どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
大体当拙作2章の1年ほど前のお話です。
箸休め程度にご覧頂ければ幸いです。
「たまごサンドと
「パン奢ってください」
事の発端は、イレイナの一言であったと言えるだろう。
今日も今日とて、それなりに明るい天気の中、それなりに豪勢な母さんの朝ごはんを頂き、いつも可愛いイレイナさんとそれなりのお話をしながら時間を潰していると、小さな欠伸をかましたイレイナが突拍子もなくそう言う。
その言葉の内容は聞くまでもなく、あれだ。
そう、パシリである。まあ、パシリというのも悪くないと思っていた俺故に、彼女の一言に頷いた俺は「じゃあ、ちょっとついてこいや」なんて言葉を告げた後に、彼女の手を引っ張っていった。
連行先は、とある喫茶店。窓際のベストポジション。
俺が兼ねてより気になっていた店へ、イレイナを連行してきたのだ。
‥‥‥なんかこれ、デートっぽくね!?ヤバいちょっとテンション上がってきたかも!!
「と、いうわけで今日は俺がパンを奢ったるわ」
「は?」
「リッチな俺にひれ伏せ」
「あ、無理です」
イレイナさんとのデート紛いのパシリ。
兼ねてから気になっていた雰囲気の良い喫茶店。
それらが織り成す蠱惑的で魅力的な欲望には勝利できなかった俺。
耳をすませば心の中の俺が『よわよわメンタル』とかほざいてきており、その様に俺のストレスはマッハ20で加速しているわけなのだが、今のこの状況をストレス如きに飲み込まれてしまうのは些か勿体ないというのが現状であった。
何せ、今日は親友であり美少女であるところのイレイナさんとデートもとい一緒にパンを食べることができる運びとなったのだからな。
こんな時にまでストレス持ち込んでいられるかってんだ。
と、本人に言えばもれなくぶっ殺されてしまうような一言も心の叫びとすれば痛くも痒くもない。俺はこの状況を作ってくれたイレイナの一言と、その一言に応えて行動に移した俺を内心で賞賛しながら、ドヤ顔でイレイナにひれ伏すことを要求したのだった。
向かいの席に座ったイレイナの大きなため息が聞こえた。
泣きたい。
「良かったですね、今回はお小遣い没収されなかったようで」
ため息混じりにそう言ったイレイナが、おしぼりを片手に俺に視線を向ける。そんな彼女のアホ毛はぴょこぴょこ動いており、これから先に訪れる食事の未来を心待ちにしている様が見て取れた。
そんな期待の様子から発せられた一言。まあ、見当違いという訳でもないのだが、事実は少し違う。
「違う。没収されたが馬車馬の如く働いた後に母さんに土下座して、もう一度小遣い貰ったんだ」
「あなたにプライドはないんですか」
「ははっ」
実は今月の俺、またしても母さんの物干し竿を破壊してしまったのである。それも、壊れたというレベルではない。消滅レベルの魔力の塊を放ってしまった俺は、物干し竿を塵にした光景を母さんに見られ、ケツを引っぱたかれ、お小遣いを没収される羽目になる。
至極当たり前の出来事であり、なんならケツ叩きとお小遣い没収で済んだのが奇跡とも呼べるその愚行。
では、何故俺がその行為をしでかしてしまったのか。その原因は、1か月前の出来事にまで遡る。
『オリバー』
『?』
『確約です』
1か月前、イレイナさんの誕生日に際して前夜祭を企画した俺は、彼女から思いも寄らぬ一言を得ることになる。
恐らく生涯刻まれるであろうその言葉は、本来なら有り得ることのなかった幼馴染との約束。予想だにもしなかった再会の約束という貸し借りチャラの条件を突きつけられた俺は、正直に言おう。めちゃくちゃ浮かれてた。
もちろん、イレイナさんにそのような一言を言われたというのも原因なんだけど、それより何より今までの積み重ねや、頑張りやら、全てを知ってくれていた上で発してくれたイレイナさんの一言が本当に嬉しくて、これまたイレイナさんが『また会ってください』と言ってくれたのが本当に死にそうな程嬉しくて。
『ひょおおおおお!!!!』
『あ、オリバーもし良かったら洗濯物取り込ん──あいやぁぁぁぁぁ!?なにしてんのさオリバー!!』
それこそが最大の原因であり、敗因だったのだ。
‥‥‥いや、はい。
