どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
オリバーとシュトロームさんの競箒対決、道場内にあるレーストラックにて行われた勝負はオリバーの勝利で終わりました。
序盤こそシュトロームさんのほうきがオリバーをリードしていた状況は、オリバーの「よし」という一言によって大きく変化します。
それまでは乗り慣れないほうきに反抗的な態度を取られ、あっちへふらふら、こっちへふらふら。挙句の果てには振り落とそうとする始末でしたが、ほうきに向かって何かを囁いたり宝石に触れるかのような優しさでほうきを撫で始めるとあら不思議。
あれほど反抗的な態度を取っていた一日限りの相棒は、オリバーとの阿吽の呼吸で空を切り裂き、空中での彼の危険を守る騎士となったのです。
「それにしても、相変わらず不思議ですね」
昔からオリバーは物との親和性が非常に高い、物に好かれる人でした。
これは彼のお母さんであるセシリアさんやお母さんに聞いた話ではあるのですが、普通ならば数日、数ヶ月はかかるであろう杖による魔法や、ほうきの扱いの要領を、オリバーは僅かな時間のみで掴んでしまったらしいのです。
その中でもほうきで空を飛ぶことに関してはちゃんとしたやり方を教えてもらった数秒後にマスターするという、化け物っぷりを発揮しました。
幼少の頃から恐ろしいほどのスピードでほうきをぶっ飛ばして、その上で障害物には当たらないように制御制動もキチンとこなす。
魔道士としての彼以上に、ほうき乗りとしての彼は才能の塊だったのです。
そういえば、ほうきさんもオリバーのことを『物が好きになる雰囲気の人』と評していました。
となるとあれでしょうか、私の親友は物が好きそうな匂いでも発してるんですかね?
「……なんと。イレイナ様がご不在の際に実力は拝見致しましたが、落ちていたほうきを手懐けた上でシュトロームに勝つとは」
隣では、道場の主であるベーゼンさんがオリバーのレース捌きを見て唖然としています。
まあ、気持ちは分からないでもありません。まさかそこら辺に落ちてるほうきに乗って、あれだけのレースを見せるなんて彼を知らない人なら思うわけないでしょうし。
「シュトロームさんは相手が悪かったですね」
「相手が悪い、ですか」
「あの人は特別です」
魔法の性差というものは、長い歴史が証明するように女性の方が高く扱いにも長けています。
そのため、魔法使いの位階も男性は魔女見習い、魔女の領域には踏み入れることが出来ない決まりとなっています。
そして、多くの男性の魔法使いはその『決まり』の枠の中に収まり、魔法使いの位階の決まりに違和感が生じることはないはずだったのですが。
「長く旅を続けてきましたが、彼ほど魔法の才覚に秀でた人もそうはいません。位階は魔道士ですが、ただの魔道士と見くびったらとんでもない目に遭います」
「とんでもない目に……例えばどのような目に遭うのでしょうか」
「女性の方が彼に惚れちゃいます」
「なんと!?」
「私の見た限りでは花売りの女性と獣人の姉妹さんが惚れてました」
「なんとォ!?」
まあ、そんな冗談も挟みつつ。
オリバーという魔道士の『やべーやつ』っぷりが垣間見えたところで、当の本人がウイニングランよろしく余計な1周を終えると、コートの中心──私とベーゼンさんの元へ接近し、ふわりと着地。
瞬間、その日限りの相棒であるほうきの柄がひとりでに動き、オリバーのみぞおち付近を強くしばき、彼はお腹を抑えて悶絶します。
うわぁ、すごい痛そう。
「へ、へっへ……どや、これが俺の実力だい゛ッ゛!゛」
「あの、叩かれてるんですけど本当に手懐けたんですか?」
「は、ははっ……!大丈ぶッ゛!゛……俺とこのほうきは一心同たい゛ッ゛!あ、待ってイレイナさん゛ッ゛!助けて、この子と会話できる子を……呼んで゛ッ゛!」
あ、大丈夫じゃねーですねこれ。
親和性どうこうの問題より、先ずこのほうきの癖が強すぎます。よく見てみるとこのほうき、ところどころに汚れが見えますし穂先の部分も枝毛が目立っています。
大方、メンテナンスと良い油を交換条件に言う事聞かせて、肝心のメンテナンスを即時行わなかったことで報復に走られたのでしょう。
先程からほうきの勢いは留まることを知らず、身を丸くして防御体勢に入ったオリバーを集中的に叩きまくっています。
「全く、仕方ないですね」
リンチでピンチな幼馴染を放っておくほど私の性格は腐っていません。
ということで、私はほうきを筆頭とした「物」と会話できる助っ人を呼ぶことにします。
答えは言わずもがな、ほうきさんです。
「と、いうことなので助けてあげてください。ほうきさん」
「……ほうきくん」
「……」
「はっ、失礼致しました」
「オリバー様をお助けしますね」と急いで私と瓜二つの外見に桃色の髪を携えたほうきさんが事件の発生場所にて事の鎮圧に向かいます。
「ひゃん!痛い!痛いってばぁ!」とオリバーのなっさけない声が響く中、こうしてレースは終了したのでした。
「……ッ!!」
何も言わずに走り去っていった、1人の少年を残して。
○
『本日は色々とご迷惑をお掛けしました。シュトロームの行方は私が探しますので、今日はこの施設でご自由に──長旅の疲れを癒してください』
