どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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14話 「切り拓いて歩いていく」

 

 

 

 

 

取り敢えず、魔法統括協会に名前を売り込むことができるか否かの試験を受けることになった俺は、シーラさんにとある条件を持ちかけられることになった。

 

「いいか、あたしからもある程度のことは話しておくけど、親はちゃんと自分で説得しろよ」

「はい」

 

それは、親のことである。

14歳の俺はこの世界で言うところの子どもであり、親元を離れて魔法統括協会に行くには様々な許しを得る必要があるのだ。

まあ、当たり前ではある。子どもの俺が二つ返事で了解したところで『はい、そうですか』と簡単に親や師が許すはずもない。場合によっちゃ国だって許さない。

師となる人物の了解や両親への了解。様々な許可を得た上で、俺の自由が約束されていることは決して忘れてはいけないのだ。

 

「あたしは親ってものに縁がなかったから難しいことはよく分からんが、両親がいるってことがありがたいことだってこと位は分かる。見守ってくれる人がいれば、その分子供ってのは安心できるもんだからな」

「ですね」

「だから面倒だと思うかもしれないが、両親に関しては確り筋を通しとけ。本気なら、お前の母さん説き伏せる位の言葉を用意してみろ、分かったな?」

 

最後にそう言ったシーラさんの言葉に深く頷き、俺は決意した。やるのなら徹底的に、許可でも試験でもなんでも必要な条件を達成した上で堂々と魔法統括協会のエージェントになってみせようと。そんな強い思いを抱き、俺はシーラさんが帰宅した後日にシーラさんとの話の全貌を母さんに話したのだった。

シーラさんに魔法統括協会に興味がないか聞かれたこと。俺自身が魔法統括協会に入ってみたいと思ったこと。そして、ひとつの約束の為に魔法統括協会に入りたいということ。全てを椅子に座る母さんに対して、赤裸々に語った上で、魔法統括協会に入りたいという旨を語ったのである。

 

「‥‥‥」

 

俺が思いの丈をぶつけている間、母さんは無口だった。その代わりにいつも通りの優しい笑みを浮かべ、ただひたすら聞き役に徹してくれていた。故か、特に吃ることもなく、しっかりと母さんにやりたいことを伝えられ、結果として俺は話したい事柄や想いを余すことなく伝えることができたのだ。

もしかしたら俺には話す才能があるのかもしれない。尤も、それは聞き役に徹してくれている母さん限定の才能なのかもしれないが。いや、なんだよその才能。内弁慶の才能とか要らんわ。

 

「‥‥‥なるほど、つまりオリバーは国外に行きたいわけだね。そして、その試験を受けたいと」

 

と、まあ。

あまりにも馬鹿げたことを考えている内に、母さんは俺の発した言葉の内容をまとめてくれていたらしく、女の人特有の柔らかな声と共に、俺の意志を要約した言葉を投げかける。相も変わらずの優しい笑みは、俺に対して質問の返答を促しているようにも見えたので、俺は首肯の後に一言。

 

「おう」

 

はっきりと、強い語気でそう答えた。

すると先程まで笑みを浮かべていた母さんの目が見開かれ──それと同時に細められる。先程までの笑みは消え、いつもらしからぬ厳粛な雰囲気の母さんが「‥‥‥あのさ」という一言と共に、母さんが口を開いた。

 

「オリバー。魔法統括協会ってどういうところか知ってるの?」

「知っている。魔法でしか扱えない事件なんかを担当して、金を貰うんだろ。れっきとした仕事だ」

 

ついでに言うのならば試験の内容以外は頭に入っている。魔法統括協会に入ることの難しさや、入ってからどのようなことをするのか。そういった知識は一応()()()()は頭の中に入っている。と、いっても長い間原作を読んでいないので、うろ覚えの要素もあり、知識が抜け落ちてしまっている点も無きにしも非ずだが。

それでも、母さんの質問に答えられるだけの知識があった俺は自信を持って、母さんの目を見て答えた。しかし、母さんの笑みは元に戻らず──更に表情を険しくする。

‥‥‥もしかして地雷踏み抜いたか?

