どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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負けず劣らず、重いぞお前って話


18話 「山吹の魔道士の話」

 

魔法は意外と面白い。

その事実に俺が気付いたのは、シーラさんという魔女から魔法の指導をしてもらうようになってからである。

 

『いいか、オリバー。魔法ってのはとにかく撃たなきゃ始まらねえ。撃って、撃って、撃ちまくって、魔法ってのがどんなものなのか、どの程度のものなのかを熟知して、初めて魔法が上手くなる』

『ふむふむ‥‥‥ふむ?』

『つまるとこ、お前は魔法とダチになれ。今のお前は魔法と仲良くない、喧嘩してんだよ』

『はー!?んなわけないでしょー!!俺と魔法はズッ友‥‥‥竹馬の友なんだいっ!!』

『それ、少量の炎魔法出せっていって辺り一面焼け野原にしたお前が言う?』

 

「つーかお前いつになったら魔力の塊で洗濯物破壊する癖治んの」というシーラさんの痛い指摘は置いといて、そんな金言を頂いた俺はシーラさんの言葉のとおりに魔法の練習を続けた。

 

それはもう、愚直に真剣に。

なんなら人生の中で1番と言えるくらいに努力、努力、たまにイレイナさんに妄言吐いてぶっ飛ばされて、また努力!

辛かったこともそりゃあったけど、辛さよりも勝ったのは箒に乗れた時と同じ『自分の世界が拓かれていく楽しさ』。磨けば光る魔法の力、その力による高揚感が俺の胸を支配し──俺は気が付けば、あの天才とされるイレイナさんに『1敗』という泥を被せることができたのだ。

 

『──あれ、もしかして‥‥‥勝った?』

『‥‥‥もう1回です』

『え、でも魔力‥‥‥というか、怒ってる?』

『もう1回です』

俺また何かやっちゃいました?

 

その結果何が起きたって?

まあ、ありのまま起こったことを話すと『イレイナさんが内心で燃えたぎるような対抗心を抱き始めるようになった』ってところか。

何が起こったのかは自称なろう系変態魔法使いであるところの俺にはわからん。けど、その当時は俺という敵に対して余裕を持っていたイレイナさんが明らかに戦法を変え、先手必勝という言葉が生温くなるほど先手必殺戦法で俺をぶっ飛ばしにかかったのだ。

 

『おやおや、この程度ですか。とんだよわよわ‥‥‥こほん、よわよわ魔法使いですね』

『痛い痛い、おでこ杖でぐりぐりしないで。頭こわれちゃう』

 

え、その時の俺はどうだったかって?完膚なきまでに叩きのめされて、おでこに杖を突きつけられたよ。ついでに「100年早いですねぇ」とか言われながら杖でおでこグリグリされた。

まあまあ、情けないとか言ってくれるな。

俺はあくまで魔女にはなれない魔法使い。寝首を搔く位の戦法でしか勝てない俺が、何度も何度もイレイナさんに勝てるわけがないだろ。

むしろ俺は嬉しかったよ。こうやって、むかむか状態のイレイナさんにおでこ杖でぐりぐりされてさ。

新境地開拓ってことで、なんか興奮してきたし。

 

「あ‥‥‥あーあ。これ時間逆転で治さなきゃダメか‥‥‥?」

 

と、まあ。

現実逃避&俺の性癖暴露もそこそこに、今一度魔力の塊を木に向かって放つと、メキメキと音を立てて崩れ落ちていく。

その様を見つめつつ、今更になってシーラさんのスパルタ指導にイレイナさんのガチギレモードを思い出し、小便ちびりそうになっていた俺は、改めてここまで魔法が上達したことに感嘆の念を抱いていた。

 

「昔は魔力の塊なんかで大木を破壊する、なんて夢のまた夢だったもんなぁ‥‥‥」

 

思い返せば魔力の塊、箒での飛行から始まった俺の魔法生活は、イレイナさんのみならず魔法の本などを誕生日に贈ってくれたシーラさんや色んな『やらかし』を見守ってくれた母さんの影響が非常に大きい。

どれだけ魔法に対する向上心が高まっても、学ぶものがなければ技術は上達しない。その中で魔法を不自由なく学べたのは、俺の周囲に高めあってくれる人と、その行動を指摘しつつ見守ってくれる人がいたから。