『お、おおっ……おおおおお!イレイナさん!温泉だってよ、温泉!露天風呂行こうぜ露天風呂!!』
『オリバー様、こちらのほうき様が『10秒後に約束を守れないならぶち殺す』と仰られていますが……』
『ぴえん……』
滞在初日としてはあまりにも濃密な時間を過ごした私の現状を端的に換言すると、ものすごく疲れていました。
身体的には長旅からの国の散策による脚部の疲労。そして、精神的には今日起きた目まぐるしい一日による精神的疲労。
その疲労は決して無視できるものではなく、できることならすぐにでもこの疲労を何らかの方法で回復させて明日への活力を取り戻す必要がありました。
「……あぁ、良いお湯ですねぇ」
そんなわけで。
オリバーと言う名前の18歳児さんを引き連れてあちらこちらと忙しなく動き回った見るも美しい旅の魔女は、その美しさを湯けむりで隠しつつ、身体を湯で温めます。
道場に併設された温泉施設は、大浴場の形式を取ってはいるものの子供たちの入浴時間はとっくのとうに過ぎているため、実質貸切状態。
誰の視線を気にすることも無く、その魔女は羽を伸ばすかの如く身体を伸ばし、少しばかりの欠伸。
そのような怠惰な光景すら絵になってしまうような、美しいが過ぎる魔女は誰でしょうか。
「そう……私です……」
私です。
ぷは、と情けない声が漏れると同時に全身の余計な力が抜けていきます。
程よい湯加減が身体に溜まった疲れを癒し、ほぐしているような感覚に陥っているのが声の原因であり、その湯加減は思わず眠りこけてしまうほどに心地よい温度でした。
いっそのこと、このまま眠ってしまえば──と考えましたが普通に
「おー……ここかぁ」
「はい。こちらでございます」
「ええやん。男湯と女湯に分かれているのってロマンだよな……いやまあ、混浴もそれはそれとして……アリ、なのかもしれないが」
「なんと。……お背中、お流し致しましょうか?」
「やめて社会的に死んじゃう」
……ほへー。
「冗談でございます。では、ごゆるりとお楽しみください」
「背中流す準備してるじゃん。半分冗談じゃなかったんすか?え、なんか怖い……」
「因みにこの温泉施設、通常利用で銀貨1枚です」
「脈絡もクソもないっすね!?」
あー……本当に良いお湯です。
溶けてしまいそう……
「にしても、シュトローム君は男の子だけど魔力の使い方が非常に上手いんですね」
「彼は元々レースの国の、ほうき職人の家系の子なのです。以前レースの国に修行した際に彼の両親と交流がありまして、その縁であの子を留学という形で預かっています」
「へぇ、遺伝と努力の賜物ってワケだ……男の子なのに、すごいですね」
「そうですね。……だからこそ、シュトロームには本当に申し訳ないことをしたと、自覚しています」
今度は温泉街のある街なんかに行ってみたいですね……
長旅の疲れを癒して、近くの露天で美味しいパンを食べて、夜景と湯けむりを見ながら温泉を楽しんで、その街の文化や衣装を2人で楽しんだり、第三者の視点で見たり、見なかったりして……
「申し訳ないことって。別にベーゼンさんは頑張りすぎ以外なんも悪いことしてないっしょ」
「悪いことならば山程あるでしょう。心配をかけさせまいと行ったことが逆に彼を怒らせてしまうとは……人を育てることは、本当に難しいと痛感します」
「……そっか。けど、俺は心配かけさせまいと1人で頑張るベーゼンさんの気持ちは尊重したいです。やり方はともかく、その気持ちって小さい子からしたら本当にありがたいことだと思いますよ?」
「……オリバー様」
「まあ、今回はそれでシュトローム君を怒らせちゃったわけで。
俺もペーペーだけど人を育てる立場に在るからさ、気持ちが何となくわかるんですわ。……誰かのためにと考え抜いた結果が
「……はい、本当に」
……。
なんか大浴場でほへーっと息を吐いているのが場違いに思えてくる会話ですね。
とはいえ、どう足掻いても今の私はその会話の中には入れません。
無理矢理大声を出して「私もそう思いますー!激しく同意ですー!」とか言ったらそれこそ場違いですし。
なので、ここは大人しく隣にいるであろうオリバーとベーゼンさんの会話をBGMにしてリフレッシュします。
何せ私、一流の魔女ですから。
何処かのくそざこ煽り厨さんと違って公私でメリハリを付けられるすごい人なのです。
「と、長話が過ぎてしまいましたね。オリバー様が上裸の状態でするような話ではありませんでした」
「いやそりゃ別に良いんですが……なんだ、まあ。シュトロームくんのことに関しては俺にも悪い所がありますし、そこは俺もちゃんと謝るんで。怒らないでやってください」
「…………。
ありがとうございます、オリバー様」
……おやおや。
何処の大衆小説ですか、おやおや。
「先程の件といい、会話といい。オリバー様は男性ですが魔女の方と遜色ない実力と落ち着きを持っているのですね」
「あ、それは過大評価っすね。何せ俺、魔法を生み出す力に関しては旅の魔女さんに惨敗するレベルの魔道士なんで」
「……それは、旅の魔女様の。イレイナ様の実力が他の方より抜きん出ているだけなのでは?」
「いやほんとそうなんすよ!シュトローム君にも語り尽くしたいくらいだったんですけど、レナは本当に最強なんすよ!
