どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
ほうきコンビはいつだって仲良し!
係の方に入場券を見せ、入口からドームの中に入ります。
すると、聞こえてきたのは喧しい程の歓声と音楽。
これはパレードやお祭りなどと同じ類の喧騒で、それがドームの中に入った途端に聞こえたことに酷く驚いたのです。
「……ぼーおんまほう」
「え?」
「うるせーだろ。だからレースをやる時は、少なくともドームの中に10人くらいのアルバイトを雇って防音の魔法を使ってる」
「きんじょめーわくは親がいちばんきらうからな」とシュトロームさんがむすーっとした様子で続けます。
「くうちょうも、今日はどちらかと言えばあちぃから適切な温度に保つために室温を魔法で調整してんだよ」
「……なるほど」
「屋外だとそうもいかねえだろ。けど、ドームならそういうやり方ができる」
なるほど。
どうりでドームに入った時に涼しさというか、快適さを感じたわけです。これが屋外だと日差しや外気、天候の影響を受けてしまいますが屋根付きの大きな家のようになっているドーム状のスタジアムならば競う側も観る側も色々と快適ですよね。
と、なるとアルバイトさんへのお給金が気になるところではありますが彼等は一体いくら儲けることが出来るのでしょうか、わくわく。
「……きたいしてるとこわりぃけどそんな金になんねえぞ」
「ふむふむ。金貨1枚ですか?2枚ですか?魔法という対価を使うんです、それくらいでなければ割に合わないでしょう」
「おまえばかなのか?金貨どころか銀貨2枚だ。アルバイト舐めてんじゃねえよ」
「ちっ」
「おもてでろ白髪女」
上等ですこのやろう。
魔女に喧嘩売ってタダで済むと思わないことですね。言っておきますが、私は魔女としてそこそこぶいぶい言わせてる武闘派でもあるので、あなたみたいなくそがきを負かすことなんて赤子の手をひねる位簡単なことなんですよ?
なんならここであなたを灰にしてやってもいいくらいなんですけど、そこんところどうお考えですか、くそがきさん。
「す、すげぇ……!!」
と、まあ。
そんな風に私とシュトロームさんが火花を散らしていると、その間に丁度挟まるような位置にいたオリバーが感嘆の声を漏らします。
目は子どものように輝き、表情も3枚目やっている時よりだらしなくにへーっとした笑みを浮かべており、その姿は初めてのおもちゃに歓喜する子どものようでした。
私は彼の突飛な言動や、行動に対して18歳児さんと内心で告げる時がありますが、この姿を見ているとその言葉も間違いではないのでは……?と思ってしまいます。
「ドームだぜ、ドーム!!ここで競箒するんだぜ!なんならコンサートできるんだぜ!?アイドルの!!コンサートッ!!」
「……いっておくけど、競箒以外の用途はせいぜい避難所くらいだぞ」
「避難所にも使えるのか!?くぅー……!先進的な施設だぁ……!!」
「避難所に先進的もくそもないだろ。何言ってんだおまえ、というかいい加減放せよ!!」
「うっひょぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「おい止まればか!!何ひとりで暴走して──なんで白髪女はさっきからコイツの奇行を無視してんだよ!!止めろよ!役目だろ!!」
あ、防音魔法使われてるみたいなので聞こえませんねぇ。
自分で解除できるくらい魔法の練習頑張ってから出直してきてください。
「さて、指定された席に向かう前に何か買ってくか」
「お弁当はもう買ってあるのにこれ以上何を買うってんですか?」
「イレイナさんのコスプ……ユニフォームとかボンボンとか」
「あなた今コスプレって言いました?」
「グッズも色々あるんだよ。丁度いいから見に行こうぜ」
「話聞いてください」
というか急にスンッ……て感じに冷静になるのやめてもらっていいですか。なんてことを言う前にオリバーが「れっつらごー」と先をゆっくりと歩いていってしまったので私も歩幅に合わせて彼の隣を歩きます。
「いやあ、それにしても2日後のレース!どの騎手が勝つかねぇ!!」
「まあ、順当に行けばスコーパの奴だろ。れーちゃんと対等に渡り合ってたのはアイツだけだしな」