 

「‥‥‥それは一面だよ。もっと大変な仕事だってあるし、辛い目に遭うことだってある。その時、オリバーは今のような目をすることができる?そういう覚悟を持ってシーラちゃんの試験を受けようとしてる?」

「それは──」

「してないよね。けど仕方ないことだ、オリバーはまだ子ども。世界の一面しか見れてない子に広い視野云々を語っても意味ないってことくらい私にも分かるよ」

「勝手に決めつけないでくれ。誰が周りを見ないクソガキだ」

「いや別にそこまでは言ってないけども」

 

そう言っているのも同義だろう。確かに俺はまだ子どもであり、明朗快活馬鹿丸出しの行為をしでかす可能性に満ち溢れた人間ではあるが、これでも嘘だけはつかないように誠実に振る舞ってきた。

やべーことをした時はちゃんと報告したし、大切だと思うことは連絡し、困った時は相談もする。俗に言う報連相等の大人として当たり前のことはしっかり意識して取り組んできたつもりだったのだが、それでもダメだと言うのかマッマ。視野を広く持てないだけで子供なら、世界の大人の半分は子供だぞ。

 

「世界を広く見れないから大人じゃないってんなら、これから視野を広くするために経験を積める。視野を広くするって意味でも魔法統括協会に入れたら大きいと思うけど」

「馬鹿、魔法統括協会はそんな良いところじゃ‥‥‥コホン、私が言ってるのは魔法統括協会に入る為の視野すらオリバーは持ててないって言ってるの」

「経験積んで、学んで、視野を広げていくんだろ。現状に甘えてたら視野は広がらない。今だってこうしてこの国に居続けても視野は広がらないと思う」

 

俺も前世含めて、様々なことを経験したが大抵視野が広くなったと実感した時は何かを経験した瞬間である。知らないものを知った時、行動した時、何かを買った時‥‥‥とにかく、新しい何かを吸収することで視野という物は広くなってくるものなのだ。

そして、今。この瞬間新しいものを知り、視野を広げるチャンスが目の前に転がっている。世界を広く見ることが大人だと言うのならば、俺が魔法統括協会の世界を知るのも大人になるための1歩。その1歩に優劣などない。どんな形であれ、1歩を踏み出すことは勇気の要る事柄であり、大人への階段であり、たくさんの人が通る当たり前の道だから。

 

「俺はそういう視野を含めて成長するチャンスが転がってんのにそれをみすみす逃す馬鹿にはなりたくない。同じ馬鹿でも、臆病な馬鹿より一直線な馬鹿でいたいんだよ」

「‥‥‥」

「だから頼む、母さん」

 

恐らく、オリバーとして生きていた俺史上1、2位を争う程のシリアスで母さんに頭を下げた俺を、母さんは笑うことなく、無言で応えた。

しかし、普段から穏やかで明朗快活な母さんが永久的に無言のままでいることはなく。頭を下げていた俺が母さんの顔を見つめ直すと、一瞬母さんが懐かしいものでも見るかのように、目を細める。

しかし、その目も一瞬で変化して。俺が瞬きするといつの間にかその表情をニコリとした笑みに染めると。

 

「ダメ」

 

どストレートに、俺の言葉を拒否ってみせた。

その言葉のなんという爽やかなことか。まるで朝起きた後に見せる「おはよう」の笑みの如き表情を見せ、母さんは俺にそう言ってのけた。

そんな母さんの笑みとは対照的に顔を引き攣らせた俺。気分はどうかと言われたら間違いなく「最悪だね」と吐き捨ててしまう程に愕然とした面持ちで母さんを見つめていた。

 

「今のままのオリバーで魔法統括協会に入るなんて狼藉が許されると思ってるの?私、オリバーをそんな風に育てた覚えないんだけど」

 

