どちゃクソラッキースケベなハーレム生活を望んだ結果、最終的に幼馴染を好きになった転生者の話 作:送検
言葉が出てこない。
そんな感覚に陥ることは滅多に無かったのだが、今回ばかりはその感覚というものがハッキリと理解できた。
好きな女の子を目の前にして吃るような感じだ。伝えたい言葉はいくつもある筈なのに、その点を線で繋げることができずに上手く話せない。
詰まるところ、俺はイレイナさんを目の前にして固まってしまっていたのだ。
「あの」
「──へあっ!?」
「あなたがオリバーさんですよね」
故に、彼女の何気ない一言にも驚き変な声を挙げてしまう。
ジト目にも近いその瞳の色は瑠璃色。そして、将来美人間違いなしのその顔から織り成す表情は若干不満げであり、それがまた彼女の色を引き立たせる。そんな姿に、俺の心拍数は異様なスピードで上昇していく。
うわー!イレイナさんめちゃくちゃ可愛いやん!
けど、どうしてこんな場面で出会ってしまったの?
というか、何故俺がここにいることを知っているの?
そんな考えが頭の中を行き来し、通り過ぎる度に電流が走るような感覚に陥り、まともに言葉が出てこない。
会いたかった相手に予期せずして会えたということ。それでも、今のこの瞬間に会ってしまって大丈夫なのかな──なんて不安が入り交じり、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまったのだ。
そのため、何とかかんとか返答しようと思い、紡がれた言葉は本当に在り来りな言葉で。
「えと、うん。そう‥‥‥だけど」
上手く喋ることが出来ず、曖昧な言葉となってしまう。
それでも彼女にとっては気になることではなかったのだろう。ほっと一息ついたイレイナさんは、先程までの表情を解いて笑顔を見せる。
うわっ、笑顔が眩しい。
「そうですか。なら良かったです」
「良かったって、何が」
「あなたと話して欲しいとお母さんに言われたので」
「俺と話して欲しいって、どういうこと」
「言葉の通りです」
「えぇ‥‥‥」
イレイナさんという人物は、魔法という事柄に関しては非常に勤勉な子だということを俺は知っている。そんな女の子が道楽で魔法を撃ってる馬鹿野郎になんの用なんだ?お母さんに言われたとしても、こんな奴に話しかけようとは思わないだろう──というのが俺の意見である。
しかし、イレイナさんにとってはそんなもの微塵も気にしている様子はなく言葉を続ける。その視線は、物怖じすることなく俺の『目』を捉えていた。
その姿、ヴィクトリカさんそっくりである。
「寂しい人ですね」
「どうして?」
「こうして朝から晩まで原っぱで魔力の塊を撃つだけ。その繰り返しですよね?退屈にならないんですか、ぼっちさん」
‥‥‥。
いや、まあそりゃあ悲しいけど。
「キミに会えたしプラマイゼロだな」
「は?私を頭数に入れるのやめてくれます?」
「ひどい」
「ひどいのはそっちですよ、ぼっちさん。ほんとうにばかやろうですね」
「ダメ押しで畳み掛けるのほんとむごい」
けど、何故か怒りは感じない。むしろ高揚感すら感じてしまうのは、この不可思議な状況と子どもイレイナさんの可愛さが大きく影響しているのだろう。
つまり何が言いたいのかっていうと『いつだってイレイナさんは可愛い』って話だ。この世界で暴言が双方のストレスを解消するきっかけとなる数少ない女の子であると、俺は思っている。
イレイナさんの視線が、俺の目から手に持っていた杖へと移る。どうやら子どもイレイナさんは同い歳の少年が杖を持っていることに興味深々らしい。なんだぁ、俺の交友関係なんて目くそ鼻くそってわけかぁ?