そこから先は言うまでもない事なんですが、敢えて言わせてもらいますと、調子に乗って、浮かれて、滾る思いを魔法に乗せていたらいつの間にか洗濯物ぶっ飛ばしてました、はい。
凡そイレイナにその1部始終を見られたら『確約破棄ですね』と言われてしまいそうな行為をしでかしてしまった俺。
当然小遣いは没収され、晴れて1文無しになってしまったわけなのだが、そのまま終わっていたら1文無しの俺がイレイナにパンを奢れるわけもない。そもそもイレイナを喫茶店に連れ出したりもしていない。
なら、何故俺は彼女にパンを奢ろうとしているのか。
その理由は、これまた遡り1週間前に至る。
『おーい、オリバー買い物──って、もう買ってる!?』
『ははっ、予測した』
『予測の範疇超えてるよっ!』
なんと、1週間前の俺はやらかしてしまった愚行に対して様々な奉仕で見返し、お小遣いを稼ぎ直したのである。以前の俺なら『まあ良いか、別に買うものないし』と諦めていたのだが、確約の下りでやる気が滾りに滾っていた俺は即日で炊事、洗濯、買い物と母さんの家事を手伝いまくり、お小遣い返してくださいと土下座。
あまりにシュールな光景に「えぇ‥‥‥」と若干引いていた母さんではあったが、その程度で俺のやる気が萎む筈もなく。
「お願いします!お願いしますっ!!」とゴリ押しにゴリ押しを重ね、最終的には父さんの「リア、お前遂に息子にまで土下座させるようになったのか‥‥‥」的な視線すら味方にした俺は、遂に没収された銀貨数枚を取り返し、今に至るという訳である。
『ん、よかろう。そこまで反省しているのなら優しいお母さんが許してあげるよ‥‥‥はい、お小遣い』
『さっすが母さん!太っ腹ー!』
『喧嘩売ってんの?』
『あいやぁ‥‥‥』
まあその後にケツまた叩かれたけど。
いやほんと、なんでキレるんだよ。太っ腹って別に悪い意味で言ってねえし。感謝の意を込めて、慈悲深い母さんにお礼を言っただけだし。
どうしてケツ叩かれなきゃあかんねん。
「そういや、太っ腹って言ったら母さんに怒られたんだけど、イレイナは理由分かる?」
「それは誰だって怒ります。大体あなたのお母さん、スタイル抜群の美人さんじゃないですか」
「別にそういう意味で言ったわけじゃないんだけどなぁ」
「余計なことを口に出すなって言ってんですよ」
らしい。
まあ、イレイナの言いたいことも分かるには分かる。故に俺は今後、誤解を招く発言を母さんに言うことは極力控えようと胸に刻んだ。
母さん、誤解、ダメ絶対。
思ったことをそのまま口に出すのは以前から見られる俺の悪癖なので、気をつけなければな。
「ともかく、俺は今日自らの働きによってお金を得た。そして、我がアイドルイレイナさんにパンを奢るという至高の状況を作り──」
「そして喫茶店に私を連れてきたという訳ですか」
「うん、そういうこと」
まあ、俺の過去語り及び不幸自慢はこれくらいにしておいて。今はこの状況を素直に楽しむことが先決だと思った俺は、横にあるメニュー表をイレイナに手渡し、軽く1杯水を飲む。
今は水だけど、いつかはお酒でも飲みながら経験してきたことについて語り合える日が来るといいな──なんて思いながらイレイナさんの顔をじっと眺めていると、彼女は「何見てるんですか」と言って、己の顔をメニュー表で隠した。
アホ毛だけ隠れておらず、それが何故か動いているように見えたのは俺の幻覚なのだろうか。
まあ幻覚でもなんでもいい。
目の保養あざす。
「大体、おかしいんですよ」
「何が」
「私は売店で売られているパンを買って欲しいとお願いしたんです。それにも関わらず何故喫茶店に行く羽目になってるんですか」
「売店より出来たてを食べた方が良いと思って‥‥‥ごめん、イレイナの胃袋を軽視した俺の責任だ」
「売店でも出来たては食べられるんですけどね。本当に頭おかしいんじゃないんですか」
それはもう、ぶつぶつと。
可愛らしく文句を垂れ流すイレイナはそう言うと、メニューから目を離すことなく凝視し、俺を見ることもなくメニューに描かれていた料理を指さした。
その料理はサンドイッチ。サンドされている料理はたまご。つまり──
「たまごサンドですか、気になりますね」
「たまごサンドか‥‥‥なあイレイナ知ってるか?実はたまごサンドってな、一時期肉の配給が停止された時にお偉いさんが──」
「そういう蘊蓄は良いですから」
ひどい!
