どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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34話「旅の始まりと競箒文化」4

 

 

 

 そもそもの話ではありますが、私は道場を潰してしまおうだなんてひとつも考えていませんし、他人の人生を転落させようなどと思ったことも1度としてありません。

 旅先で出逢った人達に対してより親密に、深い関わりを持とうとしないという旅人の私としての矜恃は時として容易く崩壊しますが、基本的には人とのコミュニケーションは必要最低限の域を出ないのです。

 旅先での関わりは良い意味でも悪い意味でも広く、浅く。仲良くなったとしても、共に在ろうとは思わず、また逢えたら「おや、久しぶりですね」と軽い挨拶を交わせる程度の関係性が私にとっての理想だと、私自身はそう思っています。

 なので、この国での立ち居振る舞いも他の国と変わらずに。親友である山吹の魔道士さんと共に国の景色と美味しいご飯を味わい、厄介事には巻き込まれず、穏やかな日々を楽しみ……ついでにお金儲けが上手くいけばなんて希望的観測を抱きつつ、私はレストランにてコーヒーと料理に舌鼓を打つ予定だったのですが。

 

「先程は私の弟子がご迷惑をおかけしました」

「いえ、別に……まあ本当に何をしたのか分からないのですが……」

 

 そんな私は今、金貨50枚の道場破りなんて看板を掲げ……否、厳密には掲げ()()()()()道場の応接室にて、その主人である小麦色の髪の女性の方とお話をしています。

 小麦色の髪の女性は、先程立ち寄ったレストランで私達の注文を受けたウエイトレスさんであり、店長の立場にある人でした。

 束ねていた美しい小麦色の髪は、料理を扱う必要のない今は解かれているものの、枝毛ひとつないその姿が彼女の秀麗さを際立たせています。

 そして何より、服装も、身嗜みも、そもそもの外見も。何もかもにケチの付けようがないのです。

 そのような方と話をすることに緊張感がないと言えば、それは嘘になります。

 いつもより背筋が伸びるような、伸びないような。そんな不思議な感覚が私の身体を襲いました。

 

「私の弟子……シュトロームは、悪い子では無いのです。まあ、旅の魔女様からしたら、第一印象であんなことしておいて何を今更と思うのかもしれませんが」

「はあ、まあいきなり喧嘩吹っかけられましたからね」

 

 とはいえ、会話に夢中だった故にシュトロームさんを無視してしまった私達が1番の原因なんですけどね。

 両成敗と言えば聞こえはいいですが、私達が無視を決め込まなければもう少し良い結果になっていたのではないかと思います。

 尤も、シュトロームさんの言い分を聞くには何をしても徒労に終わりそうではありましたが。

 

「彼に代わり謝罪致します、旅の魔女様」

 

 まあ、それはそれとして。

 こうして直接的にはなんの関係もないシュトロームさんの師匠が謝罪をしている以上、こちら側のとる選択肢は限られています。

 依然として頭を下げる小麦色の髪の女性に、私は言葉を返しました。

 

「私の方もシュトロームさんに失礼なことをしましたから、気にしていません。頭を上げてください」

「なんと。……旅の魔女様は心優しいお方なのですね」

「まあ、私も親友との会話に夢中になってシュトロームさんを意図せず無視してしまっていましたから。両成敗ということでお願いします」

「なんと……」

 

 小麦色の髪の女性が頭を上げ、複雑そうに表情を歪めます。

 まあそうなりますよね。実の弟子が無視されていたとあっては心中複雑なものがあるでしょうし。

 それ程私が悪いことをしたということです。甘んじて受け入れましょう。逆に怒られていない分、幾分か有難いとも思います。

 居心地も悪くは無いので、まあお茶を1杯。それから少しの雑談をしたら宿を探しに行きましょう。

 ちょっと豪華なホテルでも良いかもしれません。何せ今の私、リッチですから。

 

「そんなご事情があったのですね。……確かお連れ様は山吹色の髪の」

「はい、腐れ縁です」

「そうですか……やはり男の方を知っておられると心に余裕が出来るのですね。私にはそのような経験が皆無ですので羨ましい限りです」

「話聞いてました?」

「……『競箒は人生』を座右の銘に掲げて20年。人生の大半を競箒に捧げた人間には到達など叶わぬ領域でございます……はぁ」

「『はぁ……』じゃないんですよ腐れ縁と言っているじゃないですか」

 

