どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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見ても見なくてもいいやつ。
魔道士と魔導士の表記揺れの独自解釈、改変を加えています。


山吹の  の話

 

 

 

ヴィクトリカさんとの会話を終えた俺は、単刀直入に言わせてもらうと母さんのおしりペンペンに怯えていた。

この歳にもなって尻叩き如きに日和る軟弱で矮小な精神を抱いている俺ではあるのだが、怖いものは怖いため仕方ない。

むしろ何かを怖がり、怯えるのは弱点ではなく危機管理能力を持っているという証左なのだと強がりを内心で吐きながら、俺は帰路へとついたのだが──

 

ふふ、ごめん。暴徒もとい王族舐めてた。

後1週間かかるわ。

 

なんと、両親が別の国でランデブー延長してやがったのだ。

いや、別に悪いことではないんだ。暴徒退治するって書いてあったし……なんか王族とか書いてあるけど、そういうお仕事を半日で終わらせるとか逆に怖い。

いくら母さんと父さんがヴィクトリカさんと仲の良い人達だからといってそんなチートができるわけがない。

つーかしないで。

パワーバランス壊れちゃう。

 

「……というか王族が関わる問題を1週間で終わらせられるのか?」

 

1週間も1週間でめちゃ速いと思うんだが、まあそれ以上は突っ込まない。

母さんが1週間って言うなら1週間なのだろう。

俺には母さんの過去がとんと分からないのだが、何故か彼女なら有言実行をしてしまいそうな予感がした。

 

「……ふっ」

 

確証も、何も無かったけど何故か確信を持てたのだ。

 

PS.後で尻叩きね♪

 

「……頭おかしい」

 

ついでに悪寒もした。

 

 

 

 

 

 

「やあやあ、帰ってきたよ。我が愛しのバカ息子!」

 

というのが3日前の話で、2人揃って帰ってきたその光景に苦笑を浮かべつつも好物である珈琲を啜っていた俺。

長旅にしては随分と弾むように歩くし、父さんは引き摺られているしで色々と謎の残る2人の旅路ではあるのだが、まあ無事に帰ってきたんだし別にいいかと珈琲を啜る。

昼下がりの疲れた身体に、珈琲の苦みが染み込んでいくような──そんな気がした。

 

「パパ!オリバーにお土産用意してあげて!!それから家事の用意!!」

「暴君じゃないか」

「ジャンケンで負けたのが悪いんでしょうに」

「ぴえんなんだわ」

 

ついでに父さんは扱き使われていた。

尻に敷かれちまってんだなぁ……と微笑ましく父さんを見守ったところで、俺は向かいの席に座った母さんに労いの言葉と、疑問の言葉を同時にかける。

 

「お疲れ様。何やってたん?」

「暴徒の鎮圧と相談、仲介役……まあ、色々かな」

「……俺は何処の国で、どんなことをしたのか。そんな感じの土産話が欲しいんだけどなぁ」

「昔可愛がってた子が王女やってる国で『結婚なんて認めねぇ!ばーかばーか!!』ってやってる娘思いのパパの話なんだけど聞きたい?」

「……あー、なんか聞き覚えがあるようなないような」

「ありゃ、王女様のこと話したっけ?」

 

その王女様とやらの話は聞いたことがない俺ではあるが、侮ることなかれ。

こう見えても俺、転生者なのである。

絶賛オリジナル展開に片足突っ込み中の俺ではあるのだが、何も原作知識が頭から抜け落ちた訳ではない。俺くらいになると王女様って表現だけで魔女旅のどのキャラなのか察することもできてしまう(大嘘)。

輝かしい百合百合ワールド、魔女の旅々の歴史は俺の記憶のフォルダーに永久保存済みなのである。

閑話休題。

 

「で、そのミ……王女ちゃんとやらはどうなった?」

「結局ね、話が縺れに縺れたから王女様と婚約者の子をこっそり国から脱出させたよ。王様はずっと認めねぇって言ってたけど、おとーさんがトンチ効かせて何とかしてくれた」

「父さんが?」

「ふふっ、おとーさんは優秀なネゴシエーターだからねぇ。やっぱ私みたいなじゃじゃ馬にはおとーさんみたいな人が居ないと生きていけないわけよ……」

「ははっ、王国の家庭環境何とかするネゴシエーターって一体」

 

俺の予想通りの人ならその人達の国滅んでます。

え、つーかそれ救済したとか凄くね?

なんで原作でやんなかったんだよ。アンタらみたいなのがバリバリ現役魔法使いとしてお悩み解決していったら「あんな悲劇」や「こんな悲劇」だったり、世界線によっちゃセレナちゃんを殺人鬼から調理に失敗して頬にケチャップドバドバ付けちゃった美少女幼妻にすることだってできるじゃん!

