どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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あふたー


20話「師として」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が橙色に染まり、普段ならば既に帰宅していなければならない時間帯にオリバーは親友の家で、その母親と長々と、熱い議論を交わしていた。

議論の内容は、魔法使いの卵の育成理論。「もしオリバーくんが偉くなった時、ちゃんと他人を導けるようにする為にも理論は大切よ?」という金言を授かったオリバーは、自らの思いの丈をあるがままに語った。

傍目から見ても一生懸命なその様に、()()()()()()()()()()()()ヴィクトリカは微笑ましい気持ちで見つつも「それはもう少しこうするべきじゃないかしら」と具体例を提示する。

恰もオリバーが人を教え導くことが確約されているかのように、それはもう熱心に。

 

因みにこの理論をきっかけとして、オリバーは後々何人もの魔法使いの弱点を改善させ、一癖二癖ある()()()()()()に仕立て上げたことから1部の界隈で『仕立て屋』と呼ばれることになるのだが、それはまた別の話である。

 

「ばいばーい、ヴィクトリカさーん!!」

「ええ、さようなら。気をつけてね」

 

ともあれ。

時が夕方を超え、夜の帳が落ちた頃。母親のおしりペンペンが自らの臀部に炸裂することを悟った自称ヴィクトリカ孝行な奴は自らのケツに悪寒を感じ、先程までの熱が覚め「……か、帰ります」という言葉を絞り出す。

その様を見て、これまた何かを悟ったヴィクトリカは「ちょっと待ってね」という言葉を残し、紙を手元に引き寄せ何やら一筆。

それをオリバーに渡し、現在に至り──そして彼女はフルスピードで箒を飛ばすオリバーを眺めたまま、ぽつりと。

 

「盗み聞き?」

「……」

 

そう呟くと、ドア横の壁から人影が現れる。

先程までは誰もいなかった場所から突然誰かが現れることは考えにくく、並の人間ならば存在を消す魔法に気付くことは非常に難しい。

ましてや暗闇だ。地面の凹みや足跡、雑草が踏み潰されている様子などを注意深く観察することもままならない状況でその魔法に気付くのは、余程の実力者位のものである。

 

「言っておくけど、いじめてはいないわ」

「……」

「リアと唯一違うところは、オリバーくんがとっても素直で可愛らしいところだもの。いじめるなんて可哀想じゃない」

 

そして、その隠密魔法に気付くヴィクトリカは『余程』という言葉が可愛らしく思える程の実力者だ。

弱冠18歳で魔女となり、多くの経験をし、お金儲けをして、人々に感謝され、時に蔑まれ。そして弟子を2人とり、立派な魔女に仕立て上げた。

実力に関してはそれらの経歴が物語っている。良い経歴は認められるものがなければ付いていかない。彼女は魔法の実力があり、頭が回り、人を育てる能力があったのだろう。

 

そして、そのような経歴もりもりの女に気配を察知されたのは夜闇の魔女。

スラム育ち、自らが師と仰ぐ2人の魔女に出会うまでは魔法を独学で学び、後に2人に魔法、依頼達成の為のイロハを叩き込まれた魔法統括協会のエリート。

その彼女が先程までオリバーが立っていた場所にまで向かい、ヴィクトリカを見る。

師弟関係であった2人の久しい対面は、唐突に始まった。

 

「……いや、入れ違いだ」

「本当は?」

「いや、本当だって」

「はいはい、オリバーくんに大好きって言われて嬉しかった?」

「そりゃあ、まあ」

「やっぱり聞いていたのね」

 

「全く、折角の密会を……」と悪態をついたヴィクトリカをシーラは苦笑しながら見つめていた。

山吹の髪を携えた少年と、灰髪の師との会話。その会話を影から見ていたシーラの記憶には、かつての()()()()が蘇る。

「正当な報酬でなければ依頼は受けない」を信条とする灰髪の魔女。

「ぶち殺せ、ボクが殺る」なんてふざけた信条を掲げつつも依頼を解決せねばならない状況に至れば人が変わったように冷酷になる山吹の魔女。

かつては共に旅をしたこともあるという2人が向かい合いギャーギャー言い合い、お約束のように山吹の魔女がぶっ飛ばされるその様を見たことがあるシーラは、今日聞いた会話を過去の2()()に見立ててしまったのだ。

