どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
あれだけ長く続けば良いと思っていた幼少期はあっという間に過ぎていく。
わけも分からないままに魔女の旅々の世界に放り込まれて、名前を付けられ、魔法に触れて。
そうしたら原作に登場した魅力ある人達に出会って、その人が俺の人生を決める師匠になったり、親友になったり。
そうした人達が自分の新たな人生の指針になって、ようやくやりたいことを明確に決められたと思ったらもう大人の仲間入りだ。
時が過ぎるのは、本当に早いよな。
けど、時間は無情にも過ぎていく。
1日を大切にしようとしても、1日に延長戦なんてなくて。
「あれやりたかったな、これもやりたかったな」なんて悔いている間にも夜は過ぎて、新たな1日が始まる。
時間は残酷だと思う。
一方通行の人生を歩むしかなくて、逆走なんて出来ないようになっている。止める術も何も無くて、ただただ時間の趣くままに、それでいてあっという間に過ぎ去る。
時間の使い方なんて、そんなもの考えているのが勿体無い位時間ってのは貴重だ。
本当に貴重なものなんだ。
「なあ、イレイナ」
真夏の暑さに心がやられてしまいそうな、そんな1日だった。
海に面した港町、近場にはビーチもある熱帯地域に存在するその街は、沢山の人々が行き来する旅行先として大人気のスポット。しかし、旅行自体が目的ではなく、単純にお目当ての女の子がそこで待っていたからという何とも煩悩らしいそれを引っ提げ、俺は休暇をこんなクソ暑い場所で過ごしていた。
同僚から『イレイナさんから呼び出しが来てますよ!ぷんぷん!!』なんて言葉を聴いた時、俺は嬉しくて嬉しくて小躍りしてしまいそうなくらい有頂天だった。何せ半年ぶりのイレイナだ。どんな手段を用いても会おうと思えるほどの気概が確かにあったんだ。
手始めに今まで貯めに貯め込んだ有給を今日からのスケジュールにぶち込んだ。上司が顔を引き攣らせて『イレイナバカ』とか言ってた。また、時を同じくして黒髪ロングの同僚からも『イレイナバカ』とか言われた。いや、俺の仕事仲間尽く酷くね?もう少し慮ってくれても良くね?
「どうかしましたか?」
「ぶっちゃけ、俺の第一印象ってどんな感じだった?」
さて、俺の自問自答の近況報告はこれくらいにして今一度現実に向き合おうと前を向く。
ノースリーブのワンピースに、薄いカーディガンを着込んだ彼女──イレイナは俺の奢りで購入したドリンクをストローで吸い上げ、俺の視線に気が付くと不敵な笑みを送りやがった。その姿はさながら魔女であり、数年の歳月を経過し可愛さが美しさとなったその様は数年前のイレイナとは大違い。
ああ、認めてやる。綺麗だよ。けど、綺麗ならなんでも許されると思うなよ。流石にジュースのおかわりは許さない。久々の再会とはいえ、それは許さん。
それに、外面こそ変わったとしてもこの子の中身は何も変わっちゃいない。尤も、それは彼女の美点であり、俺がイレイナを好きである一因でもあるのだが、それが俺の顔を引き攣らせる要因になるということも間違いではなく──
「最悪を絵に書いて貼り付けたような感じですかね」
ほら、俺の顔が引き攣った。笑ってはいるんだろうが、左の頬が引き攣る感覚に襲われた俺は、『イレイナなんて嫌いだぁっ!』なんて想いを心の内に秘める。それでも、結局数日経った頃にはこの想いを忘れ、次の出会いに心を弾ませる俺が出来上がってしまうのだが。
仕方ないだろ、それくらい惚れ込んじまってんだから。
「酷いな」
「それ程あなたが尖っていたということです。私に対して酷い態度を取っていたのは確かですし。今こそ違う立場にありますけど、あの時の私とあなたの立場を今一度考えてみてはどうでしょうか?」
「それは……」
離れていても、必ずどこかで繋がっていると確信できる関係。
とはいえ、凡そ親愛やら友愛やらとはかけ離れた変態的な言葉の数々。勿論、彼女が俺に対して抱いている気持ちも影響しているのだろうが、それでも俺は目の前の女──イレイナに対して遠慮なんてナシで突っかかっていった。
それを良しとするかどうかは俺次第ではあるのだが、少なくとも当時の親友であるところのイレイナに最悪なんて言われれば、流石の俺でも当時の過去を考える。
畜生……こんな可愛い女の子に気に入られるチャンスを俺は逃したってのか!情けないぞ俺!