「とにかく、今のオリバーには許可できないから」という言葉を最後に、母さんは会話を止めてお茶を啜る。その動作の何たる優雅なことか。あまりの優雅さに元々国外に出す気なんぞないのではないかと疑いたくもなったが、母さんがそのような行動と言動を取ったのも『今回だけ』である。

故に、俺は問うた。

この世界に生まれてから何度も顔を合わせた母さんの優しさを信じて。彼女の碧眼を見つめたのだ。

 

「そっか。じゃあ1つ聞いてもいい?」

「なに?」

「──()()()()()()()()ってどういうことだよ」

 

どちらかと言えば、鋭さを孕んだ問い。

意図こそしていなかったが、それでも鋭い語調と化してしまったのは、母さんの態度に心のどこかで腹が立っていたからなのかもしれない。

あまりに身勝手で、背徳的な行為である。それでも、俺は言わずにはいられなかった。

それでも、母さんは動じない。母は強し、というのはこういうことを言うのか。あくまで毅然とした態度で、母さんは続ける。

 

「言葉の通りだよ。今のオリバーじゃ、認められない。認めることなんて到底できないってこと」

「そんな簡単に納得出来ると思う?こっちは真面目に考えて、決めた夢なんだぞ。そんな曖昧極まりない言葉で人生決められたらたまったもんじゃない」

「‥‥‥たまったもんじゃない、かぁ」

「実力や覚悟が感じられないって言うのならハッキリ言ってよ。そうじゃないのだとしてもちゃんと理由くらい話してくれよ」

 

それでも、俺は母さんに対しての姿勢を変えることはなかった。背筋は伸ばして、視線は真っ直ぐと。心の中に抱いた、折れない芯を見せびらかすように母さんをしっかりと見つめた。

俺は本気なのだと。叶えたい確約のために、この道を選んでみたいのだという気持ちを伝えるために、俺は母さんに対して真摯であり続けたのだ。

 

「──それは」

 

やがて、母さんが俺から目を逸らしため息を吐く。その後に発せられた一言には何処か続きがあるようで──それでも、母さんはその一言から続く言葉の全貌を晒すことはなかった。

その代わりとして、言おうとした言葉を呑み込んだ母さん。「よよよ‥‥‥」とわざとらしい泣き真似と共に、目元を手で拭うその様に何をしているのだろうかと眉を潜めると、母さんは泣き真似の傍らで俺をチラチラ見ながら一言──

 

「よよよ‥‥‥こちとら部屋の押し入れに隠してあるイレイナちゃんのプレゼント見てニヤニヤしてるオリバーを毎日覗いてるんだよ。そんなの見せられて国外に出国させるなんてとても‥‥‥とてもできないよよよ‥‥‥」

「今すぐその泣き真似やめないか!泣きたいのはこっちだぞ!?」

「世間じゃこういうのを身から出た錆って言うんだよ。良かったねオリバー、これで視野がまた広くなったじゃない」

「そんな世界見たくもなかった!!」

 

凡そイレイナがそれを聞いたらドン引きじゃ済まない位の事実を開陳しやがったのだった。

死にたい。

 

 

 

 

 

 

まあ何が言いたいのかって、俺が魔法統括協会のエージェントとして働けるようになるにはいくつかの壁を越えないといけないってことだよな。

1つ目はシーラさん。先ずは何れ来る試験をくぐり抜け、彼女に「お、やるなお前」と言わしめなければそもそも魔法統括協会という職業の「ま」の字も触れられないわけであって。やはり先ずは試験を突破し、シーラさんに合格の一言を貰うことが先決なのだろう。

 

そして2つ目、これが問題だ。

 

「ま、受かってから出直してきなよドラ息子」

「おぉん!?」

 

今さっき、俺の要求をことごとく突っぱねて実の息子であるところの俺をドラ息子と形容した母上。これがかなりの問題であり、難点である。

 

夢なんてものは抱いてナンボのものだ。抱かなければ夢なんてものは叶えることすら出来ない代物であり、そもそも実現に向けての行動も出来ない。故に俺は『魔法統括協会に入り魔法の道を歩む』こと、『その仕事を引っ提げて、イレイナさんとの確約を果たす』という夢を抱き、母さんにその想いを赤裸々に、臆面もなく、ありのままに語った。