 

そして、その様を見れば嫌でも過去を思い出す。

どれだけ霞んでも、絶対に忘れないという自信がシーラにはあった。

 

「シーラ」

「ん?」

「あなたもしかして、試験の時に手心を加えようとか──そんなこと、考えていない?」

 

会話は続く。

折角の再会を喜ぶ間もなく──いや、実際には嬉しいのだろう。しかし、喜びの言葉を伝えることもなく、2人は別の話を繰り広げる。

内容は、やはりといったところか。

2人にとっては大切で、可愛くて仕方ない1人の少年の話へと移行する。

 

「オリバーくんは素晴らしい魔法使いになる。もしかしたら男の魔法使いという概念すら覆してしまうかもしれないし、それこそ彼が魔法統括協会に入れば多くの人が助かるのかもしれない」

「……」

「そして、それを本人も望んでいる。あなたに報いたいと、その気持ちを持って魔法統括協会に入ろうとしている。どれだけの困難があろうとも、関わってきたみんなに誇れる自分でありたいと願っている」

 

多くの魔法使いを見てきたであろう師の『断言』。

その一言に、夜闇の魔女は少なからず衝撃を覚える。

勿論、2人の関係上色眼鏡で見ていないなんてことはないだろう。それでも、驚いたのだ。

今まで彼女が──『灰の魔女』が男の魔法使いを手放しで賞賛する場面を見たことが、夜闇の魔女には()()皆無であったから。

 

「でも、やめなさい。手心を加えることはあの子のためにならないし……何より、あの子が絶対に望まないことだから」

 

それと同時に、警告も受ける。

分かっていたことだとシーラは煙草を吹かし、空を見上げる。

自身でも自覚してしまえる程に、夜闇の魔女は山吹の──自らの慕う2人目の『魔女』の生き写しに惚れていた。

恋愛的な意味ではない。彼女がその生き写しに惚れた要因は、言ったことを実現しようとする真摯さや、その真摯さを()()()()()()()()()()実力だ。

そうした総合的な魅力にまんまと取り憑かれた夜闇の魔女は、先ずその生き写しを弟のように可愛がり、その次には手元に置きたいと考えた。

関われば関わるほど多くの魅力を知り、最終的には命の危険を考慮した上でも手元に置き、育てたい。いずれは自分の仕事を任せられるような人間にしたいと、飄々とした彼女らしからぬ欲が出てしまった。

 

それ故に、昂った気持ちを灰の魔女に見透かされた。最悪試験ミスっても、手元に置いて育てることを打診しよう──なんて保険的な提案を行おうとしたことを、隣の師匠に見透かされたのだ。

 

「……敵わねぇな」

 

可能性に満ち溢れた少年だ。

箒は乗りこなすし、魔法の才能は本人が思う以上のモノを持っている。

特に魔力の操作は天才的。その操作を応用し、()()()()すら作り出した。

過去にそれを受けたことはない。つまり完全新作の、実践で敵を殺すことなく戦闘不能にする()()()()()をオリバーは編み出したのだ。

 

しかし。

だからこそ、甘さと優しさを履き違えてはならない。

本人のため、未来を思うのなら行ってはならない優しさもある。

ヴィクトリカはその言葉を、これから弟子を持つ()()()()()()()に継承する。

彼女が夜闇の魔女として一回り大きくなるための心構えを、ヴィクトリカは目を見て伝えた。

 

そして、気合いが常に入っている彼女は真面目にならねばいけないタイミングを間違えない。

真摯な瞳を向けられたシーラは、それと同じくらい──それ以上の真面目な表情で自らの師を見る。

弟子時代、可憐な笑みを見せながら依頼を解決したり、姉妹弟子との喧嘩を眺めていた傍らで何度も見たヴィクトリカの真剣な表情。

決まって大切なことを教えてくれるタイミングを、かつての経験が理解していた。

 

