どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
イレイナパパとの口喧嘩?やらヴィクトリカさんの悪戯っぽい笑みやらを乗り越え、イレイナさんとの箒デートを無事始めることができた俺。
そんな箒デートの船出は、至って普通の空中散歩から始まった。
改造した箒の背もたれに寄りかかる俺の前で座るイレイナさんは先程から目の前に広がる景色を楽しみつつ──たまに俺の方を振り向いては何かを言おうとしている。
はて、どしたのかね。
「さっきからどうしたのかな?」
「え」
「チラチラこっちの方を見て‥‥‥俺的にはイレイナさんの可愛らしい表情が見れて得しかないけど、もしかして箒の座り心地良くない?」
それは12分に有り得ることだと思う。
箒って言っても俺の場合、背もたれとか色々改造しているし、イレイナさんにはイレイナさんの箒がある。それらを鑑みれば俺の箒がイレイナさんの思う良い座り心地と大きな差異があるということは否めず、そんなことに今更気付いた俺は、今更イレイナさんに乗り心地の善し悪しを尋ねたのだ。
しかし、俺のその言葉にイレイナさんは首を横に振ると、俺の方は見ずに前を見て言葉を続ける。
「座り心地は良いですよ」
「マジで?」
「はい、マジです。箒のメンテナンスを欠かしてませんね、感心します」
うへへー!イレイナさんに褒められたー!
箒のメンテは欠かしてないし、なんならシーラさんと魔法統括協会の話する前にメンテならぬ話し合いを沢山したもんねー!
やっぱり気を遣っているところに気付いてもらえると嬉しいし、そういうところが本当にカッコイイなと思いますね、はい!
けど、それならどうしてチラチラ見てんのかなー‥‥‥ひょっとして、やっぱり2人乗り嫌だったのかな?なんて思っていると、意を決したようにイレイナさんがこちらを振り向き、言葉を発した。
「‥‥‥あの」
「ん?」
「先に言っておきますけど、ありがとうございます」
ん?
いやまあ、別に‥‥‥そう言われたら「どういたしまして」って言うのは俺が当たり前なんだけどさ──と、そんなことを思いながらイレイナさんの様子を伺うと、心做しかイレイナさんの頬と耳が赤い気がする。
‥‥‥ううむ、尚更分からないぞ。
「なんで──って聞いてもいいか?」
「それは、まあ。そこそこ突拍子もない話でしたし、なんなら冗談程度に言った希望でしたし」
「‥‥‥あー」
「それにも関わらずオリバーは私の我儘を聞いてくれましたから。だから、感謝しているんです」
「ありがとうございます、オリバー」と。それはいつもの彼女らしからぬ勢い任せの言葉であったと言える。どちらかと言えば落ち着き払った性格のイレイナさんは言葉の一つ一つが丁寧で、冷静だ。恐らく、昔からそういうことを意識してきたのであろう。無駄のひとつもない丁寧語を取っても、誰よりも冷静な判断を心がけようという彼女の意識が垣間見える。
まあ、それ以外にも余計な敵を作りたくないとか己の腹黒さを少しでも隠すためだとか、色々理由はあるんだろうけど。
そんなイレイナさんのあからさまに焦ったような早口に、俺の頬は少しだけ緩む。「何笑ってんですか」と恨み節が聞こえてくるが、それでも今の俺はいつもの俺が「クレイジー」と言ってしまうくらいリラックスしている。
この状況で面白いことを意図的に言ってやろうと思えているのが、何よりの証拠だ。
「まあ我儘かはともかく、1度イレイナさんと誰にも聞かれない
「‥‥‥え?」
「最年少魔女見習い、1対1の勝負で圧巻の魔力の塊連打!相手の女の子はグロッキーって新聞に書いてあってさ」
「‥‥‥さて、なんのことでしょうかね」
「試験後日のイレイナさんの表情が笑ってたけど怖かったからさ。何があったのかなーって」
新聞記事を見た時は驚いた。
原作を知っているということもありイレイナさんが難なく試験を突破するということは大体分かっていた。俺との出会いで何かが変わってしまったら万が一のこともあるかな──なんてのは杞憂で、それこそイレイナさんは他の魔法使いとは比べ物にならず、下手したらロベッタの下手な魔女なら容易に倒してしまいそうな、そんな実力を試験前には身につけていたのだ。
その結果、イレイナさんはあっという間に。簡単に魔女への第1歩を踏み出し、魔女見習いの身分を証明する桔梗のコサージュを得た。
最後の敵を、グロッキー状態にして。
いや、まあ専らの噂ではまた復帰して「おーほっほ!前回のアレはまぐれですのことよー!!」とか言ってるらしいけど。
記憶飛んだんかな?