「スコーパちゃんの会話を察知……!未来の夫としては見過ごせませぬなぁ……!!」
「お前は先ず働けや」
お店までの道程を歩いていると、様々な人の話し声が聞こえてきます。
それはまあ、どこをほっつき歩いていても当たり前のことではあるのですが、場所が場所なだけあって語らいの種類は違ってきます。
この場所で行われる話の殆どはレースの勝敗予想、誰が勝つか。誰が人気か。誰で儲けられるか。
正しく競箒一色と呼べる雰囲気は、この空間の紛れもない特色でした。
「……」
その中で、ひとり。
シュトロームさんだけは表情を曇らせていました。皆が勝敗を予想し、贔屓の騎手を応援しながら楽しんでいる空間の中でひとり、全く楽しくなさそうな表情を見せていたのです。
その表情を見ると、ひとつ疑問が浮かびました。
そして、普段ならば体験出来ないような環境に身を置いた高揚感からか。私は無謀にも先程まで喧嘩しそうになっていたくそがきさんに、その理由を尋ねてしまったのです。
「楽しくないですか?」
「……あ?」
「恐らく自分で入場券を買ったんですよね。その理由って、この空間で楽しみたいからじゃないんですか?」
「……けっ、お前らのせいで楽しくねーんだよ。この誘拐犯め」
「なら今からでも逃げればいいじゃないですか。全力で」
「……」
「脇に抱えているといっても、力を入れているわけでもありません。それにあなたは魔法を使えます。その気になれば全力を以て逃げられるはずです」
シュトロームさんの今の状況は、オリバーの脇に抱えられている状況ではありますが全ての動きを封じられたわけではありません。
そもそもオリバー自体そこまで力を入れている訳ではなく、言葉に変換するならば「うぇーい!逃げたきゃ逃げてどーぞ!あ、でも何でも言う事聞くって言ったよね?逃げたら……やっちゃうぞ☆」程度の軽い力感の束縛ですし。
それこそ魔法を使えば今のオリバーなんてどうとでもなります。杖を持っていないオリバーはただの山吹さんですし、それこそ本気で拒絶すればオリバーとて身を引きますし。
「まあ、言いたくないのなら聞きませんけど。その様子を見るに、別の『楽しくなれない』理由があるのでは?と思っただけです」
「……」
「ちなみにですが、私は楽しいですよ。なんといってもお祭りですから」
それこそ別の種類のほうきパンがないかきょろきょろする位には。
とはいえ、この状況が少なくとも面白いとは思えないからこその浮かない表情であって。
では、何が彼を浮かない表情にしているのかと答えが分からないなりに考えてみましょうと思った瞬間。
「……ししょーがいねえだろ」
シュトロームさんは、驚くほど素直に自分の気持ちを吐き出したのでした。
苦虫を噛み潰したような表情で語るシュトロームさんは、いつの間にかぴくりとも抵抗せずされるがままになっています。恐らく気力すらも削ぎ落とされたのでしょう。呆然と腕にぶら下がった彼は、私やオリバーの顔を見ることなく続けます。
「お前らだって見たし楽しんだろ。ここのドーム周辺の売店やブースの盛り上がりや活気を」
「それはまあ」
「あの盛り上がりが維持できてんのは紛れもなくししょーの力なんだ。嘘じゃねえ、協力してくれるみんなやスポンサー……金銭援助をしてくれる方々に頭下げて、レストランの経営やプロデュース弁当とかの企画もやって、その上で騎手としてトップを走って。
ししょーがいなきゃ、ここまで盛り上がってねえんだぞ。この国の競箒は」
シュトロームさんの声が震えます。
何かを押し殺すように絞り出した声と、身体の震えは堪えきれない怒りを表しているように思えました。
そして、それを象徴するかのように握られた掌。そして、こぼれ落ちた汗とは違う何かは、シュトロームさんの今の心境を理解するには十分で。
「それなのに。なんでししょーが、ししょーの道場が嫌がらせなんてされなきゃなんねえんだよ。なんでししょーの邪魔をするんだよ。どうしてししょーが、ししょーの1番好きな競箒を奪われなきゃなんねえんだよ」
「……それは」
「だから嫌なんだよ……!ししょーが騎手として競箒やってないドームなんて、くそだ。全部全部、くそだ!!この国の競箒文化のために頑張ってきたししょーが報われない競箒文化なんて要らねぇ!!
