どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
これは予め話しておきますが、私はオリバーに心を預けたわけでも心酔しているわけでもありません。自分自身のことは自分で決めますし、旅の行方も、明日食べる朝ご飯も、私自身の将来像も、決めるのは全て私であり、その全ての選択権を彼に預けるつもりなんて全くないのです。
そして、それはオリバーも同じです。魔法統括協会の一員としての彼はとても自由に、それでいて使命に忠実に。そうしていくことで付けられた肩書きを背に、やりたいことをやれるだけ、精一杯頑張ってきました。
そこまでの過程では辛いこともあったでしょうに、誰かに依存することをせず、多くの選択肢を自身で選び、切り拓いていったのです。
「お、どしたのイレイナさん。物思いに耽っているかのように目ェ閉じて」
「……あなたの二枚目と頭の中身が比例していないなと思っていたところです。いいからすっこんでてください」
「どこへ行けと?」
そう考えると、私達は意外と似た者同士なのかもしれません。自由に、やりたいことをやり、ほうきに乗り、国へ向かう。目的の違いこそあれど、それに至るまでの過程は少しばかり似ているような、そんな気がします。
今のこの瞬間も、口裏なんて合わせてもいないのに同じ速度でほうきを飛ばし、同じ場所で同じ呼吸をし、目的地へと向かっているのです。
その理由が生まれた時からなのか、故郷での付き合いの影響かは私の知るところではありません。
けれど、今のこの瞬間。確かに分かることは2つ。
横でほうきを飛ばす幼馴染の親友さんと同じ時を刻み、同じことをしているこの瞬間が、とても心地の良い時間であるということ。
そして、このような素晴らしい時間がいつまでも続くものでは無いと分かっているからこそ、今を大切に。抱き締めるように、大切にしていかなければならないと、私自身が感じたことでしょう。
「あっ!ねえねえ、旅の魔女さん。旅の魔女さん」
そんなことを考えつつ、ほうきと移ろいゆく景色に身を委ねていると。
不意にオリバーが口を開きました。
時々見せる。人をおちょくっているかのような悪戯っぽい笑みを浮かべつつ。
「国が見えてきたよ!可愛いね!」
「……驚きました。元々様々な事象に快楽を覚える人だとは思っていましたが、今度は国そのものに。……うわぁ」
「はぁいドン引きの視線でテンションブチアゲ〜。お前のせいです、あーあ」
「殴っていいです?」
「もう杖向けてんじゃん゛ッ゛!゛!゛」
国に興奮し始めたのです。
呆れてものも言えないとはこのことを言うのでしょう。とはいえ、彼が突如としておかしくなるのは最早いつものことですので、ここは私もいつものように魔力の塊でぶん殴って、軽くあしらっておきます。
「ッ……快楽だな!」
はいはい、今日も私の幼馴染が変態さんで涙が止まりません。
「というかさ、俺ってそんなに2枚目かなぁ?2枚目ならさ、ほら……もう結婚とか、そうでなくても女性を知っていてもおかしくは無いと思うんだが……」
「そうですね。まあ、それを聞くことが最早茶番なのでは?という位には……ごにょごにょしてると思います」
「……ごにょ?」
「そう、ごにょです。ところでオリバー。私とあなた、こうして旅をしていてまだやっていないことがあると思うのですが……」
「行ってきますのキスとただいまのハグ?」
「それはあなたがテキトーに妄想として消化してください」
それでは2人旅ではなく夫婦です。
階段すっ飛ばして何やらかしてんすか。
「とにかくまだしてないことがあります。今日はこの国に滞在しますので、何が足りていないか明日までに考えておいてください」
「まだしてないことだらけの状態で何を期待しているというのか」
言われてみればそうですが。
これはプライオリティの問題なんですよ、妄想炸裂ボーイさん。あなたが私との旅を選んでくれたように、私にも優先して欲しいことの一つや二つあるわけです。
「例えば……そうですね、あなたがいつも私にしてくれていたことを思い出してみてください」
「誕生日前夜祭」
「……それはそうですが。手紙を毎年その日に頂いていたので結構です」
「たはは、高度なトラップに引っかかりましたねぇ。まさか旅する日にフラン先生から貰った大量の手紙が4年間の前夜祭&本祭のプレゼントメッセージだとは思ってなかったろ──」