「もし良かったら聞かせてくれないかな。それで気分が軽くなるのだとしたらに限るけど、聞きたい」
「‥‥‥あれは」
すると、イレイナさんは少しだけ頬を膨らまして俺から視線を切る。
どうやら俺がその質問をするのは彼女にとってはNGだったらしい。俺の胸ぐらをちょこんと指先で掴むと、前だけを見た状態でイレイナさんが続けた。
「‥‥‥悪いのは相手の女性の方です」
「ふむ」
「オリバーのことを馬鹿にして、あまつさえあなたのことを犬だと。私の後ろを子犬のように付いていく自立のできない甘ちゃんだと、そう言ったんです」
「ふむふむ‥‥‥って、いたい!ちょ、ま、イレイナさん!?この箒俺が操縦してるの忘れてません!?」
「それはもう、私の親友を馬鹿にしてくれましたからね‥‥‥傲慢さという彼女の弱点をサーベルでぶすぶす刺してやりました」
さ、さいですか‥‥‥!!
それはまあ、めちゃくちゃ嬉しいし感謝してるんだがイレイナさんって人の胸ぐら強く掴むほどアグレッシブだったっけ‥‥‥!!
「はわわ‥‥‥!」と女の子顔負けの声を上げつつ、イレイナさんの凶行に慌てふためく俺は、引き攣った笑みを浮かべつつ、眉間に皺を寄せて怒っているイレイナさんから見てどのように見えたのだろうか。
俺には分からない。
「と、ともかく!俺の事で怒ってくれたのは感謝してる、あんがとな」
「‥‥‥別に構いません。それに、これは私のためでもあるんです」
「イレイナさんのため?」
「はい。親友がコケにされる現状は私の精神衛生上良くありませんし‥‥‥流石に親友を犬扱いされたままでは黙ってられませんから」
とはいえ、こういうところがあるから俺はイレイナさんが親友として大好きなのだろう。
こうして悪く言うやつをぼこぼこにしたりするのもそう。
辛辣な言葉の方が多いけど、たまに思いがけない言葉で励ましてくれるのもそう。
イレイナは、いざという時に『人を思いやる』。それがどういう結果になろうとも、気持ちを慮る。今日の俺に対してだってそう。きっと、今の出来事を話さなかったのは──そういうことだろ?
だから俺は思う。
俺に対して
確かな証拠はなにひとつないけど、そう信じて止まないんだ。
「‥‥‥イレイナさん」
「なんですか?」
「抱き締めてもいいかな?」
「はぁ?何を言ってるんですか気持ち悪い」
で、その気持ちの暖かさに触れた俺は今日も今日とて変態的な発言をイレイナに敢行する、と。
控えめに言って死にたいのかな?
「それにしても、そんなこと言われてたなんてな‥‥‥どうせなら猫ちゃんが良かったわな」
「物の喩えで馬鹿にされているのですがそれは」
知ってる知ってる。
ただ、「転生したらアムネシアだった件」を書いていた俺としますと、やっぱり転生したら系のオチは憑依か動物系なんすよ。
憑依すりゃカップリングを知ってる分推しと推しのキューピットやったりできるし、動物もアニマルセラピーやらで可愛がってもらえてキャラの新境地を開拓できるかもしれんし。
猫を可愛がるアムネシアさんとかサヤさんとか見たいでしょ‥‥‥見たくない?
「ま、それはともかく。そんなことを言われてたんなら、イレイナさんのためにも俺自身、もっとちゃんとしないとな」
「ちゃんとする、ですか」
「おう。俺のことで嫌な思いさせて本当にごめんな、俺もちゃんとキミが誇れる親友になれるようにするからさ、もう少し──」
待っててくれ。
と、ここまで言おうとしたところで俺の口が何者かに塞がれる。
無論、塞いだ正体はたった1人。
イレイナさんだった。
やだ、俺イレイナさんの手にキスしてる!?
これってラッキースケベじゃね!?
おいおい赤ちゃんの時に目標にした夢叶っちゃったよ!やったね!!
