どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
「低いところから見物してないで何とかしてください」
「えぇ……」
そのような言葉が今の俺には似つかわしく感じるこの状況下にて、俺は8回のピンチに登板する火消し投手にも負けない程の火消し当番をイレイナ監督に任されてしまった。
相対するバッターはイレイナさん大好きクラブの主砲で4番のガチ百合ブチ切れ超特急のサヤちゃん。
くっ……これが火消しか……!
味方の作ったピンチを抑えないと怒られるこの状況……まさにブラック!!
「……今、本当にどうしようも無いこと考えていませんでしたか?」
「考えてないよ、監督」
「あ、はい。考えてたんですね。馬鹿なことばかり考えてないで、自らの役目をしっかり果たしてください」
「アイアイサー!」
さて、冗談もそこそこにして。
当然イレイナさんの要求には応えなければならない哀れなオリキャラであらせられる俺は、これまた当然の如く魔法統括協会エージェント、炭の魔女であるサヤちゃんのブチギレダンスを何とかしなければならない。
魔導士が魔女をどうにかするってどんな無理ゲーよ。
原作でも多分ねぇよそんな場面(現実逃避)。
「まあ、大切なイレイナさんの頼みとありゃあ応えない訳にはいかないよなぁ」
「大切なんですか?」
「そりゃあもう。俺の心の友よ、あなたは」
「……わー!オリバーさんは女たらしなんですねー!!」
「投げやりに言うのやめてくれないかなっ!?」
それにしても、サヤちゃんを落ち着かせる方法か。
正直な話、イレイナサンスキーブチギレ急行電車のサヤちゃんを更に怒らせて快速急行ブチギレサヤちゃんにする方法なら何通りも浮かぶんだよな。
例えば、ここで俺がイレイナさんに「サヤちゃんを黙らせたきゃ俺のほっぺにチューするんだよ、あくしろよ」とか言えばイレイナさんのファーストキスを防ぐ為にサヤちゃんが俺に炎魔法を放つだろうし。
それ以外にも、サヤちゃんに直接「サヤちゃん、負けの子、敗北者……!」とか言っとけばハートに火の点いたサヤちゃんが電光石火の一撃を俺に食らわせて半殺しにするだろうし。
とにかく、怒らせる方法ならいくらでも思い浮かぶんだけど、落ち着かせる方法ってなかなかないんだよな。
ましてや落ち着かせる相手はサヤちゃんの目の上のたんこぶ、アホのオリバーさんだ。
俺がサヤちゃんに勝てるとでも?
「ん、よし。まあ負け確率90パーセントで見といてな」
「怒らせたら2人で謝罪しましょう」
「chu!付き合っちゃってゴ・メ・ン!!」
「そんなアホみたいな謝罪あなたしかしません。控えめに言って馬鹿なんですか?」
「そもそも誰と誰が……」と呆れ顔で物申すイレイナを華麗にスルーして、俺は改めてサヤちゃんに向き合う。
誰と誰がなんて、そんなの聞くだけ野暮でしょうてからに。
というワケでここ半年間で最も熾烈で過激な無理ゲー、逝ってみよー!!
「サヤちゃんサヤちゃん」
「なんですか!?」
「ここは誠意のイレイナさん写真集、30分貸出で手を打とう」
「せ、誠意……!?」
「引き際を見誤るなよ。何とここで引けばロリイレイナさん見放題だ──いってぇ!!」
背後から狙撃ッ!?
出会え出会え!曲者じゃ!!という間もなく身体が少しブレる位の魔力の塊を食らい、四つん這いになった俺は思わず背後を振り向く。
すると、目の前にはまたしてもニコリと笑みを零しつつ。今度は心做しか表情に影の差したイレイナさんが俺を見下ろす。
あ、アレー?オカシイネー?
さっきの甘々イチャラブコメディは何処へ?
