どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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16話 「...デートなのだが?」上

イレイナさんとの箒デートは、全俺が待ち望んだ俺史上最高のイベントである。

まあ、イベントにしちゃひどくささやかで、それこそかつてのイキリ散らかしてた俺が企画したイレイナさんお誕生日おめでとう前夜祭には満たない位ではあるのだが、それでも俺にとっちゃ重要で、楽しみな、そんなイベント。

まさか百合の重力に引っ張られているこの世界で異性と親友になり、あまつさえこうやってお出かけできるようになるなんて、思ってもいなかったんだからな。こんなの楽しまなきゃ損ってやつだよな。

 

「たのもー!」

 

と、いうわけで。

なんて言うとあまりにも唐突で仕方ないのだが、俺はイレイナさんの家のドアをノックしていた。

今まで何度も見たこの光景。前世で魔女旅のアニメを何度も周回していた俺にとっては馴染み深い家のドアをノックすると、しばらくした後に「ちょっと待っててねー」というヴィクトリカさんの声が聞こえてくる。

いやあ、はっは!いつ聞いてもヴィクトリカさんの声は最高だな!

こう、全てを見透かされているかのような声色、たまらねえっすよね!!

 

「はぁぁぁぁ‥‥‥やっぱヴィクトリカさんお母さんだわ‥‥‥!最っ高のイレイナママだわッ!!」

「なに悶えてんすか」

 

まあそんなことを考えていたら当然悶えるし、それを見ている人には『こいつなにしてんだ』的なことを思われるわけで。

尊みで達し、なおも有り余る尊さで膝をつき、右手で心臓を抑えながら悶えている俺に、2階の窓からイレイナが声をかけてくる。

因みに今の彼女、ちょこんと生えた寝癖が非常にキュートである。寝癖すらも可愛さにできてしまう女の子、それが未来の灰の魔女、イレイナなのだ。

クッソかーわいー!

 

「違うぞイレイナ。これは最敬礼だ」

「誰に最敬礼してるんですか。控えめに言って頭おかしいんじゃないんですか」

「控えめじゃなくて草。それと、この最敬礼は寝癖がキュートなキミにしているんだ。少しは自分の可愛さを認識してくださいねー‥‥‥全く、イレイナちゃんは可愛すぎなんでちゅから」

「撃ち抜かれたいんですか?」

 

言って、杖を右手に持つイレイナさんが魔力の塊を俺の右隣に撃ち込む。

これがマトモな人間なら『もう撃ってんじゃん』と悪態をつきたい気分になっているのだろうが、正直イレイナさんの魔力の塊は照れ隠し半分、ガチおこ半分なので悪態をつく気になれない。

今までの経験上間違いない。今日だってあんなに雰囲気が冷酷で、笑ってるけど目だって鋭くて、ついでに今の魔力の塊は生命の危機を感じるレベルだったけど、絶対に照れてる筈なんだ。

多分。

 

「それはそうと、イレイナさん。まだ支度してねえんすか?」

「待ち合わせの時刻の何分前だと思ってるんですか」

「やだな、男は黙って1時間前集合だろ?」

「え、重すぎる‥‥‥」

 

遅刻したらしたで怒るじゃないか。

重いなんて言葉で誤魔化すんじゃありません。

 

「とにかく、少し待っててください。女性は準備の時間が目いっぱい必要なんです」

「正直イレイナさんを困らせる快楽はあった」

「こっち見ないでください、変態さん」

「うっへっへ!」

 

窓を閉めるイレイナさんを見送り、玄関先の庭でぱたぱた飛んでいる蝶々を見ながら時間を潰す。

それにしてもだ。

やはりこの時間に来るのはマナー違反だったろうか。どこかの雑誌に1時間前位から待ってた方が無難とか書いてあったのを前日になって思い出した俺ではあるが、それは待ち合わせ場所にもよるだろうと心の中の俺がツッコミを入れたのが今さっき。

やってしまったことは取り返しが効かないが、ここでひたすら仁王立ちしているのと、時間を空けてもう一度出直すのとでは今後の印象に大きく影響するような気さえする。

ならば、1度どこかで時間を潰して20分後位にまた来よう──なんて思いつつ踵を返そうとすると、()()()()()()()()()()()()()()ドアが開く。

 

「いや早いな、おい」

 