真摯な想いと共に夢を語れば、その夢を許してくれると思っていたからな。

 

「だから受かってから出直してきなよって」

「おぉん‥‥‥」

 

しかし、結果は無惨にも等しいものであった。

というか夢を語ったらお返しと言わんばかりに説教された。

その内容は夢を語る以前の話。つまり『俺はまだガキだから視野が狭い。そんな俺が魔法統括協会?頭おかしいんじゃねえのプギャーワロス』的な、まあそんな感じの説教である。

 

──ふざけんじゃねえよオイ!と思わず言ってしまいそうになったが育ての親に問題発言はNGである。故に発した怒りの言葉は、俺の今の精神状態を確かめるにはぴったりな言葉。

そう、激怒だ。

 

「もう俺は激怒したぞ母さんッ!!」

「おっ」

「必ず受かって母さんを言い負かす!そして魔法統括協会行きの切符を手にしてやるんだいッ!!」

「や、やるんだい‥‥‥?」

 

怒りのままに心の叫びを口に出した俺。尚も怒りは収まらず、母さんが「まあお茶でも飲んで落ち着きなよ」なんて言葉を無視して、外へと飛び出した。

その間、行動言動全て勢いである。理性など拒否された瞬間に全て吹っ飛び、野生の如く、赤い彗星の如く、秒で家を出ていってしまったのだ。

その様、さながら瞬間湯沸かし器である。

理性が頭の中に入ってねえんだよコノヤロウ!!

 

「あ、オリバー。どうかしました──きゃっ」

「わーんイレイナぁ!」

 

故に起こした行動ということで言い訳が成立するのならば、どれだけこの行動を正当化することが容易であったことだろう。

しかし、今現在のこの状況。平原に座し、本を読んでいるイレイナさんの膝に縋り付きわんわん泣き喚く様をそんな言葉で正当化できるはずもなく、俺は「あ、やべぇこれ死んだ」的な未来に対する絶望を覚えつつ、軽挙妄動によって生まれた快楽に素直に従った。

当たり前だろ。これ逃したら一生縋り付けないかもしれないんだぞ。拒否られるまでやめられるか。

 

「ひぐ、えっぐ‥‥‥俺、どうしたらいいんだよ‥‥‥折角母さんの友達の人から良い話貰って、魔法の道に進めるきっかけを得たのに‥‥‥!」

「あ、はい。ご愁傷様です」

「お先真っ暗だよ、視界も真っ暗だよっ!!」

「それはオリバーが私の膝元に顔を埋めて泣いているからですよね」

「あいや、ごめんもう少しこのままでいい?」

「弾き飛ばされる覚悟がお有りのようで何よりです。なんですかセクハラですか」

「あ、マジで死んだ」

 

「離れてください」と俺の頭を押しのけようとするイレイナ。初めは優しく頭に添えられていた手が次第にチョップ攻撃へと移行し、頭に痛みを感じ始めてきたので、頃合を見て膝から離れて彼女の隣に座り込む。

イレイナさんの御御足には疲労回復効果があったらしく、いつの間にか俺の心は晴れやかなものと化していた。きっと母性とはこのことを言うのだろう、サヤさんがイレイナさんイレイナさん言ってたのもよく分かるぜ。

現に俺が今、イレイナさんイレイナさん状態(自称)になっているんだからな。

 

「少しは落ち着きましたか?」

「い、イレイナさんイレイナさん‥‥‥」

「いや、イレイナさんじゃねーですよしっかりしてくださいマジで」

「今さっき俺の頭に電流が走ったからしばらく妄言が止まらないんだ。今しばらくこの妄言に付き合ってくれイレイナさんイレイナさん‥‥‥」

「毎日電流走ってて大変ですね」

「イレイナさん!」

「灰になってくれませんか?」

「もう全てが嫌だ」

 

まあ、それはそうとして。

隣にいるイレイナさんから敬語崩れの暴言を浴びつつ、「はっ」と笑い声を上げて俺は真上を見る。

空は青く、どこまでも箒で飛んでいってしまえそうな程広く感じられる快晴。こんな空の下で陰険そうな顔をする奴など皆無に思えてしまうほどの天気である。

 

ならば、今こうして母に夢をダメ出しされ、平原に座したイレイナさんの膝に抱きついた俺の気分は如何なものか──そんなもの聞くまでもないだろいい加減にしろ!