 前言撤回します、今すぐ荷物を纏めて帰りましょう。

 この人と話をしていると虚実さえ事実にされかねません。何が男を知っているですか。遠回しに馬鹿にしてるんですか。

 

「なんと。ウエイトレスとしてあなた方の会話を拝見させて頂きましたが、疑うことなく恋仲にあるものとばかり。……失礼致しました」

「……」

「とはいえ、他の者も噂していましたよ。具体的な内容は……失礼致しました、控えさせて頂きます」

「察したように言うのやめてください」

「あっ……お茶のおかわり、持ってきますね」

 

 何かを察したように小麦色の髪の女性が立ち上がり、キッチンへ向かいます。

 その理由が本来の目的であるお茶の継ぎ足しだけでは無いことを分かっていた私は、自分の気持ちに蓋をするかのように、温くなったお茶をぐいっと飲み干し、両手で顔を覆いました。

 え、今の気持ちを20文字以内で表せ?そうですね。

 端的に言って灰になりたいです。

 

 

 

 

 

 

 

「お、どしたのイレイナさん」

「……あなたはいいですよね。羞恥心なんてそこら辺の川に捨ててきたような感じで振る舞えて」

「川に捨てたらそりゃもう不法投棄なんよ。本当に大丈夫か?」

「……うるさいです」

 

 数分後。

 料理を食べ終えた後に、誘われるがままにほいほいと付いていった道場にて何やら別行動を取っていた18歳児さんが私の隣に腰掛けると、いつも通りの優しい声色で私に話しかけてきます。

 とはいえ、数分前に恥ずかしい想いをしてしまった私には彼の平常運転に付き合えるような度量も余裕もありません。

 俯いたまま、顔を覆ったまま、私は少しばかりの悪態を吐きました。

 それでも彼の勢いは平常運行そのもので、あろうことか私の頭に手を置きやがったのです。

 彼には1度鉄拳を見舞ってやった方がいいのではと本気で思いました。

 

「人の髪に気安く触らないでください」

「悪い。慰めた方が良いと思って。

 ……で、何があった?」

「聞かないでください。今、私は自分で自分を戒めているんです」

「戒め、とな」

「はい」

「……え、何を戒めるってんだ?」

 

 あなたやっぱり羞恥心をそこら辺の川に不法投棄したんじゃないんですか。

 サヤさんだってそこまでやったら恥じらいの一つや二つ持ちますよ。

 とはいえ、良い意味でも悪い意味でも鈍感なのはオリバーの持ち味であり性格でもあります。

 本当に分かってないのならば、しっかり言葉として伝える。オリバーの鈍感の対処法が分かっている以上、今回もそうするべきだということは理解しています。

 なので、私は持っていそうで持っていない心の余裕を切り崩し、続けました。

 

「……レストランでやらかしたじゃないですか、お互いに。それを戒めているんです。2度とこんな思いをしないように、厳しく」

「牽制を?」

「それもそうですけど……あれです。分かりませんか」

「……一緒のご飯を食べて、牽制しあって、シュトローム君を無視して2人の世界に入ったことか?」

「…………」

「図星かよ。……というか今更?お互いそれを戒めるような関係じゃないだろ。フツーだ、フツー。気にすんな」

「……………………。

 ……もう、嫌……お家帰ります……」

「いや帰るなよ。2人旅してくれんだろ、俺と」

 

 分かってるんじゃないですか。

 なんで言わせたんですか。ぶっ殺されたいんですか。

 

「おや、オリバー様。道場の見学はもうよろしいので──すみません、お邪魔でしたか?」

「オリバー。私、この国もう嫌です。お家に帰りましょう。そうじゃなくてもひとまずこの国を出ましょう」

「え、急にスンッ……てなるじゃん。いや、というか待て待て!立ち上がるな!荷物を纏めようとするな!まだこの国の観光もしてないだろ!!」

「観光なんていいです。なんなら頭のどっかでも打ってこの日を忘れたいです。とにかくもういやなんです、許してください」

「唐突なわからせ展開!?ど、どうしたんだよイレイナさん!アンタはそんな事を言うような美少女じゃないはずだ!!」

 