その時、ドアに背を向けていた俺はドアを開けた本人がイレイナさんだと信じてやまなかった。故に口から出た言葉はタメ口だし、何より声のトーンも若干低い。その理由は言わずもがな、『先程は時間がかかると言っていたのにも関わらずどうしてこんなに早いんですかぁ?』的なツッコミを内心でしていたからであろう。

 

「まあいっか。今日は楽しむぞー、何せ今日はイレイナさんの魔女見習い合格記念だからな。目いっぱい楽しんでもらうために、キミを甘やかす準備はもうバッチリ‥‥‥」

 

故に俺は気づかなかった。

ドアを開けた本人が()()()()()()()()()()ということに。

そして、俺を見下ろすその姿が俺にとっての恐怖の対象であるところの──イレイナさんのパパだということに。

 

「あっ」

「‥‥‥やあ、おはよう。オリバー君」

 

ドアを開いた人の正体を見て、俺の笑顔が固まる。まるで放り投げられた時限式の爆弾を見るが如く、呆けているであろう表情でその人を見ていると、その人は俺を見て一言。

 

「‥‥‥目いっぱい甘やかす、かい?」

「は、ははっ‥‥‥」

 

ラスボスかな?

なんてふざけたことを抜かせる度胸があるのだとしたら、俺はもうとっくにそこら辺の女の子侍らせてハーレム生活を送っているであろう。

しかしそれができないから困っているのだ。

巫山戯たことを抜かそうものなら随分前の時のように「オリバー君に娘をやるなど10年はやぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!」とか「貴様ァァァァァ!!!!」とか言われて怒られてしまうであろう。

 

いやもう怒ってるまであるんだけどな。

だからこそ、これからの発言で挽回しなければならない。

リスクマネジメントってやつが、今の俺には必要だったんだ。

 

「や、違うんすよ。厳密に言うと優しさっすよね、度重なる試練に心を痛めた娘さんの心を癒す‥‥‥そう、つまり俺は回復魔法──」

「攻撃魔法の準備ならできているが?」

遺書だけ先に書かせてもらってもいいすか?

 

まあ、意識したところで全然できないんだけどな。

 

先程の発言のせいで、引き攣った笑みを見せて俺を見るイレイナパパの背中から修羅のようなオーラが生まれたような──そんな気がした。あいや、『どうして今の発言のせいで』と問われれば何となく察しはつく。

あれだ、俺ってイレイナパパ的に娘を誑かすチャラ男なんだわ。イレイナパパの子煩悩な脳内では、俺が「うぇーい!パパさん見てるー?お宅の大切な娘さんなんですがー‥‥‥なんと、今俺と一緒に遊んでまーす!」とか言っているのだろう。

まあそれに近しいことを平然とやってのけているラッキースケベ&ハーレム希望のクソザコな俺は決して文句は言えない。むしろ、イレイナさんという物語の主人公が両親に愛されているというこの状況に、素直に喜ぶべきなのだ。

 

「そう、それはつまり愛‥‥‥!尊さ!!イレイナパパとイレイナの間にある絆だけでご飯3杯は余裕──」

「‥‥‥誰がパパ、なのかな?」

 

あ、死んだ。

 

「‥‥‥先に言っておくが僕はキミのお義父さんになったつもりはないぞ?」

「いやー何言ってんすか。恐れ多いっすよ、それってつまり俺とイレイナさんがごけっこ──」

「貴様ァ!」

「んんっ!?」

 

己のミスを認め、慌てて弁解するものの時すでに遅し。激おこのイレイナパパを止めることは俺には叶わず、「貴様ァ!」という声が現実から逃げてしまいそうな俺の心を嫌でも引き戻す。

ああ、これはもうダメかな。イレイナパパに嫌われ、最終的にはイレイナさんにお近付きになることすらできないルートかな‥‥‥なんて思いつつ、内心げんなりしていた俺。

 

それでも、どこかで救いの女神ってのは手を差し伸べてくれるらしい。いや、この場合勝利の女神って言えばいいのかな?

 

「あらまぁ、朝からどうかしたの?」

「ヴィクトリカさん!」

 

イレイナパパの奥さんであり、イレイナのお母さんであるヴィクトリカさんが玄関から顔を覗かせ、イレイナパパの元へ歩み寄ると、途端にイレイナパパの修羅のオーラが引っ込んでいく。

あれか、奥さんの前ではカッコよくいたいってか?

