どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
プロットと運に恵まれたら、また会いましょう!
誕生日に於いて、最も一般的なイベントはご馳走とプレゼントである。
日常的な食事とは一線を画した特別なメニュー。普段からは考えられない好きなものを買い与えてくれるプレゼント。
普段の生活からは有り得ないような至れり尽くせりの非日常は、誕生日という特別な日を更に特別なものにする。
そして、今日──誕生日を迎えた俺は、魔法統括協会の試験に合格したお祝いを兼ねてイレイナさん一家に盛大に祝われている。
美味しいご飯に、プレゼント。そして、お祝いの言葉。
それらを企画することなく、待ち構えて受けに回った俺は──単刀直入に言おう、めっちゃ舞い上がっていた。
「イレイナさんの作った……シチュー!!イレイナさんがくれた……山吹色のネクタイ!!」
「はあ」
「嬉しい!家宝にするね!!」
「シチューまで家宝にしないでください。というか貴方、これで家宝何個目ですか」
シチューなんて家宝に出来るはずも無いのに、勢いで発してしまったのは俺自身の気持ちが舞い上がり、浮ついている証左となり得る。
そして、それ以上に俺の心を支配したのは非日常による高揚感。そして、イレイナさん一家に祝われ、誕生日という特別な一日を大切にしてくれているという事実から織り成す圧倒的なまでの幸福感。
「見境なく家宝にするのやめてくださいって何回も言ったような気がするんですが……」
「あっはっは、馬鹿だなぁイレイナは。俺がキミのプレゼントを家宝にしない訳がないだろ?」
「あ、すいませんこっちに来ないでください」
「ソーシャルディスタンスかな?」
はっきり言って、幸せだ。
ソーシャルディスタンスされてるしガチのマジでやべーやつ認定されているけど、とっても幸せなんだ!
「僕の娘を誑かすなんて10年早いんだよ、良い度胸してるじゃないかオリバー君……キミはアレか、俗に言うチャラ男なのか。どうなんだ、えぇ……?」
「あらあら、お父さんったら。声が小さすぎて呪詛になっているわよ?」
……うん、シチュー美味しい!
※
「さて、オリバー君。誕生日を迎えるにあたって私からもプレゼントがあるの」
「え?」
それは、食後の紅茶を飲んでいる時の話だった。
イレイナが作ってくれたシチューを筆頭とした様々な料理に舌鼓を打ち、堪能した俺はこれからのことや、将来的な目標やらをイレイナと駄弁りながら誕生日パーティの余韻を味わっていた。
その中で唐突に発せられたヴィクトリカさんの一言。
勿論、驚かない筈がなく──俺は若干目を見開いているであろう表情で、ヴィクトリカさんに問いかけた。
「ヴィクトリカさんのプレゼント……ですか?」
「ええ。渡すべきかどうか迷ったけれど……オリバー君の門出だもの。私からも普段から頑張っているあなたに物を贈らせて欲しいの」
「あ……ありがとうございます。ありがたく頂戴、いたします」
「うふふ、そんなに構えなくても大丈夫。ごくありふれた高くも安くもないプレゼントだから」
既に用意されているであろう物を受け取らないという不義理を犯す程、俺は薄情にはなれない。
とはいえ、用意してもらった。してくれたことに対する感謝と申し訳なさが入り交じった複雑な感情も勿論あるわけで。
それらの気持ちが複雑に作用したからか、何故か畏まった言い方になってしまった所をヴィクトリカさんにクスッと笑われてしまう。
くっ、顔が赤くなっているのが自分でも分かる……!恥ずかしいぞ、顔から火が出そうだぞ……!!