そんな人達がいた事も気付けなかった過去の俺は、未来の俺がこうなるなんて何一つ思っちゃいなかっただろう。

まあ、それを歓迎してないなんて言ったら完全な嘘になっちまうんだけど。

 

「‥‥‥話し合い、かぁ」

 

そう。

俺がここまで不自由なく学び、動けたのはイレイナさんやシーラさん、そして『母さんや父さん』がいたから。何をしても、怒られるか尻叩きをされるだけに留まり、基本的に俺のやることを否定せずに応援してくれた家族には、必ず納得してもらった上で先に進まなければならない。

だからこそ、俺は親である2人には決して不義理を働くわけにはいかず、嘘もつきたくない。何故かって、何となくだが嘘をついて出ていっても何も言わずに放置され、かえって後悔だけが残るような、そんな気がしたから。

 

故に、憂鬱だ。

やらなければならないことが大量に存在し、あまつさえ簡単には達成できないキワモノの案件が山積み。

平静装って魔力の塊打っちゃいるが、その実泣き出したい、今すぐイレイナさんの膝にお世話になりたいと思う程の困難を感じてしまっている。

こんな時こそイレイナサンスキーであるところの俺の本領発揮といきたいところだが、流石に修行中のイレイナさんの邪魔をするほどの勇気もなく。

俺は誰もいない平原に座し、盛大にため息を吐き、寝っ転がったのだった。

 

「ちきしょう‥‥‥」

 

こんなことなら初めっから魔法の練習を死ぬ気でやるべきだった。勿論、当時の俺は何もかもが手探りの状態。魔女の旅々にて語られる過去編は頭の中に記憶されていたが、そんな記憶は指で数える程度。あまつさえオリキャラという存在から、自分がどのような立ち位置にいる奴なのか今でも分からない。

それでも先に立たない後悔だってしてしまうし、悔しいと思うことだってある。

当たり前だろ。

俺だって人間だ。

どれだけ魔法が使えても、何年の時を過ごしても、俺はごくごくありふれた悩みを持ったり、失敗だってする普通の人間なんだ。

 

それでも。

もし、他者から見たオリバーに悩みがないように思えたのなら──それはきっと、イレイナさんのおかげだ。

どんな時でもイレイナさんが友達として俺の悩みを悩みだと自覚する前に何とかしてくれるから。

仮に自覚しても「馬鹿ですね」と辛辣な言葉を発しつつも、俺の考えを引き摺り出して、肯定してくれるから。

そして、何より──イレイナさんがそこにいるから。

それだけで俺は悩みを悩みと捉えず、真っ直ぐに進むことができた。真っ直ぐに笑えた。大切なものの為に真っ直ぐに壁と向き合えたのだ。

 

けど、今のこの場所にイレイナさんはいない。

つまるところ、俺はミナさんと別れた直後のサヤさんってワケだ。

誰かに依存せず、何かを達成させなければいけない──そんな分岐点に、来ているんだって思った。

 

「‥‥‥帰るか」

 

兎にも角にも、分岐点に来ているということは何となく自覚していた。

ここでイレイナさんに甘えて彼女の邪魔になり、未来でもイレイナさんの足を引っ張るのか。独りで頑張って、胸を張れる自分でいるか。このふたつの選択肢は俺の今後に関わってくる。

妥協なんて絶対にしたくない俺にとって、その選択肢の答えは比較すらする必要もない。

1ヶ月後の内容すら分からぬ試験の為に努力と休息のバランスをしっかり保つ。その小さな目標を達成すべく、俺は帰路についたのだった。

 

 

 

──そう、ついたはずだったのだが。

 

「あら、オリバー君」

「あ、ヴィクトリカさん」

 

あの時と同じ。

俺が魔力の塊を撃ちまくっていた頃とほぼ変わらないタイミングで、灰髪の元『灰の魔女』は俺の後ろから声をかける。

変化があるとすれば、俺自身がどうしようもないこと考えてないところとか、驚いてなかったとか、当時と比べて俺の図体がでかくなったとか、そこら辺だ。それ以外は特筆すべき変化が見つからないというなんとも言えない想いを抱きつつ、俺は彼女の両手にぶら下がっている荷物を見ながら声をかける。

 

「何してんすか?」

「見ての通り、ちょっとお買い物を」

「はぇー。その割には大荷物っすね‥‥‥」

 