 冷静さを失った私に必要なのは、所謂1人の時間でした。1人でうんと考え、深呼吸して、冷静さを取り戻す。人なら誰でもやるようなごくごく当たり前の行為ではありますが、それこそが今の私には必要だったのです。

 しかし、今のこの空間には1人になれるところなんてありません。目の前ではオリバーが私の両肩を掴んで訳の分からないことを力説していますし、後ろでは小麦色の髪の女性が「おやおやまぁまぁ」と野次馬を演じています。

 つまり、1人の時間を作るためにはこの道場を出ていく必要がありまして。

 それが出来なければ、私の心臓はもう限界を超えてしまいそうで。

 

「どうしたんだイレイナ!ひょっとしてメニュー表で顔隠した時以来のよわよわイレイナの到来か!!可愛いぞイレイナ!!愛してるぞイレイ──ナ゛ッ゛!゛」

 

 去り際に魔力の塊をオリバーに向けて放ち、変身魔法で小動物となった私は1人で考えることのできる場所を求めて何千里かも分からない旅に出ました。

『数時間後にこの場所で』というテキトーな文字で綴ったテキトーな書き置きを残して。

 

 

 

 ⚫︎

 

 

 

 イレイナさんとの2人旅で初めて訪れた国は、競箒文化の盛んな国だった。

 原作では見たことの無い国と、街の賑わい。その全ては俺にとって新鮮そのもので、この国に訪れてから……否、入国する前からテンションは上がりまくっていた。

 だってさ、考えてもみろよ。イレイナさんとの2人旅だぞ。2人でデートでもやってるみたいに観光して、ご飯食べて、宿で寝泊まりして。

 そんな興奮するやん。それも、原作では記されなかった場所。何が起こるか分からない場所をイレイナさんと観光するのだ。

 正直言ってクスリキメたんじゃないかって位興奮するね。さっきから俺の心拍数は上がりっぱなしだ。

 

「どうしたんだイレイナ!ひょっとしてメニュー表で頭隠した時以来のよわよわイレイナの到来か!!可愛いぞイレイナ!!愛してるぞイレイ──ナ゛ッ゛!゛」

 

 それ故に、調子に乗った。

 普段ならば自重しているであろう場面。気付けば俺はイレイナさんの頭を撫で、両肩を掴み、振り返れば赤面必至な言葉のオンパレード。極めつけには可愛いやら愛してるやら、わけのわかんねー言葉を連発。

 当然、衝動的に発した軽率極まりない俺の発言が彼女の気に召す訳がない。

 気がつけば俺は彼女の魔力の塊でアッパーカットを喰らい、一回転。

 悶絶している間に、イレイナさんはどっかへ行ってしまった。

 

「……なんと」

 

 一部始終を見ていた小麦色の髪の美人さんが感嘆にも近い声を上げる。

 なんでこの場面で感嘆の声が漏れるのかは知らないが、俺とイレイナさんの絡みに感ずる所があったのだろう。

 いやまあ、知らんけど。マジで何を思ったのか分からんのだけど。

 

「……数時間後にこの場所で、ねぇ」

「置き手紙ですか。なんだかんだ愛されていますね」

「ええ、だって俺。イレイナさんのこと大好きですから!」

「なんと!ということはおふたりは……」

「お?おー……おう!そんなところだぜ!」

「やはりそうなのですね……!」

 

 まあ、それはともかく。

 こうしてイレイナさんが置き手紙を残して数時間限りの大脱走を敢行した以上、やることは限られてくる。

 選択肢は3つ。

 1人で暇を潰すか、シュトロームくんを探して謝罪をするか、小麦色の髪の美人さんの名前を尋ねるかのどれかだ。

 さあ、どうする。どれを選んでイレイナさんとの再会&仲直りに繋げるか。

 ここが分水嶺となり得るぞ、クソダサ魔道士のオリバーさんよぉ!!