「あなた自身が気合いの入った娘だから、同じように特定の物事に気合いを見せる子を好むのは何となく分かるわ。けど、その気持ちを優先させてオリバーくんの気持ちを無視したら本末転倒でしょう?」

「ああ」

「……まあ、仕事を放り出してこんなところで何をしてるんだとか、そんなにあなた子ども好きだったかしら──とか。色々言いたいことはあるけど」

 

 

 

 

 

だから、シーラには伝わった。

 

 

 

 

 

「仮にも師なら、慕ってくれている教え子にちゃんと向き合いなさい。あの子が言葉にまで残してくれた一言を裏切るような真似をしてはいけないわ」

「……」

「その上で、目いっぱい弟子を愛しなさい。諦めて、心が折れてしまわない限り、その子のことを諦めないであげなさい。弟子がやると言って聞かないことを、影で見守って、時には守ってあげなさい」

 

そして今、その言葉と共に、意志が継承されたのだ。

 

「あなたの師匠は、そうやって弟子を育ててきたわ。だからきっと──あなたにもできるはずよ」

「……破門の一言を使ってあたし達を脅しまくった師匠がなんか言ってら」

「あら、それはあなた達の仲が悪かったから……」

「それでもフツー依頼未達成のペナルティで破門使うかよ。言っとくけどアレ、逆効果だったからな?」

「結果的に仲が深まったから良いと思う」

 

シーラにとって、ヴィクトリカという師匠は皆が思い描くような人じゃない──そんな人だ。

綺麗で、真摯な表情が映えて、誰にも負けないのではないかと錯覚する強さを誇るが、その一方お金には目がないし、ズルは処世術だと躊躇いがないし、何より肝心なところでテキトー。更には失敗しても懲りない!

たまに「なんだこの人」と思う時もあるし、その気質を色濃く受け継いでしまっている姉弟子を見ると、どうしようもなく苦笑したくなる時が来る。

それでも。

 

「手心なんて加える気はさらさらねぇよ。ダメならダメって言うし、簡単に飛び越えて貰おうとも思っちゃいねえ」

「それならいいけど」

 

それでもシーラにとってのヴィクトリカは、誰にも代え難い大切で、尊敬できる師匠だ。

あなたの人生の転機となった人は誰かと問われれば、センセより先にヴィクトリカと言うと断言できてしまうくらいには、彼女は自らの師を愛し、信じ、慕っている。

あの日、人の物を奪い取ることしか生きる術を知らなかった自身にもうひとつの生きる術を教えてくれた師を、シーラは忘れない。

魔法統括協会エージェントとしての始まりはともあれ、夜闇の魔女としての始まりは紛れもなくヴィクトリカなのだ。

それだけは譲れない、夜闇の魔女の原点である。

 

「当日ダメならそれで終い。センセを納得させられなくてもアウトだ」

「一発アウトは教育上よくないと思うのだけど……」

「隠居生活で日和ったか師匠。昔のあんたならこんなことでいちいち教育を盾にするようなこと、しねえと思うんだけどな」

「隠居やめて」

 

「シンプルに毒吐くわね……」とヴィクトリカが呟くと、シーラが「親しい人だし」と軽く受け答えする。

数年以上前に自身の元を飛び立った魔女が、こうして今でも親しみを持ってくれているということに嬉しさを感じない訳では無いが、隠居はなんかいやだったらしい。

笑顔で軽く壁をぶん殴ったヴィクトリカ。

それを見たシーラは、フランに預けているらしい師匠の一人娘がスマイル壁パンの系譜を継がないようにと、切に願った。

 

「そういえばさ、師匠」

「どうかした?」

「師匠の思う、オリバーの魅力ってなんだ?」

「笑顔かしら」

「いや、待て。確かにオリバーの笑顔は庇護欲を唆る何かがあるが、そういうんじゃなくて」

「初めて見た時は恐怖とひとつの予感を感じたわね。ああ、この子は将来多くの女の子を泣かす子になるんだろうなぁ……っていう」

「ハッタリだろ……いやマジでハッタリだろ?遺伝ってそういうとこも似るの?」

 