 

いやほんと、育ててもらった癖に何言ってんだって話だけど……一国の姫を救える人達がなんでこの若さで隠居しちゃったのさ。

 

「……でも良いのか?」

「なにが?」

「なんつーか、母さんと父さんって今はロベッタの一般家庭じゃん。そんな人達が一国の王族に密に関わっていいのかなって」

「あー……うん、言わんとしていることは分かるよ。私も王女様と関わってなかったら多分見捨ててたし、それこそ私って王族の問題なんてめんどっちいから放置するような畜生女だし」

「母さん畜生なのか」

「けど、関わっちゃったから」

 

コーヒーを一口啜った母さんが続ける。

 

「私はオリバーと同じで、仲良くなった人を好きになりすぎちゃうんだ。だから友達はみんな幸せになって欲しいし、そのお手伝いならなんだってしたくなってしまう」

「お手伝いってレベルじゃねえぞ……」

「それに、()()()()()()()()()()位には過去の人生必死に走ってきたからね。こういう時にやりたいことできなきゃ頑張った過去が報われないじゃない?」

 

「あ、もちろん人殺しとか犯罪はしないよー」という言葉を最後に、母さんはにへーっと笑う。

俺にとっては何度も見た光景。色々な話をこの14年間してきたけど、母さんがこの笑みを浮かべる時は何故かとても落ち着く。

こういうの、人を巻き込む笑みっていうのかな。

優しくて仕方のない、そんな笑みに心が癒されるし、安心感も生まれる。

俺も将来、こんな笑みを浮かべられたらいいな。

今はまだくそざこな笑みだけど、遺伝子的に母さんの子どもなんだから可能性はワンチャンある……はずだよね?

 

「……なれるといいな、幸せに」

「ふふっ、むしろなってくれなきゃ困るね。私の貴重な105時間を奪った罪深き女の子なんだから」

「105時間ならまだマシじゃね?」

「何言ってるのさ!女の子の1時間は貴重なんだ!!」

「女の子?母さんが?子?」

「表出ろ」

 

まあ、それはともかく。

原作の悲劇が母さんによって救われ、物語の中では亡くなってしまった人が少なくとも己の願望を追求できているんだ。

できることならミラロゼさんには幸せになって欲しい。これから先、どのような結末になるのかは分からないけど、折角国滅亡ジャバリエルートを回避できたんだから、ほんと頑張って。

 

「それはそうと……その様子だと諦めないんだね、まほーとーかつきょーかい」

 

なんて、そんなことを話しつつ。

俺と母さんで旅先の話に花を咲かせつつ、偶に父さんから放たれる横槍を母さんがぶった切り、その様に笑うという時間を過ごしていると不意に母さんがそのような言葉を笑顔で言ってのけた。

何故その話題を途中で振るのかは理解できなかったが、まあ聞かれて都合が悪いこともないんだよな。

なので俺は素直に、今の気持ちを吐露する。

できる限り素直に、真っ直ぐな思いを込めて。

 

「諦めたくないな。1度決めた事だし」

「そっか」

「それに、前まではただなりたいってだけだったけどさ。今はちゃんとなってからその場所で何を成したいか、ちゃんと考えてる」

 

すると母さんは少しだけ目を見開いて、それでも俺をしっかりと見据える。その視線に対抗するかのように、俺は最後に一言を続けて言葉を締める。

 

「叶えるよ、絶対。その為の試験だ」

「……明日だもんね、試験」

 

そう。

あれから随分と日が立ち、気付けば魔法統括協会の試験前日。

受かる自信はあるし勝算もあるが、確実に勝てるかと言えばやや実力不足だと思う。

何より、俺には勝利体験もとい成功体験なるものが圧倒的に不足している。隙あらばイレイナにボコられ、たまに来てくれたシーラさんとの手合わせでも、手加減しまくった彼女に1度勝利した程度。

実技試験で化け物クラスのつよつよ魔法少女が出てくる可能性も否めない以上、この成功体験の少なさは俺の弱点とも言えた。

 

「自信ある?」

「……正直に言うと、不安なんだよね」

「あんなに練習してたのに?」

「なはは、それ言われると耳が痛い」

 

本来なら、もう腰を据えて前日くらいぐっすり寝てればいい。

チャンスなんて数えればキリがないし、仮に今回ダメでも俺は何度でもチャレンジする。その理由は、何度も言ったように1度決めたことだから。

1度決めたやりたいことだ。叶えるまで足掻いてみせるさ。

 