いやほんと、どうしてそんな大荷物なのか。

そうでなくとも奥さん魔法使いなんですから箒か収納の魔法で楽できるでしょうに。

それにも関わらず大荷物を手にぶら下げているのは意味あっての事なのだろうか。もしくは、母さんの言うところである『ぱっぱらぱー』が発動してしまったのか。

 

「手伝いましょうか?」

 

まあ、そんなことは俺にとっちゃどうでもいいことであって。

何から何まで散々世話になったヴィクトリカさんがこうして大荷物をぶら下げているのにも関わらずただ傍観をキメる程俺は薄情ではない。

大荷物を持っていたり、困っていたら、誰が相手でも手伝えるかどうか尋ねる。それがお世話になった人なら尚更だと考えている俺は、大荷物を持っているヴィクトリカさんに対して、そう尋ねずには居られなかったのだ。

 

「あら、いいの?」

「俺、用が終わった帰りなんですよ。良かったらなんですけど、協力します」

 

そして、人によっては『え、なにこいつ』的な感じに捉えられてしまう行為も、ヴィクトリカさんは好意的に受け止めてくれるということを俺は普段からの付き合いで知っていた。

実は俺、転生して間もない頃はヴィクトリカさんはこういった貸しを作る行為は嫌いなのだと認識していたのだが、俺に対してはそれ程でもなく。

貸しを作っては返され、返そうとしたら嬉々としてそれを歓迎してくれるという関係性を構築することが何故かできていた。

故に、今日みたいなことも別段珍しいという訳でもなく、ヴィクトリカさんはこうして荷物を手伝おうとする俺に、『じゃあお願いしようかしら』と言い荷物を半分渡してくれたりするのだ。

原作やアニメで何度も見た、主人公ママ特有の穏やかな笑みを見せて。

 

「なら、一緒に帰りましょうか。ついでに少し家に寄っていきなさいな」

「あはは、そりゃ勘弁ですわ。大体今日は早く帰ってこいって母さんが言ってんすよ」

 

そして、毎回家に連れ込まれて手作りスイーツをご馳走してもらったりする甘党クソダサ男子であるところの俺なのだが、今回はその誘いをやんわりと断る。

実の所、イレイナパパを虜にしている料理に見事に殺られてしまった俺としてはヴィクトリカさんのスイーツは遠慮どころかガツガツ食らいつきたいのだが、そう何度もご馳走になる訳にもいかないし、何より母さんとの約束をブッチしてまでスイーツをご馳走にはなれない。

「おーう、早く帰っておいでねー」と言われた母さんの言葉を守ることは、おしりペンペンの刑を食らわないための免罪符のようなもの。

この世の何よりも心身に苦痛をきたす母さんのおしりペンペンを回避するためには、この約束を守るしかないのだ。

 

それでも、そんな俺の言葉を聞いたヴィクトリカさんは「あら?」と言い、首を傾げた。

いけずな方である。イレイナさん欲やスイーツ欲に負け、母さんの約束をブッチした俺が絶妙な力加減でおしりペンペンされるのを何度も見てきたくせに、本当にいけずな方である。

 

「リアが?おかしいわね‥‥‥確か用事があるとかで『私の家で半日面倒を見ることが決まってた』筈なんだけど‥‥‥」

「え?」

「そうそう、あなたのお父さんも一緒に外に出てったから、多分この前のあなたとイレイナみたいにデートしてるんじゃないかしら」

 

は?

夫婦でデートとか何それ俺も将来奥さん貰ったらやりたい──や、そうじゃなくて。

 

「あの母さんが息子との約束放ってデートしますかね?母さんも父さんもむしろそういう約束はきっちり守るような‥‥‥」

 

そう、俺が言おうとするとヴィクトリカさんがニコリと笑みを見せ、俺にひとつの手紙を手渡す。

手紙のつくりは至ってシンプル。白い紙に母さんらしいテキトーな文字。その様に良くも悪くもいつも通りを悟った俺は、その手紙の内容に目を通し──

 

オリバー、ヴィクトリカの話し相手は任せた。

私はのっぴきらない事情で近くで発生した暴徒を解散させにゃいけなくなった。

夜には帰ってくるからヴィクトリカの家でゆっくりしておいでー!

じゃ、逝ってくるね!

 

「母さんッ!?」

 

ヴィクトリカさんに対して大声を上げたッ!

いやほんと、どうしたこの手紙!よくよく見たらなんか血ぃ付着してるし!これ手紙書きながら逝ってない!?母さん召されてないよね!?