一瞬にして怒り霧散したわ!明日も頑張るわ!!

はい、俺の愚痴攻勢おしまい!確約とイレイナさんの待つ未来に向かって頑張ろう!

 

「そうですか、セシリアさんのお友達の方に」

 

空を見上げ、未来を想像し、自然と小さくガッツポーズ。なんならそのガッツポーズにより作った拳で母さんという壁でも軽くぶち壊してやろうかコノヤロウ──なんてあまりに調子に乗った考えをしていると、本をパタリと閉じたイレイナさんがそう尋ねる。

ながら聞きくらいしてても良いってのに俺の話だけに集中してくれるその様に抱き締めたい衝動を抑えきれなくなりそうになったが、ここはグッと堪えて俺は首肯し、続ける。

 

「ああ。んで、折角の機会だから試すだけ試してみようってなったんだけど親の許可がなきゃダメだって」

「それはそうですよね、私だってそうでしたし。むしろ親の許可を得ようとしないでどう働こうと思ったのか疑問です」

「そんなこと思ってないよ!イレイナは俺を何だと思ってるの!?」

「私の膝に泣きついてきた狼さんです」

 

薮蛇だった。

まあ、確かに今の俺はそう言われてもおかしくない程の愚行をしでかしてしまった哀れな奴ではあるので仕方ないのだが。

とはいえ、それでイレイナさんが本格的に俺を殺しにくる訳でもない。取り敢えず俺はイレイナに「ごめんなさい」と言う。その言葉を無視して、イレイナは言葉を続けた。

死にたい。

 

「ですが、大丈夫でしょう。セシリアさんは優しい人ですし、仮にあなたのお母さんを説得できないのならオリバーの口下手に問題があるのでは?」

「ないのでは?」

「事実から目を背けないでください」

「どうしてイレイナの言葉に目を背ける必要があるんすか」

「たった今、文字通り目を背けているのですが何か言うことはありますか?」

 

ないです。

ついでに言ってしまうのなら、怖くてチビりそうです。いや、マジでイレイナさん怖すぎだって──と、内心でニコリと笑みを見せながらぐうの音も出ない正論をぶつけてくる当人に戦慄していると、その表情を呆れ顔へと変えた彼女が大きなため息を吐く。

どうやら今の俺はどうしようもないお馬鹿さんらしい。久しく彼女主催の小テストなんて行っていなかった故か、これまた久しく見る彼女のため息は俺の心を罪悪感に満たすには十分だった。

ごめんよイレイナさん、うっへっへ。

 

「何笑ってるんですか」

「あいや、違うんだイレイナ。今の俺は俗に言う罪悪感に苛まされていてだな‥‥‥」

「鏡とか便利なんで使ってみてください。とても罪悪感に苛まされている人の顔には見えないです」

「うっへっへ!知ってるぜ!!」

「‥‥‥」

 

またしてもため息を吐いたイレイナさん。ため息を吐くと幸せが逃げてしまうらしいのだが、そもそも彼女の場合は幸せを待つタイプではなく自ら掴み取りに行くタイプなので関係なかろう。まあ、そもそもの話としてため息を吐かせてしまっている根本の原因が俺であるのがなんとも言えないのだが。

イレイナさんに呆れられると若干の快楽を得る代わりに、大きな罪悪感を得てしまうのはよくあることで、よくもまあいつも親切に対応してくれるよな──なんて、目の前で冷たい視線を送る彼女を見ながら内心で思っていると、何の脈絡もなしにイレイナが一言。