「はい、お誕生日おめでとう。ほんの気持ちだけど受け取って」
「あ、ありがとうございます……ん、これって……ナイフ?」
「そう、ただのナイフよ。それから、ナイフ入れ……これは腿につけておくと良いわ」
「わ、良さそうなナイフ入れ……これ、本当に貰っていいんですか?」
「魔法使いが杖を取り上げられてしまえば、魔法を撃つことは出来ない。その時にこのナイフを使って頂戴。護身用としてはしっかり機能するから」
「はいっ」
ヴィクトリカさんから差し出された鞘に収まったナイフ。
俺はナイフ使いではないため、使う機会は恐らく少ないだろうが有難いものは有難い。
今後、どのような危機に陥るか不明瞭な状況下で腿に括り付けたナイフが命を救う一助になることだってあるだろう。
護身用としてこのようなプレゼントを贈ってくれたヴィクトリカさんの真心の暖かさが伝わるような、そのような一時だった──
「……受け取ったわね?」
「え」
「それじゃあ、魔法のお仕事をするオリバー君に3つ。守って欲しい約束があるの」
「約束……?」
「そう、約束。……対価はしっかり払ってくれるわよね?」
「ひぃ」
ひどい。
対価がなくたってしっかり聞くのにプレゼントで俺を釣ったんですねヴィクトリカさん。
人生で初めてあなたをひどいと思いました。後でシーラさんとフラン先生に言いふらすのでそこんとこよろしくお願いします。
まあ、冗談は置いといて。
「対価なんてなくたって聞きます」
「本当に?もしかしたらとんでもない要求をされる可能性も……」
「ないです。ヴィクトリカさんですし」
俺はヴィクトリカさんが今まで俺という奴にどんなことをしてくれていたのかを振り返れば、決まって思い浮かぶのは
動機、目標、人間関係。
迷った時には決まってヴィクトリカさんが助け舟を出し、導いてくれた。
そんな人が今更、こんなところで
だから俺は真っ直ぐ前を見て、笑みを見せる。
その笑みがヴィクトリカさんの事を試すような挑戦的な笑みだとしたら、それはご愛嬌だ。
「今も、昔も、これからも。ヴィクトリカさんは優しい人です。そんな人を疑うほど、俺ってひねくれた性格してないですよ」
「……そっか」
「ええ、そうなんです」
──ああ、やっぱり優しいな。
家族でもない俺に、そんな約束を課してくれるということからも──やっぱりヴィクトリカさんは優しい人だと思う。
勿論現実に対してかなりシビアな所もあるけれど、2人の弟子が今でも彼女を慕っているということは彼女の意思表示、選択の根底に『優しさ』が内在しているんだ。
「──なら、1つ目」
「はい」
「対価分の報酬はちゃんと貰うこと。報酬は貴方の時間と引き換えに苦労した分、貰うことのできる権利なの。だから報酬はしっかり貰いなさい」
「……はい」
「そして、その約束を破る人間には容赦なく鉄槌を下すこと。あわよくば様々な観点から追加分の報酬をせしめること」
「前半は兎も角後半は……あっはい。分かりました、身命を賭して鉄槌を下します」
まんまヴィクトリカさんじゃん。
いや、確かに処世術として大切なとこあるけどね?
それでも……いや、はい。分かりました。ヴィクトリカさんが言うんだ、きっと必要なことだから──約束破りには針千本ってことっすね!
金が貰えるならOKです!