要ら、ねぇのに……!なんで、ししょーは……!」
シュトロームさんはそう吐き捨てると、声を押し殺しながら。それでも抑えきれない嗚咽を漏らします。
レストランでの1件からそうでしたが、シュトロームさんは師匠であるベーゼンさんのことを本当に敬愛しているのでしょう。でなければ道場のことをそこまで真剣に考えようとしませんし、師に対して厳しい言葉を投げかけたりもしません。
本当に何も思うところがないのならば、人は無関心を貫きます。無視して、面倒事からは身を避け、事勿れを貫き、人知れずその場を去るのです。
ですが、シュトロームさんは無関心では居られませんでした。
よそ者に噛みつき、師のために何かをしたいと考え、よそ者に頼ったベーゼンさんに『どうして自分たちよりよそ者を頼るのだ』と怒り。
そして、今の現状に涙を流しました。
「少しシュトロームさんのことを誤解してました」
「……は?」
「よそ者にはとても厳しいくそがきさんなのには変わりありませんけど、あなたはベーゼンさんのことを心から尊敬しているんですね」
人を想う心がなければ、人のために涙は流せませんし真心を持って誰かの為に動くことも出来ません。
打算で動こうとすれば、その通りの行動しかできません。悪意を持って動けば悪意のままに行動を起こすことになります。
その経験を鑑みれば、シュトロームさんは紛れもなく
「……今更褒めてんじゃねえよ、気色悪い」
「はいはい。私もあなたぐらいの歳の頃はおいおい涙を流してましたよ」
「……うるせえ」
「実家を燃やしかけたり、黒い何かと一緒に部屋の壁を潰したり。それはもう家族に泣かされまくりましたね……」
「聞いてねえ、悦に浸ってんじゃねえよ」
「おい、こいつなんとかしろ。おまえのかのじょだろ」とシュトロームさんがオリバーに言います。
揃いも揃って道場の人達の共通認識はどうなってやがるんですかね。私達はまだそんな関係にすら至っていないというのに。
うら若き女性を弄ぶのがそんなに楽しいですかこのやろう。
「イレイナさんが炎魔法で家を燃やしかけた時?
えー、そうですね。彼女の涙でしか得れない栄養分はありましほにゃららら……」
「お前頭イカれてんの?」
「まあそれはそれとして。目の前で俺らを睨めつけているあの子、スコーパちゃんじゃね?」
「……あ?」
そしてあなたはあなたで珍しく静かだなと思ったら何唐突に爆弾発言してるんですか。
なんてことを考えつつオリバーを睨みつけると、不意に立ち止まったオリバーが前方に手を差し出します。
「……」
その手の先には、年若い少女が立っていました。
年齢相応とは言えない大きなほうきを左手に持ち、仁王立ち。しかし、ちんまりとした身長のせいで威厳どころか可愛さばかりが目立ってしまう少女は、さっきからこちらをじーっと見つめています。
はて、私達は何かやってしまったのでしょうか。
例えば観戦マナーが悪いとか、または誘拐犯さんに見えてしまったか、もしくはその両方か。
ううむ、それ以外に心当たりはないですねぇ。
「す──スコーパァ!!テメェ、どのツラ下げてここに来やがったァ!!」
そのような思案をしていると、シュトロームさんがオリバーの拘束を解いて年若い女の子──スコーパさんと呼ばれた少女に向かっていきます。
しかし、その声色や歩幅は旧友との再会を懐かしむ感動的な類のものではありません。むしろ怒りに全ての行動を任せているのかと疑ってしまうほどに荒く、激しいものでした。
当然、そんな危険な状態のシュトロームさんを放っておく様な私達ではありません。
魔法でシュトロームさんの動きを止め、オリバーが再度彼を脇に抱えたところで、動きを止める魔法を解除します。
自分が魔法を使われたことに最初は気付けなかったシュトロームさんでしたが、自分が再度オリバーの脇に抱えられていることを悟ると更に激しく暴れ出しました。
いやあなたどんだけスコーパさんに怒ってるんですか。
「なにやっているんだシュトロームくん。ドーム内で暴れ回るとか出禁ルート一直線だぞ」
「うるせぇ!コイツは5年間もししょーの道場で世話になったのに!一言もなしに無断で道場を出て、今ものうのうと競箒を続けている裏切りもんなんだよ!!」
「ははっ、スコーパちゃんのおかげで元気を取り戻せたみたいだな。まあそれはそれとして、どうしてこんなとこにスコーパちゃんが?」
「知らねえよ!おいスコーパ……!!殴られたくなけりゃ消えろッ!!俺がテメェに近付く前にな!!」
脇に抱えられたままのシュトロームさんがスコーパさんを指差し、激しく罵倒します。
しかし、その罵倒はスコーパさんにとっては予想の範疇だったのか。もしくは慣れているのでしょうか。
シュトロームさんのことなどまるで居ないとでも言わんばかりに無視を敢行すると、逆に彼女はオリバーを指差したのです。
「……あなたが。先生の代替騎手になった、旅人のオリバー?」