殆どの魔法を高いレベルで修めていて、薬草学とか色んな知識にも精通してて、弓も使えて、その上でやっぱり可愛いッ!!!
俺も職業柄色々な女の子と仲良くなってきましたけど、あの子はやっぱり特別なんですよ。なんつっても内外関係なしの可愛さと美しさで人の脳天ぶっ叩いてきますからね!
気付いたら夢の中でレナのシチュー頬張ってたよ!!」
「す、すごい早口ですね──」
ばっしゃーん!と、お湯を手でしばき倒す音が聞こえます。
音の発生源は言わずもがな、私です。
ぶくぶくと泡が立つ音が聞こえるのと同時に、壁の外から聞こえてきたのは2人の慌てたような声。
自分でやってて何しているのかと思ってしまいましたが、それはそれとしてひとつ言わせてください
「な、なんの音でしょうか……」
「水鳥っしょ。そんなことより俺の幼馴染に関してのエトセトラを……」
いつまで喋ってんすか。
「随分と仲がよろしいようで何よりです女たらしさん」
ベーゼンさんとの会話を終えたオリバーが浴槽に浸かる音が聞こえます。
恐らくではありますが、男性専用の浴場も実質貸切状態だったのでしょう。静寂の中でたった一つだけ、聞こえる湯の音がそれを物語っているようにも思えました。
なので──というにはあまりにも言い訳がましいのですが、発した言葉は先程までのオリバーに対する皮肉にも近い何か。
もっと言うべきことはあったような気もしたのですが、思わず皮肉が口を突いてしまっていたのです。
「い、イレイナさん!?いつから壁になったの!?壁に耳ありとは言うけどちょっとやりすぎだよ!!」
「壁に話しかけるのやめてもらっていいですか。そうじゃなくて、向かい側にいるんです」
しかしまあ、相手は私の皮肉すら愛情表現と捉えてしまうような曲解野郎でハーレムさんな山吹の魔導士です。
私の皮肉など露知らずとでも言わんばかりにわざとらしく驚き、発した言葉は先程までの真面目さが嘘に見えるほどの軽口。
おいなんだそれはなめてるのか、おぉん?と一言文句でも言いたくなってしまうほどの軽口ではありましたが、それこそが疲れを癒す私だけの特効薬だったりもするわけで。
「壁を隔てて2人きりで女の子と会話。……しかも女湯?」
「変態不審者さんはちょっと人が良すぎると思います」
「変態不審者さんやめて」
やはり男湯もオリバーの貸切状態だったということを悟り。
壁を隔てた2人きりという状況も相まって、私の疲れは湯の暖かさと軽口の心地良さに溶けていくのでした。
まあそれはそれとして、なんか向こう側でばしゃばしゃと音を立てて「ぬおおおおお!イレイナさんと2人きりぃ!」とか言っている変態不審者さんは本気でやべーと思いますが。
世のため人のため、まずはこの人を何とかするべきだと思うのは私だけなのでしょうか。
「シュトローム君のことか?別に普通だと思うけど」
「普通?初対面であんなキツイ一発見舞います?」
「イレイナさんとか見舞ってない?開幕早々右ストレート」
「……オリバーの中で私がどういう人間性をしているのか、よーく分かりました」
「待て待て、拗ねんなって。頭撫でてやっから、機嫌直してくれ」
「よーくわかりました。取り敢えず次視界に入ったら覚えといてください」
「死ゾ」
「よ、よしよーし!イレイナさんはかしこ可愛い女の子だぞーっ!後、なんかこう……きのこ嫌いが天元突破してるとことかほんっと……なんかこう、愛してる!」というオリバーの声が聞こえます。
というか頭撫でるとか言ってましたけど、まさか壁撫でたりとかしてませんよね?
そこまで来たら流石に正気を疑うのですがそれは。
「もっとオリバーは自分が悪く言われたことに対して怒るべきです」
「どこの世界線の話?」
「シュトロームさんに言われた時、やたらと私への悪口には反応してましたが自分の悪口には見向きもしなかったじゃないですか。
あれ、良くないと思います。もっと自分に向けられた暴言に立ち向かってください」
ともあれ。
折角2人きりで会話ができる状況になったので、私はかねてより腹に据えかねていた件について思う所を親友に吐き出します。
あんまりその話をしたい訳では無いのか、オリバーはすっとぼけようとしますがそうは問屋が卸しません。
何が巫山戯た顔の勘違い山吹やろうですか。私がキレ散らかしたい気分だったんですよ、本当に。
「間近で見てきたあなたがそう言われていると、無性に腹が立つんです。私の精神衛生上よろしくないのでテキトーに言い返してください」
「イレイナさんは俺のことが本当に大好きなんだなぁ」
「そんなの当たりま……こほん。とにかくオリバーはもう少し自分のこともしっかり考えてください。分かります?自己分析ですよ、自己分析。ちゃんとしてくださいね」
「えー……だって俺の事よりイレイナさんの方が大事だし……」
「私を免罪符にするのやめて貰えます?」
「あっ、それに俺がやり返そうとしたら首根っこ掴んできたろ!どーせ俺が俺の事で怒ってもイレイナさんは首根っこを掴んだはずだ!!」
まあそれはそうですね。
多分風の魔法で足引っ張って転ばしてたと思います。
「勘が冴え渡ってますね。なんか変なもの食べました?」
「食べてないのだが?」
「だから薬草の踊り食いはやめろと何度も……」
「だから食べてないのだが?」
「それはそうと、オリバーは明日どんな予定を立てているんですか?」
湯の温度と比例するように、体温が上がっていく感覚が身体に生きているという実感を与えます。
それは非常に心地の良い時間ではありますが、その時間に身を任せると大抵取り返しのつかない事態に陥ってしまうことでしょう。
なので、オリバーとの壁を隔てた会話はこれで最後にします。
どうせお風呂から出ても話す機会はいくらでもあります。2人の旅すらまだ始まったばかりです。
そして何より、慌てずとも幼馴染である彼はこうして私の話に耳を傾けてくれます。
なので、壁を隔てた会話はこれで最後です。オリバーの予定を聞いて、それが私の予定と都合が良ければ途中の道まで一緒に行くのも悪くは──
「イレイナさんとデート」
「は?」
「イレイナとデート」
「……今なんて言いました?」
「レナとデート」
はぁ?
