どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
※感想、誤字報告、ありがとうございます。
少しずつではありますが返信、反映させて頂きます。
「‥‥‥男っていうのはさ、可愛い女の子にお願いされたら断れない生き物なんだ」
「は、何言ってんスか」
「それも、普段から優しくしてくれる女の子のお願いに限って『断る』って選択肢をどうしても無くしてしまう。それが男の子っていうチョロインの生き方なんだなって、俺は思うよ‥‥‥はぁ、イレイナさんは最高にキュートだな」
「いやだから何言ってんスか」
イレイナさんにパシリ、もとい魔力コストカットを命じられてから、俺はいずれ来るその日に向けて箒のメンテナンスを欠かすことなく行っていた。
それは安全確保のため、イレイナさんのため、そして何より俺のために必要な予防策。原作にも書いてあったのだが箒というものは非常に繊細なものであり、少しの亀裂でも入ってしまえばその操縦を困難としてしまう代物である。仮にヒビが入っていたり穂先が枝分かれでもしたもんなら大変、箒は操縦が効かなくなり、どれだけ魔力を注いでも暴れまくり、箒から落ちてしまうのだ。
その絶対的なルールを忘れていた4.5年前の俺は悲惨も悲惨。メンテナンスもなにもしていなかったマイ箒はロデオマシーンのように暴れまくって俺を振り落とした挙句、森林に飛び込んでいったのだ。
あの時は、ほんと死ぬかと思ったし、お前は騎手を振り落とすゲート難の暴れ馬かと言いたくなったぞ。
因みにあの時の出来事を振り落とした張本人に聞いてみたら『気分が乗らなかったからウェイね‥‥‥』とか言われた。
自業自得だったウェイね。
何はともあれ。
そんな過去を確かに覚えている俺にとっては、箒のメンテナンスとメンタルケアは大切なことであると言える。間違えてイレイナを振り落としたりしたものなら、彼女の両親に会わせる顔がない。故に、俺は今日も箒を飛ばした後に、外で風の揺らぎを感じながら箒のメンテナンスを満遍なく行い、帰宅しながら毎日恒例の『ほうきくんメンタルカウンセリング』に勤しむのであった──
「というわけでほうきくん、キミに聴きたい。仮に改造するなら暴走族系か、フリフリ系‥‥‥どっち?」
「いや改造しないって選択肢ないんスか」
「ないぞ」
「ウェイ!?」
隣を歩く少年──俺と瓜二つの顔に、これまた白のシャツ、黒のコートにウールのパンツ。そんな特徴的な姿をした少年が俺に対して軽口を叩くと、ジト目を向ける。その様はまるで鏡を見ているようであり、今も慣れることはない。髪色は山吹色の反対色とされている空色。空の青さに溶けてしまいそうな髪色の由来は恐らく12歳の時に何処かの誰かさんにプレゼントされたものに括りつけてあったリボンを再利用して箒に括りつけたからであろう。スカイブルーとも呼べるリボンと同じ髪色が、その少年の透明感を際立たせていた。
何を隠そう。この少年こそ俺の愛馬ならぬ愛箒、ほうきくんである。
原作でイレイナが行っていたほうきさん作成に倣って色々試行錯誤したらこんな感じの後輩系ほうきくんが出来たわけだ。結構言うこと言うタイプなのは驚いたが、お陰様で箒のメンテナンスはかなり捗っている。物との対話を行うことで『何処か見えない異変がないか』を確かめるにはこの方法が手っ取り早いからな。異変をちょくちょく遠慮しないで話してくれるほうきくんの性格は、結構助かってる。
まあ、今行っているのはメンタルカウンセリングってよりかは雑談なんだけどね!
