どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話   作:送検

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イレイナさんの誕生日〜初級編〜

 

 

 

果たし状なるものを貰った灰髪の少女は1人、目的地に向かって箒を飛ばしていました。

朝、いつも通りの時間に起床し、窓を開けると同時に吹き付けてきた柔らかな風。その風と共に送られてきた果たし状には、何度も話し、語り合ってきた腐れ縁の名前が書かれており──ああ、やはりあの人天性の馬鹿なんですね‥‥‥なんてことを思いつつ外に出る準備をした少女は、『あの日』から彼の存在がちらつくたびに暖かくなる心に疑問符を浮かべつつ、果たし状が示す目的地へと箒で向かっていったのです。

 

景色を見渡せば広がる青空に、白い雲。

少女は季節特有の風の心地良さに身を委ねつつも、白雲を大好物のパンに見立て、お腹を空かせてしまいます。先程までご飯を食べたのにも関わらず、この体たらくです。いやしかし、食べ過ぎにも気をつけなければならない為か、ぐっと堪えて白雲に向かって魔力の塊を1発。それでも消えないパンの形をした白雲に呆れつつ、このきっかけを作った山吹の髪の少年に恨みったらしく悪態を吐いた見習い魔法使いがひとり。

答えは言わずもがな。

私です。

 

「と、確かここが待ち合わせ予定場所だった筈ですが」

 

さて、そんな見習い魔法使いであるところの私は、果たし状が示す目的地付近へとたどり着くと、箒を降下させて平原に降り立ちます。

何も適当に降りる場所を選んだ訳ではありません。

目的地付近にたどり着いた時に人影が見えたのです。

その人影の髪色は山吹。

果たし状を送った張本人が、平原にて仁王立ちで私を待ち構えていれば、まあ誰でもその場所に降り立ちますよねって話です。

 

「ふっ‥‥‥来てくれたか。イレイナ」

 

したり顔でそう言ってみせる山吹の髪の少年。

その表情は何故か自信に満ち溢れており、その様に私のテンションは急降下していきます。

ひょっとして彼は私にストレスを溜めるためだけに果たし状なるものを送ったのでしょうか。

全く、頭のおかしな親友ですね。

 

「やぁやぁ、今日はお日柄もよく──」

「あ、そういうのいいんで」

「ひぃん‥‥‥!」

 

さて、その目の前で今にも嘘泣きをしでかしそうな少年こそ、私が足繁くここに来てしまうことになった張本人、アホのオリバーです。

山吹の髪を靡かせ、親譲りの端正な顔でいつもニコニコ笑みを浮かべるひよっこ魔法使い。とはいうものの時折魔法を先に習っていた私ですら驚く程の成長と斬新なアイデアを見せることもあり、恐らく男性ではありますが魔女と同等、もしくはそれ以上の力を得る可能性をもった──そうですね、彼も天才といってもいいんじゃないでしょうか。

と、まあ外見で判断すれば如何にも聡明で知的な面をしているのですが、仮面の下はただの変態さんです。学校で度々小耳に挟むガールズトークなるもののカッコイイ男の子関連の話では毎度の如く彼の存在がちらついてきます。

正直やめて欲しいですね。

 

「やぁやぁ、本日はお日柄もよくって‥‥‥」

「いや、だからそういうのいいって言ってるじゃないですか。馬鹿なんですか?」

「え、今更気付いたんですか?」

「質問を質問で返さないでください」

 

というか、あなたが馬鹿なことくらい知ってますから。今まで私に対してどれ程奇天烈で頭のおかしな言動と行動を繰り返してきたと思っているんですか。

と、そんなことを思いつつ目の前の山吹さんを睨んでいると、彼が「まあ、それはそれとして」と言葉を続けます。

 

「誕生日おめでとう」

「いきなりですね。大体ここに呼び出す必要あったんですか?」

「ムードメイクよ、イレイナさん」

「なら言葉くらい選んで欲しかったです」

 

ムードを気にする人がいきなり「やぁやぁ」なんてふざけたことを抜かしてたまるものですかと言いたくなりますが、ここはぐっと堪えて目の前のトラブルメーカーを睨みます。

とは言いつつも、怒ってはいません。

むしろ喜んでいるまであります。まさか、2度も誕生日を祝ってくれるとは思ってもいませんでしたから。

 