「なので、俺は今日も魔法の練習でーす。ちょっとだけ外出てくるね」

「遅くなる前に帰ってきなよ?」

「あいよ」

 

けど、やっぱり。

()()()()()()()()()を諦められない俺は今日も最終調整とは名目ばかりの訓練を行う。

なんというか、そのチャンスに甘えるようなことをしたくなかったんだよな。

1度で決められるものはキッチリ1度で決める。

そっちの方がカッコイイと思ったから。

 

「いってきます!」

 

俺は意気高く、平原に向かって走り出したのであった。

 

 

 

 

 

 

オリバーが平原に向かって、走っていく。

その姿を部屋のリビングから見送っていた私は、少しの嘆息を漏らして机に突っ伏した。

きっと、若さが織り成す眩しさと長旅の疲れにでも殺られたんだろう。

歳っていうのは怖いもんだよ、本当に。

 

「……やっぱり、血は争えないんだねぇ」

 

魔法統括協会。

響きがとてもかっこいいその組織は、魔法を用いた事件やらその他諸々のお悩みを魔法などを用いて解決する所謂便利屋のようなもの。

その職務に至るまでの道筋は、不定期に開催される試験に合格し、エージェントの資格を得ること。

そして、エージェントとして必要な知識を講義によって得てから、ようやく本番。

潜入捜査や、殺人事件の調査。その他諸々、魔法に関わる事件を解決して報酬の何割かを貰う。

それがまともにできるようになれば、既にその人は立派な魔法統括協会のエージェント。立場が重くなって講師の仕事でも始めりゃ、一定の収入も貰えるようになる──魔法統括協会のエージェントってのは大抵そんなお仕事だ。

 

そんな世界に憧れた私の息子は今、必死に魔法の練習をしている。

夜は勉強を頑張り、それはまさに試験対策漬けと言っても過言ではない一日。それでも尚笑顔を絶やさず魔法と日常に向き合っているのだから、やはり私は──おかーさんとしてはオリバーの夢を認めざるを得ないのだろう。

あんなに眩しい姿を見せびらかしているのだ。その姿に応えるのは、おかーさんの……否、家族の役目だと私は思うから。

 

「くっ……罪な子っ!キャピキャピしてて眩しすぎるぜ……」

「おい」

 

と、まあ。

そんなアホなことを考えつつ──いや、実際にアホなことを口に出していた私は目の前の夫にその姿を咎められてしまう。

口調も表情も不機嫌な私の夫、オリバーのおとーさんでもあるクローバーはオリバーの夢を否定せずに見守ることを選んだ私と正反対の人である。

そんなクローバーは不機嫌そうな顔で私を睨みつけ、両手に皿を持っている。

今日の夜ご飯はパスタ。

クローバーの得意料理のひとつだ。

 

「なーに?そんな不機嫌そうな顔で見つめて……もしかして嫉妬かな?」

「馬鹿なこと言ってねえでメシだメシ。ほらよ」

「あ、うん。ありがとう」

 

差し出された皿を受け取り、フォークとスプーンを片手に持つ。

クローバーお手製のパスタは、今まで食べた料理の中でも特別に美味しい。オーソドックスなミートソースパスタだし、その気になればどこでも食べられるような料理なんだけど、私にとってのパスタはコレしかない。

普通に美味しいんだよ。慣れ親しんだ味の分贔屓が入っているのかもしれないけど、私はクローバーの作ったパスタが大好きだったんだ。

だから今日はジャンケンに勝った瞬間から、もう幸せだった。何せ手間暇かけずにクローバーのパスタに舌鼓を打つだけでハッピーになれるんだから。

 

「お代わりの準備はできてるかな?」

「ガッデム」

「よーしよし!それじゃ、いただきまーす!」

「何がよしよしなのやら」

 

なんだか余計なレスポンスが返ってきた気がするけど、気にしない。

食べる前には「いただきます」と言う食事のマナーを忠実に守った私は、パスタを啜り、噛んで、飲み込む!

絡み合うミートソースがパスタに濃厚な味と風味を付け加え、その味を舌で感じ取った私の五感は「ミートソースパスタおいしい!」と悲鳴を上げる。

ほっぺが痛くなるのが良い証拠だ。

これぞまさに幸せ!味覚という機能を与えられた動物の……幸せ!