「写真は何処で手に入れたんですか?」
「キミのおかーさん」
「故郷に帰ったら3人で話し合いましょう」
「結婚報告かな?」
「あなたを相手取った訴訟です」
おい待てや。
なんで俺だけ訴訟やねん。それをするなら半ば強引にイレイナさんのアルバム寄越したヴィクトリカさんも訴訟されて然るべきだろ。
言っておくが俺は3回断ったんだぞ。しかもあの時は──そう、まだ10歳の時の話で、大人の──しかもヴィクトリカさんの誘いに上手く乗せられまくっていた時の話だ。
俺がヴィクトリカさんの誘いを断れるわけが無い。イレイナさんはもう少し自分の母の戦闘力を考えて然るべきだと本気で思う。
『ここにイレイナの小さい頃の写真を纏めたスクラップがあります』
『……ゴクッ』
『それがなんと、私のお手伝いをしてくれるだけで手に入ります』
『ッ……スゥ……けど、たった一つの、家族の思い出を……』
『大丈夫。……これはオリバーくんだけに渡す、あなただけの布教用よ』
『──!!』
当然、ヴィクトリカさんの口車に乗せられた哀れな俺はヴィクトリカさんの言われた通りに荷物持ちを手伝って、ちょっと遊んでもらって、その上で美味しいスイーツまで頂いて、ご褒美のイレイナさん写真集も貰ってしまった。
なんだか信頼されちゃってんなぁ……なんてちょっと気持ちよくなってたのは覚えている。
尤も、いくら友達の母さんの息子だからって信頼しすぎなような気もするんですが──というかよくよく考えたらイレイナパパがよく許したな!?
言っちゃアレだが俺の失言のせいでイレイナパパは俺の事大っ嫌いだろ!?イレイナパパ的には愛娘をNTRするチャラ男でしょ!?
俺だって『The Journey of Elaina 』でこんなどちゃクソ変態ルート刻む男がいたらキレ散らかすわ!
もしかしてヴィクトリカさん、イレイナパパに内緒でアルバム渡しちゃったりしてます!?
え、コレ訴訟ルート入ったらイレイナパパに瞬殺されルート入らないよね!?
俺、無事にイレイナさんの結婚式の友人代表挨拶できますよね!?
そうでなくとも生きることはできますよね!?
だ、誰か助けて!
●
酷い目にあった。
ま、まあなんというか。そのひどい目の殆どはサヤちゃん絡みじゃなかったのだけれど、背後から襲うイレイナさんのじとーっとした目付きと、俺の妄想の中でキレ散らかすイレイナパパと、それを見て『あらあら』と微笑むヴィクトリカさんのせいですんごい疲れたんだ。
こんなことならイレイナさん写真集の話なんてしなければ良かったんだ。
結局サヤちゃんにもイレイナさん写真集(幼女ver)は見せなかったしな。
マジでいてこますぞ、数秒前の俺。
「くっ‥‥‥やはりイレイナさんは可愛くて仕方ないんだな!!」
「ええそうです!そして愛になるんです!!」
「そして恋になるんだな!!」
「トドメに結婚しかないですねッ!!」
「ッ……サヤちゃん!!」
「オリバーさんっ!!」
え、じゃあどうやってブチギレ快速急行サヤちゃんを窘めたって?
そんなのイレイナさん談義に決まってるだろいい加減にしろ!!
俺とサヤちゃんの共通言語を少しは考えてみやがれ!協会指折りのエージェントである『石蒜の魔女』が呆れるほど、俺達の会話はイレイナさんから始まりイレイナさんで終わってんだよ!
途中からイレイナさんの目がじとーっとした目付きから引き気味の目付きになっていたがそんなの知ったもんかい!!
俺はイレイナさんのちべたくて仕方ない眼差しすらも3時のおやつにして、サヤちゃんの機嫌を何とかするんじゃい!