嫌だよそんなの、まだ俺親孝行欠片もしてないよ!

洗濯物しか破壊してないんだからもうちょい生きてよッ!!

 

「ね?」

「『ね?』じゃねーですよ!母さんに何が起こったんすか!」

「気分じゃないかしら」

「気分!?」

 

気分でこんなもん書いてたまるか!普通この流れなら『行って』くるねだろ!!

なんで変に書き分けて『逝って』くるねになってんだよ、むしろヤバい目に遭わないか心配するわッ!!

 

「ち、因みにですけど父さんは手紙残したり‥‥‥」

「ああ、クローバーね。勿論、マブダチだから残してあるわよ。見たい?」

「まあ、一応」

 

そう言うと、ヴィクトリカさんはもう1枚手紙を俺に渡す。

今度はしっかりとした手紙ではなく敗れたメモの切れ端に小さく、それでいて力強く書かれた父さんらしい手紙の書き方。

まさか父さんも手紙を送ってくれるだなんて──と思いつつ、俺は手紙に書かれている文字に目を通し──

 

理不尽って本当に最高だよな。それはそうとお前の目の前にいる人妻、実は昔っから守銭

 

「短いし文章途中で途切れてんですけど!?」

 

またしても大声でヴィクトリカさんを咎めた!

今の俺の叫びは流石に予想してなかったのか、少しだけ目を見開いたヴィクトリカさん。しかし目を見開いたのは本当に一瞬であり、またしてもニコリと笑みを見せたヴィクトリカさんは穏やかな声色で一言。

 

「10秒しかあげなかったから」

「ヴィクトリカさんは父さんに何か恨みでもあるんですか!?」

「あなたのお父さんにはそれくらいが充分かなって」

「それは絶対過大評価だと思う!」

 

つーかなんで文章途中で途切れてんだよ!途中でヤバい目に遭ったか心配するレベルだぞ!?

ほんと、どうして揃いも揃って不安に駆られる手紙ばっか残すの!せめて書ききってよ!不穏な書き分けはしないでよ!

と、そんな風に手紙に対してのツッコミを行っていた俺だったのだが、そんな様を見たヴィクトリカさんは俺を見ると、クスリと微笑んで続ける。

 

「冗談はともかく、こうして親切にしてくれたオリバー君に私なりのお礼をしたいの」

「別に気にしなくても‥‥‥」

「私、昔から貸しは作りたくない性質なの。だから──ね?」

 

そして、それは『来なさい、来なければ──』的な凄みのある一言だということも知っており、残り僅かな俺の理性がヴィクトリカさんの誘いを断るべく、内心で反抗的な言葉を並べる。

例えば、「誰が行くか!ばか、あほ、ぱっぱらぱー!」とか「ヴィクトリカさんってお金大好きなんだよねー!」とか。

とにかくいつもの俺なら絶対に言わないであろう言葉の羅列をひたすら繰り返し、「ね?」と続けるヴィクトリカさんの甘い誘惑に、鋼の精神で立ち向かったのだった。

 

「‥‥‥もしかして、行きたくない?」

「ち、ちが‥‥‥!」

「違うの?」

「う、ぐ‥‥‥!」

 

だ、大体!

この人は1回自分がどんな表情で家に招待しようとしているのか知った方が良いと思う。

少なくともそんな悪戯っぽくクスクス微笑んでそう言われても不審感を感じて断るに決まっているだろ。

そもそも、手紙だって『書かせただけ』の可能性がある。それを考えれば1度帰宅して、それから事を起こすのだって遅くはない。

 

「‥‥‥で」

 

俺は。

 

「で?」

「で‥‥‥」

 

俺は、おしりペンペンだけは絶対にいや──

 

「でっへへー!ヴィクトリカさんのスイーツー!!」

「あらあら、そんなに楽しみだったの?」

「うす!楽しみっすー!」

 

で、結果はどうだったかって?

俺がヴィクトリカ(主人公の母)さんに勝てるわけないだろいい加減にしろ!

 

 




誤字報告、感想ありがとうございます...!
特に誤字報告!しっかり反映させて頂きますので、もうしばしお待ちを...!

2章終了後の3章は……?

  • 魔法統括協会編!(全15話完結予定)
  • 2人旅編(全30~40話完結予定)
  • 両方同時並行(がんばる)
  • アムネシア編

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