「で、誕生日と言えば気がかりな要素が2つ程あるんですけど」

「言ってみ」

「誕生日プレゼントは要らないんですけど」

「ファッ!?」

 

いや、だって。

私はもう前夜祭にひとつ、大切なものをあなたから貰っているじゃないですか。

そうでなくとも昨年に黄色のリボンタイを貰いましたし、これ以上は申し訳ないですけど貰えません。

あなたから祝ってもらえるだけで私はもう、充分なのです。

 

「おのれ、イレイナ!ならばこの俺の用意したプレゼント、どうしてくれるというのだっ!」

「自分で使ってください」

「鬼かな?」

「まさか、私は美少女です」

「美少女めちゃこわ」

 

しかし目の前の山吹さんは、それでは問屋が卸さないらしく。

私が両手でバツ印を作り、断固としてプレゼントの受け取りを拒否していると「くっ、やはりガードはロベッタ1か‥‥‥!」とか言い出して、何を思い至ったのか土下座を始めました。

いや、ほんとなに考えてるんですかねこの人。

 

「後生だ。貰ってくれ‥‥‥!いやほんと、自分で使えとか言わないでよね。うんと考えて自分で選んだものなんだから」

「はぁ、まぁ‥‥‥それなりに」

「‥‥‥じゃあ、貰ってくれる?」

「それとこれとは話が別です」

「土下座するから!」

「もうしてるじゃないですか」

 

つーかそれ私が求めたわけじゃねーですから。正直変な気持ちに至ることもなくはないですが、親友に土下座を強要することと前述の気持ちはなんの関係もありません。

傍から見れば私が幼馴染であり腐れ縁でもあり、親友でもあるこの人に土下座を強要しているようなこの状況。お母さんが見れば「あらあら、イレイナったら」とか言われて馬鹿にされそうなこの光景に、私は終止符を打つために草原に膝をつき、彼と同じ視座に立ちました。

山吹さんは、私の目を見た途端「はうっ!」とか言い出しました。

こいつ本当になんなんですかね。

 

「‥‥‥中身は、なんですか?」

「ファースリッパ」

「自分で使えないんですか?」

「もこもこの、かぁいいやつ」

「後先考えない人ですね、本当に」

 

もったいないの精神から最終的に考えた妥協案すらも彼のチョイスにより台無しになってしまった私に残る選択肢は、もう1つしかありませんでした。

これはあまり選択したくはなかったんですけど、物に罪はありません。更に言ってしまえば、私の誕生日の為にプレゼントを用意してくれた彼にも罪はありません。

そのような誰も悪くないイベントの後味を悪くするか良くするかは私次第。無論、そのような状況に置かれたお人形のように可愛らしい魔法使いの選択肢は、たったひとつ。

この選択肢しか、なかったわけです。

 

「分かりました。そういうことなら、ありがたく頂きます」

「‥‥‥マジで?」

「はい。まあ、流石に用意されたものを断るほど屑じゃありませんから」

 

彼の手からプレゼントをいただき、お礼を言います。

すると、一瞬目を見開いてこちらを見た山吹さんが少しした後に安堵の表情を浮かべます。

そして、なんということでしょう。私の両肩に手を置いて、ニコリと笑いやがったのです。

ええい、離しやがってくださいと鋼の意思で山吹さんの手を掴み、どかそうとしましたが彼は無自覚ながらこれと決めたものに対する確固たる意志と粘り強さを持つ人です。無論、簡単にひっぺ剥がせるはずも無く私の肩は彼に掴まれ続ける羽目になります。

つくづく己の握力の無さを恨みますね。

 

「ありがとな、イレイナ」

「は?なんであなたがお礼言うんですか」

「いや、俺巫山戯てるけどけっこー緊張してたから」

「というか肩に手を置かないでくださいぶっ飛ばしますよ」

「もうほんと‥‥‥ありがとう!」

 

ありがとうじゃねーですよぶっ飛ばすという言葉が聞こえねーんですか。

 

「ファースリッパを救ってくれてありがとう!」

 