ヒューヒュー!妬けちゃうねぇ!!

 

「オリバー君。今日はイレイナをよろしくね」

「うっす!」

 

まあ、それはそれとして。

ヴィクトリカさんに言われたことは俺の中で既定事項であり、当たり前のことでもあるため元気よく、迷いなく返事をする。

だって当たり前だよな。今日という日はイレイナさんが望んだことであり、俺が望んだものでもある。

この1日がイレイナさんにどのような影響を与えるかどうかは知らんけど、そんなものは俺が何をしたいかという願望に比べたら大したことではない。

俺は、イレイナさんのお願いならできるだけ叶えてやりたいと思ってしまっている変態なんだ。

悪いか?悪くないだろ。いや、違うな‥‥‥悪くないと言え。

 

「ヴィクトリカ‥‥‥!?」

「別に愕然とすることでもないでしょうに。そもそもの話、オリバー君の真面目さはあなたも知っているでしょう?」

「そ、それはそうだが!けど、母さん!」

 

と、そんなことを俺が考えているとイレイナパパの視線が俺からヴィクトリカさんへと移り、抗議の声を上げる。

どんな時でも娘を想い、外敵を排除はせずに修羅のオーラで追い返し、いざと言う時には自らの妻の圧にも負けない。

そんなイレイナパパは正直に言うと推せるのだが、そろそろ真面目に話して、キチンとイレイナパパにデートの許しを得なければならない。

 

「そういえば、初めてのデートは10歳の頃だったかしら?」

「んん!?」

「確か、お使いに行った時に一緒に箒で2人乗りして」

「2人乗りしたのか!?」

「一緒に胡椒を買いに行ったのよね」

「胡椒!?」

 

何故かって、ヴィクトリカさんの言葉から壮絶な誤解が生まれているような気がするからだ。

これはあくまで俺の見解なのだが、この人って小悪魔という言葉では表せない程にドSなのよな。旅先で守銭奴って言われるくらいお金大好きだし、どうやったらお金儲けできるかを沢山考える人だし、賢いけどお金大好きだし(2回目)。

 

さっきまで勝利の女神でヴィクトリー!とか内心で思ってた俺をトンカチでぶん殴ってやりたい。確かにヴィクトリカさんは決める時はズバッと決めるカッコイイ人ではあるが、少なくとも今の彼女はそうでは無い。

差し詰め、今のヴィクトリカさんは確信犯の女神である。現に今、ヴィクトリカさんが悪戯っぽい笑みで「ね、オリバー君」とか言ってきやがった。

ちくしょう、本当なら怒りたいんだけど笑みが美しすぎて怒るに怒れねぇ!!

 

「お、オリバー君‥‥‥キミは一体どれだけ僕の愛娘を誑かせば気が済むのかな‥‥‥?」

 

んで、このイレイナパパの修羅のオーラよ。

再び燃え上がるような怒りを滾らせて俺を見るイレイナパパは笑顔すら見せているものの、一言失言でもしてしまえば怒り狂って首チョンパされそうな凄みがある。

とはいえ、引く訳にはいかない。

考えてみろ、イレイナさんとのデートは数日前から約束していたもの。待ち合わせ時間すら決めたその約束を、イレイナパパの凄みくらいで破れるか?

答えは否、だ。

この前も言ったけど、俺は確約をしてくれた幼馴染兼親友にはいつだって真摯でいたいのだ。そのためなら悪魔に魂も媚びも売ってやる。

それくらいの決意なんだ。壊せるものなら壊してみろよ、おとうさん!!

 

「誑かしてないっすよ。俺は本気です」

「ッ──それ、は」

「巫山戯てもいません。これは俺が望んだことですし、事の終わりまで責任を取ります」

「な、ななっ‥‥‥なに、を」

 

あれー、おかしいね。

なんかイレイナパパが動揺しているね。何故か頬まで紅潮させてるし。

とはいえ、これは好機だ。現に今の今まで見せていたイレイナパパの修羅のオーラは動揺によって消え失せ、その代わりに確かな隙が生じている。

こうなればこっちのもんだ。

真摯な言葉と、俺の得意技であるところの直球火の玉すこすこストレートでイレイナパパに『決して今日の遊びは不純な動機ではない』ということを伝えられれば──

 

「俺は本気でイレイナさんという親友と遊んでいるんです!信じてくださいッ!!」

「貴様ァ!!」

「ファッ!?」

 

これぞ本当の修羅場ってね!