「2つ、貴方自身が辛い思いをした時は、ちゃんと友達や仲間、師匠を頼ること。オリバー君は『孤独』じゃないということを認識すること」
「……はい」
「苦しくて死にそうだったら逃げても良い。その時はいつでもロベッタに帰ってらっしゃい。リア……貴方のお母さんと一緒に格別な料理をご馳走するわ」
「ははっ、分かりました」
それは……うん。初めから分かっているとも。
というか、そんな風にさせてくれないと思う。
シーラさんもいるし、フラン先生もいる。何よりイレイナとの確約があって、それぞれの家族がいて──おまけに沢山の登場人物がいて。
そんな世界に放り込まれた時点で、孤独になれるなんて思っていない。
寧ろ、これからきっと呆れるくらい楽しい生活が始まる。
そんな予感が、痛いほどにするんだ。
「3つ。いつか、ちゃんと帰ってきて貴方のお母さんに元気な姿を見せること。そして、私達にも元気なオリバー君を見せること」
「……」
「以上3つ、ちゃんと守ってくれる?」
「……はい。ちゃんと守ります。そんでもって、いつかちゃんと、カッコイイ魔法使いになってみせます」
どちゃクソラッキースケベなハーレム生活。
それは今も俺の胸の中で燻り続け、生きる上での指針の1つとしてしぶとく心に残り続けている。
その上で、俺は多くの人と関わることによって魔法を学び、魔法を使った仕事に就きたいと思い至り、魔法統括協会で仕事をしたいと願い、叶えた。
叶えるまでの過程で、多くの目標も生まれた。
親友と再会すること。
先生の自慢の弟子になること。
そして──
「ヴィクトリカさん」
「?」
「俺、今……胸を張って夢を言うことが出来ます」
「──オリバー君」
イレイナさんに逢う前から、約束していたこと。
どんな動機でも胸を張って頑張れる目標や夢を見つけること。
この目標は、約束は。
「笑わないで聞いてくれますか?」
10年経っても、いつまでも。
絶対に忘れることの無く生き続けている、俺の最初の夢だ。
「勿論よ」
※
縁も酣という言葉があるのなら、この状況を言うのだろう。
誕生日&魔法統括協会合格パーティも良い時間となり、終了。
明日になれば、シーラさんの迎えが来たら関所を出て、この国を飛び出す。
国名通りの平和国とも、明日になればお別れだ。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
そして、ロベッタとの別れと同時にこの子とも一時的ではあるが別れることになる。
天才魔法少女、イレイナ。
小さい頃からの付き合いで、何をするにも一緒ではなかったが親友と呼べるだけの付き合いをしてきた。
魔法の勉強だって一緒に頑張った。炎魔法で家を燃やしかけた時は一緒になって謝ったし、俺が氷魔法で平原を凍土にしてしまった時は母さんに尻叩きされている場面の立会人をしてもらった。
ヒリついた臀部を母さん得意の時間逆転の魔法で治して貰っている際の人をおちょくったような笑顔は死んでも忘れない。
あの時ほど炎魔法で家を燃やしかけた時に「放火魔レナちゃん」呼びでおちょくろうとしなかった事を後悔した日はなかったからな。
「えと、イレイナさん」
「はい」
「何度もになっちゃうけど……ありがとう。多分今日のことは嬉しくて、1番幸せで……うん、絶対忘れられないと思う」
ともあれ。
誕生日パーティも終わり、後は1人で家に帰るだけだった俺はイレイナさん家の玄関前で、彼女との最後になるであろう時間を会話で潰していた。
明日は早朝からの出立になるであろうし、そもそもの話イレイナさんも俺も最後まで一緒にいようだなんてハナっから思っちゃいない。
立つ鳥跡を濁さず。
別れの類は旅立つ前日に済ませ、思い残すことなく発つことが俺にとっての
故に俺は、この一時をイレイナさんとの最後の時間と銘打つ。
この先、手紙のやり取りこそ可能であろうが、数年は会うことが出来まい。今のうちに言いたいことは言おうと、先ずはお礼から入った。
今日の分と今までの分を含めた最大限のお礼を、言葉で伝えたんだ。
「けど、急にどうして?イレイナさん、どちらかというとサプライズとかプレゼントとか、そういうの苦手でしょ?」
「今までその行為を平然としでかしてきた張本人がそれを言いますか」
「はっはっは……いや、マジですみません……」
そして、クールな俺は謝罪することも忘れません。
一流のエージェントは頭を下げるタイミングも誤らないのですよってことで、俺はイレイナさんの目の前でスライディング&土下座。
イレイナさんの凍えるような視線が後頭部に突き刺さるぜ。
「……まあ、そうですね。強いて言うのなら……意趣返し返し返しみたいなものです」
「い、意趣返し返し返し……」
「殺られっぱなしは性に合わないので。後、もう土下座やめてください」
イレイナさんにそう言われて、土下座を解除し立ち上がる。
いやー、それにしても今日のアレは誕生日前夜祭のリベンジだったワケですね。どうりで目隠しされましたし、縄で縛られたし、背中押されましたし、サプライズでしたし!
