ、つまり1度は亡くなった命。どうせなら一丁派手に2度目の人生を謳歌したいと考えた訳である。

 

そんな中で、俺は偶然にも平和国ロベッタのとある幸せ絶頂の両親の間に生まれ、何の因果か家が近所のヴィクトリカさんと仲良くなった。そして、魔法の才能に目覚めたこと。ヴィクトリカさんに夢の動機は自由で、その動機に貴賎はないということを教えて貰ったこと。そんな経験を経て──俺はとある女の子に出逢い、仲良くなり、約束をした。

 

『確約です』

 

そんな彼女の為に思い立った前夜祭終了後。

平原の草が靡く中で発せられた彼女の言葉に、俺は大きく目を見開いた。いつも先を見て、1人で未来に向かって歩いている印象さえ見受けられる彼女が、そんなことを言ってくれるなんて思っていなかったから。少なくとも、その未来の先で待っていてくれるだなんて、俺は何一つ思っていなかった。

 

そんな女の子が言ってくれた言葉に、泣きたくなるくらい感動したことも覚えている。不意を突かれて、嬉しくて、それでも何かを発言しなければならないと思った時──俺は、いつの間にか「いいよ」だなんて了承の言葉を発していた。

 

不覚にも、心が激しく揺さぶられた。

そして、俺は魔法を真剣に学ぶことに対しての動機を得た。

かつてヴィクトリカさんが言ってくれた、夢や目標に対する動機を持つということ。その動機が、親友との約束の為という強く折れない芯となって、魔法使いを生業とするという新しい目標を強く固めてくれる。

そうなってしまえば、俺の目標は嫌でも固まる。彼女のため、未来のため、確約のため、その他諸々の俺の気持ちを重ね合わせた最高のハッピーエンドに繋がる『やりたいこと』。

 

そう、俺の目標はどちゃクソラッキースケベなハーレム生活を送る他に、もうひとつある。

その目標ってのが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥ん」

 

意識を取り戻して最初に感じたのは、良い香りと頬を擽る何かの感覚だった。どうやら眠ってしまっていたらしい俺は何かにもたれかかって寝ているらしいのだが、意識が覚醒したばかりでありもたれかかったものの正体がまるで分かっていなかった。

ただ、先程感じた良い香りと頬を擽る何か。そして、人肌にでも触れたかのような暖かさが俺の気持ちを安らかにさせ、幸せを感じたのは確かであった。

 

最初はその感覚を雑草か何かと勘違いしていたのだが、雑草がこんな良い香りするわけが無い。

今一度その香りを享受しようと鼻で呼吸をすると、一瞬ビクリともたれかかっていた何かが動いた。

そして、その衝撃により俺はもたれかかったものの正体に気がつくこととなったのだ。

まあ、そもそもの話。今日の朝、こうして意識を取り戻す前に何をしていたのかを考えればすぐに分かる疑問であったのだが。

 

いや、まあそれは置いとこう。それよりも今はこの現状を何とか理解しなければならないんだからな。

 

「うーん‥‥‥」

 

何故俺はイレイナさんの肩に甘えているのだろうか。まだ膝枕すらしてもらってないんだぞいい加減にしろ──と内心で慌てふためいたところで、隣で本を読んでいた彼女が、一言。

 

「さしあたって先ずは、私に言わなければならないことがあると思います」

 

寝ぼけ眼のままイレイナさんを見つめると、彼女はとっても綺麗な表情から織り成す攻撃力マシマシのジト目を向け、そう言い放った。

 

さて。

俺は今、偶然にもイレイナさんの肩を借りてしまっている。そして、その様に痺れを切らしたイレイナさんが俺に言葉を求めている──そんな蠱惑的で魅力的な状況下に置かれている。

その中で俺が言わなければならないことというのは凡そ見当がつくのだが、このまま言いなりってのも気に入らない。何より、今更ごめんなさいしたところでイレイナの怒りが収まらないことくらい分かっている。

故に俺は言った。彼女をおちょくりつつも、今の幸せを表現できるような、そんな言葉を。

 

「おはようイレイナ。肩枕さいこー、いぇー」

「相変わらずの寝坊野郎ですね。起きたなら離れてください変態さん」

「ごめん謝るから。眠かったの、睡魔には勝てなかったの、ごめんなさい」

 

結果、もっとひどい状況下に陥った!

