どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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モニカさんのCVは咲々木瞳さんで常時脳内再生しています。


19話「導く人」

 

 

 

 

 

ヴィクトリカさん。

俺が生まれる前から知っている人であり、この物語の主人公であるイレイナさんのお母さん。そして、彼女の成長を優しく、時に厳しく見守る人。

そんなお母さんであるところのヴィクトリカさんは、何故か生まれた時から俺にも優しくし、こうしてスイーツをご馳走してくれたり、人として、魔法使いとして大切なことを教えてくれる。

そんな彼女の行動の根本的な理由を、俺は知らなかった。

聞いても、微笑むだけで何も言ってくれなかった。

 

 

 

 

 

 

ヴィクトリカさんお手製のスイーツの美味しさは、イレイナさんの箒の操縦並の安定感を誇る。毎度のこと種類は変化するのにも関わらずこれがまた美味い。

ドーナツ、ケーキ、アップルパイ。特にドーナツは良きかな──なんて考えつつ紅茶を啜り、近況報告をしていると、同じく紅茶を啜ったヴィクトリカさんが一言。

 

「それにしても、まさかオリバー君が魔法統括協会を志すなんてね……」

 

そう言って笑みを見せ、俺の心を揺さぶった。

うっひょおおおおおお!!!とほうきくんみたいに騒ぎ立てるような真似をするほど俺のメンタルは幼稚ではないが、やはり俺は魔女の旅々のキャラの笑みには弱い。

当然、イレイナさんの笑みにはドギマギするし、シーラさんから呆れたような笑みを見せられた時には思わず笑みが零れる。

これも一重に魔女の旅々の皆さまの顔面偏差値が高い故であろう。とにかくあの世界の女性はどいつもこいつも顔が良い。

目の隈や変態的言動すらなければ切り裂き魔さんもただの『美人すぎる変態犯罪者』だ。セレナさんとか付着した血がケチャップとかだったら、ただの調理に失敗した美人幼妻だし。

 

ともかく、この世界が美少女に溢れた世界である以上は俺の心臓もドキドキしっぱなしってことだ。

まあ、健全なんだろうけどさ。こう、なんというか。情けないっすよね。せめて心の読める(らしい)モニカさんに会うまではなんとかこのチョロさをなんとかしたいな──なんて思ったり。

まあ、それはともかく。

 

「意外っすか?」

 

問題は、俺の男女経験がモニカさんによってバレるか否かではなく、ヴィクトリカさんの質問に答えることだろバカヤロウ。と逸れつつあった思考を本題へと戻し、ヴィクトリカさんに問いかける。

すると、間髪入れずに「ええ」と答えるヴィクトリカさん。どうやらヴィクトリカさんの中では俺の魔法統括協会行きは意外そのものらしい。

 

「意外ね。オリバー君なら旅人でもしながらふらりと物見遊山の旅でもするんじゃないかなって思っていたから」

「だはは……それ、何処の親友の丸パクリですかね?」

「良いと思うわ、2人旅」

「何言ってるんですの?」

「普段言わないようなことを言ってしまうくらいには、私にとってオリバーくんの魔法統括協会行きは意外ってことかな……」

 

まあ、そりゃそうだよな。

今の今までなんの目標もなくフラフラしてた訳だし、それが急に「魔法統括協会行きたいデース!」なんて言ってたら何言ってんだコイツみたいな反応になるよな。

ヴィクトリカさん的に言ったら「何言ってるのかしらこの子」って感じだろう。それとも、ニコリと微笑んで有無を言わさず「今なんて?」と尋ね続けるか。

 

「はは、まあ真面目に旅人も考えたんですけど……ほら、前に言ってたじゃないですか。どんな夢や目標でも胸を張れるようにって」

「ええ」

「俺にとっての『それ』が、魔法統括協会だったんです。とある人に紹介されて、心の底からその未来を歩みたいと思ったから」

 