遺伝子受け継ぎすぎだろ、とシーラは嘆息混じりに呟く。その嘆息の原因はオリバーでもあり、その母親でもあった。

先程も彼女の思考に現れたぶち殺すボクっ娘魔女はその美貌と、艶のある長い山吹色の髪を靡かせ世界中の老若男女を虜にしていた。

特にボーイッシュでもない癖に女性からの人気は非常に高く本人すら困惑してしまうほどに、とにかく女性にモテた。

何故彼女が女性にモテたのかは不明だが、その根本の原因の内外面を色濃く受け継いでいるオリバーがその女と同じ末路を辿る可能性は限りなく高い。

 

頼むから無自覚に女を絆す性格だけは受け継がないでくれ、とシーラは願った。

いや、むしろそこら辺は親父を受け継げ──とも思いつつ、彼女は踵を返す。

 

「じゃあな、そろそろあたしはかえ──」

「れると思った?」

「……あ?」

 

そして、師に肩を掴まれる。

いや、待て。力が強い。と言おうと振り向き──シーラは直感的な恐怖に襲われる。

スラム街で培った野生の嗅覚と言うのは大袈裟だが、特殊な生き方をしてきた彼女は人の感情にはそれなりに機微であった。

故に、シーラは苦笑しながら言葉の続きを待つ。

自らの恐怖に従い、師の言葉の続きを待ったのだ。

 

「まあ、待ちなさいな。今まで散々リアの元には行っといて肝心の師匠の元には来なかった理由とか、色々積もる話もあるでしょう?ここはひとつ、二次会でもどうかしら」

「いやそれはもう少し1人前になってから行こうとしてたってだけの話で」

「それに、オリバーくん自慢のことで聞きたいこともあるのよ?」

「……は?」

 

そりゃどういう意味だ──と、シーラが言葉を返そうとするも、ヴィクトリカのニコリとした笑みに閉口。

結果、言葉の続きはヴィクトリカが紡ぐ。

会話の主導権を完全に握られた瞬間である。

 

「あなた、フランにオリバーくんの可愛い写真見せびらかしたり、弟分自慢ばかりするみたいじゃない」

「当たり前だ、あたしの可愛い弟分だぞ」

「その話、とっても気になるわ。お土産話として私にも聞かせてくれるわよね?」

「……あ、死んだ」

「あ、今のすごいリアっぽい」

 

自らが敬愛してやまない師の、師による、死の宣告。

かくして、ヴィクトリカにとっては幸せの。シーラにとっては地獄と天国の境目にいるような二次会が始まったのであった。

 

 

余談ではあるが、あの後何故か家から出てきたのはお肌がつやつやの灰髪美人妻と、げっそりした様子でほうきに寝転がる金色の髪の女だったという。

何があったのかは本人の口からは語られなかったが、まあ何となく分かると察し、胃薬を渡したのは帰りがけにばったり出くわした『星屑の魔女』。

 

「何があったんですか」

「……告げ口しやがったな。この、ぱっぱらぱーが」

「……あっ」

 

星屑の魔女は彼女の何を察したのか。

真相は闇の中である。

 

 

 




1章終了間際にも行いましたが、数分後にまたアンケートを作りますので参考程度に皆様のご意見をお聞かせください。
それぞれの選択肢のメリット、デメリットを挙げさせていただきますと、魔法統括協会編は魔法統括協会組の深掘りができ、送られてくる手紙にやきもきするイレイナさんが見れますが本題の2人旅編に入るまで時間がかかります。2人旅編はとっとと可愛いイレイナさんが見れますが、魔法統括協会組の深掘りが不完全のまま終わる可能性があります。
両方同時並行は深掘りも可愛いイレイナさんも見れますが時系列がごっちゃごちゃになるので途中で何が何だか分からなくなる可能性があります(章分けや分かりやすい地の文など皆様に分かりやすく、楽しく読んでいただけるように工夫はします)。
アムネシア編はアムネシア編です。原作4巻の世界でオリバーが滅茶苦茶します。

繰り返しになりますがあくまで参考にですので気軽にポチしていただけると助かります。

2章終了後の3章は……?

  • 魔法統括協会編!(全15話完結予定)
  • 2人旅編(全30~40話完結予定)
  • 両方同時並行(がんばる)
  • アムネシア編

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