いつもイレイナには教えて貰ってばかりいるんだからこういう時くらい前世の知識でドヤってもいいじゃないか!
この人でなし!イレイナのアホ!アホ毛!!
「むかむか‥‥‥」
「ああ、はい。いつものですね。で、オリバーは何を頼むんですか?」
「俺もたまごサンド!大盛りで!!」
「ないですから」
じゃあイレイナと同じの!!
※
さて、入店早々1悶着あった訳だがなんだかんだ言っても俺はイレイナさんのことが大好きなのである。
考えてみろ、長く艶のある灰髪も、知性的な様とは少しアンバランスなあどけない表情も、白い肌や灰髪の頭頂部にぴょこんと跳ねているアホ毛なんかも。勿論、こんな変態さんに優しくしてくれる心意気とか、不意に見せるいじらしさとか、そういう内面なども諸々含めた上で最高に可愛い女の子が、勉強とかの面倒を見てくれるんだぞ。
こんなの好きにならないわけがないだろいい加減にしろ!あわよくば俺の願望イレイナさんで叶えようとしてた時あったわ!それくらい俺はイレイナさんのことが友人として、女の子として、大好きなんだわ!!
──ならば、である。
逆に問うてみよう。俺の友達であり、唯一の幼馴染さんであるところのイレイナさんは俺の事を好きでいてくれるのだろうか。
その答えは‥‥‥今までの俺の行動を鑑みたら、割と好きでいてくれるのでは無いのかなー、友人として、信頼してくれているんじゃないかなーなんて、少し思ってたり──
「‥‥‥食事中の人の顔をジロジロ見ないでくれませんか?」
「‥‥‥イレイナは、俺の事好きか?」
「そういうことをするオリバーは大っ嫌いです」
「エグい」
どうやらそうでもないらしい。注文した後に届いたたまごサンドをはむはむ食べていたイレイナの顔が可愛くて、思わず見とれてしまっていたのだが、そんな様を見た彼女の罵倒が胸に刺さったので、視線をたまごサンドに移し、俺もそれを食すこととしたのだった。
そう、結局これが現実なのである。俺がどれ程どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだところで、やはりイレイナさんはどこまでも主人公なイレイナさん。彼女が俺の事を友人とは思えど好きになるようなことは皆無であり、将来はいつまでもアムネシアさんかサヤさん辺りとイチャコラするのだろう。
この世界は同性愛に割と優しい。何せヒロインサヤさんがガチレズムーブキメてる位だ。イレイナさんとアムネシアさん、サヤさんが結婚しても、何ら違和感すらないというのが、正直なところであった。
精々俺に出来ることといえばアムイレかサヤイレのカップリングでイレイナさんが同性婚キメた時の友人代表として挨拶するくらいであろう、ああ百合から逃れられない!魔女の旅々大好き!!なんて半ば嬉しい悲鳴を上げていると、「全く、相変わらずのくそやろうですね。オリバーは変態さんなんですか?」とジト目で俺を文字通り視線で突き刺してきたイレイナが、小さくため息を吐く。
エスパーかな?