それでも歩みたかったんだ。

誰に何を言われたとか、どれだけその夢を否定されたとか、そんなモノは関係ない。ただ、一筋に描く夢への過程で「友に胸を張れる自分になりたい」と願い、突き進んだだけ。

決して諦めたりはしたくない、俺の決意である。

 

「この夢を持てたのは俺の魔法のセンセや親友だけじゃなくてヴィクトリカさんのおかげでもあるんです。だから、ありがとうございます」

「‥‥‥オリバー君」

 

頭を下げてヴィクトリカさんにお礼を言うと、途端に口を両手で隠したヴィクトリカさん。口元を隠された故にその表情の全貌は見えないが、頬の赤みや目の見開き具合から察するに、どうやら彼女は俺の言葉に感動してくれたようで──

 

頭撫でてもいい?

「やーそれは流石にキツいっす」

「そんなこと言って、本当は?」

お願い致します

 

むしろそれは俺がお願いする立場だろ、と己の立場を瞬時に理解した俺はヴィクトリカさんの綺麗で柔らかな手で頭を撫でられる。

悲しいかな、ガキの頃からの快楽からは逃れることができないのだ。シーラさんのなでなで然り、ヴィクトリカさんのなでなで然り、俺がいくら口で抵抗しようとも本能からは逃れられない。

理性と本能、どちらが強いのかは察してくれ。

因みに俺はこの前シーラさんになでなでされて理性が死んだ。

 

「そ、そういやイレイナさんの調子はどうっすか?」

「調子?」

「そうそう、最近やっと師匠ができたんですよね。星屑の‥‥‥プラネタリウム先生!」

「プラネタリウム先生?」

「ご存知ですか?」

 

因みにプラネタリウムのソースはシーラさんである。

なんか知らんけど、まじで帽子の裏がプラネタリウムらしいと。いや、帽子の裏でプラネタリウムとか何考えてんだとか昔は思ってたけど、よくよく絵面を考えたら推せるな──と思い、今に至る。

しかし、まあ己の弟子がママ友の子にプラネタリウム先生とか呼ばれるとは思っていなかったのだろう。

俺の言葉に対し「……フラン」と呟き、天井を見上げるヴィクトリカさん。やがて視線を天井から俺に移すと、やや引き攣った笑みを見せる。

 

「まあ、オリバーくんの師匠に言われたことは分からないけど、あまりいじめないであげてね」

「いじめの定義によりますよね‥‥‥」

「あら、そんなの決まってるじゃない。その子がいじめだと思ったらいじめ。極論いじめられてなくても本人が『いじめられた!』と思えば訴えられるわ。そうなればこっちのもの、裁判を起こして大金を巻き上げるチャ──こほん」

「‥‥‥今大金って」

「‥‥‥とにかく、あまりいじめないであげてね?」

「あっはい」

 

どうやらヴィクトリカさん的には俺に「大金を巻き上げるチャンス」を教えるのはNGらしい。

彼女は一体俺をどのようにしたいというのか。ヴィクトリカさんの今の言動を見るに、俺をお金に目ざとくない清純派魔法使いにしたいのだろうが、それ以前に俺はイレイナさんに対して変態的な発言を幾度となく繰り返すド変態だ。

既に変態というカテゴリで括られてしまっている以上、俺がその枠組みから抜け出すのはほぼ不可能。

極論第一印象で決まってんだよ、俺が変なことを口走るド変態ってのはな。

 

さて、イレイナさんとの笑いあり、魔力の塊ありの日常を思い出しつつ、ヴィクトリカさんとお茶を飲めているといるこの状況に興奮すること数分。

今度はテーブルの中心に添えられていたフルーツに手を付け「あら」と笑顔を見せるヴィクトリカさん。美しい女性の発する「あら」って上品で萌えるよなぁ……なんて、どうしようもないことを考えていると、フルーツを1口食べ終えた彼女が、ふと言葉を漏らす。

 

「そつなく、可もなく不可もなく」

「……つまり、分からない?」

「見てないから何も言えないのよ。けど、イレイナの師匠から何も言われていないということは何も問題は起きていない。つまり?」

 

えーと、それは。

つまり。

 

「良い報せも悪い報せもない、つまり至ってノーマルってことか‥‥‥」

「今度、直接イレイナに聞いてみなさいな。オリバー君なら、あの子も心を開いて話せるでしょうし」

「はぁ!?家族には負けますよオイ!!」

「それは怒ってるのかしら」

 

何を言っているのだこのマッマは!