「おう、そうだ。キミみたいな有名騎手に名前を覚えて貰えるなんて光栄だ」
「……別に、そんなことない」
「謙遜はよせって。次代のリーディングプレイヤーなんて呼ばれてんだろ?これ以上ない、最高の名誉じゃないか」
「……本当にちがうの」
オリバーの賞賛に下を向いた彼女が首を横に振ると、ツインテールのお下げが呼応してふるふると揺れます。
顔が赤くなっているのを見るに、純粋な賞賛に照れてしまっているのでしょう。あら可愛い。
「それを言うならあなたも。……試験と新聞記事を見た」
「お、そうか。どうだった?」
「先生と。……ベーゼンさんにも勝るとも劣らない力を持っていると感じた。男の人でそこまでの操縦技術を持った人は見たことない」
「おいおい……れーちゃんさんと同じ実力とか最高の褒め言葉じゃないか。
因みにシュトロームくんはどう思う?」
「いい加減なこと言ってんじゃねえぞスコーパ!!コイツがししょーに勝てるわけねえだろ!!」
「泣いていいかなぁ……?」
だめです泣かないでください。
ただでさえシュトロームさんがぎゃいぎゃいと騒いでいて、スコーパさんという性格の読めない方が目の前にいるのにあなたまでおかしくなっちゃったらどうするんですか。
後でお弁当の惣菜パンひとつ食べさせてあげますから正気を保ってください。
「そんなことより、オリバー」
「なんだい、ぐすん」
「私はあなたに興味がある」
「興味?」
「うん」
スコーパさんがオリバーの元へ近付き、目の前に立つとちょっとばかしの背伸びをしました。
身長差を鑑みての行動なのでしょうが、スコーパさんの元の身長が低いため大した変化は見られず。
逆に表情の方に悪い変化が見られます。限界まで身体を上に伸ばそうとした結果、足が悲鳴を上げたのかスコーパさんは険しい表情を浮かべていました。
そのような光景を見兼ねたのでしょう。困ったように笑みを浮かべたオリバーはシュトロームさんを解放すると、彼女の目の前で片膝を着きます。
「ごめんな。俺の方から目線を合わせるべきだった」
「……。ごめん、膝が」
「別に気にしてないぞ。大丈夫だ」
申し訳なさそうにするスコーパさんに対して、オリバーは朗らかに笑うことで応えました。
まるで自分の子どもに安心感でも与えるように笑うその姿は、故郷でも周囲に撒き散らしていた優しい笑みです。
これで依然として百合に悶えているだけの人だなんて笑っちゃいますね、本当に。彼女さんの1人くらい居ても不思議ではないでしょうに。
「2人で話したい。大切なこと、……いい?」
「ああ、別に構わない。何処で話そうか」
「ぺっとのふくろうを預ける。指定席に荷物とか置いた後に、ふくろうに付いていってくれれば大丈夫」
「おう。ご丁寧にありがとうな」
「いい、感謝しなければいけないのはこっち。かのじょさんとデート、しているのにごめんなさい」
「いいって、気にすんな」
それにしても、髪色の系統といい、服装といい立ち居振る舞いといい。思えばこの人本当にシーラさんの趣味に染められてますね。
以前、人形の国で出会った時のシーラさんが正にそんな感じでした。まあシーラさんは百合に悶えたりしませんし、逆にオリバーは煙管をぷかぷかさせてないので丸っきり同じという訳でもないのですが。
それでも、いざと言う時に頼りになる所でしたり、飄々としていて掴みどころがないところなどはやはり似ており──ああ、この人たちはなるべくして師弟関係になったのだなと、そう思ったわけです。
というか、さりげなく胸付近に付けている羽根。あれなんすかシーラさん。自分の愛弟子宣言的な何かですか、所有権的な何かですか。
やってらんねーですね。
「それじゃあ、わたしは一旦ここで……それから、そこの灰髪のお姉さん」
「なんですか」
「私のプロデュースしたお弁当。……その、買ってくれてありがとう」
「いえ別に。おいしそうなので買っただけです」
「そう。……その、なんか色々ごめんなさい」
いえ別に。
内心で2度目のそれを言おうとする前に、スコーパさんは踵を返して私達の元から離れていきます。
彼女の向かう先には1人の男性の方が待ち構えており、年齢差から父親か師である人と推測できます。
兎にも角にも、私達のスタジアムデートに小さな嵐を巻き起こしたスコーパさんは、オリバーにふくろうを預けた後は出番を終えた役者さんのようにそそくさとその場を後にしたのでした。
「……」
彼女が去った後はシュトロームさんの怒りも収まり、静寂が訪れます。まるでちょっとした嵐の後のような雰囲気の中で、ではこの後どうしましょうか、まあ取り敢えず1番初めにやらなきゃならないことをやりましょうかというわけで、膝をついて何故か最敬礼しやがっているオリバーの肩を叩きます。
「……ふっ、イレイナ」
「なんですか」
振り向いたオリバーはドヤ顔をしていました。そして、私の存在を視界に収めると、その表情のまま一言。
