どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
これはまだ私が魔女見習いとして、勤勉に且つ果敢に師匠の元で教えを乞うていた頃の話です。
いつものように宿に泊まり、お風呂に入り寝る支度を済ませつつ、それでいて若干の安心感からくる眠気にうつらうつらとしていると師匠が一言。
「フランは、もし『クソダサネーミングセンス1等賞』を自負する女の子に出会ったら先ず何をする?」
そう言って見事に私の眠気を吹っ飛ばしてくれた灰髪の師匠は持っていたペンの動きを止めると、笑みを浮かべます。
クソダサネーミングセンスとはいったい。
「質問の意図が分かりません」
「意図なんて自分で探し出して、勝手に汲んでくれて良いのよ。答えなんてないのだから、自由に考えてみなさいな」
とは言われましても。
あまりに質問の内容が突飛すぎて何を言っているのか分からないのですが。
ひょっとしてアレですか。新しい弟子でも取るつもりで、その弟子がクソダサネーミングセンス1等賞の頭ぱっぱらぱーな少女なのでしょうか。まあ、弟子は何人取っても犯罪ではないですし弟子を受け入れるのであれば私も同じ弟子として切磋琢磨していきたいとは思いますが。
そもそも私、師匠の弟子ですし。決定権は師匠にしかありませんから。
まあ、それはともかく。
「その人が以前会ったことがある人なのかどうかによると思います」
「なるほど‥‥‥」
「会ったことがあるなら『また言ってるんですかこのくそやろう』ってなりますが、会ったことがない人なら無視します。それ、やべーやつですから」
「‥‥‥それはダメよ」
「どうしてですか」
「私がそれで1回その子に引っかかったから」
師匠はそう言うと、「落とし穴ね‥‥‥」と独りごちて手紙へと向き直ります。ここまで話しておいて対応策の解答を教えないというのもおかしいとは思いますが、師匠とはそういう人なのです。
明確な答えを最初から示すわけでもなく、答えを考えさせる。とは言いつつ何も考えてない時もあったりするんですけど。
「それはそうと、さっきから何書いているんですか?」
私が机に向き直った師匠にそう言うと、師匠は羽根ペンを走らせながら続けます。
「お手紙よ」
「‥‥‥因みに、誰に宛ててのお手紙なんでしょうか」
「聞きたい?」
「‥‥‥聞かない方が良い気がしてきました」
「それが賢明ね、というかそうして欲しい」
「え」
「あの子の毒牙からは私が守ってみせるわ」
どこまでが本気で、どこまでがジョークなのかは私には分かりませんでした。しかし、若輩ながら師匠がそこまで言う人物であると言うのなら気をつけようとか、師匠を困らす人なら大人になってからぶっ飛ばしてやろうだなんて思っていた当時の私は、依然として世間知らずだったのでしょう。
「拝啓、親愛なる私の親友へ。私の弟子は純粋さしかない可愛い女の子ですが、あなたは何時になったら一種の純粋さを取り戻し、不純じゃなくなるのでしょうか──ああ、返答は結構です。治ってないの分かってるので‥‥‥」
「親友なんですか?」
「ええ、だからこそ親友には鋭い切り口で攻めていくのよ。じゃないとあの子の頭がぱっぱらぱーになっちゃうから」
「師匠‥‥‥!」
まあ、あれです。「親友にすら遠慮のない切り口で攻め、あまつさえその口調で親友の頭ぱっぱらぱーを治療する師匠すてき!」とか考えていた時点でお察しと言うやつです。
思考回路がどうしようもないあほうでしょう?
しかし、驚くべきことにこれが幼少の私であり、これこそが
びっくりですよね──え、驚かなかったですか?