この際だから言わせてもらうがイレイナさんが心を開いて話すのはヴィクトリカさん、サヤさん、アムネシアさん、アヴィリアさん、フラン先生と相場が決まってんだよッ!!

誰が友好的な関係を築いたとはいえ、ド変態に己の心をさらけ出すものか。世界はいつだって、ド変態に厳しくできているんだよ!!

 

「オリバー君どうこうじゃなくて、こういう時はずっと一緒にいる人ほど話しにくいものなのよ」

「……はぁ!?それは、弱味を見せ──むぐっ」

 

ヴィクトリカさんの意味深長そうな一言に返答しようとする。

しかし言葉を発しようと動く口は、途中で彼女の人差し指によって防がれ、「しー」という言葉により完全に止められる。恐らくヴィクトリカさん的に俺が言おうとした言葉はNGだったのだろう。よくよく見ればそれは明らかで、ヴィクトリカのニコリとした笑みを見れば俺が言おうとしたことが如何にKY子ちゃんな発言だったのかが察せられる。

 

そんな中で「きゃーっ!指にキスしちゃったきゃーっ!!」とか「はーいラッキーすけべぇいただきましたー」なんてことを頭の隅で考えている俺は真面目におかしいと思う。

自分で言うのもなんだが、危機感なさすぎだろ。

 

「イレイナ自身が考えて、誰かに打ち明けたいと思うのならそうする。それはとても素敵なことじゃない?」

「へい。まあ、そう……素敵ですね」

 

後ヴィクトリカさんの指綺麗ですね。

恋しちゃう。

 

「そう考えているからこそ、私はオリバー君なら心を開いて話してくれるって、そう感じたの」

「そりゃまたどうして」

「あなたとの時間が、本当に楽しそうだったから」

 

ヴィクトリカさんが間髪入れずに答える。

そうか。楽しそう……か。

まあ、実際にイレイナさんとの笑いあり、魔力の塊あり、暴言あり、興奮ありの数年間は筆舌に尽くし難い程幸福な時間ではあったが、それが今の話とどう関係しているというのか。

楽しい時間を共に過ごしたからとはいえ、イレイナさんが俺に悩みを打ち明けてくれることにはならないだろう。

彼女はあれで芯の強い子だ。1度自分でやると決めたことは最後までやり通す心の強さがある。そんな彼女が『俺に悩みを打ち明けない』と決めれば、いくら楽しい時間を共有していた親友の俺といえども、付け入る隙なんてものは皆無だと思うのだが。

 

「それだけよ。だから落ち着いて」

「それだけ、すか。まあヴィクトリカさんの言葉にはいつも助けられてるんで……頭の片隅には入れときます」

「頭の片隅どころか、脳内全て埋めつくして欲しいかな……」

「俺の頭ん中全部イレイナまみれにしたいんすか」

 

正直それはやめて欲しいかなと内心で苦笑。

すると、先程までくすくすと笑みを見せていたヴィクトリカさんが1度息を吐いて、もう一度俺を見つめた。

何処か空気が変わったような、そんな気がした。

 

「ね、オリバーくん」

「なんすか?」

「あなたの先生、嫌いにならない?」

 

俺は、人の心を完全に理解することはできない。

異世界転生するに至って、チートやら原作への多大なリスペクトと理解でも持ち込んでりゃ多少は人の心も読めたのかもしれないし、もっと楽に女の子のハートを射止めることもできたのかもしれない。