 

「……時に、旅の魔導士様」

「んぁ?」

「もしよろしければ、私の話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか」

 

 ……なんて思っていたのだが。

 どうやら、この美人さんは俺に話したいことがあるらしい。

 それも、先程まで馬鹿をやって魔力の塊で理不尽にも吹き飛ばされた俺を相手にしてまでその話をしたいらしい。

 それ程必要に迫られているということなのか、もしくは考え無しか。

 とはいえ、既に一介の魔道士ではない俺がその話を無視する訳にはいかない。

 流れる鼻血をハンカチで拭い、上体を起こして席に座る。そうして改めて小麦色の髪の女性の目を見据え、俺は続けた。

 

「聞きますよ。俺でよかったら」

「……良いのですか?」

「あいや。俺ってこう見えて困っている人を助けるお仕事してるんですよ。だから、もしあなたが困っていることがあって、その悩みが俺に解決出来ることだったら何とかしたいんです」

 

 尤も、魔法統括協会のエージェントにできることなんて限られているんだけどな。

 精々魔法で魔法を制するくらい、ちょっと背伸びして猫ちゃんやお犬様を探したり、逃げた悪党を捕まえたり、それくらいしか出来ないけど。

 もし、彼女の悩みが『それくらい』で済む話なら何とかしたい。

 凶悪犯をとっ捕まえるくらいなら許容範囲だ。遠慮せずになんなりと言ってみて欲しいものである。

 言わなきゃ、何も始まらないんだからな。

 

「で、その話っていうのは困り事ですか?それとも、誰かに脅されているとか、……なんなら、道場の存続についてとか!」

 

 話しやすい空気を作るため、できるだけ明るく努める。すると、小麦色の美人さんは1度目を閉じ、数秒経った後に何かを決心したように息を吐く。

 そして彼女は目を開くと、俺の問いかけに言葉で応えた。

 

「……今、貴方が仰ったこと。その全てに困窮しています」

「ほうほう」

「道場の入口で見た金貨50枚の立て札は見られましたよね」

「それは、まあ」

 

 そもそもの話、俺とイレイナさんは金貨50枚の道場破りに向けてレストランで腹ごしらえをしていたわけだからな。

 んで、シチューとパンを食べた後に騒ぎを起こしたお詫びってことで彼女が住んでいる競箒の道場に招待されて、ほいほいと付いていって。

 道場の入口付近に立てられた道場の立て札を、彼女は魔法で破壊した。

 

「何となく分かります。あの立て札、この道場の関係者が建てたやつじゃないんでしょ?」

「……魔導士様は、察しがとても早いですね」

「誰だって分かりますよ。あなたがそれを見た瞬間に立て札を破壊した所とか、その後の表情を見たら」

 

 その時の小麦色の髪の美人さんが浮かべた表情は、正直なところ文字に起こしたくもないし、詳細を語りたくもない。

 何より、その表情を他人には悟らせまいと無理くり笑う姿は正直見てられなかった。見ていて心が痛くなるし、苦しくなってくる。

 よくもまあ、人様の道場にこんな真似ができるなと本気で思ったんだ。

 

「……お察しの通り、あの立て札は私の道場とは無関係の人間が立てたものです」

「……」

「それも今回が初めてではありません。壊しては、立てられ。壊しては立てられ。酷い時には経営する店にまで立て札を立てられた時もありました」

「店って、あのレストランですか。営業妨害もいいとこっすね」

「はい」

 

 もうそれ犯罪だよ。

 人の敷地内に立て札埋め込んでいる時点で犯罪に片足突っ込んでんのに、挙句の果てには営業妨害と。

 これ、イレイナさんの言うところのやべーやつですよ。

 厄介な輩に絡まれたなぁ、本当に。

 

「……本当に失礼なことを聞きますけど、確認させてください。何か悪どいことをしたりはしてませんよね?」

「はい。それは私の人生に誓って。常に競箒騎手として高みを目指した私に誓って、そのような事は致しません」

「じゃあさ、先ずは訴えようよお姉さん。今やられてるのって紛れもなく犯罪だよ」

「……それは」

「不法侵入からの違法建築。挙句の果てには営業妨害。この状況を放置して良いことなんてひとつもないし、する必要もない」

 

