どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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無一文のイレイナさん。


29話「4年ぶりの、女たらしさん」

 

 

 

山吹の魔導士、オリバーの魔法は常に正しさと奇想天外を取っかえ引っ変えし、その上で自ら強烈な魔法を放つことはしない()()()()を信条とした戦い方をしていました。

攻撃手段として、質量と回転数を調節したバレットのような魔力の塊こそあれど、炎や水、雷といった攻撃的で被害の多い魔法を用いることをそれ程好むことはなく、その思考の元に編み出された使い魔を用いた戦闘や、とある怪我を誘発させる魔女の一撃等、下手を踏んでも人が死ぬことはない──そんな攻撃と、天才的な魔力操作による守備。

人を傷つけることを第一に考えず、先ずは人を護る──そのような姿勢で放つオリバーの魔法を、私は心の底から尊敬しているのです。

 

「い゛ッ……!イタタタタタタ!!!なん、……これ……!!」

「おっ、ラッキー。自爆してんじゃん」

 

そんなオリバーがトドメとして放ったのは、言わずもがな『魔女の一撃』。

情状酌量の余地すらない、一種の無慈悲さまで感じるその一撃は、実はオリバーにとっては情状酌量の一手。

何せ、一撃により生じた痛みは時間逆転の魔法であっさりと治ってしまいます。

尤も、受けた本人は痛みでそれどころじゃありません。永続的に続く痛みを治すのは魔法を行使した本人。痛みを治してもらうまではロクな魔法を放つことも出来ず、いわば生殺与奪の権利を他人に委ねるようなもの。

悶絶するほどの強い痛みが、なんの前触れもなく襲うのです。当然為す術もなく倒れた犯人さんはあっさりと捕まり、引き渡し。

後々考えると、なんともまあ呆気ない幕切れでした。

 

「準備運動しないからそうなるんだよ。みんなも準備運動はしっかりしようね!後日常的な運動も!」

「誰に言ってんすか、誰に」

 

ああ、さっきからすっとぼけてますが間違いなく魔法は撃ってます。

近くで彼の魔法を見れる状況で、しかも私は魔女であり彼の幼馴染です。私くらいのレベルの魔女になると、ちょっとした所作や挙動だけでも魔法を撃ったか撃ってないかが分かってしまうのです。

ましてやそれが、別れた4年以外の日常を過ごしてきた幼馴染です。当然動きの癖が分からないわけもなく、「あ、ここですね」と呟いた途端に犯人さんは悶絶。

羨ましいでしょう。これが魔女の天才的予見能力です。

 

「よし、依頼完了。早いとこ引き渡しちまおっか」

「……あの」

「ん?」

 

……。

しかし、まあ。なんといいますか。

こうして改めてオリバーを見ると、本当に外見が。

昔から内面のぱっぱらぱーっぷりに反して見た目は驚く程良いと思っていましたが、この4年ですっかり大人になった彼の外面は『死神』さんと呼ばれるには勿体ない程。それこそ、お金を払っても良いほど……いや、流石にお金は払えませんね。とにかく相変わらずの2枚目ってことです、そういうことです。

それでいて、少年時代のあどけなさを残した優しい笑顔は変わらず。靡く山吹色の髪も、透き通る海のような碧眼も、それらは私が4年前に見たものとまるで変わらず。その姿に私は変わらない特徴に対する懐かしさと現在の彼に対する驚きの感情を抱くという、複雑極まりない心境に至ります。

 

4年前です。

変わっていて当然です。私だって年齢相応に変化を遂げたと確信することができますし、旅を始める前よりも様々な経験を通して内外面問わず斜め上の成長を果たしてきたと自覚しているのですから。

それなのに、何故なのでしょう。

当たり前だと理解しているのに、想像はできていたはずなのに。

これまたどうして。

 

「……やっぱなんでもないです」

「どしたのイレイナさん。4年の時を経て俺が爆誕したんだぜ?ほら、バッジ。それからシーラさんとお揃いの羽根!ねえねえ、感想はー?約束をちゃんと守った俺に対する感想はー?」

「なんでもないって言ってます。ちょっとあっち行ってください」

「お姫様抱っこしてる相手にそれはエグくない?」

 

言葉が出ずに、突き放すような言葉を使った私を苦笑混じりに眺める黒衣の魔導士さんは、それでも私を降ろすようなことをせず、愛情すら感じる優しい力で、私の身体を抱き抱えてくれています。

あー、これはしばらく時間がかかりそうですね……なんて思いながらそっぽを向いて冷静さを取り戻そうとした私は正しい判断をしたと思います。

何故か?