●
「‥‥‥で、誰が何処の誰に興味があるって?」
「貴方の愛弟子であるところのオリバー君です」
「おい」
さて、先程までの過去語りと今のこの状況。差し当って何が関係しているのかと問われるのだとしたら、『私があほう』だということはハッキリとした答えになることでしょう。
師匠から届いた手紙の内容に従い、平和国ロベッタに向かって箒を飛ばしていると、出国と入国の入れ替わりのような形で私は姉妹弟子である『夜闇の魔女』シーラに出逢いました。星屑のように柔らかく光る髪と、煙草の煙を靡かせる彼女は、その容姿端麗な見た目とは裏腹に口から毒素を吐き出します。
百害あって一利なしの煙草を吸う理由が私には分からなかったのですが、彼女には彼女なりの考えがあるのでしょう。ここは心を寛大にして、彼女と向き合って話をすることに決めます。
それに、彼女と話をするのは1年前に2人で旅行をして以来ですし。純粋に積もる話もあったのも、私が彼女に向き合うひとつの理由でもありました。
そんな私達の間で中心となった話題は、近況報告とこれから。
私は師匠に言われた『とあるお願い』を聞きに教職の仕事に休止符を打って、遥々ロベッタへ。
シーラは、魔法統括協会の敏腕エージェントとして多忙な日々を消化することと、とある1人の少年を魔法統括協会へと引き入れる準備を整える為の帰国。
それぞれがそれぞれの日々に課された仕事を消化するという至極当たり前な報告をしていく中で、私は彼女の口から発せられた1人の少年の名に興味を持ったのでした。
そう、その子こそがシーラのお気に入りとも言える山吹色の髪の少年であるのでしたが──その旨を彼女に話すと、「あぁ?」とやけにうざそうな声が返ってくるのと同時に、口に溜め込んだ煙を顔面に吹きかけられました。
くさい。
「何か問題でも?」
「‥‥‥いや、問題はない。別にアイツがお前に対して拒絶反応を起こさないなら別に良いけどな」
「拒絶反応、ですか?」
「お前、わかってると思うけどアイツに変なことすんじゃねえぞ」
あらあら過保護ですか、意外ですね。シーラなら「放任だ」とかなんとか言って弟子を深い森に置き去りにするようなワイルドな一面を見せるかと思われたのですが。
「しませんよ。私を誰だと思ってるんですか」
「料理下手、寝坊助、蜘蛛苦手、魔法以外は抜けまくり、他人の力を借りなきゃ自立が危ういダメダメプラネタリウム」
「直球勝負やめてください」
「前はもう少ししっかりしてた気がすんだけどなぁ‥‥‥」
「泣きますよ私」
ずけずけと私のダメなところを並べていくシーラは、私の涙目など露知らず「オリバーに手出ししようとすっからだよ」という悪態を最後に煙草を放り投げ、お役御免の紙煙草を炎魔法で抹消させます。
なかなかにスタイリッシュなポイ捨てを敢行したシーラ。その傍らで、内心で私がいじけていると「アイツに家事とかさせたらぶっ飛ばすからな」と彼女が今一度凄みます。
なんですかあなた過保護のお母さんですか。
「よく聞け。アイツはな‥‥‥あたしの弟分なんだ」
「はあ」
それはもう。
耳が腐るくらい自慢話聞かされてるので分かります。
「魔道士を目指します!」と言った時のオリバー君のことを話していた時のシーラの顔のふにゃふにゃ具合ったら、それはもう傑作でしたからね。
「ガキの頃から世話焼いてる」
「そうですね、逐一写真送り付けて自慢してきてましたね」
しかも決まってツーショット。
普段のあなたからは想像できないほどの優しい笑みを見せていますよね。
はいはいご馳走様でしたと何度思ったことか。
「だからこそ悪い影響は与えてやりたくないんだ。分かってくれ」
「私を悪魔みたいに言うのやめてください」
「別にそこまでは言ってねえし、仮に他の奴らに預けるのなら迷いなくお前を選ぶ。ただ、お前にオリバー預けると家事全て押し付けるような気がしてなぁ‥‥‥」
「押し付けません」
「ちょっかいかけんだろ」
「それは、まあ」
「‥‥‥」
というか。
「それを言うなら紙煙草、止めたらどうですか」
「あ?あー‥‥‥禁煙な」
「そうですよ。スタイリッシュにポイ捨てキメてる場合ですか、オリバー君の肺が真っ黒になりますよ?」
「キメてねぇ」
とは言いつつも、痛いところを突かれたと言わんばかりに顔を顰めるシーラ。しかし、その表情も束の間。何かを思い出した彼女が話題転換を試みたのか、言葉を続けます。
「アイツの前では吸ってねえよ‥‥‥けど、痩せ我慢がバレちまったみたいでな。アイツ、あたしになんて言ったと思う?」
「聞いてません」
「もう14だし吸っていいって。あまつさえ吸ってねえことについて『ありがとうございます』ってよ‥‥‥泣かせてくれるよな」
「話聞いてください」
一時期は彼女曰く『眩しさを直視できなかった』らしい少年の姿を、私は依然として見たことはありません。