だからさっきから何言ってんすか。

 

「イレイナの足で使われるんなら、ファースリッパくんも本望だよな!」

 

頭おかしいんじゃないですか。

 

「もうちょい付き合ってくれないかな、イレイナさん」

「私の有益な時間をどれだけ拘束すれば気が済むんですか?」

「そんなこと言って、本当は拘束されたいんじゃないかなー!?」

「え、流石にその考えは‥‥‥」

「ごめんなさいこんなこと言うつもりなかったんです許して」

 

と、まあ。

先程まで私を巻き込んだ茶番を繰り広げていた山吹さんでしたが、ここで私の手を離すと先程までとは違う包みを鞄から取り出し、ニヤリと笑みを見せます。

その笑みのなんたる卑しいことか。

寒気と同時に殺意すら湧いたのは内緒です。

 

「実はもうひとつ、イレイナさんにプレゼントがあります」

「もうひとつ‥‥‥ですか?」

「うん」

 

いや、流石にもういらないんですけど‥‥‥

と、私のそんな気持ちも悟らずに余計なことばかり悟ってしまう山吹さんは、今日も今日とて私に対して優しくて仕方ない位の柔らかな笑みを浮かべるのでした。

控えめに言って最悪です。よりにもよってこんなところで笑ってみせるなんて。その笑みがどれだけ私の心臓に負担をかけるかすらも分かっていない彼は天然由来のくそやろうです。

 

本当に憎たらしくて仕方ないですね。

無自覚に微笑む彼も。

その笑みに対して嬉しさやら楽しさやら、幸せな気持ちやらを感じてしまう私にも。

 

「‥‥‥箱の中身を当てたら、プレゼントします。きっと、今のキミに大切なものだから」

「いや別にプレゼントしなくてもいいんですけど」

「俺があげたいって思ったからいいの。それに、イレイナさん今日は誕生日だろ。貰う道理ならあるんじゃないかな?」

「まあ、それは」

「それにさ、今年は前夜祭の時にプレゼントできなかったし。少しくらい奮発したってバチは当たらないだろ?」

「そりゃそうですけど」

「でしょ?」

 

まあ、色々言いましたけど。

この目の前にいる親友が『誰よりも優しい笑み』で笑っているのなら、私のやることはひとつです。

その表情を少しでも長く眺められるように。そして、長いようで短いささやかな一時を楽しむために、彼の策略にまんまと乗っかって見せること。

それこそが私の至上命題であり、今やるべきことなのでしょう。

何故なら、先程から私の心の矢印はずっと目の前の魔法のあれこれから、オリバーの策略のあれこれに向いてしまっているのですから。

 

「‥‥‥分かりました。そういうことならいいですけど。その言葉、後悔しないでくださいね」

「後悔?」

「あなたの問いなど赤子の手を捻る位簡単です。誰があなたに勉強を教えたと思っているんですか?」

「おーやおや!大層な自信だね。そう言いつつこの前の問いかけに魔力の塊で応えたのはどちら様かな?」

「‥‥‥」

 

とりあえず、この減らず口が治まらないアホのオリバーは後で魔力の塊の刑に処すことを確定事項とし、私は顔をひきつらせつつも笑顔を作ります。

彼に課された問題を解き、プレゼントを華麗に頂くために。

そして、この時間が少しでも長く続くように。私は口を開いたのでした。

 

「正解は──」

「はーい、ぶっぶー!時間切れでーっす!」

「ぶっ殺されてーんですかそうですか」

「うっひゃっひゃ!」

 

無論、この後問題を出した人間の務めを放棄した山吹さんはぶっ飛ばしました。

え、プレゼントをくれた人に慈悲の欠片もない?