けど、結果として持ち込めたものはない。故に、原作モニカさんみたいに人の気持ちを理解することも──うーん、多分一生できないんじゃないかなって思う。

 

「嫌いに、ですか」

「ええ。嫌い、その人と話したくなくて仕方ない……会うことすらも嫌悪する、そんな関係」

「いや、説明されんでもわかりますが……」

 

今も、ヴィクトリカさんがこの質問をしてきた真意なんて分かりゃしない。嫌いって言葉自体は分かっていても、何故このタイミングで彼女がこんな質問を吹っかけてくるのか、なんてことは理解に及ばないことだ。

先ず、何も考えてないって可能性だってあるわけだしな。

 

「私だったら悔しいし、嫌いにもなるかも。取り敢えずどんな手を使っても先生をぼこぼこにしようと考えるわね……」

え゛。それ、まさか実際に……」

「さて、どうだったかしら」

 

ニコリと笑って誤魔化したヴィクトリカさんが、続ける。

 

「無理はしなくていいのよ。怒りだってやる気の原動力になるし……何より、先生はそんなことでオリバーくんのことは嫌いにならないし」

「ヴィクトリカさんは俺の先生のこと知ってるんですか?」

「一般論よ。子どもに敵意や悪意を持たれた位で大人はへこたれません」

 

そうでもないと思う。

俺の記憶の中では師匠のフラン先生が朝食手抜きされてしくしく泣いてたし。

 

いやしかし、確かに大人ってそういうものなのかなとも思う。思い返せば、一回目の時も現在も俺にとっての大人の代表例である『家族』は俺に対して辛そうな顔を見せたりすることを極力しないように気をつけていた。

いつだって家族は笑っていてくれて、子どもの俺に安心感を与えてくれたし、極端に金の話もしなかった。今だって、俺が魔法の道を志すために必要な杖や箒、本などを嫌な顔ひとつせずに買い与えてくれている。そう考えたら、とてもじゃないけど親が弱いものだなんて口が滑っても言えなかった。

悪口も同様だ。今更ながら母さんにブチ切れたことが恥ずかしくなってきてしまった。

もう少し大人になって、言えたことがあったはずなんだ。

正面切って、断られても粘り強く。イレイナのように凛々しく、泥臭く交渉できたはずなんだ。

 

まあ、それに関してはもう切り替えていくしかない。

過去を後悔したって遅い。

それよりも今、やらなければならないことを懸命に取り組むことが肝要だし、何より今の本題はそこじゃない。

問われてるのは俺。与えられた質問に答えなきゃ彼女に失礼だ。

 

「ごめんなさい。深掘りなんて母さんみたいなこと、するつもり無かったんですけど……」

「そっくりね、人の粗を的確に探し当てるの」

「なら嬉しいです。優しくて綺麗で聡明な母ですし、少しでも似てるところがあるのなら……っと、それよりも質問ですよね」

 

えっと。

まあ、シーラさんという魔法のセンセに対して言いたいことは少し考えれば山ほど出てくるんだ。

そもそも母さんとどこで出会ったのか、とか。実際の関係の詳細とか。大まかな関係は察しがつくんだけど、確証がないからどうにも答えが導けない。

けど、そんなものはどうだっていい。知らなくたって良いとも思ってしまうのも事実。

複雑で不明な詳細より、明瞭で大好きな現在を見ていたい。そう考えている俺にとって、シーラさんがどれだけの過去や厳格さがあろうが、彼女に対する俺の評価は不変だ。

 

「シーラさんのことは、大好きですよ?きっと家族やイレイナを抜きに考えた大人の中では、1番と言っても過言ではない程に尊敬もしてます」

「目標に立ち塞がるのに?」

「はい」

 

師として、大人として。

言葉はぶっきらぼうだけど、先ず言葉として思い浮かぶのは『尊敬』と『大好き』だ。

あの日、突然の来訪。母さんだとばかり思ってドアを開けたその日から、俺の彼女に対する評価はそれだけだ。信頼してるし、信用してるし、カッコイイとも思うけど、やっぱり今の2つの言葉が先に浮かんできて──裏切りたくないって思っちゃうんだよな。