「ナンパされちゃったぜ☆」
「このやろう」
「あだっ!?」
取り敢えずスコーパさんの誘いにほいほい乗っかりペットのふくろうさんを肩に乗せてしまったオリバーの額を弾いときます。
だってあれっすよ。なんかこう、……むかっとくるじゃないですか。
とにかくいらっときたんです。なのでもう1発いっときましょう。
「随分ともてもてなようで何よりです、いやらしいハーレムさん」
「いたっ!……おいおい、待ってくれよイレイナさん。俺がスコーパちゃんに惚れちゃうようなロリコン属性を4年の間に身につけたとでも言いたいのか?」
「ナンパされたって浮かれてたじゃないですか。というかダブルブッキングですか。スタジアムデート舐めてんすか」
「…………。
嫉妬?」
「ていっ」
「あべしっ」
どうやら額を弾くだけでは足りなかったようなので、今度は斜め45度のチョップを繰り出し、オリバーのふざけきった脳内を修正する作業に取り掛かります。
随分昔、まだ私達が故郷にいた頃にお母さんが「壊れた魔道具には斜め45度の手刀が有効よ?」とか言いながらセシリアさんの頭をヘルメット越しにしばき倒していたので、これできっとオリバーの頭も何とかなるはずです。
大切な人の為ならば、自らの手の痛みも厭わない美少女幼馴染さんです。我ながら健気すぎて泣けてきちゃいますね、はい。
「おい!俺は壊れた魔道具じゃないんだぞ!」
いや突っ込むところそこっすか。
もっと言わなきゃいけないことあるんじゃないんすか。
「イレイナさんジャンキーの治し方を忘れたのか!?魔力の塊タテ90度!!いつも照れ隠しに見舞っている一発!ほら、やってみ!!」
受けたところでもっとおかしくなるじゃないすか。
マジで何言ってんすか。
「で、どーすんですかそのふくろう」
「おん?おー……まあ折角のお誘いだし。少し顔を見せてふくろう返すくらいはしようかなと」
「なるほど、つまりダブルブッキングを肯定すると。くそやろうですね、くそやろう」
「だから嫉妬かな?」
「……」
「ごめんて」
もう口に出すことすらめんどっちいので笑顔で応えておきます。
というか多分、こっちの方が効くと思うんです。さっきからオリバーが自分の状況を理解したのか平謝りしていますし。
とはいえ、肩のふくろうが「なにやってんだこいつ」とでも言わんばかりに首を傾げている光景とセットで見たらお笑いにしか見えないんですけどね。
笑うしかないとはこのようなことを言うんでしょうね。あっはっは。
「……これで付き合ってないとかネタだろ」
「何か言いましたかシュトロームさん」
「言ってねえ。……おい、お前けっきょくどうすんだよ」
「お?」
「スコーパのやつに付いていくのか。付いてかねーでふくろうボコすか。どっちなんだって話だよ」
「シュトロームくん武闘派すぎじゃね?」
「うっせえ。ぼ……俺はスコーパのことが未だに許せねえし、許すつもりもねえ……やっぱ気が変わったわ。オリバー、そのふくろう寄越せ」
「そんなこと言ったってふくろうは渡さないぞ?スコーパちゃんのふくろうくんのことは俺が守る」
「だまれ」
まあ、それはそれとして。
会話の内容をしっかりと聞いていたシュトロームさんが、ふくろうを肩に乗せたオリバーに今後の行動を尋ねます。
オリバーに対して未だに嫌悪感を持っているよそ者嫌いのシュトロームさんですが、スコーパさんの存在が関わっていることが彼の興味を惹きつけたのでしょう。
私の見る限りでは常に情緒不安定なシュトロームさんらしからぬ、年相応の態度と質問でした。
「うーん……まあふくろうくんを預けられちまったし『行く』って勢いで言っちまったしなぁ」
「おまえは常にノリと勢いで生きてきたような発言しかしてねえだろ」
「だから取り敢えずはスコーパちゃんのとこに行ってみるよ。この国のこととか、文化とか。そこそこ聞きたいこともあるし」
「聞けよ」
「
「テメェコロヤロウ」
しかし目の前の山吹さんには質問が質問として機能しません。
悪い意味で平常運転です。ぱっぱらぱーです。それ以上でもそれ以下でもない女の子同士の恋愛うぇるかむなやべーやつなのです。
恐らくもう1発斜め45度のチョップを繰り出したところで彼の現状を変えることはできないのでしょう。今のオリバーからは、この状況をふざけ倒すという鋼のような意思を感じます。
私は山吹の魔道士さんのぱっぱらぱーを治療することを諦め、頭の中で美味しいパンのことを考えました。
シュトロームさんはぶち切れてました。
わあ、あそこのほうきパン美味しそう。
「イレイナさん、スタジアムデートを楽しんでいるところ悪いが俺は急用ができてしまった……!」
「警備員さん、ここに幼い女の子とデートできてハッピーな気持ちになっている変態さんがいます。助けてください」
「しかし、必ずやこの急用を終わらせキミの元に舞い戻ってくる……!