「ただ、そういう関係にあったからこそ俺はここにいるのかもしれないしな。一概に俺の態度が悪いとは言いきれないだろ」
「物は言いようって言葉を如実に表していますね」
「わかってるさ。分かってるからこそ、別れた時は辛かった」
「……初耳なんですけど、そうなんですか?」
「はい、辛いです……!イレイナさんが好きだから……辛いです……!!」
「ちっ」
「え、今舌打ちした?」
イレイナの舌打ちが、俺の心をヒエッヒエにさせる。
無論、内心でだ。長い付き合いから彼女に弱みを見せたら最後、付け込まれて会話の主導権を握られてしまうという事実を知っているからである。
悲しき感情はひた隠し、不敵な笑みを向けてみせる。
イレイナが「すいません」と店員に一言。二言目に「ジュースのお代わりお願いします」と言葉を紡ぐ。
お前自腹確定な。
「オリバーは分かっていません。全く、全然、これっぽっちも分かっていません」
「……わ、分かってるよ。イレイナさんはアムネシアとサヤで白黒灰同盟結びたいって話だろ?」
「間の取り方がおかしい上に間違ってて涙が止まりません。やはりオリバーは何も分かっていないんです。万が一があったとしても、それはあなたが分かっているつもりなだけです、よよよ……」
「舐めるな!お前への愛なら今すぐ叫ぶことができるオリバーさんだぞ!?」
「言ってみてください。その代わり満足させられなかったら氷漬けになってしまいますが」
「かき氷の季節にはまだ早いかなー……ねえ。本当にそういう脅しやめてよね。こんな場所で人間かき氷なんてダメだよ、本当に」
「うるせーです」
『当時の私の気も知らないで』とイレイナが呟き、ため息を吐く。そっぽを向いてジュースを飲むその様は何処ぞの誰かさんを彷彿とさせるわけなのだが、それは今は関係ないことなので考えないでおく。
今は、拗ねてしまったイレイナに対して弁解を行わなければならない。それがセオリーでマストである。
何せ、イレイナの気分次第で俺の休日の充実度も上下するんだからな。イレイナさんが好きだからこそ、拗ねられたら俺が困るんだよ。
是非ともイレイナには、常に新しい景色に目を輝かせて欲しいもんだ。
「まあまあ、そんな拗ねた顔しないで聞いてくだせえイレイナセンセ」
「それ、非常に不愉快なのでやめて頂きたいのですが……して、最悪の形とは?」
「キミに会うことがなくて、夢も希望も抱くことのなかった未来」
先程まで、真夏の暑さにやられたとでも言わんばかりに冷たいジュースをストローで吸いまくっていたイレイナが、今度はアイスクリームに触手を伸ばす。
お前本当に良く人の金で飲み食いするよな、奢りなんだから少しは遠慮──しなくてもいいけどさ。ほら、もっと……こう、あるじゃん?確かに俺の財布はキミの財布みたいなもんだけど……な?
「『あー』してください」
「ッ……!?」
「聞こえませんでしたか?『あー』してください。それが嫌なら今すぐ窓からバック宙して私を笑わせてください」
「いっ……イレイナさんって最高ゥ!なんか、こう……最高ゥ!!」
あーんしてもらう報酬貰ったんでもう怒らねえぞオイ!!
自腹上等なんぼのもんじゃい!!イレイナさんがしてくれる「あー」なんて現ナマ幾ら出しても体験できねぇレアシーンだぞボケ!!ここで「あー」しなきゃ魔女旅オタクが廃るってもんよォ!!
つーわけでお望み通り「あー」して、イレイナさんからのお届け物を口に運ぶ俺。
その様を見て「ふふ、欲に忠実ですね」と微笑むイレイナさん。
くうっ……なんかすっごいデートっぽい……!!
「それにしても、まさかオリバーにそんな闇堕ちルートがあるとは。馬鹿でズボラな変態さんを絵に描いたようなあなたがそうなるとは考えにくいのですが……なにか確信でも?」
「十分有り得る話だ。イレイナやフラン先生。シーラさん、サッヤやアムネシア。果てはミナちゃんやアヴィたん。色んな人と出会って、共に旅をすることの素晴らしさを学んだ。けど、それってキミから始まったお話だから」
「と、いいますと?」
間接キスなんて今更気にする仲ではないが、さも当然の如く俺がアイスを食べたスプーンを使い、再度アイスを食べながらそんなことを言うイレイナさん。
視線は俺に向けられ、話の続きを言葉でも視線でも促されているように感じるその光景に、俺は思わず吹き出しそうになる。
だってさ、さも興味なさげに涼しい表情でアイス食ってたイレイナさんが目と言葉で「続きをどうぞ」って訴えかけてくるんだぜ?
なんだよクソ可愛いかよってなるわ。国宝級の可愛さだぞ、これ。
端的に言わせてもらうと、抱き締めたくなるから涼しげな表情で目を輝かせるのやめろ。欲に忠実になったら犯罪者行きの特急列車で一直線だよ……
「……何笑ってんですか」
イレイナさんのジト目が突き刺さった。
「ごめん」と素直に謝罪して続ける。
「キミが居なきゃ、こんな所まで行けなかったって話だよ。もしかしたら魔法なんて扱ってなかったかもしれないし、商人やってたかもしれないし、アムネシアと出会ってバディ組んでたかもしれないし……」
「……へーそーですか。それはまた随分と壮大な話ですね。では、話ついでに……その場合の私はどんな立ち位置なのでしょうか」
「……サッヤとアムたそに囲まれてハーレムエンド?」
「ぶっ飛ばされてーんですかそーですか」
仕方ないだろ、そこまで深く考えた訳じゃないんだから。そんなことおちおち考えている暇があったら、俺はもっと金を稼ぐ旅に出てる。
そもそも、常日頃からIfを考えたところで何になると言うのか。IFが現実になるわけでもあるまいし、たまに考えることはあっても大抵虚しくなって、はいおしまい。
その時間が勿体ないとは思わないかね?