それは秘密としておきましょう。

一流の魔女は隠し事も多いものなのです。

 

 

 

 

 

 

先程の事件による喧騒がぱったりと止み、広場では事件の際に傷付いた建物やら何やらを修繕する音が聞こえてきます。

それこそ大破した建物は時間逆転の魔法の使い所の筈なのですが、この国の人達の思考は特殊であり、なんと建物の修繕すらお祭りということにしてしまうみたいです。

近くの喧騒から、「来年は建造物修繕の日ってことで祝日だな!」やら「華の25連休……!!」とかいう声が聞こえてきました。

25連休は流石に正気を疑います。

 

「……で、イレイナ。お前メシ食ったの?」

「……ご飯、ですか?」

「おうともさ。色々あって食う余裕なんてなかったろ。もし食ってないなら一緒にメシでも食いに行こうぜ!」

 

さて、この国の人達の風習は置いておいて。

本当に紆余曲折ありましたが、どうにかこうにか目の前の山吹色の髪の魔導士さんと再会することのできた私は特にあてもなくふらふらと、過去の思い出話やら何やらをしつつ、暇を潰していました。

時間というものは、楽しいと思える時程過ぎるのを早く感じるものです。

親友との思い出話に花を咲かせていると、気付けば入り乱れていた人集りはなくなり、夜の色も一層深く、人々の眠気を誘う色へとなりました。

それでもなお、私は話し足りません。

というか、まだ聞けてないことの方が多いんですよね。

なので、先程オリバーが提案してくれた食事の誘いは正直嬉しかったですし、魅力的な提案だと思ったのですが。

 

「……なるほど。因みに割り勘ですか?」

「ん、奢るよ?なんで?──というか、やっぱ食べてないんだ」

 

そう尋ねてくるオリバーに対して、私は首を横に振ります。

これでも一応、自堕落な生活だけは行わないようにきちんとした宿でしっかりとした睡眠と食事を摂ることには気を遣っており、今回も豪勢なパレードを背景に食事を行おうとしていました。

しかし、そんな私の優雅な時間はあのオリバーを馬鹿にした犯罪者さんにぶっ壊されます。

今日の事件です。魔法による建物の一斉爆破からの風魔法。からの魔力の塊と、たかが数秒もの間にその場と、私の晩御飯を──最後の晩餐ともいえるなけなしの夕食をしっちゃかめっちゃかにしてくれたんです。

 

有り得ますか?有り得ないでしょう?

だけどこれが事実であり、犯人さんの思考そのものなんです。

ダンスパーティーに呼ばれなかったからという私怨による犯行。その後に語った犯人さんの台詞は「俺のいないダンスパーティーなど無意味!!ふーはっはっは!消え失せよ!!」です。

あなたが消え失せてくれませんか?と何度思ったことか。

 

「一応食事は摂ろうと思ったんですけど、爆風が私のご飯を食べてしまったようで」

「あ゛ー‥‥‥そりゃあ災難だったな」

 

ええ、全く。

だから私は最初──オリバーにお姫様抱っこをされた時に犯罪者さんに対して慰謝料を払ってくださいと内心で毒づいたのですが、犯罪者さんはご覧の通りオリバーの変態的な魔法にぼこぼこにされ、サヤさんに連行された為、その機会は既に逸しています。

 

まあ、つまり。

私が晩御飯の為にかけたお金や、その他諸々の失ったものは二度と帰ってこないわけでありまして。

 

「暫くの間、ひもじい生活を私はすることになるでしょう」

「‥‥‥え、お前。まさか金ないの?」

「今日の晩御飯代ですっからかんですね」

 

なんともまあ、計画性の欠片もないばかやろうだと思ってしまうでしょう。けれども、それが私の性分なのです。あればあるだけ豪勢な生活もしますし、ない場合は質素な生活を行う。

そもそもの話、貯金なんて概念を何が起こるか分からない旅人の身に期待することが間違いだと思うのは私だけでしょうか。

 

「……イレイナ」

「……はい、なんでしょう」

 

と、まあ。

そんなことを考えていますと、私の目の前に立つのはにっこりと笑顔を見せて私を見つめるオリバー。普段から私に対しては甘々な彼ですが、時に危ない行為をしてしまったり、人としてだめな行為をやらかした時には、それはもう「怖い」なんて言葉が生温い程の笑みを私にぶつけます。

どれ程怖いか?それは──ええ、そうですね。過去に炎魔法の加減を間違えた私に怒ったお母さん位と言えば、分かるでしょうか。

 

「俺、書いたよな?お金の使い過ぎと、酒の飲みすぎには気をつけろって」

「……お、お酒は控えていますとも」

「シーラさんが言ってたぞ。切り裂き魔との1件では、お疲れ様会ってことで酒飲んだらしいじゃん」

「……ぎく」

「んで、調子に乗って酒飲みまくってシーラさんを大層困らせたとか」

「……さ、さあ。なんのことでしょう」

「泥酔して魔法を放った気分はさぞ愉快痛快ってな感じだったろうな!気持ちは分かるぜ、俺だって泥酔して魔法を放ちたい時あるし!」

「……」

「イレイナ」

「……はい」

「シーラさん、めちゃくちゃ面白がってたぞ」

 

あのやろう!