「大丈夫、優しくするから。俺、これでも改造系得意なんだよ」
「聞いてないっす」
「優しくするから」
「血も涙もない持ち主に涙が止まらない」
「黙れゴスロリ系にするぞ」
「いっそ一思いに殺してください」
つーかそれ、ご主人もキツイんじゃないすか?と言ってため息を吐くほうきくん。
まあ‥‥‥うん、キツいわ。いっそイレイナにそういう系統の衣装持ってってぶん殴られる方がまだマシだわな。あー、ドレス姿のイレイナさんはさぞ眼福なんだろうなー、イレイナしか勝たんなーと考えているとほうきくんが今度はゴミでも見るような視線で俺を見る。
やめい、そういう目を許可しているのは後にも先にもイレイナだけだ。お主のゴミを見るような目付きなど望んどらん。
「変態っすねえ‥‥‥ほんと、変態っすねぇ‥‥‥」
「心読むなって」
「それはともかく、あの人のこと好きなんすか?」
続けて、そう言うほうきくん。
心を読むのはやめて欲しいのだが何も間違っていることを言っているわけではないのが憎たらしい。
そうさ、俺はイレイナが大好きさ。どれくらいかって言うと今すぐネット通販で買った特装版をこっちの世界にお取り寄せしたい位にはな。
ただ、本音をズラズラと並べる訳にもいかない。言っても『‥‥‥という夢を見たんすね、おめでたいっすね』って言われるのが関の山だからな。
「‥‥‥まあ、人としてな。尊敬するとこ多いから」
「お小遣い大好きっすよね。家計簿任せたら多分1等賞」
「おいおい世界一を付けろよクソ箒。それと、可愛さも世界レベルだから。これテストに出るからな」
「どんなテストっすか、やっぱこの人変態だわ」
つーか世界『レベル』なんスね。とほうきくんは呟き、ため息を続けて吐く。
世界にはまだ俺も知らないような人がいる可能性だってあるからな。そして、可愛さの基準は人それぞれであり、例え俺にとってのイレイナさんがナンバーワンだったとしても、世界の全てがそれを常識とする道理はない。
まあ、仮に俺の目の前でイレイナさんを馬鹿にするような事を言うような奴がいたら、そいつに俺の全知識と経験を以てして彼女の可愛さを伝えるエバンジェリストとして彼女の素晴らしさをとことん教えてやろうとは思うが。
イレイナさんはどちゃクソ可愛い、それは俺にとって事実なんだからな。その可愛さを少しでも伝えられるのなら、俺は喜んで鬼にでも悪魔にでもなってやるさ。わっはっは!
「幼馴染さんのこと考えてるッスね」
「ねえほんと人の心読むのやめてよね。ほうきくんは感覚器官が発達しすぎ、少しは自重しろよ」
「いや、アンタが分かりやすいんスよ。イレイナさんのこと考えてる時は顔がふにゃーってなるんスけど、ほかの人のこと考えている時はほわーって感じで」
「どっちも同じじゃないか!なんだお前!そんなにゴスロリ系にカスタマイズされてーのか!?それともキャピキャピ系か!?」
「どれも嫌ッスよ!!つーか、なんすかキャピキャピ系って!!」
イレイナが見たらクソ漫才さんとか言われそうな冗談の言い合いをほうきくんと繰り広げながら、ようやっと自宅へと辿り着いた俺は、ドアを開く。するとそこに置いてあったのは既に見慣れた黒のハイヒールローファー。
その時点で俺は誰が来たのかということを理解した。それはほうきくんも同じだったようで、さっきから「うぇーい!」って言いながら小躍りしてる。
どうやら思うところは同じらしい。しかし、俺とて立派な14歳。これしきのことでウェイウェイ小躍りするわけには──うぇーい!シーラさん来てくれて嬉しいウェイねー!!