山吹の魔道士は、約束を守るクールでエキセントリックな男なのさ……!!」
「おまわりさーん」
「まあそんなこと言うなって。ほうきくんを代わりに擬人化させとくから」
「余計なお世話とはこのことを言うのでしょうね……」
ともあれ、目の前の山吹さんはスコーパさんとの密会にしけこむつもりのようです。
する必要のないウォーミングアップまでし始めた目の前のオリバーには恐らく怖いものなど微塵もないのでしょう。
まあそれはそれで別に良いのですが、自分のほうきを自分の代理のように扱うのはやめて欲しいんですよねぇ。
というか、その気遣いをもっと別の方向に向けて欲しいと思うのは私だけなのでしょうか。
「……」
「おやおやどうしたんだいイレイナさん。まるでゴミを見るような目だよ?」
普通に考えれば分かるでしょうに。
ほうきくん登場で喜ぶのなんて私のほうきくらいのものです。
とっとと行きやがって、とっとと私のところに帰ってきてください。
「別になんでもありません。ただ……」
「ただ?」
「魔力の塊を撃つべきか、炎魔法を撃つべきか、氷魔法を撃つべきか。
──どっちにしようか考えてただけです」
「おいおいおいおい死ぬわ俺」
何をすっとぼけたことを。
どうせあなたは真っ直ぐ私のところに帰ってきてくれるでしょう?
撃たれる心配なんて微塵もしていないくせに、よくもまあそんなことを言えるものです。
やっぱりあなたはくそやろうですね。
このくそやろう。
「じゃあ1度行ってくるわ。イレイナさんは先行っててくれ」
「はあ」
「念の為、ほうきくんを置いておこうね。……てなわけでほうきくん、俺が戻ってくる間イレイナさんを守ってくれ!」
「だからいらないと言っているでしょうに」
私の切なる想いも虚しく、オリバーが自らの師と同じ動作で改造に改造を重ねられたほうきを召喚します。そして、同じく召喚した純白の杖でほうきに魔法をかけると最後に一言。
「喧嘩、すんなよ?」
やかましいったらありゃしない一言を残して、その場を去るのでした。
「……」
オリバーがスコーパさんの元へ向かい、私とシュトロームさんは魔法をかけられたほうきに視線を送ります。
オリバーのほうきはどこの誰に影響を受けたのか分からないほどに改造を重ねられていました。
羽根をモチーフにした背もたれ、穂先に隠れたエンジン。いやまあ、ほうきのカスタマイズはできますけどそこまでやりますかって感じですね。
因みに私はほうきの改造はしません。
ほうきはほうきのまま飛ばすから良いのです。
「……おい、このほうきどうすんだよ。アイツ魔法かけてたみたいだけど何も起きねえじゃねえか」
シュトロームさんが何かしらの魔法をかけたくせにぴくりとも動かないほうきに痺れを切らしたのか、オリバーのほうきを指差して言います。
いやまあ、気持ちは分かります。
ですが、オリバーのほうきは少し癖の強いほうきなのです。どういう風に癖が強いのかと問われると返答に困りますが、とにかく特殊です。
私自身、何度も擬人化したオリバーのほうきと対話する機会がありましたが、主であるオリバーをフツーに言葉でいじめてきますし、命令に背く時もありますし、なんなら勝手に元の姿に戻ったりしますし。
今回もどうせオリバーのかけた魔法に抗いつつ「あ、やっぱり従っちゃううぇーい!」なんて思いながらじたばたしているのでしょう。
相変わらずめんどうなほうきですね。
「彼のほうきは気分屋なんです」
「ほうきに性格とかあんのかよ」
それがあるんですよねぇ、内面も外見も、不思議なことに。
「私のほうきにも、オリバーのほうきにも性格はあります。まあ見ててください、そのうち目覚めますので」
「目覚めるって……そもそもアイツのほうき改造まみれじゃねえか!羽根の背もたれに、エンジンって……ほうきにエンジン必要ねぇだろ!?」
「それは本人に言ってください。……あ、そろそろ起きますよ」
と、私達がぐだぐだと喋り倒している間にオリバーのほうきが勝手に動き出します。
付けても居ないエンジンは勝手に作動し、排出口からもくもくと煙が出てきました。
けむいしくさいです。なんてことをしてくれるんだこのくそほうき。