俺の目の前には、失明しかねない輝きで人を魅了する女性がいるのだぞ。妄想してねえでこっち見ろボケって言いたくならないか?
故に、俺は大人になってから『転生したらアムネシアだった件』のIFを考えなくなった。
イレイナさんをこれから先、一秒でも長く見ていたいと思ったからだ。
今だって、俺はずっとイレイナさんのことを見ている。
彼女の一挙一動がかわいくて、かっこよくて、時にいじらしくて。
そこまで考えたところで、俺は内心で笑う。
『俺、重いっすね』と。あまりに激重な感情を嘲笑した結果である。
「……まあ、そういうことなのだとしたらオリバーは自分の判断に感謝しなければなりませんね。今のこの世界線はあなたが選んだ道ですし、過去のオリバーに、精一杯感謝をした後に未来へと歩を進めるべきだと思われます」
「うん」
「そしていい加減私に次の景色を見せてください」
「?」
「……はぁ」
わけも分からぬままに首を傾げると、その行為に呆れ果てたようにため息を吐くイレイナさん。
「あなたあれですか、頭ぱっぱらぱーなんですか」と言って、今度は窓際の景色に視線を送る彼女を見て、俺は最後に言いたかった言葉を言おうと口を開く。
「感謝してるよ、イレイナ」
「そうですか」
「キミに逢えて、本当に良かった。幸せ者だな、俺──」
「そういえば単身でアムネシアさんに会ったらしいですね」
そして、言葉を遮られてしまう。
更に衝撃的なカミングアウトである。
というより、何故彼女はその事実を知っているのか。
こっちが喫茶店で最後の最後まで取っておいた話のネタが明かされてしまったことに戦慄していると、ストローでジュースを飲みながら不機嫌そうに睨みつけるイレイナさんが爆誕していた。
何故彼女はそんな表情をしているのか、そこが分からない。
「……その情報は何処で」
「ミナさんです」
情報をお漏らししたミナはがっとぅーへう。姉と一生戯れてろ。
とはいえ、随分前にミナに対するやべー情報を姉のサヤに漏らした俺も人のことは言えない。結果が状況を示す因果応報とはこのことを言うのだろう──と俺が内心で浸っていると、イレイナの表情がニコリとしたそれになる。
あれーおかしいね、不機嫌そうな表情が笑顔に変わったハズなのに何か室内温度下がってないっすか?
「出先でご飯、共闘、故郷探しですか」
「ナンノコトカナ、ヨクワカラナイナ」
「あ、申し訳ありません。アイスおかわりお願いします」
「……
「弱味を握られた彼の財布程懐の緩いものはありませんよね、女たらしさん」
「俺は財布じゃないし女たらしでもないっ!」
「どの口が言うんですか、どの口が」
ねー本当に違うの!!
俺が女たらしとか思っている奴マジでモグリなの!!大体、ちょっと女の人と会話しただけで女誑しとか言われたら、恐らく殆どの奴等が女たらしの部類に入りますからね!?
つーか登場人物の女性比率多すぎなんだよボケ!!
百合ってるのは別にいいし、その登場人物の多さから織り成すカップリングの無限の可能性は紛れもない魔女旅の良さでもあるよ!
けど流石に多すぎるんじゃい!
直近で偶然会った友達が成長したドロシーちゃん*1→シャロン様*2→アムネシア*3とかフツーに考えておかしいから!!
なんだそのギャルゲーお約束の3連コンボ!!もっと男の子との運命的な出会い増やしてよお願いだから!!