 

「‥‥‥どれだけ誰かに否定されたとしてもオリバーはその道を進みたいんですか?」

 

それは、不意に発せられたイレイナの一言だった。いつもの棘のある言葉とは違う、優しい語調。その言葉に思わず目を見開いた俺。

冷たい視線を変化させ、呆れたように笑うイレイナさんが、鮮明に映った。

 

「──それは、うん。その通りだ」

「それは何故?」

 

再び、問うイレイナ。

変わりなく、優しく語りかけるように。俺を言葉で包み込むかの如く発したイレイナの質問の内容に、俺は変わりなく、彼女の目を見て答えた。

 

「──いつか、逢いたいから」

「それは誰に?」

「キミに」

 

紛れもない事実である。

そもそもの話、俺が魔法の道を真面目に、真摯に志すきっかけになったのはイレイナさんとの確約だし。

故に。

 

「その道に行けば依頼をこなしつつ、イレイナに逢いにいける。折角与えられた機会を逃したくない。どれだけ大変でも戦いたいし、諦めたくないんだ」

「それは何故?」

「無論、それがイレイナとの確約だからさ!」

 

例えそれが困難な道でも、少なくとも簡単に諦めるようなことはあってはならない。

可能性を計算してはいけないと。描いた未来は、意思で切り拓いて然るべきだと、「魔法のセンセ」に言われたから。

だから俺は己が叶えたいと願ったイレイナさんとの確約を自らの意思で切り拓いていく。

壁は多くて、その壁にぶつかる度に泣きたくなるほど辛いことも多くなるかもしれないけど、それが俺の『やりたいこと』だから。

魔法統括協会で働き、胸を張ってイレイナさんに逢える自分になること。その道を切り拓きたいと、自分が思ったのだ。

 

故か。その言葉を残した後に自然と笑みが溢れた俺。

そして、その表情を見てまたしても小さくため息を吐くイレイナさん。

俺の笑顔はそこまでのレベルらしい。

死に晒せ、俺。

 

と、ここまで声を張り上げて言い切ったところで自分が如何にクサくて仕方ない発言をしたのかどうかということを自分自身が気付くことになる。

耳をすませば俺の愛箒の『ほうきくん』が「うわぁくっさ!クサすぎて草!プギャーギャハハハマジテラワロス!!」なんて言って俺を馬鹿にする幻聴が聞こえてくるよ。なんだか耳も頬も熱くなってきたよ。どうすれば良いのこの始末。

 

いやしかし、先程俺が発したこのクサすぎて草な言葉こそ紛れもない俺の本心であるのだ。これを偽ったところでどうせボロが出る。何より、クサかろうがダサかろうが俺とて1人の男である。

訳も分からぬ変態発言を幾度となく繰り返そうとも友達を続けてくれたこの子には、いつだって真摯で在りたいのだ──と考えている俺の頭は、若干ショートしていた。

 

「‥‥‥あの、今俺すっごい恥ずかしいこと言ってなかった?」

「はい、それはもう」

 

そして、案の定イレイナからもその言葉は恥ずかしくて仕方ない一言だったそうで。その事実を聞いた俺は、思わず顔の表面温度を倍プッシュで上昇させていく。

穴があったら入りたい。いや、割とマジで埋まってたい──なんて、先程の決意が嘘のような後ろ向きな考えをしていると、イレイナが俺を見る。

その表情は、笑み。

けど、今度は前の笑顔と違う。

まるで、信頼してくれている人に見せるような優しい笑み。嘲笑でも、呆れ笑いでもない、本当に優しくて──おいおい、そんな笑顔反則だと。そう思ってしまうような笑顔で、彼女は俺に向き合った。

 