ですが、今のシーラが1度も取ろうとしなかった弟子を自発的に取ろうとしているということ、そして今までのオリバー君の入れ込み具合から感じ取ったのはオリバー君に対する好奇心。
やはり、話してみたいという欲求は止まらず。かと言ってシーラの話によると試験対策のための努力をしている最中のオリバー君の負担になることは避けたいと考えていた私。
結局、オリバー君については『出逢えたらラッキー』程度に考えようと思い至った私は、過保護なシーラに言葉を投げかけました。
「とにかく、悪いようにはしません。それに話を聞く限りでは試験があるのでしょう。彼の夢を邪魔するのは後味悪いですし、そんな時間すら起きないかもしれませんので安心してください」
「‥‥‥おう」
その瞬間、ホッと胸を撫で下ろしたかのように息を吐いたシーラは「サンキュ」という言葉と共に、2本目の紙煙草を吸います。
オリバー君に対して副流煙の配慮をしてくれているのであれば私にも配慮をしてくれたって良いじゃないですか‥‥‥なんて考えましたが、ここは姉妹弟子の姉の方である私が寛大な精神で彼女に向き合いましょう。
ええ、一昔前の反抗期な私とは違うんです。副流煙なんてなんのその、清らかに流れる川の流れと、その場で戯れる蝶々を想像すればシーラの副流煙なんて───
「何せ私、お姉さんですから。常識くらい弁えてますよ」
「歳考えろよアラサー」
「そろそろキレ散らかしますよ、いいんですか?」
煙を私の顔に撒き散らすのをやめなさいな、くそやろう。
●
時間の経過というものは非常に早く、気がつくと私たちの上空には橙色の空が広がります。積もる話を解放し過ぎてしまった私の未来は、恐らく敬愛する師匠の折檻が待ち受けていることでしょう。この歳になって師匠の折檻を受けるようなダメダメプラネタリウムな私ではありますが、別に後悔はしていません。
無駄だと思うことは何一つしていませんし、これらの選択は私が選んで歩んだ道。何より、師匠の折檻が待ち受けていたとしても耳に入れておきたい夜闇の魔女の心情が私にはあったのです。
そんな私は、今一度シーラに向き直ると彼女に尋ねます。
「して、あなたはオリバー君をどうしたいんですか?」
まあ、色々な師弟愛とも惚気とも言える思い出をほざいていたシーラではありますが、彼女は締める時はキッチリと締める気合いの乗った魔女です。故に、それほど心配というものはしていませんが、やはり気になるのは彼の──山吹の少年の進路のこと。
私がその旨の質問をシーラに繰り出すと、若干の煙を吐いた後に振り返った彼女がうざったそうに私を見ます。
その様は「今更何言ってんだこいつ」とでも言いたげな表情で、やはり蛇足でしたかと気落ちしていると、今一度煙草を銜えたシーラが続けます。
「どうする?」
「はい。そこまでオリバー君に惚れ込んでいるのでしたら結果の是非に関わらず魔法統括協会に迎え入れれば良いと思うのですが、何故試験を?」
「なるほど、つまり星屑のぱっぱらぱーはあたしにコネを活用して不正合格させろと。そう言ってんだな?」
「そうは言ってません。あとぱっぱらぱーやめてください」
もう泣きたいです。
と、そんな事を思いながらおいおいと泣き真似をしてしまおうと思い至りますが、その動作は私がシーラの様子を伺った瞬間に停止します。
そんな私の目の前に飛び込んできたのは、至って真面目な──凛々しくも美しい、夜闇の魔女の表情。
シーラの、一種の真摯さが現れた1面だったのです。
「好きとそれは別問題だ。地力がねえやつが魔法統括協会に入ることは許されることじゃねぇ。それこそ、アイツの為にならねえだろ」
「まあ、それは」
魔法を統括する協会と書いて魔法統括協会というだけあって、この協会は難易度の大小問わず様々な依頼をエージェントの皆さんが承ることとなります。無論、それを選ぶか選ばないかはエージェントさんの自由ですが、難しいものから逃げてばかりでは承ることのできる依頼の範囲が狭まってお金になりません。
時には己の命すらも投げ出すことだって有り得なくもない魔法統括協会は、どちらかと言えばホワイトであり、ブラックでもあるのでしょう。
つまり、ホワイトでいる為には
恐らく、大体そういうことが言いたいのでしょう。
「つーかそんな権限あたしにはないんだよなぁ‥‥‥」
「‥‥‥」
「笑えよ」
「嗤われるのがお望みなら」
笑えませんよ、あなたの考えた真面目極まりない思考なんですから。
なんてことを考えると、今の今まで真面目な顔をしていたシーラが「はっ」と笑い声を上げ、またしても煙草を蒸します。
空を見上げた夜闇の魔女の表情は、どこか期待に満ち足りているような──そんな気がしました。
「但し、来て欲しいとは思っている」
