どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
とある国の、とある喫茶店に2人の魔法使いがいた。
1人は灰髪の髪をした妙齢の女。絹のように滑らかな灰色の髪は彼女の美しさをより際立たせており、耳に付けられたピアスや、ノースリーブのブラウスにロングスカート。更には先程脱衣した上に羽織っている黒のローブは彼女の雰囲気を上品なものとしていた。
窓から映る景色を眺め、紅茶をすするその様は見るも麗しく。仮に彼女が座る向かいの席が空いていたのだとしたら、男共は迷いなく彼女に対して「相席どうですか?うっへっへ!」と尋ねることだろう。
しかし、今の彼女に声をかける男は誰一人として存在しない。否、厳密に言えばその姿に見惚れ、声をかけようとする存在はいたのだが、向かいの席に座るもう1人の青年を見た途端、自分に自信を持つことが出来なくなった軟派達は、すたこらさっさと逃げていくのだ。その理由というのは──恐らく、その光景を目の当たりにしている軟派と灰髪の女にしか理解することのできないことなのだろう。
さて、灰髪の妙齢の女性に「口、汚れてますよ」と甲斐甲斐しくハンカチで唇を拭かれるその青年は、山吹色の髪をしていた。金髪、というよりかは鮮やかな赤みを帯びた黄色をしている青年の髪は短く、清爽な雰囲気を醸し出しており、なまじ外面が良いだけあって先程から2人の周囲に座る女性客はその青年に対して熱い視線を送っていた。
しかし、これまた声をかけるには至らず──向かいの席に座る灰髪の女がニコリと擬音でもつかんばかりの勢いで笑みを見せて山吹の髪の青年の口を優しく拭くと、その流れの侭に彼女は己の口をそのハンカチで上品に拭った。
その瞬間、男共は「うおおおお!?」と叫び愕然とする者や悔し紛れに地面に拳を叩きつける者に分かれ、女性客に関しては「きゃあああ!!」と店内迷惑も考えずに叫び出す始末。
あまりの五月蝿さに凍えるような雰囲気を漂わせ、ニコリと笑うことで周りを黙らせた灰髪の女。それにも関わらず「あ、笑ってる!可愛いね!」と宣い、これまた灰髪の女曰く『誰よりも優しい笑み』を見せた山吹色の髪の男のメンタルはこれ如何に。
「その頭の芋けんぴしまえよ」と言って彼女のアホ毛を撫ぜようとした青年の手を、女が割と強い力で払い除けた。
男は、悶絶した。
「‥‥‥して、このような出来事の末にこの喫茶店が行きつけになったのですが」
「いてて‥‥‥うん、行きつけになったねぇ」
「今、どのような気分ですか?」
「そんな事を覚えてくれていたことに気恥ずかしさを覚えつつ、抑えきれないキミへの愛を思い出している」
「はあ」
「どきどきが止まらないよ!」
「その程度でドキドキですか、とんだよわよわメンタルですね」
「おぉん!?」
灰髪の女は、そう言って彼を鼻で笑う。平時から腹に黒いものを抱えているのではないのかと誰かが言うほどに彼女は内心でおかしな言動や行動をする人間に対して毒を吐くのだが、そのような内心を口に出すことは意外と少なく、無闇矢鱈に敵を作らないほどには礼節を弁えている。
しかし、目の前の男には礼儀など皆無。嘘や偽りを並べる必要も無いまでに信頼し、信用している目の前の山吹に、灰は言葉という名のマシンガンをぶっ放したのだ。
結果、男は激怒した。
激おこですね、と灰髪の女は笑った。
「だって仕方ないじゃん!今も昔もキミは俺にとってのアイドル!そんなキミとドキドキのデート!下手すりゃ俺は動悸でデッド!」
「いや、そもそもデートじゃなくてパシリだって何度も言ってるじゃないですか」
「あいや、そんなの心意気次第でどうにでもなるぞ。俺がデートだと言えばそれはデートになるのさ、ふっはっは!」
そう言うと、山吹色の髪の男は「それはそうと、髪撫でるぞ」とまたしても灰髪の女のアホ毛に手を伸ばそうとした。
その手に対し、灰髪の女は強い力で払い除けることはなく、山吹色の髪の男の脛を蹴ることで対応する。
しかし、その程度で引くほど男の身体は弱くはない。今度こそ目的を達成すべく伸ばした手を、彼女の灰髪に届かせると、その髪を少しだけ撫ぜて手を離す。