「まあ、アムネシアさんから大方話は聴きましたが今の今まで誤魔化していたのは感心しませんね」
「そもそもの話をしよう。俺はイレイナに絶対、何がなんでも、確実にその話をする必要があったのか?」
「ありますよ。アムネシアさんは友達ですし、その情報をあなたと共有したいと思うのはごくごく自然な思考だと思いますが」
「全然自然じゃないじゃん。嘘つき、自腹確定な」
「仕方ないですね……はい、金貨5枚です。これで手を打ちましょう」
「それ俺の財布。お前の財布、そっち」
とはいえ、そんな事を願ったところでどうにもならないどころか更にエンカウント確率上昇するんですけどね初見さん。
つーか嫉妬イレイナさん相も変わらず可愛いな。
写真に撮って家に飾っておきたい位だぞ本当に。
シーラさんの恩に対する義理を通してエージェント引退した後にイレイナさん専属のカメラマンになるのもアリかもしれないな……
「……」
「なんですか」
「俺がエージェント引退したら臨時カメラマンとして雇ってくれない?」
「嫌です」
「と、言うと思ったろ?実は専属でもお願いしようとしたんだよね」
「……」*4
「あ、拒否の笑顔ですね分かります」
知ってた。
●
最初に言わせてもらうと、魔法統括協会の試験は筆記と実技の2つであり、これらを突破した俺はエージェントの身分を証明するブローチを頂いた。
筆記は本当に基礎的な内容。
学校での試験とちょっとだけ違うのは、魔法関係の問題が多く含まれていたことだ。まあこれも、シーラさんが誕生日に毎年送ってくれた本の数々を熟読した甲斐あって、なんと普通に問題が解けた。
有り得ないと思うだろ、こんな展開。
安心しろ、俺も最初は目を疑った。
まさか人生2週目にして「あ!ここ○○で習った奴だ!!」が出来るとは夢にも思わなかったよ……
「なんでお前に試験内容を話さなかったのか分かるか?」
「シーラさんのくれた本が、そもそも魔法統括協会の試験向きの内容だったから」
「そういうことだ」
試験後、何故か試験会場前でソワソワしながら入口付近を往復してたシーラさんに声をかけ、帰り道までの数十分を彼女の歩調に合わせながら会話をしていると、シーラさんが俺の頭に手を置き、わしゃわしゃしたりなでなでしたりしながら話を続ける。
あ、やめっ、セットが乱れるぅっ。
「それに、実技も楽勝だったろ?なんてったってお前は一撃で敵の出鼻を挫く必殺技があるんだからよ」
「……まあ、はい。えーっと、ぎっくり腰の魔法の治療で激おこの試験官さんからブローチを賜りました」
「お前アレ、範囲魔法でやれるとか普通に才能の塊だからな?」
「……ま、魔力の弾丸も使いました……よ?」
「おー、それもフツーに規格外だな。あたしが渡した鉄砲の本見たのか知らねーけど普通の人間は魔力の塊にジャイロ回転加えたりとかしねぇから」
どうやら、シーラさんから見たオリバーという魔法使いの評価は一貫して高いらしい。
思えばシーラさんはずっと俺に目をかけてくれていたし、ハナっから俺に対して好意的でいてくれた。
誕生日には何かしら役立つものを宝箱の演出込みでプレゼントしてくれたし、たまにロベッタに来た時は必ず、欠かさず、惜しみなく魔法のイロハを教えてくれた。
俺にとっては重要なターニングポイントとなった出来事も、元はと言えばシーラさんが母さんに話を通してくれたから生まれたきっかけだ。魔法統括協会に行きたいだなんて、恐らくシーラさんが俺に目をかけてくれなかったら選択すらしない未来だったろう。
そして、そんな様々な事をしてくれたシーラさんの俺に対する評価は──うーん、多分……きっと、……高いと思うんだよなぁ。
だって今もこうやって褒めてくれるし、なでなでもしてくれるし。
いや、この歳でなでなでは普通に恥ずかしいんですけどね?
フラン先生の時も間違えて「よろしくお願いします」って言っちゃったけど、普通になでなでは恥ずかしいと思ってますからね?
「だからお前はもっと自信を持て。これ、次の課題な」
「ええっ!?」
「今の自分の実力を認められるようになる為に、これから多くの成功体験をしろって事だ。ま、少しくらい勘違いして欲しいってのも本音なんだが……お前多分勘違いできないからな」
「そんな失礼な」
俺だって勘違いくらいできる。
原作の解釈違いなんて腐るほどやってるだろうし、イレイナさんとの日常の中にだって色々
ただ、それを表に出せるか出せないかって話だ。
仮に欲望そのままに「イレイナさん……しゅき……♡」なんて言ってみろ。もれなく心か身体のどっちかに深い傷を負う羽目になるだろう。
俺はそんなの嫌だ。いつまでも馬鹿やって楽しく暮らすためには、己の無知や勘違いを表に出さず、目で見えるものだけを愛でる。
それが肝要なのである。
「ま、お前の規格外っぷりに関しては後々話すとして。今はやらなきゃならんことがあるよな」
「と、言いますと?」
「お前のかーちゃんに言わなきゃならねえ事があるって事だ」
「あっ」
ともかく。
そんなことを話しながら、帰り道を歩いていけば辿り着くのは何十年と暮らし続け、住み慣れた我が家。
そこに辿り着いた途端、俺は今まで置きっぱなしにしていた問題に直面し、シーラさんは俺の頭から手を離して「忘れてたろお前」と軽くゲンコツ。
ちょっぴり痛いが、暴力と叫ぶ程のものでもない。
寧ろ信頼関係を感じる心地よい痛みだ。
ドMではない、絶対。
「安心しろ、受かったからにはあたしも説得してやる。定期的には見れなかったが、お前の目標に対する頑張りは見てきたからよ」
「いいんでしょうか、こんなに色々世話焼いて貰って」
「あー、因みにあっち行ったら暫くあたしの家で寝食の世話焼いてやっから心配すんな」
「本当にいいんでしょうか!?」
「いいんだよ。やりたくてやってることなんだから」
あまりの待遇の良さに混乱する俺に、更にシーラさんの一言が刺さる。
息を吐くように褒めたり、与えてくれたり、俺としては願ったり叶ったりなのだが、本当にそれでいいのかという良心みたいなものもあったりする。
例えば、そんなに与えてくれても何も返せないっていう御恩と奉公的な精神だったり。今のようにたくさん褒めてくれても、単純に嬉しいだけではなく
そんな考えをしていた俺は、前に魔法統括協会行きの話をしてもらった時、自己評価と他者評価は違うとシーラさんに言われた経験を持つ。
それ以来、自分で自分の可能性を狭めるようなことはしないと胸に誓ってきた俺ではあるが、他人の評価を素直に飲み込み、受け止められるまではいかない。
そこは紛れもない、俺の弱点だったりするんだよな。
自分の評価を他人に押し付け、人の言うことを否定してしまう俺の悪い面だ。
いかんいかん、これから意識して治していかねば。
「まあ、幼馴染に色々教えて貰ったりもしたんだろうけどよ、それでもその道のプロに付きっきりで教えて貰えなかったってのは結構なハンデだったりするんだよ。現に実技試験見学してたらそこそこの数の魔女見習いがいたしな」
「そこまでハンデなんですかね。そんなこと言ったら俺なんてその道の先輩魔女のシーラさんに魔法教えて貰ってるんですから、むしろこっちがアドバンテージ取れてるのでは……」
「言っても年に数回だろ。多くの魔女見習いはな、師匠である魔女の身の回りの世話をしながら、毎日魔法の手解きをしてもらうんだ。そんな時間お前には与えてやれなかったろ」
その年に数回ってのが非常にデカいんですがねぇ……。
「付きっきり」というものに果たしてどれだけのメリットがあるのか、体験していない俺にはまるで分からないのだが、少なくとも
だって……だって、魔法統括協会現役バリバリの魔女さんですよ!?