「大丈夫ですよ、オリバーなら」

「‥‥‥え」

「その顔をしたオリバーが今まで声を大にして誓った約束を破った覚えがありません。だから今回も例に漏れず──きっと、大丈夫です」

「‥‥‥イレイナ」

「それにも関わらず自覚なしに泣きつくとか笑いを通り越して失笑ものですね。挙句の果てには私の膝に縋り付くなんて、頭オリバーなんですか?」

「あの、結構良いこと言ってくれてるってのは分かるんだけど最後の一言のせいで台無しだからね?すっごい上げて落としてるからね?」

「え、別に上げてません」

「もうやだこの子」

 

──ああ。

まあ、色々言いたいことはある。

上げて落とすくらいならずっと落としてくれてた方が興奮するとか、頭オリバーってなんですかとか。とにかく彼女に問い詰めたいことは驚く程存在する。

 

それでも、今のこの瞬間。何の因果か親友として存在してくれている目の前の灰髪の少女が想いを尊重してくれているということは痛いほど伝わってきて。

そんなことをされてしまった俺は、何故か分からない位舞い上がって、今ならなんでもできてしまうのではないのかと思えてしまえるくらい調子に乗ってしまったのだった。

 

『あー、もう』と内心で悪態をつきながら、自然と顔がふにゃふにゃになる。

どうしてこう、イレイナさんはいちいち心にグッとくることを言ってくれるのかな、と。ガチ恋しちゃうだろ、と。頭の中で何度も彼女に対して悪態を吐く。それでも、目の前のイレイナさんは当然の如く目の前で笑みを浮かべていて。その表情が挑戦的に歪められると、その様に俺は苦笑しつつ。

 

「‥‥‥ありがとう、イレイナ」

「言われる筋合いがありません‥‥‥が、仮にそう思っているのであれば行動で示してくださいね」

「任せとけ、とりま抑えきれぬ愛を行動で示すために抱き締めてもいいかな」

「ちっ、本当に増長しやすい人ですね」

「おいマジトーンやめろ」

 

何時になっても敵わないなと、そう思った。

 

「でさでさ、箒デートはいつになったんだ?」

「‥‥‥あの、今さりげなくとんでもない誤解を招くことを言いませんでしたか?」

「言ってないよ」

 

だからといって俺がしおらしくなると思ったら大間違いだぜ主人公。

俺は、キミが存在する限り何度も愛を叫び続けるし、挑戦的な言葉だって投げかけてみせる。ここまで来ると最早敵う敵わないの問題ではなく、純粋な好意だと言えるだろう。俺は好きでイレイナさんへの愛を叫び続け──そぅ!サヤさんと同じ思考回路なのさ!

 

まあ、こんなだからイレイナさんに変態さん言われてんだけどね。自分で自分の首締めるとか、ほんと俺ってド変態さんだわ。

 

「‥‥‥明後日、ですかね。それからはまた、師匠探しの旅に出るので」

 

まあ、それはそれとして。

その言葉を聞いたイレイナは俺に対して暫く有り得ないものを見るかのような目を向けていたが、自分なりにその出来事を咀嚼したのか、表情を凛々しくも美しいそれに切り替え、そう言う。

どうやら俺がシーラさんや母さんとあーだこーだ言い合っていた頃にもイレイナは真面目に師匠となる人物を探していたらしく、その類稀な向上心には尊敬どころか涙を禁じ得ない。

ほんと、努力する子ってカッコイイと思うんだ‥‥‥

 

「既に何人かの魔女に断られたんだっけか」

「はい。この前もとある魔女に弟子にしてもらおうとお願いしてみたのですが面談どころか犬に吠えられました。やはり動物は猫しか勝ちませんね」

「‥‥‥へぇ」

「‥‥‥なんですか、そんな目で私を見て。疑ってるんですか、猫しか勝たないという絶対的事実を」

「大丈夫。俺はいつまでも待っててあげるからアレルギー治してから出直してこい」

「売られた喧嘩は買いますよ。安心してください、私って魔法で人を気絶させるのは凄い得意なんです」

「ハンカチは黄色でいいか?」

「話聞いてるんですか?」

 

とはいえ、現実は厳しい。

才覚ある魔女見習いである彼女を弟子として受け入れてくれる人はこの街にはおらず。実力差とか、やっかみとか、色々あるんだろうな‥‥‥なんて思いつつ、やはりイレイナの師匠は『あの人』しかいないんだよな、と確信することとなる。