「それで、進路は決まったんですか」
「いきなりする話がそれか。もっと、こう‥‥‥心温まるハートフルなお話できないのか?」
「質問を質問で返さないでください」
「全く、できないならできないでハッキリ言ってよね。イレイナちゃんはコミュ障なんでちゅから」
「何を言ってるのかまるで分かりませんね。依然として友人が1人の暇ぼっちさんが何を言ってるんですか」
いや、それを言うなら暇ぼっちに毎日のように付き添ってくれるイレイナも大概だけどね?
とはいえ、感謝はしている。やはり俺が魔法の道を歩むきっかけになったのはイレイナの影響が大きく、確約をしたこともあって今では魔法というひとつの道を極めようと考えているまである。それほどまでに彼女の存在は俺にとってのターニングポイントであり、それ以上に『出会って、仲良くなれて良かった』と思える大切な友人であるのだ。
そんなイレイナさんに対してぼっちを弄ることはともかく、俺と話してくれていることを弄ったりすることはできない。つーかそれ、臆面もなく行ったら危うく絶交だ。
折角掴んだ信頼をこんな形で手放すとか嫌だ。
「悪かったよ。で、将来か‥‥‥」
「はい。オリバーはどんな魔法の道へ進みたいですか?」
「ん、じゃあイレイナさんのお傍に永久就職する職業とかどうかね」
「は、何言ってんですか寄生の間違いでしょう」
「恰も俺が今をときめくヒキニートみたいに言うのほんとやめてよね」
いやまあ子供だけど遊んでるからほぼニートなんだけど。それでも引きこもりではないだろうてからに。
そして寄生言うな。俺だって何も考えてないわけじゃないんだ。後にも先にもヒキニートなんてする予定ないからな。
「‥‥‥魔法の才能なんてのはさ、自力でどうにかなる問題じゃない。少なくとも先天的に魔法の才能が遺伝されなきゃいけないし、何より良き師が居なきゃどうにもならない」
「そうですね。いきなりどうしたんですか変態さん」
「茶化すな馬鹿、照れるだろ‥‥‥その中で俺は、前者も後者も持ってる。その上で夢の根幹となる確約をしてくれた友達がいる俺は、絶対に恵まれているんだ」
そう。
だからこそ、俺はヒキニートなんてやってる余裕なんて微塵もないし、何よりそれは育ての親にもイレイナさんにも背信的な行為となってしまう。
よくよく考えてみれば今の今まで育ててくれた人や、優しくしてくれた人。それ以外にもシーラさんのように良くしてくれている人のことを裏切りたくないし、それこそ報いたい──だなんて考えてしまっている俺は、きっと面倒な性格をしているのだろう。
けど、それでいいのだ。
自由にやりたいと思うことを探し、幼馴染の旅路を陰ながら応援しつつ、確約したことも果たし、己の幸せも叶えてみせる。それが、この世界で培ってきた『オリバー』という我儘な人間の生き方だから。
癖になってしまった生き方に今更嘘なんてつけん。
何より、そんな生き方を良しとしてくれているこの環境があるのだ。何を怖がる必要があろうか──いや、ない!