 

「……懐かしいな」

「んー、なにがー?」

「結婚する前にヴィクトリカとメシ食った時、お前はあろうことか魔法統括協会の放火魔と呼ばれた俺に火を使わせた。その結果、どうなったか覚えているか?」

「……えーっと。クローバーが燃えたんだっけ」

「炎上してんのはテメェの頭だ。……パスタを燃やしちまったんだよ。その後はもうヴィクトリカがカンカン。俺を魔力の塊でぶっ飛ばした挙句、パスタの代金をぼったくられた……俺にとっては苦い思い出だ」

 

そんなこともあったような気がする。

まあ、日頃の日常を見ていれば分かるんだけどクローバーとヴィクトリカは普通に仲が悪い。

子どもに悪影響を及ぼす恐れがあるから、子供の目の前では張り付いた笑みを浮かべて世間話をするけど2人きりになればそりゃもう「バカ」「アホ」「表出ろ」「煙草くさい」「黙れ白髪」「灰髪よ耄碌爺」の応酬。

犬猿の仲という言葉がお似合いの2人は、頭のおかしさを自覚している私がちょっと引くくらいの喧嘩をするし、ヒートアップすると魔法を撃ち始める。

まだ若かりし頃、いやあなた達何をやっているんですか?頭おかしいんですか?と何度思ったことか。

 

「まあ、このパスタがキューピットだったんだけどな。セシリアさんや」

「初耳だねー」

「言ってねえからな、誰にも」

 

と、まあ。

私がヴィクトリカとクローバーの犬猿っぷりに頭を悩ませていると、不意にクローバーが話題を変える。

その話題の内容は、きゅーぴっどがパスタで、どーたらこーたら。

……え、私のきゅーぴっどパスタなん?

ヴィクトリカじゃないの?食べ物なの?

 

「この事件のせいで俺はお前に惚れてしまった。なんでだろうな、その日にヴィクトリカからお前の話を聞いて、何故か根拠もなく『コイツは俺が支えなきゃ』って思っちまったんだよ」

「ほーん。後でヴィクトリカシメる」

「腹が決まったんだ。事実、俺はその日から遠くない内にプロポーズしたろ?手放したくなかったんだよ、お前という女をいち早く両手で抱き締めたかった」

「あなた……私で酷い目に遭った日からそんなエロい事考えてたのかよ……もうそれ変態を通り越してドMじゃん」

 

つーか、やっぱりきゅーぴっどはヴィクトリカじゃない!と内心で憤慨する。

今更感が非常に強い暴露ではあるのだが、こうして口に出して言うと懐かしさと同時に羞恥の芽も心に生まれるもの。

表情に照れが出てしまいそうになったが堪えて、今度はこっちが話題転換を試みる。

 

「楽しみだね」

「何がだ」

「この先オリバーが()法の()を行く()になるのか、()法で他を()()になるのか。その成長を見れる瞬間を親として見れるのは親の特権だよ」

 

提示した話題は、息子の話。

魔法の道を往く山吹色の少年の未来は、魔道士か魔導士なのか。

え、どっちも同じ?のんのん、私はそうは思わない──っーか、そう教えられてきたんだよね。

『まどうし』の()()の1文字が変わるだけで、その意味合いが180°変わってくるんだ。

 

「ただひたすら道を追い求めるか、人に教える道を往くか……どっちも似合うと思うんだよね。未来が目に浮かぶんだ……」

「あー……あ?わり、それ何処の世界線の話だ?」

「この世界線の話ー」

 

私は昔、私の師に当たる人に魔道士と魔導士の違いの持論を語られた。

曰く、魔道士は求道者。どのような時でも自己中心的であり続け、研鑽の為に時間を惜しまない魔法使い。

私は家のこともあり、魔道士を強いられた。ひたすらに依頼を達成し、成すべきことを行う。そこに『他人のため』なんて言葉は無い。

私はその柵から15年、1度たりとも抜け出せなかった。

そして、魔導士は指導者。他人を導く為に魔法を振るい、自己研鑽や時間を他人の為に使い、惜しまない。

クローバーは魔導士だった。自己研鑽も、時間も生徒の為。人に寄り添い、人に囲まれ、暖かさを振りまく。

魔法統括協会の放火魔とか言われてたけど、私からしたら他の誰より信頼できるエージェントであり、講師であった。

 

ちなみに私は、どうせ魔法の道を往くのならクローバーと同じ道を行って欲しいなと思う。

その理由は、辛いとか苦しいとか関係なしに魔法を通じて自己研鑽だけでなくたくさんの人と関わりを持って欲しいから。

魔導士として人に教える機会を持てれば、自然と人と関わる機会も増えていくと思うんだ。

だから私はオリバーに魔導士を志して欲しい。

魔道士でもいいけど、とにかく私はオリバーに孤独になって欲しくないと──そう願っていたから。

 