ちくせう、悲しいぜ。
「魔法、使えるんですか?」
「うん、そうね。魔法ばかりやってたからね」
「では、将来的には魔法を使って何かをする予定なんですか?」
「まだ決めてないです」
「‥‥‥つまり遊びってことですね。がっかりです、遊び人さん」
「どこでそんな言葉を覚えたのさ」
解釈違いされそうだからやめて。
俺はちゃんと夢があるし、社会的にもまだ生きてたい。
「‥‥‥信じて貰えないかもしれないけど、俺には目標があるんだよ。その目標の為に魔法を覚えてるんだ。決して遊び人なんかじゃない」
「そうなんですか」
「‥‥‥夢の中身、気にならない?」
「はい、全く」
イレイナさんはそう言うと、全く興味もなさげにニコリと笑った。
まあ、そうだよな。そこに興味示したら『あなた誰ですか?』ってなっちゃうもんな。それに中身を言っても『どちゃクソじゃねーですよ何言ってんですか』とか言われて蔑まれる未来しか浮かばねえし。
とはいえ、悪いことばかりではない。
イレイナさんがイレイナさんたる所以である他人の事情にあまり介入しないという『旅人』らしい一面を見た俺は、ここで自分から話題を振ってみようと思える位には心を落ち着かせることができるようになった。
先程までとは違い心にゆとりがあるのが、その証拠だ。今の俺なら多少はマシな会話ができるのではないかと、そう思えたのだ。
「なあ」と声をかけると、不思議そうにこちらを見るイレイナさん。俺はファーストコンタクトで嫌な人だと思われないように、慎重に言葉を選んだ上で無難な言葉を声に出した。
「キミは魔法使えるのか?」
「使えます」
「マジかよ‥‥‥やべえ。この歳で魔法使いとかレベルが違う‥‥‥」
「あなたもですよね、それ。わざとですか?」
「狙ってみた」
「くそやろうですね」
おっと、その罵倒は俺にとってのご褒美です。
へへっ、俺がくそやろうだって位分かってますよ。じゃなきゃ魔法を扱う動機が『どちゃクソラッキースケベなハーレム生活』なんてものにゃなりませんって。
けど、どんな動機でも夢は夢だ。
俺はいくらクソ野郎と言われようがその目標を貫き通す。いつか幸せな暮らしを送れる、その日までな!
だからイレイナさんにくそやろうなんて言われても悲しくないんだからね。悔しくもないんだからね。
「‥‥‥ニケの冒険譚の影響、だろ?」
まあ、何はともあれ。
子どもイレイナさん数々の罵倒に心を撃ち抜かれ、時に可愛さで悶えさせられたりしながらも、会話を続けるために言葉を続ける健気な俺。いや、自分で自分のこと健気って言うとか、あれかよ乙女かよ──なんて考えているとイレイナさんが目を見開き驚きの声を上げる。
「知ってるんですか?」
「お前の母さんから聞いたよ。いつか魔女になって世界中を旅するんだろ?」
曰く、イレイナさんは昔から本が好きで。特にニケの冒険譚に関しては保存用・布教用・観賞用と3つ持っているとされている程のニケジャンキーだ。
そんなイレイナさんはいつか魔女になり、ほうきで空を飛ぶことで様々な出会いと別れを繰り返していく──ということは、俺の前世の記憶として残っている。
因みにダークエルフさんのイベントは既に終わってしまったらしい。
できることなら子どもイレイナさんとデートしたかった、無念なり。
ともかく、そんなイレイナさんの夢は俺というイレギュラーがいても変わることはなく。俺の問いかけに強く首肯した少女は誰よりも可愛くて、綺麗で、逞しい、自信に溢れた顔をしていた。
ううむ、どんな表情でも絵になるのは狡いぞ。
「多分大変だろうけど、努力すればきっとなれるさ。めげんなよ」
「めげません。私は魔女になってニケのように旅をするんですから」
「そっか。なら、頑張れよ」
当たり障りの無い言葉で応援の言葉を口にする。本来なら、もう少し踏み込んでも良いのかもしれないが、初めて出会った上に俺は魔法のガチ勢では無い。偉そうに講釈たれても『あ、そうですね』の一言で会話が終わってしまうのは目に見えていた。
長い構文よりも、ストレートに応援を。
そんな気持ちから発せられた一言は、俺でも『もう少し捻れよ愚図』と暴言を吐いてしまいそうな言葉だった。
それでも、イレイナさんはそんな俺の一言に対し少しだけはにかむ。幼少期故に見慣れたロングヘアーでは無かったのだが、それでも彼女は十二分に可愛い。というか見慣れてない分ギャップに萌える。
「ありがとうございます」
そして、その後に告げられた言葉は恐らく俺が現状1番聞きたかった一言。
その一言だけで、ファーストコンタクトは大成功だって有頂天になれる魔法の言葉。
不思議とこれからも仲良くすることができるって、そう思えた。
「それはそうと」
不意にイレイナさんから発せられた一言に、俺は「ん?」という一言で返す。するとイレイナさんは俺から距離を1歩分近付ける。
んんん!距離が近い!良い香りする!!目が輝いてるぅ!!