そんな方に魔法を教えて貰えるなんて経験そうありませんって!!
しかも思った以上に親身になって教えてくれましたし、極めつけには慈愛の籠ったなでなでですよ!?
頑張らない理由が見当たらない!!
上達しない理由が見当たらないッ!!
なので俺は、シーラさんが魔法を教えてくれた一日一日を大切にしてきた。
遠い場所で、重責が織り成す多忙に心身を疲弊させていただろうに、嫌な顔1つせず、1つの事が出来るようになったら「よくやったな」なんて言葉で褒めてくれるシーラさんに、少しでも進歩した姿を見せたくて。
勿論、魔法の道を極めて、旅の何処かで再会するっていうイレイナとの確約も理由には入っていたけど──俺はその確約と同じくらい、シーラさんに対する思いが、魔法に情熱を注ぐ理由になっていたんだ。
「そんな中、自分なりによく頑張った。魔女見習いとして既に魔法の勉強を師匠に教えて貰った奴も試験を受けている中で、お前は限られた機会で実力を身につけ、対等に戦い、他を蹴散らした」
「……」
「ちゃんと見てたぞ。本当に良く頑張ったな」
だから、きっと。
今こうして俺が褒められているってことは、その頑張りをシーラさんが認めてくれたからなんじゃないのかなって思う。
別に振り向いてくれとか、褒められたいとか、そんな欲は持ち合わせていないけれども、仮にシーラさんがその努力や心意気を買ってくれたのだとしたら、今の俺にとってこれ程嬉しいことはない。
「ちゃんと見てた」
その言葉を目上の人がかける意味を、俺は理解している。
理解しているからこそ、たまらなく嬉しかった。
言われるだけじゃない。ずっと見てくれていたことを知っているから。何より、俺に親身になってくれた人だから。
俺にはその言葉が、甘美な褒美のように思えたんだ。
「だからこそ焼いてやりたい世話があたしにはある。あたしが小さい時に感じた不自由や不必要な困難はできるだけ除外してやりたいし、こんな事言うのもアレかもしれねえけど──お前に色々してやりたいんだ」
「シーラさん……」
「有言実行したお前に、健気な位頑張っているお前に、何より可愛い弟分のお前に、出来る限りの事をしてやりたいっていう師匠の願いを汲んでくれねえか?」
故に生まれた隙を見逃すほど、夜闇の魔女は甘くない。
褒美の甘美さに思わず惚けてしまった俺は、同居を断るタイミングを見失ってしまい、気付けばシーラさんの掌で踊らされる哀れな子羊と化してしまう。
意地の悪い顔で笑ってみせるシーラさん。
「ぐぬぬ……!」という言葉を使う時があるのなら、まさにこの時だろう。シーラさんは俺が思っていた以上にお姉さんであり、ドSでもあったワケだ。
「ぐぬぬ……!ぐぬぬぬぬ……!!」
「はっ、返す言葉もねえって感じだな。まあいい……じゃあお前下宿してからあたしの家事手伝い確定な」
「ま、魔法は!?魔法のセンセはやってくれないんですか!?」
「んー、先ずは煙草とかのパシリからな」
「思ってたのと違ーう!!」
まあシーラさんの家事手伝いなら喜んでしますけれども!!
正直俺からしたら天国並の褒美ですけれども!!