「よ」
と、まあ。
冗談もそこそこにリビングまで辿り着くと、そこにはやはりシーラさんがいて、これまた当然のように椅子に座っていた。母さんは買い物だろうか、客人をそのままにするだなんて、失礼な母さんである。
このままではシーラさんがあまりにも不憫。
よって、ここは俺が1発、慣れ親しんだ応接スキルを駆使して客人であり色々良くしてくれている恩人に最大限のもてなしを行おうではないか。普段からシーラさんには世話になってるしな。これしきのこと、容易いものだ。
片手を上げて挨拶をしてくれたシーラさんに会釈と笑顔で返すと、依然として小躍りしているほうきくんを一瞥し、指示を飛ばす。
「ほうきくん、シーラさんがお出迎えだ。俺がコーヒーを用意するのでお茶菓子を用意して差し上げろ」
「了解っス!」
「つまりパシリだ、逝ってこい」
「分かってたっスけど聞きたくなかったっス。言わないでくれっス」
「はよ」
指示に対して「っりーわ‥‥‥」と文句を言うほうきくんであったが、どうやらシーラさんのことになると話は別らしい。小躍りしながら台所へと向かい、母さんが至福の時を得るために取っておいたのであろうクッキーを棚から盗むと、机にまでそれを運ぶ。
その一連の動作は、パシリのプロ。ほうきくんに仕込んだ100ある内のスキルのひとつが、ここで炸裂したのだった。
あ、100の下りはジョークな。そこまで教えてないし、俺に似て馬鹿だから多分そこまで覚えられない。
「持ち物の性格は飼い主に似る‥‥‥か。ちっ、どうせならほうきさんみたいな可愛い女の子が良かったぜ」
「オリバー、お前何やってんの?」
「え、何って‥‥‥コーヒーの用意?」
「そっちじゃねえよ」
ノンノン。
皆まで言うなよシーラさん。シーラさんが何を言いたいかくらい俺にも分かるさ‥‥‥そう、ほうきくんの話だよな。多分そうだ、絶対そうだ。そうじゃなきゃ泣く。
「あいや、1年前に箒を改造したいって話をしたじゃないですか」
「ああ、言ってたな。背もたれ壊して頭から血出したんだっけか」
「‥‥‥その事故に関しては置いといて。その時に考えてみたんですよ。箒権について」
「箒権?」
「そうです。失敗に失敗を重ねた後に、ふと思い立ったんです。先ずは俺がほうきくんの意見を聞くべきかな〜と思いまして」
「その前に箒権ってなんだ?」
人権的な。
あいや、そんなことよりも。
「擬人化とかロマンですよね!」
「ロマンの方向性間違えてね?」
俺がそう言って握り拳を作ると、シーラさんは即答でツッコミを入れてみせる。
成程、この人の下で育てられたのがシスコンウィッチのミナ氏にイレイナさん限定暴走特急黒髪魔法少女サヤ氏なのか‥‥‥散々ツッコミ入れたんだろうなぁ、大変だったろうなぁ──なんて考えながら、コーヒーを淹れ、シーラさんの元へと送る。
「サンキュ」という声が、俺の耳に届いた。
「そういう支離滅裂で滅茶苦茶なとこ、やっぱりセンセに似てんな」
育ちって影響するんだなぁ‥‥‥と、遠い目で見るシーラさん。俺は前世持ちということもあり、そういうことはまるで考えてもいなかったのだが、やはり息子であるため遺伝子レベルで似ているところが幾つかあるのだろう。随分前もヴィクトリカさんに母さんと似ているところがあると言われたし。
今更それを直す気はないが、立場が立場なだけに何か変な気分だ。
「俺は全く意識したことないんですけど、やっぱ似てますか」
「ああ、色々な。あたしもあのセンセには苦労させられた。現に今のお前にもそれなりに手を焼いている‥‥‥ま、苦痛じゃねえけど」
「あは、それはありがとうございます」
「おう」
親子2代で苦労させてしまっていることに罪悪感を抱かないと言えば嘘になるが、嬉しくない訳では無い。
決して俺の努力の成果ではないこの状況。恐らく俺が生まれる前に、色々頑張ったのであろう母さんと、そんな母さんとの付き合いの延長線上で俺に良くしてくれているシーラさんに感謝をしつつ、俺はカップに注いだコーヒーを啜った。
苦い筈のコーヒーが、少しだけ甘く感じた。
「それはそうと、オリバー。お前魔法使いになるとして、何をするつもりなんだ?」