いやしかし、こういう会話ができることこそ本当の幸せであり、友人関係の尊さなんだろうなぁ‥‥‥なんてことを考えながら、俺はイレイナの肩から離れて盛大な欠伸を行う。

肩枕なんて言う最高の状況を手放すのは名残惜しいことこの上なかったが、潔く諦めた。

 

「ふぁ‥‥‥」

「寝不足ですか?」

「そう。本を読んでたら寝不足になっちまってな」

「身長伸びませんよ」

 

不規則な生活習慣に対してのイレイナの意見が胸に突き刺さる。

現段階で両親のおかげもあり、それなりに身長がある俺ではあるのだが、目標である身長には依然として届いていない。目指すは180cmの好青年である。順調に伸びてはいるが、このまま不規則な生活を続けてしまうと目標に届かない可能性もあるのでこの現状は何とかしなければならない。

ううむ。女の子にモテる為には身長は必須だぞ、オリバー少年!顔が半端な分、頭脳と心意気と身長で攻めてかなきゃダメだろうがッ!!

 

「学ぶことが多いのは分かりますし、勤勉さは感心しますが寝不足で集中力を削ってしまえば本末転倒ですよ」

「あいや、ごめん‥‥‥」

「分かってくれれば良いんです」

「今度はイレイナに心配されないように、もう少しバレないような徹夜をするよ」

「全然分かってないじゃないですか」

「一徹くらいへっちゃらさっ」

「本当に分かってねーですね」

 

イレイナの鋭い眼差しが胸を貫通して心の奥にまで突き刺さった。さっきまで優しい声で心配してくれただけあって、その落差はえげつないし、むごい。

ただまあ、自業自得ではあるしイレイナさんの言ってることが間違いない上に、存在が最早可愛いのでムカつくことはない。

むしろ、もっと俺の生活態度を責めてくれ。そして、あわよくば魔女として旅々するまで俺を管理してくれ。どっかのフィフスセクターみたいに。

 

「まあ、その分箒の改造とかできることは広がったぞ。何もマイナスなことばかりではなかったとは‥‥‥思うけど」

「箒の改造ですか」

 

まあ、管理云々の戯言は置いといて。

話題を変えるために提示した箒に関しての話題に興味を示したのか、イレイナが読んでいた本を閉じて、俺の目を見る。

相も変わらず端正な顔立ちに、透き通る位の灰色の髪をしている少女の瑠璃色の瞳は、平時から直視を禁じ得ないのだが、やはりこうして向き合うと改めてこの女の子の可愛さが分かる。

こりゃ、生意気言われても許してしまいますわ‥‥‥なんて言葉を心の中に留め、俺は箒に関しての話題を続ける。

 

「座席を作りたいんだ。出来ればリクライニング式の」

「そこは普通に座るって選択肢はないんですか‥‥‥」

「ふっ‥‥‥俺に普通という選択肢があるとでも?」

「あ、ないですよね」

「そこは否定して欲しかったよ」

 

容赦ない一言にツッコミを入れると「本当のことですから」と前置きしたイレイナが、呆れ混じりの吐息を漏らし、続ける。

 

「やりたいことに対しての努力だけは惜しまないんですね。少しは嫌いなことにも目を向けたらどうですか」

「そういうのじゃなくて、箒に関しては母さんの友達の影響を受けたんだよ。箒にロマンを求めたのはそれがきっかけだ」

「友達‥‥‥と言いますと、魔法を使っている方ですか?」

「そうだね。箒を改造しようと思い立ったきっかけになった人でもある」

「どんな破天荒な人なんですか」

 

とは言われてもなぁ。

どちらかと言えば常識のある人だし、俺みたいな子どもに本をくれるくらい優しいし。筋書きを知っている俺から見たら、『師匠に‥‥‥似てますよね!』と言いたくなる。

本をくれた時も、母さんの指導法を俺から聴き、それを憂いたシーラさんが俺の魔法習熟に一石を投じてくれたっていう経緯があるわけだし、破天荒というよりかは格好いいというか、なんというか。

 

「‥‥‥シーラさん、いず、ごっど」

「何か言いました?」

「なんでもない。それよりも‥‥‥」

 