「何故?」
「望んでいるからだよ、そんなご都合主義的な展開を」
ご都合主義、ですか。
「ほぼ同じ髪をした弟子を連れる師匠。弟子の正体は師の意志を引き継ぐ魔法使い──ミステリアスでかっけーだろ」
「そういうのは卒業した方が良いと思います」
「そうか?あたしからしたらテメェの頭ぱっぱらぱーもそろそろ治した方が良いと思うんだけどな」
そう言うとシーラは1つため息を吐き、続けます。
「──夢を見ることはダメなことなんかじゃねえんだよ。本当にダメなのは、ハナっから無理だと諦めることだ」
「‥‥‥」
「しかもアイツには幼馴染との約束もある。その時までに魔法の道を進み、誇れる自分になって逢いに行くって誓ったのにも関わらずそのチャンスを才能がないなんて巫山戯た言葉でフイにしようとした。それはあたし的にはバッドだ。出来るかどうかはガキが考えることじゃないじゃない、やりたいかどうかで1歩を踏み出せるのが未来があるガキの特権であり、使命なんだよ」
その言葉を聞いて、私は目を見開きます。
普段から適当な面はありつつも、オリバー君に対してはいつだって真摯であったシーラ。しかし、それと同時にかなりの頻度でオリバー君にお姉さん的な感覚で甘やかしていたのも確かで、オリバー君のお願いごとならなんでも承ってしまいそうな危うささえ微かに感じていました。
それでも彼女は締めるところを締め、オリバー君の成長に関して厳しさと優しさを抱き、接しています。
今回だって、優しさが垣間見えつつもオリバー君の夢に立ち塞がり強大な敵として、彼女は立ち上がりました。夜闇の魔女は、己の愛弟に対しても優しさと厳しさ、そして強さを持つ
まあ、有り体に言わせてもらうとその面に普通に驚いたのです。
まさかシーラがそこまでのことを弟分であるオリバーくんに対して考えていたなんて、思ってもいなかったのですから。
「それに、導き手になんのは大人の役割だろ」
「導き手、ですか」
「テメェはどうなのか知らねえし興味もねえけど、ガキの頃から今日まで酸いも甘いも経験してきたあたし達ができることってなんだって言われたらよ。そりゃあひとつしかねえよな」
「お前もそう思うだろ?」という彼女の言葉に、私は微笑みます。
間違いではないと思ったのでしょう。シーラの言うことは最もであり、それは私たちが今の今までやってこなかったこと。そして、私たちの師匠であるあの人が、私たちにしてくれていたこと。
私にとっては、その出来事は定められた運命なのかもしれません。はたまた、シーラにとっては師匠とはまた違う、『センセ』とやらの恩義やも分かりません。『導き手』になる動機なんて、姉妹弟子の間柄である私たちですらばらばらです。
それでも。
私たちはあの人の弟子であり、同じ想いを持った姉妹弟子なのです。だからこそ、私はそんな彼女の言葉に微笑んだのです。
シーラの言葉が間違いではないと思ったから。
そして、何よりシーラが抱く想いが私の抱く想いとまるで間違いではないと、図星だったから。
だからこそ、私は微笑み──彼女に言葉を返したのです。
「奇遇ですね。私もそろそろ1人目が欲しいと思っていましたから」
「は?」
「いやまあ、あなたも同じ気持ちだったというのは些か気が引けるポイントではあるのですが‥‥‥」
「さりげなくディスってんじゃんねえよ。何お前、本気で弟子取る気なのか?料理の才能を魔法に全て回したようなお前が?マジで?」
「マジかよ‥‥‥」と言いつつ、本日5本目の煙草を取り出すシーラ。
それはこっちのセリフだと悪態をつければ良かったのでしょうが、この雰囲気に傷をつけることを恐れた私は、けほけほとわざとらしい咳を吐きながらシーラに抗議をします。
いやほんと、いつまで私に副流煙の被害与えるつもりですか。
まじでけむいんでやめてください──と、せめてもの思いで内心彼女に悪態をついていると、「あぁ‥‥‥」と何故か私に対して1歩距離を置いた
「料理感覚で弟子作んのマジでやめとけって」
「殴りますよ?」
「口だけじゃねえか」
それはもう、うざったそうにため息を吐いて言葉を続けたのでした。
2章終了後の3章は……?
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魔法統括協会編!(全15話完結予定)
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2人旅編(全30~40話完結予定)
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両方同時並行(がんばる)
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アムネシア編