 

「確かに先生は厳しいです。優しい時の方が大半だけど、怒る時は怒るし、やばいことしたらデコピンされるし、げんこつ食らう日だってしばしば。今回だって、道に進むための試験と、自分の言葉で母さんを納得させるって条件を突きつけられて──正直、結構苦労してます」

「けど、嫌いじゃない。それって少し矛盾してないかしら」

「いいえ?俺はそれも含めて愛情だと思えるような人間なんで。愛情与えてくれる人を嫌いにはなれませんねぇ……」

 

何せシーラさんは美人すぎるおねーさまだしな!

シーラさんがどう思っているかは知らんけど、俺的にはシーラさんが師になってくれたことは幸福以外の何物でもない。

イレイナさんに、ヴィクトリカさんに、シーラさんに母さんに……あれ?

もしかして俺って前世の記憶持ちによる知識チートの他にも原作の人に良くしてもらいまくる出会い系チートも持ってる系なんすかね?

だとしたらアムネシアさんに転生できなかった俺も捨てたもんじゃないのかもな。

 

──閑話休題。

 

「つーか、壁を突きつけられるなんて当たり前のことじゃないですか。俺がやろうとしていることってとても危険なことで、下手したら殉職することだって有り得る。そんな道に簡単に進めようとする人は……俺は、なんか嫌です」

「……そうね。きっとその先生がそこまでのことを考えて壁を作ったのなら、英断だと私は思うわ」

「……」

「魔法統括協会は、多くの人の悩み事を魔法によって解決するだけではない。魔法でしか対処することのできない事件を()()で制することが求められる。それが出来ずに命を落とした人がいるのは事実だから」

「はい、それはもう。心得ています」

 

とある紫髪の少女は、追放処分とは名ばかりの惨い殺され方をした。

原因不明の病であるリコリス病は、誰にでも罹る可能性のあるものであり、自覚症状が出れば最後。解決策もないまま死に向かっていく死の病である。

死に向かうまでの過程では、いっそ死んだ方が楽と思える位の苦痛を伴う。その中で、殺してくれと懇願した1人の人間を殺して──あの子の人生は狂った。

想像を絶する程の苦しみだっただろう。父親に関連した慰謝料の元手を払う為に、親の願いに背き。親と同じ過程を歩まざるを得なくなり、人のために人を殺し、自らが作り出した永遠に解決できない事件の担当となり、無能と蔑まれ、最期は友人に看取られ、短い生涯を終えた。

彼女を殺した最大の要因は安楽死を良しとしない国ではない。元来の優しさと『人のために魔法を扱う』魔法統括協会の立場に殺されたのだ。

 

いっそ、誰かが彼女をすぐに捕まえられていれば。そもそも、リコリス病を治す手立てがあれば。いや、そもそも父親がもう少し上手くやれてれば──など、たらればを言えばキリがない最悪の事件。

そのような例が象徴するように、本来なら尊い筈の命が軽んじられてしまうこともある。俺にとっての魔法統括協会は、尽くが良い印象というワケではなかった。

幾ら記憶の中のサヤが明るく振舞おうとも、アムネシアがすっとぼけようとも、アヴィリアやミナがシスコンムーブ発動してても、暗い影は差し込む。

決して明るさと百合だけが取り柄の『魔女の旅々』ではないと俺は思っていたし、魔法統括協会に行くためには相応の覚悟と実力が必要だということも、分かっていた。

 

 

 

けど。

 

「そういう面があるってことを壁を作ることで遠回しに教える……それだけでも俺のシーラさんに対する評価は赤マル急上昇ってわけです」

「……あか?」

「ピロリロリーン!オリバーさんのシーラさんに対する好感度が100上がりましたー!!」

「あ、なんか今のすごいリアっぽい」

 