尚も、ほうきくんが持ってきてくれたお茶菓子をつまみながらシーラさんと取り留めのない話を繰り広げていると、不意にシーラさんがそのような真面目な話を行い、俺に視線を送る。その言葉に思わず心音を跳ね上げた俺は、シーラさんとは違う明後日の方向に視線を向けた。
「あいや‥‥‥進路ですか」
俺がシーラさんに「魔法使いになりたいッス!」と大言壮語を吐いたのは、今からそう遠くはないとある日のことであった。相変わらずの飄々した表情で様々な話をしてくれる彼女に対して放った一言は図らずも彼女の表情を笑みに染めたようで、「そうかそうか」と言ったシーラさんは、俺の頭をポンポンと叩き、嬉しそうにはにかんだ。
その後、何故か俺から目を逸らし、片手で目を覆っていたのだが、それは置いておくこととする。
まあ、そんなこともあってか彼女は俺が将来魔法を生かした職業に就こうとしていることを知っている。そして、その類の本を貸してくれたり、実際にその本に記述されている魔法を発動してみせてくれたりと、多くの親切も与えてくれている。
故に、進路が決まった暁には真っ先にシーラさんに報告しようと考えている俺ではあるのだが。
「それはまあ、具体的には決めてないですけど」
こんなことを聞かされている時点で、俺の進路状況はお察しと言えるだろう。
そう、俺は魔女になり世界各地を旅するという明確な目標を持ったイレイナとは正反対に、未だに進路を決めかねていた。
様々な状況や条件が重なり合って発生した事故とも言えるものでもある。色々なものを叶えたいと思った結果、どの仕事もなんとなく「これじゃない」と思ってしまうようになってしまったのだ。
いや、俺は仕事を決めかねているニート予備軍かよぅ──と内心でツッコミを入れていると、コーヒーを啜ったシーラさんが続ける。
「将来魔法使いになんなら、何をするか位はちゃんと決めとけ。お前1回進路で追加の2者面談くらったんだろ」
「あいや、それは。あれですよ、大器晩成的な」
「そんなこと言う奴に限って小さい器すらも大成しないまま終わんだよ。良いからちゃんと進路は決めろ、なまじ魔法の土台はしっかりしてんだから」
「‥‥‥へい」
シーラさんの言っていることは尤もだ。折角魔法に関する能力はあるのだからそれを活かして何らかの行動は起こさなきゃならん。
何より、俺には確約がある。その先の未来に向けて歩みを寄せるためにも、俺は魔法と繋がりを持たなければいけない。
そして、それを俺自身が望んでいるんだ。
だから苦難があっても、乗り越えてみせる。今がまさに、一足早い正念場だ。ここで踏ん張って、俺の目指すものに向けて一直線!
未来を考えれば、今の悩みなんて可愛いもんだ。
「見ててください、シーラさん。俺はやったりますよ。そして、シーラさんに飯を奢るんだ!」
「や、それはいいっつったろ」
「や、ほんと給料の範囲内でお願いしますよ」
「この下り何回やってんだよ」
「ちべたい‥‥‥」
熱が入り、それと同時に思いの丈を叫ぶ俺に対して冷静にツッコミを入れるシーラさん。まるで馬鹿の相手に慣れているようなその対応は、もう既に俺のようなお馬鹿さんの対応を知っているかのよう。
きっと、その内弟子になるであろうサヤさんやミナさんの異常的な発言にも、こんな感じでツッコミを入れてたんだろうなぁ‥‥‥なんて思いつつ、俺は母さんの帰りを今か今かと待ち侘びていた。
しかし、まるで母さんが帰ってくる気配はない。
おのれ、もしや母さん逃亡か。
シーラさん目の前にして逃亡したんか。
生みの親に対してこういうことを言うのもなんだが、シバくぞ。お尻ペンペンの恨みもあるし、ここは一丁気張ってシバいたろうか?
「あの、シーラさん」
「ん?」
「ちょっと様子見に行ってきますね。母さん、なかなか帰ってこないんで」
やがて、待ちきれなくなった俺は、「え、仕事っすか。っりーわ‥‥‥そんなことより俺の仲間作ってくれっス」なんてほざいてるほうきくんの姿を強制的に箒にして、玄関へと向かおうと立ち上がる。
しかし、その動きはシーラさんの「あー、待て」という言葉によって止められた。
片手で俺を制したシーラさん。その姿は、今までの和やかな雰囲気とは違い、何処か真剣さを孕んだような様子であった。
え、なに。もしかして俺、怒られちゃう系ですか?