○
大体、デートなんて言葉が過ぎるどころか斜め上で鳥達と戯れてるのかってくらい見当違いな発言だと思うのですが、オリバーがデートもどきなるものをしたいと願うのであれば仕方ありません。
拒否したところでしつこく食い下がってくるんです。小さい頃に勉強を教えていた時は「俺との関係は遊びだったのかよっ!」とかわけわからないことをほざいて私のおつかいに付いてきましたし、プレゼントいりませんと私が言っても「うぇーい!イレイナさんの前夜祭ウェイねー!!」とか言いながら小躍りするウェイ系魔道士さんが出来上がって半ば強制的にプレゼントを渡されましたし。
そのような過去が証明する通り、いざという時の彼の押しの強さは昔から私の性格に無類の強さを発揮したのです。
やべーのです、あの人は。
「……」
どうせ今回も拒否したところでしつこく食い下がられ、公衆の面前であることないこと言われるのは目に見えています。
なので、これは仕方なく。
非常に遺憾で、激おこで、業腹ではありますが、後々のことを考えた時の最善策がこれしか無かっただけなのです。
「……よし」
一通りの支度を数時間かけて済ませ、鏡を見ます。
これで寝癖なんて付いてたら一生ものの恥なのですが、残念なことに目の前の少女に寝癖を筆頭とした失笑もののやらかしは見当たらず。
というか、これは。
「完璧、ですね……」
あーこれはどう見ても美少女ですね、はい。
朗報です。鏡の前には幼馴染を隣に置いても恥ずかしくない、超絶美少女がいました。
灰色の髪は絹のように滑らかで枝毛などひとつもなく、瑠璃色の瞳は宝石のように輝いています。極めつけにはお人形さんのように美しい外見、目、鼻、口元。
全てにおいて美しさの際立つ女性が、これまた相性抜群な純白のノースリーブシャツと青のスカートを美しく着飾りその場に立っているのです。
これを美少女と呼ばずなんと言うのか。
そこまで言えるほどの自信が今の私にはありました。
「さて」
時刻は待ち合わせの時間より30分前。
といっても、道場の入口付近での待ち合わせなので余裕どころかお茶をしばき倒す位の時間があります。
しかし、ここで思い浮かんだのは14の頃の1時間待ち近所迷惑上等山吹さんでした。
昔から親友の間柄であった私とオリバーは、今日のように一日を共に過ごす機会がいくつかありました。なので、こういったことは今日が初めてという訳ではなく、むしろいくつかの経験から未来を予測することができたのです。
「例えば、こうして部屋の窓から玄関を眺めると」
「いっれいっなさーん!!今日は絶好のデート日和──」
「こんな風に」
窓をピシャッと閉めて、1人で勝手にボケます。
まあ、このようにいくつかの過去を紐解いていけばアホのオリバーさんがどのような奇行で私を困らせようとするか等、手に取るように分かるわけであって。
なので私は、道場の一室。昨晩からお世話になっている部屋のドアを開けると、階段を降りて玄関の方へと向かったのでした。
「フッ……よく聞け、ちび共。俺は今から幼馴染美少女天才属性てんこ盛り魔女さんとデートにしけ込む。だからお前たちのごっこ遊びには付き合ってられないのだ!!」
「めっ!うそはおとこをくさらせるわよ、おにーちゃん」
「ぎゃはははは!兄ちゃんの彼女いないれきいこーるねんれーぎゃはははは!!!」
「ぷーくすくす!うそがばれちゃったねぇ!!ばつとして昨日のおままごとのつづきかくてー!!」
「そんなことよりまたおりょうりきょーしつしてよー!!」
「誰か助けて……」
入口のドアを開くと、案の定と言って良いのでしょうか。
道場の小さなお弟子さん達に囲まれたオリバーが、なんか壁に背を預けた状態で、きざったらしい笑みを浮かべながら涙を流しています。
昨日ほうきにリンチされていたのは記憶に新しいのですが、今日はお弟子さんたちにリンチされているのでしょうか。
昨日の失敗を引き継いでしまうなんて、馬鹿な幼馴染さんです。
ともあれ、ほうきの件といいこの件といい、リンチは見過ごせません。
昨日を含めた2度目の犯行現場に向かって足音を鳴らすと、小さなやんきーさん達と、囲まれて涙を流していたオリバーが私の方を振り向きます。
妙に食いつきいいですね。何話してたんすか一体。
「何してるんですか?」
「い、イレイナさん!?聞いてくれよイレイナさん!道場の子どもたちが俺たちの関係を嘘っぱちだって言うんだ!」
「程度によりますね。……皆さんはこの山吹さんからなんて言われたんです?」
こういった話をオリバーに尋ねると事実を虚実で捻じ曲げられそうな予感がしたので、ここはお弟子さん達に聞いてみます。
すると、お弟子さん達は待ってましたと言わんばかりに「はい!はーい!!」と手を挙げます。
挙手制でしょうか。育ちが良いですね。
「はい、では左のあなたから順番にどうぞ」
「いちゃらぶなかんけー!」
「いってきますのちゅーとただいまのはぐができるよてー!!」
「つまりおれのよめー!!!」
「あ、やべっ……ヒュー、ヒュー」
最後挙手してない人が勝手に喋ってましたが、放っておきましょう。
「……皆さん、どうかこの人の嘘っぱちには騙されないでくださいね。彼は女の子どうしの恋愛のためなら平気で悶えるような変態さんです。真に受けたら負けです、絶対に負けないでください」
「でもそーいうところがすきなんでしょ?」
「ぺっ!ぺーっ!!なんか口もとがジャリジャリするよーっ!!」
「はぁーっ……なんだ、ただののろけかよー……」
「ははっ、なんか照れるな……」
揃いも揃って魔女に再教育されたいんですかね?