あまりの急転直下に喜びより困惑の気持ちが勝った一時だったが、当時のイレイナさんもそんな気持ちだったのだろうか。
いやはや、サプライズも考えものだな。
下手したら機嫌を損ねて帰っちゃう可能性だってある訳ですし。
「元々、サプライズやプレゼントは苦手です。印象深い出来事程、別れた時に思い出す苦しみが強くなりますし」
「あっ、すいません。毎年プレゼントしちゃってました……」
「今更ですね。印象深い出来事として刻み込まれているのでもう無理です、謝られても許せません」
「友情が壊れちゃう!」
「えーそーですねー。バッキバキに壊れちゃいますねー」
抑揚のない棒読みでそう言ってのけるイレイナさんの目の前で、軽く苦笑してみせる。
やっぱり嫌だったんですね。まあ万物の好みは人それぞれだから仕方ない話でもあるんだけどな。
それでも、俺がしでかした行為を後悔することは無い。
何故かって、俺がしたくてしたことだから。
あの日、誕生日を迎えそうになったイレイナさんに何かをしてあげたくなった気持ちや、毎年のように何か贈りたいっていう気持ちに嘘はつけない。やりたいと思ってやった事を後悔することもないしな。
「バキバキに壊れたって別にいいかな」
「地味に喧嘩売ってます?」
「いや?それを修復できるチャンスまで失ったってワケじゃないし」
それに。
もし、俺の失態で友情にヒビが入るようなことがあるのなら死ぬ気で修復してみせるし、信用を取り戻してみせるさ。
たった一度の失態で終わる友情なら、俺とイレイナさんはとっくのとうに終わっている。それでも今、ここで俺とイレイナさんが話しているということはイレイナさんが俺の事を見捨てないでくれて、その度に俺が信頼を何とか取り戻してきたからだと──多分、思う。
だから、壊れてしまっても絶望はしない。
どれだけ怒られても、呆れられても、
だから俺は、何度だってイレイナさんのことを
「俺、結構執拗いんだよ。キミに纏わる何もかも、諦めるつもりは微塵もないから今後ともよろしくどうぞ」
「なるほど、つまりチャンス乞食ってことですか。プライドもへったくれもありませんね……」
「ですよねカッコつけましたすいません!お願いします!修復するチャンスを、何卒……!!」
「えぇ……」
とは言っても毎回めちゃくちゃビビっているんですけどね。
前夜祭とか特に。そういう文化あんのかとも思ったし、途中退室された日には後日軽く死ねるし。
後は……まあ、色々あったなぁ。実家に火ィ付けた時のヴィクトリカさんガチで怖かったなぁ……なんて事を考えながら、先程の調子乗りを謝罪していると不意にイレイナさんが優しく微笑む。
その笑顔に「はて、何か面白いことでもしたか?僕またなにかやっちゃいましたか?」なんて、これまたいつものように思考を巡らせていると、イレイナさんはその表情のまま、言葉を紡ぐ。
「──楽しかったですよ、それでも」
「え」
「あなたやセシリアさん、クローバーさんと過ごす一時は本当に楽しく、筆舌に尽くし難いものでした。出来ることならまた祝われたい、何度でもやり直したいと思える程に」
「……そんなに?」
困惑と迷惑しかかけてないと思ってた。
故に発した一言にイレイナはニコリと擬音が付くような笑みで返す。
もう言葉は要らない。
これは「当たり前です」の訳だ。自称イレイナさんの表情翻訳機の俺なら分かる、ハズだ。
「だからこそ、私はオリバーにその気持ちを味わって欲しかったわけです。筆舌に尽くし難い、幸福感に満ち溢れた一時を」
「イレイナさん……」
「例えそれが私にとっての苦手なものだとしても──あなたとなら良いかな、と。なんとなく、そう思いました」
「……」
「これがあなたの質問に対する答えです。……楽しんで頂けましたか?」
イレイナさんの言葉は、俺の心を揺さぶるような魅力的な内容でズバズバとツボを突いていく。
きっと本人は意識なんて微塵もしてないし、自覚すらないと思う。詰まることなく話す様が確たる証拠であり、彼女の会話の一つ一つに緊張や懊悩、虚言の類は感じない。
だからこそ、俺の心を強く打つ。
詰まることなく、飾ることなく、噛み砕くように言葉を紡ぐイレイナさんの言葉だからこそ、嘘じゃないんだなぁと思える。
信じたいと思う。
何があっても、この子だけには嘘をつきたくないなって思う。
そして、その想いが確約に対する信念に繋がっていくんだ。
「しあわせだ」
「……随分と晴れやかな笑みですね。そこまで楽しかったですか?」
「……」
「あ、はい。わかりました。では……まあ、そういうことにしておきます」
楽しかったよ。
嘘じゃないし、
イレイナと過ごす日々は、いつだって彩りに満ち溢れていて。
その彩りは、何時だって俺に幸福を与えてくれて。
言葉なんて飾る暇もなく、
だから、魔法の道を極めたその先で逢うってそう言った。
絶対に叶えたいって、本当にそう思ったんだ。
──けどさ、そんなこと言っちゃったら引かれちゃうでしょ!?