「実は今日はな、センセにサシでお前と話をして貰えるように頼んだんだよ」
「サシ、すか?」
どうやらそういうことでもなかったらしい。
コーヒーを片手に話を続けるシーラさん。その真摯な表情を視線で捉えると、彼女は俺を見つめたまま続ける。
「ああ、未だに進路を決めかねていることは今日の話でハッキリ分かった。その上で、お前にとある提案をしようと思ってな」
「進路のこと‥‥‥すか」
そんなシーラさんが「まあ、座れよ」と促したので、俺は大人しく席に着く。ついでに箒もほうきくんに戻した。「やったー中止だー!」ってほざいたほうきくんの頭は取り敢えずシバいて、俺はシーラさんに尋ねる。
「して、提案とは?」
俺がその提案とやらについて尋ねると、ここで1拍間を置いた後、片手で少し頭をかいたシーラさん。はて、どうかしたのだろうかとシーラさんの目を覗き込むと、それに呼応した彼女が嘆息を漏らした後に続けて──
「まあ、提案っていうよりかは勧誘だ。オリバー、お前魔法統括協会に興味無いか?」
「──え?」
その一言に対して、俺は思わずシーラさんの言葉に聞き返すことで反応してしまった。質問を質問で返すなとは、どこかの誰かが言っていたことと記憶しているが、今回ばかりはそれも仕方ないと彼女のあまりに唐突であり、驚くべき発言を咀嚼し、心をざわつかせる。
数秒前には考えてすらいなかったシーラさんのシーラさんによる魔法統括協会勧誘の打診。掛かってしまった心を無理矢理冷静にさせ、俺は取り敢えずシーラさんの質問に答える。
「えっと‥‥‥それは、あれですよね、魔法で悪いヤツを捕まえたりとか依頼を解決したりとか」
「まあ、そうだな。それ以外にも魔法関連のトラブル、事務処理とか任務とか魔法に関する事件を色々手広く扱ってる協会なんだが、お前興味あるか?」
「‥‥‥いやいや、興味だけで入れる仕事じゃないでしょ。あそこ、確かエージェント契約の方式を採用してましたよね」
エージェント。
それはこの世界のことを知っていても知らなくても1度は聞いたことのある言葉。組織に所属することで自分の名前を組織に預け、組織がその人に仕事を紹介する。
魔法統括協会の場合は、予めその組織に名前を登録し、組織が登録した魔法使いに仕事を割り振ったり、仕事が欲しいと言う魔女、魔道士に仕事を紹介する。そして、その仕事を得た魔法使いが報酬の何割かを組織に渡し、勿論自分も報酬を貰うことでウィン・ウィンの関係を保つ、それが魔法統括協会のエージェント契約方式である。
まあ、自由度は高いと思う。スケジュールなんかも各々の金銭状況やら、体調などを考えて管理することができるし、何よりそれは原作のサヤさんを見ていれば分かる。
欲しい時に仕事を斡旋してもらい、その依頼を達成。貰ったお金で旅々したり、プレゼントを買ったり。それはまあ、愉快な暮らしだと言えるだろう。事実、彼女は旅や依頼をこなしつつ、己のイレイナさん欲求を適度に満たすことができていたからな。
まあ勿論、誰しもがこういった形で契約できる訳では無い。サヤさんは、
片や俺。実力に不安が残る。肩書きは魔道士。斡旋してもらえる仕事は当然少なくなるだろう。そもそも魔法統括協会に名前を登録できるかも分からない。
実力も肩書きもない男の魔道士を送り込んで依頼を失敗してみろ。それは魔法統括協会の名前に泥を塗ることであり、そのリスクは協会側も避けたい筈だ。
故に、審査も厳しくなるのは明白。その登録の審査を俺が通過できるだろうかと問われれば、答えは些か厳しいというのが実情だろう。
「俺、大して実力ないんですよ。依頼だって、ぶち壊しにしてしまうかもしれません」
「残念だがあたしは見たものしか信じない。だからお前が何言おうが関係ないし、何より好きで誘ってんだ」
「‥‥‥」
「勿論、タダじゃない。両親の許可だって必要だし、試験も必要だ。しかし、お前なら──と思ってあたしは打診している。そこに関してお前があーだこーだ言う必要はないと思うんだけどな」
「‥‥‥誘われるレベルにすらないって話ですよ」
俺だって、魔法は使える。言わせてもらうなら自衛くらい楽勝にできるし、なんならイレイナと対戦しても3回に1回は勝ってる。