「要りません」
「むがもがが?」
「はい、そんな焦燥感要りません」
と、まあそんな巫山戯たことを考えつつもイレイナさんの言葉に耳を傾けていると、『要らない』という言葉をぶつけられた。一瞬、「あなたは要りません」的な解雇通知かと思ったんだが、そうでもなく。
微々たる俺の気持ちの変化を目敏く悟ったイレイナさんは、俺を見て優しく微笑んだ。
「そんなことで焦る暇があるのなら、地道に着実に実力を伸ばしてください」
「いや、しかしだな‥‥‥」
「しかしもかかしもないんです。大体、それを言った人って魔道士の人、たった1人ですからね?しかも詭弁も甚だしい一言ですし、気にしなくていいんですよ」
「それに」とイレイナが続ける。
「私がしたいのは親友の名声で威張ることじゃありません。あなたとの──山吹の髪の魔道士さんとの確約を果たすことなんですから」
「!」
「そこら辺、勘違いしてもらっちゃ困りますからね。覚えておいてください、魔道士さん」
最後に一言、そう言うとイレイナさんは「全く、これだからオリバーは魔法戦で私に連敗続きなんですよ」と痛いところを突く。
そして、そんな彼女の一言に面食らってしまった俺は、内心でその言葉に驚くのと同時に、どこか胸の奥にスっと入ってくるような、そんな感覚がした。
そうだ。俺のやりたいことなんて、既に決まってるじゃないか。
時目の前に壁が立ち塞がろうとも、敵が群がっていようとも、最後まで諦めずに
最後までだ。イレイナさんはそれを許してくれた。魔法の道に進み、いつか旅をしているイレイナさんに逢うという確約を果たすまで、恩を返すことを待ってくれると、そう言ったのだ。
焦る必要なんてない。
着実に『なりたい自分』に向かって、歩いて行けばいいんだ。
「‥‥‥ははっ」
「いや何笑ってんですか」
「いや、ほら‥‥‥イレイナさん、俺のこと魔道士さんって強調したからさ。地味に魔女見習いマウント取ったのかなーって」
「おや、マウントを取る私は嫌いですか?」
「まさか、大好きだ」
瞬間、ビクッと身体を震わせたイレイナさん。
「‥‥‥突拍子もなく何を言ってやがるんですか?」という言葉と共に殺意マシマシの視線が送られてくるが、恐怖なんてなにひとつ感じやしない。
だって、今の俺の一言は──
「イレイナ」
「?」
「──ありがとう」
紛れもない、俺の本心なのだから。
その後、俺達は様々な場所で時間を過ごした。平原にたどり着いて口論の末にバトって無惨に敗北したり、以前に行った喫茶店でたまごサンドを食べて、談笑したり、それ以外にも様々な場所で束の間の一時を過ごした。
まるで時間すら忘れ、早く感じてしまうようなこの感覚はイレイナさんとの一時が本当に楽しいものなのだという証左となり、俺の心に響く。
そして、その響きは中毒となって──またこんな一時を味わいたい、過ごしたいと思ってしまうわけだ。
いつかまた、こんな風に楽しめたら。
そして、今はまだ叶うことはないけれど。
どこかで会って、少しの間だけでもいいから2人旅が出来たらなって、そう思えた一時だった。
「あぁ〜‥‥‥幸せだったなぁ」
そんな1日を過ごした翌日、朝ごはんを食べた俺は昨日のイレイナさんの可愛さに悶えつつ、なんとか朝ごはんを食べ終えていた。
いや、だって仕方ないじゃん!
私服イレイナさんめっさ可愛かったもん!
パン食べるイレイナさんめっさ可愛かったもん!!
魔法戦で勝ってドヤるイレイナさんクッソ可愛かったもんッ!!
「くぅぅぅぅ‥‥‥!恐悦至極ッ‥‥‥!マジ箒デート最高‥‥‥ッ!!」
「何悶えてんの、オリバー」
「きゃああああ!?」
途端、食器を片付けに来た母さんに声をかけられて心音が跳ね上がる。故に発してしまった女の子みたいな叫び声を母さんは歓迎しなかった。
「えぇ‥‥‥」という声とともに苦笑いした母さんは、小さくため息を吐くと、俺に『あるもの』を差し出す。
「いや、なにその女の子みたいな声‥‥‥まあいっか。はい、これ」
「なにこれ?」
「手紙、シーラちゃんから。ちゃんとお返事返してあげなよー?」
その正体に目を見開いた俺は、丁重にその手紙を頂き、中身を見るために封を開く。すると、いの一番に書かれたその文字が、俺の浮ついた気持ちは一気に寸断される。
──1ヶ月後、試験すっから
まあ、有り体に言わせてもらうと俺の気持ちが『イレイナさんとの思い出のあれこれ』から『魔法統括協会』へと切り替わったんだ。
やはり、甘々な時間はこれが最後だったか──なんて呆れながら吸う空気は普段より重いような、そんな気がした。
「‥‥‥ははっ、急すぎでしょ。センセ」
期間は1ヶ月。
それまでに何ができるかなんてのは分からないが、そういうことなのだとしたら文句は言えん。
これは俺が選んだ道であり、やりたいと思ったこと。
叶えられるチャンスが存在しているのならば、それ以外はなんだっていい。
俺の今まで培ってきたことを全て発揮する。
それしかないんだから。
まあ、そんな俺の気持ちを前提として、敢えて一言文句を言うのだとしたら──
「試験何やるのかくらい教えてくださいな」
それくらいは言っても、バチは当たらないはずだろ──なんて考えた山吹の髪を、窓から吹き付ける柔らかな風が靡かせる。
その柔らかな風がぜひぜひ追い風でありますようにと半ば他力本願的な願いを抱いた俺は、魔法の練習をするために平原へと向かう。
試験まで残り1ヶ月。
未来に待つ確約のために、俺は誰もいない平原を踏み締めたのだった。
2章終了後の3章は……?
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魔法統括協会編!(全15話完結予定)
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2人旅編(全30~40話完結予定)
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両方同時並行(がんばる)
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アムネシア編