随分とまあ、耳の年齢だけは重ねたお弟子さんたちです。ベーゼンさんの指導方針を聞きたくなってきますが、よくよく考えたらベーゼンさんの教えているものはほうきの指導だけだったような。
勉強や一般常識等も教えているのでしょうか、そこが分からない。
「それにしても、相変わらず早いなぁ。女性は準備の時間が目いっぱい必要なんじゃなかったけか?」
「それはこっちの台詞です。故郷ならまだしも旅先でも同じような出待ちをするなんて、あなたに常識というものはないんですか」
「常識……男は黙って1時間前集合だろ?」
「だから重いと言っているでしょうに」
この山吹さんは1度やったことを繰り返しやらなければ気が済まないのでしょうか。
あなたそれで1度お父さんに埋められているじゃないですか。んで、今回も小さなやんきーさん達にリンチされて泣いちゃってたじゃないですか。
自分がいじめられてる状況楽しんでるんですか?馬鹿なんですか?
「まあイレイナさんが来てくれたからいいや。集合時間にはまだ早いが、そろそろ行くか」
「何がいいのか全く分からないのですが」
「お、今日のイレイナさんはどっからどー見ても美少女だな。白と青のマリアージュ、イレイナだからこそ魅せられる技って感じで素敵だね」
「10点です」
「なんか聞こえたのだが?」
「赤点です」
「辛口だと思うのだが?」
「あんまりだぜ……」と、オリバーが空を見上げ顔を覆います。
そして、そんな様子を見て道場のお弟子さん達は「あかてん〜!」やら「おもすぎ〜!」なんて言葉で更に追い討ちをかけてきます。
鬼なのかこのお弟子さんたちは。
「赤点回避したいなら、外だけでなく内面も褒めてもらわなければいけませんね」
「中身?……急に俺の一方的な都合で決めたデートのためにいっぱいおめかししてきてくれた健気なイレイナが俺は大好きだぞ」
「はい、名前を書き忘れてたので0点です」
「理不尽なのだが?」
さて、そんなお笑いにも近い会話も程々に。
いつもの服装とはさほど変わらず、けれども落ち着いた雰囲気を醸し出すオリバーの服装は──ああ、なるほど。シーラさんのお弟子さんですね、と思ってしまうような服装でもありました。
そのような、良くも悪くもいつも通りなオリバーの右隣に私は立ちます。
幼少の頃から、実は意図的に立っていた位置。自身にとって心地の良いその場所で、私は彼に言います。
「ここからあなたがどう挽回していくのか。楽しみにしてます」
「おやおやイレイナさん。それは挑戦状かな?」
「そう捉えてもらって結構です」
自分でも悪い笑みをしているのが容易に理解出来ました。いえ、あるいは純粋に心が踊っているのが表情に出てしまった故の笑みなのかもしれません。
とにかく今の私は隣のオリバーに笑顔を見せており、そんな私の表情を見たオリバーは笑みを浮かべて手を差し伸べます。
その表情と言ったらそれはもう悪い笑みであり、──その表情からなんとなく何を言うつもりなのか読めてしまったエスパーな私は。
「じゃあ手始めに手を繋ごうか」
「ていっ」
「いたっ!」
差し伸べられた手を抓りました。
「ッ……!勢いで繋げるかと思ったが、やはり壁は厚いか……!」
「……あの、あなたはさっきから私に何を期待しているんです?」
「いや。期待っていうより昨日のイレイナさんは手を繋いでくれてたからよ。俺となら手繋ぎ……なんなら恋人繋ぎもOKなのかなって、そう思っただけだ。
哀れな俺を許せよ、イレイナ。ぐへへ」
「手首の間違いですこっち見ないでください変態さん。言っておきますけど、私は付き合ってもいない男の人とそういうことをするほど軽くないので、そこのところよろしくお願いします」
「……つまり女の子同士ならOKと?」
「馬鹿なこと言ってないで早く連れてってくださいって話です」
何かまた世迷言の類が聞こえてきたので無理矢理話を終わらせ、じーっと怨念と怒りを込めながらじーっと見つめることでオリバーが歩き出すのを待ちます。
俗に言うところの上目遣いになってしまっているのがオリバーを調子付かせてしまうのではないかと危惧しましたが、その心配は杞憂に終わりました。
「わり、長話が過ぎたな」
「はい。待たせすぎです」
「そんじゃまぁ、のんびりデートすっかぁ」
オリバーがお弟子さんたちに「また後でな」と両手を合わせると、私の言葉に笑顔で応え、人が栄える方へと歩き出します。
いつもの彼らしからぬゆったりと、それでいて小さな歩幅。
その歩幅に気遣いと優しさを感じながら、私は彼の隣を歩きます。
てくてく、てくてくと擬音がつくようなペースで、急ぐことなくゆっくりと。
私達は今日を始めるのでした。
「ひゅーひゅー!たびのまじょさんとおにいちゃん、ひゅーひゅー!!」
「こら、じゃましちゃだめでしょ──ひゅーひゅー!」
「おみやげきたいしてるぜー!ひゅーひゅー!」
なんか既視感ありますねこの光景。
○
「誘いに乗った私が言うのもあれですが、依頼の件はどうするんですか?」