それでも掌で踊らせるのやめてくれませんかねぇシーラさん!!と俺からシーラさんに向けるには非常に珍しい『怒』の感情をぶつけようとすると、不意に先を歩いていたシーラさんが振り向く。
瞬間、俺の眼に映ったのは
そんなシーラさんを見た俺は、こう思ったワケだ。
「悪いようにはしねえよ。……これからよろしくな、オリバー」
やっぱりこの人は、どうしようもなく
きっと一生賭けたって、この人には敵わないんだなって。
そんな直感にも近い何かを、感じちまったんだ。
※
難航していた『母さん説得作戦』に一撃で蹴りを付けたかっくいーシーラさんは、またの機会に話そうと思う。
や、だって俺だけの秘密にしておきたいんだもの。俺が言っても首を縦に振らなかった母さんを瞬く間に説得して魅せた彼女の勇姿を、できることなら漏らしたくないもの。
まあ、1番の理由は『将来出来た後輩達にシーラさんの武勇伝垂れ流してもいいっすか?』と言った瞬間に、恐ろしい剣幕で頬を両手でむにむにされたからなんだけど。
どうやら、シーラさん的には俺に関するカッコイイ所を垂れ流すのはむず痒い何かがあるらしく──
「言ったら破門な」
「ひぃ……」
「言ったら、破門な?」
「へ、へい……」
頬を両手でむにむにされながら、言質を取らされた。
どうしてそんなにむず痒くなる必要があるんですか、と聞いてみたい気持ちもあったが、折角色々世話を焼いてくれた人に余計なことを吹き込みたくもなく、俺はそのまま閉口。
満足そうな表情のまま、シーラさんは滞在しているというロベッタの宿に帰っていった。
女心も師匠心も分からない俺にとって、言うなれば『ちょっと何言ってるか分からない』状態に陥った俺は、彼女の後ろ姿を見つめつつ『ミナちゃんやサヤちゃんと合法的にお近づきになれる方法7選』の1つが潰されたことに、地団駄を踏んだのだった。
そして、月日は経って2週間後。
あれから何度かシーラさんと話し合い、シーラさんがロベッタを発つのと共に、この国を旅立つことが決まった俺は残りの一日を悠々自適に過ごしていた。
既にシーラさん監修の元荷造りは済ませており、旅立つ準備は万全。後は明日、滞在先のチェックアウトを終えたシーラさんが俺を迎えに来てくれるのを待つだけだった俺は、最近何かと忙しくゆっくり話したり遊んだりする機会がなかったイレイナさんと、最後の一日をゆっくり過ごす筈だった。
そう、悠々自適に過ごしていたし、ロベッタ最後の1日をゆっくりと過ごすつもりだったのだ。
久しぶりの休暇、ロベッタ最後の1日。
目の前にいるのは賢い可愛いイレイナサン。
俺のロベッタ最後の1日は、誰もが羨む最高の1日になるハズだった。
「美少女幼馴染による目隠しプレイと緊縛プレイの併せ技!こりゃあドMじゃなくても興奮しちゃうね!!」
「あ、少しうるさいんで静かにしてもらえますか」
「誰かー!!誰か助けてー!!」
それがどうしてこんなことになっちゃったのかは正直に言おう、まるで意味が分からない。
辺りは暗闇──否、厳密には俺の視界だけが黒い何かによって隠されており、俺の周りで何が起こっているのかということはさっぱり分からず。
けれど、縄を身体に巻かれて引っ張られ、止まってしまったその瞬間に「ていっ」と可愛らしい声と同じタイミングで背中を叩かれていることはハッキリと分かり。
その屈辱的なお馬さんプレイに怒り心頭だった俺は、思わず諸悪の根源である少女に怒鳴り声を上げてしまったのだ。
そして、その瞬間に少女の鋭いムチが俺の背中を叩き、俺の足を強制的に前へと向かわせる。
や、ほんと痛いんでやめて欲し──ひぃん!
「言いましたよね。意趣返しはまだ終わっていないと」
「い、意趣返しか……俺はキミの意趣返しなら何時でもウェルカムだが、それとこのお馬さんプレイには何か関係あるんすか?」
「お馬さんプレイなんて誰が言いました?これ、報復です。甘ったれたプレイと同列に語るのはやめてください」
「ひぃ……!」
今、鞭かなんかで俺をシバキ倒しているイレイナさんがこんなことをやっている理由は、モチのロンで俺にある。
と、言うものの俺は毎年必ず何処かの日で誕生日やら何やらと理由を付けてイレイナさんに何かしらの贈り物をしてしまっているのだ。
原作で贈り物やプレゼントの類が苦手だと言っているイレイナさん。そんな彼女に贈り物をするという業の深いプレイを平然と、毎年、臆面もなく行っている俺。
当然報復行為に晒されないワケもなく、俺は今目隠しプレイでシバキ倒されているのであった。
「ちょ、ちょっと!ちょっと待ってください!!弁解の余地を!!俺にお慈悲をください!!待って!助けて!!」
「10字以内でどうぞ」
「ぃ……イレイナさんの目隠しプレイ、いとをかし?」
「字ぃ余ってるじゃないですか。舐めてんですか、えぇ?」
「ぐほおっ……!!」
唯一のチャンスであった10字以内の弁解も字余りによってフイにしてしまった。果たして10字以内で何を弁解すりゃいいのかって思ったが、弁解のチャンスをくれた上に、そこまで求めちゃ傲慢ってもんだとも思う。
というか、こういう時のイレイナがチャンスをくれるってのも珍しいっすからね……普段なら有無を言わさず魔力の塊っすよ。
この前なんてちょっと妄想垂れ流しただけでアッパーカットっすからね。
尊みと痛みでいい加減死ぬぞ俺。
「はい、着きましたよ」
イレイナのその言葉で、我に帰った俺。
いつの間にか目隠しプレイの元凶であった布の感触は無くなっており、魔法を使ったのかは知らないが縄で縛られた感覚もない。