シーラさんは言ってくれた。

示すだけじゃなくて、背中を押してくれる一言を。変わろうとしている癖に、肝心なとこで変わる勇気を持てず、臆病の虫が鳴き出す俺に『切り拓け』と言ってくれたから。

だから俺は曇りない目で夢を見られている。

多くの人に恵まれて、俺はこの場で夢を語り、堂々と人を好きだと告げられるんだ。

 

「あの人は道を示すだけじゃなくて、その道に対する壁を作ってくれた。上等だって、やってやるって気持ちにさせてくれた。だから俺は、シーラさんを信じているんです」

「……」

「そんな人を嫌いになんてなりません。ただの1度も、そんな感情には──絶対にならないし、なろうとも思わない」

 

今後、どんなことがあろうとも俺はあの人を尊敬するし、大好きなままでいるだろう。

何故かわからないけど、そんな確信があったから。

俺はヴィクトリカさんの目をしっかり見据えて、言葉を締めくくった──のだが。

 

「あ、いや。その、恋愛的な感情じゃあないっすよ?あくまで師匠的な意味合いで……まあ現時点で師匠なんて呼ぶのも烏滸がましいんですけど──」

「……ふふっ」

「どうして笑うし」

 

俺氏、シリアス発言をした途端にヴィクトリカさんに笑われる。

いやー、やっぱ俺にシリアスって似合わないんやなぁって。俺でも思うもん、こんなこと話してる位なら魔女旅の世界でシスコンが合法か否かを誰かと語ってた方が建設的だって。

だから今回ヴィクトリカさんに笑われたところで俺としては痛くも痒くもないのである。むしろ出番の少ない顔面偏差値つよつよな人妻様の笑顔を見れた分役得だ。

 

と、まあ。

そんなことを考えている間にもヴィクトリカさんの堪えきれなかったのであろう「くすくす」という笑い声が部屋に響き渡り。

やっぱ母さんもヴィクトリカさんにはよわよわで、いつも手玉に取られてんのかなぁ……なんてどうでもいいことを考えていると、ヴィクトリカさんが漸く笑い声を我慢して、言葉を続け──

 

「ふ、ふふっ……くす、くすくす」

「いやツボに入ってるぅー」

「ごめんなさい……ほんと、そっくりで。遺伝ってやっぱりあるんだなぁ……って思ってたら、涙が……」

「おやおや!そんなこと言ってると調子に乗っちゃいますよ?なんてったってあの美人の母さんの遺伝ですからねぇ!似ているって言うのは最上級の褒め言葉……」

「女の子を泣かせそうなオーラが、そっくり……ふふ……!」

「いやそこかーい」

 

悲報、ヴィクトリカさんツボに入る。

いや待て、そもそも女の子泣かせるとか物騒なワードが耳に入ってきたんですがそれは。

自分で言うのもなんですけど、俺は女の子には優しく、慎ましくを自称している男の子ですぜ?

誓ってこれまでも、これからも女の子は泣かせるつもりないし、予定もない……いや、まあ現在進行形でヴィクトリカさん泣かせてるけどね?

 

でもさぁ、泣き笑いはノーカンじゃないですかねぇ!

原因は俺だけど、流石に泣くほど笑われるなんて思っていませんでしたもん!!

つーかツボに入る要素が全く見当違いで涙が止まらない!!

なんで母さんと似ているからってツボに入るんじゃい!おかしいでしょ!母さんは一体この美人な奥様に何したんだよ!!

 

「……あのね、オリバーくん」

「な、なんすか?」

「あなたの師匠、本当にオリバーくんに信頼されているんだなって。そう考えたら、なんだか嬉しくなっちゃって」

「……えー、そういうもんすか?」

「そういうものよ」

「赤の他人なのに?」

「ええ、赤の他人なのに。不思議ね」

 

……まあ、いいか。

ヴィクトリカさんが漸く息を整えて、笑ってしまった理由をしっかりと告げてくれた以上文句はないし、事を荒立てようとも思わない。

何より、ヴィクトリカさんが俺とシーラさんの健全で微笑ましい信頼関係を認識してくれたのだ。シーラさんとヴィクトリカさんに関わり、2人の関係を知る1人の魔女旅ファンとしてはこれほど嬉しいことはないし、なんならこれを機にロベッタの街で仲良くお茶でもしたらどうかと思う。

そして俺は2人の出逢いを取り持ち、仲睦まじく談笑するであろう2人をアニメ気分で眺める!