と、過去に浸ることもそこそこに。

俺は『14歳』となり、魔女見習いの試験を受けたイレイナに対して昨日から伝えたかった言葉を口にするために、イレイナの顔を見る。

 

「試験合格、おめでとうイレイナ」

 

そして、そんな一言を述べると少しだけ驚いたように目を見開くイレイナさん。しかしそれも束の間、驚きの表情を喜びの表情へと変化させると、彼女は言葉を返そうと口を開いた。

 

「ありがとうございます。オリバーにそう言って貰えると幾ら歯応えのない試験だったとしても嬉しいものですね」

「ええ‥‥‥そんなに?」

「オリバーと戦っていた方が歯応えがありました」

「え‥‥‥それは、俺が強いってことなのかな」

「おや、戯言が聞こえましたね。カラスの仕業でしょうか」

「新手の嫌がらせですか?」

 

歯が浮くような台詞を言ったのはイレイナだっていうのに、これまた厳しい発言である。飴と鞭というのはこういうことを言うのだろうか。

ほんと、いちいち俺を興奮させるのやめて欲しい。

 

「とにかく、俺はイレイナが魔女見習いになれて嬉しいよ。なんなら可能な限りなんでも言うこと聞いてあげたい気分だ」

「あ、それならパン買ってください」

「ふっ‥‥‥言ったろ、イレイナ。可能な限りだって」

「またお小遣い没収されたんですか」

「え、だって間違えて洗濯物破壊しちゃったから」

「あ、国1番のお馬鹿さんでしたねこの人。いつになったらその間違いとやらを学習するんですか」

 

え、いつになったら学習するか?

知らない。多分イレイナさんが怒ってくれなくなるまでは続くんじゃないかな。だって激おこのイレイナさん可愛いし、天使だし、神がかってるし。

 

と、まぁ。

またしても妄言と戯言のハッピーセットを脳内に繰り広げてしまった俺ではあるのだが、そんなことをしていても時は流れていく。当たり前のことだ。どんなことをしていたとしても人はひとつの物事に夢中になっていれば時間が早く過ぎていく錯覚を得る。

それはイレイナも例外でなく、自分の腹の中に飼っている獣が鳴き始めることで一定の時間が経過していたことに初めて気が付き、それと同時に己の頬を赤らめ、俺を睨みつける。

やだもー!イレイナさんの赤面かっわいぃー!!

 

「‥‥‥そろそろ帰ろっか、腹の中の獣が鳴き始めたイレイナさんや」

「耳にベルでも詰まってるんですか」

「誤魔化そうとしてもイレイナさん弄りは続きます」

「‥‥‥オリバーもお腹くらい鳴らすでしょう」

「や、大丈夫。俺は全然──」

 

その瞬間、腹から出るであろう情けない『ぐぅぅぅ』という音が俺の鼓膜に響き渡る。

『あ゛』と内心で唖然とするのも束の間、最早脊髄反射にも近いレベルの速さで隣を見ると、そこには『おやおや、随分と可愛らしい音ですねえ』とでも言いたげな嫌らしい笑みを見せ、こちらを見るイレイナさん。対して、特大ブーメランを投じてしまった故か尋常ではない程頬が熱くなる俺。

食べ盛りの男の子はカレーが1杯のドリンクレベルであるのは間違いない。それに加えて魔力を使っているもんだから腹なんてすぐにペコペコになる。俺とてそれは例外ではなかったのだ。

畜生、何故俺は自分の状況を顧みずにイレイナの可愛さに負けてお腹の音を煽っちまったんだァ‥‥‥!!

 

「さて、そうだな‥‥‥そろそろ帰ろうかな」

「そですね。ところでオリバー」

「‥‥‥なにかな」

「情けない音でしたね」

「許して‥‥‥許してくれよぅ‥‥‥」

 

イレイナは可愛いから日頃から罵倒されても気にならないけど、こういう特大ブーメランを投げた時の羞恥はまた違うのだ。

顔の火照りがさっきから止まらない『よわよわ魔道士』となった俺は顔面を両手で覆い、項垂れる。

「自業自得ですね」というイレイナの声が、やけに弾んでいるように感じた。

ちくせう、この屈辱はいつか何らかの形で晴らしてみせようではないか──なんて何処ぞの小悪党的な考えを寄せつつ気を取り直すと、イレイナが「そういえば」と続ける。

 