では、今度は目を開けてみようかと思い眩しいほどの外界の景色を眼に映そうとすると──
「オリバー君、魔法統括協会の合格おめでとう!」
「おめでとう、オリバー君」
パァン!パァン!パァン!とクラッカーの音が鳴り響き、痛いほどに聞き慣れた2人の声が鼓膜に響く。
目隠しにより薄ぼけた視界が徐々に明瞭になると、俺が今、誰に何をされているのかということを脳が整理し始め──その事実に、脳がショート。
脳が破壊されるほど喜びを隠せない、そんな予想外のイベントに俺は思わず目を見開いて言葉にならない声を上げてしまった。
「……え、えぇっ」
クラッカーにより飛び散った紙吹雪やら何やらが、俺の頭にぶっかけられる。そして、そのまま──何も考えられないでいると、響いたのはイレイナさんの声。ここでようやく意識が覚醒した俺は、イレイナさんに対して言葉で噛み付こうと後ろを振り向く。
この時点で、俺の心臓はバックバク。
なんでこんなことになってるの!?とかサプライズだよね!?夢じゃないよね!?とか、まあ色々考えて、勝手に興奮して──なんか、上手く言葉にできない心境だった。
「驚きましたか?」
「お、驚くも何も……どうしてっ」
そんな俺の反応は、イレイナさんにとっては予想通りだったのだろう。
狼狽した俺の反応を楽しむように悪戯っぽく笑ってみせた彼女は、俺の横を通り過ぎると、言葉を続ける。
「このまま何もせずにさようなら、なんて薄情ではないですか?」
「……むしろそれがイレイナっぽいまであるんだが」
「研究が足りていませんね。むしろ私は遊び心に任せて顔面にケーキを投げつける人なんですが……」
「嘘をつかないでくれないかね……」
キミはケーキすら投げずにサヨナラ旅々する子だろ。
そんな好戦的な主人公いてたまるものか。
「……で、ケーキは投げつけないのか?」
「かなり掘り下げてくるんですね」
「研究が足りないな。むしろ俺はイレイナの繰り出す全てのプレイに興奮する変態なんだが」
「あ、はい。つまりなにも変わっていないってことですね」
「ああ」
そう言った瞬間、ため息混じりの苦笑をしてみせるイレイナさん。
傍から見れば気まずい雰囲気が流れかねない表情ではあるのだが、俺からしてみればその表情が最早かわいいので大したダメージにはならず。
『お?いいね、頂戴頂戴!!そーいうのもっと頂戴!!』と内心で叫びながら口角を上げると、じとーっと俺を見つめてきたイレイナさん。
その視線はさながら銃口でも突きつけられたようで、そのシーンに俺は尊死しかけた。
「……お誕生日おめでとうございます、オリバー。今日は送別会の意も込めて、あなたにサプライズです」
「おやおやイレイナさん、目がじとーってしているよ?そういう時は天使もびっくりな笑顔で祝福するのがスジってもんじゃないのかな?」
「はい。では、早速ですが今回のイベント費用を請求させていただきますね──」
「はうっ……!!だ、出さなきゃ……お金出さなきゃ……」
「こらこら、お財布の主導権を簡単に渡さないの。イレイナもあんまり意地悪しないであげなさい」
思わずポケットからお財布を出そうとしてしまった右手を、ヴィクトリカさんが掴むことで制止する。その手はまるで危なっかしい子供を諭すような優しい手つきで、思わず赤さん時代のなでなでを思い出してしまう。
右手一本で俺の暴走を抑え込み、ニコリとした笑みで無言の圧をかけてくる様は正に強者。
俺がヴィクトリカさんに勝てるわけもなく、大人しく財布をポケットにしまったのだった。
「まったく。危なっかしいところはセシリアさん似だな、オリバー君」
「あはは……ごめんなさい。久しく逢ってなかったので興奮してしまって……」
「……まあ、それが君の良さでもあるのかな。今も、それから昔も」
そして、ヴィクトリカさんの隣で「娘は渡さんオーラ」をここぞとばかりに放っていたイレイナパパは、俺を見るといつもの怒りの表情とは違う笑みを浮かべていた。
恐らく俺がいつものチャラ男ムーブでイレイナさんを誑かそうとしていないからであろう。イレイナパパはほっこりとした様子で俺を見ると、続ける。
「……合格おめでとう、オリバー君。大きくなったね。小さな頃にキミを見たのが、本当に昨日のことのようだ」
「ありがとうございます」
「数年前の僕の予想通り、男前になってしまったな……くっ、やはりクローバーとセシリアさんの息子か……!」
「父さん要素あります?」
「あるとも!人をおちょくった言葉遊びのセンスに、それら全てを打ち消して余りある2枚目の笑みはクローバー似──」
「あらまぁ、お父さん。オリバー君の笑みはリアの遺伝よ?」
そして、イレイナパパは刺すような妻の視線に冷や汗を流した。
「そ、そうだね。君の笑みはセシリアさん似だ!!」と大声で主張を始めることに何の意味があるのかは分からないが、イレイナパパの狼狽っぷりからヴィクトリカさんが何かしらを握っているのであろうということは理解できた。
イレイナさん家のパワーバランスは数年経った今でもヴィクトリカさん一強なのだろう。
そしてその血を色濃く継いだイレイナさんが家族を持つことで、その歴史は繰り返されると。
うーん、魔女旅!!(意味不)
「とにかく。今後とも、娘と仲良くしてやってくれ。何せあの子はまともな同年代の友人がオリバー君しか──」
「お父さん?」
「頼むぞオリバー君」
念押しされなくてもそのつもりっすよ。
というかさりげなくイレイナさんの友人事情暴露すんのやめたげて。
知らないと思うけど、イレイナさんはこの先沢山の現地妻量産すっから!!