つーか、『運命』なんだよな。イレイナと依然として俺が会ったことのない、黒髪ロング、服の裏地がプラネタリウムの人が出逢い、師弟関係を結ぶのは──

 

「‥‥‥」

「なんすか、イレイナさん」

「いえ、別に」

 

なにジト目向けとんねん。

ガチ恋するぞ、いいのか。

 

「はいはい、とにかく明日な。分かったよ、準備しておく」

「‥‥‥小馬鹿にしてますよね」

「おっと、俺は何時でもイレイナに真摯だぞ。馬鹿になんかしてないし、むしろ信頼の向こう側へ行きたいと思っているんだからね、勘違いしないでよね」

「え、三途の川ですか?」

「三途の川なんてワードどこで拾ってきたんですか?」

 

向こう側が地獄じゃないか。

その手に持ってる東の国の本の影響ですか?

言っておくが、俺が言っているのはそういうことじゃないぞ。誰が好き好んで三途の川へ行こうとするのか。俺が言おうとしていたのは信頼のその先──そう、結婚式の友人代表クラスの親友だ。決して三途の川に行こうとか、そんな目論見があった訳でもないし、如何わしい目論見もしていないのだ。

 

「‥‥‥まあ、うん。取り敢えず土下座しとくわ。小馬鹿にしてごめん」

「土下座すればなんでも許されると思ってませんか?」

「え、だって土下座されると興奮するんだろ?」

「そんな特殊性癖持ってません」

 

とはいえ、その言葉でイレイナに誤解を与えてしまったということは紛れもない事実であるので、土下座をすることも忘れない。

俺はアフターケアを忘れない人間なのだ。感謝をすることも、土下座をすることも、地面に頭を擦り付けることも、それに快楽を得ることも、全てはイレイナさんに対する誠意の現れ。

つまり俺が土下座をすることは決して敗北を意味する訳ではなく──あ、やべ。なんか興奮してきた。

 

「まあ、色々言いましたがオリバーの泣き言に対して私が1番言いたいのは、たったひとつです」

 

と、自分自身でも情けないと思える、思えてしまえる行為をしていると、今までの会話を纏めるために、そう言ったイレイナが笑みを溢す。

その言葉に、地面につけてた顔を上げた俺。それと同時に額にくっついた草やら何やらが俺の視線を遮る。おまけに太陽も邪魔してきやがったもんで、俺の目はその機能を半分しか果たしていなかった。

──それでも。

 

「オリバー」

「ん?」

「あなたがうんと考えて選んだ道なら私は何も言いません。頑張ってください」

 

それでも、イレイナの声は聴こえるし。その声からイレイナが笑っているということも分かる。

弾むようで、それでいて優しくて仕方ない彼女の声色。その声を聞くだけで頑張ろうと思えてしまう、そんな声で頑張れと言われたら、応援されてしまえば、もう俺としては頑張らない理由がなくなる。

だから俺は頑張る。

イレイナさんとの確約を果たすし、己のやりたいことにも忠実に、最後まで諦めないし、戦った上で勝つのだ。

 

「‥‥‥うん、応援してくれるイレイナさん可愛いから頑張るわ。最高に可愛いから頑張るわ!!」

「はあ。で、三途の川にはいつ頃逝く予定で?」

「その話を引っ張るのか‥‥‥なんだお前、話ちゃんと聞いてくれてるとか取り敢えず可愛いんで抱き締めても良いか?」

「‥‥‥ちっ」

「え、うっそ今舌打ちした?」

 

まあ、その上でイレイナさんに物申すとするならば、舌打ちすんのやめて。

泣いちゃうから。俺、メンタルガラスだから。

 

 

2章終了後の3章は……?

  • 魔法統括協会編!(全15話完結予定)
  • 2人旅編(全30~40話完結予定)
  • 両方同時並行(がんばる)
  • アムネシア編

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