「ああ、依頼も勿論完璧にこなすよ。なんていっても俺、魔法統括協会では依頼達成率100パーセントの百合大好き魔導士って言われてたし」
「黒衣の死神さんの間違いでは?」
「事実陳列罪は時として人を傷付けます、やめようね」
さて。
玄関先での小さなやんきーさん達の襲撃を躱し、大通りに向かった私達はというと、これまた特にあてもなく屋台の食べ物やお店を眺めつつ会話に花を咲かせていました。
昨日はのんびりと観光を楽しむことが出来ず、この国の特色を完全に理解することはできませんでした。しかし、こうして落ち着いて周りを見ると分かることは1つ。
「それにしてもこの国、驚く程に競箒1色だなぁ」
「ですね」
屋台を見渡せば、競箒を行う騎手がプロデュースしたお弁当や料理の数々。そして、その騎手を応援するための服に、タオルに、マフラー。果ては競箒という競技を体験できるブースまであります。
どの商品も普通の商品に比べると割高ですが、これもこの国特有の価値観なのでしょう。私が今まで見てきた大通りとは一風変わった景色が、そこにはありました。
「ベーゼンさんに聞いたんだけどさ。この国は競箒っていうギャンブルを競技としても浸透させたいんだってさ」
「競技として?」
「文化として、競箒はどうしても騎手に
オリバーが歩きながらそう言うと、「ちょっとグッズ見に行こうぜ」と私の両肩を優しく押し、屋台へと誘導します。
あなたはいつから私の肩に気安く触れられるような社交性を身につけたのでしょうか。ちょっと一言文句を──ちょっ、やめ、後ろに立たないで下さ……はっ倒されたいのかこら。
「事実不健全ではありますね。お金が関わってくる以上、その側面は切っても切り離せないでしょう」
「そうそう。けどさ、実際に見てみると競箒ってその側面だけじゃ語り尽くせないほどの熱さがあるわけなんよ。自分と箒の信頼関係から生まれるスピードで相手と鎬を削る緊迫感。1つの勝負に生まれるドラマ。そして、勝負が終わった後のノーサイド。
この熱さは、紛れもなく競箒の良いところだ」
オリバーに押されるがままに向かった屋台はお弁当とレースグルメと呼ばれる軽食を販売しているお店でした。
そういえば朝ごはん食べてませんでしたね……なんて思いながら屋台の商品を眺めていると、隣でオリバーがほうきの形をしたパンをじろじろ眺めています。
私も気になりますね、ほうきの形をしたパン。ふわふわでしょうか。味はどんな感じなのでしょうか。美味しいんでしょうか。
「その熱さが素晴らしい所なのに。その領域に足を踏み入れる前から親が不健全だからって理由で子どもに競箒文化を教えない。
これが即ちどういうことを意味するのかは、イレイナさんなら分かるでしょ?」
「そうですね、パンがひとつ。パンがふたつ……」
「めちゃんこ美味そうよな、ほうきパン……分かるぜ……」
「はい……」
冗談はともかく。
物事や文化の継承は、その道を熟知する大人と、その道に興味を持つ子どもがいなければ成立することはありません。
そして、その間に挟まるような位置で第三者が継承の流れを断ち切るようなことをすれば、答えは自ずと出てきます。
「文化の衰退。継ぐ人がいないことで起こる必然の出来事ですね」
「ベーゼンさんのお父さんが道場の主だった頃から、それを危惧してたんだってさ。だから、競箒文化を若い世代に浸透させるためにこういう試みを行なっていった」
「それがこの景色というわけですか」
「驚くことに、騎手プロデュース弁当、グルメ。グッズ販売。競箒体験ブース。この全てはベーゼンさんの家族が始めた試みだ。
そして、子ども達や競箒に興味のなかった大人達の競箒文化のイメージを変えた。その上で、競箒騎手を目指せる環境を作り、競箒に興味のある子ども達を受け入れられる体制を作った。
──すげーことだ。心から尊敬するよ」
「おっちゃーん、ほうきパン2つちょーだい」と間延びしたオリバーの声が響き渡ります。
そうして購入したのは、さっきから私がじーっと眺めていた『レースのれーちゃんプロデュース!カスタードクリームほうきパン』です。
ネーミングセンスに難があるほうきパンですが見た目からして美味しそうですし、何よりこれは『無敵のれーちゃん』と呼ばれているベーゼンさんがプロデュースしたパンです。
至れり尽くせりの感謝と、応援。それから純粋な興味も込めて見つめていた所を、しっかりとオリバーに悟られていたのかもしれません。
まあ、幼馴染ですしこれくらいは当然っちゃ当然ですが。
「てなわけで、はい。ベーゼンさんプロデュース、ほうきパン」
「……美味しそう」
「その名の通り、ほうきの形をしたパンだな。因みに俺はスコーパちゃんプロデュースのほうきパンを食べるぜ」
「……」
「スコーパちゃんのほうきのリボンの色が紫なんよ。だから多分餡子が入って……うめぇぇぇぇぇぇ!スコーパちゃん優勝ぉぉぉぉ!!!」
あなた鬼か何かですか?