 

全く、俺はヴィクトリカさん孝行な奴だな!

罪なヤツだぜ!(自惚れ)

 

「ま、まあ!シーラさんと俺は堅い結束でできてますからね。この絆は……うーん、まあナイフくらいじゃ切り裂けないとは……うーん、思うんすけど」

「そこは言い切って欲しかったかな……」

「それはそれとして、俺はヴィクトリカさんのことも信じてますよ?」

「あら、本当?」

「はい、本当です。じゃなかったらこんなこと話しませんって」

 

そして、何より俺はヴィクトリカさんを聞けて。このタイミングでお話をすることができて本当に幸せ者だなと思う。

シーラさんに心の在り方を教わって、イレイナさんに心の中の焦燥感を根本から取り除いてもらって。

そこまでしてもらっても俺の中にぼんやりと残っていた不安を、ヴィクトリカさんは質問という名の確認作業で、執念に変えてくれた。

 

イレイナさんとの確約があって。

その上で今まで良くしてもらったシーラさんに報いたいという気持ちもあって。

そして何より、自分のエゴが魔法統括協会に行きたいとはち切れんばかりに叫んでいて。

 

「なら、どんな壁でも越えていくしかないだろう?」と。

そんな執念にも近い覚悟をヴィクトリカさんとの会話で俺は手に入れることができた。

だからもう、母さんにちょっと何か言われたからって動じないし、何を言われようとも向き合い、説得する。

 

だって俺がなりたいものは、魔法統括協会なんだから。

魔法統括協会の先に、俺の『大好き』が死ぬ程詰まっているんだから。

 

「ヴィクトリカさんは昔から俺に良くしてくれるし、洗濯物を破壊した時は一緒に謝ってくれるし、今日みたいにお手伝いした時もそうでない時もスイーツ用意してくれるし、悩み事も話しているうちに解決に導いてくれるし……だから、うん」

 

そこまでのことをヴィクトリカさんとの会話で考えられてしまう俺は、自分で思っている以上にヴィクトリカさんを信じていて、その上で大好きなのだろう。

じゃなきゃ、話すだけで充足感に満たされるような気持ちになんかなりゃしない。

断言出来る。

俺はヴィクトリカさんが大好きだ。

けど、それは恋愛感情とも親愛とも違う。

上手く言語化はできないけど、もっと高貴で尊いもので。

 

この人のような優しさと厳しさを持てる人間になりたいという、憧れのような感情なのだと俺は思う。

 

「……ふふっ」

「どうしたの?」

「聞きたいですか?」

「……なんか既視感があるのだけど、一応聞こうかしら」

「そですか、ならお言葉に甘えて──」

 

ヴィクトリカさん。

ちょっと意地悪で、それでも娘であるイレイナと同じくらい、俺を優しく見守ってくれる暖かい人。

原作を知っている俺にとっては、とんと分からない優しさの理由。

それでも、俺にとってのヴィクトリカさんは優しくて、暖かくて、それでいて安心できて──

 

「俺はヴィクトリカさんがとても大好きです。ひとりの人間として、尊敬してます」

「……やっぱり」

「やっぱり?」

「そういう顔をした子が歯の浮くような台詞を言うこと、すっかり忘れてたわ」

「なにゆえ」

 

優しさと厳しさで導いてくれる人だって、そう信じている。

 

 

2章終了後の3章は……?

  • 魔法統括協会編!(全15話完結予定)
  • 2人旅編(全30~40話完結予定)
  • 両方同時並行(がんばる)
  • アムネシア編
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