思わず叫んでしまいそうな私でしたが、現実的に考えて親友の師匠を悪く言うのはNGなので、ここはぐっと堪えます。

いえ、そもそもですよ。確かに切り裂き魔との件でオリバーの思い出話をダシに、ほいほいとお酒をぐでんぐでんになるまで飲んでしまったのは逃れようのない事実でしょう。しかし、そうなってしまった諸悪の根源であるところのあなたがそれを言いますか。

散々待たせて、待たせて、待たせ続けておいて。

私がどれだけあなたの一声を待ち焦がれていたかなんて、知らない癖に。

 

「──元はと言えばオリバーが」

「はい、これ」

 

故に発した一言は、目の前の親友に対する苦言だったはずなのですが。

先手を取るように目の前に出されたひとつの袋に、私は目を奪われてしまいます。

何故かと問われれば、私自身の経験則から袋の中身が何となく読めたからでしょう。

ジャラジャラと袋の中で響く音、ぱんぱんに膨らんだ袋。

まるでその袋の中には夢と希望が詰まっているかのようで、私はその袋の感触を確かめるために、思わず両手をオリバーに差し出してしまいました。

 

「そ、れは……」

「依頼を手伝ってくれたお礼だ。サヤちゃんからも貰ってんだから知ってんだろ、魔法統括協会の規則」

「……報酬」

「ん、そう。報酬、素敵だね」

 

重量感のある袋に、ジャラジャラとした音。

それは私が大好物であるパンと同じくらい──状況によってはそれ以上に大好きなもの。

それがひとつあるだけで私の旅先での可能性は無限に広がり、充足感や満足感を得ることすら容易となる優れ物。

そして、それは旅において欠かせないもの。それが無ければ、食事や睡眠の質は下がり、旅の効率はそれと比例するように下がっていきます。

旅というものは無駄を刻むものでもありますが、その一方見たいものや食べたいもの、感じたいものを探す効率性も時には必要です。

その効率性を、それは無限に上げてくれます。それを多く持つだけで、私にとっての旅の効率はぐっと伸びるのです。

 

さて、その中身とは一体なんでしょう。

 

そう、お金です。

 

「次からはもっと計画性を持ってお金を使ってくれよ」

「……ありがとうございます」

「素直でよろしい。正当な報酬なんだから、切り替えて顔上げな」

「この数時間で私が何をしたというのでしょうか……」

「俺のやる気を上げてくれたんじゃね?膝枕のご褒美は戦闘大嫌いな俺のやる気を上げるには十分すぎたよな、それから……」

「分かりました。もういいですから。

……では、これは『黒衣の死神』さんのご厚意ということで有難く贅沢な食事と宿に使わせて頂きます」

「前言を撤回するっ!やっぱお前その金返せっ!」

 

返しません。

受け取ったからには誠意を持って使わせて頂きますということで、両手を差し出して「返却!プリーズ!!」とわけのわからない言葉を使ってくる幼馴染に「あ、無理です」という言葉で対抗します。

何度言われようが無理なものは無理です。というか、このお金を渡してしまえば晴れて私は1文無しです。

久方ぶりの再会、そうして生まれた共食の機会。その時に全額を負担してもらうなんて恥知らずな真似は、流石の私でも出来ません。

降って湧いてでたお金ですが、自分の裁量で使うお金があるだけでも心持ちは随分違うのですから、ここは大人しく引き下がって欲しいところです。

 

「……全く。折角今日のご飯奢ろうと思ってたのになぁ」

「あ、割り勘でお願いします」

「ファッ!?……イレイナさん、もしかして頭打った?」

「失礼ですね。私だってお金くらい払います」

「さっきまで文無しだった人の言うセリフじゃないんだよなぁ」

「私のプライドの為に言わせてもらいますが。あれ、不慮の事故です。決して無計画に1文無しになった訳じゃありませんから」

「けどイレイナさん、さっきまで文無しだったんでしょ?」

「……」

「イレイナさん」

「……なんですかその顔、ぶっ飛ばしますよ」

「無理すんなって」

 

無性に腹立たしいくそざこ煽り厨が何か言っていますが、今日のところは勘弁してあげましょう。

泣く子も黙る灰の魔女は、どんなに失礼なことを言われても親友にグーパンをするほど鬼でもないのです。

そりゃあ胸ぐら掴んで強烈なぱんちを食らわせる位の夢想はしますが、そんなはしたない真似をお人形さんのように美しく、可愛らしい美少女がしますか?

正解はしないんですよねぇ。

なんと言っても、灰の魔女は温厚篤実人畜無害が信条の賢い魔女さんなのですから──

 

「イレイナさん」

「なんですか、さっきから何度も何度も。言っておきますけど私はあなたの術中になんて嵌らな──」

「ぶどう、ふみふみ」

「……そ、れ。今関係あります?*1

「まあ日を改めて、俺にも作ってくれや。美味しいワインとやらをよ」

「……*2

「頼むぜ、ふみふ──

ぐおぁぁぁ!!目が!目がぁぁぁぁ!!*3

 

え、なんでグーパンしたかと?

答えは簡単、なんか無性にグーパンしたかったからです。

 

 

*1
イレイナさんの かおは ひきつっている!

*2
イレイナさんの ほおは ぷくーっとふくらんでいる!

*3
その場のノリ

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