このばか!なーにが
己は乳離れできない赤ちゃんハムスターか!?そういうのが許されるのは精々5歳児までなんじゃい!!
後、言葉が長すぎな!多くを語りすぎてるんだよな!
長すぎて欠伸しちゃう位に言葉が長すぎなので、ここは心を鬼にして短い言葉と、最大限のクソザコスマイルで語ろうと思います。
良い男は短文と笑顔で語るってね!
正直消化不良感は否めないけど、言葉に詰まるくらいならええかなぁって。
「それなら良かったです」
「うん」
「まあ……多少は緊張しましたけど、人をおちょくる気持ちを味わう事が出来たのは収穫ですね。今後の糧にします」
ええかなぁって。
「では、そろそろお開きにしましょうか」
「……」
「夜道に気を付けてくださいね。後、身体にも。自分のことを大切にしてあげてください」
「……うん」
「──それでは」
そう、思ったんだけどな。
「──
「……」
「聞こえなかったか?レナと、そう言ったんだ」
背を向けたイレイナさんの足が止まり、壊れたブリキ人形のように首を捻り、こちらを向く。
いつか、どこかの、大切な記憶。
更にその記憶の中からほじくり出した、ある日のこと。
俺とイレイナさんは小さい頃に、
顔から火が出るような経験だったけど、楽しかった思い出だ。
ずっと大切にしたい、俺の大切な記憶だ。
「……あの、それやめてください」
「なんで?」
「なんで、って……いいですからっ、それ……やめてください」
「なら、レナも呼べばいい」
「……後悔しても知りませんよ、私がこの名前を呼んで赤面しても私は延々とあなたを弄びますし、それこそ10年後のあなたに大切な人が出来たとして、私はそれを──」
「そういうのいいから。怖気付いてないで言えよ、かわいいな」
「……!」
殺られたら、殺り返せ。
そうやって今まで日々を過ごしてきて、今更贈られっぱなしなんて無理だ。何時だって俺は果敢に彼女に挑み、戦い、負けてきただろう?
なら、殺るべきだ。
最大限の敬意と、希望と、愛を以て。
あなたに気持ちをぶつけるべきなんだ。
「……ル」
「?」
「……
イレイナの綺麗な、それでいて淡々とした声が渾名を告げる。
新手の羞恥プレイのような、合法のような何か。
その何かがぶつけられたことに、何故かニタついてしまう俺。
その理由は──懐かしいんだ、過去が。
そんな過去を覚えていたことに、笑いが止まらないんだと思う。
「……うん。……ははっ、人1人殺しそうな目つき。そんなに嫌だった?」
「人の黒歴史を弄ぶ立場は随分愉快なんでしょうね」
「俺はイレイナさんをレナって呼んだことを黒歴史だなんて思わないけどなぁ」
「そりゃあそうでしょう。あなたの感性捻じ曲がってますし」
「さりげなくひどくない?」
けど、そんな過去は当たり前のように記憶の中から薄れていく。
どれだけ大切な事だとしても、脳の脆弱性を物語るかのように俺の頭の中から過去は薄れ、消えていく。
だってもう、前世の物心ついた時のことなんて覚えてないんだぜ?