その一連の動作の中で、灰髪の女は不機嫌そうな顔をしつつも、その行為に無抵抗であった。撫ぜる指の動きを受け入れるように細められた目は、表情とは裏腹に満足そうであり、その手が耳元まで届いた瞬間に離されると不機嫌な表情を取り戻す様に、オーディエンスは男女関係なしに尊さで鼻血を吹き出す。
たった今、自称愛人代表である妙齢の黒髪を携えた女がその可愛さに吐血し、倒れた。
意識を失う間際に自らの血で書いた「とうとし」の4文字は、あまりの可愛さに死にそうになった彼女のダイイングメッセージだろう。「営業妨害よ、姉さん」と彼女の付き添いの黒髪ロングの美女が、吐血した姉さんを引っ張って店内を出ていった。
全く、はた迷惑な黒髪ボーイッシュである。
──
「本当に記憶を書き換えるのが上手なんですね。あの時然り、確約然り、とんだ嘘つき野郎がいたものです」
「や、お前もそれなりに記憶の改ざんしてるけどな?」
「‥‥‥」
「何か言うことは?」
「さて、私は紅茶を飲むことに集中しなくてはいけませんね」
店内で鼻血を出す迷惑客が続出する中で、唯一店のルールに従い、大人しく食事をしていた2人の魔法使いの会話の主導権は、いつの間にやら山吹色の髪の男の手中に収まっていた。
過去の話を聞いていた中でおかしいと思った点をいくつか洗い出し、その点について指摘すると灰髪の女は話題を変えるために、紅茶を啜る。
そんな一連の動きを見た山吹色の髪の男は、ニヤリと笑みを見せ、彼女に耳打ちするかのように口元に手を添え、灰髪の女に言葉を連ねる。
「よわよわ」
「2度はありませんよ」
「最弱」
「ない、と言いましたよね?」
「‥‥‥また分からせてあげよっか?」
と、ここで怒りの沸点を超えた灰髪の女がガシャン!とテーブルを叩き、ニコリと笑みを見せる。
対して、恐怖の沸点を超えた山吹色の髪の男は「あ、あいやぁ‥‥‥」と口癖となっている言葉を発し、「わからされ、ちゃった‥‥‥」と頭を垂れる。
一体誰が分からされたのだろうか、少なくとも現状を見るにはわからせようとした側がわからされたようにしか見えないのだが、この茶番は一体。
「それにしても、いつまで経ってもこの店の味は変わりませんね」
それでも、2人の間に蟠りが起こることはなく。一通りの茶番を終えると、元の状態に戻った灰髪の女は紅茶を今一度啜り、山吹色の髪の男は珈琲を啜る。最早彼等のルーティンワークとすらなっているこの動作は何人たりとも、例え先程までダイイングメッセージを書いていた黒髪ボーイッシュや、愛と勇気と白マントに包まれた「んふー」な剣士でも邪魔することの出来ない不動の時間ですらあった。
「‥‥‥ああ、変わらんよ。おかしな位にな」
そして、そんなルーティンワークを行うことによって得た落ち着きから発せられた彼女の一言に対し、男がそう返すと、「なら」と更に灰髪の女は続ける。
「この店の例のアレの味も、変わらないでしょうか」
例のアレ。
その言葉を聞いた山吹色の髪の男は、少しだけ目を見開いて灰髪の女を見る。
意外だったのだろう、見開いた目から見られる感情は驚きに包まれており、その瞳に灰髪の女は落ち着き払った冷静は崩さずに、紅茶を啜ることで返した。『あなたと違って私は冷静ですよ』マウントを取りたかったのかは彼女の表情からは分からないが、実際に灰髪の女は会話の主導権を握り返したことを確信したようで──
「店主が変わってないからね、多分変わってないね」
「‥‥‥もう少し理由を捻って考えてください」
案外そうでもなかったらしい。
山吹色の髪の男は、予想外の状況に陥った際に爆弾発言をしてしまうことも多く、そのような類の一言が飛び出すのではないかと内心で期待していた彼女であったのだが、発せられた言葉はあまりにも陳腐でつまらない一言。
あまりに味気ない一言に対し、灰髪の女が苦言を呈すと、彼は「あ、そう?」と頭をポリポリとかく。文字通り、理由を捻っているのだろう。難しい表情をしながら頭を捻るその様に、彼女のジト目はより鋭くなる。その一連の動作の意味を端的に換言するのであれば「本当に捻らなくとも良いじゃないですか」ということだろう。
彼女にはこの状況において既に言って欲しい言葉が確立されているようで、その一言は今の状況を表すには最適な言葉であると言える。その一言を彼女はどうしても言って欲しく──それでも、山吹色の髪の男がその言葉を言ってくれない様に、彼女はなんとも言い難いもどかしさを感じてしまったのだった。