「だからヒキニートなんてしないよ。その恵まれた状況を最大限に引き出す。んで──叶えるよ、イレイナさんとの確約」
「‥‥‥それは、はい。確約です」
「にししー、目ぇ逸らすなよ。可愛いな」
「何を言っているのかまるで分かりませんね」
自分でも分かるくらい、『にひー』と擬音でもつきそうなくらいの笑みを零した俺を、イレイナが目を逸らすことで応える。
きっと、気持ち悪い笑みをしてしまったのであろう。将来モテモテウハウハのハーレム生活を送れるようになるために鏡に向かって笑顔の練習こそしているものの、依然として自分でも引き攣ったような笑みだと思うこともしばしば。
こんな笑顔じゃ引かれるのも仕方ないと考えた俺。滾る想いは内に秘め、表情を引き締めた上で言葉を続けた。
「まあ、いざとなったら旅人でもしようかね。イレイナのように、ゆっくりと。気ままに、主人公気取ってさ」
「あの、恰も私が主人公を気取っているような体で言うのやめてくれます?」
「主人公だと思ってない奴は自分のことを美少女とか言ったりしませんし、カッコつけたりもしません」
「それは‥‥‥事実ですから」
「そう、私です」
「直球でいじめるのやめてください」
今度は自然とニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたくなる衝動が俺を襲う。それもそのはず、今の今までイレイナさんが強い言葉で俺に対して
つまり一転攻勢だ──と底意地の悪い考えでイレイナさんを言葉で弄ぶ俺は周りから見れば幼気な女の子をいじめるドクズに見えただろう。
耳をすませば俺の愛箒であるほうきくんが「うわひっど!あんた最愛の幼馴染さんに何してんすか!うーわ!後で幼馴染さんの綺麗な人妻さんにいいつけてやろー!」とかいう野次が聞こえるよ。
「‥‥‥大体、あなたのせいじゃないですか」
「え、俺のせい?」
「毎度の如く私のことを可愛いと言いますし、動作全てに悶えますし、挙句の果てには抱き締めようとしますし」
「‥‥‥あ、あいや。それは」
「うるさいです。言い訳しないでください」
「あいやぁ‥‥‥」
あ、やっべ。
イニシアチブ簡単に握り返されたわ。んだよ、俺ボールキープ下手すぎかよ。
主導権を握れるのなら火の玉ストレートも辞さない俺ではあるが、あまりのイレイナの可愛さにどうしようもなく主導権を渡してしまうことは往々にして存在する。その中で今、イレイナさんが見せた予想外の言動に頭をぶっ叩かれるような衝撃を受けた俺は主導権なんて気にすることも出来ずに、容易に会話のイニシアチブを奪い返されてしまったのだった。
「そうやって人のことをおちょくるのなら、次回からはいちいち可愛いとか好きとか言わないでください」
「いや、あのなイレイナ。それは‥‥‥」
「オリバーに言われるとその気になってしまうんです。普段から見てくれている人に言われると、気持ちが浮つくんです。だから──」
「だから、やめてください」と。
イレイナはそう言うと、そっぽを向いて窓に映る景色を眺めた。その顔は、少しムッとしたような表情であり俺の言葉に怒っている様が見て取れたのだが、そんな表情でも魅力的に見えてしまうのはイレイナさんの可愛さ故か、俺のイレイナさん大好き病によるものか、若しくはそのどちらもか。
まあ、どっちでもいいよな。どちらにせよ俺がイレイナさんに対して抑えきることの出来ない気持ちを抱いているのは確かであり、その気持ちは死神だろうと断ち切ることは出来ないということも確かなのだから。
当然、イレイナにも抑えることは出来ない。イレイナの制止の言葉なんて俺からしたら半速球にも満たないよわよわストレートである。要するに、制止が制止たりえてないのだ。
そんなよわよわストレートが俺のド直球火の玉ストレートに勝てるわけないだろいい加減にしろ!なんてことを考えてしまっている俺は、それはもう余裕綽々の面持ちでイレイナに言葉を続けた。
「そっか、俺のせいか‥‥‥」
「はい」
「じゃあこれからも俺、イレイナさんへの愛を叫び続けるから。それで手打ちにしてくれないかな」
「何処が手打ちなんですかふざけてるんですか」
「ふざけちゃいないさ。思ってもいないことを言うほど俺は廃れちゃいない。俺はイレイナが可愛いと思ってるから可愛いと言っているし、悶えるんだ」
「妄言ですよ、そんなこと」
「可愛さっていう明確な根拠に基づいた発言だ」
恐らく俺はこの世界にいる限り、イレイナという女の子に対して「可愛い!」と言い続けるであろう。何せ、それらは嘘でも妄言でもない、紛れもない事実なのだから。
声を大にして嘘を吐けるほど俺は器用な性格じゃない。それをしようとしたところで挙動不審になってイレイナに「何隠してるんですか」とバカにされるのがオチである。なら、想いは全て届けてしまった方が良い。
別に関係性を絶たれる危険性のあるようなことは何一つ、考えちゃいないのだから。
「イレイナは可愛いんだ。だから主人公気取ってても全然大丈夫。様になってるし、そういう自信家なイレイナが俺は大好きだよ」
「‥‥‥」
「だからもっと‥‥‥あれ、どしたん」
と、そんな思いから発した俺の意思表示であったのだが、先程からイレイナさんの様子がおかしい。注文は既にしたのに、先程のメニュー表で顔面を隠しており、いつの間にか俺から視線を切っていた。
ううむ、どうかしたのだろうか。
あ、もしかしてもっとご飯食べたいのかな。やだもう、イレイナさんったら見た目に反して健啖家!