10年後に見た月のことも、その10年後には忘れているかもしれない。
そう考えると過去って貴重だ。
何にも変え難い、人によって違いのある貴重なものなんだってつくづく思う。
「色々あったね。寝てた俺に肩貸してくれたり、隣で勉強教えてくれたり、手取り足取り魔法を教えてくれたり……うひひ」
「あの、さっきから記憶が限定的な仕事しかしていないような……」
「それほど印象深い出来事だった……正味イレイナさんの香りはいつも良い香りだった……」
「うわぁ……」
だから。
だからこそ。
俺は──
「レナ」
「……?」
「俺、大切にするから」
誰よりも大切で、親友で、どうでもよくない
この数年間と、これから生まれる過去を、大切にしていきたい。
これから先も、自分の過去を貴重で、かけがえのないもので満たしていきたい。
あなたと、日々を刻んでいきたい。
そして、生まれた過去を大切にしていきたいんだ。
「あなたと過ごした日々も、名前を呼び合ったことも、渾名で巫山戯あったことも、魔法で競い合ったことも」
「……」
「確約も」
「……それは」
「だから、これから先も信じて欲しい。大切にするって言った、これからの俺のこと」
勿論、自分が今までどれだけの変態的行為を繰り返してきたかは分かっている。
過去にはイレイナサンアイシテルー!を連発したし、色んな妄想も展開した。
不誠実も時にはやらかしたし、信用を失うような行為もしたかもしれない。
それで信じて欲しいって、それはあまりにも都合の良いことだって分かっている。
それでも、大切にしたいって気持ちは本物だ。
いつかの日にヴィクトリカさんが言っていたことじゃないけど、頭の片隅どころか、脳内全てイレイナさんとの思い出で埋めつくしていきたい。
あなたとこれから過ごす日々を、もっと濃密なものに。
それだけで多分──俺は日常を楽しむことができるから。
「そうですか」
「ひぃ」
「言いたいことはそれだけですか?」
「それだけでしゅ……」
ただ、それにはイレイナさんの力が必要不可欠だ。
幾ら俺が信じて欲しいと願っても、彼女の了承がなければそれは完全な一方通行。
とはいえ、想いなんてものは伝えなければ意味がない。伝えてこそナンボだと思っている節があり、故に俺はイレイナさんに信じて欲しいと言葉をぶつけたのだが、肝心の彼女は怒り心頭。
嗚呼、やっぱりあだ名呼びはアカンかったかー……と思いながら空を見上げて哀愁に耽っていると、イレイナさんはいつの間にか俺の目の前に来ていて。
「でしたら。私が返すべき言葉は──これですね」
俺の頭を両手で掴み。
今まで見たことないような優しい笑みで。
「なら、また逢いましょう」
気付けば俺は、彼女に引き寄せられていた。
瞬間的に感じたのは、少し前に彼女と平原で談笑した時と同じ、花の良い香り。
何処か甘えてしまいたくなるような優しい香りは、俺の理性をガリガリ削り、もう少しここに居たい、イレイナさんとずっと一緒にいたいという思いを何度も甦らせる。
今更ながら、卑怯だと思う。
普段からツンツンツンツンしてる癖に……本当に卑怯な奴で、ケチで、守銭奴で……
「しゅき……」
「聞こえませんね、えぇ」
「え、嘘でしょこんな至近距離で……」
言うが否や、抱き締める力を強くされる。
いや、どちらかというとご褒美っちゃご褒美なんですけどぉ……ほら、いい香りするし、女の子特有の柔らかい感触もしっかりするし。
こんな状況下で邪なこと考えるなって言う方が無茶って話で、抱き締め返さないだけ紳士って思って欲しい。
友情のハグとか俺らの教科書にないから。*1
ハグは彼女とするものだから。*2
「無性に絞めたくなりました」
「エスパーかな?」
「あ、すいません少し黙ってください」
おふざけムードが一転。
俺の頭を右手で撫で始めたイレイナさんが、続ける。
「貴方が信じて欲しいというのなら、そうします。だから──1度交わしたものを、しっかり守りに来てください」
「はい」
「……大体、今も昔も、これからもずっと信じてます。あなたのような人でも、良いところは沢山ありますし──私のことを大切にしてくれる貴方を信じない道理はないでしょう」
「……イレイナさん」
「信じているからこそ、こんなことを言うのもするのも貴方だけです」
「小っ恥ずかしくてやってられませんよ」と、イレイナさんが抱き締める力を強める。
しかし貧弱なイレイナさんの両腕では俺の身体に痛みなど植え付けることはできず、与えられるのはやわっこい感触のみ。
役得なんだよなぁ。
けど言ったらブチ切れ案件だろうし、もう二度として貰えないだろう。
俺としてはそれはNGだ。
時にハグもしてもらいたいので、ここはグッと堪えて前を見る。
するとそこには、至近距離で俺を見る世界一の美少女幼馴染の姿。
理性の準備は出来ているか?