 彼女の目を見据え、今の気持ちを正直に伝える。

 すると、彼女は先程の様子とは違い伏し目がちに視線を横に向ける。そして、微かな震え。

 その様子は、訴えることに対しての恐怖感すら抱いているようにすら思えた。

 その点から察せられるのは。

 

「……前にも同じようなことが何度も起きた。声を上げたが、通らず。被害は更に苛烈なものとなった」

「!」

「どんな目にあったのかは聞きません。ただ、そういう事情があったのなら納得できます」

 

 というか、聞かなくても分かるんだよなぁ。

 本来ならばとっくのとうに声を上げていてもおかしくはない所まで来ているのだ。理不尽な立て札を敷地内に建てられ、営業妨害もされて。

 それでも声を上げないのならば、答えは当然のように絞られてくる。

 

「事態が悪くなることを分かっててやれだなんて言いやしません。すみません、無神経なこと言いました」

「……いえ、良いんです。本当のことですから」

「や、むしろ間違いなんすよ。1度声を上げて効果がなかったのなら、同じことの繰り返しはしちゃあいけない。最悪恨みを買って生命に危険が及びますし」

「……!」

「事実、今あなたが受けている被害ってストーカーの被害とかと同じなんですよ。そりゃあ放置するのはダメですけど、その次にダメなのって同じ結果を繰り返して相手を逆上させることなんです」

 

 勿論、これは俺の個人的な感想だ。人によって何をしたらダメなのかっていうのはその人の価値観や時と場合にもよるけど、基本的にそういうヤツらは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に懸かっていると考えている。

 刺激を与えられ、逆上した人間ほど何をするか分からない。行動パターンが読めなければ、怪我をしない最善手を取ることが困難になる。

 そうなってしまうと、もう無傷では居られない。

 心か身体。どちらかに深い傷を負う羽目になる。被害の程度によっては事件前の日常を送れなくなる可能性すらあるのだ。

 だから、先ずは逆上させてはいけない。その上で、速く動く。それが()()()()()()()()()()第1歩だと俺は思う。

 

「俺の敬愛する師匠が、いつも俺のほっぺをむにむにさせながら叩き込んでくれたんですよ。

 ダメだった方法を馬鹿正直に繰り返すのではなく、違うやり方でぶっ倒せってね」

「……なにをぶっ倒すのですか?」

「犯人」

「犯人をですか!?」

「え、だって俺はお巡りさんだし……」

「なんとォ!?」

 

 あ、そういや魔法統括協会のブローチ黒衣に付けてたままだった。

 ということは……もしや俺。旅の、男の魔道士の癖に事件を解決しようとしていたおバカさんみたいに見えていた!?

 うっわー恥ずかしい光景!こんな姿モニカちゃんには見せられ……あ、そういやエマデストリンで見せてたわ。

 というか、モニカちゃんには散々ダサい姿見せてるし今更だったな……

 

「言い忘れてました、俺の名前はオリバー。

 魔法統括協会のエージェントです、以後よろしく」

「あ、それはどうもご丁寧に。

 ……私、ベーゼンと申します」

「ベーゼンさん。

 ……競箒道場の主たるあなたらしいお名前ですね」

「はい。今は亡き母が名付けてくれた、私の誇りです」

 

 まあ、なにはともあれ。

 

「もしあなたが望むのならば、俺があなたの『違うやり方』になりましょう」

「……違う、やり方」

「まあ、さっきも言いましたけど俺は神様でも魔女でもなく、魔道士なんでやれることは限られてくるんですけどね!

 それでも何か頼まれれば、事態を好転させられるかもしれない。おまけに俺はこの国での立場とかどうでも良いので、忖度なしに好き放題、やりたい放題!」

 

 ここの人間の誰もが手を差し伸べず、状況が停滞するくらいならば俺が手を取ろう。

 少しでも状況を良くするために、努めよう。

 惑い、困る──そんな人を見た、俺の敬愛する師匠は1度手を差し伸べれば、どんな過酷な状況に置かれても責任を負い、事件を解決し、お金を貰った。

 そんな師匠が今の状況を見たら、どうする?