「私にとって大切な日を手紙でやり過ごすとは良い度胸ですねと。それはもう、感心しまくってたところです。何か文句でも?」
「ごめんちゃ……」
まあ、その大量の手紙に関しての詳細は追々語るとして。
「さあ、あなたに愛された可哀想な国が見えてきましたよ。今日はあそこでお金稼ぎをしましょう」
「よっしゃ!俺に手伝えることなら公序良俗に反すること以外で手伝おうじゃないか!」
「いらないです。結構です。ひとりで勝手に百合と国を愛でやがっててください」
「……
「はい、完全に拗ねました」
「なにゆえッ!?」
あーあ。
さて、こんなことを今更ながら語るのもあれなんですが、私達は昨日出逢い、そして当初の確約の通りに2人旅を始めました。
そして、今回が私達の2人旅では初めての国での滞在。私個人にとっては何度も体験したことではありますが、2人で一緒にというのは初めてです。
緊張はしませんが、ちょっとした違和感ならありました。
尤も、それは嫌悪するべき内容のものではないと誓って言うことができますが。
「ほぉーん……競箒文化ねぇ」
オリバーはそう呟くと、不意に空を見上げます。
その行為に釣られて私も空を見上げると、そこには私の視界いっぱいにほうきに乗った魔法使い達が広がり、競い合っていました。
そして、その様を見たオリバーは「アツアツ……!アツアツの鼓動を感じるぞぃ……!!」なんて馬鹿なことを隣で、嬉々として呟きます。
闘争文化が彼の性癖に刺さるのでしょうか。守る魔法が好きだったあなたがいつからそんな戦闘狂になってしまわれ──さては師匠の影響ですかそうですか。
「ふーっふっふっふ……!!」
うわ怖い。
どうしたんすか急に。
「イレイナさん、本当にこの国に滞在するんだな?」
「はぁ、まあ……それなりに」
「なら、入国してもらおうか……この国にっ!」
だからなんでそんな乗り気なんですか。
「国の文化と景色から察するに、ここは競箒を行う国!」
「はあ、まあ……辺りを見るにはそんな感じですが」
ほうきを用いてレースを行う競技。人はそれを競箒と呼び、国によっては文化として愛され、親しまれてきた文化です。
国の入り口付近に記されていた競箒文化という文字。そして、国の外側から見ることの出来るほうきに乗った魔法使い。それらの情報から、この国が競箒を文化として愛しているということは、オリバーに言われずとも分かっているつもりでした。
では、それがオリバーの興奮度合いと何が関係あるのでしょうかと。その答えを本人に問いかけようと私は思ったのですが。
「つまりワクワクって話だな!」
「え、それだけですか?」
「それだけだな!」
「……」
「ワクワクが止まらないよ、うひひ!」
なんということでしょう。
あれだけ意味深長な笑みを浮かべていたのにも関わらず、頭の中で考えていたことは「ワクワク」の4文字のみだったのです。
つまり、今のオリバーの頭は大改造もビフォーアフターもいらないくらい元からすっからかんだったわけであって。
「ごめんなさい、魔力の塊を撃ちすぎましたね。これからはちゃんと控えるんで頭の方、しっかり養生してください……」
「お?おー……おう!俺はいつも頭ん中百合とイレイナさんのことで1杯だぜ!」
マジで養生しやがってください。
安心してください!俺は彼女の翼です!
さっきから意味わからないことを……!貴様、何者だ!!
えっ、聞いちゃう……?それ、このバッジぶら下げてる魔導士に、聞いちゃう……?
何だと!?……おい、貴様。嘘を付くのならもっとマシな嘘を……
あっ、やべ。脱いだ黒衣にバッジ付けたままだった……
と、まあ。そんな感じに。
入国の審査でオリバーが門番の人と意図せぬコントを繰り広げているうちに、とっくのとうに審査を終わらせていた私はオリバーの襟首をとっ捕まえ、引っ張りながら国を歩いていきます。
「ぎゃっ!」
「ふざけてないで、とっととお昼ご飯を食べて別行動にでも洒落こみましょう」
「別行動……だと……!?」
「数分前の会話をもう忘れたんですか。私、お金稼ぎ。オリバー、国と百合を愛でる。……目的の違いがあるのなら、お互いにやることやって数時間後に合流した方が建設的では?」
「そんな冷たいイレイナ先生に質問!