「可能な限りでなんでも言うことを聞くという件ですが」

「ああ、それは嘘じゃない。なんだ、何かして欲しいことでもあるのか‥‥‥あ、もしかしてサプライズ──」

「違います。というか、サプライズやることを予告してどうするんですか」

 

それもそうだ。

それじゃサプライズじゃなくて宴会の約束である。まあここはもう一丁気張って『イレイナさん魔女見習い合格おめでとうパーティ』をするのも吝かではないのだが、どうやら彼女はそんな事を求めている訳でもないらしく「そもそもオリバー主催のパーティはお腹いっぱいです」とふくれっ面で拗ね顔を見せた。

母娘揃って拗ねた顔がそっくりなのはご愛嬌である。

 

「ははっ、まあそこは軽いお祝いということで。何かリクエストがあるなら言ってくれ」

「そうですね‥‥‥なら」

 

兎にも角にも聞かなければ何でもしてあげたいもクソもない。可能な限りという保険を付けた上で、俺がそう尋ねると顎に人差し指を添えたイレイナが、空を見上げながら熟考する。

そして、何かを思い出したのように「あ」と声を上げた彼女は、容姿端麗なその顔を笑みに染めて一言。

 

「箒に乗りたいです」

 

何言ってんすか、と思わずお株を奪いたくなる一言を言いそうになる言葉を発したのだった。

や、イレイナさん箒乗れてるじゃないですか。これはこの前たまたま落箒した俺に対する嫌味っすかそうっすか──なんて考えている間にもイレイナは続ける。

 

「以前、箒に乗りながら勉強したことを覚えていますか?」

「そりゃあ、まあ。確か9歳の時だよな。確か2人乗りで問題出してもらって」

「はい、あれと同じように飛んで頂ければ」

「えっ、それはつまり‥‥‥」

 

もしやそれは‥‥‥デートのお誘いですかお嬢さん!

ウッヒョーイレイナさんとのデートサイコォー!!と内心で小躍りしながらイレイナの言葉の続きを待つと、ニコリと笑ってみせたイレイナさん。

その笑顔に予想の的中を信じて止まなかった俺は幸せの絶頂の中でイレイナさんの言葉を待ち──

 

「はい、パシリです」

「思ってたのと違う!?」

「魔力のコストカットにもなります」

「予想の斜め上過ぎるよ!!」

 

見事、地に投げ落とされました。

はい、なんとなーく分かってましたよこんなことになるくらい。そもそも14歳魔女見習いのイレイナさんの頭の中に『ラブラブイチャイチャ』なんて概念すらあるのかも疑わしい状況下でデートなんてものを期待した俺が馬鹿だったのだろうよ。

だって、今のイレイナさんは魔法と夢である旅が恋人みたいもんだしな。けど、そうじゃなきゃイレイナじゃない。

何処までも真っ直ぐに夢に向かって突っ走る、そんな直向きな物語の主人公に、過去の俺も今の俺も魅せられてきたんだ。

 

「‥‥‥はっ」

 

勿論それ以外にだって魅せられているけどな。優しさ、可愛さ、ツンにデレ。その他の沢山の要素にイレイナさんの真髄が詰まっており、その要素俺の心を撃ち抜く。

そして、そんな女の子のお願いとあらばできる限り聞いてあげたいという馬鹿野郎(転生者)が1人、この場所で心を悶えさせているわけなのだが。

その男とは一体誰だろうか。

 

「‥‥‥分かったよ、試験合格のお祝いだからな。その代わり行きたいところは決めとけよ」

「え、オリバーの魔力が尽きるまでです」

「さりげなく馬車馬の如く働かそうとするのやめてくれない!?まあ許すけど!!イレイナさんの頼みとあらば枯渇寸前まで飛んであげるけど!!」

「‥‥‥ありがとうございます、オリバー」

「しかたないなぁ!でへへ!」

 

答えはそう、俺だ。

名言を野郎の声で汚してんのも、悲しいことに1()4()()()俺なのである。

 

 

 

 

2章終了後の3章は……?

  • 魔法統括協会編!(全15話完結予定)
  • 2人旅編(全30~40話完結予定)
  • 両方同時並行(がんばる)
  • アムネシア編

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