「クローバーは、オリバーにどの道を選んで欲しい?」

「ふむ……1周回って競箒選手とかどうだ?」

「そういう冗談いらないから」

「と、ここまでがテンプレで実はハーレムを作るのが夢だったりするんだよな。何せお前の子だ、同性異性問わず多くの人間と交友の輪を広げてしまうのだろう」

 

んなわけ。

 

「若い時はそれなりに嫉妬もしちゃったぜ」

 

きめぇ。

 

「嫉妬ってさぁ……」

「まあ、要はオリバーがどのような魔法使いになるかなんて些細な問題ってわけだ。俺はアイツがヴィクトリカのような守銭奴になってもいいと思うし、お前みたいな脳内ぱっぱらぱーなアホ魔道士になってもいいと思っている」

「些細な問題かな?私、オリバーがあの子みたいになるの嫌よ?」

 

少し投げやりにも感じるクローバーの言葉に、苦笑する。

正直なところ、オリバーがヴィクトリカみたいになるのは……うーん、ちょっと……多大な影響は受けないでほしいというのが本音なんだけど、あの子ヴィクトリカに懐いてるからなあ。

それに追い打ちをかけるようにヴィクトリカもオリバーを溺愛してるし。

なっちゃうのかなあ、ドS守銭奴に。そこはイレイナちゃんポジじゃないのかなあ……なんて思いながらパスタを食べていると、不意にクローバーが笑い出す。

ふむ、人を舐め腐ったような嘲笑を察知。

なにわろてんねん。

 

「アイツが選ぶ道一つ一つに貴賎なんてねえんだよ。道を行く方になろうが、導く方になろうが、競箒野郎になろうがなんだっていい。()()()()()()()ができたら百点満点だ」

「無責任じゃないかしら」

「俺はそうは思わない。親にあれこれ言われる時間より1人で何かを選ぶ時間の方が圧倒的に多いんだ。それこそ、縛るだけ縛って大人になったらその道で勝手に頑張れーって方が無責任だとは思わないか?」

 

それは、まあ。

言いたいことは分かるし、なりたいっていうのなら許す覚悟位できているし、壁や試練は与えるけど、乗り越えたのなら別に魔法使いとして働いていいとは思っているけれども。

けど、やっぱり不安じゃない!

世間はどす黒い闇と裏金といじめっ子たちで成り立っているのよ!?

そんな世間に大切で大切で、目に入れても痛くない息子をどうしてあなたは簡単に手放せるのよ!バカヤロー!と思う心も確かにあって。そんな心が表情に出てしまったのかは分からないけれど、クローバーがそんな私を見てため息を吐く。

少しいらっと来た。

 

「逆に考えてみろ。仮にオリバーがお前の思うようなどす黒くて仕方ない魔法統括協会とやらに加入したとする。そして、その闇に対して『ふえー!』ってなったとする」

「なんで心読んでるの?」

「シーラがそれを放っておくか?」

 

そこまで言われて、私は初めて笑顔を見せたんじゃないのかなと思う。

笑顔といっても苦笑じゃなくて心底出たような、そんな笑み。

その原因は分かっている。自分の過去を鑑みた結果、シーラの破天荒さだったりやにかすっぷりだったりが懐かしく感じて笑ってしまったのだ。

だって、仕方ないじゃない。

今でこそお姉さん感だしてオリバーの世話を焼いたりしてるけど、昔はそりゃもう生意気盛りの、師匠以外の魔法使いなんてくそくらえーって感じの子だったんだから。

それが今じゃオリバーにデレッデレのデレデレな甘々お姉ちゃん。

ギャップでクッソ笑っちまったのさ。

 

『テメエが命令したことは全部終わらせたんだ。これ以上何か言われる筋合いねえんだよ』

『ははははは、生意気な所は師匠似かな。ははははは』

『……てめえ、なに笑ってんだ。シメんぞコラ』

 

意気高く歯向かってきたことを昔のことのように感じる。

もう、あれから14年なんて嘘みたいだ。

引退して、結婚して、子育てして──今度はおばあちゃんになるのかな。その間にも教え子は成長して、今では息子の面倒を見てくれて、夢を持つ一助にもなってくれて。

そんな頼れる、私の後輩だからかな。

 

「放っておかないね」

 

答えなんて決まってる。

あの子が目を輝かせて、夢を語ったあの日から。

そして、あの子がオリバーを弟子にしたいと頼んできた日から。

 

「シーラなら安心だ」

 

ずっと、決まってる。

 

 

2章終了後の3章は……?

  • 魔法統括協会編!(全15話完結予定)
  • 2人旅編(全30~40話完結予定)
  • 両方同時並行(がんばる)
  • アムネシア編

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