灰髪の幼馴染とデートするって選択肢は好感度いくつで解放かな?」
「……」
「俺もサヤちゃんみたいに、イレイナさんを愛でたい……キリッ!」
「……なんですか。デートなら、もうしてるじゃないですか」
「あれ?今魔法の気配が……何かした?」
「別に何も」
言いながら私は発動した無音の魔法を解除します。
そうして、出来るだけお昼ご飯のことだけを考えながら並ぶ家々を眺めていました。
「オリバーは4年間で競箒に触れたことは?」
「ない。ギャンブルなんてする暇もなかったなぁ」
「あっ、でも時々食べるアイスの棒の当たりくじは狙ってたぞ!ギャンブルだね、素敵だね!」というオリバーの言葉は華麗にスルーしましょう。
時々食べるアイスのどこがギャンブルなんですか。
ギャンブル舐めてんすか。
「それはそうと聞いてくれよイレイナさん。競箒と言えば女の子が箒を使ってレースするのが主流じゃん?」
「はあ、それがどうしたんですか百合の伝道師さん」
「……仮にだぞ?もしそのレースに男の子が混じって、その男の子が1等賞取ったら、やっぱりその男の子はハーレム形成出来んのかな」
「……はぁ」
「昔さ、一緒に学校通ってた時もそうだったよな。かけっこ得意な子が1番モテモテでさ。じゃあ俺もモテモテになってやる!って張り切ってかけっこ頑張ったら転けて笑われて、当時は頭が悪かったことも相まって女の子達に落ちこぼれ認定されてさぁ」
「……」
「だからやっぱ速い奴がモテるのかなぁって。いいよなー、速い奴。憧れちゃ──イレイナさん!?なんか、早歩きになってません!?」
耳を傾けた私が馬鹿でしたねぇ、はい。
いや、分かってはいたんです。厳密に言うと、『あっ、聞いてくれよ!』の所から。彼が百合を愛して止まないのは周知の事実ですし。
では何故耳を傾けてしまったのか。
その答えは単純明快なものです。
「イレイナさん!?ちょ、ちょっとー!?無視はいけないと思いまーす!」
「はあ、では返答すればいいんですね?」
「お、おう……どしたん急に。話聞こか?」
「うーあーうー」
「うーあーうぅ!?」
声を聞きたかったから聞きました。
内容は聞き飽きましたし、聞きたくないと思えるほどですが、彼の声を聞きたいから聞いてしまうのです。
尤も、内容は右から左に聞き流してますけどね。
誰があなたの恋愛話を聞くものかと、確固たる決意で私はオリバーの声をBGMにしつつ、景色を楽しむのでした。
「くぅ……!やっぱ速さは『モテ』の象徴ってことか……!」
「……」
「俺も速くなりたい……!つーか、モテたい……!!どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を、俺は諦められねぇんだ……!!」
どの口が。
あなただって速くて、その上でかっこいいじゃないですか。
なんて冗談も程々に、街を歩いていると不意に視界に映り込んだ景色が私の足を止めました。
釣られて足を止めるオリバー。揃って眺めた立て札にはとある文字が記されており。
「……道場破り、大歓迎?」
「……破った者、金貨50枚?」
そのような威勢の良い立て札と共に、周囲の家よりも一際大きい家──それこそ道場と呼べるような広さの家が私達の目の前に鎮座していたのでした。
「金貨50枚とはこれまた破格ですなぁ。貰えたら当分は寝る場所に困らない」
「いや、ですが……道場破りですよ?道場破りで金貨50枚とは……」
何か非常に申し訳ないのですが、裏を感じます。
他の家とは違う古風な家の作りと、所々に垣間見える傷に道場の伝統を感じないと言えば嘘になりますが、それがそのまま信用に繋がると言えば大間違いなんですよね。
伊達に廃墟で操り人形になんてなってませんし、切り裂き魔さんに髪の毛バッサリいかれてません。
私は過去の様々な経験を信じてオリバーに伝えました。
「こういう釣り糸に引っかかるようではまだまだですね。粋な旅人は稼げる仕事とそうでない仕事を見極められるものなのです」
「ほへー」
「そもそも、現実的に考えてみてください。普通に考えて道場破りで金貨50枚なんておかしいにも程があります。こういう釣り糸に限って、釣られた先ではろくでもないものが手をこまねいて待っているものなんですよ」