俺はぶっ壊れた。
「ただ、確約したことを破ったとなれば話は別です。これから先も信じて欲しければ迎えに来てください、あなたが」
「首絞めた奴の言う事ですかねそれが……」
「ええ。出世街道の流れに乗りまくって大体4年後くらいですかね……信じていますよ、ノル?」
「ハードル高いな!?」
「冗談です。自分の時間が持てるようになった時でいいですから、身体には気を付けてください」
超絶至近距離の超絶美少女幼馴染が超絶可愛らしい表情で超絶難易度高い要求をして、俺の心臓が超絶跳ねた件はともかく。
4年以内っていうのはちょいと……いや、そこそこハードルが高いと思う。
いくら前世を生きており、魔女旅オタクで、そこそこ魔法も使えところで新人であるというのには変わりがないため、魔法統括協会1〜4年目は相当厳しいものになると見ている。
講習だって受けなきゃならんし、何よりシーラさんが誇れる俺になるっていうもうひとつの夢のために一生懸命勉強も魔法の修練も行わなければならない。
それを反故にするワケにはいかないし、4年以内は厳しい。
──厳しい、けどさ。
「分かった、4年だな?」
「え」
けど、うん。
世話になったイレイナさんの願いなら、守らない訳には行かないな。
だって、そうだろう?
俺にとってのイレイナさんは最高の親友で。
かけがえのない最高の幼馴染で。
誰よりも大切な、
「分かった、絶対に……4年で迎えに行くよ!その上で1人前にもなって、シーラさんの自慢になってみせる!!」
「気持ちだけで十分です」
「そして俺はイレイナをお姫様抱っこで辱める!!」
「あ、はい。マジで気持ちだけで結構です」
「親友のピンチに颯爽と現れる幼馴染さ。惚れるだろ?さあ、恐れ慄けイレイナさんや」
「私がいつ、どこで、どのような状況で姫抱きされるような窮地に陥って報酬に膝枕をしなきゃ行けなくなるんですか、馬鹿なんですか?」
太陽と月が何度も入れ替わり、月日は流れていく。
その不変の理の中で、俺とイレイナが逢える日がいつやってくるのかは、正直な所全くわからない。
もしかしたら確約を守ることが出来ずフラン先生諸々を含めた現地妻達にボコられるかもしれないし、どっかの街で首チョンパされる可能性だってある。
下手な事件に片足突っ込んで病気で昇天とかフツーに有り得るし、もしかしたら記憶を消される可能性すら有り得る。
けど、何故か確信が持てた。
きっと、すぐ逢えるって。
そう遠くない将来、彼女を理想のシチュエーションで辱めることができるって。
2人旅ができるって。
何より、確約したことを守ることができるって。
「ほう、なら賭けるか?」
「出逢った初日の晩御飯で手を打ちましょう」
その理由は多分。
イレイナが俺を抱き締めてくれたから、なのかもしれない。
次章2人旅編です。
魔女旅2期はよ。
2章終了後の3章は……?
-
魔法統括協会編!(全15話完結予定)
-
2人旅編(全30~40話完結予定)
-
両方同時並行(がんばる)
-
アムネシア編