魔法の勉強だってやっている。イレイナと一緒に勉強してきたんだ。それなりの知識はある。
それでも、結局は
「俺は強くない。きっと、今シーラさんの提案に乗って奇跡的に受かったとしても、迷惑ばかりかける羽目になります。だから無理です」
そんな臆病で、実力のない俺から発せられた言葉は普段らしからぬ語調で発せられた一言であるということを、自分自身が分かっていた。弱々しく、覇気もない。自信のなさというものが透けて見えるその一言は、恐らく聞いている側からしたらたまったものではないだろう。「え、急にどしたん‥‥‥」と対応に苦心すること間違いなしである。
しかし、シーラさんは違った。
「ふむ」と相槌を打つと、1度真顔を綻ばせる。どちらかと言えば苦笑にも近い笑みではあったが、それでも今の俺にはありがたかった。
「‥‥‥まあ分かっちゃいたけど、やっぱお前謙虚だよな。何か理由でもあんのか?」
「理由っていうか‥‥‥見てきましたから、才能に溢れた魔女見習いに、魔女のセンセを」
尋ねてくるシーラさんに対して、俺はうつむき加減にそう答える。
嘘はついていない。事実、俺は自身の持ち得る能力や知識を遥かに超える人達の軌跡を識っており、そういった人達の能力には遠く及ばないということを知っている。
俺がオリバーというオリキャラとしてこの世界に生を受けた後もその考えは変わらない。何せ、今の俺には魔法の才能に満ち溢れ、且つ努力を怠らないかっこかわいい幼馴染がいるから。
「そんな人達に比べたら、俺なんてとても。それこそ他の人に任せた方がまだマシかと」
勿論、魔法統括協会という職業に関しての憧れはある。あの可愛く、それでいてカッコイイところもあるサヤさんやミナさん、何より目の前にいるカッコイイの塊である姉貴分、シーラのおねーさんがいる職場だ。『転生したらアムネシアだった件』を執筆していた俺も1度は夢見た展開。そんな展開に至ることのできるチャンスが、俺の目の前には広がっている。
純粋な気持ちで言えば、折角のチャンスだ。受けてみたいし、挑戦したい。魔法統括協会のエージェントとして働いてもみたいし、後にエージェントになるサヤさんやミナさんとお話したい。
何より、この職に就くことが出来ればイレイナとの確約が守られる。『魔法の道を歩み、再会する』という確約を、職務を全うしながら依頼先で偶然会うというやり方で、彼女と再会することができるのだ。
やりたいかやりたくないかで言えば、そんなのやりたいに決まってる。元魔女旅オタクで、現イレイナさんの幼馴染の立場なら尚更だ。
ただ、その憧れを不用意に追い求める鵜の真似をする烏のようにはなりたくなかった。その願いを叶えるためには実力や知識、というものが足りない。
たった、それだけの話なのだ。
「‥‥‥だから、確かめても無駄です」
己の実力不足で迷惑も、失望もさせたくなかった俺はそう言ってシーラさんの言葉に拒否の姿勢を取った。
そんな言葉と姿勢に、またしても「ふむ」と一言呟くシーラさん。思えば自分ばかり話して、愚痴の押し付けみたいになってしまったな‥‥‥なんて思いながら、俯き加減を戻して前を向く。
すると、目の前のシーラさんが椅子にもたれかかった流れで真上を見つめ、小さくため息を吐いた。その一連の流れに『つまらない話をしてしまったか』と思い謝罪の言葉を口にしようとすると、さも何もなかったかのように自然と、それでも俺の謝罪を遮るかのようなタイミングで、シーラさんが言う。
「確かめるに値しない奴のレベルをわざわざこんな遠くまで来て『見てやる』だなんて間違っても言わねえよ」
「え」
「弟分に思っている奴のことを何も聞いてないと思ってんのか。お前、ちゃんと魔法を扱えてるだろ。知識だって毎回押し売りで渡した本を熱心に読んでるってお前の両親から聞いてるぜ?」
「そりゃそうですけど。世界は広いんです。世の中には強く賢い魔女も才能豊かな魔女見習いも沢山います。その枠組みの中じゃ、俺は‥‥‥」
埋もれてしまうでしょう。