「あふーん」
「分かったのならその間抜けな返事をやめてくださいブッ転がしますよ?」
主に魔力の塊で。
いえ、ここはあなたに教わった魔力の弾丸で。
「けどさ、金貨50枚だよ?」
「……」
「釣り糸、引っかかるんじゃなくて糸ごと引っ張り倒せば金貨50枚にオマケもゲットできるかもよ?」
「……」
……。
ざ、戯言ですね。
「……なんて希望的な観測ですか。これで銀貨すら手に入れられなかったらそれこそ時間の無駄じゃないですか」
「でもどうせすぐ使い込むよね?」
「ゔ。……それは、明日の私にでも聞いてください」
「この4年間、ずっと。お金があれば豪勢な生活を、なければ質素な生活をって感じに旅をしてきたんだよね?」
「……ぅぐ」
「死ぬよね?財布」
まあそれは、確実に。
今の私のお財布事情は、昨日の報酬のおかげで相当潤っています。なので例に漏れず、今日は豪勢なランチに、ディナーに、ホテルに。
私の脳内ではリッチな私がリッチな生活をしている姿が容易に想像できていました。
なので多分、私のお財布の中身は今日明日、もって数日ですっからかんになります。
オリバーの言う通り、お財布が死ぬのです。
「……ですが、私にも選ぶ権利があります」
「選ぶ権利」
「占い師の真似事に、占い師の真似事。占い師の真似事からの占い師の真似事まで。お金を稼ぐ方法ならこの4年間で散々学び、試してきました」
「全部占い師の真似事じゃん」
「はい。なので今日はこの国で占いです。良かったですね、オリバー。素敵な魔女の、素敵な資金繰りを生で見られますよ。……というわけで、はいどうぞ」
「『はい、どうぞ』じゃないんだが?」
「今なら金貨5枚です」
「ふざけるな!イレイナの占い師やってる姿は金貨じゃ話にならないくらい価値のある可愛い姿なんだぞ!!自己卑下も大概にしなさい!!」
「あ、じゃあ一生見ないでください」
「あ?何言ってんだよ幼馴染特権で見るよ。いつかメイド服姿で給仕もしてもらうから、そこんとこよろしく」
「あなた頭おかしいんじゃないですか」
ですが、ここでオリバーの煽りに乗っかるのもそれはそれで嫌ですし。
何より、お金を稼ぐ方法なら危険を冒さずとも何とかなります。金貨50枚の道場破りが
これでは『何で勝負するのか分からない』挑戦者側と、『その場で勝負の内容を決められる』主催者側の均衡が取れません。挑戦者側、私達が圧倒的に不利な条件で、オマケに負けた時のペナルティすら書かれておらず、何を要求されるのか分からない。
改めて考えても話になりません。私はそこまで頭の悪い魔女ではないのです。
安く見ないでもらいですね、灰の魔女を──
「ああ、そっか。もしかしてビビってんの?道場破りで?イレイナさんが?」
「は?」
「それならそうと言ってくれれば良いのに。……やーい、イレイナさんよわよわー♡」
「……」
「……」
「なんすか、何見てんすか」
「よわよわ魔女なイレイナさんも、それはそれとして趣があるなって思っただけだ」
誰がよわよわ魔女ですかふざけないでください道場破りやってやろうじゃないですかこら。
と、いうわけで本日の方針が180度変わりました。
私はもう一度オリバーの襟首を──掴むのは流石に可哀想でしたので、手首を掴んで再度お昼ご飯を食べる場所を探す旅へ戻ります。
「い、いたたたたイレイナさん!?敵前逃亡かな!?逃げちゃうのかな!?」
「戦支度の間違いですよくそざこ煽り厨さん。いいから黙ってレストランを探してください」
「あっはい。調子に乗ってすいませんでした」
まあ、そんな風に。
この時の私はオリバーと話をしながら、オリバーの煽りに乗っかって、勢いで手を繋いでしまう程に冷静さを失っていたわけでありまして。
だから普段なら気付けるような点に気付けず、スルーしてしまっていたんですよね。
道場の窓から見えた、1人の少年の影に。
「それはそれとして、俺は白いワンピースのイレイナさんも見たいんだぞ!」
「……はぁ」
「今度海の見える街に行こう!そして……着よう!白ワンピ!!」
「……まあ、それなりに」