「で、なんの茶番だったんですかこれ」
と、こうして何とかサヤちゃんと仲直りを果たした俺の隣に立つのは先程まで引き気味に俺とサヤちゃんを見つめていたイレイナさん。
ちなみに、先程までイレイナさんと言い争い俺と喧嘩をして、最終的にはイレイナさんに抱き着こうとして押しのけられていたサヤちゃんは依頼の報告と、更なる依頼の準備のために旅立っていった。
『いいですかオリバーさん!ちょっとイレイナさんと旅を二人旅できるからって調子に乗らないでくださいね!?』
『でへへ、乗ってないよでへへ』
『イレイナさんに指一本でも触れてみて下さい!!そのときはどこからともなくぼくが現れてオリバーさんを刑務所にぶち込みますから!!』
『ぶちこまれる楽しみにしておくわ』
何か最後に不安の残る一言を残して去ったような気もするけど、まあ何とかなるだろう。魔法統括協会時代もそこそこピンチはあったが、大抵のことはノリとパッションで切り抜けられた。
今回もまあ、……何とかなるさってことで、俺はイレイナさんを横顔を眺め一言。
「通過儀礼」
「……なんの通過儀礼ですか」
「イレイナさんがどれだけ可愛いか世に知らしめる会」
「なるほど、つまりあなたはサヤさんの怒りを鎮めるために私をダシに使ったと。そういうことでよろしいのでしょうか」
「わり、イレイナが可愛いってのはサヤちゃんとの共通認識なんだ。あの子の怒りを鎮めるにはイレイナの可愛さとか美しさとか、健気さとか……まあ、とにかく色々と語る必要があったんだよ」
そもそもの話、事実を語っているだけだしな。
現にイレイナさんは可愛いと思うし、世界で一番かどうかは知らんけど、美しいとも思うし。
それを友人と語るだけだ。何を咎められる必要があるのか──なんて言おうと思ったけど。
「けどまあ、悪い。自分の目の届くとこで『自分』を語られるってのは存外に気持ち悪いもんだよな」
「……」
「謝る。誠心誠意謝罪する。だから……機嫌を直してくれると嬉しいなぁ、なんて」
人の怒りの琴線は良く分からない。俺にとってはそこまで気持ち悪いと思うことでなくともイレイナさんにとってはそうでなかったり。
逆にイレイナさんがどうでも良いと思うことが、俺にとってはそうでなかったり。
人によって千差万別の『怒り』は、誰しもが引き当ててしまう可能性のあるババ抜きのジョーカーみたいなもんだ。
だからこそ、できる限りジョーカーを引かないように慮り、もし引き当ててしまったのならば次の策を練る……つまり、懇切丁寧に謝罪の意を示さなければならないのだけれど。
「……私が怒っている理由はそんなどうでもいいことではありません」
「え?」
「分からないなら結構です」
頬をぷくーっと膨らませてそっぽを向いてしまったイレイナさんに、謝罪は通用しなかったらしい。
所謂理解力不足である。
4年という歳月を経て、彼女にも彼女なりの変化と成長があったのだろう。
姿形に面影を残しつつも、話し方や立ち居振る舞い、所作に年齢相応の品がある。
しかし、その4年を見ていない俺は彼女の心境の変化や現在に至るまでの軌跡を間近で見れていない。
故に会話の齟齬が発生する。
貴重であるはずの4年間を手紙のやり取りで済ませてしまったツケが今なのだろう。
「そっか。ごめん」
「別に謝って欲しい訳じゃないのですが……」
「いやいや、分からないのはダメだよ。イレイナさんをなんで怒らせたのか、見当を付けられないのは俺にとっては謝罪に値することだから」
「いや、ちょっとそれは重いですかね……」
「なんならもっと怒ってくれ!そして俺がキミの心を悟れるように──ちょっと厳しめに鍛えてくれ!」
「こっち来ないでください」
「笑顔でそんなこと言わないで……」
だからこそ。
これからの旅で少しずつ、ゆっくりと。
今のイレイナを隣で見て、知っていくことで、4年間の空白を埋めていければなと俺は思う。
知らないことなんて、きっと山のようにある。イレイナさんの魅力も隣で見て、愛でることによってもっと知れると確信できる。
誰にも、何にも邪魔されない2人旅。
その期間は長いようで短いけど、俺にとっては貴重な数ヶ月。その中で、たくさんのイレイナさんを見れれば、きっと彼女の考えも分かるようになるだろうさ。
だから、俺はこの数ヶ月を全力で楽しむ。
景色を、旅路を、物語を。そして何より大切な親友であるイレイナを。
五感全てで楽しみ、全力で愛でるのだ。
「イレイナさん読心術、頑張るよ」
「それは勝手にどうぞ、頑張ってください」
「それじゃあ手始めにキミの今食べたいものを当ててみようか。……パンやな!パンだ!パンに違ぇねぇ!!」
「幼少期の記憶をあたかも読心術のように語るのやめてくれませんか?」
「ロベッタを出る前のイレイナさんならバッチリ覚えているって話さ。
──つーわけで、ここはひとつ。歩きながら故郷の思い出話といこうぜ?」
「……はぁ、仕方ないですね」
……。
けど。
まあ、今日のところは。
アイスブレイクってわけで、大切な人と故郷の思い出話や手紙では語れなかった4年間を語り合ってもいいんじゃねえかな?