ははっ、笑えないね!!

 

 

 

 

 

 

ぶち込まれた。

情け容赦もなく、首から下を地面に埋められた。

「全く、近頃のオリバー君は!!」と激おこプンプン丸(死語)のイレイナパパを「あらあら、貴方の親友の子でしょうに」と窘めるヴィクトリカさんの会話を見るに、どうやら俺の予想は間違ってないらしく──イレイナパパの中で、俺は娘を誑かすチャラ男と化しているのであろう。

なんならいっその事吹っ切れてチャラ男になってやるか。そっちの方が人生楽しく生きられるんじゃねえか?サヤさんやアムネシアさんに対して「うぇーい!そこのお嬢さん方、お茶しないうぇーい!?」ってさ。

 

あ、無理だ。多分‥‥‥というか絶対殺されるわ。

サヤさんとか、そういうチャラ男はもれなく魔法で肉体的な意味で殺すだろうし、アムネシアさんは「んー、めんどくさいからしないわ」とか純新無垢な笑顔で言ってきて、精神的に殺されるわ。

あの子たち、イレイナさんにゾッコンだもんね‥‥‥

早く出会って結婚しねえかな。

 

「‥‥‥えぇ」

 

そんなことを考えていたらイレイナさんが準備を終えて玄関のドアを開けたらしく、こっちに向かって哀れみいっぱいの視線を向けてきた。

対して、首から下が地面に埋まっている俺はイレイナさんを見上げることしかできない。強いて言うならイレイナさんの足をまじまじと見るくらいのことしかできない俺は、それすらもはばかられ「やー、キツいっす」という言葉でイレイナさんの視線に対応する。

イレイナさんがジト目でこちらを見てきた。

好きになってもいいのかな?

 

「ものの数分でこのような事態になった理由を簡潔に説明してください」

「イレイナのお父さんを怒らせた」

「馬鹿ですね」

 

イレイナさんの内角直球火の玉ストレートが俺の胸を抉る。

会話下手なのは自覚しているのだが、それ以上に俺はイレイナパパと馬が合わないらしい。発した言葉の尽くがイレイナパパの琴線に触れ、貴様ぁ!と怒られるこの惨状は、もはやワードセンスやトークセンスだけではどうにもならない気さえしてならない。

そもそもの話、イレイナパパの俺に対する印象チャラ男だしな。

先ずは「うぇーい!」とか巫山戯た態度を改めなければ先は無いのだろうが‥‥‥何故か考えなしに先走ってうぇーい!とか不用意な発言をしてしまうんだよな。

ほんと、なんでだろうな。

俺にもわからん。

 

「あ、それはそうとイレイナ。俺の事助けてくんねえかな‥‥‥これ、息はできるんだけど自力で抜け出せなくって」

「え、無理です。魔力の無駄遣いじゃないですか」

「それはキミのパパに言ってくれるかな?」

「言えるわけないじゃないですか。オリバーだから言っているんです、アホのオリバーですから」

「くそう、このファザコンめ‥‥‥」

 

イレイナにとって俺は罵倒を気軽にできる仲にある男の子らしい。それはそれで嬉しいし、正直推せるのだがこの状況では悶えることもできない。

と、いうわけで物体を宙に浮かせる浮遊魔法で助けて貰った俺。

メキメキと柔らかい地面が音を立て、遂に俺の身体が空気に触れたその瞬間、イレイナのジト目が俺の視線に映る。

あかん、興奮してきた。

 

「はーサンキュ‥‥‥ったく、なんだかんだ言って助けてくれるんだからイレイナは可愛いんだよな」

「あ、やっぱ顔面まで埋めときゃ良かったですかね」

「いや埋めんなよ死ぬわ」

「お父さんに怒られたのもそういう不用意な発言を無くす努力をしなかったからでは?」

 

図星なだけになんとも言えん。

けど埋めるのはやめろ。

2度目の人生が生き埋めエンドとか俺得にもなりゃしないだろ。

な?だからその物騒な杖しまって。頼むからイレイナパパと同じ魔法使おうとしないで!