 答えは当然、俺の胸の中に据わっている。

 

「どうです?俺のこと、使ってみません?」

「……」

「使うのか!使わないのか!どっちなんだいッ!!!!」

「へ」

「つーかーうッ!!へへっ、ベーゼンさんも好きモンの女の子ッスね!」

「えぇ……」

 

 差し伸べた手を、ドン引きのベーゼンさんが取る。

 1度逡巡したかのように止まった手は、やがて何かを決心したかのような1呼吸と共に動き、俺の手を掴んだ。

 口では堪える素振りを見せていたものの、やはり腹に据えかねるものはあったのだろう。

 悟らせまいと締めていた表情が緩むと、彼女の目からは汗とは違う類のものが1滴、頬を伝い流れ落ちた。

 

「立て札の件、私は犯人を許すことは出来ません」

「うん」

「道場は私が、レストランは今は亡き母が作り上げた大切なものです。その領域を毎度の如く犯される。それは本当に辛い。泣きたく、なるほど辛く……」

「うん」

「……けれど、誰に相談することも叶わず。今回も、旅の魔道士様には……話を聞いていただくだけのつもりで、この件をお話しました」

 

 滴は、何度も頬を伝う。

 しかし、その滴や嗚咽に邪魔されることはなく、誠実にベーゼンさんは言葉を紡ぐ。前を見据え、言葉を選び、背筋は真っ直ぐ。その様は、偽りのない本心をさらけ出しているように、そう思えた。

 

「お金は幾らでも払います。

 ──この道場と、レストランにて立て続けに起こる立て札の問題を、解決して頂けないでしょうか」

「……ん、任されました」

 

 ならば、俺も一旦おふざけモードは解除せにゃならんわけで。

 今までの巫山戯た態度を一蹴するように、漆黒より黒い黒衣を纏う。

 これがないとスイッチが入らない、なんてことは無いが魔導士としてはこれがないと締まらないような気がした。

 何より、この黒衣には1つのブローチが付いている。

 この黒衣こそが、俺が魔法統括協会のエージェントであるという証左となり、俺自身の気持ちの入り方も少々変わってくるのだ。

 

「その件、俺が魔導士なりに解決してみせましょう!」

「……なんと」

「実力行使で!」

「なんとォ!?」

 

 助けを求めた彼女の手は、魔導士たる俺が放さない。

 さあ、観念しろよ違法建築の匠共。

 この黒衣を纏ってイキリ始めた俺は、──ちょこっと厄介だぜ?

 

 

 

 ○

 

 

 

『変身魔法を使ってまでその状況から逃げた腰抜けな私』が、『冷静な私』となるために必要なのは落ち着いた雰囲気と、一杯の珈琲でした。

 勢いで入店した喫茶店特有の空気感と、心を落ち着かせる暖かい珈琲。その全ては私の冷静な部分を取り戻すには十二分に機能し、図らずとも心を癒し、整え、いつも通りの私を取り戻すことが出来たのです。

 

「……さて」

 

 この際、オリバーのあれこれに関しては頭の片隅に置いて黙殺しておきましょう。

 彼はああいうことを平然とするくそやろうです。なんならあのおちゃらけくそぼけ山吹さんが彼の本来の性格でもあります。

 外見だったり、微笑みだったり、職場での肩書きだったりに周囲は騙されることが多いですが、フツーにあの人歴史に名を残すレベルの変態さんですからね。

 その点にに関して今更、長い付き合いの私が惑わされるのは正直言って馬鹿馬鹿しいことこの上ないでしょう。

 なので、黙殺します。頭の片隅に追いやって、今は別の、もっと大切な事象に想いを馳せるべきなのです。

 

「おい、聞いたか?今回のレース、『女帝』が怪我で出場辞退するらしいぞ」

「ああ、まさかレースに向けての調整練習で落箒するなんてな。れーちゃんが気の毒だ……」

「と、なると代替騎手が誰になるかってのが鍵だが……まあ順当に行きゃスコーパの奴が優勝するんだろうさ……」

「ぐへへ、スコーパちゃんに金貨12枚……」

「お前ちょっと表出ろ」

 