猫アレルギーも克服して、アムネシアやアヴィリアと10年後くらいに故郷でまったり暮らすんだからっ!
ぐへへ……イレイナさんと、アムネシアと、アヴィリアが家族……赤い屋根の一軒家で、ペットが猫……!!
「ぐへへ……任せてください。俺が*5一生守ります!!」
「誰もそこまでしろとは言っていない!なんなんだ君は!!なんかもう怖いよ!!」
「*6ラブラブです、うひひ」
「貴様ァ!!」
「ファッ!?」
これじゃ前回怒られた時と流れが同じじゃないか。
先程までのほっこりとした雰囲気は一瞬で消え失せ、激おこモードで俺というチャラ男を成敗しようと杖を右手に召喚し、掴むイレイナパパ。
しかし、その行為すらも自らの妻の視線によって中断させられると、1歩前に歩み寄ったヴィクトリカさんが笑みを見せ。その笑みと連動するようにイレイナパパは杖を引っ込めた。
かかあ天下かな?
「引越しの準備はできてる?」
「はい。お世話になった人が、同居を許してくれて……暫くはその人のお世話になろうと思います」
「あら……あの子にしては思い切ったわね」
「思い切ってます?」
「ええ、随分と」
ヴィクトリカさんは相も変わらず、ため息を吐いてしまう程のパーフェクトスマイル*7でそう言うと、同居を認めたシーラさんに対して「思い切った」という評価を下す。
そこまで思い切った行為なのかは分からないが、よくよく考えてみれば自分の部屋に1人住まわせるというのはそんなに簡単な話でもないんだよな。
シーラさんは「衣食住の世話はしてやる」という言葉を最後に残して俺の前から姿を消したけど、それだって今まで自分がかけていた生活費を更にかけなきゃいけないってことになるし、色んな事の手間が増えるだろうし……。
もしかしなくても俺って……めちゃくちゃ甘やかされてねぇか……!?
知らず知らずの内にとんでもねぇ迷惑行為に励んでねぇか……!?
「……ヴィクトリカさん、俺……なんか自分がダメ人間になっていく気がします」
「あら、今まで頑張ってきたんだし暫くダメになってもいいんじゃないかしら」
「比率が不味いような……!明らかに甘やかされる事の方が多いような……ッ!!」
「頑張る時と甘やかされる時の切り替えって大切よ?」
「いや比率ゥ!俺が言ってるの比率ゥ!!」
畜生魔法の勉強頑張るだけじゃダメだ!!
せめて家事手伝い、煙草パシリ、弟子自慢出来る位の実績残す位のことしねぇとシーラさんと同居することの割に合わねえ!!
料理を極めて「おっ、今日の晩飯美味いな!」って言わせたり、煙草が切れた時にタイミング良く替えの煙草を渡して「お、気が利くな」って言ってもらったり、誰よりも実績を残して「ふっ……実はコイツ、あたしの弟子なんだよ」ってドヤって貰うんじゃい!!
「やるぞ……!シーラさんの自慢に……!シーラさんが思わずドヤってしまう自慢の弟子になる!!」
「あらあら、もうとっくに自慢の弟子でしょうに」
「ダメッ……!そんな甘い言葉で誘惑しようとしても……ダメなものはダメッ……!!」
「徹底するところが本当にリアとそっくりね……」
ヴィクトリカさんを筆頭とした優しいおねーさま方からフォローされるのはオリバーという1人の人間の宿命なのかもしれないが、それに甘える訳にはいかない。
イレイナさん、ヴィクトリカさん、そしてシーラさん。またはイレイナパパ。
沢山の人達の誘惑に負けないように、俺は確固たる自立の決意を胸に秘めるのであった。
「お母さん。オリバーとセシリアさんってそんなに似ているんですか?」
「ええ、きっと……これからもっとそっくりになるんじゃないかしら」
「それは……良い事なんですか?」
「勿論よ。あなたを虜にするところとか、特に」
「あの、私はセシリアさんに虜にされているわけではないのですが」
「……くすくす」
「なんですかその意味深な笑み」
2章終了後の3章は……?
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魔法統括協会編!(全15話完結予定)
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2人旅編(全30~40話完結予定)
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両方同時並行(がんばる)
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アムネシア編