 

「それにしても、キミのお父さんはなんというか‥‥‥愛情に溢れた人だよな」

 

杖を振りかぶるフリをしながら『やるんですか?おぉん?』とでも言いたげに悪そうな顔をしているイレイナさんにそう言うと、意外な言葉だったのか彼女の動きが止まり、目が見開かれる。

 

「愛情に溢れた、ですか」

「おうとも。誰かを大切にする姿勢とか、そういうのがそっくりで、キミのお父さんなんだなぁって思うよ。愛されてんな、イレイナ」

 

やはりこの子が物語の主人公となるに相応しい優しさと強さを持つ人になったのはヴィクトリカさんやフラン先生だけじゃなく、この人の影響も大きいんやなぁって。

娘を思う優しさ、その想いを断たない心の強さ。これらは間違いなくイレイナパパの強さであり、イレイナさんが引き継いだ確かなもの。

そりゃあ、まあ外見はほぼヴィクトリカさんだけどさ。やっぱこういう面を見ると、イレイナさんの家族って本当に凄い人達なんだなって思うよ。

 

「いやもう隠しても無駄だから言わせてもらうが。ここだけの話、俺はイレイナパパを尊敬している。俺もあんな風に誰かを想える、そんな人になりたいんだ」

「言葉の通り、無駄なカミングアウトですね」

「そうか?理想像を話すのは悪いことじゃないだろ」

 

ヴィクトリカさんやイレイナパパ、果てはシーラのおねーさんや未だ出会ったことの無いフラン先生にも言えることなんだけど、本当に凄い人って純粋な強さだけじゃなくて優しさもあるんだぜ?

俺、大人になったらイレイナパパと盃交わして舎弟にしてもらうんだ‥‥‥(届かぬ思い)。

 

「‥‥‥そもそも、誰かさんを大切になんてしてませんし、お父さんほど誰かさんを想う気概もありません。それから、家族から愛されてるのは肯定しますがそっくりなんかじゃありません。訂正してください」

「いや、俺からしたらそっくりだとしか思えないのだが‥‥‥まあいっか。俺的にはもうお腹いっぱいだし」

「は?」

「イレイナさんとイレイナパパの絡みでご飯3杯は行けるウェイね‥‥‥」

「いや、したり顔で何言ってるんですか‥‥‥」

 

呆れたような態度でそう言うイレイナさんに、俺は「ははは‥‥‥」と乾いた声を上げる。

正直、イレイナさんと遊ぶ前に壁にぶち当たった俺は精神的にも体力的にも疲弊していた。イレイナパパの修羅のオーラには殺られるし、穴にぶち込まれるし、ヴィクトリカさんの悪戯っぽい笑みにも殺られるし──まあ、それだけイレイナさんが愛されているということを知ることで得た快楽も無きにしも非ずだが、それでも疲れるもんは疲れる。

正直に言うのならこの先の未来、イレイナパパとは喧嘩せず平穏にお話していきたいものだ。

 

「戯言抜かしてないで早く私を連れて行ってくれませんか、変態さん」

「はいはい、んじゃ‥‥‥」

 

それでも、これから起こる出来事に比べたらイレイナパパとの口論や、ヴィクトリカさんの悪戯っぽい笑みなんて些細なものだと。疲れなんて関係なくこの1日を楽しめるんだと。

そう言いきれてしまえる俺は、きっとこの日を自分でも想像できないくらい楽しみにしていたのだろう。

 

──試験の日はまだ決まっていないが、これからイレイナさんも俺も、己のやりたいことに向けて努力する時間の方が圧倒的に増えてくるため、こうして羽目を外せるのは恐らく、これっきりでしばらくは遊ぶことなんてできないだろう。俺とて目の前の親友ともっと遊びたい気持ちはあるが、彼女の魔女見習いとしての時間もあるし、何より自分の目標を叶えなければ()()()()()()()()

 

だからこそ、俺は楽しむのだ。

恐らく少年時代のロベッタでは最後になるであろうイレイナさんとのデートを。

そして、何よりも好きなこの一時を笑顔で過ごすために。

 

「今日1日、俺に付き合ってくれるかなー!?」

「‥‥‥」

「無視かなー!?」

「いやテンション高いですね‥‥‥」

 

右拳を上げて、イレイナさんをドン引かせたのだった。

 

 

 

2章終了後の3章は……?

  • 魔法統括協会編!(全15話完結予定)
  • 2人旅編(全30~40話完結予定)
  • 両方同時並行(がんばる)
  • アムネシア編

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