そう言おうとした途端、またしてもシーラさんの片手が俺の言葉を遮る。しかし、今回に限ってはその手が織り成す雰囲気がまた違う。真上から俺へと視線を戻したシーラさんの表情は、なんとなくではあるが失言を咎めるような、そんな雰囲気を醸し出していたのだ。
「聞け、オリバー。自己評価と他者評価はまた違う。お前にはそのレベルに達していないと思っていても、他人には達しているように見えることだってある。その逆もまた然りだ」
「不安定でどうしようもないものなんだよ、評価ってのはさ」とシーラさんは続け、煙管を咥えようとして──やめた。
どうやらこんな真面目な話の中でも、俺の健康を労わってくれているらしい。しかし、今のこの状況でシーラさんが煙草を我慢する必要もないだろうと考えた俺は、シーラさんに一言。
「もう俺14ですし、煙草くらい良いですよ」
「‥‥‥マジで?」
「吸ってあげてくださいな」
イレイナと後で会う予定もないので、煙草の香りなら気にしなくても大丈夫な俺。シーラさんと煙草は切っても切り離せぬ関係であることを理解していることもあり、シーラさんの一連の行動を咎めることはなかった。
しかし、まだ思うところがあるのか取り出した煙草とライターを懐にしまってしまったシーラさん。恐らく理性と欲望の狭間で立ち往生しているのであろう。苦悩が垣間見える苦い表情は、何処か俺の健康を考えていてくれているようで、ぶっちゃけ嬉しくなったのはここだけの話である。
「‥‥‥いや、ダメだ。お前に煙草はまだ早い」
「俺が吸うわけでもないでしょうに」
「馬鹿お前副流煙舐めんな。あたしがお前に煙を吸わせんのはせめて15を越えてからだ。そうしたらお前の提案に乗ってやらなくもない」
「えぇ‥‥‥」
お陰様で俺の肺が健康ではあるのは確かなのだが、このままではシーラさんの精神環境が毒されてしまうだろう。煙草を我慢するのは健康的には良いだろうが、それによってストレスが体内でフル回転してしまえばそれはそれで大変。
まあ、一種のジレンマっすよね‥‥‥なんて考えつつシーラさんの話の続きを聞こうと彼女の目を見る。
すると、彼女はそれに応えるように俺の目を見据えた。かつて原作で見た真面目なシーラさんのように、カッコよく、鋭い眼差しで。
「‥‥‥とにかく、お前はその身勝手な自己評価で何かを決めようとする悪癖を直さなきゃいけない。何より、あたしが言ってんのは『できるのかどうか』じゃない。『したいかどうか』なんだよ」
「つまり、どういうことですか」
「勝手な自己評価お疲れさんってことだ。お前の自己卑下を聞きにここに来た訳でもなし、何よりあたしがお前に問うてるのは『やりたいかどうか』なんだ。人生経験の浅いお前のお前によるお前のための評価なんて聞いちゃいねえよ」
ピシャリと言われたその言葉に、俺は図星を突かれるような感覚に陥った。反論の言葉も浮かばずに、ただただ突きつけられた言葉が頭の中で木霊する。そして、何度も繰り返される言葉に何かを言おうとしても上手くいかない。
『違う、そうじゃない。俺は──』
その後に続く言葉が思い浮かばないことで、俺の見えない悪癖がシーラさんに看破されてしまっていたのだということに気付いたのだ。
「できるかどうかの可能性は分析するもんじゃねえ、意思で切り拓くものだろ。勝手な自己評価で視野を狭めんな」
最後にそう一言、シーラさんは俺に告げてコーヒーを啜った。その瞬間、引き締まった今までの雰囲気が弛緩し、先程までの和やかな雰囲気が戻ったような気がした。
そのせいか、何処か安堵したからでもあるのだろう。俺はシーラさんの言葉に返答し、彼女の目をしっかりと見据える。
「‥‥‥それは、はい。言う通りですね」
自己評価で俺自身のやりたいことを吟味する、というのは別に悪いことではない。良く言えば、冷静とも言えるし、それはそれでひとつの生き方でもある。
それでも、そういったメリットが『自己評価で己の可能性を狭めて良い』だなんて免罪符にはならない。やりたいことがあるのなら挑戦するべきであるし、それが己の夢や目標であるのならば、その可能性に賭けてみるのも決して悪ではない。