●(おまけ)
「人の心ってどう読めばいいんだろ」
「まだ考えてたんですかそれ」
「どうでも良くないからな!俺はいつかキミの心の尽くを知り尽くして、奪い尽くしてやるのさ……!!」
「お巡りさん、この人です」
「呼ばないで……」
やはり気になるのは読心術のやり方ってことで、イレイナさんとの思い出話に花を咲かせつつも読心術にチャレンジしてみた俺なのであるが、肝心の結果はダメダメのダメ。
俺の場合、心を読む前に自分の願望と妄想が邪念として思考に潜り込んでくるので、そもそも読心術なんて夢のまた夢なのかもしれない。
そう考えると、人の心を理解出来るモニカちゃんって凄いんだなぁ……なんてことを考えていると、イレイナさんが一言。
「人の心、ですか。まあ私よりも上手な人は沢山いると思いますが……」
「アドバイスがあるなら教えてくれ……!現時点じゃなんにも手がかりがねぇんだ……!」
「そですね、例えば」
そう言って、俺をじっと見つめる。
まるで時が止まるかのような感覚。そして、その状況を作り出したのはちょっと顔が良すぎる美少女。そんな美少女に見つめられるのは、魔法も顔も一般的な俺。
なんだなんだ、照れるじゃあないか。
「何か考えてみてください」
「何か?」
「なんでもいいですよ。ちょっとアレな考えをしていても今回だけは不問にします」
「……ほーん」
アレってなんやねん。
ままええわ。じゃあ遠慮なく……サヤちゃんサヤちゃんサヤちゃん……ミナちゃんミナちゃんモニカちゃんと見せかけてシーラさん……からの料理長と。
それはそうと、アムネシアは今何処で忘却紀行をしているのかなアムイレを隣で見たい人生だった……
そんなことを考えるも束の間、視線を切ったイレイナさんは嘆息混じりに続ける。
「別の女の人のこと考えてますね」
「!い、イレイナさん……キミはエスパーか何かかよ……!なんでバレた!?」
「さあ、どうしてでしょう」
くすくすと笑うイレイナさんに魔法を使った痕跡はない。
何悟ってんだお前ェ!俺の秘めたる思いを読心術で解放しやがってぇ!!
……や、考えてみれば俺の考えなんて大抵見破られていたような、そんな気がするな。
変なこと考えてたらどうしようも無いこと考えていたか必ず問われるし、彼女曰く俺との出会いは『そろそろ』だったみたいだし。
もしかして俺って、イレイナさんに毎日読心されてた?
いや、いやいやいや。それは流石にないっしょ!
イレイナさんがクソザコな俺の顔を毎日見続けるわけが無い!(確信)
「教えてくれ、何が手がかりだ」
「教えません。知ったら直しますでしょうし」
「まあ言われたら治すんですけどねイレイナさん」
「でしょう?だから言ってなんてあげません」
と、ここで悪戯っぽく笑ってみせたイレイナさんが俺の顔を覗き込む。
先程まで読心するためにじっと見つめられてたってのに、今のこの瞬間は何故か心臓の鼓動が速い。
きっと俺は、この瞬間の彼女を咄嗟に1人の女の子として意識してしまったのだろう。ガチ百合も体裁も関係なく、ただの人と人が好きになるように、イレイナという1人の美しい人のことを。
こうなってしまった時の火照りの治め方を俺は知らない。故に俺はそっぽを向いて彼女の視線から逃げるように──
「ノルはいつまでも、私にだけ分かりやすい人でいてください」
「……」
「そっちの方が愉か……楽し……ノルらしいので」
「ぶっ飛ばすぞー♪」
瞬時に振り向いた。
一瞬ドキッとした俺を返せ。