まあ、餡子の入ったほうきパンも美味しそうではありますが……と、そんなことより。
「お金払います。いくらですか?」
「ん?別にいいって。今日は俺の奢り、そもそも誘ったの俺なんだからイレイナさんはこの時間を楽しんでくれたら嬉しいな」
「そうはいいますが」
これでお金が減らずとも、代償としてプライド的な何かが削れるので大差ないんです。
ならお金を減らして見栄を張った方がまだマシだと思うのですが、そこんとこオリバーはどう思っているのでしょうか。
「それにイレイナさんのお財布を救っていると思うとちょっと優越感に浸れるし」
「は?」
「彼女の財布を救う男。……なんか俺の女感がして、なんかこう……ご馳走様ですッ!!」
聞く前に銀貨2枚払う断固たる決意を固めて、オリバーの頬に銀貨2枚を押し付けました。
「いひゃいいひゃい!」とオリバーが悶え苦しみますが知ったこっちゃねえですね。
苦しみをもっと味わえ。
「いやほんとにいいって!俺の女って言ったのは謝るから!だから銀貨しまって!俺に奢らせて!」
「まだ誰の女でもないんですよ私は。誰に縛られることもない旅の魔女なんですよ私は。それをオリバーの女ぁ?旅の魔女舐めてんですか、えぇ?」
「ま、まあ正直イレイナさんをお嫁さんに迎える妄想はしなくもない半生だったいだだだだっ!」
まだ懲りてないみたいなので押し付ける力を倍にします。
お嫁さんとかいい加減にしてください。控えめに言って頭おかしいんじゃないですか。
と、ここまで来れば流石のオリバーも正気に戻ったらしく。ぐるぐると目を回しつつも、両手を合わせて謝罪の意を示したオリバーは私に対して誠意を示したいのか、うるうると涙を流し──「おーいおいおい……」という大袈裟な声混じりの嘘泣きをしながら。
「お、お弁当買ったげるから許して……」
「じゃあこの『スコーパちゃんプロデュース!好物欲張り惣菜パンセット』をひとつお願いします」
「おっちゃーん!『スコーパちゃんの好物欲張り惣菜パンセット』と『れーちゃん手作り特製弁当』ちょーだーい!」
「あいよぉ!!」
ほうきパンだけでは満たされない空腹を満たすために、お弁当を注文したのでした。
「で、これから何処に行くんですか?」
「おん?おー……せやな。俺が決めてもいいんならひとつ行きたいところがあるんだが、それでもいいか?」
「あなたもう点数制忘れてません?これ、あなたが叩き出した赤点の救済措置ですよ。あなたが私を満足させないでどーやって赤点回避するんですか」
「はぁー?元はと言えば記入する必要すらない名前の無記入をでっち上げたのが始まりなんですけどー?」
「はい、10点減点です」
「待って挽回できなくなっちゃうからやめて、許して」
何時食べるかは決めていないお弁当をそれぞれ手に持つと、私達は再び大通りを歩き始めます。
歩みを進めるに連れて人集りと喧騒が目立つようになり始め、お祭りのような雰囲気がその場に漂います。
では、その原因はなんでしょうかと思いつつ真上を見上げると、そこにあったのはこの国の中でも1か2を争うほどの大きさの建物。
ここは、そう。入国時にほうきで空を飛んでいた際にも見えたドーム状の屋根が特徴的だった建物。
国の中心部に屹立する、競箒のための競技場でした。
「イレイナさんって、スタジアムデートはしたことないよな?」
「そもそもスタジアムデートってなんすか」
「言葉の通り、スタジアムでデートすること。試合を見て感動とか喜びとかを共有して、スタジアム内部の露天でご飯食べたり、食べさせあったりぐへへ……」
「後半欲望垂れ流しですよ、こっち来ないでください」
「とにかく、スタジアムデートを……最高だって話だ!つーわけで、イレイナさんさえ良ければ一緒にスタジアムデートしない?」
今の話の何処が最高なのか私には到底理解できないのですが。
とはいえ、行先をオリバーに委ねたのは私なので今回は仕方なくオリバーの言うところのスタジアムデートとやらに興じることになった私は、『ユニフォーム姿のイレイナさんはぁはぁ……!』と場所を問わずに興奮し始めたオリバーの隣を歩いていきます。
「……いいですよ、スタジアムデート」
「良いのか!?」
「その代わり、ちゃんと1から教えてください。どういったやり方で楽しむのか、その方法を」
「当然!スタジアムデートもう1回したくなる身体にしてやるぜ!!」
言い回しが絶妙に気持ち悪いですが、まあいいでしょう。
私自身、こういった場所に行くことは全くなく。そもそも何かしらの競技が栄えている場所に辿り着くこともなかったため、全く興味がないというのは嘘になります。
スタジアムデートしたくてたまらない身体になるのは御免被りたいのですが、オリバーと一緒に初めての観戦体験ができるというのであればそれも悪くは無いでしょう。
少なくとも、今の私の中で『行かない』という選択肢はなかったわけです。
「じゃあイレイナさん、このチケットを持って。ドームの入口まで来たら係の人にチケットをもいで貰ってね」
「なるほど、つまりオリバーの後を付いていけばいいわけですね。わーなんて楽なお仕事なんでしょう」
「俺は子どもに刷り込みする親カルガモかな?