しかし、そんな所も可愛いと思えてしまえる俺は、既にイレイナさんの可愛さに殺られてしまっているのだろう。
ぐぬぬ、小遣いは底を尽きかけてるがここはもうひと踏ん張り!最悪小遣いゼロになっても良いからイレイナさんの食欲を満たしたる!!
「注文し忘れたものでもあったか?どれ、見してみ」
「あ、ちょっ──」
「何か頼みたいのなら頼めよ」とイレイナの持っていたメニュー表の上部を掴み微々たる力で引っ張ると、両手で持っていたメニュー表のバランスが崩れ、イレイナさんが先程まで見ていたメニュー表の一覧が見える。
イレイナさんが見ていたメニューはパン料理が並べられており「やっぱ好きなんすね、パンメニュー」と半ば呆れにも近い心境でメニューを眺め、今度は先程まで隠されていたイレイナさんの顔を見つめるために前を向くと──
「え」
「‥‥‥ぅ」
そこには目を見開き、唖然とした様子で俺を見つめるイレイナさんが。
白く、綺麗で、お人形さんのように可愛い顔の殆どを紅潮させた様子で。
たった今、俺の視線に耐えられなかったのか、ふいっと目を逸らしたのだった。
「‥‥‥おや」
「‥‥‥なん、ですか」
おや?
おやおやぁ?
「あらあらまあまあイレイナさん。顔がトマトみたいに赤くなってますよ。これは一体どのような了見なのかな?」
「‥‥‥うるさいです、やめてください」
「やめられるもんならとっくにやめてるんだけどなー。あーイレイナさんはかぁいいなぁ。普段もそういう風に照れてくれると危うく尊さで死ねるんだけどなー」
「ほんと、いやです。もうやめてください」
「ひゅーひゅー!店内の空調は整っているのにねぇ!!アツイねぇ!!」
というより先程から言っているじゃないか。今のイレイナさんの否定は否定じゃなくて「もっとやれ」と煽っているようにしか見えないんですわ。
本当にやめて欲しいならグーパンで殴るなり、手で振り払って悶絶させるなり色々方法はあるわけであって──あっ、無理かぁ!!イレイナさん体術よわよわですもんね!!
ともかく。そのようなイレイナさんの半速球よわよわストレートで否定されたところで、それは俺の知る由ではない。今一度会話の主導権を握ることが出来たと確信した俺は、自分の想いを纏めるために締めの一言を述べた。
「とにかく、イレイナは俺にとって可愛いの象徴であり、主人公のような存在なんだから‥‥‥やっぱり将来はイレイナさんに永久就職したいなーっと」
すると、先程まで頬を紅潮させ、そっぽを向いていたイレイナが漸く落ち着きを取り戻し、キッと俺を睨みつける。
アカン、調子に乗り過ぎた。
目付きが切り裂き魔に髪をパッツンされた時のシーラさんに向けた目とほぼ同じだ。これはアカン──と考えた俺はプライドも、主導権も、何もかもをかなぐり捨てイレイナさんに謝った。
賢い俺は、彼女をいじめ抜いた時の事後処理も欠かさないのだ。
「ごめん、調子乗った」
「‥‥‥がっかりです」
「ごめんて」
「本当にがっかりです、ぶっ飛ばしですね」
「許して」
いや、ほんと。すいません。
だから意趣返しで刑務所連行は勘弁してよね。