つまり可愛いッ!!──なんて、内心で理性と欲望のデスマッチを繰り広げていると、瑠璃色の目を輝かせたイレイナさんが言葉を続ける。
「オリバーさんはニケの冒険譚を読んだことあるんですか?」
「‥‥‥そういえば、ないな」
あれだけ有名と言われた著書なのに、何故か読んだことがないのはどうしてだろうか。そもそも本に触れる機会がなかったからなのか、もしくは無意識に本というものを遠ざけていたのか。
ともかく、そんな俺の言葉に目を見開いたイレイナさんは「そうですか、なら‥‥‥」と、呟き自分の手提げバッグから1冊の本を取り出すと、俺にその本を突き出す。
そして、恐らくイレイナさん史上最大級のドヤ顔で一言。
「布教用です」
「ドヤ顔で言ってるとこ悪いんだけどさ、それいつも持ち歩いてんの?」
「はい」
「なんで?」
「広めるための布教用ですから」
「あ、はい。さいですか‥‥‥」
どうやら、子どもイレイナさんは大がつく程のニケジャンキーらしい。いやまあ、ニケの冒険譚が好きだってのは知ってたけど、ここまで来たら最早オタクじゃないっすか。やはり人は誰しもオタクになる要素があるんだなぁ‥‥‥まあ、元はと言えば俺も『魔女の旅々』にハマったオタクだし、多少はね?
かといって本を貸してくれたこと自体が嬉しくないわけがない。何せイレイナさんが貸してくれたニケの冒険譚だ。そこら辺の本屋で買ったニケの冒険譚とは価値が違う。
その価値の高さは金貨何枚分出しても及ばない位のそれ。勿論拒否するはずもなく、俺はその本を受け取った。
「ぜひ、読んでみてください。これでオリバーさんもニケの冒険譚の虜です」
「‥‥‥おう。ありがとな」
相も変わらず目を輝かせたイレイナさんに言いたいことは色々あったが、先ずは『これだろう』と思った俺はイレイナさんの前に右手を突き出す。
きょとんとした様子でその手を見つめるイレイナさんに、若干気恥ずかしい感覚を得つつも、俺はハッキリとイレイナさんに言葉を告げた。
「‥‥‥改めて、俺の名前はオリバー。これからよろしくな、イレイナさん」
そうして、自己紹介をした俺をイレイナさんは笑わなかった。その代わりに空を切っていた右手に華奢で柔らかい手が触れ、握られる。
意図が伝わったようで一安心──するのも束の間、イレイナさんはため息をついて俺をジト目で見遣る。
あ、アレー。俺また何かやっちまいましたですか?
「イレイナで良いですよ、よそよそしいですし、さん付けはやめてください」
「マジか、馴れ馴れしくね?」
「元よりあなたはなれなれしいですけどね。今更ってやつです」
「今更!?」
うへー薮蛇!
俺、イレイナさんにそう思われていたのか。会話の選択には慎重になっていただけに少しショックである。
とはいえ、さん付けが好きという訳でもなく呼び捨てが嫌いでもない俺。イレイナさん‥‥‥げふん、
「よろしく、イレイナ」
「はい」
どちらかと言えば優しい力で握られた友好の証と共に、俺はイレイナの名前を呼び、その言葉に彼女は柔らかく微笑んで見せた。
あ、やば。尊死──
‥‥‥んんっ。落ち着け、心頭滅却だ。ここで変なことを言っちまったらそれこそ今までの努力が無駄になってしまう。家に帰るまでが遠足ならぬコミュニケーションなんだからな。ここは最後まで気を引き締めてイレイナの友好度を──!!
『良いかな、オリバー。友達になりたい、大切だって思った子にはちゃんと言いたいことを言ってあげることが大切なんだよ。つまり、可愛いと思ったら可愛いってしっかり口に出してあげることが肝要なのさ』
『お、おお‥‥‥成程』
『つまり私には?ねぇねぇ、私にはなんて言うべきなのかな──』
あれ?今、俺何を想像して‥‥‥
「同い歳の魔法使いがいて、将来こそはっきりしてないですけど魔法を頑張っている人がいるってお母さんから聞いて、とても嬉しかったです」
「俺もお前に会えて嬉しかった。イレイナ可愛い、あいらぶゆー」
「今後ともよろしくお願いしま‥‥‥あの、
「妄言だ、忘れてくれ」
先程までの友好的な視線が一変、『何言ってんだこいつ』みたいな渋い表情で顔を引き攣らせるイレイナ。イレイナさんはどんな顔をしても可愛いけど、何もそんな顔をして欲しいとは言っていない。
ほんと、妄想が口から飛び出るの何とかしてくれないかな──と思った、俺であった。
2章終了後の3章は……?
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魔法統括協会編!(全15話完結予定)
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2人旅編(全30~40話完結予定)
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両方同時並行(がんばる)
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アムネシア編