取り敢えず後のことは入場してから考えるとして……ん?」
オリバーからチケットを頂き、これから正にドームへ入場しようかというところで、当の本人が何かを見つけたのか立ち止まります。
近くで百合の犯行現場でも見つけたのでしょうか。だとしたら大変です。スタジアムデートなんて言ってる暇ありません。急いで斜め45度のチョップと魔力の塊を用意しなければ。
「あれ、シュトロームくん!!」
「!?」
「シュトロームくんだろ!昨日ぶり!!」
と、思っていたのですが。
どうやらオリバーが見つけたものは女性同士の濃厚な絡みでもなんでもなく、昨日に競い合った相手である小生意気なシュトロームさんでした。
昨日の言い合いが嘘のように、気さくな挨拶をするオリバー。
それに対して、私は内心穏やかではありませんでした。
なんていってもシュトロームさんは私の大切な人をけちょんけちょんに言いやがってくれましたからね。
もう、頭の中では何度魔力の塊を放ったことか分かりません。今も理性が外れたらぽーんと魔力の塊を放ってしまいそうなんです。
「……んだよ」
「シュトロームくんも今日のレース見に行くのか?だとしたら奇遇だな、俺達もなんだよ」
「ずいぶん余裕じゃねえか。ししょーの事件を解決してねえのに、そもそもレースをひかえてんのに……よそ者は良い身分だな」
「それはそれ、これはこれだろ?そもそも、俺はドームでのレースが未経験だ。地理と雰囲気を知っておくために観戦をするのは悪いことじゃないだろ?」
「……ちっ」
そして、それはシュトロームさんも例外ではなく。
負かされた相手であり、よそ者でもあるオリバーがぐいぐいとコミュニケーションを取る事に嫌悪感にも近い何かを抱いたのか、彼はオリバーから距離を取ろうと後ずさります。
しかし、甘いですねシュトロームさん。
あなたの目の前にいる魔導士は、昔っからニケの冒険譚と魔法に夢中だった私の手を引っ張りこみ、気の強そうなシーラさんに好かれ、たった一日でフラン先生の懐に潜り込んで友好的な関係を築いてしまったコミュニケーションお化けです。
どれほど喧嘩をしても、どれだけ嫌おうとも、次の日の朝には全てを忘れたとでも言わんばかりにてかーっと笑みを零し、距離を詰めてきてしまうオリバーとの距離を空けようなど無駄の極みです。
そんな無駄なこと考えずに、こういう時は美味しいもののことでも考えるんですよシュトロームさん。
「あっ、そうだ。シュトロームくんも一緒に試合見に行こうぜ?」
「おい話聞けよ!今の会話の何処にそんな会話できるような友好的な態度あったんだよ!!」
「ははっ、そんなこと言って。実は一緒に行きたいんだろ?」
「お前もう怖いよっ!!なんだよさっきから!こっち来んな!!」
「負けたら何でも言う事聞くって言ったよね?」
「──!?ッ……ぐぅ……!!」
「今日一日、俺達と一緒にレース観戦確定な」
「この……ッ!く……ちくしょう……!!」
ほら見たことか。
気付けばオリバーの術中に嵌ってしまっていたシュトロームさんは、オリバーの口車に屈し、秒で脇に抱えられてしまいました。
体格差に物を言わせたオリバーの暴挙にシュトロームさんはブチ切れ「あっ、おい!抱えてんじゃねえ!てめえぶちころされてえか!!」と叫び散らかしますが、そんな叫びはオリバーの防音魔法でかき消され周囲には届かず。
しばらくして私の元に戻ってきたオリバーは、それはもう晴れやかという言葉が似合うほどのドヤ顔でその場に立っていたのでした。
第三者から言わせてもらうとただのやべーやつです。
この誘拐犯さんを何とかしてください、おまわりさーん。
「仲直り、でけた」
「脇に抱えてるその状況でよくもまあそんなことが言えますね……」
「シュトローム君という頼もしい仲間も加入したところで、ドームへれっつらごー」
「はいはい、もう突っ込んだりしませんからね」
「おい白髪女!助けろ!!こいつやべー!!やべーって!!なんでお前ふつーに隣歩いてんだよ!この状況をおかしいとおも──ししょーッ!!たすけてー!!誘拐犯に連れてかれてまーす!!」
シュトロームさんが何か言ってますが、オリバーの防音魔法を解くような力は残念ながら
なのでまあ。取り敢えずしばらくこのままでいてください、くそがきさん。