 今の私は新聞を片手に、競箒の国に関しての情報収集を行っています。

 新聞を読んだというだけでこの国に関しての全てを理解出来るという訳ではありません。しかし、予備知識を持っているのと持っていないのとでは今後の資金繰りに対するアプローチが変わっていきます。

 例を挙げるのであれば、国の特色。どの場所で何が起きたか、最近の流行り、美味しいご飯等々。

 このような知識を頭に入れることで、現在進行形で割の良い仕事の発見や街の人々との円滑なコミュニケーションを取ることが可能となり、結果として効率よくお金を稼ぐことが出来るのです。

 

「おいおい、ビッグニュース!!怪我したれーちゃんの代替騎手らしき魔道士がこれから出走審査をするみたいたぞ!!」

「エェ!?」

「代替騎手は道場の人間じゃねえ!!旅人の……しかも、男の魔道士だ!!」

「エェ!?」

「噂によるとれーちゃんの彼氏らしい!!やったぜみんな!!俺らのアイドルれーちゃんに春が来たんだッ!!」

「れーちゃんにも春が来たんやねぇ……!!」

「俺!スコーパちゃんの夫になります!!」

「お巡りさーん!ここに12歳の女の子と結婚しようとしている変態不審者さんがいまーす!!」

 

 そして、かしこい魔女は目を通して知識を蓄える傍らで耳を使うことも忘れません。

 喫茶店にて会話をするお客さんの声を拾い上げ、新鮮な情報を聞き取ることでこの国の噂や情報を得ることも可能になります。

 まあ、新聞も噂話も正しさの影に嘘が等しく交じっているものなので、選別もしっかりと行わなければならないのですが。

 ともあれ、目と耳を使って情報を仕入れたかしこく可愛い魔女は、それらを今後の資金繰りに生かすべく情報を一旦整理します。

 

「3日後にレースがあり、5連覇中の『女帝』さんが怪我。代替騎手は男の魔道士さんで、現在の1番人気はスコーパさんという12歳の女の子……」

 

 何か男の魔道士さんという言葉に引っ掛かりを覚えましたが、それよりも重要なのは『近日中に大々的なレースが行われること』と、『5連覇中の女帝さんが怪我をした』こと。そして『優勝候補が12歳の女の子』だという情報です。

 今までの大会を5連覇し、女帝とまで呼ばれていた競箒騎手さんはどうやら調整練習を行っていた際にほうきから落ち、怪我をしてしまい。

 その結果、多くの方がスコーパさんという競箒騎手が今大会の勝者になると予想されており。

 その結果、新聞記事に書かれていた勝利予想券の売れ行きもスコーパさんの割合が圧倒的に多く、スコーパさんは推しも押されぬ1番人気になっていたのでした。

 

「それにしてもれーちゃんの道場は大丈夫なのか……?」

「ああ、噂じゃその件で集中力を切らして事故ったって話だしな……」

「つーかれーちゃんがこのまま弱ってったら道場どうなっちまうんだよ……」

「スコーパちゃんの1強時代になると思いまーす!!」

「留学しに来たシュトロームも報われねぇな、こんな状況でれーちゃんの道場来ちまって……何とかしてやりてぇけど、何も出来ねぇのが歯がゆいわ」

 

 とはいえ、1番人気が必ず勝利を手中に収めるのかと言われれば、そんなことはありません。

 勝負に絶対なんて言葉は皆無であり、その勝負が決まるまではどの人々も不安に駆られることでしょう。

 この国の競箒は勝利予想で賭けを行い、予想の的中によってお金を稼ぐことの出来るもの。

 予想を外し、自分の趣味に投じたお金がただの紙切れになる瞬間を想像することは皆怖いもの。

 できることなら、紙切れがお金に変わる瞬間をいつまでも想像していたいですし、心のどこかで『必勝』に繋がる情報や安心感を得ていたいと思うものです。

 そう、それこそ──必ず予想を当ててしまうような。そんな人の占いがあるのなら、それに縋りたくなるくらいには。

 

「ふふふ……」

 

 今回の資金繰りの方法が頭の中で構築されました。

 そして、時間の経過と共に落ち着きを取り戻した私は、一度は頭の片隅に追いやった()()に向き合います。

 