1番の悪は、自分だけの評価で差し出された可能性を狭め、やりたいことに蓋をすることなのだ。俺は魔法統括協会に入ってみたいし、どちゃクソラッキースケベなハーレム生活も送りたい。何より、イレイナとの確約を果たしたい。その夢や目標を叶えるチャンスが目の前に転がっている今、躊躇い、やる前から諦める必要なんてどこにもないのだ。
だから、俺は。
「分かりゃいい。で、答えは?」
「‥‥‥
「ん、じゃあ試験だな。日時は追って伝える」
シーラさんの言葉に了承の意志を示し、頷いた。
先程までの弱々しい語気や覇気は自分でも気付かぬ内に消え失せており、いつもの俺がシーラさんに対して笑みを見せているというのが自分でも分かる。
正に、自信を取り戻した形だ。
端的に換言するのなら『負ける気せえへん、地元やし』ってところか──と戯言を考えられる位には、シーラさんの言葉のおかげで、元気になれた。
故に、俺はシーラさんに引き続き言葉を紡ぐ。今度は了承の言葉ではない、この時間を設けてくれたことや、俺の考えの穴を教え諭してくれたこと、それ以外にも山ほどある沢山の親切に感謝を示す言葉を。
「シーラさん」
「ん?」
「ごめんなさい。それから‥‥‥ありがとうございます」
そして、最後に一言。
しっかりとシーラさんの目を見て発した俺の言葉を、シーラさんは笑って受け止めた。
しかし、その笑みは何かを面白がるような笑みではなく、何かを諦めたかのような──そんな笑み。そんな笑みを浮かべた彼女は、カップに残ったコーヒーを飲み終えると俺を見て、言う。
「礼なんて要らねえよ。好きでやったことだ」
「いつもそればっかですね。そうやって誤魔化してもいつかご飯は奢らさせて頂きますのでよろしくです」
「頑固だなぁ」
「母さんに似ていますから」
「や、そこはお前らしさだろ。強いて言うのなら昔のアイツに似てるんだが‥‥‥ま、別にいいや」
ほう。
昔のアイツとはまさか──と、俺が過去の知識を引っ張り出して推理をしようとすると、シーラさんはその強さとは正反対に見える華奢な手を伸ばし、俺の頭を撫でる。その感触はとても心地良いものであり、抵抗こそあるものの嫌悪感は感じない。
齢14歳で撫でられることに快楽を得る男の子はぶっちゃけやばい気もするので、口では「やめろォ!」とか言って否定しているのだが、撫でられてしまえば最後。抗えない快楽に俺に抵抗する術はないのだ。
もしかすると、俺の前世関係なしにこの身体が遺伝子レベルで撫でられることに快楽を得てしまう体質なのか──なんて、内心で馬鹿げたことを考えていると、「おっと」という声と共にシーラさんの手が止まる。
おいこら中途半端やめんか──じゃなくて、どうしたんですかシーラさん。と、俺が尋ねようとすると、片手を俺の山吹色の髪から手放したシーラさんが一言。
「そういや頭撫でられんの嫌だったんだっけか」
「はぁ、それはまあ」
即答する。
しかし、シーラさんの目はまるで疑わしいものでも見るような目付きであり、その瞳に明るさはない。所謂ジト目であり、そんな瞳を向けながらシーラさんは続ける。
「顔、にやけてんだけど」
「に、にやけてません」
「結局好きなんだよな?」
「うっす──じゃなくて!やめてくださいよ本当に!!」
途端、呆れたように笑ったシーラさんに俺の心は打ち砕かれた。
しかし悪い気はせず、むしろ撫でられるという行為に関して一種の快楽を感じてしまっている俺は、既にシーラのおねーさんに愛着のような何かを感じてしまっているのだろう。尚も続くその行為に理性をごちゃごちゃにされているのが良い例だ、ちくしょう。
「ち、ちくしょー!なんでだ!?どうしてシーラさんのなでなでを受け入れちまってるんだ!?頭おかしいんじゃねえのか!?」
「それはお前がまだガキってことだ」
「う、うるせーですよ!!この‥‥‥お、オシャレサイドポニー先生!!」
「悪口が悪口になってねえ」
ちくしょうおねショタに抗えねえッ!!
魔法統括協会の仕組みがよく分からんので、もしかしたら修正するかも。
国ごとに試験があることと、新人が数ヶ月講習を受けるのは知ってるんだけど‥‥‥
2章終了後の3章は……?
-
魔法統括協会編!(全15話完結予定)
-
2人旅編(全30~40話完結予定)
-
両方同時並行(がんばる)
-
アムネシア編