私は目先の快楽の為ならば、親友すらも屠る賢しい魔道士なのですよ。

かける情けなんてあるわけないでしょうに。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうのがこのファースリッパをもらったきっかけなのですが」

「早く子どもの顔見せて」

「控えめに言って馬鹿なんですか?」

 

時に互いの人生というものは面白いように交差する。思いがけぬ出逢いや、示し合わせたかのように見える全くの偶然。それらが織り成す天文学的な奇跡により、互いは出逢い──それらが仮にまた会おうと約束をした2人であるのなら、その友情は何億倍にも膨れ上がることだろう。

まあ、それは仮に『友情を感じる相手』なのだとしたらの話なのだが。

 

「毎年プレゼントを貰ったり送っている癖に今更躊躇するのね。先輩に至っては自覚すらナシ、本当に‥‥‥少しは私の気持ちも考えて」

「それはあの人に言ってください。後輩なんですよね」

「言っても治らないからあなたに聞いているの。あなたは先輩が好きなの?」

「‥‥‥」

「ハッキリして」

 

先程から何杯目かも分からない紅茶を啜り続け、潤っては渇く喉に癒しを与える灰髪の女は、いっそのこと世界すらも時間逆転の魔法で元に戻したいと奇天烈な考えをしていた。

「あんまり高額な報酬に踊らされちゃダメだからね!それはそうとイレイナさん、可愛いね!」という親友の言葉を後者しか聞いていなかった灰髪の女は、見事魔法統括協会の誇る才女の罠に引っかかり、潜入捜査のミッションに一役買う羽目になってしまう。

 

そんな時間の浪費に思わずため息を吐き、出来もしない可能性に想いを馳せた灰髪の女は、なおも続く黒髪の女の話に耳を傾ける。

まあ、傾けるといっても痛いところを突く言葉には「えー、はいそーですねー」やら「あー、うー」やらの気の抜けた返事をするに留まっているのだが。

 

「大体2人ともアレなの」

「えー、はいそーですねー」

「好機で躊躇って決めるところを決めないから姉さんが「うっはー!ぼくにもチャンスありますかねー!」って言って聞かないの」

「うー、あー、うー」

「もっと私にも振り向いて欲しいのに、この扱いの差は一体なに?舐めてるの?」

 

言い切ると、黒髪の女は盛大なため息を今一度吐き「はぁ、姉さん‥‥‥」と誰にも聞こえないように呟く。

無論、その声は灰髪の女には丸聞こえである。

しかし、ここでツッコミでも入れようものなら余計に話が拗れると考えたイレイナは、傍観の精神で黒髪の女の話に耳を傾け続ける。

 

「昔から仲が良くて、幼馴染。腐れ縁であり、確約をしたことでこれから先の未来も腐れ縁であることが半ば決定している男女。これがどうして結婚という発想に至らないのか分かりかねるわ」

「それは人それぞれですよ、ミナさん」

 

「何も結婚観というものが全て同じだという訳では無いんです」と灰髪の女が言うと、その言葉にカウンターを被せるように黒髪の女が「今までの行動や言動を放っておいてその言い草は笑いますね」と言葉を紡ぐ。

その瞬間、笑みを浮かべていた灰髪の女はテーブルに向かって台パンをキメる。

「‥‥‥先輩の言う通りね」と、黒髪の女は右手でふぁさっと髪を靡かせた。

 

「全く。依頼の途中で久々に会ったと思ったら、まさか何も進展せず旅から6年も経っていたなんて‥‥‥」

「おや、悪いですか?」

「開き直らないで。そういえば昨日、先輩が『依頼ついでにアヴィたんに会ったから2日ほど帰るの遅れマース!』って手紙が届いたのだけれど」

「‥‥‥」

「前途多難ね、無自覚両片思い同士」

「勝手にして頂きたいものですね、本当に」

 

と、新しい情報に耳を傾けた灰髪の女がその言葉にげんなりとすると、盛大なため息を吐きながら席から立ち上がる。

「今日はもう帰りますので、また明日依頼の話をしてください」と言った灰の魔女「イレイナ」は、先程まで話題に挙がっていた男を思いつつ、目の前で紅茶を飲む()()を睨む。

そして、その視線に気が付いた姉に対しての想いをなかなか伝えられない()()()()()()()を抱く魔女は、その視線に一切の怯みを抱かず。

 

「因みに子どもの名前は?」

「そんな予定どこにもありません」

「私にも会わせて欲しい」

「依頼協力しませんよ、いいんですか?」

 

ポーカーフェイスで、灰の魔女を煽ったのだった。

 

 

 




10月17日はイレイナさんのお誕生日!
ひと足早くなりましたがおめでとうございまーす!
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