「……さて、そろそろ道場に戻りましょうか」

 

 今回、状況が状況とはいえ何も告げずに書き置きを残してどっかへ行ってしまった私の方には間違いなく非はありまして。

 それを今更気にするような仲では無いということは理解しているのですが、何もせずにいつも通りという訳にもいかないと思うのです。

 親しき仲にも礼儀はあって然るべきですし、それをしないで後腐れが残るような旅など私の選択にはありません。

 なので、ここは私から謝りましょう。

 何せ私、かしこく可愛い灰の魔女ですから。

 

「号外ィー!号外ィー!!男の、旅の魔道士が競箒の出走審査突破ァー!!」

「なんだと!?知識も実力も必要なあの試験を……!!」

「まあ実力も知識もないやつをれーちゃんが自分の代わりに立てるようなことせんわなぁ」

「号外ィー!!スコーパちゃんと俺結婚ッー!!」

「お客様、ちょっと表出てください」

 

 というかさっきからなんですかこの喫茶店。

 号外と性癖の吐露なら他所でやって欲しいのですが。ここどこだと思ってんですか、酒場と勘違いしてんすか。

 喫茶店は会話をするところでもありますが、静かな雰囲気を楽しむ場でもあるのです。それがなんですか、さっきかられーちゃんれーちゃん男の魔道士さんスコーパちゃんスコーパちゃんって。

 情報をくれるのはありがたいですが、うるせーのは他所でやってください。

 灰になればいいのに。

 

「お客様、こちら新しい新聞記事なのですが読まれますか?」

「はぁ、ありがとうございます。……あの」

「変態不審者さんはこちらの方で処理しておきます」

「お願いします」

 

 喫茶店の店員さんから新しい記事を頂き、目を通します。

 内容は怪我をした女帝さんに代わる代替騎手の正式決定について。

 この国の歴史上類を見ることの無い、史上初の珍事ということで紹介されたその記事の写真には、1人の男の人が真顔でサムズアップを行っている姿が映し出されており。

 そして何より、その黒衣と山吹の髪には見覚えがあるどころか先程まで一緒にご飯を食べたり会話をしていた人の特徴、そのもので。

 

「ケホッ、ゴホッ!!」

 

 その写真に、私は思わず咳き込んでしまいました。

 持病の類ではありません。単純に驚いてしまったのです。

 だって、考えてもみてください。縁もゆかりも無い他国で、しかも入国して一日も満たない場所で記事に載るようなことをしでかす人、普通に考えていますか?

 いないでしょう?フラン先生だってせいぜい知らない場所で雑草食べる位のことしかしません。

 そんなありえないことをオリバーは文字通りやらかしたのです。

 ばかやろうです。何能面ダブルピースなんてしてるんですか、アホなんですか。

 

「……はぁ」

 

 とはいえ、折角親友が記事に載っていますのでこの記事はお金を払って頂くことにしましょう。

 10年くらい温めておいて、いつか一緒に旅をした時にその常識知らずな写真が載った新聞を見せてやるんです。

 今からその記事を見たオリバーが『顔から火が出そうだよー*1』と涙目になる様子が楽しみですね。

 という訳で私は情報収集がてら、その記事に目を通すのでした。

 

 ─この国の歴史上初、男の代替騎手となります。意気込みの程、ございましたらよろしくお願いします。

 ─今世紀最強の大穴ですよ!勝利予想券、買ってくれよな〜!

 ─『女帝』の代替騎手ということで重圧の程があると思われます。当日はどのようなレースをしていきたいですか?

 ─旅の魔女さーん!もしこの記事を見てたら1つお願い!競箒で頑張る俺の事を、チアガール姿で応援してくれよな〜!頼むよ〜!!

 ─頑張ってください。期待しています。

 ─チュッ!愛してるぜ、旅の魔女さ……おいまだ終わってねえぞ!!何ペン置いてんだ!!

 

「……」

 

 猛烈にぶっ飛ばしたくなりました。

 

*1
CVイレイナ




AI生成オリバーくん。

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986文字小説(26話「平原にて」の続き的な何か)
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