「な、なんだこのほうき!急に動き出したぞ!?」
「ほうきくんです」
「名前じゃねえよ!!お前なんなんだよ!!」
シュトロームさんが私にツッコミを入れますが、そんなのは大した問題ではありません。
それよりも問題なのは、煙の中で動く
「っりーわ……」という声と共に頭をぽりぽりとかく影。そして、近付いてくる足音。
私にとってのそれは、久しく見聞きしなかったものであるのと同時に苦い記憶を呼び起こすものでもありました。
オリバーとの魔法勝負。死なない程度の魔法を撃ち込む対決にて、
その苦い記憶には、大抵その影と空色の髪が浮かび上がります。
そして、その影こそがオリバーの相棒であり、空中の彼を守る騎士であり、彼の身を危機に晒す暴れ馬ならぬ暴れほうきでもありました。
「うぇーい!久しぶりのシャバウェイねー!!」
「うわ出た」
「化け物みたいに言うのやめて欲しいッス〜!」
ほうきくん。
私の幼馴染であるオリバーのほうきは、今日も今日とて彼と同じ2枚目上等の外面で、朗らかな笑みを浮かべるのでした。
「おっ、姐さんじゃねえっスか!なんスか、ほうきちゃんと一緒じゃないんスか!イチャイチャしたいんで逢わせてくださいッス〜!!」
オリバーの顔面でそれ言うのやめてくださーい。
○
ほうきくんという奇っ怪な存在に対して私が言えることというのは大して多くはありません。
過去、故郷にてオリバーが擬人化魔法を開発し、物に対しての愛情表現がおかしくなり始めた頃からの付き合いではありますが、趣味嗜好等の類はまるで分かっておらず。
むしろ、ほうきくんの人となりに関しては同じ境遇でもある私のほうきの方が分かっています。そう断言してしまえるほどに、私はほうきくんという存在に対して無知だったわけです。
「もぐもぐ」
「ふとるぞ」
「激しく同意ッス〜!」
そのため、この状況の対処法なんて知ったこっちゃありません。
せいぜい私に出来ることといえば、オリバーの早期帰宅を願ってもぐもぐとパンを咀嚼するくらいのものなのです。
いやあ、今日も群衆に紛れて食べるパンが美味しいですね。
「それにしても、相変わらずあなたは登場の仕方が派手ですね」
「へへっ、そうスかぁ〜?まあ、ド派手、煙、暴力はヒーローの3大必須項目っスからね。そう言われると嬉しいッス〜!」
「褒めてません」
「姐さん良いもん食ってるじゃないッスか。俺にも良い感じの香油塗ってくださいッス」
「ていっ」
「あぎゃっ!」
姐さん呼びをやめろこのくそほうき。
いくら私がいざという時に頼ることの出来る天才魔女だからといっても、言っていいことと悪いことがあります。
何が姐さんですか。いつから私はあなたの姐さんになったんすか。
そんな所までオリバーに似ないでくれませんか。
「物に当たるのはNGッス!!世間とお茶の間はそーいうのに敏感なんス!危うくえんじょーっすよ、炎上!!」
「今のあなたは擬人化してるので大丈夫です」
「あ、それもそうッスね」
「至極もっともっス〜!」とほうきくんが続け、天井を見上げます。
頭上なんて見上げたところで、そこには味気ないドームの天井しか見えないのですが、ムードに浸りたいのかほうきくんは「今日も……空が青いッスね……」と黄昏れました。
きっとほうきくんにとっては今の景色が澄み切った青空に見えて仕方ないのでしょう。1度修理士さんにでもお願いして、本格的なメンテナンスを施してもらった方が良いのではないでしょうか。
「オリバーから伝言です。不在の間、私達を見ていてくださいと。短い時間でしょうが、よろしくお願いします」
「ふぁっ?そーなんスか!いやぁ、寝てたんで気付かなかったッス!あざすあざす、1017の姉御!」
「今何か聞き慣れない単語が聞こえたのですが」
「Foo〜!俺が皆をめちゃくちゃ守るッス〜!!」
ふー、私はめちゃ不安なんですがそれは。
と、内心でくそみたいにちゃらけた性格をしたほうきくんを煽りまくっていると不意に空気が動くような、なにかが身じろぎをするような感覚を覚えます。
そして、こういう時。
この瞬間に限り『そのような感覚』を与えてくるのが誰なのかということは、しっかりと理解ってしまっています。
嫉妬でもされたんですかね?