「なら‥‥‥」
さて、そんな可愛らしくも不機嫌な表情をする灰髪の女を目の前にして、山吹色の髪の男はどんな言葉を口にすれば彼女が喜んでくれるのかを思索する。
可愛いと言えば「当然です」と返し、好きですと言えば「出直してきてください」と余裕綽々に返されてしまう山吹にとって、灰髪の女が何を期待しているのかというのは候補こそあれ、確約された言葉を見つけるには至らなかった。
故に、山吹色の髪の男は瞑目する。
今、この状況で変化したものと変化していないものを比べ、灰髪の魔女を
「うん」
そして、山吹色の髪の男は言葉を見つけ──なんの臆面もなく、彼女に言葉を紡いだ。
「
「──え」
「事実じゃないか?常連さんも、店主も、ウェイトレスさんの服装も、殆ど変わってないけど、不思議と同じ席に座っている俺たちの関係は変わっている」
「あ、えと‥‥‥はい」
「不思議だよな。けど俺は好きだよ、こういうの」
思い出の味は『変わら
その一言が欲しかっただけなのにも関わらず、予想の斜め上を行く発言をした、してくれた男はニコリと笑みを見せる。
それは、かつて灰髪の女が少女だった時。
山吹色の髪の少年に出会った時に何度も見て、その度に心を高鳴らせた『誰よりも優しい』笑み。そのような笑みを見せられればどのような言葉でも思わず頷いてしまう──ということは、他ならぬ灰髪の女が分かっていた。
故に、彼女は紅茶を飲む手も止めてしまい、思わず男の声に一言を述べてしまう。本来なら、どの言葉を使ったとしても『変わらない』と断言してくれなければ「まだまだですね」と笑って終わらせるつもりだったのに。
「だからこそ、例のアレの味も変わらない‥‥‥ってな感じで、どう?」
「‥‥‥それは」
はい、100点です──と。
そのような言葉を言ってくれるあなたが大好きです、と。
そこまでの言葉を発する勇気は、灰髪の女には──否。
『灰の魔女』には、まだなかった。
その代わりと言ってはなんだが、彼女は先程ウェイトレスさんから届けられた『例のアレ』をぱくりと口に含み、咀嚼することで平静を取り戻す。その様を見た山吹色の髪の男は、首を傾げて。
「‥‥‥言いません」
「ええ!?」
「拗ねました」
「えええええ!?」
傾げたまま、今日1番の驚きの声を上げた。
「ちょ、ま、ええっ!?俺何かした!?」
「しました」
「な、何かしたなら直すから!だから‥‥‥えーっと、ほら!ちゃんと抱き締めてあげるから!」
「明日から別々の道を辿りましょうか」
「んん!?」
「遊びだったんですね、私との関係は」
「んんんんん!?」
そう、灰髪の女に自らに内在する想いを『言葉として』伝える程の勇気は依然として存在しない。けれども、想いを打ち明けることは言葉だけじゃなくとも伝えることができる。そして、何より──目の前で困惑している山吹色の髪の男は、いつまでも灰髪の女を見つめてくれている。
今はまだ、それで良いと『灰の魔女』はくぴりと紅茶を飲む。その代わりと言ってはあまりに不相応ではあるのだが、今のこの瞬間、この一時だけは、誰よりも信頼できる想い人の身に甘えてしまおうと彼女は内心で笑みを溢すのであった。
そんな想いは表情に現れ、今の彼女は誰もが霞むくらいの綺麗で可愛らしい笑みを浮かべ、男を見る。
そんな笑顔を見た山吹色の髪の男は「やはり敵わないな」と呆れ混じりの笑みを溢すのであった。
「さて、
「むしろ今、この状況で何を求めてるんだよ」
「さあ、なんでしょうね。少なくとも『何か』を求めているのは確かなんですけど」
「‥‥‥あーん、とか?」
「ご名答です。さあ、ぼけっとしてないであなたの手に持つたまごサンドを食べさせてください」
「食べるんかーいっ!」
「食べますよ。それに、食べさせてもらいます」
話している自分が思わず笑ってしまうおかしなトークに、絶え間ない笑み。
存在していて楽になれる、本当に幸せだと思える時間が数年後も、数十年後も、いつまでも続くように。
「大切な人が作ってくれた、大切な一時なんですから」
そして、誰よりも大切だと思える人に好きになってもらうために、灰の魔女は今日も山吹色の髪の男の傍にいられる有限の時を過ごすのだ。