そこら辺の感覚は私にはちょっとわからないのですが……えぇ、本当に。嫉妬なんか私、一回もしてないです。そんなに疑うなら日記を見てほしいものですね。
どこぞのハーレム山吹さんのことなんて忘れてしまうくらい、いろんな出来事のことで頭がいっぱいで嫉妬なんかしてる暇なかったです、いや本当です。本当ですってば。
「……まあ、会いたがってましたからね。あなたも」
「ほぇ?」
「いいですよ。今度はちゃんと、自分の言葉で挨拶してください」
まあ私のことはともかくとして。
離れていた時期は私と同じくらい長い彼らの関係。
擬人化魔法をお互いのほうきに施してからというもの、私やオリバーに隠れてこそこそと友情を育んできたようで。
私のほうきが微かに身じろぎするかのように動いたのを見落とさなかった私は、半ば強制的にほうきさんを人の姿へと変化させます。
こうして自己を主張することも決して多くはないほうきさん。それがこのくそほうきのことになると途端にぼろが出てしまうのは、……まあ、なんというか。血は争えないというべきなのか、類は友を呼ぶとでもいうべきなのか。
「……」
「んぁ?なんか同族の香り、が──」
兎にも角にも、私のほうきとほうきくんは久方ぶりに『人の姿』にて対面を果たしました。思えば道中、共に空を飛ぶことが幾度となくあったとはいえ、こうして水入らずで会話する機会は与えてあげることができていませんでした。
なのでまあ、私は黙ってこの世界を傍観していましょう。
こういう時は美味しいもののことでも考えて──
「……ほうきくん」
「……お、おおっ」
「お久しぶりです、ほうきくん」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!」
声がでかすぎです。
なんなんすか、発狂すか。
周りの迷惑考えてくださいマジで。
「いや声大きすぎですね……」
「いやいや姐さん!だって姐さん!!姐さぁん!!」
「だから姐さんやめてください」
しばきたおされたいのかくそほうき。
内心でそう呪詛を吐く私を横目にほうきくんは高速が聞いて呆れる程の速度で私のほうきに近付き、あろうことか両手を掴みます。
彼はいつから私のほうきを口説くチャラ男さんのようなムーブをかますようになったのでしょうか。
行動があまりにも俊敏かつ華麗で目を疑うレベルです。
持ち主がちゃらけているとほうきまでちゃらけ散らかすのでしょうか。そこがわかりません。
「ほうきちゃん!俺と結婚してくださいッス!!」
「い、いきなり……ですか?……えぇ」
「一目見た時から……いや!ご主人と姐さんが学校に通う時、俺達で集団登校してた時からッ!!なんなら生まれた時から決めてましたッ!!」
「その。……わたくしはイレイナ様に生涯お仕えする立場ですので」
「!……あぁ、1度仕えたご主人に操を立てるほうきちゃん……やっぱ素敵で大好きッス〜!!」
「そ、そうやって何度も褒めたり好きって言うのやめてください……!」
「というわけでほうきちゃん!俺と結婚してくださいっ!」
「えぇ……」
無限ループに片足突っ込んでますよ。
ほうきくんのやり口に騙されたらダメです。というか私とオリバーの外面で恋愛小説みたいなやり取りするのほんとやめてください。見ているこっちのおなかが痛くなってくるのでいい加減その手を放して──まんざらでもない顔をするのやめてくださーい。
「……おい。……えと、その……なんだ」
「言わなくていいですよ別に。無理しないでください」
「……お前、苦労してんだな」
「ふぁっきゅー」
「揃いも揃ってそんなに喧嘩してぇのか。いいぜ、表出ろよこのやろう」
シュトロームさんが何か言っていますが例に漏れずテキトーな返事で応えます。
結局美味しいもののことを考えたところで遍く全ての出来事に無関心でいられるわけでもなく、気付けば私はほうきを召喚し、ほうきくんの口車に操られ、2箒のラブコメでおなかを痛め、シュトロームさんには悪態を吐いてしまっています。
スルースキルなんて高尚なものは私の持ち合わせにはない高価なものだったのでしょう。
もうどうにでもなってしまえ。
「え、じゃあ……結婚するんスか?俺以外のほうきと……」
「し、しません!するわけないじゃないですか……」
「俺と結婚するのは、ほうきちゃんだけだと思ってたっス……」
「そ、そんな辛そうな表情をなさらないでください……」
「今夜は、一緒にお散歩するっス〜!!」
「い、イレイナ様!見てないでお助けください!!」
とも思ったのですが。
流石に困り果てたほうきを見捨てる程私は鬼ではありません。
目の前に広がるのはぐへへと悪代官顔負けの表情で私のほうきを口説くほうきくんに、その言葉を真に受けてしまい頬を真っ赤にさせて涙目で救いを求めている私のほうき。
その光景の改善策に選んだのは擬人化魔法の解除に、斜め45度のチョップ。
壊れたものに対して有効的な一撃でほうきくんを落ち着かせると、私は一言。
「熱心に口説いてないで、早く行きますよ」
「あぁん!ほうきちゃん、戻らないでくださいッス〜!!」
そう告げて、指定された席へと向かうのでした。